みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

失った自信を取り戻すために

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「J2に落ちてやり直せ!」

試合後、あるサポーターは挨拶に回る選手達に向かってこう叫んだそうだ。

「お前それでもサポーターか!!」

ユニフォームを着用した年配のサポーターがこう反応し、メインスタンドでは言い争いが始まった。

七連敗。これが今私達に突き付けられた現実である。我らが名古屋グランパスは、10試合を終え2勝1分7敗、最下位。開幕から2勝1分の好スタートで発進したものの、リーグではそこから勝利に見放されてしまっている。特に3月31日、鳥栖戦から始まった毎週2試合の過密日程に耐えうる力がなかったことは明白で、そこから全て歯車が狂ってしまったように思う。怪我人、コンディション不良。満足な選手層とは言えないこのチームにおいて、この二つの足枷が想像以上に重いものであったのは事実だ。

一度狂った歯車は簡単には戻らないもので、なにより「攻撃」からアプローチしているチームである。崩せない、ミスが起きる、奪われ、走られる。ジャブの如く毎試合積み重なるこの現象に選手達は疲弊し、風間サッカーの生命線である「距離感」は失われてしまった。

そしてもう一つ失ったものが「自信」。己のミスが相手のカウンターに繋がり、失点に直結する。リスクのあるサッカーは魅力的である反面、非常に脆いものだ。そのリスクに見合うだけの成果が得られなければ、取ったリスクの分だけ跳ね返ってくるのが世の常。繰り返される相手のカウンター、失点。それが選手の自信を奪い、風間サッカーの肝である「チャレンジする」意欲すら奪ってしまっているように思う。

上手くいかないチームに残されたのは「味方任せのパス」。風間サッカーの代名詞である相手に仕掛ける行為は、本来ボールに近いゾーンで複数人が絡み合い生まれるもの。いるべき場所に仲間がいなければ当然成立はしないし、仲間を頼る以外に意図のないパスには、何かが起こる可能性も、観衆を魅了する力も存在しない。

この連戦の内容を戦術的な要素のみにフォーカスし語るのは難しいだろう。今このチームが抱えている問題はそれよりもっと根深く、戦術の根幹を成すものであると考えるからだ。

風間監督は言う。「自信とは技術だ」と。

ではその自信を失ったとき、チームは何が出来るのだろうか。

「サッカーはテクニックだけではない」

以前とあるインタビューでジョーはこう語っている。

サッカーはテクニックだけでは出来ない。試合によっては気持ちで勝つことも必要だと思う。テクニックが使えない試合だと思ったならば、気持ちで負けるのがすごく良くない。逆に気持ちさえ負けていなければ、気持ちだけは最初から最後まで負けないことが大事なんだ

この連戦で唯一勝利した試合、ルヴァン杯の広島戦を思い出す。

決勝点になったジョーのゴール。ワシントンのクロスは決して美しいものではなかった。シュートを放ったアーリアは相手とぶつかり合いながら執念でシュートまでこぎつけた。ゴールが決まった瞬間、誰もがガッツポーズをし、ベンチから選手達が飛び出した。リードしてから内田が、押谷が、球際で相手と戦い、懸命に走った。

サポーターはあの日、決して美しい試合を見たわけではない。ただピッチの中に吸い寄せられたのは、選手達から「勝ちたい」という気持ちがプレーを通して痛いほど伝わったからだ。選手の気持ちはサポーターに乗り移る。だからこそ共に戦い、勝って欲しいと願った。サポーターの声が、選手を奮い立たせ、走らせた。勝利を告げるホイッスルが鳴った瞬間、誰もが心の底から喜んだ。たかだかルヴァンの一勝である。ただあの試合は、紛れもなく選手とサポーター。共に掴んだ勝利だった。

初めて鳴り響いたブーイング

気持ちとは、相手に勝ちたいという想いだ。相手に勝ちたいという想いは、球際でのプレーに表れる。広島戦の後に行われた二試合、神戸戦と清水戦でサポーターに暗い影を落としたのは、こういった想いがプレーを通して伝わってこなかったからではないだろうか。清水戦後、誰もがシャビエルとホーシャを称賛したのは、決して彼等が喜怒哀楽を前面に表すからではない。彼らのプレーそのものに、絶対に勝ちたいという想いが満ちていたからだ。

当然ピッチに立つ選手全員が勝ちたいだろう。それぞれがそれぞれのやり方で負けたくないという想いは持っていたに違いない。ただプロの世界はそれが当たり前ではないだろうか。その上で、自分がなんとかしてやろうと自身の力を信じて戦っていた人間があのピッチに何人いたか。断言する。その想いは必ずプレーに表れ、プレーを通してサポーターに伝わる。

試合後、スタジアムには今季初めての痛烈なブーイングが鳴り響いた。

私のようなメインでまったり見るようなサポーターとは違う。ゴール裏にいるサポーター達は選手と共に戦っているのだ。ボールを蹴ることも、シュートを打つことも出来ない。だからこそ声をあげ、90分間飛び続け、声援を送ることで勝って欲しいという願いをそこに込める。

失点をすると下を向いてしまう。出来ていたことが途端に出来なくなる。そのまま為す術なく時間のみがむなしく経過する。サポーターにとってはそれが何より耐え難く、悔しいのである。

決して美しくなくてもいい。それが出来なくても、せめて最後まで相手と泥臭く戦って、ゴールを、勝利を目指してほしいのだ。

サポーターは無力である。どれだけ応援しても、毎試合スタジアムに足を運んでも、ピッチで実際に戦うことは出来ない。だからこそピッチで戦える選手達が、サポーターの為に戦わないといけない。その想いを背負って、目の前にいる敵に勝ちたいと強く思わなければいけない。そういう対象だからこそ、選手は憧れと尊敬を集めるのだ。

華麗なサッカーは観衆を魅了する。ただ観衆を熱く出来るのは勇敢なサッカーなのだ。

清水戦のロスタイム、名古屋のゴール裏からはいつもの圧倒的な声が消えていた。あれはサポーターの責任ではない。声を出す意欲を削いだのは、他でもないチーム、選手である。

あの光景は、今の名古屋そのものだった。

無抵抗のまま終わるのか

中断期間までリーグ戦は残り5試合残されている。全ての試合が中二日、ないしは三日では出来ることも限られる。せいぜいコンディショニングの調整くらいだろう。当然プレーに関するアプローチはするにしても、普通に考えれば劇的にサッカーの質が向上するとは考えづらい。なにせそこはブレない風間八宏である。組織ではなく個の成長に拘るからこそ、一日二日で技術が急に向上することはない。

ただ風間監督なりに少々の手は施しているようにも見える。相手を崩しきれないチームの状態を考慮してか、奪われたら闇雲に前から奪いに行く戦術に見切りをつけ、まずブロックを形成する形にマイナーチェンジしている。風間八宏の代名詞である「相手コートでサッカーを繰り広げる」理想から微調整をかけたことは、彼なりの勝利への意地だろう。ここ最近、ことさらに「自信」「チャレンジ」という言葉を繰り返すのも、選手への彼なりのメッセージであると窺える。

技術があるのだから自信を持ってチャレンジして欲しい。チャレンジしなければ成功はなく、成功しなければ自信は確信に変わらない。それを実現するために、風間監督も戦っている。様々なアプローチとヒントを与えることで。

リーグが中断するまでなす術なく12連敗を喫するか、勝ち点を一でも二でも積み上げるか。

最後にある女性サポーターの声を紹介したい。

「私は今、クラブが進めていこうとしていることがいつか花を咲かせるのを見たい。そのためには寒い冬にも耐えます。深い理由なんてありません。ただただ、楽しみなんです」

賛否両論ある。踏ん張ろうと声を出す人もいれば、必死だからこそ心が折れかけている人もいる。あまりにも愚直で、極端で、ブレない風間八宏のやり方に疑問を持つ者も当然いる。他のサポーターから見ていても不思議だろう。いつまで支持しているのかと。

ただそんな中できっと多くの人に共通する想い、それがこの言葉ではないだろうか。

二年前の降格。思い出したくない過去をもってしても尚、支えたい、支えようと思えるのはこの想いがあるからこそだ。そしてこのクラブを信じる気持ちこそが私達の支えである。

冒頭で紹介したサポーター同士の言い争い。一見相反するようで、彼等の根底にあるものは同じである。勝ちたい、勝つ姿を見たい。

風間八宏と、選手達の力が試されている。

 

 

 ※このブログで使用した画像は名古屋グランパス公式サイトより引用したものです

何故自分達のサッカーを捨ててしまったのか

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代表の中断期間を挟み、Jリーグが再開しました。我等がグランパスはアウェーで鳥栖と対戦。二点リードから三点奪い返される展開で大逆転負けを喫しました。

試合のレビュー的な要素は、その後ルヴァン杯のガンバ戦も終えていますので割愛します。今回のブログでは、鳥栖戦で改めて分かった名古屋の課題、そして今チームとして取り組んでいる事にフォーカスしたいと思います。次節対戦する札幌にも、鳥栖のイバルボ同様ジェイや都倉といったフィジカルに長けた選手がいます。試合を観るにあたり、要点だけ改めて抑えたいというのが今回の主旨です。

鳥栖戦の後半、名古屋に起きていた事

何故名古屋が劣勢の状況になったのか、今回のエントリーはこの前提があっての内容になりますので、簡単に振り返ります。前半にシャビエルのゴールで幸先良く先制し、後半も相手のミス絡みで追加点を奪えたところまでは、この試合の出来を考えても上出来でした。ただし鳥栖が二点を追い掛ける展開になったところで名古屋に対し攻勢をかけます。

〇イバルボへのロングボール+チョドンゴンの裏抜け

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正直非常にシンプルで単純な攻撃ですが、今の名古屋にはこれがジャブのように効きました。

〇左の小野、中で待ち構えるイバルボ+チョドンゴン+田川

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これも苦労した形です。起点を左サイドの小野で作って、中に三枚を配置。名古屋の最終ラインに対して、それぞれにデュエルさせるイメージと言えば分かりやすいでしょうか。特に名古屋の左サイド、秋山に対して田川をぶつける形は『名古屋ゴール前』という場面で切り取れば、やや分の悪いマッチアップだったと思います。

どちらの戦略も非常にシンプルなものですが、共通するのは鳥栖の土俵に持ち込み、名古屋の個(特にフィジカル)を晒すことでした。結果的にこの戦略は非常に効果的だったと思います。名古屋がこれらの攻撃に手を焼いたことは誰の目にも明らかです。

「自分達のサッカーを捨ててしまった」

これは試合後の風間監督のコメントです。名古屋サポーターならもはや聞くまでもない内容ですが、自分達のサッカーとは『ボールを握ること』です。相手のロングボールに対して、こちらも同様にロングボールを多様すれば当然選手間の距離は開きます。距離が開けば、仮にそのボールがジョーに収まってもフォローに行くまでに距離がある。走る距離、スプリントの回数も増えてしまうのはしょうがないことです。

であれば蹴らなければいいのではないか。繋げばいいじゃないか。何故分かっていてそれをやらないのか。チームとして掘り下げるべき問題は、『何故それが出来なかったのか』この点です。

