みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

絶望から歓喜へ。降格からの一年が教えてくれた「J1にいること」の意味

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2017年11月28日火曜日。このブログを書き始めたことをまずご報告。

まだJ1へ昇格したわけでもなく、次の日曜にもし負ければこのブログはお蔵入り。ただ浮かれているわけではないのだが、私は福岡に勝つ気がしている。勿論彼らのことを侮っているわけではない。それだけ初戦の千葉戦が山場だと考えていた。そこに勝ったのだから、いち早く昇格決定ブログをしたためてやろうという腹黒いブログです(←)。

さて、真面目な話に戻す。私が書きたかったことは勿論グランパスのこと、そして初めて経験した「J2プレーオフ」のこと。こんなにサポーターが緊張する試合ってあるんですね。このプレーオフで見たこと、感じたことを書いていきます。

時は戻って2017年11月26日(日)。場所はパロマ瑞穂スタジアム

スタジアムに入った際、まず驚いたのがアウェー側を埋め尽くすジェフサポーターの黄色一色の光景だ。

「これがプレーオフか...」

観戦に来た私まで一気に緊張感が増したのは言うまでもない。勝てば明日以降も希望を持つことを許され、負ければ夢が潰える。少なくともまた一年間のJ2生活。勿論昨年のように、例えばこの試合に負けても降格するわけではない。ただ結局上のカテゴリーに上がれなかったという事実にだけ目を向ければ、状況は今年の初めと何ら変わらない。

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ピッチでの練習が始まり、誰もが驚いた光景、それが宮原和也の練習内容である。通常であれば最終ラインの中央を守る選手だけに課せられるトレーニング。それに彼も参加している。グランパスはシーズン最後の9試合、7勝1分1敗の成績で駆け抜けた。その原動力であったシステムを、この負けられない試合で投げ捨てたことは、図らずも私達に不安ではなく、「風間八宏が遂に動いた」と大きな期待を抱かせた。それはやはりどこかで二週間前のあの敗北を誰しもが引きずっていたからではないだろうか。プレーオフまでの一週間、私達の話題は千葉に対して同じように正攻法で挑むのか、それとも風間八宏が「何か仕掛ける」のか。その一点だった。

試合に関しては「名古屋がシモビッチ目掛けてロングボールを...」など、いかにも普段全く選択肢にないような言葉がどうしても踊る訳だが、この点に関しては二週間前、完膚なきまでに叩きのめされた際、風間監督はこうコメントしている。

今日の場合は、中盤で繋ぐ必要がないので

何故ボールを持つのか。正確な技術が必要なのか。それは「相手を見るため」であり、決してどんな状況でも細かく繋ぐためではない。なのでこの点に関して、風間八宏が理想を捨てたという解釈は個人的にはどうにも腑に落ちない。

むしろ驚いたのは千葉が後方からビルドアップを始めたときである。システムを変更したことで千葉の選手達の配置に対しミラーのように一人ずつマークする名古屋の選手達。

この一年間、名古屋のサッカーには「前から奪いに行く」ことが重要だと言われ続けた。しかし蓋を開ければ毎試合毎試合相手の配置など関係なく守備を始める姿がそこにはあった。対戦する相手の情報など知らされず、その日までに学んできたことを裸のままぶつけてこいと送り出されているような。そんな感覚に近い。相手が名古屋に対し戦術武装していようが彼らは何も知らされず、自分達の力だけを信じて相手と向き合うしかなかったのではないか。

ただこの試合は違った。

明らかにこの一週間、千葉というチームをイメージして練習を重ねてきたであろう名古屋の選手達の姿。迷いのないプレー。二週間前ビルドアップを破壊されたチームは、その相手のお株を奪う形で彼らのビルドアップを破壊し、ゲームの主導権を握った。勿論それは「相手の良さを潰す」ためではなく、「自分達の良さを活かす」ためである。

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シーズン中、試合前には決して選手達に地図を見せず、進む道は試合の中で自ら導き出せと、とにかく選手の自立性に拘った指揮官が見せた勝負師としての采配。カーナビとまではいかないものの、事前に地図で目的地を把握し、そこに至るまでの経路を検討したうえで試合に臨んでいるようなそんな采配。なんとも風間八宏らしいではないですか。だってカーナビではないのだから。最後は自分達次第。

そう、この人は険しい道に遭遇したときの為に、それを乗り越えられるような技術は教えてくれる。ただ決して「この道を進め」とは言わない。考えて行け、行ってみてまた考えろ。ただ今回ばかりは「この道を進むとこんな難関が待ち受けているぞ」と事前に教えてくれていたような。また少しでも選手達が歩きやすいように道具も授けた。それらを駆使して教えてきた技術を最大限活かせと。

ただ何度も言うがこの人は決してカーナビにはならない。なれない。ルートを事前に案内するなんて絶対にやらない。また予期せぬアクシデントで「その場に立ち止まり耐え忍ぶ」という行為は苦手な人だ。どんな困難が立ち塞がろうとも突き進めというのが風間八宏である。このプレーオフで、私達は彼の新しい一面、彼のもう一つの素顔を知ることになった。普段は自分達で歩を進め、気づき乗り越えろという人間が、事前に地図を広げ道具まで持たせた。それが彼にとっての「目先の勝ちにこだわる」術なのだ。

さて、1点リードされ迎えた61分、田口泰士が値千金の同点ゴールを入れる。スタジアムが歓喜に包まれる中、ベンチの前に出来た歓喜の輪の一番下で、最後まで泰士に抱きつかれていたのが楢崎正剛である。シーズン終盤、出番を失っても常にムードメーカーとしてチームを引っ張ってくれたナラさん。そんなナラさんの姿を見るたびにサポーターは胸打たれたものです。そんなに明るく振る舞わなくてもいいのに。無理していないかと。泰士は試合後のコメントで、昨季の最終戦のことが心に残っていたと語っている。

それもあったので、得点後はナラさんのところに走っていった

二人の「元」キャプテン。そして彼らは私達そのものだ。昨年降格が決まった際、二人のどちらかでも失っていたら今のグランパスはなかったのではないか。これだけ選手が入れ替わってもグランパスグランパスのままでいられたのは、間違いなく彼ら二人の存在があったからだ。だからこそこのシーンには二人の、そして私達の1年間が詰まっていた。

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試合に戻る。ロスタイム。青木が倒されPKを獲得した瞬間、おそらくあの場にいたほぼ全ての名古屋サポーターがこの試合に勝ったと確信したでしょう。そういう私もその一人。ロビンのPKが決まった瞬間はもうそれなりに落ち着いていた。

だからこそゴールと同時に試合終了の笛が鳴った瞬間、悔し涙とともにしゃがみ込むキムボムヨンの姿が目に飛び込み、複雑な気持ちになった。私達は生き残り、彼らの夢はその瞬間潰えた。

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帰りの名古屋駅での光景。多くの名古屋サポーターとともに、多くの千葉サポーターの姿がそこにあった。明日もJ1への想いを馳せることが出来る私達と、敗北した現実、そして来年のチームはどうなるのかと不安に苛まれる彼ら。その日の朝までは同じ立場であったにも関わらず、一夜にしてはっきりと明暗が分かれるこのシステムの恐ろしさ。

勝戦線に絡まずともJ1の舞台に踏みとどまれたチーム、逆にJ2の舞台に「落ちてしまった」「残ってしまった」チームとでは天と地ほどの差があることを私達は知っている。このチームで誰が残ってくれるのか、誰が上のカテゴリーから引き抜かれそうなのか。この日からまたその現実が始まるのである。勿論今まで歩んできた道のり、チームの規模、予算、ライセンスの有無によってJ2というカテゴリーの捉え方は異なる。ただ少なくともJ1をそれなりに経験してきたチームからすればこれが現実だ。J1という頂上へ向かって、プレーオフという名の梯子を差し出され掴んで這い上がろうとしていたにもかかわらず、そこから急に崖に落とされる。プレーオフとはそういう舞台なのだ。

昨年まで当たり前のようにいたJ1。そこに戻る為にどれだけ険しい道を歩み、どれだけツラい思いをしただろうか。

降格、そして次々と名古屋を去っていく選手達。そんな沈没寸前のグランパスにやってきたのが佐藤寿人だった。今更ながら、よくあの時期に名古屋に来る決断が出来たと思う。チームが壊滅的だったあの状況で、最初に名古屋に来る決断をしたのがサンフレッチェ広島の顔、佐藤寿人だった。

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ゴール以外の部分でもチームの勝利のためであれば、何でもやる覚悟です

あの、今は本当に苦しい状況だと思います。ネガティブな情報もたくさんある中で、「グランパスはどうなっちゃうんだ」という心配事の方が多いと思います。でも苦しい時にどれだけのことが出来るか、そこに人間としての本質が出ると思うので、ぜひ多くのグランパスを愛するファン、サポーターの皆さんに一緒になって戦ってもらいたいと思います

いつまでも起こってしまった「降格」というネガティブな事実にばかりああだこうだと言っても、落ちてしまったことは事実ですし、いかにこれから明るい未来に向かって歩いていけるかってことの方が大事だと思います

寿人は当時真っ暗闇の中にいた私達に光を差してくれた希望そのものだった。

また彼は移籍会見の際このようなコメントも残している。

出ていく選手がすごい!みたいに書かれているけど、いやいや入ってくる選手も決まっているのに何で書かれていないんだろうとか。(中略)この降格が決して悪いものではなかったというのを、これから選手全員で証明していきたいですし、フロントスタッフはじめ、クラブ全体がそういう思いでいると思っています

このキャプテンを絶対にJ1の舞台に、「名古屋グランパスのキャプテン」として戻してあげなければいけなかった。「諦めるな」「今から始まるんだ」。このチームに魂を宿し、サポーターの心に灯をともしたのは紛れもなく寿人である。

J2が私たちに教えてくれたこと、それは「J1の舞台がどれだけ尊いものか」である。例えば単純に上のカテゴリーにいられるのが楽しい。いや実際はそんな甘いものではない。下に落ちれば応援していた選手達を失う可能性があるのだ。それがどれだけサポーターにとってツラいことか。毎朝起きる度に家族だった人間が一人、また一人と家を出ていく報を知る過酷な現実。だからこそ何が何でも上のカテゴリーに上がりたいのだ。しがみついてでも、もう離しては駄目なのだ。

2017年11月29日(水)21時38分。名古屋公式からプレーオフ決勝に向けて、小西社長からの直筆メッセージが発信される。

この一年、皆で手と手を取り合いながら、初めて登った険しい山の上から、また新しい景色を見るために

メッセージも嬉しかったが、個人的にこの前日、風間八宏に関して似たような例えで表現していただけに、社長のこのメッセージがなんだか妙にしっくりきた。そう、これは私達だけではない。戦った選手達もまた、初めて登るような険しい山だったに違いない。このメッセージを読んだ誰もが、新しい景色をこのチームと共に見るのだと改めて決意したのではないか。このタイミングで直筆のメッセージ。なんとも粋な計らいだった。

2017年11月30日(木)21時55分。名古屋公式がプレーオフ決勝動画を発信。

あとひとつ。想いはひとつ。

2017年12月2日(土)。川崎フロンターレが悲願のJ1初優勝を決める。

風間八宏と共に等々力に乗り込みたいという願望。それが叶ったときにはJ1王者として立ちはだかることになる川崎。その舞台を想像するだけで昇格への想いが強くなる。大きなモチベーションになる。明日は私達が歓喜の涙を、そう思わずにはいられない。

 

そして迎えた2017年12月3日。

 

私達はJ1の舞台に返り咲いた。

 

泰士が泣いていた。どの選手も泰士に抱きつき、声をかけていた。

楢崎正剛は試合後、泰士に去年のことを背負わせてしまった後悔、ピッチ上で助けになれなかったことを悔いていると語った。

降格からの1年間。苦しかったのはサポーターだけではなかったのだと改めて痛感する。名古屋グランパス史上初のJ2降格。そのシーズン、キャプテンマークを腕に巻いていた男が、誰よりも安堵し、涙を流していた。

彼は試合後にこうコメントした。

ファン、サポーターのために闘うと決めた1年だったから

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もう一つ試合後の光景から。今年の名古屋を象徴するチャント、それが「風」である。

試合後、サポーターと選手がともに歌う姿は見慣れた光景だ。ただこの日驚いたのは、大型スクリーンに映しだされた風間八宏の姿。サポーターと共に歌う彼の姿だった。

昨年彼は川崎フロンターレでの最後の試合、天皇杯決勝に敗れ、無冠のままチームを去った。そしてこの日の前日、その川崎が悲願のJ1初優勝を成し遂げた。

勿論私達はJ1で優勝したわけでもなければ、J2で優勝も出来なかった。

ただそれがJ1昇格という結果でも、私達はこの一年、その結果だけを欲していたのだ。それで十分だった。川崎だけではない。彼のこの1年もまた同じように報われた気がして、名古屋サポーターとしてはなんだかとても嬉しかった。

福岡のことにも触れておきたい。

勝者がいれば勿論そこには敗者も存在する。歓喜の涙の横には、必ずもう一つの涙がある。

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グランパスサポーターは、試合後名古屋の選手達に拍手を送った福岡サポーターの姿を忘れないでしょう。逆の立場だったとき、私達は同じことが出来ただろうか。

