みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

絶望から歓喜へ。降格からの一年が教えてくれた「J1にいること」の意味

f:id:migiright8:20171130002101j:plain

2017年11月28日火曜日。このブログを書き始めたことをまずご報告。

まだJ1へ昇格したわけでもなく、次の日曜にもし負ければこのブログはお蔵入り。ただ浮かれているわけではないのだが、私は福岡に勝つ気がしている。勿論彼らのことを侮っているわけではない。それだけ初戦の千葉戦が山場だと考えていた。そこに勝ったのだから、いち早く昇格決定ブログをしたためてやろうという腹黒いブログです(←)。

さて、真面目な話に戻す。私が書きたかったことは勿論グランパスのこと、そして初めて経験した「J2プレーオフ」のこと。こんなにサポーターが緊張する試合ってあるんですね。このプレーオフで見たこと、感じたことを書いていきます。

時は戻って2017年11月26日(日)。場所はパロマ瑞穂スタジアム

スタジアムに入った際、まず驚いたのがアウェー側を埋め尽くすジェフサポーターの黄色一色の光景だ。

「これがプレーオフか...」

観戦に来た私まで一気に緊張感が増したのは言うまでもない。勝てば明日以降も希望を持つことを許され、負ければ夢が潰える。少なくともまた一年間のJ2生活。勿論昨年のように、例えばこの試合に負けても降格するわけではない。ただ結局上のカテゴリーに上がれなかったという事実にだけ目を向ければ、状況は今年の初めと何ら変わらない。

f:id:migiright8:20171130005550p:plain

ピッチでの練習が始まり、誰もが驚いた光景、それが宮原和也の練習内容である。通常であれば最終ラインの中央を守る選手だけに課せられるトレーニング。それに彼も参加している。グランパスはシーズン最後の9試合、7勝1分1敗の成績で駆け抜けた。その原動力であったシステムを、この負けられない試合で投げ捨てたことは、図らずも私達に不安ではなく、「風間八宏が遂に動いた」と大きな期待を抱かせた。それはやはりどこかで二週間前のあの敗北を誰しもが引きずっていたからではないだろうか。プレーオフまでの一週間、私達の話題は千葉に対して同じように正攻法で挑むのか、それとも風間八宏が「何か仕掛ける」のか。その一点だった。

試合に関しては「名古屋がシモビッチ目掛けてロングボールを...」など、いかにも普段全く選択肢にないような言葉がどうしても踊る訳だが、この点に関しては二週間前、完膚なきまでに叩きのめされた際、風間監督はこうコメントしている。

今日の場合は、中盤で繋ぐ必要がないので

何故ボールを持つのか。正確な技術が必要なのか。それは「相手を見るため」であり、決してどんな状況でも細かく繋ぐためではない。なのでこの点に関して、風間八宏が理想を捨てたという解釈は個人的にはどうにも腑に落ちない。

むしろ驚いたのは千葉が後方からビルドアップを始めたときである。システムを変更したことで千葉の選手達の配置に対しミラーのように一人ずつマークする名古屋の選手達。

この一年間、名古屋のサッカーには「前から奪いに行く」ことが重要だと言われ続けた。しかし蓋を開ければ毎試合毎試合相手の配置など関係なく守備を始める姿がそこにはあった。対戦する相手の情報など知らされず、その日までに学んできたことを裸のままぶつけてこいと送り出されているような。そんな感覚に近い。相手が名古屋に対し戦術武装していようが彼らは何も知らされず、自分達の力だけを信じて相手と向き合うしかなかったのではないか。

ただこの試合は違った。

明らかにこの一週間、千葉というチームをイメージして練習を重ねてきたであろう名古屋の選手達の姿。迷いのないプレー。二週間前ビルドアップを破壊されたチームは、その相手のお株を奪う形で彼らのビルドアップを破壊し、ゲームの主導権を握った。勿論それは「相手の良さを潰す」ためではなく、「自分達の良さを活かす」ためである。

f:id:migiright8:20171130004708j:plain

シーズン中、試合前には決して選手達に地図を見せず、進む道は試合の中で自ら導き出せと、とにかく選手の自立性に拘った指揮官が見せた勝負師としての采配。カーナビとまではいかないものの、事前に地図で目的地を把握し、そこに至るまでの経路を検討したうえで試合に臨んでいるようなそんな采配。なんとも風間八宏らしいではないですか。だってカーナビではないのだから。最後は自分達次第。

