みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

爆買いとポイ捨て。尽きることのない賛否

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「爆買いポイ捨てチーム」

これ、最近友人に言われた一言である。流石にカチンときたぞ。かなり仲の良い友人だったが、売られた喧嘩はきっちり買った(謝られたけど)。

そう、これがグランパスに興味のない人達の自然なリアクションだ。このチームへの知識や理解に乏しい人達が見れば、私達のチームがやっていることは「爆買い」で「ポイ捨て」なのである。

勿論その改革を推し進める首謀者は風間八宏。情の欠片もない、自らの都合で選手を切り売りする非道な人間といったところだろうか。なにせとにかく評判が悪い。いや、評判が悪いというより、ただの嫌われ者だ。システマチックな戦術とは対極に位置し、守備は杜撰。そのくせ使う選手は選ぶのだから、嫌われるのも無理はない。そのあまりに振り切れた志向が、どうにも「サッカー通」を遠ざける。

今更彼のサッカーを掘り下げるつもりはない。散々語られてきた内容であるし、好き嫌いが分かれるのも承知している。彼のサッカーが至高で、全く欠点のないものだなんて私自身これっぽっちも思わない。

ただ冒頭の言葉が引っかかった。私達の愛すべきクラブが行っていることは、果たして本当に「爆買いポイ捨て」と言えるのか。

【第一期】このチームは一度「解体」した

風間八宏が就任してからのグランパスを語る上で、この点に触れないわけにはいかない。2016年に初のJ2降格が決まり、そこから始まったオフに起きたことを忘れる者はいないだろう。主力級の選手達は次々とチームを去り、このチームに残った選手はたった15人。内、前シーズンにスタメン争いをしていた選手達は約半数程度しかいない。

逆に加わった選手達は18人。当時のグランパスを取り巻く環境(マスコミ報道)を考えれば、「よく集まった」、これがサポーターにとっても正直な感想だった。ほぼゼロからのスタートの中で、可能な限り風間監督の志向にあった選手を獲得したい強化部。ただその意向とは裏腹に、クラブには逆風が吹き荒れる。肝心の新監督も、前チームの活動により始動が遅れるまさに二重苦の状況。今思えば、強化部側の風間監督への理解が不足していたのか、理解はあったが獲得可能な選手に限りがあったのか。そこは定かではないが、同時にどちらも間違いとは言い切れない時期だったのかもしれない。

当然ながら、このチーム立ち上げ時が「風間体制第一期」である。

【第二期】シーズン途中に加入した「足りなかったピース」

ほぼ「寄せ集め」の状態でスタートした名古屋は、J2の舞台で不安定な飛行を続けた。与えられた材料で上手い料理を作る監督なら結果も違っただろうが、風間監督は与えられた材料を育てようとする監督だった。調理をしない。結果、材料(個)の持つ味(力)がそのまま誤魔化されることなく表現されてしまう。求められる動き、スキルを体現出来る者と、どれだけやっても上手くいかない者の差は広がるばかり。そんな選手達を組み合わせ、策すら与えないのだから、苦戦するのは必然だった。志向するサッカーも十分振り切れている風間八宏。ただなにより極端だったのは、チームビルディングにおける彼の手法そのものだ。どれだけ負けても、屈辱的な敗戦を喫しようと、それが必要な順序の中で起きたことであれば、軌道修正する事はなかった。寄り道をしたり、狡賢く楽な道を選ぶこともない。その点彼は妥協を知らない。今思えば、最初の半年間は「昇格するためのベース作りと、足りないピースを確認する時期」だった。

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そのうえでこの夏に名古屋に加入した代表的な選手が、シャビエル、そして新井である。半年間選手達と共に風間監督の練習に触れ、会話を重ね、理解を深めた強化部の素晴らしい仕事だったことは今更言うまでもない。それと同時にこの時期から選手の放出も進んだ。出番に恵まれなかった選手達にとって、自身に飛び込んだ他チームからのオファーに対し首を横に振る理由などなかった。強化部もその点に関して、選手達の意志を最大限尊重した。当事者が他チームでプレーした方が未来があると判断すれば、強化部にも飼殺しするような意図はない。

これが「風間体制第二期」だ。

【第三期】一年での昇格。新たに加わった者、去っていった者

無事一年での昇格を果たした名古屋だったが、J1で戦い抜くための補強は思いの外滞った。後に大森氏は「プレーオフの影響で出遅れたのは事実だった」と語っているが、獲得に動いた選手はことごとく名古屋にNOを突きつけた。逆にチームの大黒柱だった田口泰士が名古屋を去る決断をしたのは、なにより風間監督にとって大誤算だっただろう。大きな補強となったのは、ジョー、そしてランゲラック。最前線と最後尾に、「日本人以外の選手」で大金を投じて補強するのが、シーズン前の名古屋には精一杯だった(それが出来るから凄いのだが)。

それでもチームはJ1レベルにはなかった。大きな期待を集めた名古屋だったが、シーズンが始まると思うような戦いは出来なかった。補強の目玉だったジョーやランゲラックも苦労していた。片や欲しい場所、欲しいタイミングでボールが届いてなんぼのストライカー。片やチームの守備があってこそのゴールキーパーである。ジョーは彼自身のコンディションにも問題があったと感じるが、ランゲラックに関しては、はっきり言って不遇の日々だったと言わざるを得ない。チーム単位で見れば、結果的にJ1で十分に戦える戦力を要していなかったというのが事実だろう。風間監督の采配に起因する部分も相当に影響があるが、では戦力が充実していたかと言えばこれも疑問が残る。特にセンターバックの駒が揃わなかったのは痛恨の極みだった。また控え選手の層にも大きな問題があった。

これが「風間体制第三期」。

【第四期】出番を失っていた実力者達にターゲットを絞った補強戦略

この夏の補強戦略は明確だった。ゴールを奪える選手とゴールを守れる選手は既に存在する。ピッチに魔法をかけられる選手もいる。必要だったのは「名脇役」だ。固まらないジョーの相棒、田口泰士が抜けて埋まりきらなかった中盤の要、ランゲラックの前で鍵をかけられるセンターバック。強化部が秀逸だったのは、「獲得できる余地のある選手」に狙いを定めたことだ。所属チームで出番を失っている選手、レギュラー格とは言えない選手。ただし将来有望な若手や、代表クラスの選手に候補を絞り、そこに潤沢な資金を投じた。シーズン中、しかも最下位のチームというハンデを乗り越えるためには理に適った戦略だ。

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その結果獲得に成功したのが前田直樹、エドゥアルドネット、中谷進之介、丸山裕市、金井貢史である。いずれも今のチーム状況を鑑みれば「よく獲得出来た」クラスの選手達だ。また全ての選手が即レギュラーとなって活躍していることにも注目したい。意地悪な見方をすれば「既存選手の立場は?」となるかもしれない。ただ一方で見方を変えれば、それだけ強化部が風間監督の要望にピンポイントに応えているとも言える。風間監督の言葉を借りれば、この一年半の間で、強化部の目は間違いなく風間監督のそれと揃ってきている。

これを「風間体制第四期」としたい。まさに今のチームである。

さて、ざっとこれまでの一年半に起きたことを振り返ってきた。もう第四期なのかと笑われそうである。表現の善し悪しはともかく、このチームにとっての転換期が既に四回あったことは事実だ。同時に気づくことは、今年名古屋がやっていることは、昨年やってきたことの焼き回しであるということ。「昇格」そして「残留」と大きな違いこそあれど、昨年はJ2を勝ち抜くために、今年はJ1で生き残るために、それぞれの舞台や目標に対し、シーズンを戦いながらチーム自体を作り替えてきたことが理解出来る。

では結局のところ、名古屋がやってきたことは「爆買いポイ捨て」だったのか。これまでの流れを踏まえた上で、この二点に絞って考えてみたい。

①本当に「爆買い」なのか

この言葉をどう定義づけるかが問題ではあるものの、仮に「大金を投じること」だとすれば、その指摘は決して間違いではない。いくら計画性のある補強とはいえ、これだけの選手を次々に獲得出来るのは並のチームでは不可能だ。これまで書いた通り、結果的に毎シーズン、半年間ごとに生まれた課題を「補強」することでカバーしている。

ただしこの点に関していえば、使える予算が潤沢であることを恥じる必要はない。名古屋はそのクラスのクラブであり、堂々とやれば良い。イニエスタのために費やす大金に拍手が起こり、名古屋が費やす大金に文句をつけられる筋合いなどない。どこの国のビッグクラブも、必要な選手には資金を惜しまない。これはジョー獲得の際もそうであったが、名古屋だけ目くじらを立てられる理由などないのだ。

また爆買いを「チームの補強ポイントに関係なく、次々とホームランバッターを連れてくる」との意味で使うなら、名古屋は決して爆買いなどしていない。改めて語るまでもなく、この一年半、必要な補強しかしていないのは前述の通りである。

②名古屋から出た選手は「ポイ捨て」されたのか

この点に関しては、選手の入れ替えが激しいのは紛れもない事実だ。例えば既存の選手を短期間でレベルアップさせる、不可能であるなら「監督の力で勝たせる」。そういったことが出来ているわけではない。いや、するつもりがないのかもしれない。

おそらくだが、風間監督は選手を「選別」している。より具体的に言えば、彼の求めるレベル、理想を叶えられる選手達を、加入と放出を繰り返す中で絞り込んでいる。その基準は「チームで最も目が速い選手」だ。先頭集団で走れる選手達を育てることを目的とし、同時にチーム内での誤差を限りなくゼロにするために、その時々のチームのレベル(先頭集団の速度)に準じて必要な箇所に補強をする。そして強制的にチーム全体のレベルを上げる。この点はとにかくシビアだ。彼の志向するサッカーは、ピッチに立つ選手の一人でも見ている世界が違えば、そこから水は零れてしまう。本来であればチーム戦術がその誤差を埋める役目を果たしてくれるのだが、風間監督のチームに関してはその点「個」に依存する。いや、それを理想としている。攻守において、いかに見るべきものを早く見ることが出来るか。それを可能にするための唯一の手段となる「技術」。それを下のレベルに合わせるのではなく、あくまで上のレベルに合わせる。そしてチームのレベルを引き上げる。まさに「アップデートの繰り返し」だ。その点に関する妥協は絶対にない。それが仮に補強という手段になったとしても。

ただ矛盾するようだが、彼が補強を要求することはあっても、放出を促している印象は受けない。彼以上に選手に期待している人間はいないとも思う。それと同時に、彼は選手達を「一人の事業主」として非常にリスペクトしているように映る。名古屋での出番が限られた選手に他チームからオファーが届いた際、選手の意思を最優先に尊重するのはそのためだ。

