みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

鳥栖さんがパない件について語りたい

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

今季は名古屋と徳島そして鳥栖を追っかけると告げる。

相手は首を傾げる、『なぜ鳥栖?』と。

シーズン前、サガン鳥栖を上から見下ろした人間の更に高みから今サガン鳥栖が我々を見下ろしていると気づいているか。直近のセレッソ戦には敗れたものの、そこまでは4勝2分得点10失点0の堂々3位(今4位)。鬼強い。

SNSでは彼らの戦術について語られ(俺)、いかに彼らが類い稀なパフォーマンスをしているかと絶賛し(俺)、ほれ見たものかとドヤ顔のそう全部俺。

そもそもなぜあの日『サガン鳥栖は追っかけるに値するクラブ』と明言したかを聞かれてなくとも言わせてほしい。一言で済む。昨季面白かったからだ(語彙力)。

シーズン終盤のパフォーマンスを貴方は見たか。

ラスト10試合、3勝6分1敗だぞ。微妙だろ。

いやでもピッチ上で繰り広げられるフットボールは魅力的だった。ビルドアップは丁寧に、攻撃はピッチ幅をいっぱいに、背後のリスクは覚悟の上サイドバックは高く前方に、奪われれば激しく相手に襲いかかる。

彼らのパフォーマンスを羨んだマッシモはストーカーに勤しみ、結果晴れて名古屋にやってきたのが森下龍矢。

マッシモナイス。やれば、出来る!!!!!!!!

鳥栖サポーターの怒りを買いそうなので話を戻すが、こんな戦いを見せられちゃあ来季も追うしかねーな!と決めやってきた今シーズン。原に原川に外国籍ストライカーも抜けこれは苦労するに違いないと、正直ちょっと高みから見下ろした俺を心の中でぶん殴る。

強い、言葉を選ばず言わせてほしい、クソ強いと。

 

これが21年版鳥栖。モデルはライプツィヒ

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

これは第二節、浦和戦後のエルゴラッソのコピーだ。

エルゴラ史上最高級のインパクトで放たれた今季のテーマ(愛知在住でエルゴラ読んでなかったけどな)。マジか、それはやべえと馴染みの鳥栖サポさんに『前々から目指してたんですか?』と即座に問い合わせ。

僕も初めて聞きました!

いつナーゲルスマンを目指したキンミョンヒ。みんな置いてけぼりじゃねえかと安堵しつつ、いや確かに浦和戦の戦い方はセンセーショナルだったと回想する。

昨季からベースは変わらない。そのビルドアップも、横幅目一杯も、前からガツガツも同じ。

ただ何が変わったってさ、試合中にシステムが目まぐるしく変わるんだ。『今季の鳥栖は4-4-2のダイヤだね』『3バックはなんてことない目くらましさ』。

にゃーーーどこの誰が舞の海猫騙しじゃねーから。

そんな簡単に断定されてたまるか。もっと難解だよ、もっと難易度高いことやってるよにゃーーにゃーー。

〝点〟の部分いわゆる今季のパフォーマンスは後に掘り下げるとして、まずは〝線〟を意識した話をしたい。

そもそも何故縁もゆかりもないライプツィヒなんだと。

 

サガン鳥栖モデル〟の存在

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

これ、あまり知られていないんじゃないだろうか。

ここ数年、鳥栖はアカデミーをも巻き込んでクラブが目指す指標、看板をデカデカと掲げている。

鳥栖らしさ〟と〝アヤックスメソッド〟の融合だ。

www.sagan-tosu.net

ざっくり端的にいえば、鳥栖らしいハードワークや球際へのこだわり、その根底にある闘争心に加え、アヤックスの伝統ともいえるボール保持を基調とした攻撃的なスタイルが交われば、それもはや唯一無二という発想。

この取組み、振り返れば2018年のマッシモ時代から始まっており、イタリアにオランダのスパイスを注入する邪道極まりないプロジェクトに見えなくもないが、実際にメスが入ったのはアカデミーだ。一貫したゲームモデルに加え、九州という土地柄的な気質やボール保持をベースとし、安定してトップチームに選手を供給するシステム構築。少なくとも当時はこれが狙いだったはず。