そう、この人は険しい道に遭遇したときの為に、それを乗り越えられるような技術は教えてくれる。ただ決して「この道を進め」とは言わない。考えて行け、行ってみてまた考えろ。ただ今回ばかりは「この道を進むとこんな難関が待ち受けているぞ」と事前に教えてくれていたような。また少しでも選手達が歩きやすいように道具も授けた。それらを駆使して教えてきた技術を最大限活かせと。

ただ何度も言うがこの人は決してカーナビにはならない。なれない。ルートを事前に案内するなんて絶対にやらない。また予期せぬアクシデントで「その場に立ち止まり耐え忍ぶ」という行為は苦手な人だ。どんな困難が立ち塞がろうとも突き進めというのが風間八宏である。このプレーオフで、私達は彼の新しい一面、彼のもう一つの素顔を知ることになった。普段は自分達で歩を進め、気づき乗り越えろという人間が、事前に地図を広げ道具まで持たせた。それが彼にとっての「目先の勝ちにこだわる」術なのだ。

さて、1点リードされ迎えた61分、田口泰士が値千金の同点ゴールを入れる。スタジアムが歓喜に包まれる中、ベンチの前に出来た歓喜の輪の一番下で、最後まで泰士に抱きつかれていたのが楢崎正剛である。シーズン終盤、出番を失っても常にムードメーカーとしてチームを引っ張ってくれたナラさん。そんなナラさんの姿を見るたびにサポーターは胸打たれたものです。そんなに明るく振る舞わなくてもいいのに。無理していないかと。泰士は試合後のコメントで、昨季の最終戦のことが心に残っていたと語っている。

それもあったので、得点後はナラさんのところに走っていった

二人の「元」キャプテン。そして彼らは私達そのものだ。昨年降格が決まった際、二人のどちらかでも失っていたら今のグランパスはなかったのではないか。これだけ選手が入れ替わってもグランパスグランパスのままでいられたのは、間違いなく彼ら二人の存在があったからだ。だからこそこのシーンには二人の、そして私達の1年間が詰まっていた。

f:id:migiright8:20171202220533j:plain

試合に戻る。ロスタイム。青木が倒されPKを獲得した瞬間、おそらくあの場にいたほぼ全ての名古屋サポーターがこの試合に勝ったと確信したでしょう。そういう私もその一人。ロビンのPKが決まった瞬間はもうそれなりに落ち着いていた。

だからこそゴールと同時に試合終了の笛が鳴った瞬間、悔し涙とともにしゃがみ込むキムボムヨンの姿が目に飛び込み、複雑な気持ちになった。私達は生き残り、彼らの夢はその瞬間潰えた。

f:id:migiright8:20171130003644p:plain

帰りの名古屋駅での光景。多くの名古屋サポーターとともに、多くの千葉サポーターの姿がそこにあった。明日もJ1への想いを馳せることが出来る私達と、敗北した現実、そして来年のチームはどうなるのかと不安に苛まれる彼ら。その日の朝までは同じ立場であったにも関わらず、一夜にしてはっきりと明暗が分かれるこのシステムの恐ろしさ。

勝戦線に絡まずともJ1の舞台に踏みとどまれたチーム、逆にJ2の舞台に「落ちてしまった」「残ってしまった」チームとでは天と地ほどの差があることを私達は知っている。このチームで誰が残ってくれるのか、誰が上のカテゴリーから引き抜かれそうなのか。この日からまたその現実が始まるのである。勿論今まで歩んできた道のり、チームの規模、予算、ライセンスの有無によってJ2というカテゴリーの捉え方は異なる。ただ少なくともJ1をそれなりに経験してきたチームからすればこれが現実だ。J1という頂上へ向かって、プレーオフという名の梯子を差し出され掴んで這い上がろうとしていたにもかかわらず、そこから急に崖に落とされる。プレーオフとはそういう舞台なのだ。

昨年まで当たり前のようにいたJ1。そこに戻る為にどれだけ険しい道を歩み、どれだけツラい思いをしただろうか。

降格、そして次々と名古屋を去っていく選手達。そんな沈没寸前のグランパスにやってきたのが佐藤寿人だった。今更ながら、よくあの時期に名古屋に来る決断が出来たと思う。チームが壊滅的だったあの状況で、最初に名古屋に来る決断をしたのがサンフレッチェ広島の顔、佐藤寿人だった。

f:id:migiright8:20171130234853j:plain

ゴール以外の部分でもチームの勝利のためであれば、何でもやる覚悟です

あの、今は本当に苦しい状況だと思います。ネガティブな情報もたくさんある中で、「グランパスはどうなっちゃうんだ」という心配事の方が多いと思います。でも苦しい時にどれだけのことが出来るか、そこに人間としての本質が出ると思うので、ぜひ多くのグランパスを愛するファン、サポーターの皆さんに一緒になって戦ってもらいたいと思います