一つの例が永井龍である。正直に言って、今年の前半戦の戦いを見る限り、永井龍はまだこのチームに必要ではなかったか。ただそれでも山雅への移籍を許可したのは、他でもない彼自身のサッカー人生を尊重したからだろう。逆に昨シーズン彼ほどのインパクトを残せなかった押谷祐樹内田健太はチームに残留し、今年の前半戦、いくつかの出番を与えられていた。練習でのプレー内容が良ければ、躊躇なく起用する風間八宏の哲学もまた、一切ブレることはなかった。ただ当然そこで結果を残せなければ後退するし、チームの成長速度も待ってはくれない。そのスピードに置いて行かれてしまえば挽回のチャンスが巡ってくることもない。他チームからオファーが届けば心は揺らぐし、その決断を風間監督が止めることもないだろう。

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選手の入れ替えが必要以上に多い点に関しては、冒頭に挙げたこのチームの結成当初の状況がそうさせている。あれだけ多くの選手が加入し、全ての選手が風間監督の理想にハマるはずもない。後から入ってきた選手が既存の選手より優先されるのも、前述した理由から考えれば決しておかしなことではない。チーム自体も特定の色(チーム戦術)に染まっていない為、新しく来た選手が馴染むのも比較的容易である。

また多くの放出した選手に関して、こんな意見もあるかもしれない。そもそも本当に彼らの力が劣っていたのか、と。他の監督であればもっと重宝された選手がいたのではないか。この点に関しては、確かに純粋にプレースタイルが合致しなかった選手もいる。

では逆にこの一年半の間に名古屋から出て行った選手で、J1のレギュラークラスとして現在も定期的に稼働している選手が果たして何人いるか。そう考えたとき、この一年半におけるその時々の名古屋の戦力が、客観的な視点で見てどのレベルにあったのか考察することも可能となる。決して同レベルの選手を常に取っ替え引っ替えしているわけではない。これだけの入れ替えが起きたのは必然といえば必然だった。これが私の感想である。

一年半見た風間八宏という監督

結局のところ風間八宏は優秀な監督なのだろうか。この一年半、グランパスを通して見てきた風間八宏には、本当に信じられないほどの賛否がついてまわった。

一つだけ言えるのは、プロクラブにおいて彼のやり方を可能とするのは、

  1. そもそも彼の条件を満たす選手が揃っている
  2. 彼の条件を満たせる選手を揃える財力
  3. 彼に全てを預ける覚悟と時間

このどれかの条件が揃ったときだけであろう。個に依存するとはそういうことだ。与えられた材料で調理する、監督の力でデザインするわけでもなく、個々の能力を最大限伸ばすことでチーム力を底上げするには、相応の時間を要するし、時間が与えられなければそれが出来る選手に「投資」するしかない。

その意味では、最近起きたアルビレックス新潟の事例は決して他人事ではなかった。

鈴木政一監督も、ある意味で風間監督に非常に似た思想を持つ人物だった。安易に選手に答えを与えず、考えることを要求する。選手に一定の裁量を与え、「自由=最低限の約束事だけ共有させ、各々がその場その場で判断をする」ことを前提とし、選手自身の底上げを図ることを重要視する監督だった。

その象徴ともいえる内容が先の記事内にある。磯村のこのコメントだ。

今年はボールを狙えないんですよ。思い切ってバン!と取りに行けない

これは名古屋の選手にも通ずる内容だ。細かなチーム戦術で選手を縛らないからこそ起きるジレンマ。一人出来れば良しではなく、それをピッチ上の選手たちそれぞれが理解出来ないとチームとして機能することはない。

結果はシーズン途中での解任である。潤沢な資金があるわけではない新潟にとって、名古屋と同じように選手に投資をすることは出来なかった。では時間をかけて既存戦力の底上げにクラブ含め注力出来たかといえば、実際は降格チームに課せられた「一年での昇格」という暗黙の了解が彼らに重くのしかかった。

 結局のところ、この手のタイプの監督にチームを預けるには、そのチームに「何が求められているか」が重要になる。既存選手の底上げを図り、チームのベースを上げつつ強化していくのであれば、間違いなく相応の時間を費やすこととなるだろう。何故なら彼等は共通して「選手自身に考えること」を求める監督だからだ。全てを型で教えるのではなく、多くを考えさせるということは、選手の吸収速度に必ず差がつく。

ただJ2で戦っていた時の名古屋や、前述した新潟には「一年での昇格」が当然期待されていた。風間監督のように、半年が経過した時点で足りない部分を「補強」する行為は、確かに金にモノを言わせた手法ではあるものの、最も即効性がある裏技にもなる。それで時間を一気に短縮できる。クラブがどんな目標を掲げ、その納期をどの時期に設定するかでフロントや強化部がやるべきことは大きく変わる。何故なら彼等が抱えている監督達は、己の信念を曲げてまでそこに歩み寄る人物ではないからだ。

逆にそういった投資が出来ないチームの場合、なにより時間が足枷となる。新潟の場合、「育成」と「結果」、この二頭を一年で追った結果、少なくとも鈴木体制においては一頭も得ることが出来なかった。投資という手段がない以上、フロントに出来ることは「我慢と覚悟」であったと思う。ただそれを彼らは許さなかった。その意味で、結果論にはなるものの、鈴木政一アルビレックス新潟の組合せの相性は決して良いものではなかった。少なくとも、J2でそれを志すには、あまりにリスキーな組合せだった。

これらの監督に最大限働いてもらうには、フロントが一枚岩となって現場を支えないと成功することは難しい。名古屋に関しては、フロントが「信頼と投資」で風間監督を支えている。それがあったからこそ成績は最下位でも、資金を投じることで彼の要望に応えることが出来た。昨年は昇格する為に、今年は残留する為に。

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よって風間体制の勝負となる年は「三年目」であると考える。そのために今年のミッションは絶対に残留することだ。フロントはやるべきことをやった。そしてJ1で戦えるだけの戦力を遂に整えた。風間監督に言い訳できる余地はもはや残されていない。ここからのシーズンは、彼の手腕のみが問われるものとなるだろう。

最後に。では風間監督のサッカーがどうかという話だが。

彼が志向するサッカーを体現出来る選手が揃えば面白い。それが私の率直な感想だ。攻めていても何が起きるか分からない。パターンが存在しないからこその期待がある。信じられない奪われ方もする。何度も逆襲を受ける。その意味でも次の展開が読めない。観ている側からすれば、まさにジェットコースターに乗っているような気分だ。

再現性は乏しく、「緻密」という言葉とは程遠い。それが許せないサッカーファンも勿論いるだろう。そんな人間に愛するチームを託したくないというサポーターもいて当然だ。

ただし目の前で繰り広げられるそんなジェットコースターのようなサッカーを受け入れ、楽しむのも大いにアリだ。割り切ってしまえば、これほどスリリングなチームもないし、何をすれば上手くいき、何を怠ると上手くいかないか。これほど手に取るように分かるチームも珍しい。

土曜に行われる鹿島戦に向けて、風間監督はこんな言葉を口にしている。

専門家が見て面白いサッカーというのはないので。誰が見ても面白いものは面白いし、点がたくさん入れば面白いと思います。ゴール前のシーンをたくさん作れば面白いと思うので。我々のスタイルをいつもどおりにやれればと思います

この言葉に風間八宏の全てが凝縮している。これ以上でもこれ以下でもない。

彼のサッカーが何よりも正しいもので、誰よりも強いものだとは思わない。

ただ同時に正しいサッカーが、強いサッカーが、必ずしも魅力的とは限らない。サポーターを熱狂させるサッカーは、決してそれだけではないのだ。だからサッカーは面白い。

私に関しては、クラブが自ら決めた道にしっかり進んでくれていれば、今目の前にあるものを愛し、理解することから始めた方が、毎日が楽しく、そして幸せだ。

 

※このブログで使用している画像は、名古屋グランパス公式サイトから引用したものです

驚きと、喜びと。「ワシが帰ってきた!」

札幌戦は延期でも、名古屋の週末はこれで終わらなかった。

本当に帰ってきたよワシ。

新加入選手のリリースより盛り上がる名古屋界隈。

ネットの加入により、シーズン途中で急遽グランパスから去ることとなったワシ。サポーターは彼に「ありがとう」と伝えることも、「ワ・シン・トン!」とお得意のコールをすることも出来ぬまま突然の別れは訪れた。仕方ない。中断期間中である。とはいえ昇格の功労者であり、サポーターのアイドルだった男との別れ方としては、それはやはり寂しさの残るものだった。

昇格を狙う助っ人してはあまりに無名だった男

ワシントン。彼が名古屋にきたとき、ここまで愛される選手になると誰が予想出来ただろうか。彼に期待していたサポーターがどれだけいただろうか。失礼な表現だと百も承知であえて書くが、正直同時期に加入したフェリペの「バーター的存在」だと思っていたサポーターもいたでしょう。いや、サポーターは悪くない。ブラジルから彼らを連れてきた張本人である大森先生が悪い。シーズン前、大森先生は彼等を獲得した理由をこう説明した。

フェリペについて。「いつ中国に引き抜かれるか心配」。

もう一人のブラジル人シャルレスについて。「彼の加入は本当に大きい」。

そしてワシントン。「中盤でプレーが可能です」

どうですかこのバーター感(何度も申し訳ない)。このキャッチーさのかけらもない選手紹介。明らかにフェリペに本腰入れてた感満載の謳い文句。

これに拍車をかけたのがユーチューブ動画。

あれは選手の売り込み用においしい場面だけ抽出し、現実を理想に変換する秘密兵器ではないのでしょうか。嘘でもいいからもっと特徴が分かる動画が欲しい。それくらい淡々と中盤でプレーするワシントンの姿がそこにはあった。分かりやすい特徴は皆無だったと言ってもいい。

私達にとって初めてのJ2がスタートし、迎えた第2節、豊田スタジアムでのFC岐阜戦が彼の日本デビューだった。風間八宏の洗礼とも言える前半早々での交代劇により、ベンチに退いたのは小林裕紀。そして遂にピッチに登場し、その姿を現したワシントン。

その後のファーストプレーは衝撃的だった。

中盤のミスが許されないエリアで攻める方向とは正反対、明後日の方向へキックミスをしたワシントン。「ぇぇぇええええ!!!」なんだそのミスはワシントン。呆気にとられるサポーターの気持ちなど何処吹く風。やっちまったと首を傾げ、明後日の方向に飛んでいくボールを必死で追いかける彼の足がまた遅いんだ。「なあぁぁぁぁぁ!!!」これはやっちまったと俯き加減になる私。

大森先生いや大森さんよ。フェリペ獲得のために掴まされたな俺の目は節穴じゃないぞ(三度失礼)。試合後、重い足取りで豊田スタジアムから駅に向かったあの日のことは忘れない。

そう、おそらくだが、ワシと風間八宏の相性は決して良いものではなかった。なにより足もとの技術と広い視野、正確なパスに広い守備範囲が求められる風間八宏のサッカーと、ワシが持つ圧倒的なフィジカル能力は悲しいほどに正反対。いつまでも交わることはないだろう、あのときはそう思えた。