私の考えは以下の二点です。

①試合の進め方、テンポが変わらない

気になったのは宮原のこのコメントです。

体力的に厳しいところもあったと思います。

この理由には当然最初に取り上げた鳥栖の攻撃が大きな影響を与えていると考えられます。蹴られて、パワープレーに屈することでどうしても背走する場面が増えていました。自陣の深い位置で奪い返して、そこから前に出ていくわけですから、特に最終ラインのメンバーは相当足にきていたのではないかと想像出来ます。

ただしこういった状況は今後も考えられます。確かにロングボールを蹴られる際の予備動作(準備)の改善は可能だとは思いますが、だからといって相手のロングボール全てを遮断出来るわけではありませんから、一つのプレーをキッカケにズルズルと後退するケースがないとは言いきれません。今回の鳥栖戦において私が最も気になったのは『ボールを奪った後』のアクションです。

チームの距離感が悪くてもボールの回し方に変化がない点は気になりました。もう少し噛み砕いて言えば緩急がない。

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この画像は名古屋自陣深くでボールを奪いカウンターを仕掛けた場面です。注目すべき点は最終ラインの高さです。前の選手達のスピードについていけていない。ラインが上がりきらない為、色を付けた部分(中盤)がアーリアを除きぽっかり空いています。この場面のボール保持者は画面手前のシャビエルでしたが、近い位置でフォロー出来る選手は皆無でした。

気になるのは時間帯や試合展開に関係なくボールを奪えば間髪入れず縦に縦にボールを進めてしまう点。要は息つく暇がないのです。押し込まれる状況でなんとか奪っても、「時間を作る」というアイデアがないので、ジェットコースターのような試合展開になってしまう。各選手に休む時間がありません。無理な状況でも前に進めるので、奪われると当然ボールが戻ってくるスピードも速い。それはこの画像が特に顕著で、前後の距離感が悪いので奪われるとプレスがかけられません。なのであっという間に自陣へボールが戻ってきます。鳥栖戦に関していえば後半は特にこの繰り返しでしたから、中盤〜最終ラインは堪えたと思います。走る距離、前後にスプリントする回数が多すぎる。足が止まるからどうしてもロングボールも蹴ってしまいます。完全に悪循環です。

「縦パス」とは

そもそも縦パスについて改めて考える必要がありそうです。縦に入れるということは当然チームのスピードも上がりますし、相手のゴールにも速く到達出来るわけですから有効に違いありません。ただ同時に縦パスは相手に狙われやすいのがデメリットです。ボールを受ける人間の背後から相手が迫ってくるわけですから、相手からすれば視野内でボールが動いている分狙いやすい。

だからこそチームの距離感が大切になります。何故大切かと言えば、狙われやすいからこそパスコースを複数作った上で相手に的を絞らせない状況を作る必要があるからです。逆に言えばチームの距離感が悪いと、パスコースが読まれやすい分狙われます。縦パスを奪われるということは、相手も『前向き』の状態でインターセプトしていますから、その勢いのまま相手ゴールに向かっていける。それくらい縦パスはリスクのあるパスです。効果が大きいということは当然リスクも大きい。

名古屋の戦い方を見ていると、苦しい時間帯(チームの距離感が悪い時間帯)でもパスを進める方向やリズムが変わらない為、例えば受けるタイミングを狙われて奪われたり、苦しい状況の中アップテンポでやろうとする為にミスがでてボールを失ってしまう場面が多々見られます。

この点を風間監督がどう考えているかは分かりませんが、私はもう少し試合展開によって『ボールを保持すること』が目的のパス回しの時間があっても良いのではないかと考えます。試合展開とは、今回の鳥栖戦の後半のような状況です。前後に走らされる展開が続いた際は、例えばチームの重心を全体に下げてでも、ゆっくりパスを回しながら少しずつ陣形を前に戻していくパス回しがあってもいいのではないか。実はこの試合でも小林が何度か前線の選手達に「下がってこい!」というジェスチャーをしています。

勿論これらの最終的な目的はチームの距離感を保つことにあります。試合のテンポをコントロールする術がないと90分間アップテンポの展開が続く為、どうしても時間帯や試合展開によっては体力の消耗、集中力の欠如が発生します。普段出来る事が出来なくなる。それは今まで見てきた通りチームとして出来なくなる事もあれば、各選手のマインドにおいてもやれなくなることがあるのではないか。このチームに関して言えば『ボールを受けられなくなる』ことと『繋ぐことが出来なくなる』。その結果一番問題になるのは『チームが間延びする』この一点に尽きます。

もう一点。各選手が口々に挙げていた課題がジョーの使い方です。

②『ジョーを見ろ』の本当の意味

前回川崎戦後のブログにおいて、ジョーの問題点を私なりに指摘しました。

migiright8.hatenablog.com

実際はジョー個人の問題というよりチーム全体の問題から起きている内容ですが、今回の鳥栖戦に向けて興味深いことに風間監督はチームにこう指示したようです。

ジョーを見ろ』

ただし鳥栖戦に関して言えば、どうやらこの指示が裏目に出た節もあります。以下は試合後の各選手のコメントです。

◯櫛引 一紀

攻撃がジョー一辺倒になってしまった部分があると思います

みんなが『最初にジョー』という意識になっていたので、終盤は受けに来る意識がほとんどなかったですね

◯秋山 陽介

それ(ジョーを観ること)は選択肢の一つであって、判断するのは自分たちです。判断という部分で全員が共通して出来ていなかったと思います

◯青木 亮太

途中からそこ(ジョー)ばかりを意識してしまった面はあると思います

特に劣勢が続く展開の中で、ジョーを見るという意識が、ジョーに逃げるという意識に変わってしまったのではないか。前述の通り試合展開をコントロール出来ず、結果的に縦に速くという選択の一つとしてロングボールが多く含まれる結果となりました。

そもそも何故ジョーを見ろと風間監督がコメントしたのか。ここは非常に重要なポイントであると考えます。

このチームのセンターフォワードに求められる役割は『相手の最終ラインに仕掛けること』です。具体的に言えば、まずは相手の背後を狙うこと、これが大前提です。この選択肢がまず存在した上で、例えば裏が難しいようであれば、降りて受ける。相手の最終ラインの間に位置して仕事をすることで、相手を引っ張ることも出来れば、そこで出来たギャップで受けることも出来る。

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ただジョーの場合、パスがでてこない場面で相手の最終ラインから離れて受けるシーンが多々あります。これは前回のブログで触れた通りです。焦れて下がってきてしまう。

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風間監督が『ジョーを見ろ』と言ったのは勿論単純にジョーをもっと意識的に活用しろという意味が含まれているでしょう。ただもう一つ、この言葉に隠されている意図があると感じます。それは意識的にジョーにボールを集めることで、彼自身に「待っていてもボールが届く」という安心感を与えたいという狙い。ボールが集まって、仕事(ゴール)が出来たときに、ジョー自身も気づくことがある。それを風間監督は言葉ではなく、プレーを通して彼自身に気づいてもらいたいのではないかと思います。

今となってはシーズン前に玉田がジョーに対してコメントしていた内容はこの問題点の核心をつくものでした。

ちょっと合わせすぎてるよね

そして今回の鳥栖戦を前に風間監督はジョーにこう言葉をかけたようです。

¨自分¨をやればいいよと。それから周りにもこういうことが分かってくるから、¨そこ¨に入っていけばいいよと。もう少し強引でもいい

ジョーを見ろという言葉は、本来周りのメンバーに対して向けられた意図、ジョー自身に向けられた意図の二つがあったはずです。それが今回の鳥栖戦に関しては、苦しい展開が続く中で違う意図としてチームが受け取ってしまった。そう感じます。当然ながらとりあえずジョーに預けろ、困ったらジョーを見ろという意味ではないことを、この試合を通して各選手痛感したのではないでしょうか。それは試合後の選手のコメントを読んでいれば伝わってきます。

不思議なもので、チームが抱える二つの問題点が結果的に一つの繋がったものとしてピッチに表れてしまったのが今回の鳥栖戦でした。そしてミッドウィークにはルヴァン杯のガンバ戦も行われました。最後に改めてこのチームの生命線「距離感」について触れて終わります。

風間サッカーの生命線「コンパクトな距離感」

後半途中からピッチに登場した小林裕紀は別格でした。彼のプレーには風間サッカーの醍醐味全てがつまっていました。誰よりも速く、正確に、そして愚直にそれを行っていたのが小林裕紀です。

  • 常に首を振り続けピッチの状況を確認する
  • 味方のボール保持者に対し、最適なポイントに、最適なタイミングで顔を出す
  • ボールを受けたら事前に確認していた次のポイントにボールを進める
  • 崩しの局面ではそこに「外す」動きを加え、受けて、出して、受け直す
  • それらを速く、正確に行う。そして繰り返す。
  • 足を止めない。絶対に味方のボール保持者に対して「隠れない」

派手なプレーはしません。テレビで見ていても俯瞰で確認できない部分があるので分かりづらいかもしれません。彼は現地で見てこそ凄みがよく分かる選手です。

全ての動作がとにかく速く、無駄がない。そして最も驚くのは「全く足を止めないこと」です。味方のパスコースを作る為に全力でそこのポイントを目指してスプリントする。走行距離が多いのも、局面ごとで必ず彼が関わっているのも、全てこれらの動作を全くサボることなくやり続けるからです。

余談ですが、彼は相手がボール保持している際も全くサボることがありません。ボールを奪われたら、間髪入れず危険なスペースを埋めに走ります。例えばガンバ戦でも、ボールを奪われた際秋山が高い位置に残っていると見るや、全力で秋山の守備位置まで戻る。秋山の様子を確認しつつ、彼が戻ってきたタイミングで自身の定位置に戻る。これらもテレビでは映らない彼ならではのプレーです。

なんにせよ彼がピッチに入った途端、急にボールがスムーズに回り始めたのは偶然ではありません。心臓が動き出し、全てが循環し始めた。

彼がやっていることこそが、風間サッカーの神髄と言っても過言ではありません。

今これらを高いレベルでこなせるのは、彼以外だと和泉、アーリア、そしてシャビエル。彼等が欠けた途端チームが機能不全に陥るのはそのためであり、ルヴァンで毎回風間監督が中盤に手を加えていくのもそれが理由です。

小林が当たり前のようにやっていることをチームとして考えれば、つまるところボールに対して常に主体的に関わることで、その局面ごとで必ず複数人が関われるようにするというものです。それを速く、正確に行う。派手なプレーは必要ありません。そしてこれらに上限は存在しません。

サボっても決して上手くはいかないし、選手の距離感が遠くなればこの前提は全て崩れます。小林には一人でドリブルで打開できる力はない。これはシャビエルも同様です。彼らは決してクリスティアーノロナウドではないのです。

何故チームの距離感が重要か。全てはこのコンセプトのもとに作られたチームだからこそです。出来なければノッキングを起こしますし、チームのバランスが崩されればコンセプト自体が崩壊します。それがルヴァン杯のガンバ戦の前半であり、鳥栖戦の後半でした。