福岡の選手も、サポーターもまた、同じようにこの一戦に賭けていた。ただ彼らはこの日の勝者を、J1に昇格したチームを称えることを選択した。決勝に相応しい相手、そしてサポーターであったことをここに書き記したい。

さて、サポーター一人一人にどうしても昇格したい理由、想いがあったのではないでしょうか。

個人的には新井一耀に触れておきたい。私が何より嬉しいのは、彼の復帰の舞台にJ1という名のステージを用意出来たこと。勿論まだ去就は不透明である。ただ私は彼が赤いユニフォームを纏ってJ1のピッチに帰ってくることを期待してやまない。これは全名古屋サポーターの総意ではないだろうか。あの怪我が起こるまで、名古屋グランパスのディフェンスリーダーは疑いなく彼であった。どうか安心して帰ってきてください。

最後に小林裕紀のことを書いて終わりにしたいと思う。「上手くなるため」。それが彼が名古屋に来た理由である。ただどうにもそれが解せなかった。そんな漠然とした理由で、残留を勝ち取ったチームのキャプテンが、下のカテゴリーに蹴落とした当時のライバルチームにわざわざ来るのかと。

シーズン終盤、親愛なる新潟サポーターの方から一冊の本を受け取る。「アルビレックス散歩道2016」。えのきどいちろう氏の一年間のコラムをまとめた大作である(名古屋にもこんな本が欲しい)。驚きました。小林裕紀が何度も泣いているんです。あのファンサが不愛想で、エンジンかける音が異様にデカい、キャプマの締め方に妙に拘りのあるあの小林裕紀が、この本の中では苦悩していた。キャプテンとして結果を掴めない日々に、満足なプレーが出来ない自分に。あれで誰よりも繊細で、責任感が強い男なのだと知るには十分な内容で。実は彼、昨年の瑞穂での名古屋戦の後、新潟サポータの前で涙を流していたらしい。自分の不甲斐なさに。

今年の3月4日、豊田スタジアムで開催された第2節、対岐阜戦。前半33分で交代を余儀なくされた彼の後姿を、メインスタンドからずっと見ていた。次に彼に出番が訪れるのはここからもっと先、6月10日、第18節対東京V戦。実に約3ヶ月間、彼はここ名古屋でも苦悩していた。上手くなりたいと願い名古屋に来た男が、何より上手いことを評価する風間八宏の下で3ヶ月間も出番がなかった事実。

プレーオフ千葉戦後、風間八宏小林裕紀のことを相棒の田口泰士とともにこう評している。

泰士は我々のモーター。(小林)裕紀と2人がウチの心臓部なので

挫折。苦悩。そして華麗なる復活劇。それらを全て見ることが出来た私達は幸せ者だ。そう、彼は誰よりも上手くなりたいと願い名古屋に来たのだ。そして彼が一歩ずつ歩みを進めてきたその道のり、その姿を忘れることはない。

前述した東京V戦、彼はCBを務めていた。それからボランチに返り咲くまで、彼の自主練は毎日酒井隆介と一緒だった。ロングボールを蹴ってもらい、ヘディングで跳ね返す練習。酒井にアドバイスを求めながら何度も、何度も。今思えばそのエピソードに彼の生真面目で繊細な性格、そしてどんな形でもピッチの上でチームに貢献したいという責任感、上手くなりたいという想いが込められていた気がする。

それから数か月後、彼はピッチ上での私達の心臓、モーターとなった。これからは贅沢なことに、J1の舞台で彼がここから更に成長する姿も私達は見ることが出来る。

改めて名古屋に来てくれた偉大なる副キャプテン、小林裕紀に感謝を。

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ここから年末にかけて選手の去就に関するリリースも出始める。喜べるものもあれば、きっと悲しいものもある。ただこの年末はきっと喜べるものが多いでしょう。「解体」ではなく「強化」。それがどれだけ夢に満ち溢れているか。

試合後、名古屋公式が掲載した小西社長の言葉。

「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。

 唯一生き残るのは、変化できる者である。」

昨年末、悔しくて、苦しくて、涙したあの日々を乗り越え今がある。だから今年ばかりは、昇格出来た喜びを噛み締めながら年末年始を過ごしてもいいのではないでしょうか。グランパスサポーターの皆様、一年間お疲れさまでした。

来年またスタジアムで、

このチームと共に、

J1の舞台で集結しましょう。

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「最悪の敗戦」を「成長の糧」とするために~2017.11.11名古屋グランパス対ジェフユナイテッド千葉~

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相手監督の嬉し涙で書き始めるのも悔しいですが、絵になるのでここから始めます...。

さて、豊田スタジアムで行われた名古屋グランパスジェフユナイテッド千葉の試合は0-3、千葉の勝利で幕を閉じました。現地で観戦した後の率直な感想は「完敗」。失点シーンがショッキングだったこと、なによりエスナイデルが涙を流すくらいお互いに重要な試合だった。その喪失感。完膚なきまでにやられたなと、落ち込んでその場を後にしました。ただその後この試合を何度か見返していくうちに、実は紙一重な部分もあったのでは、そう思うようにもなりました。3失点のうち2つはミスからです。勿論何故ミスが起きたか、その原因は間違いなくあるわけですが、同時に防げた可能性がある失点でもあったわけです。

ただ千葉はいいチームでした。強かった。試行錯誤が続いていたようですが、それらが今確実に実っている印象です。「攻撃」「守備」「攻撃→守備」「守備→攻撃」の中でもとりわけ「攻撃→守備」「守備→攻撃」、所謂攻守の切替の強度、連動性にはかなりの差があったなというのが正直な感想です。ただ彼らとのこの試合が、プレーオフ前で良かったとも今は思います。それくらい彼らは私達に大きな課題を残していった気がするからです。正直に言って、これを知らずにプレーオフに進んでいたら一発でアウトだった可能性が高い。例えば相手が千葉にしろ、徳島にしろ。そのあたりを今回のブログで一つずつ振り返りたいと思います。

今回は取り上げるシーンが多岐にわたる為画像多いです。辛抱強い方、ついてきてください。

ということでスタメンです(千葉のスタメン「復旧中」です)。

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千葉の守備戦術を紐解く

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 千葉のプレッシングの考え方がよく分かるシーンを厳選しました。名古屋の左サイドから櫛引までボールが渡った瞬間を切り取った画像です。この場面、ボールホルダーである櫛引に2トップの一角である船山がプレスに行きます。残りの選手はチームの陣形をボールがあるサイドにスライドすることから始めます。

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櫛引から中央の小林に入ったシーン。この段階で千葉は既にスライドを終え、チーム全体でボールを奪いに行ける陣形が整っていますから、今度は全員でボールの方向に向かってプレスをかけに行きます。このスイッチが入るタイミングは相手の「バックパス」。千葉からすると自分達の矢印(名古屋ゴール側)の方向、名古屋からすると自陣の方向へ「戻す」タイミングで千葉は最終ラインも含め一気にラインを押し上げる。

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小林は目の前にいる相手2トップの間に顔をだした櫛引に再度ボールを戻しますが、この時点で既に熊谷が掴まえに来ています。

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櫛引からワシントンへパスが回り、そこから縦にいる寿人にパスをするものの、このポイントも千葉の選手が既にケアしており、案の定掴まってしまいました。

千葉の特徴の一つ、最終ラインも見ていきます。f:id:migiright8:20171117001835p:plain

これはミドルサード(ピッチ中央付近)の状況です。このラインの高さ。陣形が整い、プレスをかけられるタイミングになれば必ず最終ラインも押し上げ全体をコンパクトに保つ。これは彼らの絶対的な約束事です。

リトリート(低い位置で構える)した際も同様です。

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見た通りです。これらで分かる千葉の守備の特徴は以下の通り。

  • 縦横を圧縮してコンパクトな陣形で網を張り、名古屋の「スペース」を潰す
  • プレスはボールを中心に四方から蓋を閉じるようなイメージ
  • 最終ラインはこまめに高い強度で上げ下げし、名古屋の前線の選手を操る
  • 結果的にオフサイドポジションに名古屋の選手を取り残す
  • 全員がチーム戦術に沿ってハードワークをし、誰一人サボらない

お互いのシステムだけ見れば上手く噛み合ってそれぞれがマークにつけるような配置なのですが、千葉の場合ボールを中心に陣形を整えながら動いている為、ボールと反対サイドはほぼケアしません。名古屋の選手がそこにいてもあえてつかない。必ずボールを網の中で奪い取る。勿論高い位置であればあるほど良い。何故なら奪ったらそのままショートカウンターで手数をかけず名古屋ゴールに迫れるからです。これは名古屋が前に人数をかけるチームだからこそ余計に効きます。目的は「名古屋のスペースを奪い」「高い位置でボールを奪還しショートカウンターでゴールまで繋げる」です。

ではこの千葉の守備に対して名古屋の攻撃のどこに問題があったのか。

名古屋の攻撃の問題点

スペースの使い方、選手のポジショニング

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象徴的なシーンを。この場面、ボールホルダーは小林ですが、実はこの前の段階で狭いエリア内を田口と何度かパス交換し、相手を引き寄せつつ、自身の前にこれだけのスペースを確保しました。得意の狭いエリアでのパス交換から相手の陣形を自身のエリアに集中させ、尚且つプレー出来る時間も確保しているわけです。そのうえで注目したいのが右サイドにいる宮原。いわゆる「ドフリー」です。前述の通り千葉はボールと反対サイドは捨てているからこそ、これだけスペースが生まれますし、為田にしろ比嘉にしろ宮原を視野にすら入れていない。画面に書き込んだスペースにパスをだせば、その1本のパスで決定機を生み出せる状態です。後述しますが、これが風間監督が良しとするサイドチェンジです。「寄せて」「空けて」「勝負出来るパスを送る」。これがスペースに逃げないサイドチェンジ。ではこの後のシーンに移ります。

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小林はあれほど時間があったにもかかわらず、宮原の前ではなく、彼の後方(名古屋ゴール側寄り)にパスを送る選択をします。いわゆる足元へのパス。ただこの選択は正しかったのか、そこが問題です。何故ならここで勝負出来るパスではなく、ポゼッションの為のパスを選択したことで、千葉側に宮原サイドへ陣形をスライドする時間を与えてしまっているからです。要は名古屋にとっては攻撃を「やり直す」形になっている。これが先程とは逆の意味、風間監督が嫌うサイドチェンジです。スペースに逃げるだけの、結局相手がスライドして一から攻撃をやり直す必要がある意味のないサイドチェンジ。何の為に密集地帯でパス交換をしたのか、そこで構築したものがこの1本のパスでまたゼロに戻っている。この場面はたまたま小林のプレーでしたが、補足すると、この試合最も意図をもってチャレンジするパスを送っていたのもまた小林であったことを付け加えておきます。

あえて空けているスペースが勝負のポイントとして上手く活用出来ないシーンは後半にも度々ありました。

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このシーンも青木が上手く前を向き、相手の最終ラインは青木のドリブルと視界に入る名古屋の前線3枚に視線が集中しています。勿論千葉の陣形が青木のサイドに集中しているのも分かります。そのうえでこの場面は左サイドの和泉に注目をしてみます。先程の宮原同様ドフリーです。シンプルに和泉の前にボールを送ればそのままゴールまで一直線というシーン。ただここも青木はあえて実線のシャビエルの足元へボールを送ろうとする。結果は千葉の最終ラインに阻まれて攻撃が終わってしまいました。

確かにゴールへの最短距離はこのルートです。それは間違いではない。ただ中央の狭いエリアだけで局面を打開出来る相手ならともかく、千葉のように極端にボール中心に網を張るチームに対して、同じ攻撃に固執する必要があるのか。何のためにボールを持つことを大前提にしたチーム作りをしているのか。端的に言えば、自分達の最大の武器をまだまだ活かしきれていない。相手によって出来不出来の差が大きい。それは相手によって自分達の武器の活かし方に変化がないからです。それが今のグランパスではないでしょうか。狭いエリアでも細かく繋げる技量があるからこそ、実は千葉のような相手を攻略出来る糸口があったわけです。ただ今はそのスタイルに固執するあまり、手段と目的がすり替わってしまっている場面が存在する。

さて、先程のシーンでもう一つ気になったのが各選手達のポジショニングです。

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このシーン、最終的には最終ラインまでボールが戻ってしまう、この試合を象徴するようなシーンでした。このサイドでの局面、名古屋が4枚に対して千葉は6枚で囲っています。流石に相手の方が2枚多いわけですから分が悪い。ただゴール前に目を向けてみると、ロビン、杉森、青木がフラットに相手の最終ラインと対峙しています。仕掛けるわけでもなく、ボールを待っているだけです。例えば熊谷の脇のスペースに一人降りてくるだけでまた状況は違ったのではないか。

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結果的にこの場面、バックパスが二本続きワシントンまで戻ってきてしまいます。寿人は試合後のコメントで「バックパスが続くと相手のプレスの矢印が大きくなる。次のサポートまでの距離も出来てしまう」といった趣旨のコメントを残しています。彼のコメントに込められた意図がこの画像から伝わると思います。千葉の選手がボールの流れる方向へプレスのスイッチを入れている様子、ボールホルダーであるワシントンと名古屋の残りの選手との位置関係。