ワシにしかなかった才能

ただワシはこれで終わらなかった。彼には誰にも負けない類まれな才能がいくつもあった。

それは到底ブラジル人とは思えないほどの謙虚さと、並み居るブラジル人を凌ぐほどの明るさ、そして日本人よりも日本人らしい思いやりの心だった。

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まず彼のファンサービス。あれほどサポーターに距離を感じさせない選手はいただろうか。屈託のない笑顔と底抜けの明るさとはワシのための言葉である。彼と触れ合えば、ひとたびサポーターは彼の虜になった。例えば遠くから大声で声をかけたり、他の選手だったら少々恥ずかしい気持ちにもなりそうな握手をする行為も、彼となら何の躊躇いもなくその手を差しだすことができた。何より彼と接すれば、そこには笑顔と笑い声が常に絶えなかった。太陽のような男だった。

そして彼は誰よりも謙虚に振る舞った。

気づけば風間監督から、そして仲間達から、彼の練習に対する姿勢に感嘆する声が聞こえるようになった。ワシを見ていると自分ももっと上手くなれるんじゃないか。彼の姿に、名古屋のレジェンドである玉田圭司は素直に賞賛の言葉を口にした。

気づけば彼は中盤だけではなく、ときにセンターバックもこなすオールラウンドなプレーヤーとして、このチームでの地位を確立していく。皮肉なことに彼より期待されてこのチームに加入したシャルレスは、風間八宏のサッカーに馴染めず、この年の夏頃には名古屋を去っている。今思えば、チームに想定外のことが起こった際、常にこのチームを支えたのはワシだった。

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また時を同じくして、その後名古屋のエースとなるシャビエルが加入する。

どちらかというと内向的で、日本人のような繊細なイメージを抱かせる彼を救ったのもまたワシである。ブラジル人トリオの兄貴分として、シャビエルがこのチーム、そして日本という国に馴染めるよう常に寄り添ったのは他でもないワシである。このときはまだ知る由もないが、その翌年、ブラジル国内におけるスーパースターであるジョーが名古屋に加入することとなる。そんなジョーを歓迎し、チームとの仲介役となったのもワシ。そしてワシの存在に助けられ、感謝していたシャビエルも今度はジョーを最大限サポートしようとそれに続いた。これは私の勝手な想いだが、ジョーが加入したタイミングでシャビエルしかこのチームにいなければ、ジョーがここまでスムーズに馴染むことはなかっただろう。ワシの存在感は絶大だった。

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ワシがいなければ名古屋の昇格はなかった

2017シーズンも終盤に差し掛かり、一年での昇格を目標としていた名古屋は、かろうじて3位に滑り込むことに成功する。自動昇格こそ逃したものの、もう一つの昇格枠を4チームによるプレーオフで争うこととなった。

初戦のジェフユナイテッド千葉には、チームの絶対的エースであるラリベイ。第二戦目となったアビスパ福岡には、J2屈指のエアバトラーであるウェリントン。名古屋の前に立ちはだかるのは、どちらも屈強で、高さにも絶対的な自信を誇る二人のストライカーだった。

そしてここでも獅子奮迅の活躍で名古屋のゴール前に君臨したのがワシである。

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 中盤でプレーが出来るとの触れ込みで名古屋にやってきた男は、昇格がかかるこの大一番の二試合において、センターバックの一角として相手の攻撃を跳ね返し続けた。

特に目覚ましい活躍だったのが第二戦、決勝戦となるアビスパ福岡戦だ。

戦前の予想で懸念されたのは、ウェリントンに放り込まれるであろうロングボールへの対応だった。このシーズン、名古屋にはいわゆる純正のセンターバックがほとんどいなかった。いや、厳密に言えば「放出してしまった」。彼に次々と放り込まれるロングボールに対抗できる手段が名古屋にあるだろうか。

風間八宏が指名したのはワシだった。

決して砕かれることのない岩のような恵まれた体格を持つワシは、90分間ウェリントンと対等に渡り合った。ボールを持てば中盤の選手のように落ち着いてボールを捌き、相手がボールを持てば名古屋の防波堤の如く身体を投げ出し続けた。

初めて豊田スタジアムで見たワシの姿はそこにはなく、風間八宏のサッカーに適応し、もはやチームに欠かすことが出来ないワシの姿がそこにはあった。プレーオフの殊勲者は間違いなくワシだった。

彼がいなければ、名古屋のJ1昇格は絶対になかった。

日本に帰ってきたワシに心からのエールを

冒頭の話に戻る。気づけばたった一年で名古屋のアイドルとなったワシとの別れは突然だった。ただ今やジョーとシャビエルは名古屋の二枚看板であり、田口泰士が移籍し、一向に軸が定まらない中盤の強化としてネットが加入。層の薄いセンターバックに「左利き」という希少価値を持ったホッシャがいることを考えれば、ワシが外れるのはやむを得ない選択であったことは確かだ。

「日本でプレーしたい」

ワシの言葉、その想いが痛いほど伝わり、彼と食事を共にするシャビエルやジョーとの写真がなんだか寂しげに見えた。

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ただワシは帰ってきた。J2の舞台、今度はレノファ山口だ。

決して器用な選手ではない。小回りが利いて、快足を飛ばすような選手でもない。時々とんでもないミスをするし、顔を覆いたくなるような場面もあるだろう。

それでも彼ほどチームを大切に出来る、チームを前向きにさせる力を持った選手はいない。ときには中盤で気の利いたプレーを、ときには最終ラインで絶対に当たり負けすることのないボディコンタクトをもってチームを助けるに違いない。

なにより「あの」風間八宏が使い続けた男である。それはJ1の舞台でも変わることはなかった。風間八宏にとって、ワシは「頼りになる男」だった。

きっと山口のサポーターにも愛されるだろう。そして名古屋のサポーターは彼に会うために遠く山口まで遠征する。これだけ愛された選手がこれからも日本でプレーする姿が見られる。それだけで名古屋サポーターは幸せなのである。

在籍期間は約一年半と短いものだった。ただ彼の名古屋での姿、残した功績を忘れる者はいないだろう。全くの無名な助っ人として名古屋の地に降り立った男は、一からの再起を図ったこのチームにおいて、その象徴のような選手となるまでに成長した。彼が歩んだ道のりは、名古屋が歩んだ道のりそのものだった。そして山口でまた新たな道を歩んでいく。

夫が映る電光掲示板をいつも嬉しそうに撮影していた奥様も、なんだかいつも気怠そうにイヤホンを耳に当て、眠そうに母親の肩にもたれかかっていたワシにそっくりな息子君も、また日本での生活を楽しんで欲しい。

本当に良かった。その一言に尽きる。本当に良かった。

このニュースを知り、誰よりも喜んだのは他でもない、貴方が大切に、大切に想い続けたグランパスサポーターだったんだよ。

そして名古屋にいたとき以上に山口のサポーターに愛され、J1初昇格の原動力となることを、名古屋から多くのサポーターが願っています。

 

※このブログで使用している画像は名古屋グランパス公式サイトから引用しております

「四銃士」だった切り札。革命と決別した二人

セットプレー三発で沈む失態に頭を抱えた夜。「俺たち私たちのワールドカップは7月22日の広島戦からだ!」そんな意味不明な現実逃避でこの試合をなかったことにしてやろうと脳内変換していた約12時間後。

終わったと思われていた戦力補強に動きがあった。

俺たち私たちのワールドカップ戦士、まだいた。

 

おぉ...ウエルカムナオキ。

唐突に発表されたこの補強。昨日の敗戦を見越していたんじゃないかと勘繰りたくなるようなAM9時のリリース。あぁこれはワールドカップじゃない、Jリーグだ。最下位の現実を約2ヶ月ぶりに実感していた名古屋サポーターにとってはこれ以上ない朗報である。

それにしてもまたレフティー、そしてドリブラー。マンデーセレクションならぬやっひーコレクションは止まらない。

 

改めて「前田直輝」とは何者だ

前田直輝といえば個人的には横浜Fマリノス時代の印象がどうしても強いのだが、実際にはどんな選手なんだろうか。情報だ、そう情報をください。

 

そして限られた人脈によって集められた数少ない貴重な情報がこちら。

なんと有益な情報だろうか。感謝しかない。いただいた情報を一言でまとめましょう。

 

変態ドリブラーです。

前田のドリブルフェイント

 

ということで八宏フォーマットの確認。

見事に変態ドリブラー枠①or②に該当する選手である。

 

ドリブラーと一括りで語ってはいけない

そもそもドリブラーといえばやっひーコレクションは候補生揃いである。ここはやや強引に下記の通り分類してみることとする。

<(愛をもってこう呼ぶ)変態系いゃ変化系>

<ゴリゴリ系>

  • 和泉竜司
  • 秋山陽介
  • 相馬勇紀(予備軍)

風間体制下における特徴として、変化系は主に前目、ゴリゴリ系は主に後方で使われるケースが多い。役割の違いとして、変化系はスモールフィールドにおける突破口となる切り札。ゴリゴリ系は相手を剥がし、後方からボールを縦に運ぶ重責を担っている。

前田に関しては変化系であるからして、スモールフィールドでの突破口になることが求められる。要は相手ディフェンダーが密集したゾーン、スペースが限られたエリアをその変態的なドリブルテクニックを駆使し打開することがタスクとなる。縦だけではなく、横や斜めにもスルスルと抜いていけるテクニック。

このタスクが求められる理由として、当然ながら風間八宏の影響が何より大きい。後方からはロングボールを多用せず丁寧に繋ぐことを基調としているからこそ、前にボールを運んでいけるゴリゴリ系の能力が貴重となる。一方相手陣地ではピッチを広く使うことはせず、「相手の組織」ではなく「相手(個)そのもの」を攻略することを重要視している。どれだけ狭いエリアでも、技術とコンビネーションを駆使すればゴールまで最短距離で辿り着くことが出来る。そんな発想の持ち主故、必然的に選手は密集するし、当然ながらそれを死守しようと相手も密集する。ある種そのカオスとなったエリアを攻略するためには、変化系ドリブラーが持つ特異性は大変貴重なものとなる。

しかも前田は「左利き」だ。既存のメンバー、例えばシャビエルや玉田に関していえば、彼らは決してドリブラーではない。シャビエルは「スモールフィールドに魔法をかける魔術師」。玉田は持ち前のテクニックを駆使し、チームにリズムを生み出すことを可能とする。

その意味で同じ左利きでも前田の特徴は大きく異なる。例えば左利きの選手をあえて右サイドに置き、視野を確保させた状態で単独で中にカットイン出来るようなタイプはこれまで名古屋には不在だった。よって攻撃のオプションという意味では唯一無二の武器になりえるし、それが分かっていたからこそシーズン前から獲得に向けて強化部は働きかけていたのだろう。