しかし潮目が変わったのが2018年10月。

www.sagan-tosu.net

俺たちのマッシモがやっちまって、後任についたのが8月からマッシモの救助に駆り出されていたキンミョンヒ。

それまで鳥栖アカデミーで約8年慣らした男が満を持して登場。しかし彼に課せられた使命は外部から見れば尻拭いのそれだった。トップバッターはマッシモで、続いたのが誤報じゃなかったほんトーレスの〝大物路線〟、残留からの締めくくりはどこから来たんだカレーラス

つまり皮肉にも彼が本腰を入れトップチームの改革に取組めたのはあの20億の赤字が発覚した2020年シーズン、昨季からだったと定義しても良いだろう。

そう、未曾有の事態、コロナ禍ど真ん中だ。

 

〝降格なし〟をボーナスステージへ

遂に年間通して指揮を取れるシーズンがやってきた。

しかしそこに立ちはだかったのがコロナ禍による超イレギュラーなレギュレーション、そして竹原さんそこも誤報じゃないのか史上空前の巨額赤字。


【サガン鳥栖】竹原稔が目指したサッカーとは。【Jリーグ裏話】


【サガン鳥栖】竹原元社長が学んだ経営の極意とは。

〝降格なし〟〝しかし金もなし〟これまで常に残留争いと何故か湧きでるあぶく銭に良くも悪くも悩まされてきたキンミョンヒに用意された真逆のシチュエーション。

だからこそ自身がシーズン頭から陣頭指揮を執ると決まった段階で、アカデミーの選手達が活躍できる環境と、且つそれで勝てるフットボールを植えつけなければ、早晩ジリ貧になると危惧していたのではないか。彼が思い描くスタイルやサッカー観、まさにユース時代から目指してきたものを、〝トップチームにおけるサガン鳥栖モデル〟として確立すべき時が、遂にやってきたのだと。

そう思えるのは、今日に至るまでの彼らの歩みだ。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

昨季のシーズン序盤は4-3-3のシステムに取組んだものの、初勝利に辿り着くまで9試合、そこに至るまで4分4敗得点数2の苦難の道を歩んでいる。当時から丁寧なビルドアップとピッチ幅を活用する意図は見えていたもののしっくりこず。それでも〝降格なし〟の後押しでチャレンジを続けた彼らは、点が獲れなきゃ4-4-2じゃ!とシステムを変え、代わりにピッチ幅はサイドバックが埋めてしまえと大冒険。今季繰り広げるフットボールの原型となる超攻撃的なスタイルに変貌を遂げる。

ただそれだけでは飽きたらなかったキンミョンヒ。

鳥栖の根幹にあるものは、ハードワーク、球際、闘争心だ。ただ〝攻撃的〟と己のスタイルに酔いしれるつもりも、遡ればアヤックスの〝コピー〟になるつもりもさらさらなかっただろう。試合に勝つためには、サガン鳥栖が元々持つこの圧倒的な強みを、しかも若いチームだからこそ可能な形で全面に押し出すこと。これが最も近道となり、ひいてはそれこそが自分たちのスタイルになると解釈したのではないか。まだ進化の余地あり、クラブを守りそして強くするためには止まっている暇はない。

今季待っていたのは降格4クラブ、地獄のシーズンだ。

 

そして生まれたトップチーム版サガン鳥栖スタイル

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

前年に築いたそのスタイルをさらに進化・発展させ、且つ〝勝てる〟チームを目指すべく、彼らは〝ハードワーク〟そして〝若さ〟を最大の武器に据えた。

基盤となるシステムも4-4-2から3-1-4-2へ。

その理由を解釈するうえで興味深いのは、攻撃時のデザインはある程度前年ベースを踏襲した印象を受けることだ。もちろん細かいメカニズムに違いはあれど、ピッチの横幅を6枚(左から中野、小屋松、林、山下、樋口、飯野)で埋めるデザイン自体に大きな違いはない。

基本システムを変えたことで大きく変わった点、それはボール非保持の場面、つまり守備にあると考える。

高い位置からボールを奪いに行く際、従来の4-4-2より今季の3-1-4-2の方がよりバランス良く前線からプレッシャーをかけ易くなった点が一つ。相手のビルドアップを阻害すべく前から圧をかける際、従来はどうしても両サイドハーフの立ち位置、またそこに付随した両サイドバックの移動距離(つまり各々がターゲットと定めた相手にプレッシャーをかける際のアプローチ方法)は改善点に映った。しかし今季は彼らをインサイドハーフ、そしてウイングハーフ(鳥栖ならではの呼称)と明確に設定したことで、中の密度は保ったまま、しかし各々がその標的に対し最短距離でアプローチ出来る仕組みとなった。その分背後が気になるが、そこはスリーバックの左右のストッパーが前に連動する形で対応する。アンカーの担当エリアが広いのが玉に瑕だが、ここは童顔の松岡が獰猛に相手を削り、ボールを刈り取る。名古屋に来い!