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これもそうです。前線3枚のポジションがかぶっています。相手の網の中、相手の視野内に収まる場所で最終ラインに仕掛ける(相手の矢印の逆を取る)わけでもなく、同じ景色を見てしまっている。

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同様にこの場面も3人が全員同じ動きをしています。仕掛ける矢印が一方向(千葉ゴール側)のみで、相手の想定内の動きに終始している。例えば網の外に移動する、極論その場でストップしてもいいわけです。相手の守備の矢印と違う動きをすることで歪みを作ることが出来る。そういった動きが皆無で、どうにも網の中で必死に動いている印象すら受けます。

では逆に上手く千葉を攻略出来たシーンを振り返ります。

受けて、だして、相手の逆(網をかいくぐる)を取ることに成功したパターン

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このシーン、青木が相手を上手くかいくぐって前方に視野を確保します。ここでボールと反対サイドにいる和泉の前にシンプルにボールをだしたことで一気にファイナルサード(相手のゴール前)に侵入することに成功。ちなみにこのシーンも千葉の町田、溝渕は和泉を全くケア出来ていません。視野から完全に外れている和泉に向けて、「スペースに逃げる」「サイドを変える」のが目的ではなく、「このポイントで勝負する為」にボールを送れています。

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次のシーン。この場面も青木が演出します。田口、中盤におりてきた玉田とパス交換を繰り返し千葉の前線、中盤の選手を同サイドに集めます。千葉の両CB(近藤、キム)の特徴として、前にいるボランチ二人がエリアを捨ててでも前にボールを奪いに行くことから、空いたバイタル(中盤と最終ラインの間のスペース)を使われる恐れがある際はポジションを捨ててでも人についていきます。この場面でいえば中盤に降りてくる玉田に近藤は必ずついていく。この攻撃に関しては、名古屋はそうやって意図して相手を釣りだし、勝負出来るタイミングで一気にそのスペースをシャビエルに突かせることに成功しています。これが前半の最大の決定機でした。だして、寄って、タイミングを変えて裏を狙う。完璧な崩しでした。

どのシーンにも共通するのは、この「だして、寄って、受けて」の繰り返しの中で、相手の状況を確認しながら勝負出来るタイミングでパスのリズムを変えたり、相手の見ている景色、視野を変えることに成功していることが挙げられます。

これは風間監督の試合後のコメントです。

今日の場合は中盤で繋ぐ必要がなかった。最終ラインに仕掛けたかった。

風間監督は「ショートパスで繋ぎ倒せ」「中盤は省略するな」とは一言も言っていないわけです。勿論「中央から崩しきれ」とも言っていない。またこのコメントも興味深いものでした。

我々がボールを持つというのが何かというと、やっぱり相手がどういう風に来ているか、それに対してどう反応するかというサッカーなんでね。パスを3本も繋ぐ必要がない、あるいはそこを2本にする、1本にする、それからもうちょっと、出して寄ってからのタイミングを変えることで多分もっと破れたはずなんでね。我々のサッカーは自分達の形だけでやってるわけではないんでね、そういう意味で自分達がしっかりボールを持つというのは、相手を見ながらサッカーが出来るということですから、やっぱりそこのところをもう一回ね、何を見るか、どこを見るかということに関して、またこれからしっかり練習していきたいと思います。

このコメントを読んでも風間監督は選手達に何も禁止していません。大事なのは「何を見るか」「相手の陣形、動き」を見ることであって、ボールを持つこと、細かく繋ぐことはあくまでそのための手段でしかない。中央にこだわるのも、風間監督の理論ではまずその前提がないと「外」が上手く使えない為です。そのエリア(中央)でボールを持つ、相手を外す技術を持つことで生まれるスペースがある。見れる景色がある。だからサイドチェンジ自体を否定しているわけでもないですし、外が空いていれば使えばいいわけです。ただし何度も書いていますが、使うまでの組み立て方、タイミングが重要。この考え方に関してはj_saimoさんのコメントが参考になります。

一方で戦況によっては「あえて外に張る」行為も有効です。今回の千葉のような相手の場合、そもそもボールと反対サイドは捨てているわけですから、勿論風間監督の理論通りボールサイドで密集を作って、勝負出来るタイミングで両SBを活用する戦術も効果的だったと考えます。勿論それを上手く出来なかったのが敗因なわけですが。ただ同時にこの網の中でそもそも勝負する必要があるのかという考え方も存在します。ピッチの横幅を上手く活用することで、その網を広げるような仕掛けがあっても良かったのではないか。ただこの点に関しては、どういったサッカーを志向するか、その影響を多分に受けますので、どちらが良い悪いという話でもありません。ですから風間監督の理論に沿って考えれば、彼が提唱する外の使い方、サイドチェンジの意味も理に適っているわけです。ある局面で優位性を保ったうえで、空いているエリアを勝負をするポイントにする。そのための密集であり、かいくぐる技術であるということです。

敗因といえば、今回はあえて守備も取り上げたいと思います。

名古屋の守備の問題点

(FW-MF)と(DF)間の距離「間延び」

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セットした際の名古屋の守備ですが、見て分かる通りFW2枚と中盤の4枚は割と高い位置に陣形を保とうとします。攻撃的な選手が多いこと、勿論チーム戦術として「前から奪う」が前提にあることも起因しているでしょう。ただ大きな問題点もあって、高い陣形を保つ割には前からのプレスの強度は意外にも高くない。決して守備が得意ではないシャビエルと玉田が最前線なわけですから、しょうがないといえばしょうがないのですが...。ただ結果的にプレスが効果的にかからず、相手のボールホルダーが前向きの態勢で余裕を持っている為、名古屋の最終ラインはどうしても背後が怖くてラインを高く設定出来ません。

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なのでこのように中盤と最終ラインの間でボールを受けられると簡単に前を向かれてしまう。また最終ライン目掛けてハイボールを蹴られると、余計にこのライン間が空いてしまう、効果的な攻撃に繋げられてしまう。この点に関しては試合後和泉がこう語っています。

相手は縦に速いボールを蹴る状況でディフェンスラインが下がってしまい、いつもと違う距離感で今までのサッカーが出来ませんでした。

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これもそうです。相手にサイドを深くえぐられると、どうしても最終ラインがフラットにラインを作ってしまう為バイタルが空いてしまう。これに関しては、相手に深くえぐられた際のゴール前でのライン形成をどうするかという点においても工夫は見られません。

失点シーンを振り返る

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この場面、ボールホルダーの町田をケアする為に小林がついていきます。町田は右SBの溝渕にボールを預け、自身のポジションに戻ります。溝渕は小林が移動して空けたスペースに構える熊谷にパスを通す。

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小林は自身のポジションに戻ります。まさに孤軍奮闘。彼が必死にバランスを取っています。ただしこの場面では町田に揺さぶられたことで時間を奪われ、熊谷との間にこれだけのスペースを作ってしまう。私はこの場面に1つ目の問題があると考えます。このときシャビエルは千葉のCBへのバックパスをケアするポジションにいるわけですが、最も危険だったのはこの熊谷のポジションです。CBに戻されたところで千葉としても攻撃をやり直す形になるわけですから、放っておいても問題がない場面でした。まず彼のポジショニングがどうだったのか。あとは小林-田口-青木のラインの間隔も気になりますね。もう少しボールサイドに絞るべきではないか。

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二つ目の問題点。ここが決定的だったと思いますが、船山をマークするワシントン。熊谷がボールを持ったタイミングで名古屋のプレスがかかっていなかった為、パスが出てくると考えたのでしょう。彼はこのタイミングで船山から目を離し、隣のラリベイ、櫛引のポジショニングを確認します。それ自体は悪いことだとは思いませんが、問題だったのは体のアングルごと変えてしまったことです。船山の動きと逆モーションを取るような形で目の前のマークを外してしまった。この一連の動作で勝負ありでした。たったこれだけの動作で裏に抜ける船山に何歩も後れを取ってしまった。勿論ワシントン自身も足は決して速くありません。櫛引がラリベイをフリーにし、ゴール前を空けてしまったように見えますが、彼としてはワシントンが船山に追いつかないことを咄嗟に判断した上で、一か八かの賭けでマークを外してでも船山を追ったのでしょう。結果は時すでに遅しでしたが...。

現状の守備について

よく「風間八宏は守備が仕込めない」と揶揄されますが、要はこういった部分がそういった評判になるのでしょう。相手がボールを保持した状態でセットして守ろうとした際、チームとしての細かい約束事、チーム戦術が希薄な為、各選手が個々の判断で動いている印象を受けます。だからギャップやフリーな選手が生まれる。ファジーなポジション取りをされると誰がマークに付くかはっきりしない。組織としてのチャレンジ&カバーや、細かいスライド(空いたスペースを埋めていく動き)も見られません。ただこの点に関しては「技術解体新書」の守備の項目を読めば、彼の考え方(各個人がいかに相手にやらせないか、個人の守れる範囲を広げていく)が守備においても如何に個人に依存した考え方か分かりますし、ピッチ上の現象は腑に落ちるわけです。川崎の選手たちがこぞって「守備練習はほとんどした覚えがない」とコメントしているくらいですから、正直ここは期待できないと思っています。ボール保持が前提と言いますが、90分あればそうでないときもあるからこそ、「八宏スコア」が生まれるわけです。殴り合いになる。おそらく攻撃の完成度が上がってこれば、前からの守備はもう少し改善される可能性はありますが...。

ただしセットした守備はこれらの前提の上に成り立っていますから、やはり個人の守備力が高い選手がいるにこしたことはないわけです。ただ同時にこのチームのCBはビルドアップの技術も求められることは前回までのブログでも論じた通りです。風間監督のチームにおけるCBの役割がどれだけ大変か、ハイスペックを求められるかという話です。

またこれはあくまで私の想いですが、ブログに関してもこれらの点を好き嫌いでは書いていません。嫌いといったところで、それ以上の発展性がないからです。グランパス以外のチームであればこの好き嫌いでチームはチョイスしますが、これが私達のチームである以上、私としては良いところに目を向けたい。チームの目指すべき方向性を理解した上で目の前の現象を捉えたい。ですのでこれまであえて指摘をしていませんでした。

ただやはり守れないのであれば打ち勝ってほしいのもまた事実です。今回の千葉戦のように決め手に欠き、穴だけ突かれて完敗しているようでは、大袈裟に言えば風間八宏である意味はないわけです。これで突き進むならどんな相手でも殴り倒せるようなチームにならないと意味がない。勿論まだまだ成長過程なのは前回までのブログでも書いた通りです。何を目標にチームを作っているか、それすら見えなくなったら終わってしまいますから、その意味ではチームの進歩、成長がみられる分、私はこの路線ならこの路線で支持するつもりです。とことんやってくれと。ただしやる以上は必ず殴り勝てるチームになってくれないと困ります。それだけ極端なことをやっているわけですから。

風間監督の攻撃の理論の前提にあるのは「ボール保持者が常に先手を取れる」です。であれば翻って守備の局面は後手になるわけですから、組織で守る術が必要なのでは?とも思いますが...他のサポーターの方々はこのあたり、どうお考えでしょうか。

とは言うものの、もう目の前にはプレーオフという大一番が待っています。

千葉戦で浮き彫りとなった課題をこの短期間で克服出来るか。それがJ1昇格のカギになると思っています。今週の様子を見ていても、どうやら磨くべきものは「攻撃、攻撃、攻撃」のようですね。ブレない男。ではまた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日「私達の応援するチーム」は「私達のチーム」になった

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1月。風間体制初日。

「早く練習が見たい!!」足早にあの地獄坂を上りながら期待に胸を膨らませトヨスポに向かった。客席にはJ2に降格した悲壮感はなく、新たな一年が始まる、新たな名古屋グランパスをこの目で見ることが出来る。そんな空気が充満していた。マスコミもかなりの数。それらがこの日から指揮を執る風間八宏、そして日本を代表するストライカー佐藤寿人によるものであることは誰の目にも明らかだった。

練習が始まりしばらくして私の目もやはり一人の選手の存在に釘付けになる。佐藤寿人サンフレッチェ広島のエースであり看板選手であったあの寿人が、赤いトレーニングウエアを身にまとい目の前を走っている。憧れ、そして俄かには信じがたいその光景に私の目は彼を追うことで必死だった。ほどなくして彼が妙に八反田に声をかけるシーンが多いことに気付く。「ハチ!!!ハチ!!!」愛犬のような愛称で呼ばれる八反田は、筑波大学時代、風間監督の下でプレーしていたこともあり、当分の間トレーニングリーダーのような立ち位置になるのだとそのとき理解した。ただ何故寿人が八反田とあれほど仲が良さそうだったのか、その理由を知るのはもう少し先の話。

寿人がナラさん(楢崎)をイジッている。その舞台はカラーコーンを並べたドリブル練習。カラーコーンにナラさんが引っかかる度、

「ナラさーん!!ナラさーん!!」

笑いながら「ほっとけや」と嬉しそうに応えるナラさん。あぁ、この二人はただ仲が良いだけではない。お互いがお互いの役目を理解し引き受けているのだとすぐに分かった。寄せ集めのようなこのチームを、サッカー好きなら知らない人間はいない、そんな二人が引っ張ろうとしていることに気づくまで時間はかからなかった。