【公式ゴール動画】前田 直輝(横浜FM) 90分+2分 横浜F・マリノス vs 浦和レッズ 明治安田生命J1リーグ 第1節 2017/2/25

【公式】ゴール動画:前田 直輝(横浜FM)53分 浦和レッズvs横浜F・マリノス 明治安田生命J1リーグ 第34節 2017/12/2

 

試合から消えないために求められる「戦術理解力」

課題があるとすれば「戦術理解力」になるのだろうか。ただこれは往々にして変化系の宿命である。

「最も相手を剥がせる可能性が高い選択肢がドリブルなので」

これは以前青木がコメントした内容である(うろ覚えだが)。いや何言ってるんだ青木宇宙人かと当時目を疑ったものだが、これに負けない男がいたんだ。

そう、榎本大輝。

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「とりあえず球をくれ。ドリブルだけさせろ(意訳)」

ここまでくるともはやボール中毒者ではなく、ただのドリブル中毒者である(褒めています)。詳しくは今月発売のグラン掲載「革命ウォッチャー(特別篇)」をお読みいただきたいところだが、何にせよ彼らはボールを持つことで違いを生み出し、ここまで上り詰めてきた男達。おそらくただそれだけを人一倍努力し、突き詰めてきた。逆に言えばボールを持てないとたちまち彼らは存在意義を失ってしまう。この点に関してはトップレベルになればなるほど鮮明になる部分でもある。彼らにとっては「試合から消えない」ことこそが最大の課題であり、その点が風間八宏のもとでどれだけ磨かれるかが今後のカギを握るのではないかと予想する。

とにもかくにも面白い素材が名古屋に加入したことは事実である。 

背番号はヴェルディアカデミーの先輩である杉本竜士がつけていた「25」だ。

 

来る者もいれば、去る者もいる

さて、この日あったリリースは、ご存知の通り嬉しいものだけではなかった。

彼らのことも語りだすと長くなってしまう為、一つだけ触れて終わりにしたい。

彼らのコメントを読んでいて共通していたポイントが、ルヴァン杯のガンバ戦に大きな手応えを得ていたという事実である。自分達の特徴を活かし、それが結果に結びついた。攻守に全員が連動出来た、だからこそそれをリーグに繋げたかったと。彼らの後悔には、チームの中でその役割を十分に担えなかった不甲斐なさも当然あるだろう。ただ同時に今回の移籍を決定づけた一番の要因として、自分達が感じていたその手応えのようなものを、リーグ戦で戦うチームの中で活かす場がなかったのもまた事実だったのではないだろうか。

これは根本的な話である。自分達がどこに軸足を置きサッカーを始めるのか。相手陣地を制圧するために、まず何を武器とするのか。

「前」から「走る」ことを選ぶのなら、前線には機動力が求められ、後方のビルドアップ力に関しては負担が減る。

「後」から「繋ぐ」ことを選ぶのなら、前線にそこまでの機動力は必要なく、後方のビルドアップ力が重要となる。

その方向性が影響し彼らの個性はこのチームに上手くハマらなかった。実際はそれだけのことである。決して彼らの能力が劣っていたという話ではない。押谷も畑尾も噛み合った前者のサッカーに自信を深めていた。そしてチームは前半戦の戦いにおいて後者のサッカーを選択し苦労していた。繋げないことで、結果的に攻守ともに彼らのサッカーは破綻していた。ただそれでも風間監督はどちらの戦い方を求めたか。その点を2人はよく理解し、その結果として今回の決断に至ったのではないだろうか。

そこだけは風間八宏は頑なだった。2勝3分11敗、勝点9の最下位。これが選んだ道の現実である。どれだけ負け続けようと、例え降格の危機がそこにあろうと、この点だけは一切ブレることがない。彼にとって「攻守が連動する」とは、ボールを持ってこそ生まれる循環であるべきなのだ。だからこそ彼らはチームを離れることを決意し、逆にそんなチームの戦い方に魅力を感じた前田は名古屋に来たのである。

 この日起きた三つの移籍劇は、風間八宏がチームを率いることの意味、本質を鮮明に映し出していた。あまりに極端で、食わず嫌いなその側面を残して。

さて、そろそろ終わりとしたい。この点をもっと深く追及したい方は、是非下記のブログを読んで欲しい。

驚いたでしょう。そう、最後の最後で宣伝だ。

migiright8.hatenablog.com

 

※このブログで使用している画像は名古屋グランパス公式サイトから引用したものです

 

新加入選手達をチェックすべくトヨスポに潜入した

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その日、私は時間を持て余す可能性のあった午前中をどう過ごすか頭を悩ませていた。

ここ最近のワールドカップフィーバーですっかりグランパススイッチを切っていた私は、灼熱の地とは理解していたものの、やはりグラサポとして練習場に行き、中断期間中に加入してくれた選手達をチェックすべきなのではないかとの結論を得た。

ご存知の通りここ最近の名古屋は連日35度を越すような猛暑が続いており、屋根のない客席で1時間以上座り続けるなど正気の沙汰ではない。ただそれでも足を運んでしまうのはやはり一にも二にもグランパス愛。

駐車場が埋まることを懸念し、9時半過ぎにはトヨタスポーツセンター(通常トヨスポ)に到着。「おぉ...」予想通り空いている。その日は午前練のみ、しかしこの暑さはトヨスポ行きを断念するには十分すぎる説得力である。

到着早々違和感を覚える。練習道具がグラウンドに出ていない。あるのはひたすらに放水を続けるグラウンドキーパーの皆々様の姿のみ。

そろそろ開始時刻の10時が迫っており、これは恒例の「30分御姿見れません」の日ではないかとの懸念を抱き始める。

「30分御姿見れません」これはトヨスポ常連の方々には恒例の行事である。開始時間を過ぎても30分程度選手が全く出てこない日。往々にして試合翌日や中1日あけた週最初の練習日に起きるこの現象は、おそらくミーティングなどを実施していることが影響している。確かに練習開始時間を10時と謳っても、それは「サポーターの皆さんの前に現れるのがその時間ですよ」とは意味しない。あくまで選手達にとっての練習開始時間である。

これは大変な持久戦が始まったと思った。

うだる様な暑さである。隣に座っている男性に至っては自宅の縁側の如く無駄に露出した姿でぐったりしている。

かく言う私も全身の汗が止まらない。日焼けだけは避けたい為当然長袖長ズボン(表現古い)着用だ。日焼け止めは死ぬほど塗ってきたものの、吹き出る汗の量は凄まじく、日焼け止めの効果すら全て流し切っている気がする。

あぁ!傘を忘れた。ペットボトルも忘れた。帽子もない。良席を確保したサポーター達は全長何メートルあるか分からない気持ちばかりの屋根ゾーンにたむろしている。

この日は本当に地獄の様なスケジュールで30分を過ぎても選手は出てこなかった。

目の前で起きていることが少々信じられなくなってきた矢先、遂に選手の姿を発見する。

「(お!!!寿人だ)」 ※心の声

もっと見える場所に出てきてくれよと叫びたくなるくらいには隅の方、客席からでは前のめりな姿勢を保たなければ視認出来ないレベルの場所に寿人の姿を確認した。いやはや、何はともあれ選手の姿が見えるだけでこの安心感はなんだ。心なしか客席全体もホッと一息ついている様な気がする。

その後続々と選手達がピッチに登場する。長かった。でもこの瞬間全てが報われた気がするのもグランパス愛あってこそ。見せて欲しい、この1ヶ月の成果を私に見せて下さい。

すると信じられない光景を私達は目にすることとなる。

ボールが違う。あれは私達の知っているサッカーボールではない。なんだあのなんとも重そうな巨大な丸い物体は。

「…体幹…トレーニングをするのか…?」

そう、灼熱のトヨスポで約1時間程度待ち続けた私達へのご褒美は体幹トレーニング(いや筋トレかもしれないがどちらでもよい)。アイツらミーティングなんてしていなかった。室内でずっと身体をいじめてたんだと確信した。私達の目線の先でボールを蹴っているはずだった選手達は今、私達の目線の遥か先で上空に体幹ボール(今名付けた)を投げ飛ばしている。おいおいお前達の十八番である止める蹴るはどこにいった。受けて投げる知らん。それにしてもさすがミッチ。上にもよく飛ばす。

これは何て日に来てしまったのだろう。いつになったらあのボールはサッカーボールに変わるのか。彼らはいつになったら私達の前まで来てくれるのか。隣の男性は長時間座り続けたのが堪えたのか、よりにもよってこのタイミングで立ち上がり、クラブハウス側の選手達を観察し始めた。待って欲しい、私は貴方のお尻を眺めに来たのではない。座って欲しい、一刻も早く、座っていただきたい。

そうこうしているうちに遂に選手達が客席側に向かって走り始めた。

「(キタ!!!!!!!!!)」 ※心の声

そのとき客席に座っていたある男性からこんな言葉が漏れ聞こえた。

「…あれ?スパイク履いてなくね?」

よくそこに目がいったなと感心した。心の声でエアトーク。「(...履いていませんね)」。

その瞬間全てを悟った私は、締めのランニングを開始した選手達を横目に「1周で終わろう、そして一刻も早くファンサービスを開始しよう」と願い続けた。ただ悲しいかな選手達はそんな願いなど知る由もなく、贅沢にも5周もグラウンドを走り続けた。

あれが丸山か。先頭集団の優等生ゾーンで走る彼の横には八反田、そして小林裕紀が加わる。娘が家に連れて来ても安心して預けられそうな良いオーラが漂っている。

中盤で走るグループに目を向けるといたぞ中谷。彼はグランパスアカデミー育ちなんだろうか。最近加入したとは思えないくらいのガキ大将感全開である。初めての移籍で心配する必要など彼には一切不要だった。むしろきっとうるさい。来てくれてありがとう。

そして最後尾にはブラジル人トリオ。あれがネットか。ジョーとほぼ同じ背丈のネットは遠目から見るとつぶらな瞳が印象的で、やる気がないときは競り合いなんてしない、そんな情報が嘘だと信じたいほどに温厚そうである。川崎の奴ら嘘ついているんじゃないだろうか(と信じたい)。

練習が終わり遂にファンサービスの時間。

トヨスポに来たのは久しぶりだったのでネットとか絡んでみたい。そう決意しファンサゾーンで待ち構えるものの、こんな日に限って選手達が一斉に向かってくる。自主練がないときのお決まりパターンである。選手の一斉投入。

あんなに長時間ピッチに現れなかった選手達は信じられない速度で私達の前を駆け抜けていく。あぁ!ネット。ネットが行ってしまったぞ!