いつまでも起こってしまった「降格」というネガティブな事実にばかりああだこうだと言っても、落ちてしまったことは事実ですし、いかにこれから明るい未来に向かって歩いていけるかってことの方が大事だと思います

寿人は当時真っ暗闇の中にいた私達に光を差してくれた希望そのものだった。

また彼は移籍会見の際このようなコメントも残している。

出ていく選手がすごい!みたいに書かれているけど、いやいや入ってくる選手も決まっているのに何で書かれていないんだろうとか。(中略)この降格が決して悪いものではなかったというのを、これから選手全員で証明していきたいですし、フロントスタッフはじめ、クラブ全体がそういう思いでいると思っています

このキャプテンを絶対にJ1の舞台に、「名古屋グランパスのキャプテン」として戻してあげなければいけなかった。「諦めるな」「今から始まるんだ」。このチームに魂を宿し、サポーターの心に灯をともしたのは紛れもなく寿人である。

J2が私たちに教えてくれたこと、それは「J1の舞台がどれだけ尊いものか」である。例えば単純に上のカテゴリーにいられるのが楽しい。いや実際はそんな甘いものではない。下に落ちれば応援していた選手達を失う可能性があるのだ。それがどれだけサポーターにとってツラいことか。毎朝起きる度に家族だった人間が一人、また一人と家を出ていく報を知る過酷な現実。だからこそ何が何でも上のカテゴリーに上がりたいのだ。しがみついてでも、もう離しては駄目なのだ。

2017年11月29日(水)21時38分。名古屋公式からプレーオフ決勝に向けて、小西社長からの直筆メッセージが発信される。

この一年、皆で手と手を取り合いながら、初めて登った険しい山の上から、また新しい景色を見るために

メッセージも嬉しかったが、個人的にこの前日、風間八宏に関して似たような例えで表現していただけに、社長のこのメッセージがなんだか妙にしっくりきた。そう、これは私達だけではない。戦った選手達もまた、初めて登るような険しい山だったに違いない。このメッセージを読んだ誰もが、新しい景色をこのチームと共に見るのだと改めて決意したのではないか。このタイミングで直筆のメッセージ。なんとも粋な計らいだった。

2017年11月30日(木)21時55分。名古屋公式がプレーオフ決勝動画を発信。

あとひとつ。想いはひとつ。

2017年12月2日(土)。川崎フロンターレが悲願のJ1初優勝を決める。

風間八宏と共に等々力に乗り込みたいという願望。それが叶ったときにはJ1王者として立ちはだかることになる川崎。その舞台を想像するだけで昇格への想いが強くなる。大きなモチベーションになる。明日は私達が歓喜の涙を、そう思わずにはいられない。

 

そして迎えた2017年12月3日。

 

私達はJ1の舞台に返り咲いた。

 

泰士が泣いていた。どの選手も泰士に抱きつき、声をかけていた。

楢崎正剛は試合後、泰士に去年のことを背負わせてしまった後悔、ピッチ上で助けになれなかったことを悔いていると語った。

降格からの1年間。苦しかったのはサポーターだけではなかったのだと改めて痛感する。名古屋グランパス史上初のJ2降格。そのシーズン、キャプテンマークを腕に巻いていた男が、誰よりも安堵し、涙を流していた。

彼は試合後にこうコメントした。

ファン、サポーターのために闘うと決めた1年だったから

f:id:migiright8:20171204000132p:plain

もう一つ試合後の光景から。今年の名古屋を象徴するチャント、それが「風」である。

試合後、サポーターと選手がともに歌う姿は見慣れた光景だ。ただこの日驚いたのは、大型スクリーンに映しだされた風間八宏の姿。サポーターと共に歌う彼の姿だった。

昨年彼は川崎フロンターレでの最後の試合、天皇杯決勝に敗れ、無冠のままチームを去った。そしてこの日の前日、その川崎が悲願のJ1初優勝を成し遂げた。

勿論私達はJ1で優勝したわけでもなければ、J2で優勝も出来なかった。

ただそれがJ1昇格という結果でも、私達はこの一年、その結果だけを欲していたのだ。それで十分だった。川崎だけではない。彼のこの1年もまた同じように報われた気がして、名古屋サポーターとしてはなんだかとても嬉しかった。