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そんな佐藤寿人以上にグランパスサポーターの注目の的、待ちに待ち焦がれた男が玉田圭司だったかもしれない。3年振りにこの地へ帰ってきた男は、田口泰士とコミュニケーションを取りながら、名古屋での感触を取り戻すかのようにゆっくりとピッチを走っていた。だから初日は抑えていたんでしょう。日がたつごとに彼の要求は厳しさを増し、その対象は杉森考起と青木亮太に注がれた。玉田に怒鳴られ小さく見える青木に近づき、そっと肩に手を回し笑顔で声をかける寿人の姿を見て、日本を代表するストライカーの二人が、それぞれのやり方で名古屋の至宝達を必死に育てようとしているのだと分かった。それにしても贅沢なアメとムチだ。

名古屋の至宝といえば、彼らに厳しかったのは玉田だけではない。他でもない風間八宏である。この一年、彼らは何度風間監督に怒鳴られてきたのだろう。おそらくこの一年間、風間監督が最も手を焼き、最も愛情を注いだのがこの二人だ。余談だが、後に強化指定としてグランパスを支えた大学生、秋山陽介は全く手がかからない青年だった。だからこそ即戦力だったのも頷ける。

さて、初日の練習場ではその傍らで黙々とトレーニングをこなす男がいた。アルビレックス新潟から加入した小林裕紀。彼は昨年グランパスと残留争いを演じたライバルチームのキャプテンだった。私達はその戦いに敗れ、彼のチームが勝者だった。その勝ったチームのキャプテンが、敗れ去りカテゴリーを落としたチームにやってきた。

「上手くなるため」

彼は後にグランパスにやってきた理由をこう語っている。かくしてこの不思議な縁で結ばれた移籍劇の主人公は、今佐藤寿人と同じ赤いトレーニングウエアに身を包んでいる。誰よりも一つ一つのプレーにこだわり、風間イズムの全てを吸収しようと言わんばかりのその姿に、「この選手、好みだ。見てるだけで面白い」と私のオタク気質が疼いてしまったのは当然と言えば当然でして、そこからはパス練習一つとっても彼の姿ばかり追うようになってしまった。ミニゲームが始まれば彼はいつもピッチの指揮官だった。誰よりも声を張り上げ指示を飛ばすのは彼の役目だった。後に前所属先であるアルビレックス新潟のサポーターにも深く愛されていた事実を知り、私はこの選手を心から大切にしなければいけないと強く思った。

練習後、各々が思い思いにクールダウンをしている中、私は不思議な光景を目にする。東京ヴェルディからやってきた杉本竜士。周りに脇目もふらず、黙々と一人ドリブルを練習するその姿に目を奪われた。ルックスも相まって、その周りに媚びなそうなオーラは、こちらが期待せずにはいられない独特の雰囲気に包まれていた。「面白い選手が来た」実はあの日私が最も興味を抱いたのは彼である。何度目か練習を見に行った際、お昼休憩で田口と楽しそうに出ていった姿を見たときは嬉しかった。我が子を見るような気持ちで。「仲良くなってる!!」

練習後といえば風間八宏のエピソードも付け加えたい。初めてファンサービスを受けたとき、彼は大きな声でこう叫んだ。

「僕のサインいる人いますかー」

そのフランクな人柄と丁寧な対応に、普段マスコミの前で見せるどこかとっつきづらい印象は消え失せ、この人はサポーターを大切にする人なんだと感じたものです。ただ一つ、隣にいたサポーターが「何か今年の目標を一言添えて下さい」とお願いした際、

「そんなものはありません」

ときっぱり答える風間八宏を見て、この人は自身の信念、哲学からは絶対にブレない人なのだと悟った。だからこそ信用できると思ったのだ。

それ以降トヨスポで見た光景は忘れられないものばかり。

最初は全てのトレーニングが手取り足取り。必ず風間監督の実演からスタートするのがお約束。シーズン前から故障を抱えていたルーキー松本孝平は、松葉杖で必死に移動してはトレーニングの説明に聞き入っていたものです。誰もが風間監督の「言葉」を一言一句逃すまいと必死だった。

ミニゲームを行う際、グループ分けが2つでなく3つ出来る光景もいつしか当たり前のものになった。レギュラー組、サブ組、その他。サブ組に入れなかった選手達はクラブハウス前で全く別のトレーニングを行い、練習が終わればファンサービスもそこそこに足早にその場を立ち去る光景もまた当たり前のものとなった。いつもは丁寧にファンサービスを行う矢田旭が、それをすることもなく立ち去る光景は、真意は分からないまでもプロとしての意地、プライドを感じた。ピッチに立てなくても、同じように日々戦っている選手がいるのだと。

シーズンも半ばを迎えると、その場所から選手が一人、また一人と去っていった。大武、古林、旭、高橋、田鍋...共通したのは、昨年J2降格という苦い思いを味わった選手達であること。そして今年ほぼ出番がなく、クラブハウスの前で必死に己と葛藤しながら戦っていた選手達であるということ。

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意外だったのは磯村亮太。シーズン序盤は苦しんだものの、当時彼は小林とともにCBでコンビを組むレギュラー。グランパスの選手として最後の公開練習日。ファンサービスにやってくる彼の姿を忘れることはない。痛々しい膝のテーピング、どこか逞しくなったようなその風貌。やっと風間さんのサッカーを理解出来てきた、このタイミングで去るのはちょっと心残りだと語った彼に対し、風間監督のもとこれからイソはどう変化していくのだろうと同じ思いを抱いていたサポーターは私だけではないでしょう。この日最後にイソと走っていたのは寿人だった。移籍してしまう選手の練習最終日、私が居合わせたときはいつも寿人がその選手達の隣を走っていた。それはただ仲間との別れを惜しんでいるのではなく、私には一人のサッカー選手として後輩達にエールを送っているように思えた。

どんなときも誰よりも声を出し、常に先頭に立ち、この集団を「チーム」に変えようとしていたのは寿人だったように思う。この一年、彼がいなかったらこのチームはどうなっていたのだろう。そう思ったのは一度や二度ではない。寿人のいる練習場と、負傷でいないときの練習場は全くの別物だった。

名古屋を去った選手で忘れてはいけない選手がもう一人。宮地元貴。J2に降格し、毎日が憂鬱だった。そんなとき彼は母校である慶應義塾体育会ソッカー部のブログにこんな文章を寄せた。

今シーズン、グランパスはクラブ史上初のJ2降格という結果となり、来シーズンは新たなステージでの闘いが待ち受けています。その状況を見て、既に入団が決まっている僕に対して、ここぞとばかりに嘲笑を浴びせてくる人がいます。

今に見てろと思っています。

責任を持って選んだ僕の道です。

僕には猛烈な野心があります。

逆境を力に変えるのは自分自身です。

僕の人生は挫折の連続です。

それでも何度も這い上がってきました。

必死になってもがいてきました。

下手くそがどうやって戦うのか。

不可能だと言われることに挑戦するのか。

幼い頃からの夢を掴み獲るのか。

人生は一度きり。

他人の評価を気にして挑戦しない人生なんてつまらない。

他を凌駕する強烈な努力を積み重ねるのみです。

夢を叶えるには、どのような状況においても、全身全霊を傾けて今を生きることが最も大切なのだと信じています。

僕はグランパスを代表する、日本を代表するプロサッカー選手になります。 

慶應義塾体育会ソッカー部オフィシャルブログ(2016.11.11)より抜粋 

このブログで励まされたサポーターがどれだけいたことか。どれだけのサポーターが前を向くことが出来たか。ルーキーが1年目のシーズン途中に移籍するという異例の形で彼はグランパスを去った。ただグランパスサポーターは彼のことを決して忘れないだろう。そしてある女性サポーターが掲載した彼の涙が忘れられることもない。半年足らずだった。ただ誰よりも自主練習を熱心に行っていたその姿を私は忘れないし、彼が流した涙の意味も私達は知っている。

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抜けた選手ばかりではない。同じ夏、新たに数人の選手達がグランパスに加わった。

ガブリエルシャビエル。24歳とは思えないその風貌でトヨスポに現れたブラジル人は、最初に見せたボール回しの練習から素人目でも分かるほど類まれな技術を持った選手だった。初めてのミニゲーム。彼が入ったポジションは主力組のボランチ田口泰士の隣でプレーする彼を見て、練習後私は知人達にすぐメッセージを送った。「もしかしたら劇的にチームが生まれ変わるかも!!」。途中時差ボケで自らグラウンドの外に出たエピソードも懐かしい。その後あっという間にグランパスサポーターの心を鷲掴みにするとは思いもしなかったけれど。

横浜Fマリノスからは新井一耀がやってきた。風間八宏のサッカーに適応出来るCBなどどこにいるんだと思っていた矢先にやってきた彼。決まった際、新井と聞いてもピンとこなかった自分を今は恥じる。「中澤佑二の後継者」と期待されていたこの男は、圧倒的な高さに加えインテリジェンスも持ち合わせているのだと気づくまでに時間はかからなかった。練習初日、彼にずっと付きっきりで指導する風間監督の姿に彼への期待を感じたものです。その後彼が風間監督と高校時代から付き合いがあったこと、彼をプロに引き上げたのが他でもない下條GMであったことを知り、その縁になんだか奇跡的なものを感じた。川崎に連れてこようとした風間監督と、それを横浜に連れていった下條GMが、今この名古屋の地でタッグを組み、新井をグランパスのメンバーとして迎えたのだ。初めて写真を撮影させもらったとき、あまりの逆光とその長身で顔が全く見えなかったのも良き思い出である。

シーズンも終盤に差し掛かり、 最近こんなコメントをよく目にする。

「今年ほど応援した年はない」「今までで一番スタジアムに足を運んだ」

2016年11月3日。私達はパロマ瑞穂スタジアム湘南ベルマーレに敗れ、初のJ2降格が決定した。

絶望に打ちひしがれる私達に待っていたのは、連日のように報道されるクラブ内部の騒動であった。傷口に塩を塗るとはまさにこのことだ。あの記事の真偽はともかく、今思えばあれはグランパスサポーターに「それでもお前たちはこのチームを応援するのか」と問いただしているような、サポーターとしての覚悟を試されているような、そんなものだったように思える。

毎日苦しい想いをし、自分はこのチームが本当に好きなのか自問自答した。

毎日踏み絵の前に立たされているような気持ちだった。

そうこうしている内に、私達が応援していた選手達は次から次へとグランパスから去っていった。

J2に降格するとはこういうことなのだと、あのとき私達は初めて知ることになった。

勿論何があってもグランパスグランパスだ、そう胸を張って言えるサポーターもいるでしょう。ただ同時にこのチームを応援する沢山のサポーターが、こんな経験を経て初めてのJ2を迎えたのだ。その経験は「私達が応援しているチーム」を「私達のチーム」に変えた。だから今年ほど応援した年はない、そんな感情を抱くのは不思議ではないのだ。私達はそれを乗り越えてここにいるのだから。

名古屋グランパスは私達そのもの」になったのだ。

今シーズン妻に何度も言われた言葉がある。

「今年は特に酷いよ」

その言葉は彼女にとっては痛烈な嫌味であり、私にとっては最高の褒め言葉だ(そう思うようにしている)。

今やチームの象徴である田口泰士が移籍濃厚と目にしたときのことは忘れられない。目覚まし時計をかけているわけでもないのに毎日朝5時に目が覚め、スマホを手に取り何か情報がでていないかと漁った。毎日毎日。

数週間後、「残留決定的」と目にしたときどれだけ嬉しかったことか。友人二人にすぐにメールを送った。「最後まで残留を信じていたのは自分だけだ」と。会心のドヤ顔をしながらも、あのときから既に私の目はJ2という舞台に向けられていたのだと思う。ツライ毎日から抜け出し、このチームと歩んでいくのだと覚悟した。毎朝決まって5時に目が覚めるなんて、人生で初めての体験だった。J2降格を共に味わったキャプテンと、一緒にJ1に上がりたかった。

グランパスの戦力なら昇格して当然。他のサポーターはきっとそう言うでしょう。勿論個々の力がJ2では抜きんでた集団であることは間違いない。

ただ私が見た練習初日。あのチームはグランパスという名のもとに集められた寄せ集めの集団だった。それぞれが覚悟をしこの地にいる。ただチームとしての一体感はまだなかった。当然である。17人がこのチームを去り、18人もの選手が加わったのだ。チームスタッフもフロントも大幅に入れ替わった。紛れもなく新しいチームだった。練習が終わってクールダウンをする選手達。残留組、新加入組で分かれて走っていたその姿を私は忘れない。どこか余所余所しく、居心地の悪そうなあの感覚。あのときまだ名古屋グランパスはチームではなかった。

紆余曲折を経て、一歩ずつチームになっていった今のグランパスを誇りに思う。類まれなリーダーシップでこの「集団」を「チーム」に変えてくれた佐藤寿人。誰よりも厳しく練習に臨み、その背中でチームを引っ張った玉田圭司。一歩引いた立場でムードメーカーの役目を引き受けた楢崎正剛。そして圧倒的なカリスマ性と、「スタジアムを満員にしたい」と極上のスペクタクルをもってここまでサポーターを連れてきてくれた風間八宏。いつも笑顔でサポーターを迎え入れてくれた小西社長の存在も忘れてはならない。