持ち場を離れネットを追いかける。ネット!ネット!呼び止める私は選手をネットで捕まえたいわけではなく、ネットを捕まえたいのです。

なんとかネットだけは無事捕獲し写真撮影をした私の身体は、トレーニングを終えた選手達以上に汗まみれだった。体幹トレーニングをして涼しげにクラブハウスに戻る選手達と、選手達がボールを蹴る姿を見ることなく1時間以上灼熱のトヨスポに居続ける体感をした私達。

とある日の練習後、長時間のファンサを終えた佐藤寿人はこう言ったそうだ。「これは屋根を付けた方がいい。選手10人で100万ずつ出せばできるんじゃない?今後のためならオレは出すよ」

あの日トヨスポに参戦したおそらく全員のグランパスサポーターが深く頷いたことでしょう。

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 (追伸)あえて最後にファンサゾーンに現れ、1人ずつ丁寧に対応していた青木選手。いつまでもそのままの貴方でいてください。

 

※このブログで使用している画像は名古屋グランパス公式サイトから引用したものです

継続の先に生まれるものはあるか

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夢のような1ヶ月もあっという間に終わりを告げ、私達の日常が帰ってきた。

そう、Jリーグである。思い出そう、最下位の現実。

とはいえこの1ヶ月は楽しいものだった。前半戦の辛い過去を忘れるには十分な期間だったし、ワールドカップにうつつを抜かす間にグランパスは着々と戦力補強を重ねた。

今回は忘れかけていたシーズン前半戦を振り返りながら、これから始まる後半戦の展望をしていきたい。中断期間前のグランパスがどういった状態だったのか。問題はどこにあったのか。風間八宏が追い求めるサッカーとは一体どんなものなのか。あくまで私の主観で進めていく内容となるが、起きていることに目を逸らさず、一つ一つ丁寧に説明をしていきたい。長い文章になるが、読み終えたときに少しでも理解が深まり各々で考えるきっかけとなればと思う。

待ちに待ったJリーグ再開に向けて、何か一つでも楽しみが増えることを願って。

そもそもグランパスがあるべき姿とは

まず大前提のおさらい。グランパスを観戦する上での大きな指標である。

それは「相手陣地で長い時間ボールを保持し、奪われた際は高い位置で奪い返す(即時奪還)ことが出来ているか」というもの。要は相手を押し込むことが出来ているか。

これを実行するには二つの手段が鍵を握る。一つは「ビルドアップ(組立て)」、もう一つは「前からの組織的なプレッシング」だ。目的を果たすためには少なくともどちらか一つが十分に機能している必要がある。簡単に言ってしまえば、何をもって試合のリズムを掴んでいくか、自分達の土俵に相手を引きずりこんでいくかということである。勿論その土俵とは、相手陣地でボールを保持する状況を作ることだ。

果たして前半戦のグランパスは満足にそれが出来ていたのか。

◯ビルドアップ

もっとも苦戦した項目だ。「止めて蹴る」という絶対的なキーワードを掲げ昨年からチームを作り上げてきたが、これがJ1の舞台で満足に出来ていない。正直に言って、田口泰士の抜けた穴は残念ながら大きかったと誰もが認めるところだろう。新しいグランパスが見られると期待したが、風間監督の理想を実現する上でゲームメーカーの不在は想像以上のものだったと言わざるを得ない。安心してボールを預けられる場所がない。この現実は選手達の不安を駆り立て、プレーの自信のなさに繋がった。

◯前からの組織的なプレッシング

ビルドアップが機能していないことから、せめてこちらが上手くいけばよかったのだが、残念ながらこれも壊滅的だった。今年の目玉補強であるジョー、昨年からの絶対的エースであるシャビエルを前線に二枚並べたものの、共通して前からのハードワークでボールを奪いにいくタイプではなく、前線からのフィルター機能はほとんど期待できない状態。それが顕著に表れたのが豊田スタジアムで行われた横浜Fマリノス戦だろうか。ご自宅にBSの録画が残っている方は是非振り返ってもらいたい。私も久しぶりに見直してみたのだが、ワールドカップの余韻もあってか正直に言って目を覆いたくなる惨状であったことは間違いない。

ビルドアップという術が機能しないチームにおいて、残されたもう一つの術も機能しない場合どういった現象が起こるのか。

マリノス戦における名古屋の戦い方は、彼らにとって前半戦のハイライトのようなものだった。ネガティブな内容にはなるが、今回はこの項目を一つ一つ順序立てて考えていきたい。

①最前線に位置する選手達のファーストディフェンス

この試合、マリノスのビルドアップに関与する選手は名古屋の選手より常に数的優位だった。具体的にいえば中澤、デゲネク、扇原、ゴールキーパーである飯倉。時々山中といったところだろうか。それに対して名古屋のファーストディフェンスの担当はジョー、シャビエル。少なく見積もってもマリノスの三枚に対して名古屋は常に二枚。

この前提に立った時(枚数が噛み合わない時)、名古屋はどう振る舞うべきだったか。

一つは相手の三選手の内、最も足元が苦手な選手を「捨てる」。捨てると言うことは、多少のリスクがあっても放っておくということだ。また一つは意図的に狙った方向へボールを誘導する。狙ったエリアにボールを追い込めば、その局面では数的不利が解消する可能性があるためだ。そしてもう一つ、そもそも前から奪いに行かないという手段も考えられる。相手のチャンスに直結する中央のルートだけ締め、外に出されたボールに対して囲い込んでいく。

さて、名古屋はどうだったか。

残念ながらこの三つ、どの狙いもなく個々それぞれが闇雲に前からボールを追っていたというのが正解である。「前から奪う」これは本来チームとして組織だって動かなければ可能とはならない。しかしながらこの「前から奪う」という言葉だけが一人歩きし、実態は個人個人が前から奪おうと目の前の敵を潰しにかかるだけの無秩序なものだった。チームとしての奪いどころが共有されていないため、どこにボールを追い込もうとしているのか、その意図が見えない。それは例えば奪いにいく際の身体の向きや走るルートに表れる。サイドに相手を追い込んでも簡単に逆サイドに展開されてプレスを回避される。2人で相手のボール保持者に向かってしまったり、パスコースを開けたままなんとなく身体を寄せにいってしまう。ツートップの1人が相手をサイドまで追い込んでいるのに、中のパスコースを潰すべきもう1人の相棒がてんで違う場所に存在する。組織と言えるものは皆無だった。

例を挙げてみる。

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この状況におけるポイントは八反田の「立つ位置」。チームとして上手くサイドに誘導した際に重要なのは逆サイドに位置する選手のポジショニングである。何故か。縦に詰まった相手選手が考えるのは、一度バックパスして逆サイド(名古屋の選手が少ないサイド)にボールを展開することでこのプレスを回避し前進することにある。その前提に立った際、この場面でいえば八反田のポジションは「山中へ渡るボールをカット出来る」場所に立つことが正解ではないだろうか。人につくのではなく、もっとファジーなポジションを取る。そこがハマらないとどれだけ相手を追い込んでも台無しとなる。この試合に関していえば、八反田は人を意識しすぎるあまり同じようなケース、要は相手の手詰まりになったサイドの逃げ道として何度も活用され、前半途中で退くこととなった。

またマリノスに関していえば、事前のスカウティングの段階からなのか、それとも試合中に判断し意識的にやっていたのかは不明だが、ビルドアップの際にこのボールの運び方を明らかに狙っていた節がある。片方のサイドに名古屋の選手を寄せ逆サイドに展開し、稚拙な名古屋の守備応対の隙をついて前進する。これはおそらく意図的なものだったであろう。

またこの場面。

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上がってきた新井がボールを失い、そのままの勢いでボール保持者であるデゲネクに突っ込んで行ったシーン。何故かシャビエルも一緒にプレッシャーをかけに行ってしまい、それを回避すべくデゲネクが中澤にパスを出す。その直前にジョーが中澤にプレスをかける。問題だったのは、このときジョーは最も危険な中央のエリアでボールを呼び込もうとする扇原を全くケアせず(コースを切らず)真っ直ぐ中澤にプレスを掛けに行った点にある。中澤は悠々と扇原にボールをつけ、扇原は前方でフリーになった喜田にボールを預けることで中央に出来た広大なスペースを利用しボールを運んで行った。たった2本のパスで3人が外されてしまったケースである。

②後退する守備ブロック

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ファーストディフェンスがハマらないことで問題なのは、二列目、三列目で待機する残りの8人がどこにボールが展開されてくるのか予測できないことであり、それ故ボール保持者へのアプローチも遅れる現象が起こる。ボール保持者は当然その瞬間オープンな状態でボールを持つことが出来る。ドリブルで前に運ぶこともできる。手前でも、裏でもボールを配給出来る。そうなるとますます名古屋の選手はアプローチ出来なくなり、結果として陣形は後退する。相手のサイドバックが上がれば、見て見ぬ振りができない名古屋のサイドハーフの選手も付いていく。ボール保持者にプレッシャーがかかっていなければ、当然自由にパスを出される可能性があるためだ。

知らず知らずのうちに相手の動きによって名古屋の陣形は歪み、中盤に大きなスペースが生まれ始める。仮にボールを奪うことが出来ても陣形は限りなく低い位置に敷かれており、前に出ていくには大きなパワーが必要になる。言い換えれば「無駄に戻り、無駄に前にでていく」非常に非効率なサッカーとなる。それが過剰な走行距離として記録されていく。

③「人」を意識しすぎる守り方

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名古屋の自陣深くまでボールを運ばれた際にも問題は起きる。

このチームの欠点は「ゾーンかマンマークどちらで守るのかはっきりしない」点にある。言い換えれば「選手ごとの判断に依存する」守り方ともいえる。名古屋は最終ライン4枚、中盤4枚が二列になって4ー4のブロックを形成することが多いのだが、本来ピッチの横幅を4人でカバーするのは至難の技だ。だからこそ相手のボール保持者とゴールを結ぶ最も危険なルートから最優先に密度を濃くすることで相手を追い込み、その間にボールのあるエリアに全体が絞っていく(スライドし、相手のボール保持者を中心として蓋をしていくイメージ)ことが重要になる。

ただし名古屋の場合そういった組織的な守備の考え方も希薄であるため、自分が立つべき「ゾーン」を意識する選手、目の前の「相手選手」を守る際の基準に置く選手でジャッジがぶれる。一つ前に紹介した場面もそうだが、とりわけサイドの選手は「人」を意識しすぎる。結果として相手に押し込まれ、中盤にスペースが生まれる。そこでボールを保持されると、ボールと反対サイドに位置する名古屋の選手はサイドチェンジされるのを恐れ「絞る(スライドする)」ことが尚のこと出来ない。絞れないということは、ボールがあるエリアの逆サイド側に位置する相手選手を「捨てられない」ということである。結果的に横幅も間延びし、選手間のスペースを簡単に使われてしまう。「守備の際は狭く守れ」このセオリーと全く乖離した現象が名古屋には起きている。