福岡のことにも触れておきたい。

勝者がいれば勿論そこには敗者も存在する。歓喜の涙の横には、必ずもう一つの涙がある。

f:id:migiright8:20171204001228p:plain

グランパスサポーターは、試合後名古屋の選手達に拍手を送った福岡サポーターの姿を忘れないでしょう。逆の立場だったとき、私達は同じことが出来ただろうか。

福岡の選手も、サポーターもまた、同じようにこの一戦に賭けていた。ただ彼らはこの日の勝者を、J1に昇格したチームを称えることを選択した。決勝に相応しい相手、そしてサポーターであったことをここに書き記したい。

さて、サポーター一人一人にどうしても昇格したい理由、想いがあったのではないでしょうか。

個人的には新井一耀に触れておきたい。私が何より嬉しいのは、彼の復帰の舞台にJ1という名のステージを用意出来たこと。勿論まだ去就は不透明である。ただ私は彼が赤いユニフォームを纏ってJ1のピッチに帰ってくることを期待してやまない。これは全名古屋サポーターの総意ではないだろうか。あの怪我が起こるまで、名古屋グランパスのディフェンスリーダーは疑いなく彼であった。どうか安心して帰ってきてください。

最後に小林裕紀のことを書いて終わりにしたいと思う。「上手くなるため」。それが彼が名古屋に来た理由である。ただどうにもそれが解せなかった。そんな漠然とした理由で、残留を勝ち取ったチームのキャプテンが、下のカテゴリーに蹴落とした当時のライバルチームにわざわざ来るのかと。

シーズン終盤、親愛なる新潟サポーターの方から一冊の本を受け取る。「アルビレックス散歩道2016」。えのきどいちろう氏の一年間のコラムをまとめた大作である(名古屋にもこんな本が欲しい)。驚きました。小林裕紀が何度も泣いているんです。あのファンサが不愛想で、エンジンかける音が異様にデカい、キャプマの締め方に妙に拘りのあるあの小林裕紀が、この本の中では苦悩していた。キャプテンとして結果を掴めない日々に、満足なプレーが出来ない自分に。あれで誰よりも繊細で、責任感が強い男なのだと知るには十分な内容で。実は彼、昨年の瑞穂での名古屋戦の後、新潟サポータの前で涙を流していたらしい。自分の不甲斐なさに。

今年の3月4日、豊田スタジアムで開催された第2節、対岐阜戦。前半33分で交代を余儀なくされた彼の後姿を、メインスタンドからずっと見ていた。次に彼に出番が訪れるのはここからもっと先、6月10日、第18節対東京V戦。実に約3ヶ月間、彼はここ名古屋でも苦悩していた。上手くなりたいと願い名古屋に来た男が、何より上手いことを評価する風間八宏の下で3ヶ月間も出番がなかった事実。

プレーオフ千葉戦後、風間八宏小林裕紀のことを相棒の田口泰士とともにこう評している。

泰士は我々のモーター。(小林)裕紀と2人がウチの心臓部なので

挫折。苦悩。そして華麗なる復活劇。それらを全て見ることが出来た私達は幸せ者だ。そう、彼は誰よりも上手くなりたいと願い名古屋に来たのだ。そして彼が一歩ずつ歩みを進めてきたその道のり、その姿を忘れることはない。

前述した東京V戦、彼はCBを務めていた。それからボランチに返り咲くまで、彼の自主練は毎日酒井隆介と一緒だった。ロングボールを蹴ってもらい、ヘディングで跳ね返す練習。酒井にアドバイスを求めながら何度も、何度も。今思えばそのエピソードに彼の生真面目で繊細な性格、そしてどんな形でもピッチの上でチームに貢献したいという責任感、上手くなりたいという想いが込められていた気がする。

それから数か月後、彼はピッチ上での私達の心臓、モーターとなった。これからは贅沢なことに、J1の舞台で彼がここから更に成長する姿も私達は見ることが出来る。

改めて名古屋に来てくれた偉大なる副キャプテン、小林裕紀に感謝を。

f:id:migiright8:20171130002023j:plain

ここから年末にかけて選手の去就に関するリリースも出始める。喜べるものもあれば、きっと悲しいものもある。ただこの年末はきっと喜べるものが多いでしょう。「解体」ではなく「強化」。それがどれだけ夢に満ち溢れているか。

試合後、名古屋公式が掲載した小西社長の言葉。

「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。

 唯一生き残るのは、変化できる者である。」

昨年末、悔しくて、苦しくて、涙したあの日々を乗り越え今がある。だから今年ばかりは、昇格出来た喜びを噛み締めながら年末年始を過ごしてもいいのではないでしょうか。グランパスサポーターの皆様、一年間お疲れさまでした。

来年またスタジアムで、

このチームと共に、

J1の舞台で集結しましょう。

f:id:migiright8:20171204003517p:plain