昇格できるかは分からない。ただどういう結果になろうと、もうこのチームを疑うことはないだろう。何があっても応援することで支え続けるだろう。

ただ一つだけ。

私はこのチームをどうしてもJ1の舞台で見たい。

このチームでJ1に上がりたい。

泣いても笑ってもあと2試合。いや4試合かもしれない。とにかくこのシーズンが無事に終わるまで、最後までそれぞれがそれぞれのやり方でこのチームを後押ししよう。背中を押してあげよう。

そしてJ1の舞台へ共に帰ろう。

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相手の第一線の守備がグランパスの出来を左右する~2017.11.5ファジアーノ岡山vs名古屋グランパス~

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「いやぁ....本当に上手い....」

11月5日シティライトスタジアムで開催されたファジアーノ岡山名古屋グランパスの戦いは1-0で名古屋グランパスの勝利に終わりました。特に前半は名古屋が終始圧倒する展開。冒頭のセリフは試合中、解説の野村さんがふと呟いた言葉です。

先日のブログで湘南や長崎が名古屋に対してどう主導権を握ろうとしたのか書きました。彼らの組織的な守備に名古屋は自由を与えられず、満足なビルドアップをほとんど行うことが出来なかった。では逆に名古屋に自由を与えてしまうとどうなるのか。それが今回のテーマ。この岡山戦、特に前半にその点が凝縮されていました。

では両チームのスタメン。

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岡山は湘南、長崎同様3-4-2-1。私の考えでは今名古屋が最も苦手とするシステムではないかと。ただ試合の様相は前の二試合とは異なる形で動いていきます。

何故「第一線」の守備が重要なのか

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急に「第一線」と書いて理解する方もいれば意味が分からない方もいるかと思います。第一線とは、ボールを保持されている側(この図でいえば岡山側)の最前列の選手を指します。中盤の選手は第二線、最終ラインの選手は第三線です。このあたりの呼称は人それぞれかと思いますが、このブログではこの名称で進めます。さて、一見守備とは無縁に思えるFWの選手達、とりわけこの第一線の選手達が守備においても重要な存在であることは前回のブログでご紹介済みです。特に名古屋のような足元で繋げるチームにはこの第一線の選手達の働きがチーム自体の守備の出来を左右するといっても過言ではありません。ではこの試合、岡山の第一線の選手達の働きはどうだったか。

岡山は名古屋のビルドアップに対して、第一線の選手達が「マンマーク」する形で対応します。赤嶺が櫛引に、大竹がワシントンに、塚川が小林に、関戸が田口に。本来であれば第一線は赤嶺と大竹の2トップが該当するわけですが、今回の場合、この岡山の4人はワンセットに近いイメージです。この4人が第一線。何故なら名古屋のビルドアップで最も危険な中央のゾーンを、ボールをサイドに誘導して塞ぐわけではなく、人が人につくことで対処しようとした為です。ですから名古屋の中央の4人に各々マンマークでつく岡山の4人はこれでワンセット(第一線)のイメージでも違和感はありません。

私がこの試合の岡山を見ていて最も疑問だったのは、「どこをボール奪取の基準点にしていたのか」という点です。噛み砕いて言えば「どの位置にボールを誘導し、どのポイントでボールを奪い取りたかったのか」。特に前半の岡山に関していえば、ここにチームとしての意図や狙いを感じなかった。「枚数を噛み合わせる」だけでした。勿論そこで奪い取りたいという意図はあったのかもしれませんが。

名古屋のビルドアップ部隊に対し、同数の人数をあてる。その背後をボランチの渡邊で埋めるイメージでしょうか。ただ先程の図を見ていただければわかりますが、システムの噛み合わせ上、どうしても名古屋の両SB(和泉、宮原)が浮きます。湘南や長崎はここに同サイドのWGが可変することで対応したわけですが、この試合に関してはこの部分で大きな差が表れます。

SBへの対応の遅れを利用し、そこを起点にフリーの選手、スペース作りをしていくf:id:migiright8:20171106001503p:plain

さて、何故和泉がここまでフリーなのか。ここが最も重要だと考えます。岡山の第一線を担う選手達が名古屋のビルドアップ部隊に枚数をあてているだけで名古屋のボール(パスルート)を誘導することが出来ていない為、そこで奪い取れず名古屋のSBにボールが渡ります。背後で構える岡山の両WB(石毛、パク)からすれば、どのタイミングで前に出ればいいのか、そのきっかけを掴めません。いつ自分のサイドにボールが来るか分からないわけですから。ましてや安易に前に出ればその背後には寿人や青木が控えている。岡山とすれば既にこの段階で後手を踏んでいるわけです。逆に名古屋の立場としたらこのエリアがビルドアップの逃げ道になっています。ちなみにこの場面、丸で囲った名古屋の小林、そこにつく塚川に注目。

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和泉が主導権を握ったこの場面。小林はあえてダイアゴナル(斜め)に走り込みます。すると小林が元々いた位置には勿論スペースが生まれる(斜線部分)。この場面、個人的には丸印で囲った岡山の2トップ(赤嶺-大竹)のポジショニングが気になります。岡山の前の選手達はどうにも人につく意識が強すぎるため、名古屋に先手を取られてしまうと彼らの意図通り人について動いてしまう。この場面でいえば小林についた塚川、櫛引につく赤嶺。全体に名古屋の左サイドに集結させられている割には赤嶺のポジショニングが人を意識しすぎている為、小林が空けたスペース、画面からは見切れていますが和泉の後方にいるワシントンをケア出来るポジションに誰もいません。赤嶺は櫛引を意識しつつも、もう少しワシントンに入った際に即座にケア出来る位置取りをすべきだったのではないかと考えます。

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ワシントンは前述の通り完全にフリー。また小林が空けたスペースがここで活きてくるのですが、岡山の前3人の背後にいる青木までのルートが締められておらず、1本のパスで岡山の第一線の選手達を置き去りに出来る状況が出来上がっています。

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青木に渡った後の場面。岡山は名古屋の左サイドに意図して集められ、そこから右サイドに展開されたことで両ボランチのスライドが間に合っていません。この場面、ワシントンが一度田口を経由していればまた状況も違ったでしょうが、前述の通り小林が意図して空けたスペースを上手く活用することで1本のパスで青木まで通すことに成功。結果的に岡山が守備を修正する時間も奪い取っています。またプレスがハマらないことで岡山の最終ラインは前に上げることが出来ず、青木の前には広大なスペースが生まれてしまいました。

名古屋のように人を出し入れしながら後方から丁寧に繋いでくるチームに対しては、「どうボールを誘導し、どのポイント、タイミングで奪いにかかるか」がチームとして意思統一されていないと、結果的に全ての対応が後手になることが分かるかと思います。勿論枚数を噛み合わせることでボールを奪いきれれば問題はありませんが、そこで奪えないとシステム上の穴を活用される。今回でいえば名古屋の両SBのエリア。ここに時間を与えてしまう、言い換えれば先手を取られてしまう。そうなると名古屋のようなチームは人の出し入れを頻繁に行いながらボールにも多くの選手が絡んでくる為、気づくと例として挙げたシーンのようにスペースや空いている人間を作られてしまう。闇雲に奪いに行く、人数だけ合わせておけば問題ない。それは名古屋が最も得意とする土俵で戦うことを意味します。まだまだビルドアップに難がある名古屋ですが、人対人の繰り返しであれば、前述した手法で相手のプレス網を回避していく力を既に持ち合わせています。また同じように戦って名古屋に打ち負かされたのが岐阜であり山口です。ちなみに次にご紹介するシーンは岐阜戦での名古屋の1点目(田口のゴール ※第一回のブログにて動画掲載)とほぼ同じ形です。

 寿人が中盤におりて和泉がそのスペースを活用するパターン

 

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この場面、中盤におりてくる寿人をフリーにしない為、岡山の右ストッパー片山が寿人のケアに動こうとします。右WBの石毛がチェックに行けなかったのは、おそらく大外で張る和泉をマークする為です。f:id:migiright8:20171106004659p:plain

これもまた同じ理由。岡山の第一線の守備が機能していない為、名古屋のビルドアップの技量が勝り全くボールが奪えません。矢印は岡山の選手が名古屋のどの選手をケアしているか表したものですが、枚数は揃っていてもボールが奪い取れない、取りどころがはっきりしない為厳しくチェックが出来ていません。マークする担当ごとでこれだけ名古屋の選手と距離が開いてしまうのは何故でしょうか。チームとしてどこを基準点として奪いに行くか意思統一がなされていない為、行けばいなされる、空いたスペースを使われるの悪循環を恐れて足が止まっていると考えられます。この場面、プレスがハマっていないと判断した岡山の片山は、寿人につくのを諦め自身の定位置にリトリートする判断をここでします。

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名古屋は当然ながらフリーの寿人を使います。

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結果的に片山は戻ることを選択しましたが、寿人の動きに喰いつき過ぎたことで戻る距離が長く、同時に寿人が絶妙のタイミングでパスをだしたこともあり定位置に戻りきれていません。斜線はそれで生まれたスペース(岡山最終ラインのギャップ)です。そこを和泉が抜け目なく狙ったシーンとなります。

名古屋は最終ラインで回しながら、岡山の守備陣形がどう動くかしっかり認知し、寿人に入れるタイミング、和泉に入れるタイミングを計っています。ですから最も良いタイミング、岡山目線でいえば最も狙われると困るタイミングで急所を突けているわけです。これはシーズン前半戦の名古屋の守備陣もそうだったのですが、守る際に第一線、第二線のラインが機能していないと(相手のボールホルダーにプレッシャーをかけれていない)、最終ラインに5枚並べようが6枚並べようが簡単に相手に背後を取られてしまう。しかもなんでもないロングボール1本で。それだけボールホルダーに対して前向きな状態で時間を与えてしまうと危険だということです。極力最終ラインが晒されるような場面は避けなければなりません。

さて、ここで改めて佐藤寿人についても触れておきたいと思います。

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自らドリブルやボールキープで違いを生み出せる選手ではない為、湘南や長崎戦のようにチームのリズムに狂いが生じるとゲームから消えてしまうのが玉に瑕ですが、チームがプレーモデルに沿って機能していれば実に効果的な動きをします。時にはFWのごとく。時には中盤におりて組み立てにも参加し、隙あらばチャンスメイクも出来る。そしてなにより献身的な守備。爆発力では逆サイドの青木に軍配が上がりますが、こなしているタスクの量、質、そこへのハードワークではまだまだ寿人の方が一枚も二枚も上手。日本を代表するゴールハンターは、この一年で見事なまでに風間サッカーに適合しました。岡山戦の1点目、チャンスメイクをしたのは他でもない佐藤寿人です。

シーズン前、中盤でパス回しに加わり、広島の青山のごとく前線にフィードをし、左サイドからチャンスメイクする佐藤寿人を誰が想像出来たか。また風間さんの守備は「個」それぞれがどれだけ自身の持ち場を相手に侵略されないかが基本ですから(異論は認めます)、そのうえでも献身的に守備が出来る寿人は風間さんに重宝されました。本来はトップで使うべき選手ですが、彼が持ち合わせるインテリジェンスが今のチームでは左サイドにハマった。まさに「偽9番」ならぬ「偽サイドハーフ」。例えばこの場面での動きは秀逸でした。

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青木が前進した段階で岡山のバイタルは完全に空いた状態。寿人が大外でパスを呼び込む動きをしています。おそらくこのタイミングで縦に抜ける動きを選択するとタイミングとしてオフサイド、あるいは相手のCBにスルーパスをカットされる可能性があると判断したのでしょう。岡山の最終ラインの視線が青木に向けられたことを確認した瞬間、あえて縦ではなく中のルートを選択。青木とのタイミングを計りなおす時間を作る、より相手にパスルートを防がれないコース取りをする、なにより相手ゴールにより近い中央のスペースを狙いに行く。まさにストライカーの動きでした。

彼はストライカーであり、サッカー小僧。それは練習の風景を見ていれば分かります。「サイドハーフはボールを沢山触れる。前を向いてボールを受けられる」。これは寿人自身のコメントです。相手DFを背にしてプレーするより、常に前を向き、ボールに関わりながら前方に空いたスペースがあれば見逃さず飛び込んでいく。風間さんが与えたそのポジションは、寿人にとって新境地だったのかもしれません。余談ですが、この試合の得点シーンを演出したトライアングルは佐藤寿人玉田圭司小林裕紀。なんて贅沢なトライアングルだったんでしょうか...。素晴らしい崩しでした。

少々脱線しました。さて最後、名古屋のビルドアップに時間と余裕を与えると質の高い攻撃が生まれることは次のシーンからも分かりますので見ていきます。

「遊び玉」を有効に活用する小林

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このシーン、ボールホルダーの小林は最終ラインの選手からボールを受けると、前方にいる青木と何度かパス交換をして岡山の選手達を名古屋の右サイドに集結させます。

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パス交換を終え青木にボールをはたいた小林は、あえて青木の後方にあるスペース目掛けて動き出しを始めます。小林をフリーにしない為、岡山の塚川が小林をケアしていることが丸印を見れば分かるかと思います。その動きによって、小林が元いた位置にはスペースが生まれる。これは最初にご紹介したシーンと同じ流れです。この後青木は実線のルートである最終ラインの櫛引までボールを戻します。