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

一方で相手に押し込まれる場面では、従来の4バックではなくウイングハーフを下げ5バックとすることで、ピッチ幅をバランスよく埋め、ブロックの安定化を図っている。いわゆる人海戦術に近い発想だ。

つまり攻撃の良さはそのままに、守備のバリエーションを相手の出方で変えられるようになったわけで、そりゃ机上で語れば最強じゃねえかと唸ってしまうが、問題は何故それが可能となったのか、である。

〝ハードワーク〟と、それを可能とする〝若さ〟だ。

第五節終了時点での総走行距離、リーグNo1の626.8㎞とは恐れ入った。これは完全に走る暴力。

またこのメカニズムを語る際、左サイドを担当する三人、中野、小屋松そして仙頭は避けて通れない。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

守れば5バックのウイングバック、前からプレスをかけるなら今度はウイングハーフ、ボールを保持すれば一つ内側に入ってインサイドハーフ(ハーフスペース侵略担当)。小屋松よ、おま死ぬぞ。彼のオバケ体力とその理屈上の移動をマジで可能としてしまう爆発的なスピードにより活かされるのが新たな司令塔、仙頭だ。自身より前で立ち位置を取る6枚のレーンをどう操るかは彼のスキル次第と言っていい。またそんな彼らのコンビネーションを影で支えるのが若干17歳の若武者、中野。彼の動きは小屋松と持ちつ持たれつの関係性で成り立つ。ボール保持の際、中野が大外まで上がりきれば小屋松は一列中へ。一方のボール非保持では、小屋松が横にいれば3バックのストッパーとなり、彼が横にいなければオートマティックに最終ラインは4枚へと移行。中野が従来のサイドバックとして外のレーンを担当する。ここでも昨季のベースが前提にあることを見逃すことは出来ない。

面白いのは、これほど複雑なシステム変更を主に左サイドの連中が担っており、対する右サイドに位置する飯野、ファンソッコのタスクは非常にシンプルな点にある。飯野はとにかく前後をアップダウンし、攻撃になれば〝分かっていても止められない〟縦の仕掛けでチャンスを演出する。後方のファンソッコはビルドアップに大きく加担することなく、むしろその持ち前のフィジカルとスピードでチームを下支えするのが大きな役目だ。

つまり選手の個性を生かすべく、〝左が頭脳〟〝右が槍〟と意図的に左右非対称でチームのメカニズムを作りだしたのが今季最大のポイントといえる。元々持っていた攻撃性能に加え、ハードワークとそれを生み出す溢れんばかりの若さを武器とすることで、目まぐるしくチームの様相を操れる、それが今のサガン鳥栖の強さの源。

おっとそうそう忘れてた。総走行距離の貢献者を。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

もうさ、『今日も今日とて俺も走るしかねえ....』って誓いを立ててる姿にしか見えないパクイルギュ。

守るのが仕事か走るのが仕事か本人も分からなくなってるとしか思えない走行距離。しかし前からアグレッシブに奪いに行く鳥栖にあって、彼の圧倒的なプレーエリアの存在を無視することなど出来やしない。あるいはビルドアップで押し戻されれば彼が逃げ道となり、絶対に適当には蹴っていけないルールのもと、ケツバットだけは喰らうものかと効果的なパスで見事に11人目のフィールドプレーヤーを体現する、まさに攻めながら守る男。

ここにエドゥアルドと松岡、さらに言えば仙頭を加えたビルドアップ隊はなかなかに屈指な陣容で、彼らが相手のプレス隊と対峙しバリエーションあるビルドアップを駆使することで、前線からのプレスだけでなく、後方からのビルドアップでも試合の主導権を握ることに成功している。また他の連中が安心してポジションが取れるのも、もっといえばこれだけのポジション移動が可能なのも、彼らの存在抜きには語れないのだ。