このチームはJ1の舞台でも毎試合壁にぶち当たりながら、それを乗り越えようと前に進んでいます。それらを理解しながらこのチームを見守り、鼓舞していきたいものです。最後に菅原由勢のコメントで締めたいと思います。チームも、個人も、生き物なのです。

自分の視野を広げることが出来たと思います。『こういうこともある』ということが、自分の考えの中に増えました。

すぐに切り替えるのではなくて、前の試合の課題と成果をはっきりさせて、次の試合に挑んでいきます

 

 

※このブログで使用した画像はDAZNより引用・加工したものです

シーズンを共に戦うということ

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「J2は魔境だ」

今節も各会場では昇格候補と呼ばれるチームの敗戦が相次ぎました。

  • 熊本 3-1 新潟
  • 横浜FC 0-4 金沢
  • 岡山 0-1 愛媛
  • 大分 4-0 千葉

J1に目を向ければ、昨年のACL王者である浦和レッズが開幕5試合を終えたこのタイミングで堀監督を解任する決断をしました。また浦和と共にこのリーグを引っ張ってきたガンバ大阪も、開幕以来未だ勝利を掴み取ることが出来ません。

そして我らがグランパスも今節アウェーでの鳥栖戦、2点リードから3点奪われ大逆転負けという目を覆いたくなるような結果で敗戦を喫しました。

SNSを見れば一部とはいえ公式のアカウント宛にこの敗戦を厳しく非難する声があがり、また一個人の選手に向けた批判も集まりました。「一つの敗戦も許さない」確かにプロの世界で行われていることですからそれも仕方ありません。当然批判をすることが悪だとは言えないでしょう。

これは名古屋に限った話ではなく、現在J1、J2、どちらのカテゴリーでも苦労しているチームがいくつかあります。一から作り直している過程で結果がついてこないチーム、昨年から継続しているにも関わらず良くなる兆しが見えないチーム。あらゆる場所で似たような議論は起きています。

ただ私達はどうしても目先の勝敗に一喜一憂してしまいます。当然です。応援するチームにはいつも勝ってほしい。無様な試合など見たくはない。勝利こそが最大の喜びだというのはどのサポーターも同じでしょう。負けて嬉しいサポーターなどいません。またスタジアムに行くとなればお金も必要ですし、遠征となればかかる費用も安いものではありません。興業としてお金を払って見に行く以上、それに見合うだけの価値を提供するべきだという考えも尊重出来ます。その分かりやすい価値こそが応援するチームが勝つことなのです。

このように目の前にある試合の勝敗が何より優先される人、それとは違う視点で試合の結果を受け止める人。同じ試合でも受け取り方は様々なのです。

初めてのJ2。信じられないような敗戦を繰り返した名古屋

一つのデータがあります。下記は昨シーズンの名古屋のデータです。

  • 第11節~第33節 9勝3分10敗
  • 第34節~第42節 7勝1分1敗

序盤戦こそ順調に勝利を重ねていた名古屋でしたが、シーズン1/4を超えたあたりから黒星がかさみ始めます。夏にシャビエルや新井という後に中心メンバーになる攻守の核となる選手が加入し、足りなかったピースが埋まった8月は怒涛の快進撃。しかしそこへの相手の対策が始まった9月前半~中盤は再度苦戦。そこを乗り越えたのが第34節対東京V戦。陣形も固まり、そこから最終節まで走り切ったというシーズンでした。

後に風間監督はこのシーズンを自らの著書「伝わる技術 」でこのように振り返りました。

実は開幕前から、残り10試合でどこにいられるか、あるいは自分達が自信を持っていられるか、それによって結果は決まると考えていました。リーグというのは、年間を通してどのように成長していくかが重要で、チームの最後の姿に自分達がこの一年で何をしてきたかが現れます。もちろん一試合一試合すべて大切な試合で、前の試合より進化する必要がある。それでも、最後に良い姿でいるために、たとえ最初に上手くいかなくても一喜一憂するのではなく、一年をかけてしっかり自分達のゴールを目指していくことを重視していました。 (※P78より引用)

応援するチームの目指している姿とは

このシーズンの名古屋に関していえば、一年間風間監督が提唱する「止める、蹴る、外す」ことを愚直に取り組んできたシーズンでした。当然最初から上手くいくはずもなく、形になり始めたのはシーズンも5ヶ月を過ぎようという8月頃。少しずつ目指すサッカーを体現出来る選手が増え、ただし攻守にもう1ピースずつ、チームで先頭を走る集団に加勢出来るメンバーが必要だった。そこに加わったのが前述したシャビエルであり新井です。

個を土台に作り直すにしろ、組織をベースに作り直すにしろ、より高いレベルを求めて再建に取り組む場合当然時間はかかります。高度なものを求めれば求めるほど時間はかかる。

チーム作りは家を作ることと同じです。どこにでもあるものや短期的に見た目の良いものを作ろうと思えば短い時間で仕上げることが出来る。ただ唯一無二の、いつまでも色褪せないものを作りたいのであれば当然時間はかかります。

風間監督が就任してからの名古屋に関していえば、分かりやすい戦術的要素から着手するのではなく、まず「個」を徹底的に磨くことから始めました。目指すべき姿に辿り着くためには個の改革が必要だった。ただ当然今日の明日で技術が格段に上がるわけではありません。時間がかかることは明白でした。

なかなか勝ち星に恵まれない時期、私達は「我慢」することを求められます。ただ我慢する為にはチームが今取り組んでいること、現在地、そして目指す先を知らなければいけません。我慢をする価値があるかないか、それはチームを理解しようする気持ちがなければ絶対にジャッジ出来ません。

風間監督はチームを作る上で心掛けてきたことについて、こうコメントしています。

新しいことにトライする時、一番大事なことは楽しむことなんです。それが出来ないと殻は破れない。では、厳しい空気の中でも楽しみを作るにはどうすればいいかというと、勝った負けたで一喜一憂していてはダメなんです。私が怒るのはトライしないことだけで、とにかくミスしてもいいからトライしてほしいと。そこはコーチングスタッフ全員で、本当に選手を伸ばしていくために言い続けました (※オフィシャルイヤーブック2018より引用)

これはサポーターにもいえることです。新しいことにトライするには、今を楽しめていなければいけない。そう考えると、実は我慢のようで我慢ではないのかもしれません。チームを知り、楽しいという感覚が芽生えれば、我慢は我慢でなくなります。

チームを、監督を、選手を信じられるか

今回のエントリーを書くにあたって、自分自身何故今のグランパスを信じられるのか、常に前向きな気持ちでいられるのかと考えました。これはJ2のときから変わりません。勝てば嬉しいし、負ければ当然悔しい。ただ一度たりともこのチームを批判しようとは思いませんでした。当然チームが負ければ怒る人はいます。何を悠長なことを言っているんだという方もいらっしゃるでしょう。「この人とは考え方が合わない」とそこで溝が出来てしまうかもしれない。

初めて風間八宏が指導するグランパスの練習風景を見たとき、途方もない目標に向かって歩み始めたように思えました。本当に一からスタートしたチームだった。ただ同時に何かを作り出そうと一歩ずつ、一歩ずつ進もうとするその光景。一つの目標に向かって、毎日を無駄にすることなく少しずつ積み重ねていくその様が、なんだか本当に家を組立てているようで、この歳にもなって純粋に見ていてワクワクしました。何かが出来ていく様子を見ることほど楽しいものはありません。またそれはグランパスというより、私自身が日々の生活の中で失いつつあったものでもあるような気がします。

その時その時で最善を尽くしているのが分かるから、負けることは悔しくても、これでまた強くなれると思えました。問題が起これば改善すればいいのだと。そう思えたのは「このチームは必ず強くなる」、そう確信していたからです。強くなるグランパスが想像出来たから、目の前の結果を受け入れることが出来ました。このチームに起きること全てが、強くなる為の肥やしになると思えたのです。

いつかそう思えなくなることがあるとすれば、それはチームがこの歩みを止めたと実感した時でしょう。目先の結果がどれだけ重要かはサポーターによっては百人百通りの答えがある。ただ一つ確信を持って言えるのは、チームが目先の結果だけを追うようになれば、それはもう歩みを止めてしまっているということに他なりません。応援するチームに未来を感じられなくなったら我慢などする必要はないのだと思います。

未来が感じられるから楽しい。その未来をチームと一緒に作れるからサポーターをやめられないのです。未来に向かうチームに、サポーター達は想いや夢を託すのです。自分の人生のように、いや、自分の人生に足りないものをそれで補うように。だからこそ私達が応援するチームは私達の人生に欠かせないものになるのだと思います。日々動向を気にして、週末になれば試合に出掛ける。先を見据えることが出来れば目先の試合の捉え方も変わります。何より先を見据えられるから楽しさは生まれるのです。

数値としての結果も勿論重要です。ただ同時に忘れてはならないもう一つの大切なことは、チームの目指す道を理解し、日々の変化に目を向けるということです。

何故ならチームもまた、私達と同じように生きているからです。

さて本日はルヴァン杯。名古屋は今のところ二戦二敗です。今日も負けるようだと罵声の一つや二つ浴びせられるかもしれません。

あえて批判される覚悟で書きます。

私はチームが全力でプレーし勝ちたいという姿勢が見られるなら結果は問いません(当然勝ってほしいに決まっていますが)。今の名古屋に二つのコンペティションを戦える力はないと思っているからです。チームの結果はともかく、一人でも輝いている選手が見つかればいいなと思っています。その上で彼等がリーグで力になってくれれば、チームとしてシーズンが終わった時に一定の成果は出ると信じています。その結果が来年、再来年のチームに必ず繋がる。必ず強いチームになるための歩みとなる。

皆さんが応援するチームはどうですか。

チームを、監督を、選手を、心から信頼し、今を楽しめているでしょうか。

苦しい時ほど、それを改めて自分なりに考えてみるのも良いかもしれません。

 

 

 ※このブログで使用した画像は名古屋グランパス公式サイトより引用したものです

【番外編】あなたにとってのアイドルとは?