ファーストディフェンスの重要性を理解した選手達から生まれた「機能した試合」

逆にチームが上手く機能し、選手が口々にモデルケースとして語っていた試合が、吹田で行われたルヴァン杯ガンバ戦。この試合が上手くいった要因はもはや語るまでもなく「前からの組織的なプレッシング」である。その結果手に入れたものは、風間監督の言葉を借りれば「取った後に出ていけるポジショニング」となる。相手に引っ張られることなく、各選手が高い位置を保てたからこそ、それぞれの個性が如何なく発揮された。またそれは前半戦機能しなかったビルドアップの拙さを隠す意味でも有効な手段だった。

<取った後に出ていけるポジショニングとは>

ここで少し脱線するが、この言葉の意味を改めて考えたい。

敗戦が続いた前半戦の中で度々風間監督が口にしていた発言である。「俺たちのシステムは攻撃をしやすいように作っている」と。この言葉の意味を考えた方も多くいたかもしれない。ここからは私の解釈になるが、この言葉を理解する上で非常に参考になる例を取り上げたい。今回の日本代表である。

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高い位置からプレスをかける際に彼等の何が参考になるかといえば、ボール保持者へのアプローチの掛け方、またその後方に位置する選手のポジショニングである。

特に注目したいのが乾のポジショニング。自身の背後の選手(相手サイドバック)についていくのではなく「背中に置く」。俗に言う「ハーフポジション(中間ポジション)」、これは自身が立つ位置でボール保持者を牽制し、パスコースになり得るルートをそのポジショニングで消していくことである。当然背後の選手と、横に位置する選手どちらにパスが入っても即座にアプローチをかけられる。これが風間監督が言う「1人で2人を見れるポジショニング」。自身のポジションも高い位置に保つことを可能とし、相手の動きによって陣形を歪められることもない。結果として高い位置でのボール奪取に繋がり、好守における選手の走行距離も無駄がなくなる。風間監督が言う「自分達は攻めるチーム」、これを実現するため特に前線の選手達に必要な要素である。それはこれまで振り返ってきた内容を見ても明らかだ。青木が、児玉が、自陣深くまで下がってから前に出ていくサッカーをすることで彼らの特徴が生きるか。私はそうは思わないし、この点は今回の日本代表にも通ずる話である。このような守備を一人一人が理解し体現出来るようになることが最終的な理想ではないだろうか。

どちらを改善するか。ビルドアップ?プレッシング?

これまで見てきた通り、このチームはビルドアップが機能しないと前線からの組織的な守備でも主導権を握るのが困難で、試合運びが八方塞がりになる可能性が高い。前半戦のピッチ上で何が起こっていたかはこれまでの説明通りである。

本来攻撃以上に組織力が試されるのが守備の局面。そして連動するためには共通の約束事が必要である。しかしどのエリアにおいても守備の約束事を明確に持ち合わせている印象は正直に言って乏しい。これを私は「スッピンで選手を送り出すようなものだ」と解釈している。このような例えで恐縮だが、要は化粧をすることが「組織」であるとすれば、風間監督がやっていることはスッピン(選手それぞれの素材)のまま、彼らの個人戦術を結集させて動くことを要求している印象を受ける。

あえて組織という言葉を「監督の要求する動きを選手達が一つ一つの部品となって忠実に再現していくこと」だと定義した場合、このチームがやっていることは「選手達一人一人が主体性を持って他の選手達と調和していく」サッカーだ。だからこそ個人戦術レベルを上げる必要がある。先程紹介した日本代表の選手達のように。

再現性が乏しい事実や、こと守備に関して「組織の存在しない集団で守れるはずがない」そんな考えを持つものに敬遠されるのは当然といえば当然だ。とりわけ自陣側での守備局面においてボロは出やすいだろう。出来ない選手は淘汰され、出来る選手によってチームは構成される。教えられた型を従順にこなす集団ではなく、ピッチ上で攻守に選手達が繋がり合える集団。まさに化学反応をもって計算されたもの以上のサッカーを作り上げる。これが風間八宏が理想とするサッカーだと考える。そういった意味では、攻守ともにまさに目が揃わなければこのチームは機能しない。目が揃わない選手が1人でもいれば、そこから水は溢れてしまうだろう。

果たしてこのチームは何をベースにして自分達の土俵(相手陣地でボールを保持しゲームを支配する)に試合を持ち込むべきなのか。本来であればどちらも機能しているに越したことはない。ただ風間監督のもと期待できるとすれば、それは結局のところ「ビルドアップでリズムを生み出していくサッカー」なのだろう。

グランパスが躍進するために

相手を崩すフェーズまで持ち込めなければ、結果として即時奪還という場面は生み出せない。そうなったときに例えば自陣で試合を運ばれると守りきる術もない。では相手に主導権を明け渡し組織的に前からボールを奪いに行くことが出来るかといえばそれも出来ない。これが前半戦の偽らざる姿だった。

ではビルドアップをテーマに後半戦立て直していくと考えた場合どうだろう。チームの理想的な循環はこうなる。

ビルドアップを機能させる→相手陣内でのプレー時間を長くする→崩しの局面を増やす→奪われたら即時奪還→二次三次攻撃に繋げていく。サッカーの本質を紐解いていく上で、これらの循環は全て必然的に起きるものだ。言い方を変えれば、どれか一つだけでチームが機能するものでもなければ、これらの順序が入れ替わることもない。前線からの組織的なプレッシング、これを武器とせず名古屋が相手陣地でボールを保持しゲームを支配するためには、結果的にビルドアップがまず上手くいかないことには何も始まらないということである。

だからこその「止める蹴る」。理にかなった考え方ではあるが最も困難な手法だ。いわゆる控え組でも、前からのプレッシングを徹底すれば良い試合が出来た事実がそれを物語る。技術だけは一朝一夕には上達しない。ただ風間監督が率いるチームは、この循環を回さない限りずっと機能不全であることを、前半戦の戦いにおいてサポーターは嫌という程痛感している。おそらく緻密な守備戦術は仕込んでいない。この中断期間中にそのアプローチをとっている可能性も否定は出来ないが、風間監督に限ってそこに着手している望みは薄いだろう。あるとすれば選手の入れ替えでそれが自然発生的に改善するパターン。要は日本代表のようにそれが出来る選手達でメンバー構成をするということである。ただこれまでの戦いぶりから考えれば、ビルドアップが改善して良い循環で回りだす、これが最も可能性のある上向き方である。

そんなグランパスであるが、中断期間中にこの点を改善すべく大きな投資を持ってチーム改革に乗り出した。

中盤〜最終ラインに大型補強を敢行

正直に言って予想以上の補強だった。費やした金額はともかく、あれほどの選手達が最下位に沈むチームに来てくれるとは、これが率直な感想である。

まず川崎フロンターレからエドゥアルドネット。

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田口泰士の穴を埋める男と形容するのは適切ではないかもしれない。ただ紛れもなく「安心してボールを預けられる男」である。テクニック、ビルドアップの際に見せるあの躍動感。申し分ない補強といえる。懸念があるのは試合によって波がかなりある点(川崎情報)。やる気がない時は競り合いにすら参加しないという情報もあるが果たして。また気性が激しいのも気掛かりだ。カードトラブルには要注意。ちなみにキャンプ情報で「ネットのリズムに周りが遅れている」との声も挙がっていた。とはいえ中盤に軸が出来たことは間違いない。チームの心臓が動き出せば自ずと周りの部位も動き始める。彼に関してはその「心臓」になり得る可能性を秘めている。今オフ最大の補強は間違いなくネットである。

次に柏レイソルから中谷進之介

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22歳にしてJ1出場69試合の実績を持つ柏アカデミー育ちの未来の日本代表候補。ユース時代には吉田達磨の元、とにかく攻撃偏重で育てられたセンターバックであるとのこと。苦手なプレーは落下地点を予測して競ること、そんな既視感を抱かせる特徴の持ち主は、非凡な足元のボール捌きでビルドアップに貢献してくれる(はず)である。

最後にFC東京から丸山祐市

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これまでに築いた実績で元日本代表の肩書きまで持つ彼の特徴は、「左利きのセンターバック」という唯一無二の武器。ネット加入で痛手だったのは、同じ特徴を持つホッシャの出場機会が激減する可能性が高いことであり、その意味で彼の獲得はとてつもなく大きい。タッチラインを味方にして左足でビルドアップが可能であることは、ピッチをより広く使えることを意味する。間違いなく重宝されるであろう。

失点数が多いグランパス。新加入の彼らのコメントを見ていても守備に言及する内容が多く、それは当然といえば当然かもしれない。ただ私としては彼らが加わったことで最も期待出来る点はビルドアップの改善ではないかと考える。そこさえ安定すればこのチームはJ1の舞台でもある程度やれる手応えはある。前線はタレント揃いだ。前述したマリノス戦を振り返っても、唯一マリノス側に誤算があったとすれば「守りきれる」と判断し、後半頭から前に出ていく勢いを弱めたことだろう。名古屋側からすれば、案の定カウンターは目を覆いたくなる頻度で続出していたものの、相手陣地でボールを保持する時間が増せば同点に追いつけるだけの攻撃力があったこともまた事実である。

ここさえ軌道に乗れば、あとは「八宏スコア」で毎試合楽しませてくれるのではないかと期待している。

相手のロングボールやカウンター、押し込まれた際の不用意な失点。おそらくそれはなくならない。何故ならそういったセキュリティに風間監督は関心がないからだ。相手を研究しないということは、ピッチ上の選手達が試合の中で戦況に応じた戦い方をジャッジしなければならない。当然90分間ずっとボールを保持することは出来ないし、相手の時間帯になることもある。名古屋とすれば良質なビルドアップで相手を押し込みチャンスを量産する。崩していく中で奪われれば即時奪還。この循環に反することが起きれば即失点の危険と隣り合わせである。

こればかりは理想を言っても仕方がない。であれば取られた分取り返す。

私達が目指す道は昨年から何ら変わっていない。

やるからには中途半端な形ではなく、それを全うした上で勝ち星を拾いつつ観客を楽しませてくれることを願ってやまない。昨年の後半戦に見せたようなあの怒涛の快進撃と極上のエンターテインメントに期待しようではないか。

 

 

※このブログで使用した画像は名古屋グランパス公式サイトから引用したものです

 

赤い悪魔が「挑戦者」となったとき

力のあるものが相手を格上だと認め腹を括った。この凄みを知るにはこれ以上の試合はなかった。日本に土俵際寸前まで追い詰められるものの、自力でベスト8の舞台に辿り着いたベルギー。おそらくベスト16の面々で最弱の位置づけだった日本を倒した先に待っていたのは、優勝候補の筆頭ブラジルだった。