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櫛引は小林が空けたルートに玉田がおりてきていることを確認し、ここでも1本のパスで相手の中盤を通過することに成功。どの場面もそうですが、岡山の前からのプレスがハマっていない為、名古屋に意図的に状況を作られ、1本のパスで5枚分の選手が置き去りにされています。意図してボールを奪う術がなければ何枚人数をかけてもボールは奪えない。空けてはいけない中央のスペースも空けてしまう。ただ人数を噛み合わせるだけでなく、どう奪うかがチームに浸透していないと名古屋のような相手にはカモにされてしまうということです。ちなみに名古屋はこういった相手には滅法強いです。しっかりとチームのバランスを保ち、窮屈なプレーを強いられることがなければ、ボールを扱う技術はおそらくJ2の中ではトップクラスですから、相手のプレスなど簡単にいなしてしまう。それがこの試合の前半であり、以前の岐阜戦で生まれた6-2という試合です。

何故名古屋のようなチームに闇雲にプレスをかけてはいけないのか

これは先日発売された「技術解体新書 著:風間八宏 西部謙司」内に記載されていた内容ですが、とても興味深い内容だったので少し引用します。お題はドイツのボルシアドルトムントが得意とする「ゲーゲン・プレッシング」について。

ドルトムントがなぜ失敗したかというと、相手の陣形が崩れていないのに前に突っ込んでいってボールを奪おうとしたから。時速100キロで奪いにいって100キロで返されたら実質200キロのカウンターになるじゃないですか。相手が下手だったらとれますよ。でも本当に上手い相手だったら無謀にプレスしてもとれるわけがない。 

今回のブログは決してゲーゲン・プレッシングについて書いているわけではない為、あえて説明は割愛しますしこれ以上深堀はしません。では何故このコメントをあえて引用したか。今回のブログの話と似ているなと思ったからです。要は相手の陣形が崩れていない状況で、闇雲にプレスに行っても上手い相手だったらとれるわけがない。むしろ守備の陣形が崩れて事態を悪化させるだけです。今思えば岐阜戦の前半も最初は岐阜の前からのプレスに名古屋はタジタジでした。ただそれは岐阜に攻撃でも先手を取られ、名古屋のストロングポイントである左サイドのシャビエルの位置を岐阜のパウロ-大本ラインに徹底的に狙われたことで守備の陣形が崩れていたことも影響はあったかと思います。寿人とポジションチェンジして彼がしっかり左サイドのスペースを埋めて以降は大崩れすることもなく、ビルドアップも整った状態からスタート出来ていましたから。そこからはこの岡山戦同様、岐阜の「枚数と人」を意識したプレッシングを簡単にいなして中央から物凄いスピードで前にボールを運んでいました。これまであえて触れていませんでしたが、こういった状況で誰にボールが渡ると最も脅威となるのか。私は青木だと考えます。彼が今回の例に挙げたような相手のボランチ周辺(要は中央のエリア)でボールを受け前を向くと、縦への推進力、スピード、ドリブルのテクニックがずば抜けていますから、名古屋とすれば一気にチャンスが生まれるし相手最終ラインからするとズルズルと後退してしまう。岡山はこのスペースを少々与えすぎました。

また名古屋というチームの特性についても少し触れておきます。これは対戦相手だったファジアーノ岡山サポーターのゼロファジさんと押谷について話していた際のツイートです。

前回のブログでロビンと杉森の動きを紹介しましたが、このツイートには風間さんの理想像が見え隠れしている気がします。

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押谷もシーズン中なかなか出番がありませんでしたが、練習でボランチとして鍛えられていたのは、「プレーの連続性に課題がある」との風間さんの評価があったからでした。ただ待つのではなく、積極的に相手に仕掛ける動きを繰り返すことで相手のマークを外していく。おそらくですが、この岡山戦の前半のようなサッカーをどのレベルの相手でも出来るようにしていくのが風間さんの究極の理想なのではないでしょうか。

「うちにはポストプレーはないから」

こんなコメントを風間さんがしたそうですが、言葉の真意はともかく、伝えたい意図は理解出来ます。だからこそ「うちのサッカーは慣れてこればポジションは関係なくなるから」なのでしょう。その先頭を走るのが「チームの目」と評された田口泰士小林裕紀であり、ベテランながらもこれを体現する玉田圭司、そして佐藤寿人です。

ボールを「待つ」のでなく、ボールに「関与」していく。受けて、だして、外して...それを全員が連続的に繰り返すことで相手のプレスを無効化していく。それが目指すべき理想像です。

今回もいろいろと書いてしまいましたが、この試合で最も話題をさらったのが前半終了後のこの画像でした。せっかくなので記念に残しておきます。ではまた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止める蹴る」の現在地~名古屋グランパスの今、そして風間八宏の理論~

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最近出版された「技術解体新書 著:風間八宏西部謙司」。まず真っ先に「守備」の項目を読み漁ったのは私だけではないでしょう...。

さて、今回はJ1昇格に向けて残り3試合となった名古屋グランパスの現在地について。風間八宏本に触発されたままのテンションで書きます。名古屋は最近、今後の試金石となりえる強豪2チームと対戦しました。湘南、そして長崎。通常であれば戦術論を盛り沢山主観オンリーで書きそうな流れですが、風間さんのチームにそれは不要。あまり意味がない。何故ならそれを最優先で1年間やってきているわけではないからです。おそらく風間体制における1年目はこれで終わるんでしょう。基礎、基礎、基礎。ただやっていることにブレがないので、継続的に見ていくにはこれほど面白いチームはないというのもまた事実です。何が出来て何が出来ていないのか。どんな相手に通用し、また通用しないのか。さて、この2試合を見て改めて痛感した点を私なりに書いていきます。

「良い攻撃があってこそ良い守備が出来る」

風間さんの哲学はこれです。戦術論で守備がどうだと語っていても仕方がない。良い攻撃、それは「相手の陣形を崩せているか」と同義語。良い守備をするにはこの大前提が必要なわけですから、守備ありきで語っても仕方がありません。思い出してみるとこの1年間、トヨスポの練習のほぼ大半の時間をこの攻撃に充てているわけですから、このあたりも風間さんにブレはありません(異論があるのは百も承知)。ただ私は風間さんのチームビルディングで共感する点も多々あります。特に共感するのはまず何よりゴール前でのプレーの向上に取り組んでいる点。何のためにパスを回すのか、それは勿論ゴールをするためです。パス回しは目的ではなく手段。目的がはっきりしない中で手段の向上に励んでも仕方がない。まず目的がはっきりしていて、そこから逆算して考えていくその手法は素晴らしいと思います。ではゴール前のプレーのみ見ていればいいか。私はそうは思いません。何故ならゴール前に「ボールを運ぶ」必要があるからです。

名古屋のビルドアップvs湘南・長崎のプレッシング

湘南、長崎とあたる前、名古屋は東京V、FC岐阜レノファ山口に圧倒的な攻撃力を見せつけました。真っ向勝負を臨んできてくれる相手、守備組織に不安を抱える相手。具体的に言えばスペースをある程度名古屋に提供してくれるチーム相手には滅法強い。それが今の名古屋グランパスです。では湘南や長崎はどうだったか。結論から述べれば、彼らは先ほど挙げた3チームより強固な守備を誇るチームでした。特に「前からのプレッシング」「自由自在の可変スタイル」「リトリートした際のブロック形成」素晴らしく組織だったこの2チームと対戦した際、名古屋が最も苦労したのが前述した「ボールを前に運ぶ」ことです。

湘南戦で起きたワンプレーから紐解く名古屋の課題

さて、一応湘南のスターティングメンバーの確認です。

f:id:migiright8:20171029004746p:plainJ2屈指の3-4-2-1。ただし前から相手にプレッシャーをかける際は4-3-3に変わり、リトリートすれば5-4-1に変わる可変スタイルです。この戦術武装したチームが個の技術を磨き上げる名古屋に立ちはだかろうとしたわけです。前述したように今の名古屋はスペースさえ作れればJ2屈指の攻撃力を誇りますので、相手とすれば彼らの自由を奪いたい。シャビエルの加入もあり引いた相手を崩す技術も磨かれてきていますから、名古屋の出鼻を挫くにはやはりビルドアップを潰す必要があるわけです。

湘南のプレッシングの仕組み

 

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実線が名古屋のボールの流れ(番号が流れた順)、点線が湘南のプレスの方向です。名古屋の最終ライン3枚に対し湘南も前3枚で名古屋のボールを外に外に誘導していきますが、そこまで名古屋の最終ラインに対して深追いはしません。あくまで誘導するためのポジショニングや体の向きを意識しつつ、ボールの取りどころは別に用意しています。それが④のタイミングです。徐々に徐々に逃げ道を消していき、唯一の選択肢である④の田口へのルートでボールが動いた際に田口に対して4枚で囲える状態を作る。ポイントは丸で囲った山田のポジショニングです。最終ラインを深追いせず、方向づけだけしたらプレスバックして名古屋の中央を潰しに行けるポジショニングをする。あとは奪って得意のショートカウンターに移行するだけです。余談ですが湘南は徹底的に名古屋の左サイド(和泉)の背後を狙っていました。プレス位置が若干低いのも、奪ってからの圧倒的な走力に自信があるからこそです。勿論前からハメれる場面では前から潰しにいく。状態が悪ければリトリートして5-4-1を形成する。3-4-2-1のセオリー通り可変し名古屋に対応しました。せっかくなので長崎も。f:id:migiright8:20171029012524p:plain

見て分かる通り湘南よりもプレスの開始位置が高いのが特徴です。実線のワシントンから和泉へのパスに至るまでの流れがこの画像では分からない為、長崎の選手が名古屋のどの選手を掴まえに行っていたかを〇で囲っています。外へ追い込むチーム戦術という点で湘南との違いはありませんが、長崎の方がより高い位置で、尚且つ明確に対面する相手を掴まえに行く。ですので前3枚の運動量、プレス強度は相当なもので、方向づけはしながらも奪い取れるなら局面ごとで奪い取ってやろうという点が湘南との大きな違いです。

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これは先ほどの画像の後展開された場面です。長崎の3番飯尾が和泉にプレスをかけたタイミングで長崎のシステムは4-3-3に可変していますが、寿人にも右SBに可変した13番乾がしっかり前にでて潰しにかかる。長崎は高い位置でボールを奪い両シャドーの幸野と澤田のスピードで一気に名古屋ゴールへ向かい、ゴール前で圧倒的な存在感を誇るファンマが仕事が出来るよう、手数をかけず、高い位置で陣形を保てるプレスにこだわりました。チームの特色もさることながら、「誰がプレーしているか」個の特性をしっかり加味したうえで名古屋に対して戦略を立てています。

この場面を紐解く

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この画像は先程の湘南戦の場面の直前に起きていたことです。まずワシントン。ムルジャのプレスを警戒しボールを後ろ側に「運ぶ」選択をしていますが、このトラップで結果的に自身で選択肢を削っています。ボールを正確に「止める」ことを選んでいれば田口へのパスルート(縦)が存在しましたが、プレスを警戒しムルジャから逃げるように運んだことでそのルートは消え、同時にムルジャに寄せる時間を与えています。またこの後の櫛引へのパスも彼が前向きで受けれる右足側でなく、後ろ向きで受けざるを得ない左足側に送り櫛引の選択肢も奪うことになります。見て分かる通りワシントンがパスを出す前、櫛引の前方には縦につけるだけのスペースが存在しました。こういった細かい部分にもワシントンが相手のプレッシャーに動揺していることが窺えます。

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その後の櫛引です。窮屈な態勢でボールを受けたため視野の確保が出来ておらず、目線がボールにいっていることがこの画像からも分かります。唯一確認出来るポジションにいた宮原に預けますが、実際には宮原にも相手の左WB(29番杉岡)がプレスをかけに来ており、その後の状況は前述した通りの展開です。

名古屋のビルドアップはGKを組み込むことがほぼないため(武田になってから増えましたが)、相手が同数の3枚であててくると一つのミスで簡単にサイドに追い込まれてしまう実態がここにあります。個人的にはこの場面も櫛引が思い通りにボールコントロール出来ていないのであれば一度武田に戻すのも手かと思いますが、どうしても繋ぐ意識が強いため窮屈な選択をしてしまう。「そこまで求めるのは酷だ」と思われる方もいるかもしれませんし個人批判をするつもりもありません。ただここで満足してしまったらこれ以上は勿論ないわけで、チームが取り組んでいること、またチームのプレーモデルを考えれば本音はここまで求めたい。ここの水準が上がってこなければ上のカテゴリーに上がっても間違いなく苦労すると思います。サイドで縦に行きたいのではなく、そこのエリアで進むしか選択肢がなく意図的にボールの流れを作られている。その原因は相手の戦略だけではなく、自分たち自身にも課題はあるのです。

風間さんのサッカーは「繋ぐ」ことが目的ではありません。正確なトラップ、パスを駆使して「相手を崩しゴールを狙う」のが目的。では何故そこに正確な技術が必要なのか。それは「相手を見るため」です。相手を見るにはどれだけプレッシャーをかけられてもそれに屈することのない「視野」が必要になる。その視野を作るために正確な技術が必要なのです。正確にボールが止められればその分相手をよく観察できる。観察できれば相手の動き(風間用語でいえば「矢印」)が分かり、その逆を取れる。これは受け手も同様です。しっかり止めてくれればいつボールがでてくるかタイミングが分かる。同じように相手の逆を取ることが出来る。これが風間さんがいう「目が揃う」です。