決めたパギさん手放した横浜は定期的にイジってこう。

 

さあマッシモ、ともに鳥栖ウォッチを続けよう

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

彼らが今季実現しまたブラッシュアップに成功した点。

それはより前からアグレッシブに、待つのではなく奪いに、そして攻撃的に、しかし守るべき時はチームとして結束して守る。まさに『いやそれ可能だったらどこのチームだってやりてえよ!』と嘆きたくなる進化にある。

ただ繰り返すがそれを可能とした大きな要因は、昨年から続く〝あるべきサガン鳥栖スタイルの追求〟であり、またそれを根幹で支える彼らの文化、そして圧倒的な若さにある。それらが融合した結果、他にはないスタイルが生み出された点は評価されるべきことで、仮にその進化のヒントになったのがライプツィヒにあったのだと言うのなら、これは非常に興味深くまた面白い。

このコロナ禍で鳥栖が無傷だったかといえばむしろ傷を負ったこともあったわけで、本来『コロナ禍のボーナスステージ』なんて不謹慎な表現なのは自覚している。

しかし今季の躍進に関して、例えば今だけに着目して語るのも、あるいは鳥栖には優秀な若手がいるからなと安易に片付けるのも、ここでは異議を唱えたい。彼らの躍進は、彼らが歩んできた文脈と、その結果生まれたキャスティング、そして何よりそれでも生き残るべく知恵を働かせこのコロナ禍すら逆手に取った継続の賜物だ。

さて今後も彼らの快進撃は続くのか。

そこにちょっと待ったと肩に手をかけクルピセレッソ

彼らが鳥栖に突きつけた課題は簡単なものではない。一つは選手達の個性を重視するが故の複雑な鳥栖のメカニズムそのもの。チームの頭脳であり心臓が松岡であり仙頭であるのは明白で、さすれば彼らをゲームから排除したいと思うのは当然。つまりボールが循環する〝肝〟が明確故の長所と短所が表裏一体のその仕様。二つ、仮にボールが前進出来た場合、潔く撤退し前後コンパクトにゴール前を締めてくる相手にどう立ち向かうか。端的にいえばラスト1/3の質とアイデアが課題であり、清水や福岡そしてセレッソとブロック守備に定評のあるクラブ相手にことごとく躓いた。三つ、リードされた展開における試合の運び方だ。ただでさえ前掛りなスタイルにあって、リードされゴールが割れないジレンマに陥るとチームはどうしても前傾姿勢となる。後方のメンバーが個人で晒されるのは至極当然で、その一つの結果があの日のファンソッコの退場であると言えるのではないか。

彼らのスタイルの根幹にあるリソース(選手層)と運動量も当然ながら重要な肝であり、これらが欠けたときチームの真価が問われるはず。なんにせよ相手に研究対策されてからが本番で、さあこれらを上回れるか。

そしてやってきたまだ見ぬ第二のオルンガ候補生、ナイジェリアとケニアの刺客チコとドゥンガぐりとぐらっぽく)。チコのわりにはむしろ道を踏み外した岡村隆史感があるキャラ設定もややこしければ、ボーっと生きてんじゃねーよ!とキレるには見た目も名前も申し分なさそうなドゥンガとの役割分担が尚のことややこしい。

そして次節は首位川崎そして控えるガンバと名古屋。

前節を〝完敗〟と認めたキムミョンヒはこう語った。

僕たちに似合わない大きな荷物、重荷を一つ下ろせたということで選手達も目が覚めて次に向かっていけるのではないか。変な驕りや胡坐をかいているような余裕のあるチームではない。もう一回ゼロに戻して、しっかりと戦う姿勢をみせて、次のゲームに進みたい

無敗と無失点が途絶えたから終わりではない。

むしろセレッソ戦の完敗こそ彼らにとっての新たな始まりであり、始まった矢先に待ち構える上位陣との4月のシリーズに向け、彼らがどう立ち向かうかは注目だ。

マッシモ、吉田豊、森下龍矢、金崎夢生ともはや名古屋のブラザーと言っても過言ではないサガン鳥栖

きっと今季もマッシモは見ているだろう。私だって見ている。マッシモは夢生が好きで、そんな夢生は林大地が好き。そしてなんと私も林大地が好きで、ということはきっとマッシモも林大地が好きなこの幸福無限ループ。