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先日豊田スタジアムで開催された名古屋対川崎戦、この試合にある偉大な選手が駆けつけてくれました。元オーストラリア代表にして、2010年名古屋グランパスJリーグ初優勝時のメンバー、2年連続得点王に輝いた「ジョシュア・ケネディ」です。

この日の試合前に行われた握手会や、この動画にあるように彼がスタジアムで歓迎されている姿を見ながら、ふと思ったことがありました。

私にとっての英雄、アイドルはドラガン・ストイコビッチ「ピクシー」です。彼が見たくてスタジアムに行き、彼にワクワクしてときめいて。彼がピッチでボールを持つたびにドキドキしました。時間がその瞬間だけ止まっているような感覚というんでしょうか。唯一無二、特別でした。

ただJリーグも25年の節目を迎える中、私も当然ながら歳を重ねているわけで、例えばJリーグ創設当初小さな子供だった子が、どこかのタイミングでJリーグを好きになって、サポーターとして同じように特別な存在に出会っていると思うんですよね。当然ながら私よりずっと長い間応援している方、例えばJリーグ創設前から特別な選手がいた方もいます。

例えば今目の前でチャントがスタジアムに鳴り響いているジョシュアにしても、「優勝メンバーの一人」と見ている方もいれば、「あの人誰?」という人もいる。逆に「ジョシュアが私にとって一番のアイドル、特別な存在だ」、そんな方も当然いるわけです。

同じように見てきたはずの一人の選手、でも見ている方それぞれで想い入れや、思い出があるんですよね。そしてそうやってチームの歴史は築かれているのだと思うんです。

そんな気持ちがあって、こんなツイートを僭越ながらさせていただきました。

私の気持ちを暑苦しく書いただけのつもりでしたが、全く予想していない展開で多くのグランパスサポーターの方や、一部他サポの方達(大歓迎です)からも思い思いのツイートが、このツイートを引用する形でTwitterに溢れました。

今回はせっかくなのでいただいた全て(おそらく)の内容をこのエントリーでまとめることにしました。ちょっと空いた時間にでも目を通していただけると面白いのではないでしょうか。個人的にはその選手を好きになったきっかけ、エピソードが大好きです。読んでいてとても面白いですし、私と同じ感想を抱いた方の声もかなり聞きました。

最後に。

今回グランパスが企画したジョシュアとの再会。毎回とは当然言いません。定期的にこんな企画があると素晴らしいなと思います。そのチームを彩ってくれた選手達はサポーターにとってはずっと憧れの、大好きな選手達です。勿論全員が全員というわけにはいかないかもしれません。ただ語り継がれるような選手というのは、その時代ごとに必ず存在します。彼等がこのチームにいたのだという足跡を消すことなく、クラブの歴史を語る上で何より貴重な財産として大切にしていっていただけると、サポーターとしてこれ以上幸せなことはありません。私はそういうチームを応援していきたい。

ではあとは皆さんのツイートをずらっと掲載していきます。

コメントをして下さった皆様。勝手に掲載してしまいますがお許しください。

 

■日本人選手

中村直志 (2001~2014年)

 

楢崎正剛 (1999年~)

 

 〇玉田圭司 (2006~2014年・2017年~)

 

田口泰士(2009~2017年)

 

田中マルクス闘莉王  (2010~2015年・2016年)

 

〇小川佳純(2007~2016年)

 

田中隼磨 (2009~2013年)

 

増川隆洋 (2005~2013年)

 

竹内彬 (2006~2010年・2015~2016年)

 

本田圭佑 (2005~2007年)

 

杉本恵太 (2005~2010年)

 

古賀正紘 (1997~2008年)

 

宮原裕司 (1999~2001年)

 

小倉隆史 (1992~2000年 ※1993~1994 エクセルシオール 監督:2016年)

 

平野孝 (1993~2000年)

 

岡山哲也 (1992~2005年)

 

森山泰行 (1992~1997年・2001~2002年・2004年)

 

飯島寿久 (1992~2000年)

 

伊藤裕二 (1992~1999年)

 

■外国籍選手

ストイコビッチ"ピクシー" (1994~2001年 監督:2008~2013年)

 

〇フェリペ・ガルシア(2017年)

 

ジョシュア・ケネディ(2009~2014年)

 

ダニルソン (2010~2015年)

 

フローデ・ヨンセン (2006~2008年)

 

ヴァスティッチ"イヴォ" (2002~2003年)

 

ウェズレイ"ピチブー" (2000~2005年)

 

デュリックス (1995~1996年)

 

 

〇ウリダ (1998~2002年)

 

〇エリベウトン (1993~1994年)

 

〇バウド (1997~1998年)

 

ジョルジーニョ (1990~1994年)

 

〇ガルサ (1993~1995年)

 

一人には絞れない方からグランパスじゃないけどまぁ聞いてくれの方々

 〇時代ごとにアイドルは存在する

 

〇在籍年数は大事

 

〇若手を応援

 

〇第一次黄金期

 

〇心のアイドルは沢山いる

 

グランパスじゃなくてすいません

 

〇他チームだっていいじゃないか

 

番外編

 

 

※このブログで使用した画像は名古屋グランパス公式サイトより引用したものです

 

 

同じDNA、異なる特徴。そして重ねた年月。

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濃密な、あっという間の90分でした。0-1。王者川崎フロンターレが制したこの試合、様々な感想があったことかと思います。ただ一つだけ間違いないのは、誰もが高揚感を抱き、ピッチの中で繰り広げられるボールゲームに魅力されたことではないでしょうか。

誰が否定しようとも、この試合を彩った両チームに同じDNAが流れていることは明白でした。異なるもの、それはそれぞれのチームが抱える選手の個性とそれに伴う戦術、そして積み重ねてきた年月。その意味で名古屋はやはり挑戦者であったと思います。同じDNAのもと長い年月をもって育まれた川崎に対して、結成1年弱とも表現出来るチームが真っ向からぶつかった。そこから見えたものは名古屋にしかない強み、そしてまだまだ我々に不足していた風間八宏のエッセンスでした。

1.「最短距離を目指す」とは

両チームが同じピッチで相見えたからこそ見えたもの。まず最も異なっていたもの、それが攻撃における両チームの設計(構造)です。

川崎がどう攻めていたかf:id:migiright8:20180321002821p:plain

当然ながらベースは縦です。いかに相手のペナルティエリアを攻略するか、最短距離で目指すか、そこの土台の考え方は名古屋と変わりません。ただし彼等の方が『揺さぶって相手の穴をあぶり出す』攻め方をします。その中心がネット、そして大島僚太。彼等がピッチ中央を拠点として、ボールを左右に動かしながら相手の様子を伺います。勿論彼等自身も出しては動き、空いたスペースで受けながら崩しの演出をしていく。最前線に陣取るのが小林や中村、阿部(この場面は登里)、家長。相手(名古屋)の最終ライン上に、縦のレーンに対してバランスよく人を配置します。横で揺さぶる為には当然外側に人が必要ですし、例えば外の選手にボールが入れば名古屋の選手もその選手を掴まえに行きますから、そこで再度ボールを中に戻して「隙間」を探す。「ボールを動かして相手を動かす」。名古屋の選手を動かす為の人の配置、隙間が出来た際にそこを突く為の人の配置。彼等にパスを供給する為に、相手のブロックを左右に揺さぶって穴を作っていくのが大島僚太やネットの仕事です。簡単に言えば、揺さぶるのは手段であって目的ではありません。一番の目的は『中』で勝負すること。ただし中の為に『外』を使う。それが現在の川崎のベースとなる攻撃です。当然縦一辺倒ではなく、横も入れるので時間が作れますし、時間が作れるからこそ選手間の距離も保たれます。パスコースも沢山の選択肢が持てる。ボールを回す際、バタバタした印象だった名古屋とは対照的に、川崎の攻撃がゆったりと落ち着いて見えたのはこれが要因です。特に大島僚太は別格でした。速く動くわけではなく、止まることもある。ただ常に首を振りながら周りの状況を確認し、楽にボールを受け、シンプルにプレーが出来る。相手に掴まらない。彼だけ流れている時間の速さが違うようでした。

では一方名古屋の攻撃はどうでしょうか。

『縦』と『局地』に特化した名古屋

ボールを保持した際の名古屋の選択肢はまず『縦』です。試合を通してみれば分かりますが、川崎に比べて縦に入れるパスの比重が大きいことは一目瞭然です。名古屋の攻撃に比べて、川崎の攻撃がゆったり見えるのはこの違いからくるものであると考えます。ボールを奪ったら縦に。縦にボールが動けば当然攻撃のスピードも上がりますから、そのスピードについていける陣容である必要があります。だからこそ中盤の三枚の内、インサイドハーフの二人は和泉、アーリアと両者ダイナミズムに特化した選手を配置しているのが特徴です。またその縦のスピード、力に一役買っているのが両サイドバックの秋山、宮原。彼等の無尽蔵な体力、スピード、ボールを前に運ぶ力がこのサッカーを可能にしています。図にしてみましょう。

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大きな特徴は前述した中盤の構成です。小林が攻守におけるバランサー、ハブの役割。彼の存在によって最大限特徴を発揮出来ているのが和泉でありアーリアです。後ろを小林に任せてでも『前』で勝負出来るステージが彼等には用意されています。これはシーズン前、今年のチーム編成が終わった段階で既にアイデアとして風間監督の頭の中にあったものかと思います。また小林に関して言えば、ビルドアップ(組立て)時は最後尾まで降りて組立ての中心に、状況次第では前にも行く。相手にボールを奪われた際は自身のエリアに加え、和泉やアーリアの背後のスペースを埋めるタスク。更にプレッシングのスイッチ役として前からボールを奪いにかかる場面もある。彼によって前と後ろが繋がれ、チームにとって痒い部分を彼が一手に引き受けている印象すらあります。その意味で言えば、今年は彼のチームです。

また前線の特徴として、ジョーそしてシャビエルは相手がボール保持している際も、ある程度前に残ることを許されています。カウンターの起点になること、なにより彼等の攻撃力を最大限活用する為の策です。その点左の三人(青木-和泉-秋山)と比較すると、右の(アーリア、宮原)の位置は若干低いのが特徴です。シャビエルの背後を狙ってくるチームが多いので、これは構造上仕方のないことです。

今年のチームを風間監督はこのような言葉で表現しています。

攻撃が速い。ペナルティまで行くのが非常に速い。

ただしこの試合ではこの「縦に速い」特性から起きた問題点がいくつか垣間見えました。

①トップスピードだからこそ起きるミス

崩しの局面で再三見られたのが最後の部分でのパスミスです。出し手と受けての意志疎通が噛み合わないシーンが多々見られました。この点を対戦相手だった中村もこうコメントしています。

名古屋はスピードを上げすぎてミスしていた

②縦一辺倒で緩急・変化のない攻撃

縦を意識するあまり、相手に的を絞られやすい点は問題です。また縦を意識するあまり相手に進路をふさがれた際に攻撃が行き詰まるケースが見られます。この点に関しては、実は川崎戦以前から問題点として風間監督自身がこう口にしていました(磐田戦後のコメント)。

うちの選手達は前に行くのがすごく速い。横、後ろは出来ればなくして前に行こうとトレーニングから意識して取り組んでいるので、怖がらずに良くやっていると思います。ただ前半はそれを意識しすぎて逆に一人ずつがボールを持って遅くなった場面があったので、後半は「少し動かしながら」ということを伝えました。

何故ボールを動かしていくことが有効なのでしょうか。これは前述の川崎の攻撃を参考にすると分かりやすいですが、改めてポイントだけ抑えると、

  • 横にボールを動かすことで、相手のブロックを動かし縦のレーン間を広げていく

ということです。「縦のレーン」を分かりやすく図にしてみます。

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 「横に動かす」という点でも川崎の選手達が興味深いコメントを残しています。まず阿部のコメントから。

前半に関しては、悪く言えば相手に付き合ってしまったところがあった。少し焦ってボールを入れてカウンター合戦のようになっていたので、もう少しサイドに広げてゆっくり攻撃する時間があっても良かったと思う。