何故このワンプレーを切り取ったか。この2試合の私の感想ですが、このレベルの強度で前からくるチームにまだまだまともにビルドアップが出来ていない。勿論彼ら二人だけの問題ではありませんが、同時に彼らが攻撃の出発点なわけです。風間さんがこういった志向のもとチーム作り(プレーモデル)をしている以上、彼らだけボールを闇雲に蹴るわけにもいきません。だからこそ風間さんのチームはCBの人選が最も苦労するのです。守備がどんな理論のもと作られているかは是非前述の西部さんの本を読んでいただきたいですが、それと同時にこのチームのCBにはこのビルドアップの技術が絶対に必要になる。風間さんは「型」というものをあえて作らない監督なので、余計に逃げ道がありません。頼れるのは己の技術のみ、です。湘南戦は後半からあえてシャビエルを左において、サイドを起点に人数をかけてボールを前進する形に変え逆転に繋げました。長崎戦はビルドアップの際小林の位置を1列上げ、玉田、田口も含めて中央に3枚配置して数的優位の形を作りつつ前進しようとした。風間さんなりに現状を受け止め、「勝たせる」采配をしているなと思いました。その意味でもシャビエルの不在はとてつもなく大きい。ビルドアップの場面での技術、ゲームを作る力。相手ゴール前での存在感。とにかく圧倒的です。そういった選手を欠くことは、このように相手が強くなればなるほど痛い。何故ならその「個」の力に頼れないからです。脱線しますが強化指定の秋山があれだけ重宝されたのもこのビルドアップへの関わり方、止めて蹴る、視野を確保する技術が圧倒的に上手かったからだと思っています。私がこの2試合を見ていて最も気になった点がこのビルドアップにおける基本的な技術の部分でした。

余談にはなりますが宮原は守備の安定感に加えボールを扱う技術がシーズン開幕時に比べ格段に上がりましたね。タッチミスがほとんどない。置きたい場所にボールが置けるのでちょっとのことでは動揺しません。相手をよく見てプレーを選択出来ています。来シーズンの去就が不透明ではありますが、このまま風間式に2~3年漬けておけば十分代表も狙える素材だと個人的に感じています。縦にも運べるようになりましたし、慣れました右SB。和泉は攻撃特化型に進化していきそうですが、なんにせよ名古屋の両SBは魅力的です。

次にこの試合を助けてくれた選手にも触れさせてください。

「風間理論など全く必要としない規格外の男、ロビンシモビッチ」

名古屋はこの絶体絶命の状況だった湘南戦、また先日の群馬戦でも彼の圧倒的な「個」に助けられてきました。でも彼は見ているととても面白い選手です。いや、あくまで風間さんの下でやっているという前提で見たとき面白い選手だなと。

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ロビンの特徴が詰まったシーンです。玉田が中央にいるロビンにあて、走り込む田口にダイレクトで落としたシーン。彼はこのエリアの中、長崎の選手が5人で密集を作りスペースがほぼない状況で平然とボールを受けられる能力があります。これだけのプレッシャーの中で。流石にこのエリアで持たれると相手がどれだけ警戒するかはこの実線(相手の目線)に注目すれば一目瞭然。彼はそもそも動かない。自分のポイントにくると判断したら相手を「外す」のではなく相手を腕で「止める」。これが彼にとってのボールを呼び込む合図です。自身の懐に収めれば絶対に取られない自信がある。だから彼にとってはこれがマウントポジション。これが活きたのが先日の群馬戦でした。

規格外です。「外す動きなどいらない」風間理論に逆行するこの圧倒的なプレースタイル。特に彼は腰から下にボールを入れてやると芸術品のような柔らかいタッチでボールを落とします。懐が深く、それでいて足元の技術が信じられないほど繊細。勿論高さという武器もある。ただ個人的に風間さんが描くプレーモデルから考えると、このポストになる際のプレーの質こそ最大の武器です。私は風間さんが名古屋に来て監督として手に入れた最大の武器は彼にこそあると思っています。何故なら風間理論で崩せなくても、相手を押し込むところまでもっていけば最終兵器として彼を使ってしまえばいいわけですから。その証拠として、風間さんはロビンがベンチの際、相手に追いつかれたりリードされた場面でほぼ間髪入れず彼の投入に踏み切ります。群馬戦も追いつかれた際ベンチを見ていましたが即決でした。それだけ押し込んだ相手、守りに入ろうとした相手にとって彼は脅威なわけです。

ただし彼が常にスタメンではない理由も存在すると思います。まずは守備。個人の力量勝負な風間さんですから、彼のファーストディフェンス能力、運動量、機動力はどうしても目につきます。例えば長崎戦のファンマと比べるとその違いは明らかです。

あと個人的にこれが最も気にかかる部分ですが、彼は前述したあのボールの呼び込み方をどのエリアでも同じように行うため、例えば湘南や長崎のように相手が前からプレスをかけている展開の際にその矢印(相手からすると前向き)の逆を取れない。要は相手の最終ラインに仕掛ける動きが足りない。なのでそこへのパスコースを塞がれると有効に彼を活用出来ない場面が度々見受けられます。だからこそ相手を押し込むために後方からのビルドアップがより重要になるわけですが、ここで躓くとボールが前進しない為、彼の位置が低い状態のままパスの受け方もあいまって攻撃が詰まる現象が起こります。彼は相手ゴール前でこそ活きる選手。だからこそ彼を使うには相手を押し込むのが絶対条件というのが私の考えです。

違いを見せた杉森

逆に群馬戦では杉森がきらりと光るプレーを見せました。

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この場面、宮原にボールが入る前のタイミングで杉森は相手の白で囲ったCBに対し宮原の前のスペースを使う動きで仕掛けを始めます。よく見ていただければわかりますが、杉森はこの動きの最中、相手にこの動きを抑えるための矢印がでたことに気づきその場で急停止しています。

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その後の流れです。急停止したことで相手CBと入れ替わった杉森は当初のサイドへのルートではなく、よりゴールに直線的な縦のルートに進路を変えることで相手の背中を取ることに成功。この後玉田に決定的な折り返しをしますが玉田が一歩届かず、という場面でした。

相手の最終ラインに仕掛けるとはこういった動きかと思います。おそらくロビンではこの動きは出来ない。ですのでどうしても相手の視野内でのプレーを強いられますから、相手の最終ラインを下げることもそのプレーだけでは難しい。このあたりのチームの特性、相手との噛み合わせでロビンを使うか否か、いまだに風間さんは試行錯誤しているのではないか、そんな印象を私自身は受けています。使う場面(相手を押し込めている展開)が限定されるのではないかと...。

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5レーン4レイヤー理論ともいいますが、特に横に4つのゾーンで区切った際の色掛けの2レーン(分かりやすいよう少し色掛け部分を離して表示)。相手のFW-MF間のライン、相手のMF-DF間のライン。このエリアで何が出来るか。風間さんはこの点を重視しています。ここが攻略できないとボールは前進しないと。この各エリアでどう受けてボールを出し入れするか。この点が風間理論では特に重要になるかと思います。

残り3試合、ビルドアップが上手くいっているか、止める蹴るは正確に出来ているか、相手の守備ラインに効果的に仕掛けられているか、この点を中心に見ていくとまた違う面白さがあるかもしれません。特にビルドアップ。「良いビルドアップなくして良い攻撃は生まれない」です。ではまた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボールを握ろうとして陥った負のサイクル~2017/10/14 FC岐阜vs徳島ヴォルティス~

「ビルドアップの始まり方が良ければ良いプレーに行きつくことが出来るが、始まり方が悪ければゴール前で何の選択肢も持つことは出来ない」

これは現在マンチェスターシティで監督を務めるペップグアルディオラの言葉です。プレーのバランスをボールを支配することで保とうとするチームにとって、攻撃がスタートするビルドアップの質が全てを決めるといっても過言ではありません。現在J2でも同様にボールを支配することに重点を置いたチームが存在します。それがFC岐阜です。圧倒的なボール支配率とパス本数、「ボールを握る」という点において現在J2で抜きんでたチームがこのFC岐阜です。私は10/14(土)長良川までこのFC岐阜徳島ヴォルティスのゲームを観戦に行きました。そこで見たものは私が想像していたものとは違う光景、「ボールを握ろうとするチームに全くボールを握らせない」徳島の圧倒的なサッカーでした。ただここにはリカルドロドリゲスが岐阜に仕掛けた巧妙な罠、心理戦がありました。試合後妙な興奮とその場に立ち会えた幸福感で不思議な気持ちになったほどです。この感覚、現地の生の声を届けた方が早いでしょうか(私のツイートですが)。

私はスーパーシートというメインスタンド中央の席で観戦したのですが(それでも三千円弱←安っ)、周りの岐阜サポの皆さんのリアクションの変化が印象的でした。上手くいかない岐阜の選手を叱責する声がだんだんと「徳島...強いな」に変わり、終盤こそ岐阜が盛り返したものの、最終的には徳島の強さに完敗という雰囲気でした。

 この試合を振り返るにあたり、まず試合後の大木監督のコメントを読んでみます。後述しますが、結果的にこのコメントがこの試合における全てを物語っていたかと思います。

ウチが悪かったというより徳島はかなり積極的に来ました。悪かったところはその徳島に受け身になってしまったこと。でも受けざるを得なかった部分もあります。なぜなら相手はマンツーマン気味のディフェンスだった。ウチの3トップに対して3人のディフェンスで守る。ウチはそこを上手く突けばいいのですがなかなか突けない。なぜ突けないのかといえば後ろも空かなかった。オールプレスのような形です。その中で、相手は守備から入って(ボールを)奪って攻撃のパターン。ウチはボールを持とうとして相手に奪われて守備に回ってしまう。サイクルが非常に悪かった。フリーになれない、ボールを前に出せないという部分で、常に後手を踏んでしまいました。 (※J.LEAGUE.jpより引用)

端的に言えば自分達のやりたいことを徹底的に潰されたということです。では岐阜のやりたいことは何だったのか。それが前述した「ボールを握り主体的にゲームを進める」です。徳島は岐阜と対戦するにあたり、彼らの強みはボールを握ることで成立するものであると解釈したのでしょう。徳島のリカルドロドリゲス監督は、この点について試合前のインタビューで明確に「岐阜にボールを握らせない為に徹底的に練習してきた」と発言しています。

さて今回私がブログで取り上げたい内容はまさにこの部分、「いかにして徳島は岐阜にボールを握らせなかったか」です。徳島については最近話題のポジショナルプレーという概念においても多くを語れるチームかと思いますが、今回は彼らが岐阜のサッカーにどう対応したのか、この点のみ焦点を当てたいと思います。何故ならこの試合における「岐阜にボールを握らせない為の戦略」は、彼らと同じことをして力で上回ったのではなく、彼らの出鼻を挫くことで自分達のペースに持ち込んだものだったからです。この試合で取り上げるべきポイントは「攻撃」ではなく「攻撃のための守備」です。同時にこれから書く内容に対する岐阜の対抗策はなかったのか、これに関しては既にフジサルさん(@fujisal18)がブログ内で取り上げて下さっていますのでそちらを御参照下さい。両軸でこの試合を見ていただくのもより面白さに繋がるかもしれません。

ではこの試合のスターティングメンバーです。

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ホームの岐阜スタメン

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アウェー徳島のスタメン

基本陣形を向き合わせてみます。

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徳島の島屋のポジション解釈が難しいところですがそこはとりあえず御容赦下さい。さて、ここから書く内容は基本的にボール保持側は常に岐阜です。それに対する徳島の対応を見ていく上で切り取る部分は3パターン。

  1. 岐阜のビルドアップのスタート地点
  2. ピッチ中央付近
  3. 徳島のゴール前

要はピッチを横から見て三分割して見た際に、どのエリアでボールが展開されているかで徳島の対応が変化していきます。それでは順にみていきます。

 

岐阜のビルドアップに対する徳島の戦術

このゾーンでの徳島の戦術がこの試合におけるベースの部分だったかと思います。私も徳島が岐阜のビルドアップにどう対抗するのかまず注目していました。結論から述べると「システムを完全にかみ合わせてきた」。大木さんの言葉を借りれば「オールプレス」。

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岐阜側の配置に完全にかみ合わせているのが分かるかと思います。ここで徳島側がリスクとして負っていた箇所、それは岐阜の3トップに対して3バックで対応すること。要は後方を数的同数にしてでも前から取りに行くことを選択しているわけです。この徳島のやり方に岐阜は防戦一方になります。またこの戦術をやりきることで生まれたメリットが3つあります。

  1. 全選手が「前へ、岐阜陣内でボールを奪い取る」を徹底したことで、奪った後岐阜陣内の高い位置に徳島の選手がバランスよく配置され、ボールホルダーに多数の選択肢が生まれる状況が出来上がった(結果として攻守ともに岐阜陣内を制圧)
  2. 岐阜の最終ラインから破壊にかかることで、ビルドアップのフォローに入ろうとする岐阜の両WGパウロと古橋の位置が極端に下がり、構造上リスクと割り切っていたであろう徳島の最終ラインの負担を軽減(前向きでの守備体制)
  3. 結果として岐阜が闇雲に前線へ蹴ってもトップの風間に対し3枚で対応が可能。尚且つカウンターの起点になりうる中央のレーンも両ストッパーで対応が可能に。
1 岐阜陣内でボールを奪い取ることを徹底