結論、俺とマッシモは相思相愛なのかもしれない。

時を経て名古屋に集結した〝90年世代〟

毎年この時期の脳内は我らが最強で埋め尽くされる。

オフの主役といえば名古屋しかし予想外の大補強はエスパルス。とはいえオフの王者名古屋のこの風格。

学に柿谷とは7年前ならバリバリの代表戦士。ここに米本と吉田豊も加えればなんと懐かしい約14年の時を経て城福ジャパン再結成。但し監督はマッシモです。

例年になく派手なチームに激変し"戻ってきた感"のある名古屋を今回も主観でばしばしと斬っていく。

 

一年を通し見えてきたマッシモ流

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

まずはマッシモの描くフットボール像のおさらい。

素人の立場ながら試合を通し受け取った印象、一方でシーズン後に選手たちが発した実際の感想。

ここから読み取れるのは、

  • 起用する際のプライオリティは〝守備〟にあり
  • 〝守備〟におけるタスクとルールは相当に細かい
  • 一方で〝攻撃〟は比較的自由(約束事は最低限)

一言で〝守備〟とまとめてもじゃあどんな守備なんだとツッコまれるが、ここでは簡易的に〝マッシモが要求する守備〟だと定義したい。その点は後述する。

どの選手の口からも、求められる要求が高く細かいことは明らかとなっており、またそれが結果に結びついた事実は重要なポイントだ。どれだけ攻撃でメリットを生み出せても、他方守備にデメリットが多く結果収支が合わなければ起用の優先順位は落ちてしまう。

逆にそれさえ出来れば攻撃の約束事は多くない。

守るべきは〝誰かが動けば誰かが埋める〟ことであり、それもボールを奪われた先を見越した約束事。

しかしながら〝最低限の約束事のみ〟とはつまりその分攻撃は個人依存型なわけで、依存するが故に求められる能力もはっきりしている。ただ繰り返すがまず大前提は〝求められる守備〟があり、そのベースをもって必要な攻撃の能力も定められていると解釈したい。

近年の名古屋は降格後にスタイルを一新し、結果が伴わないジレンマからさらに軌道修正を図り今に至る。

〝現在(いま)〟に徹底してフォーカスする大森スポーツダイレクターのチーム編成と、それをピッチで〝結果〟に結びつけるマッシモのタッグは今季も健在。優勝争いが出来るチームを作る。この一点において、彼らの手腕に異論のある者はいないだろう。

新体制発表会で大森氏が繰り返し発言した、

  • チーム内での競争力
  • スピーディーな攻撃

これが昨季から継続して積み上げるテーマとなる。

では今季のチーム編成について、各ポジション毎に掘り下げていく(ゴールキーパーは割愛)。

 

熾烈なレギュラー争い 〜センターバック

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

セレッソ大阪より木本恭生が加入。昨季全試合フル出場の丸山、中谷との〝競争〟であることを強調する大森スポーツダイレクター。セレッソ時代にはセンターバック以外にボランチもこなす器用な印象があるものの、今回は本人の希望も、またクラブ側の要望も〝センターバック〟であったことがポイントだ。

昨季〝堅守〟で名を馳せた名古屋とセレッソ

ライバルクラブから主力級を抜いたわけで、これ以上の補強はないと言えよう。空中戦は名古屋屈指だ。

ちなみにこのポジション、藤井陽也も控えている。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

アカデミー卒である彼や成瀬、石田を今季はクラブとしてどんなヴィジョンのもと育てていくだろう。

決してマッシモが〝若手を使わない監督〟だとは思わないが、同時に〝使いたい若手〟もはっきりしているはずで、それはどの監督でも至極当たり前のことだ。

しかし目先の結果、つまり〝チームの力を落とさない為の起用〟に終始しては一向に彼らの出番が訪れることはなく、それは試合に関わることのない月日だけが過ぎていくことを意味する。よって〝若手の伸び代への期待〟が今季の編成に組み込まれているかどうか。