次に中村のコメント。

チャンスになるのは、相手を広げてセンターバックサイドバックの裏に走ってクロス。それが前半は一番のチャンスかなと。幅を取れば相手も空いてくる。

③試合終了まで続かない体力、保てないテンポ、必要以上の走行距離

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 途中交代でピッチから退いた和泉が入っていませんが、前半終了時のスタッツを見ると小林(5.9㎞)を凌ぐ数値(6.2㎞)を叩き出していた為、フル出場であればこの表の一番上に掲載されていた可能性が高いです。やはり順位の上位を占めているのは三人の中盤、そして両サイドバック。これらの選手が見るべきエリアの広さに加え、常にフルスロットルで前後する名古屋のサッカーがどれだけ大変なものか、試合後の宮原のコメントが物語っています。

後半になると距離感が悪くなるというのは感じているところです

局地で見せる圧倒的な破壊力。時折見せるユニットでのコンビネーション

 縦に速いと評されるだけあって、局地戦でも名古屋は強引に縦にボールを運ぶ力があります。力強く、スピーディーに前に前にボールを運ぶ力がある。特に左サイドは強烈です。秋山、和泉、青木。この三人の縦、斜めのパス交換で何人前に立ち塞がろうとも強引に破壊していく術を持つこの三人は相手にとって脅威でしょう。

また前述した通り、チーム全体としてボールを動かす意識には改善の余地があるものの、局地戦では強引な術だけではなく、時折複数人(ユニット)でのコンビネーションで相手の守備ブロックを突き破っていく場面も見られます。

一つ例としてあげましょう。

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 この場面を共有しているのはこの4人です。

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シャビエルは右サイドの宮原にパスをだし、点線の方向(青木がいる位置)に動き出します。逆に青木はシャビエルの走り込む場所にスペースを作る為、ポジションを移動していきます。

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シャビエルから宮原へのパスで阿部は宮原のケアに(登里に加勢する)、中に走り出したシャビエルには大島がついていくことで、結果的にアーリアへのパスコースを生み出すことに成功。「走り出すことで、元いた場所をスペースとして活用する」術です。また青木が動いたことで車屋もケアの為定位置から動いていることが分かります。

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この場面で秀逸だったのはアーリアのダイレクトパスです。登里、阿部、大島、ネット...川崎の全ての選手が宮原からアーリアへ渡った瞬間ボールウォッチャーだったことが分かります。今度は青木が元いた位置に彼が動いたことでスペースが生まれ、シャビエルが使えるスペースに変貌しています。そこに間髪入れず楔を打ったアーリアと、四人のコンビネーションが生み出した連続したスペース作り。アーリアがワントラップしていたら、シャビエルも掴まっていた可能性が高いです。横-横-縦、そしてダイレクトを入れた緩急。完璧な崩しです。

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最も相手にとって危険なバイタルエリアでシャビエルが「前向きに」「フリー」でボールを受けることに成功しました。

こういった崩しが名古屋の得意技であることは、サポーターの皆さんもよくご存じかと思います。昨シーズンでいえばホームの対東京V戦の小林のゴール、同じくホームの対湘南戦のロビンのゴール。崩しのメカニズムはどれも同じです。

2.最終ラインに仕掛けることの意味

 風間監督がよく使う言葉で「相手の最終ラインに仕掛けろ」という言葉があります。川崎戦で感じた課題は「ボールを動かすこと」だけではありません。もう一つ、この「最終ラインに仕掛ける」という点においても大きな差があったと感じています。

川崎の仕掛け

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何故相手の最終ラインに仕掛ける必要があるのでしょうか。当然相手の背後を突く為という理由が最たるものです。ただもう一つ、背後を突こうとするからこそ起きる現象があります。それがこの画像の青い空間で起きていることです。見ていただくと分かる通り、中村は背後を突く動きとは逆のモーションをしています。要は「足もと」でボールを受けようとしている。何故それが出来るか、それは相手の最終ラインに仕掛けているという大前提があるからです。なんとも禅問答のようなので、この構造を紐解いていくと、

  1. トップの選手(小林や阿部)が相手の最終ライン(背後)に仕掛ける
  2. 相手(名古屋)の最終ラインは背後をケアしようとラインを下げようとする
  3. ラインが下がることで、一列前の中盤の選手達との距離感が出来る(二本の黒線)
  4. それによって出来た空間(青い場所)で足もとでボールを受けられる

 ということです。相手の最終ラインに仕掛ける最大の目的は相手の背後を取ること、対面の相手を壊しにかかることですが、同時にその行為で「裏」ではなく「表」でボールを受けることも出来る。この青い空間が「バイタルエリア」と呼ばれるものであり、この空間が相手の守備網を攻略する上で最も重要なポイントにもなります。最終ラインに仕掛けるという行為が裏、そして表、両方の効果を持ち得ているからこそ、風間監督は川崎、そして名古屋でもこの理論が重要だと説いてきました。

一方で名古屋の崩しはどうでしょうか。

苦悩するジョー

 ジョーに開幕戦以来ゴールがありません。サポーターの間でも「何故ジョーが得点出来ないのか」そんな声が聞こえ始めています。この試合、ジョーの動きを見ていると気になる点がありました。

「裏」ではなく「降りてくる」ジョー

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先程の川崎の仕掛けと比較すると面白いのですが、ジョーはかなりの割合でこのように下がってボールを受けようとします。例えば川崎の小林と比較すると、小林はこういった降りる動きはほとんどしていませんでした。常に名古屋の最終ラインと同じ高さで勝負していた。ボールを引き出す為にサイドに流れることはあっても、低い位置に下がってくることはほとんどありません。この場面、確かにジョーが下がることで和泉のパスコースを作っていることは事実です。ただ例えば川崎の谷口や車屋にプレッシャーはかかっているか、この位置でジョーに受けられて彼等が怖がっているか、ここが問題です。本来ジョーが相手の最終ラインに仕掛けて、それによって生まれるバイタルエリアでシャビエルが足もとで受ける方が相手を壊す攻撃に繋がるのではないか。

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この場面も同様です。どうしても受けるために下がってきてしまいます。これにはいくつかの理由が考えられると思います。要はどうしてジョーが「下がろう」と判断するマインドになってしまっているのか。

  • 彼をゴール前でシンプルに使うケースが少ない(欲しいタイミングでもらえない)
  • ボールを受けたいという彼自身のマインド
  • 名古屋の崩しにおける中央の密度の問題(画面の青い場所)

川崎はこの試合でも、また昨シーズンのゴールシーンを見てもそうですが、外からのクロスというパターンも実装しているのが特徴です。小林がゴール前でポジションを取れれば躊躇なく中にボールを入れてくるシーンも意外と多い。逆に今の名古屋は完璧にサイドを攻略出来なければ早々イージーな形で中に合わせる選択は取りません。ジョーにとってはマウントポジションでも、チームメイトにとっては「外れていない」。ここの意識にまだ差があります。結果的に時間が経つごとに焦れてきたジョーはボールを受けようと下がってくる傾向があります。ただしこれにはもう一つチームとしての問題があり、サイドに人数をかけて局地戦で勝負する傾向が強いためか、今年のチームは特にピッチ中央の密度に欠ける場面がしばしば散見されます。ここのエリアを使おうとする選手がいればジョーも我慢出来るかもしれませんが、いないからどうしても下がって受けたくなる、パスコースに入ろうとしてしまう。全ての理由は繋がっていると考えます。彼が交代でピッチを退き、寿人が彼のポジションに入った意図を考えても、やはり風間監督とすれば相手の最終ラインへの仕掛けが足りないと判断していた可能性は高いのではないでしょうか。

見ていてもジョーは非常に賢い選手です。傲慢でもなく、チームに合わせてプレーが出来る。例えばシャビエルが中に入ってくれば、彼がサイドにでてポジションも円滑に取り直す場面を度々見ます。ポストに入ろうとポジションを取った際の強さも圧倒的です。問題はチームが彼を活かせるか、彼をこのチームにどう刷り込んでいくかです。

ジョーが活きていない問題はもう一つあります。本来彼に対してチャンスメイクする役割を負うシャビエルに対する、相手からの徹底的なマークです。

3.研究され徹底的なマークにあうシャビエル

湘南戦もそうでしたが、彼に自由にボールを持たせないという合言葉を各チームが持ち始めたのは間違いありません。当然です。名古屋の決定的なチャンスのほとんどが彼から生まれるのですから。

最も気になる点は彼と周りの距離感です。

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 この場面は分かりやすいですが、右のユニット(アーリア、宮原、シャビエル)のトライアングルの距離感に問題があります。シャビエルが攻め残りしていることにも起因しますが、ビルドアップの際、シャビエルに預けようとこの場面のような距離感での縦パスがかなり目立つ。この試合に関しては、それをことごとく登里に刈り取られました。左のトライアングルと比べても顕著です。見ていると、ビルドアップの際に苦しくなるとシャビエルに預ける、彼を逃げ場とするケースが多いことが分かります。ただ相手も当然リサーチ済みで、ゴール前での攻防に限らず、こういったピッチ中央での攻防でもシャビエルには徹底的にマークを付けてくるチームが増えました。これは磐田戦を改めて見直して貰うと面白いです。川崎が相当厳しくきていたことがよく分かります。また先程のジョーのシーンでも取り上げましたが、やはり中の密度が薄く、外に人をかけていることがこの場面からも分かります。f:id:migiright8:20180321145348p:plain

前半終了時点での平均ポジションです。左右のユニットの距離感、中盤三枚の位置関係。あとはシャビエルが孤立していることもこのデータから読み取れます。

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90分間を通しての攻撃しているエリアの割合です。半数以上が左サイドです。対面がエウシーニョということもあり、攻撃の際スペースが割合多くあったのも事実ですが、右サイドからの攻撃はほぼ完璧に防御されたと見ていいでしょう。シャビエルが目立つ際のエリアは、右サイドから中央に切り込んだ際、また自由にポジションを移動したときくらいでした。余談ですが、エウシーニョとの真っ向勝負の中で、これだけの数値を叩き出した左サイドの三人は称賛に値するのではないでしょうか。試合終盤エウシーニョが足を攣っている姿を見て、彼がどれだけ速いテンポで上下動していたか(させられていたか)知ることとなりました。

シャビエルの出来がこのチームのバロメーターです。開幕戦とそれ以降の三試合と比較すると、彼が生きるか死ぬかでジョーの出来も左右されます。いかにシャビエルに攻撃のタクトを振るわせるか。J1の舞台で早速そこの課題に直面しています。

4.「お互いに目指しているものが、同じようで違う」

この試合に関して、鬼木監督はこのような発言をしていたようです。彼自身は「私達は攻撃だけではない、賢い試合運びもする」というエッセンスも含めた意味としてこの発言をしていたかと思います。ただこれまで見てきた通り、「ボールを握る」「まず縦を狙う」など同じコンセプト(DNA)を持った二チームでありながら、攻撃の特徴も異なります。川崎には川崎の、名古屋には名古屋の長所が存在ある。ただ川崎を見ていると、やはり私達と同じ道を歩んできて今のスタイルが確立されたのだと感じます。彼等も一つ何かが出来上がる度に課題に直面し、改善し、進化してきたのだと。彼等にも縦ばかり追求していた時代があり、速すぎる時代があったのではないか。全く同じチームになる必要はありません。ただ彼等が私達に見せてくれたもの、それは私達がこれから目指していくべき道なのではないか。今ある長所、名古屋だからこそ出来るプレーを大切にしながら、攻撃の引き出しを増やしていく。読んでいただいて分かる通り、これらは個人の問題ではありません。全てはチームの問題点として繋がっています。