そしてこの試合で彼らは今まで見せてこなかった「チームとしての」真価を発揮する。

日本戦とは全く異なるプランでブラジルに勝負を挑むベルギー

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試合が始まり、日本戦とは配置もプランも全く異なるベルギーの姿に誰もが驚いたことだろう。ブラジルの最終ラインにプレッシャーをかける最前線にはデブルイネ、その両脇に立っていたのがアザールルカク。中盤は本来サイドプレイヤーであるシャドリを含め3センターで陣容を組んだベルギー。ただこの形はあくまで相手のビルドアップに対抗する手段の一つにすぎない。一旦ボールを保持すれば最終ラインは3枚に変化し、シャドリとムニエがワイドに張る可変式のシステムが特徴だ。ここから彼らが何通りものオーガナイズを見せていく中で、とりわけこの試合のゲームプランをはっきり示していたのがベルギー陣内でブラジルがボール保持した際の彼らの姿にあった。

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この試合、両サイドに位置したアザールルカクは自陣に必死に戻ることはせず、高い位置にあえて「残った」。代わりにトップだと思われていたデブルイネが残りの守備ブロック7枚とともに後方に下がる役目を担う形。この試合に臨むにあたり、彼らのプランをブラジル側が想定していただろうか。ベルギーが天秤に掛けたのは、前線を一人削って3センターにした際の振る舞い方だ。両ウイングもしっかり帰陣し、4ー5で強固なブロックを形成するか、前線に2枚の「槍」を残すか。彼らのプランが秀逸だったのは、結果後者のプランを選ぶことで、ブラジル側の攻撃の人数を割くことにも成功した点だ。

ブラジルはベルギーのプランに対してルカクにはミランダを、アザールには右サイドバックであるファグネルを、また数的優位を保つためにチアゴシウバを中央に残した。両サイドバックのどちらを後方に残すかと考えた際、マルセロではなくファグネルを残すのは当然だろう。よって基本的には右ウイングに位置するウィリアンは孤立しており、彼にボールが入りファグネルがフォローしようとアザールを離せば、アンカーのフェルナンジーニョがその空けたスペースにスライドして穴を埋めた。ただしそれらの移動を伴った際、例えばフェルナンジーニョが空けたスペースを誰が埋めるのか、そこまでの準備はできていなかったように感じる。逆にブラジルの左サイドに対するベルギーの考え方は、後方から攻撃参加するマルセロにある程度自由にボールを持たれても、ネイマール-コウチーニョ-マルセロに対しムニエ-フェライニ-ウィツェルで応戦するというものだった。

ブラジルで最も危険な左サイドのエリア。ここで起点を作られてもベルギーの同サイドに位置する選手(ルカク)は決して引こうとしなかった。この試合の戦略下におけるマルティネス監督の最大の賭けだっただろう。大きなリスクが存在しても、それを受け入れることで大きなリターンを取りに行った。これがこの試合における大きな肝となった部分である。ルカクアザールが頑なに前線に残り続けたことで、ブラジルの後方3人は完璧にピンどめされた状態が続いた。

これで試合の様相は「攻めるブラジルvsカウンターのベルギー」となる。

そして前半13分、ベルギーが均衡を破る。得意のセットプレーからコンパニのヘディングで先制。続く前半31分には日本戦を彷彿とさせる高速カウンターからデブルイネの右足一閃。「高さ」と「カウンター」。まさに彼らの飛び道具とも言える二つの武器でブラジルから二点をもぎ取った。特にカウンターはスピード、精度、破壊力。どれをとっても今大会No1だろう。

前半を通して見ると、ベルギーが前線に残した2枚(ルカクアザール)にブラジルが相当手を焼いた印象だ。ブラジルが押し込む時間が続いてもこの2人の選手が高い位置から離れないため、必然的に彼らをケアするブラジルの3選手と、ベルギー陣内で押し込んでいる残りの7選手の距離感は間延びした。ブラジルとすれば、ボールを奪われるとそのスペースを駆使してカウンターのスイッチを入れるデブルイネを止めることが出来ず、単純なベルギーのクリアにしても迷いなく前線の2人めがけて蹴られるため、そこでボールを収められてしまうと即ピンチを招くシーンが何度も発生した。ベルギーとすれば前線が数的不利という感覚はおそらくなかったのではないか。極論デブルイネも含めた前線3人で十分ゴールを奪える自信があったと推測する。特にアザールは珠玉の出来だった。ボールロストはほとんどなく、特にデブルイネとのパス交換を止められるものは誰もいなかった。対して右のルカクは二点目のカウンターの立役者でありながら、試合を通してマッチアップしたミランダにほぼ完封された。

そしてデブルイネ。あの役目を彼以上のクオリティでこなせる選手はいないだろう。彼なくしてこのプランはありえなかった。その意味で彼のポジションをこの大一番の舞台で最も得意とする前目の位置に引き上げたマルティネス監督の手腕は見事だった。そしてその効力は絶大だった。

このままでは終わらなかったブラジル

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ブラジルは後半開始のタイミングで右サイドのウィリアンに代えてフィルミーノを投入。また58分にはジェズスに代えてドグラスコスタ。この結果ブラジルの攻撃は左サイドに重心を置いたコンビネーションからの崩し、また右サイドに展開してドグラスコスタが1on1を仕掛けていく流れとなる。ベルギーとすればマルセロに人をつけていないため、彼にボールが入るとどうしてもアプローチが遅れ、再三にわたりこのゾーンを起点にサイドを抉られる展開が続いた。これは日本戦同様、彼らの「中」に圧縮した守備構造を突いた盲点で、フリーで受けるマルセロに加え、中央から左サイドに流れてくるネイマール、その背後で起点となるコウチーニョのトライアングルは相当に強烈だった。

73分にはパウリーニョに代えてレナトアウグストを投入。そしてその3分後、ベルギーの一瞬の隙をつく形でそのレナトアウグストが遂にベルギーのゴールをこじ開ける。

レーンを埋め、逃げ切りを図るベルギー

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一点差に迫られ、ベルギーは陣形の変更に着手する。83分にシャドリに代えヴェルメーレンを投入。4枚で守っていた最終ラインにヴェルメーレンを追加し、5枚でレーンを埋め、サイドから攻め込むブラジルに対しスペースを消すことで応戦する。特に右サイドのムニエ、中盤のフェライニやウィツェルは横移動を頻繁に繰り返していた為疲労の色も濃かっただろう。この戦術変更でかなり負担は減ったのではないだろうか。

87分にはルカクに代えてティーレマンスを中盤に投入。これで試合をクローズすることに成功したベルギーが、優勝候補ブラジルを破り見事ベスト8進出を果たす結果となった。

突然の戦術変更に対応した高スペック集団

この試合におけるベルギーは、日本戦で観た彼らとは全く別の姿だった。相手が格上であることを認め、自分達のエゴを捨ててピッチに立った。前線に攻撃的な3選手を置き、ボランチにデブルイネを置く超攻撃的な布陣は日本戦でも弱点を露呈していた。それは例えばセットした際のブロック守備におけるバイタルエリアの対応であり、ボールを奪われた際のネガティブトランジションの強度であり。個性が強い分、チームになった時の稚拙さも同時に持ち合わせる隙の多いチームがベルギーだった。

そんな自分達の弱点を認め、3センターでブラジルの攻撃を凌ぐ決断をしたこと。しかしながら最も自分達の武器になるカウンターの影をちらつかせ、ブラジルを牽制した見事な駆け引き。そして何よりそんなこれまでとは全く異なる戦い方を実践の舞台、しかもブラジルという最強の相手に対して完璧に遂行した選手達。高い戦術スペックを備える選手達が、一つの目標に対して意思統一できたからこそ可能となったこの戦略。

個々の圧倒的な技術やスピード、パワー。高度な戦術理解力。なによりそんな彼らに「チームとして」策を授けられる監督の存在。それらが全て高度に交わった結果がブラジル撃破という事実である。この試合を制するために、彼らは彼らにしか出来ない策を講じ見事にその目標を達成した。

それは私たちの応援する日本代表にとって、もしかしたら彼らに敗戦したあの試合以上に、世界のとてつもなく高い壁を知らしめられる試合になったのかもしれない。

 

 

嫁ブロックされてる問題

まず初めに私が最近最も衝撃を受けたブログを紹介したい。

嫁という単語に既に震えるわけだが、そもそも「嫁ブロック」とは何なのか。

言葉の通り、嫁の存在が相手の行動を制限するので嫁ブロック。例えば趣味が異なる、子供の存在、ブロックする理由は様々だ。そしてこれはどうやらサッカーに限らず、どのジャンルでも存在するもののようである。

嫁ブロックなんて言うと、いまいち響きも悪い。勿論嫁いゃ奥様側からすると気持ちの良い言葉ではないだろう。これは私の経験則だが、大体嫁が正しい。ええ、まずそこの見解は触れなければならない。もう一度言う。大体嫁が正しい。ブロックされている側に問題があると仮定すれば、別に「馬鹿夫突撃問題」でもいいわけだ。

ただそうは分かっていても男の悲しい性とは救いようがないものである。駄目だと分かっていても突撃するのが馬鹿夫。

このブログは冒頭のブログに対して反論したいわけでも、嫁ブロックについて論じたいわけでもない。せっかく嫁側の気持ちが分かったのだから、駄目な夫側の紹介もするべきだという使命感。嫁ブロックとは、試合当日スタジアムに足を運べるかどうか、それだけではないのだという現実。嫁ブロックも多種多様だ。

そう、私は嫁にブロックされています。

ここからはサッカー馬鹿の夫が、サッカーなどまるで興味がない嫁とどう対峙しているか御紹介していきたい。読後の感想は下記構成を予想している。

〇しみじみ読みいるだろう層→嫁ブロックに悩む夫達。つまりは同志。

〇参考にするだろう層→未婚のサッカー馬鹿。つまりは以前の私。あとえとみほ氏。

〇きっと憤慨する層→子育て世代の奥様。つまりは私の嫁。

ではここからは様々な事例を交えながら嫁ブロックされてる問題を見ていこうと思う。

えとみほさん、その施策が成功することを愛知から祈っております(心から)。

▢ユニフォーム、調達するか、控えるか問題

サポーターにとって新シーズンの幕開けほど楽しみなイベントはないだろう。純粋にサッカー観戦ライフが始まる喜び、新加入選手を見る楽しみ、チームの進化に期待を抱くあの高揚感。そしてもう一つ、この時期の楽しみと言えば「新ユニフォーム」。

新ユニフォーム。あれは嫁ブロック問題にあえぐ旦那(以後「駄目夫」)にとってやってはいけないと分かっていても手が出てしまう麻薬のような存在。去年も買った、二年連続は買わない。どれだけそれを誓っても、忍び寄る悪魔がいる。

そう、ツイッターだ。

流れるわ流れるわ「今年は誰の背番号にしようか問題」。私は寿人、私は玉田。これがコア層になるとホームかビジターか。はたまたフィールドプレーヤーゴールキーパーか。贅沢。なんとも贅沢な悩みを聞かされたものである。そしてこれが開幕が近づくにつれ更に具体的な投稿へと変貌していく。