これは岐阜のビルドアップ時の画像です。

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前述した通り、オールプレスのような形で各選手が対面の選手をケアしていることが分かるかと思います。この場面では分かりづらいですが、ここから岐阜のビルドアップを追い込んでいきながら、徳島の陣形が段々と岐阜陣内の高い位置に侵入していきます。今回は徳島のプレッシングに焦点を当てた内容の為考察は割愛しますが、結果的にボールを奪うと各選手が間延びせずいい距離感、尚且つ岐阜ゴール付近でのプレーになるシーンがほとんどで、ボールを奪うことが相手ゴールに迫ることに直結するような構造が生まれていました。またこのときの最終ラインの様子も確認します。

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あえて徳島が押し込んでいない状況を切り取っていますが、この通り相手の3トップに対して3バックの数的同数で対応をします。このシーンは岐阜の両WGが高い位置を取れている分、岐阜の状況としてはまだ良い方です。もう一枚プレスをかけている際の状況を見ていきます。

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1枚目と同様です。ボールホルダーの選択肢になりえる受け手の選手に全て圧力がかかっています。岐阜目線でいえば各選手のポジション取りが気になりますね。近すぎるし遠すぎる。上手くスペースを活用できていません。このあたりはフジサルさんのブログを御参考くださることをお勧め致します。

2 岐阜の両WGの位置取り
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この画像は徳島が岐阜陣内に押し込みボールを奪った後です。見て分かる通りパウロと古橋の位置が極端に下がってしまうため、徳島の3バックに対する岐阜側からのプレッシャーがほぼ存在しません。図にしてみます。

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このように両WGの位置が下がることで徳島の両ストッパー(藤原、キム)にかかる負担が軽減されており、同時に彼らの前方に生まれたスペースを有効活用出来る状態になっています。ですので前が詰まるときはボールサイド側のストッパーが上がっていくことで攻撃の選択肢が更に増えるというシーンが度々見られました。また余談にはなりますが、岐阜の右SBの大本はボールに喰いつきすぎるきらいがあり、この試合でも何度も自身の担当エリアからいなくなってしまうケースが起きていました。これは名古屋戦でも見られたもので、名古屋の1点目(田口のミドル)はこの癖を見抜いた佐藤寿人が中盤まで大本を引っ張り上げ、空いたスペースに和泉がパウロより先に侵入することで生まれたゴールでした。個人的にここは大木監督の指示なのか、修正されていないだけなのか疑問です。パウロの守備負担が大きく、結果として彼のポジションを下げる原因にもなっていますから。

3 孤立した風間

2から繋がる流れになりますが、上にある図の通り、風間にボールを入れようにも彼と残りの10人の距離感が悪く、徳島の3バックに一人で向かわざるを得ない状況が出来上がっていました。これは徳島がボールを保持すればするほど顕著になった部分で、彼がこの試合ほぼ何も仕事が出来ずに終わってしまったのはここに起因するかと思います。もともとフィジカルで勝負するタイプではないですから、その意味でも彼にとってこの状況は酷でした。勿論リカルドロドリゲスはここまで想定した上でこの戦略をとっていたものと思われます。ダゾーンでも試合を確認しましたが、プレーがきれる度に何度も首を傾げる風間の姿が印象的でした。それはそうです。本来彼が求められている役割とは全く異なるタスクを課せられることになってしまったのですから。ボールを保持したいチームは背後にいる相手のセンターフォワードをコントロールしなければならない。まさにこれを徳島は実践していました。

ハーフウェーライン付近でのサイドに追い込む守備

続いてサイドに追い込まれながらも岐阜がハーフウェーライン付近までボールを運んだ際の徳島の守備陣形の変化についてです。

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この場面も図で見ていきます。

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まず忘れていけないのは岐阜側の状況です。最終ラインからクリーンなボールが展開されてきたケースはほぼないに等しく、ボールを保持していても局面での主導権は徳島が握っています。その意味で冒頭のペップグアルディオラの言葉は重みがありますね。ボールを保持することでバランスを保ちたいならビルドアップがなにより重要だということです。ただまわすのではなく、意図をもってまわせなければいい攻撃は生まれません。

では話を画像のシーンに戻します。徳島はボールサイドに追い込みをかけていきます。矢印は各選手が元々の持場(担当するエリア)からどう動いていくかを表したものです。この場面ですと岐阜の左SB福村に対して同サイドの馬渡がプレスに行く。それに連動する形で各選手が同サイドで囲い込みにかかります。また馬渡が前にでて空いた背後のスペースには、3バックの三人がスライドする形で対応。セオリー通り、反対の左サイドのスペースは左WBの内田が最終ラインにスライドすることで埋めていきます。このエリアでボールをサイドに追い込んでいく際は3バックが4バックに変化していき、同時にボールサイドに網をかけることで数的優位を作っていく。またこの場面で注目したいのは杉本と渡のポジショニングです。岩尾と前川がボールサイドにプレッシャーをかけることで空いたバイタルのスペースを杉本がきっちりケアしています。同時に彼が引くことで空いてしまった中盤のスペースに渡がしっかりリトリートすることで穴を塞ぎ、選手間の距離も保ちます。

これも余談にはなりますが、徳島は攻撃の局面でも守備の局面でも、誰かが動けば必ず他の誰かがそのポジションを埋めに入ります。それはどの局面でも絶えず行われる原則とも言えます。ですのでボールを保持している場面でも誰かがオーバーラップすれば他の誰かが必ずその空いたスペースを埋めますし、守備の局面でも誰かが思い切ってプレッシャーをかけに持ち場を離れれば、他の誰かがその空いた穴を必ず塞ぐ。この約束事を徹底する各選手の戦術理解とそれを可能にするハードワークは芸術品のようです。どの場面を切り取っても自分達の距離感、コンパクトな陣形を保ってプレーを進めています。

徳島ゴール前での守備(リトリート時)

最後は岐阜が徳島ゴール付近まで侵入した際の徳島の守備を見ていきます。今までは「奪いに行く」守備でしたが、「受ける」際の守備はどうか。

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同様に図にしてみます。

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どの場面を見ても徳島は選手間の距離(バランス)がとにかく良い。この場面を見ても、岐阜のボールホルダーが持つ選択肢は全て徳島の網が張られた状態で、岐阜は自陣に戻される勢いです。「受ける守備」と書きましたが、リトリートした際も各選手達は奪いに行っています。さて、リトリートした際の話ですが徳島は両WBが下がり5バックを形成します。ここもセオリー通りの変化と言えます。ただしこの試合で徳島が基本陣形とした3-5-2は、リトリート時の5-3-2もしっかりと岐阜の特徴を考慮して考えられたものだと分かります。岐阜の得意な攻撃パターンを確認する為、あえて名古屋戦の1点目を振り返ります。

岐阜の崩しの特徴は「密集」と「幅」です。中盤の3枚に風間を加えた4枚で中央に数的優位の状況を作り、そこでのパス交換から大外に張るパウロに展開。彼がボールの位置に関わらず外に張るのは、相手の守備陣形を広げる狙いがあります。例えば名古屋のように相手が4バックであれば、パウロにボールが入った際に中のレーン、ないしは更に大外から大本がオーバーラップすることでサイドでの崩しを狙います。この得点シーンは顕著な例で、パウロが外に張って出来た一列中のレーン(ハーフスペース)を大本が使うことで対面の和泉に対して数的優位を作りつつ、同時に決定的な場面を演出することに成功しています。これが岐阜の攻撃の特徴です。左サイドの古橋や福村が個の質(ドリブルやクロス)を特徴としているのに対し、右サイドのパウロと大本は左利きで中にも切り込めるパウロとその周辺を圧倒的な走力で追い越せる大本のコンビネーションを軸としています。よって崩しの武器としているのはこの右サイドです。

徳島はこの幅を埋めるために5枚で対応し、ボランチ脇に岐阜の選手が受けに行けば、この図のようにストッパーが思い切って前に潰しに行くことで不利な状況を回避していました。レーンをしっかり埋めたうえで人もしっかりと掴まえる。中盤に関しても岐阜の3センターに対して3枚同数を当ることで対応をしていました。あとは前線の渡と島屋の存在。彼らは前線からプレッシングをかける場面だけに留まらず、リトリートした場面でもきっちり戻ってボジション取りを行います。この場面を見ても徳島の最終ラインから前線までの距離は非常にコンパクトです。

徳島の強さとは

さて、各エリアにおける徳島の守備戦術をみてきましたがいかがでしたでしょうか。岐阜にボールを握らせない為にリカルドロドリゲスがとった戦略は非常に興味深いものでした。

  • 自分達がボールを握って主導権を取るのではなく、まず相手の最終ラインに持たせオールプレスをかけることで高い位置でボールを奪い主導権を奪い取る→後ろから攻撃を始めるのでなく前から守備を始めることで主導権と陣地を奪う

本来徳島のプレーモデルも岐阜同様しっかりボールを保持して全員で相手ゴールに迫っていくものだと思います。その中であえてこの戦略を取った理由として個人的に考えられるのが、自分達発信でプレーを開始することで起きる岐阜のプレッシングを嫌ったのでは?という点。要はこの試合で徳島がやったことを岐阜にやられるというパターン。皮肉な話ですが、岐阜は名古屋に対して同じことをやったんですよね。主導権を握る為にまず名古屋の最終ラインに徹底的にプレッシャーをかけ自分達のペースに持ち込みました。岐阜と対峙するにあたり、これを自分達が岐阜にやった方が得策だとリカルドロドリゲスが考えていたとしても不思議ではありません。

ボールを握ろうとする相手には同じ戦法で力比べするのではなく、相手のボールの出所からオールプレスで潰していくことで、結果的に相手陣内を制圧し、本来の自分達のプレーモデル(相手陣地でプレーを展開する)に持ち込む。なんとも巧妙な罠です。その理由からか、徳島はこの試合のビルドアップにおいて割とロングボールを多用しています。無理に岐阜のハイプレスに付き合うのではなく、あえて中盤を飛ばすことでそこからプレーを始めるシーンが目立ちました。これは今まで述べた戦略があってこその選択です。

ただしこれらは基本的な考え方にすぎません。何故ならこれを行うのは選手一人一人だからです。徳島を見ていて驚くのは、与えられた戦術を徹底的に行うハードワークと、切れ目なく形を変化させることが出来る戦術理解度の高さです。前述したように各選手が常に流動的にポジションチェンジしながら最適なバランスを作り続けるこの戦術理解度には目を見張るものがあります。常に最適なバランスを保ちながらチーム全体で前進しゴールを狙い続ける。これは守備も同様です。共通の戦術理解のもと、チャレンジ&カバーを試合を通して続ける。結局ゲームプラン通りに進められるかどうかはそれを行う選手達次第なのです。その上で徳島がやっていることは「攻撃のための守備」「守備のための攻撃」であり、「攻撃」「守備」ではありません。攻撃と守備は常に表裏一体、それを可能にするポジションプレー(ポジショナルプレー)のベースがあるからこそ、この戦略が成立したと言えます。ちなみにこれは試合後の徳島の選手たちです。

この光景には驚きました。負けたチームより勝ったチームの選手の方が倒れているのですから(笑)。それだけ出しきっていることの証です。また少し時系列が前後しますが、こちらは前半終了後の大木監督のインタビューです。

通常であればまず自分たちの印象を語るものですが、相手の強さが最初に口にでて「しまった」。珍しい場面ですが、この試合を語る上でも印象的な場面でした。

最後にこの試合のスタッツです。

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現地で見ていたものとしては、ボール支配率で岐阜が上回っていたことには正直驚きでした。見ていて全くその感覚はなかったので。終盤徳島も少し運動量が落ちて岐阜も盛り返していたので、その部分が数値の改善に繋がったのかもしれません。逆に言えば徳島の弱点らしい弱点はこのサッカーを年間を通してどう維持していくか、またスタッツにもでている通り決定力です。シュート23本に対して相手のミスとセットプレーからの2点は寂しいですね。決めなければならない場面が何度もあったことを考えると、ここはやはり大きな課題かと思います。

それにしても「ボールを握らせないことを徹底して練習してきた」とは深い言葉です。何故なら彼らが本当にやりたかったことは「どうすれば自分達がボールを握り試合を支配出来るか」なのですから。ボールを握らせない、この言葉の裏側には「どうすれば攻守で岐阜を圧倒出来るか」そのエッセンスが隠されていたのです。決して岐阜のポゼッションを破壊することが目的でやっていたわけではありません。繰り返しになりますが、本当の目的は「自分達がボールを握る」その一点に尽きます。その為の手段としてリカルドロドリゲスは岐阜のポゼッションを破壊する選択をしたというのが私の感想です。

ビューティフルゴールでしたね。リカルドロドリゲスも渾身のガッツポーズ。

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では最後に徳島のサポーターUPDATEさん(@tokushimaupdate)のコメントを掲載して締めくくろうかと思います。なんとも素晴らしいコメントで心に残りました。ではまた。