さて、次は鳥栖戦です。シャビエルが対峙する相手は吉田豊です。この中断期間で風間監督は今ある課題に対してどんな手を打ってくるでしょう。

そして次に川崎と会う等々力までに、もっと進化していくであろうグランパスに期待を込めて。

この試合の収穫、それは「このチームはまだまだ強くなれる」それをチームも、私達も確信出来たことです。

 

 

※このブログで使用した画像はDAZNより転用・加工したものです

「戦術眼」~遠藤保仁、中村俊輔、そして中村憲剛~

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だいぶブログをご無沙汰してしまいました。その間にJリーグも開幕し、我らが名古屋グランパスは第三節を終え二勝一分。昇格組としては上出来ともいえる内容でここまできています。

そして今週末、昨年の覇者、川崎フロンターレとの一戦を迎えます。風間監督のもとJ2で『止める、蹴る』から叩き直してきたチームが、遂に昨年のJリーグ王者と相見えるわけです。今回戦う相手はただのJリーグ王者ではありません。私達と同じように風間監督が基礎から鍛え上げ、現在の礎を築いたチームであり、そんな彼らが王者として豊田スタジアムに乗り込んでくる、これ以上の舞台はありません。おそらくこの対戦を待ち焦がれていたサポーターは少なくないでしょう。

そういえば皆さんは少し前に発売された『伝わる技術(著者:風間八宏)』お読みになられましたか?「はじめに」の冒頭二行は痺れました。2017年12月2日、そして3日。この二日間は、今思い出しても気持ちが高揚してくる、と。勿論その二日間は川崎フロンターレがJ1初優勝を成し遂げ、私達名古屋グランパスがJ1昇格を果たした、それぞれにとって忘れられない一日のことです。思い入れのあるフロンターレと、現在指揮をとるグランパスが遂にJ1の舞台で対戦出来ることを、誰よりも楽しみにしているのは他でもない風間監督ではないでしょうか。

さて、改めて皆さんが想像するフロンターレとはどんなチームでしょうか。攻撃的、パスサッカー、バナナ、計算ドリル。いろいろあるでしょう。ただその中でも誰しもがピンとくる象徴といえば、やはり中村憲剛。日本を代表するゲームメイカーであり、司令塔。そして川崎フロンターレを代表するバンディエラといえば彼しかありえません。ただこれまでのグランパスの三試合を振り返ると、彼と肩を並べるような日本を代表する選手達と既に対戦しているんです。第一節ではガンバ大阪遠藤保仁、そして第二節にジュビロ磐田中村俊輔

彼ら三人に共通する特徴は高い技術、そして精密機械のようなキックです。誰もがイメージするのは『ボールを操る姿』。ただ彼らが持ち合わせる優れた能力は実はそれだけではありません。もう一つの能力、それが『戦術眼』です。彼らは試合の中で相手の特徴、長所、短所を把握し、相手のどこを攻め立てれば試合が優位に進んでいくか判断し実行する能力があります。意識して彼等を追わないと分かりづらいかもしれませんが、彼等は状況に応じてどのタイミングで、どのポジションにいることがベストか、常に考え探しています。この第一節と第二節、遠藤と俊輔のプレーを何度か見返しているうちに、彼等が現在の名古屋の問題点を試合を通してあぶり出していくような、そんな不思議な感覚がありました。彼等程のレベルになると、試合の中でここまで相手の穴を見つけていくものかと。彼等が名古屋に対して行ったプレーについて考えることで、今の名古屋の現在地が分かるかもしれません。またそれを知ることで、今回の川崎戦の試合を見るポイントも変わるかもしれない。何故なら今回の相手にも中村憲剛という偉大な司令塔がいるからです。

今回は守備に関する記述が多く、ネガティブな内容です。ただしこういった偉大な選手達から毎試合課題を得て、名古屋がシーズンを通して成長している姿を私なりに書きたいと考えました。またなにより川崎戦に向けて試合を見るうえで興味がわくようなキッカケを作りたいという想いと。中村憲剛は何を仕掛けてくるんでしょう。それに対して名古屋は対抗出来るでしょうか。彼等の動きを追うことで、サッカーの奥深さを垣間見れるのではないかと思います。

そもそも名古屋の守備の考え方は?

 失点がとにかく多い名古屋ですが、それなりに理由はあります。風間八宏の賛否が分かれる所以でもありますが、まずここをおさえていきます。風間監督の守備構築は決してシステマチックなものではありません。具体的に言えば、相手の攻撃を想定して、シチュエーションごとで誰がどう動き、どこのスペースを埋めるか、誰がどのタイミングでボールを持つ相手にアタックするか、緻密な設計のもと行ってはいません。あえて極端に図で表しましょう。

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 見てわかる通り、一人一人が自分の持ち場をしっかり守ること、その守るべきエリアを1mでも2mでも拡大出来るようにしましょうというのが風間監督の基本的な考え方です。チームとしての細かい約束事、設計されたものがない為、必要なのは個人の高い守備能力、判断能力。勿論広いエリアを守れること。おそらく求められるものは他チームに比べても多いでしょう。なにせここにビルドアップ(ボールを扱う技術、パス能力)の力も求められるわけです。昨年名古屋のセンターバックが次々移籍し話題になりましたが、これは風間サッカーに求められるセンターバックの能力が個人に依存し、その要求レベルが非常に高いことに起因しています。

さて、薀蓄が長くなっても仕方ないので、この前提をおさえた上で、今回の本題に移っていきます。まずは第一節、遠藤保仁が名古屋をどう攻略しようとしたのか。 

第一節 vsガンバ大阪(遠藤保仁)

あえてサイドバックのポジションに移動する

これは後程中村俊輔のプレーでも触れますが、遠藤はトップ下のポジションが定位置にも関わらず、あえて最終ラインのサイドまで戻る行為を何度か試みていました。彼等はこういったプレーを頻繁に使います。

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 理由は一つ。ビルドアップのスタートの段階から、どうやって名古屋の選手を一枚ずつ剥がしていくか、それをこのポジションから試みているからです。この場面で言えば、遠藤がこの位置に来ることで困った選手が青木亮太です。本来彼が見るべきガンバのサイドバックの選手につくかどうか。ただし目の前には遠藤がいます。彼がボールを持てば当然フリーにはしたくない。よって青木は遠藤につくことを選択します。ただしこれは遠藤が仕組んだ罠です。青木を喰いつかせて、本来彼が見るべきだったオジェソクをフリーにする為の。ここでもう一つのポイントが、名古屋が設定する高い最終ラインです。この場面、オジェソクにパスが回れば、彼の目の前には広大なスペースが存在します。全くプレッシャーがかかっていない状況ですから、この場面で言うと最終ラインで駆け引きするファンウィジョのタイミングにピッタリとパスを合わせられる。通常ボールを保持している選手がフリー、そして前向きの状態で最終ラインを高く保つというのは自殺行為に近いものがあります。「ラインが高く保てる」、それは「相手のボール保持者にしっかりプレッシャーがかかっている」ことが最大の担保です。見てもらうと分かりますが、第一節の段階ではまだ名古屋のホッシャ、秋山のコミュニケーションも取れておらず、ラインを作る上でのバランスも悪い。どうぞ走ってください、門は開いた状態です、まさにそんな状況。

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ちなみに遠藤は自チームのサイドバックの位置だけではなく、例えばこの場面のようにウイングの位置へも同じように移動し、名古屋のサイドバック(この場面は秋山)に対して揺さぶりをかけます。秋山からすると、本来見るべきファンウィジョなのか、目の前にいる遠藤なのか、どちらをケアすればよいか二択を迫られている状態。また遠藤のポジショニングが絶妙なのは、同サイドにいる味方の選手のレーン(ピッチを横で分割するイメージ ※青太線)にかぶらないような配置を取ることです。これによって図の矢印の通りパスに角度が付き、複数人(この場面は遠藤、ファンウィジョ、オジェソク)でボールを前に前に運ぶことが可能です。当然秋山としても的が絞りにくい。まずこれが遠藤が仕掛けた名古屋の守備構造を一から壊していったパターンです。

アンカー小林の両脇に出来るスペースの活用

 今度はトップ下としての仕事です。ちなみにアンカーの両脇とは具体的にこの場所のことです。

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前述した通り、名古屋の守備は守るエリア、守る上での選択、判断、これらを個人に依存した形で行なっている為、どうしてもこういったファジーなゾーンに意図的にポジションを取られると、誰がそこを埋めるのか、誰が相手につくのかはっきりしない欠陥が存在します。

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この場面で言えば、センターバックの菅原が前に出て潰しにいくのか、はたまた中盤の三人で役割分担をするのかがはっきりしません。こういった隙間隙間のポジションを取られては、フリーで受けて決定的な仕事を演出されてしまうのが大きな問題点です。このシーンは遠藤がトップ下の仕事として、よりゴールに直結する役割を負った場面になります。後述する中村俊輔もそうですが、彼等が何より凄いのは、相手の特徴を冷静に把握し、自身の動きでその守備構造を破壊していく頭脳を兼ね備えていることです。一見何気ない動きに見えるものが、実は数手先まで読み相手の欠陥を一つずつあぶり出す行為として成立していること。どうしてもボールを持った時のプレーに注目がいきがちですが、彼等は試合を俯瞰して見ているかの如くピッチ内を動き、周りも動かせる稀有な存在です。勿論その上でボールを持てば決定的な仕事も出来るわけですから、当然ながらこのレベルの選手は昨年戦ったJ2ではまず存在しなかった次元のものであると考えます。ダゾーンの中継でも、解説の戸田氏が再三遠藤のポジショニング、ボールの受け方を褒めていましたが、こういった動きに着目していたのではないでしょうか。彼が嫌らしいのは、こういったポジショニング、動きだしをここぞという絶妙なタイミングで仕掛けてくることです。最初からその場にいるわけではありません。そうやってガンバの決定機に常に絡んでいたのが遠藤でした。

では次に第二節、中村俊輔を見ていきましょう。 

第二節 vsジュビロ磐田(中村俊輔)

この試合を観戦した方はご存知の通り、後半磐田にかなり攻め込まれました。というより、後半は数回の決定機を除きほぼ磐田ペースで試合が進みました。何度も川又、アダイウトンに裏を取られ、その度に背走する羽目に。疲弊し、名古屋の陣形もどんどん縦に間延びしていきました。ここで重要な点は、『何故簡単に裏を取られ続けたのか、何故ボールを握られ続けたのか、何故間延びしてしまったのか』を考えることです。名古屋は最終ラインの裏が弱い、その事実にだけ目を向ければ良いとは思いません。何故簡単に裏を取られるのか、そこに着目した際、このゲームを動かしていた人物が浮かび上がってきます。それが中村俊輔です。

彼がどこを起点に攻撃を組み立て始めたか

俊輔の方が遠藤以上に自由にゲームをデザインしていました。彼がチームの中心となり、このゲームを動かしていた。名古屋に一点リードされた後半、彼が陣取ったポジションは外でも、中央の高い位置でもなく、中盤の底、アンカーのようなポジションです。