「ユニフォームが届いたことを画像と共に報告する」の工程である。

この段階になると駄目夫の頭の中ももはやユニフォームで頭が一杯である。罪悪感からの解放。あえて手法には触れないが、嫁すまん購入させていただきます(確定ボタン)。

商品を受け取ったら、ユニフォームが包まれているビニール袋は大切にとっておく。

何故か。試合が終わる度に畳んでそれに収納し、ひっそりと自宅で一年間運用する。間違っても部屋に飾ってはいけない。試合後気分が高揚すると時々自分が大きくなったような気分になるが、現実は駄目夫。畳んで収納、そこはおさえておきたい。

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▢有能マスコットグッズ問題

私が応援する名古屋グランパスにはご存知の通り2018年のマスコット王が存在する。とにかくその可愛さに性別問わず皆メロメロなわけであるが、そこに拍車をかけるように近年のグランパス運営陣はグッズ製作に非常に前向きときている。

試合の数日前、webで新商品発売の吉報が流れる。心が揺れる。当日スタジアムに行く。グッズ売場を覗き、新商品を確認する。嫁の顔がちらつく。何故ならこれを買っていくと嫁のリアクションは決まって「ねえ、本当にこれが家に必要なの!?」これだ。

だからこっそり買う。かさばるものは厳禁。そこは諦めてほしい。小さくて、お小遣い内で買ったと言えるグレードの物。例えば最近だとマグネットやポーチは満足度の高い商品だった。

駄目夫の駄目な所以として、これだけサッカーに嫌悪感を抱かれていても、どこかでまだ好きになってくれる可能性に期待している。そのために日常のどこかに意識付け出来るものを混ぜ込んでいく。その上でマスコットグッズは有効だ。

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▢遠征なんてもってのほか問題

ホームの試合ですら帰宅すれば嫁は不機嫌極まりないというのに、敵地への遠征などもってのほかである。であるからして、もっぱらアウェーは自宅観戦となる。

 ただここでもう一つ問題が生まれる。リアルタイムで視聴不可能問題だ。考えてみてほしい。実は外で2時間試合を観戦するより、じっとテレビに対峙して自宅で2時間試合を観ている方が軋轢が強い。「いつまで見ているのか」「いい加減家のことをやれ」自宅で観戦=嫁の監視付きという特典。この高いハードルに気づいていない方が多い。

なのでスタジアムに行けない時はもっぱら家族が寝静まった深夜観戦となる。どれだけ興奮する試合を観ても、その興奮を共有すべくSNSの世界に入れば、周りは一通り感想を述べあった後。

余談だが、海外の試合を観ることも独身時代に比べれば大幅に減った。これを読んでもらった後だと、観れるはずもないことを納得いただける自信はある。嫁の合言葉は「...またサッカー!?」これだ。このキラーワードは一生続くだろう。

ちなみに我が名古屋グランパスは昨年J2での厳しい戦を見事勝ち抜き、今年はJ1の舞台で戦っている(最下位だが)。J1のチームは比較的大都市に拠点があるチームが多い。愛知県民にとって特に狙い目は関西圏だ。名神高速道路をかっ飛ばせば二時間程度で吹田にも行ける。

ということで今年の開幕戦は吹田まで挑戦した。「豊田に行ってくる」と声をかけて。

▢駄目夫共感問題

最近の私の密かな楽しみは、私と同じ人種「駄目夫」達の駄目っぷりをツイッターの世界で垣間見ることだ。世の中は広い。同じエピソードを持つ駄目夫達が、それぞれでエピソードを披露しながら傷を舐めあっている。

よく見ると、これまで挙げてきたような嫁に内緒で購入する事例というのは後を絶たない。特にユニフォームはやはり酷い。Jリーグは今年25周年を迎える。名古屋グランパスは、ここぞとばかりに25周年記念モデルを発表した。

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先日グランパスはファン感謝デーを開催したのだが、会場にはこのユニフォームが飾られ、イベント終盤には実際に選手達がこのユニフォームを着用しお披露目もされている。

どうやら嫁に黙って購入した駄目夫達は、このタイミングで一か八か購入した事実を嫁に告げ全力土下座したようだ。イベントのテンションにすがる駄目夫達の判断が愛おしい。なんとか報告が完了し許しを得たことを知らせるいくつかの投稿に、私の心はほっこりし、皆頑張っているなと勇気づけられる。

そうだ、ユニフォームからは話が逸れるが、名古屋グランパスが取り組む「ホーム戦で勝利したときのみ販売されるビクトリーパネル」。これは曲者である。好きな選手がパネルの題材に選ばれれば勿論欲しい。購入すればそこにサインを貰うプランも考えられる。

ただ残念ながら自宅に飾れない商品は買うべきではない。運良くサインが貰えても、行き先はクローゼットの嫁視野外だ。

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ちなみに今年一番笑ったのは、テンションが上がって購入したことを告げていなかったシーズンチケットをつい嫁に見せてしまったエピソード。

それは一生の汚点である。駄目だ。今後のエピソード作りに精進して励んでほしい。

【番外編:シーズンチケットについて】

シーズンチケット購入は駄目夫にとって夢である。一回で数万円のものを一括購入など許しがでるはずもない。結果毎試合ちまちま購入する羽目になる。私だってクラブに貢献したい。私のお金をまだ見ぬスーパースター獲得に繋げてほしい。毎試合観戦するのにシーズンチケットが買えない。こんな層がいることを是非えとみほ氏には御参考にしていただきたい。

▢練習場日焼け問題

例えば嫁と子が私を置いて出掛けるときがある。そんな時、私は名古屋グランパス公式サイトに目をやる。何故か。練習のスケジュールを確認するためだ。

練習を見に行きたい。ただ練習まで手を出すと「試合がないのにまたサッカー!?」そう皮肉られるのがオチである。ただそれでも時々は行ってしまうのが我ながら駄目野郎である。ただお出掛け先が練習場であると可能なら悟られたくないものだ。

そんな時の天敵が「夏、灼熱の日差し」である。

練習後に見るは見るは日焼けしてしまった報告の数々。はっきり言おう。甘い、甘すぎる。

暑いからと言って袖を捲るなど愚の骨頂。脇の甘い人間はここに腕時計着用ときたものだ。腕はポッキー、手首はボーダー。笑わせてくれる。二重ロック双方解除か。私ならここに日傘も使用するほどだ。男性だろうが恥ずかしがらず日焼け止めも塗るべきである。眼鏡も危険。眼鏡焼けほど残念なものもない。

とにもかくにも日焼けだけは厳禁なのだ。

失敗すれば帰宅後嫁にこう聞かれる。「どこに行ってたの?」と。

 ▢幸せな家庭への嫉妬問題

ここでいう幸せな家庭とは、夫婦揃ってサッカー観戦が好きな家庭と定義したい。

駄目夫達は、この層への嫉妬が凄まじい。スタジアムに行った際、夫婦揃ってユニフォームを着用していたり、子供までキッズVerで身を包んでいる姿なんてこの世のものとは思えない。何故なら私達はユニフォームを購入したことすら告げられない情けない層。万が一嫁との観戦が成功したとしても、次は「嫁と観戦出来るのにユニフォーム着用出来ない問題」が勃発するのだ。

ちなみに今のところではあるが、もしこんな奇跡的な場面に辿り着くことが出来たら、私は嫁にこう言ってユニフォームを着てもらおうと思っている。

「あ、これ?...メルカリ。メルカリで安く仕入れといたよ」

独身サッカー馬鹿(愛を込めた表現)にアドバイスしておこう。

仮に交際中彼女がユニフォームを着て一緒にスタジアムに足を運んでくれていても、結婚後それが続くとは限らない。心の底からサッカーを、クラブを愛している女性でなければ、要は「彼氏に付き合ってくれてる感」が強い女性の場合、結婚したり出産したりするとその熱は一気に冷める。

だから今に甘えてはいけない。精一杯エスコートすること。サッカーの魅力、スタジアムの魅力を彼女に伝え、彼女から「また行きたい」そんな言葉を引き出せたら悔しいかな貴方の勝ちだ。

あぁ、娘にこんな可愛い服を着せたい。嫁と手が繋がることはなくとも、子供の手を経由して繋がりたい、グランパスの名のもとに。

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最後に今をときめく独身貴族にアドバイス

これまで様々なケースから駄目夫「嫁ブロックされてる問題」を検証してきた。

最後に現在独身でホームだろうがアウェーだろうがサッカー三昧の、自宅で一日数試合もサッカー観戦するような愛すべきサッカー馬鹿に下記アドバイスをもってこのブログを締めたいと思う。

貴方達が狙うべき女性は以下の通り。

  • サッカーが好きで好きでしょうがない女性

以上である。非常に狭き門だが、今のスタイルを崩したくないのであれば、もはや結婚しないor上記女性を狙う、の二択しかない。それに失敗すると、このブログにあるような大問題が発生することを今から肝に銘じるべきだ。

例えばスタジアムで出会った女性でお互い独り身、印象も悪くないのであればその縁は大切にするべきだ。断言する。そんな女性はどれだけ探してもなかなかいない。

ただ当然そんな女性は一握り。実際には私のような人生を歩む男性がほとんどだろう。

 ということで、そんな道を歩みそうな男性が気を付けるべき点は以下の通り。

  • まず冒頭に掲載したブログはマストで読みなさい
  • 自分のやりたいことだけ貫いていたら家庭は崩壊する
  • 家にいるときは極力妻に尽くせ。皿洗い、風呂掃除、洗濯干し。全部やれ
  • サッカー観戦を予定していない日は妻の行動に従順に
  • 自宅でのサッカー観戦は深夜のみ。見たい試合も精査しろ
  • 家庭の金銭事情は貴方が握れ。絶対に嫁に託すな。詰むぞ

どうだろうか。参考になれば幸いである。

子どもが出来たらマスコット人形を早い時期に買い与えるのも重要である。嫁が駄目なら子供を教育するしかない。子供の人生にそのマスコットが常に存在するような仕組み作り。物心がついて来たらマスコットに加え、イケメンJリーガーの存在を与えていく。そうすると順調に育っていくと嫁の教育に失敗した先人達が言っていた。

私は子どもが生まれてすぐ「おやすみグランパスくん」なる人形を買い与えている。子どもの横には私ではなくグランパスくん。もはや一緒に育てているようなものだ。

そんな我が家の娘とグランパスくんだが、最近私が朝起きると「グラっ!!!グラが悪いんだよ!!!謝って!!!!!」と真剣な怒鳴り声でグランパスくんに娘が説教している。この子は一体どんな娘に育つんだろうか。というかうちの娘に何をしたグランパスくん

さて、駄目夫の皆さん。そろそろワールドカップの時期です。

1ヶ月で64試合。64試合...。笑わせてくれる。まずは3試合、3試合を目指していこう。

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 ※このブログで使用した画像の一部は名古屋グランパス公式サイトより引用したものです