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名古屋がこの試合、ガンバ戦の反省点を活かし、チームとして課題に取り組んでいたことは明白でした。最終ラインが細かい微調整で常にチームの距離感を保とうとし、ホッシャと秋山の関係性も開幕戦に比べれば改善が見られました。ただこの試合で気になったのは、自陣で守備のブロックを形成する際のチーム全体としての意思疎通です。後半アダイウトンが名古屋の右サイドとのやり合いに見切りをつけ、守備が不慣れな左サイド(秋山のサイド)を中心に攻め始めた(ある程度流動的だが)。パワーとスピードで圧倒するアダイウトンによって、徐々に名古屋は陣形が後退していきました。そこで生まれたスペースと、名古屋の守備構造を見抜いて中央低い位置に陣取ったのが中村俊輔です。

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 元々こういった大きなポジションチェンジに対応するのが名古屋は苦手です(これは前述の遠藤に関する内容の通り)。中盤に俊輔が加わったことで、中央で数的優位を作りパス交換をしつつ、名古屋の陣形がボールサイドに片寄ったところで彼から左右に正確無比なサイドチェンジでボールを展開していく。またボールを支配し少しずつ相手を押し込む中で、名古屋にとってはもう一つの欠陥も俊輔に利用されることになります。ジョーとシャビエルの守備タスクの問題です。

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これは先程の後のシーンです。右での攻防を終え、再度ボールを持った俊輔が今度は反対の左サイド(ギレルメ)に展開するシーン。名古屋の中盤の三枚と、ジョーの距離感が何よりの問題です。この構造を理解した俊輔は、この広大なスペースを攻撃の起点とすることで、ゲームを操り始めました。またギレルメに関しても、シャビエルの守備タスクは決して重いものではない為、この場面を見て分かる通り全く見れていないフリーの状況です。ジュビロからすると、彼がビルドアップの際の逃げ場のような存在になっていました。名古屋に関して言えば、その点は青木の方がよく自陣に戻りますし、攻守の切り替えも早い。これはジョーとシャビエルの攻撃力を最大限活かしたいというチームの意図、勿論彼らの特性も踏まえある程度割り切っている部分かもしれません。

遠藤同様、サイドの低い位置であえて囮になる

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グランパスに前進を許し、後方から作り直す際は面白いことに遠藤と同じアイデアを使っていきます。俊輔があえてサイドバックの位置まで降り、シャビエルと対峙する構図を作る。彼へのパスコースを防ごうとシャビエルが喰いつくことが分かっているわけです。当然本来彼が見るべきギレルメへのパスコースは空き、簡単に名古屋の前線の守備ラインを突破されてしまいます。

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これも同様です。この場面に関してはシャビエルがギレルメをしっかりケアしているのが分かります。ただそれを理解した俊輔は、最終ラインとのパス交換に参加しつつ、グランパスの中盤の一人、玉田が自身(俊輔)のポジションをケアしてくるタイミングを狙っています。狙い通り玉田が喰いついたタイミングでセンターバックにボールをリターン、ボールを受けたセンターバックは本来玉田が見るべき相手だった泰士への縦パスを簡単に成功しているのが理解できるかと思います。これは風間さんもよく使う言葉で『遊びのパス』です。何気ないパス交換の中に彼が仕掛けた罠が存在します。

名古屋の問題点とは

ここまで見てきた中で私が問題だと思うポイントが二点あります。

  • ジョー、シャビエルの守備意識
  • グランパスの全選手に刷り込まれた「前から奪わないといけない」という意識

一つ目は過度の期待は禁物かもしれません。ただジョーを見ていても疲れは当然あるのでしょうが、サボっている場面は多々あります。彼が効果的な守備参加をしない為、当然後ろのメンバー、特に中盤にはかなりの負荷がかかっています。例で挙げた俊輔のシーンは、本来であればどの場面もジョーに出来る仕事はもう少しあると考えます。そしてシャビエル。彼も守備に関するタスク自体は軽いです。ボールを奪えると判断した際の相手に襲い掛かるスピード、奪う技術は間違いありません。ただし90分の内、それをずっと繰り返しているわけでは当然ありません。彼の背後は相手チームからすれば格好の標的です。ただ繰り返しになりますが、この点は割り切るしかありません。私達が彼等に期待しているものは「ゴール」なのですから。そういったアンタッチャブルな選手が二人ピッチに同居するのは少々引っかかりますが、それでもやはり彼等の攻撃力は圧倒的です。特にシャビエル。彼がこのチームの鍵を握っています。彼は遠藤や俊輔のような司令塔ではありませんが、ゴールに直結する決定的なプレーでは彼の方が優ります。テクニック、スピード、閃き。彼が周りを活かしているように見えますが、実際は彼を生かすも殺すも周り次第、彼にそう言った場面を御膳立て出来るかどうかに懸かっていると私は考えます。彼のプレーが輝いているかどうかがこのチームのバロメーターです。結果的にそれがジョーが輝けるかどうかにも繋がっていきます。なんにせよ中盤の三枚にかかる負担は相当なものですが...。

二つ目、個人的にはこちらの方が大きな問題だと思っています。風間サッカーといえば「相手を押し込め、奪われたらボールを即時奪還しろ、高い位置でプレッシャーをかけろ」これが代名詞です。この考え方、実際に相手を押し込んでいる状況なら問題はありません。相手を崩せている状況なら、これが自分達の約束事(プレーモデル)ですから躊躇なく遂行すべき。問題はそのような状況にない場合です。具体的に言えば相手を押し込んでいない場面、逆に自陣側に押し込まれている状況。こういった試合展開の中でこの約束事は通用しません。ここまで見てきた通り、簡単に相手に剥がされてしまうんです。中盤で数的優位を作られる、特定のエリアに異なるポジションの選手が加勢してくる。イレギュラーなことを相手にされるとピッチ内で対応が出来ない。これはチームとして明確な約束事がなく、準備もされていないからこそ起きる現象です。そのため相手に簡単にマークを剥がされてしまう。前述した通りジョーやシャビエルの守備意識の低さもこの問題に拍車をかける形になっています。これは風間監督のチームの最大の欠点です。

中盤で数的優位を作られボールの奪いどころを失う。サイドや裏に展開され、何度となく背走を余儀なくされる。苦し紛れにクリアをしボールを回収される。ラインを上げてボールを奪いに行きたいが、疲労と、行っても奪えないと構えてしまう気持ちと。その上でチーム全体での共通理解に問題を抱えている為、前後で分断、間延びし、そのエリアを俊輔に使われてしまった。そんなところでしょうか。

目の前の相手に喰いつくべきか、その場合他の選手はどう振る舞うべきか、共通理解がなされていない。そういった状況の中で「前からプレッシャーをかけないと」そんな意識が根底にあるからこそ、誰かが闇雲に相手に喰いつき、相手が仕掛けた罠にハマってしまう。こういったチームの欠陥、心理を遠藤や俊輔クラスの選手は見逃しません。

磐田戦の試合後、和泉がこんなコメントを残していました。 

相手がロングボールを蹴ろうとしたら、しっかりラインを下げる方がいいのかなとも思います。簡単に蹴らせてしまうと全員が逆を取られて、後手に回ってしまいます。

おそらくこのコメントの真意は、苦しい時間帯や前から上手くプレッシャーがかかっていない時間帯は、全体(チーム全員)で陣形を自陣側に構えて、チームとして縦の距離感をコンパクトに保ちたいということだと思います。蹴ってくる相手の選手にプレッシャーをかけられる選手(例えばジョー)をしっかり配置し、ときには自分達の背後のスペースを消してでも、蹴られて背走する場面を減らしたいという意図を感じます。

このチームの生命線は、やはり「常に全体の距離感(ジョーから最終ラインまでの距離)をコンパクトに保つこと」、そして「ボールを出来るだけ握って、自分達で主導権を握ること」です。

 以前、中田英寿が現役だった頃こんなコメントをしていました。「ビルドアップで最も重要なことは、相手を走らせることではない。相手の頭を疲れさせることだ。追っても追ってもボールを奪えない。相手が諦めたらこちらの勝ちだ」と。磐田戦、相手に押し込まれた原因は様々な理由が積み重なっていました。

打ち合いになるのは仕方ありません。風間監督の志向するサッカーは、圧倒的な魅力とともに大きな欠点も同居したサッカーです(だからこそ唯一無二の魅力が生まれるのかもしれませんが)。相手のクオリティがより高ければ、当然ゴールに繋げられてしまうシーンは起こると思います。それが『八宏スコア』と言われる所以です。ただどういう状況であれ、ボールを持つ、主導権を握るんだという強い意志、そのために必要な約束事だけは失ってはいけません。点を取られても取り返せる、「得失点差」のプラスを大きくしていけるチームを目指していくことが、追及していく最大の目標になるのではないでしょうか。

そして川崎戦へ

ここまで遠藤保仁中村俊輔のプレーを通して名古屋の問題点を考えてきました。どちらかといえば遠藤の方がよりゴールに直結するプレー、俊輔の方が一からゴールへの道筋を設計していくようなプレーのイメージでしょうか。そして次節の川崎には前で仕事が出来る中村憲剛と、ゲームを作ることが出来る大島僚太。これらの仕事を分担出来る陣容が揃っています。

どんな試合になるでしょうか。例えば磐田戦と同じような展開になった際、名古屋は彼ら相手に押し返すことが出来るでしょうか。悔しい話ですが、同じようにチーム作りをしてきた両チーム、私達が歩んできてぶつかった壁を、彼らは既に乗り越えてきている。彼らの方がその点一歩も二歩も前にいることは紛れもない事実です。

ただやっている選手は違います。個性が違う。名古屋には川崎にひけをとらないだけのタレントが沢山揃っています。今のチームとしての力にプラスアルファする形で、選手達のタレント力をどれだけ上積み出来るか、個人的にはそこに何より期待したいと思います。打ち合いの試合が見たいのではなく、川崎相手に打ち勝てる名古屋が見たい。

改めて、風間八宏の最大の魅力は彼の志向するサッカーの内容以上に、彼のチーム作りそのものにあるのではないかとここにきて感じています。時間はかかります。毎試合勝てるほど今の名古屋に力がないのも事実かもしれない。ただこのチームは強くなります。圧倒的な攻撃力と、それを体現出来る選手達を地道に、地道に育てている。またそれが出来る選手を一人ずつ、一人ずつ増やしていこうと積み重ねています。もしかしたらその先にいるのが次に戦う相手、川崎かもしれません。現状のチーム力では劣るかもしれない。ただ今戦えるベストの人選で臨めば、何が起こるかは分かりません。

どちらの攻撃力が最強か、豊田スタジアムで決めましょう。

 

 

※このブログで使用した画像はDAZN名古屋グランパス公式サイトより転用・加工したものです

 

風間体制二年目「始動」

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昨年の同じ時期。

その場にいる多くの選手が初めて体感することになった風間監督の指導。どの練習をするにも手取り足取りだった。長期離脱中だった松本孝平は、松葉杖で必死に移動しては一言一句逃すまいと耳を傾けていた。新しく出来た学校、そこに集った生徒達と風変わりな指揮官。あの時のことを想うと、今年は新しい選手達が転校生に見える。それはボール回し一つとってもそうで、とにかく人もボールもよく動く。全員がゼロからスタートした昨年と比べると、一年間風間先生の元で鍛え上げられ生き残った選手達の中に混じる転校生は大変である。同時にそんな光景を見ながら、ああこれが二年目の光景なのだと感慨深い気持ちになるのだ。

 

今年練習を見ていてまず気づいた点は寿人が思いのほか静かなこと。昨年は常に声をだし、どんなときも明るかった寿人。ただそれは必要以上の明るさだったとも思っていて、寄せ集め集団だった当時のチームをカラ元気でもいいから一つにまとめるんだ、そんな彼のキャプテンシーがそうさせていた気がしている。今年の姿の方がナチュラルで、より自身のことに集中しているように見える。「チームをまとめる」から「自身の結果をもってチームを勝たせる」。そちらに振り切れた寿人を見ている気がするのである。

そう考えると、昨年見た景色と今見ている景色は大きく違うのかもしれない。

新しいチーム、新しい監督の下で一から作り上げていく。今思えば昨年の今頃、私達が見ていたものは家の基礎となる土台を必死に築こうとする彼らの姿ではなかったか。初めて経験するJ2の舞台。ただ意外にも彼らの視線はそこではなく己に向けられたものであったように思う。そして今年の彼らが作る空気感。これは紛れもなくJ1という舞台に注がれたものである。基礎が出来、ここからどれだけ強く、頑丈で、美しいものを積み上げていけるか。何の為に。勿論J1の猛者達をなぎ倒していく為である。

安易に結果だけを求めず、もがき苦しみながらも揺るぎない土台を作り上げた昨年の一年間をもってして、彼らは今年のスタートを明らかに違うステージから始めた。

今更ながら、このブログでは彼等がタイに旅立つまでに私が見たこのチームの「二年目」の始まりを、出来るだけその空気感のようなものを大切にしながら書き始めたものです。練習見学のルールにも一部変更があり、具体的な内容は勿論書くことが出来ないものの、そこで見たこと、感じたこと、様々なエピソードをもってグランパスの二年目がどのようにして始まったのか、読んでくださった方に何か少しでも伝わるものがあれば、それを共有出来ればいいなと思っています。

さて、まずなにより気になるのは今年の新加入選手についてではないでしょうか。この二人に触れないわけにはいかない。

ジョー、そしてランゲラック(ミッチ)。

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シャビエル、ワシントン(ワシ)、そしてジョー。「Brazilian Storm」なんて洒落た名称で呼ばれ始めたこの三人。とにかく仲が良い。この表現が適切かは分からないが、昨年に比べジョーを含めた今年の三名の方がより密な関係性に見えるのは、おそらくジョーに早く馴染んでもらおうというシャビエルやワシの心遣いではないか。いつも一緒、そしていつも笑顔で溢れた三人。

肝心のプレーに関しては、もう紛れもなく元セレソンのストライカーです。前を向いた際の相手に与える威圧感。凄まじい。デカイ、そのわりに足元が柔らかい。あの身長をもってして躍動感溢れるステップワークを繰り出すものだから規格外の迫力。勿論「裏に抜ける」術も持ち合わせている。なにより好感が持てるのは、彼なりに風間監督のやり方を理解し体現しようとする様子が窺える点。特に感じるのは相手の最終ラインに仕掛ける、外すの部分。まだまだ身体が重い印象を受けるものの、問題児というレッテルを貼られたことのある選手とは思えないほど真面目に取り組んでいる。そういえば早速熱心なコリンチアーノ(ブラジル人ファミリー)がコリンチャンスの大きなフラッグを抱えてトヨスポに来ていたのは驚いた。「ジョー!ジョー!」と吃驚するほど大きな声を張り上げて。こんな出来事を通して、私達はいかに偉大な選手がこのチームにやってきたのか実感するのである。

そんなジョーを語る上で忘れてはいけないのがワシの存在。練習後の選手のランニングは観客としては声がかけずらいもの。ただ皆ワシには平気で「ワシー!」なんて声をかける。ワシも満更でもないのか、三週目くらいになると「ツカレタ...」と自ら返事をする(客席は爆笑)。ファンサにこればワシから「キョウサムイネ」なんて声をかけてくれる。勿論彼が残留してくれたことは戦力的にも大きいわけだが、なによりジョーがこの国、このチームに馴染むために非常に大きな存在なのではないか。彼らの様子を知ることが出来れば、いかにワシの残留に大きな意味があったか誰もが理解出来るかと思う。

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そしてミッチ。とにかくナイスガイ。イケメンなのは顔だけではありません。ファンサに来た際、「コンニチハ」なんて彼から声をかけてくれる。一人一人の顔をしっかり確認しながら笑顔で対応する彼の姿を見れば皆彼の虜でしょう。美人過ぎる奥様を見て一瞬嫌いになりそうだった当時の自分をぶん殴ってやりたい。

プレーに関しては実戦を早く確認したいところ。とりあえず風間さんの狭いコート設定(ミニゲーム)に力を持て余すミッチ。スローイングしたボールが何度もタッチを割り、その度に彼の悔しがる声と手を叩く音が聞こえる。名古屋のアイドルになる素質十分といったところか。楢さんが楽しそうに彼とコミュニケーションをとる一方、武田と渋谷が練習中も仲良くイチャこいていることも御報告しておきたい。

他の新加入選手にも触れておきます。まず今オフ最大の話題を掻っ攫った男、長谷川アーリアジャスール

最も充実感を感じる一人。ランニングの際、先頭を走る寿人と小林裕紀のグループに新たに加わったのが彼である。トライしては悔しそうに振る舞う彼の姿を見ていると、もう純粋に「あぁ楽しそうだ」と。ボール回しも全く遜色なくやっているどころか、積極的にボールに関与しようとする。常にボールに絡もうとするその姿勢、ボールを持てばまずゴールに向かっていける彼の能力は、昨年のグランパスにはなかったスパイス。今シーズン非常に楽しみな一人。杉本竜士は練習中彼のことを「ジャス!ジャス!」と呼んでいます。

そして堅守甲府からやってきた畑尾大翔。脳の入れ替えに必死です。このチームのスタイルに馴染もうと、プレー中頭の中はフル稼働。その都度最適な引出しを必死で探すように。ただ当然昨年から在籍する選手に比べればそれを探しだす速度も、いやそもそも引出しがまだ整理されているわけでもない。ボールを保持しながら悩み、身体と頭が噛み合わずそのボールが予期せぬタイミングで足に当たってこぼれてしまう。サッカー経験者なら誰もが「分かるその感じ...」と頷いてしまうような現象を見る限り、今の彼は風間監督の言葉を借りればまさに「頭の整理」をしているところだと思う。ただ新体制発表会で本人が自信アリと語っていたフィード。非常に綺麗な軌道で正確なボールを蹴る。また日に日にこのサッカーに慣れていく様子も窺える。これからどう変化していくか楽しみな選手である。

さて、今年もトヨスポでは風間鬼教官による若手指導が見られそうだ。

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青木、深堀、そして最も目をつけられていそうなのが大垣勇樹。杉森が去った今、風間監督の愛の鞭をもろに受けそうな気配。大垣は寡黙な男だ。あまり笑っている姿も見たことがない。ただFWとしての彼の潜在能力を風間監督が高く評価していることは、練習における彼の使われ方、彼に対する指導を見ていれば分かるというもの。風間監督が提唱する技術を体得すれば、自ずと素晴らしいFWに育っていきそうな雰囲気は十分にある。

「大垣!!今崩せなかったのはお前が相手に全く仕掛けられていないからだ!!」

今の私に書ける精一杯の風間語録である。

活気溢れるグラウンドから少しだけ目線をずらすと、いつもウズウズした様子でリハビリに励む選手が二人。長期離脱中の新井一耀、そして松本孝平。ルーキーイヤーから二年連続でリハビリ組としてスタートした松本のことを想うと胸が苦しくなる。一年間リハビリに励み、新シーズンを迎え尚その状況を打破出来ない彼の苦しみが私達に分かるはずもない。誰よりもこのピッチで皆と練習したいと願い続けて戦っているのは松本をおいて他にいないだろう。

ただ今年は隣にもう一人、新井という存在がいる。先が見えないリハビリ生活の中で、常に隣で同じようなメニューをこなす仲間がいることが、お互いにとってどれだけ心強いことか。ミニゲーム中に動きを止め、食い入る様にその光景を眺める彼らを見て、一日も早く元気な姿でこのミニゲームの輪に戻ってきて欲しい...深い絆で結ばれているように見える彼ら二人の姿を眺めながら、サポーターとしてそう願わずにはいられない(お...ボール蹴ってる!!)。

 

さて、最後にやはりこの点は個人的に触れておきたい。田口泰士について。

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練習場に行っても当然ながらもう彼の姿はない。練習が終われば一目散にファンサに来る彼の姿も(風間監督の彼に対する自主練評価はどうだったのか...)、三男(杉本)を長男(玉田)と挟んで楽しそうにしている次男の姿ももうそこにはない。当たり前のようにあったその姿がない、この現実は分かっていてもやはり想像以上に寂しいものだ。

私達はこれまでのチームの心臓を失った。目を背けてもそれは紛れもない事実だ。

今年のチーム編成に目を向けると、強化部は例えばもう一人獲得可能だった外国籍の枠をあえて空けたままストーブリーグを終えようとしている。チーム全体で見ても26名という最低限の人員でJ1復帰のシーズンを迎えることになる。

ただ私はあえて残したこの「余白」を今年の楽しみにしようと思う。誰がこの空いたポジションを掴み取るのか、風間監督がどういった采配を取るのか、適任者が見つからない場合強化部がどう動くのか。この余白をシーズンを通して見ていくことは今年の楽しみの一つであり、グランパスが新たな歴史を刻んでいく上でも重要なものになるのではないか。

泰士は別の道を歩むことを選んだ。だからこそ私達もまた別の道を歩まなければいけない。

泰士が抜けて空いた場所は穴ではなく、新たな可能性そのものなのだ。

ターニングポイントになりそうなのは新井が復帰するタイミング。今日からそこまでの3~4ヶ月でこのチームがどう進化し、J1の舞台でどういった戦いが出来るのか。

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最近見たテレビの番組で株式会社コルクの代表である佐渡島庸平がこんなことを言っていた。

「ビジネスとは動いた心の量をお金に替えることだ」

サッカーでいえばそれはスタジアムになるのかもしれない。ただそのスタジアムで起きることは、日々の練習場での弛まぬ努力、積み重ねがあってこそ生まれるものだ。練習場で見る人間模様、選手の苦悩や葛藤、努力。今年もこの場所でチームは進化していき、スタジアムで極上のエンターテイメントを見せてくれるに違いない。

今年はどれだけ私達の心を動かしてくれるだろう。 

今のグランパスには沢山の人の心を動かす力がある。

待ちに待ち焦がれたJ1復帰の舞台はもうそこまできている。 

 

 

※このブログで使用した画像は全て名古屋グランパス公式サイトより転用したものです