名古屋のアカデミー卒の選手たちは比較的小柄で且つ華奢な選手も多い。例えば昨季大成功を納めた成瀬竣平にしても、結局はシーズン途中オジェソクの加入でその座を奪われた。持ち前のテクニックと敏捷性を持ってしても、ジェソクの対人能力や球際の力強さの前にはベンチを温めるしかなかったのが現状だ。それは藤井にもいえること。恵まれた身長はあってもマッシモが求める理想像からすればその身体は華奢に映る。

守備がベースにあるということは、つまり〝ボール非保持〟で何が出来るか問われるわけで、故にフィジカルの面は無視できない。これは〝ボール保持〟をベースに選手選考していた過去との決定的な違いである。

使えないと切り捨てるか、使えるように育てるか。

トップチームが結果を求めるあまり、未来ある名古屋の若手達に蓋を閉じる行為は本末転倒。大切なのは〝現在(いま)〟がどう〝未来(さき)〟に繋がるかであり、つまりトップチームとアカデミーの二軸が〝それぞれで〟稼働している事態だけは避けるべき。

目先の結果だけでなく、この視点も忘れたくはない。

 

鳥栖さんお世話になってます 〜サイドバック

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

サークルにああいう奴いた森下龍矢。

陽キャ全開で既にファン層拡大中の森下だが、実は今季の目玉補強になりえるので少々掘り下げよう。

鳥栖時代を振返ると彼の特徴は遺憾なく発揮された。

チームは攻撃的。彼と前後でコンビを組む右サイドのミッドフィルダーは外に張ることへ拘らず、相手の〝間〟で受けるのが主たる仕事。対して〝大外〟に位置しピッチ幅を確保するのは常に森下の役目。故に自重どころか高い位置を取ることはもはや約束事で、彼の前には縦に仕掛けるスペースが確保されていた。

一方名古屋におけるサイドバックの役割は異なる。

スタート位置は低く、だからこそ攻撃を開始する際に問われるのは〝ビルドアップ〟の能力。もちろん大外に張る役目はなく、なにより前方に位置するウインガーとの関係性が重要となる。操縦し、操縦され。ただひたすらに大外を駆け上がればいいわけではない。

そして改めて言及するまでもなく〝守備〟の要求は多岐に渡る。ポジショニング、身体の向きは矯正確実。また本人も課題として挙げている逆サイドからのクロス対応。もう三笘(川崎)に背中は取らせまい。

web.gekisaka.jp

これだけ正反対に近いクラブをあえて彼が選んだ事実は、自身のキャリアを逆算した結果だろうか。

そして更に面白いのは、スタイルが異なるサガン鳥栖での彼をマッシモが評価した事実に他ならない。


【第8節のピックアップゴール】FC東京vs鳥栖 森下 龍矢(鳥栖)43分

90分ひたすらに繰り返せるスプリント力に加え、そのスピードを武器とした対人能力。分かりやすくいえば〝サガン鳥栖の大先輩〟吉田豊を彷彿とさせるそれであり、マッシモ漬けにする素養は十分だと見込んだのだろう。また明治大学出身という意味では、同じくカルチョ漬けで成功した長友佑都が理想像だろうか。サイドハーフもこなす攻撃力に加え、名古屋でこれらの課題を乗り越えた先を想像すれば、近い将来の日本代表いや海外進出もありえる逸材と言っていい。

それにしても右サイドバックの争いは熾烈である。

正直にいって、獲得の経緯とこれまでのチーム内での立ち位置を踏まえればレギュラーが森下、控えに成瀬となる可能性が非常に高い。吉田豊にアクシデントがあれば、森下が左に回り右を成瀬が務めるだろう。

ではクラブ在籍5年目の宮原和也はどうなるのか。

おそらく現在のチームにおいて、積み上げた実績と立ち位置の乖離が最も激しいのが宮原だ。昨年同様三番手に甘んじて契約満了に向かっていくのか、あるいはレギュラー奪取ないしはそのユーティリティ性に活路を(マッシモが)見出すのか。彼を戦力に組み込めば相当チーム力は上がるはずだがさあどうなる。

 

むしろマッシモが漬けられそうな男 〜ボランチ

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

誰がどう見てもインテリ感の塊よ長澤和輝。

大学時代からの仲良し稲垣祥とは遂にチームメイトに。それを祝うべく新体制発表会では『ドイツに試合を見にきてくれ速攻で財布をなくした不思議キャラです』と早速ボランチのライバルを爆撃するインテリ。


【車内対談】名古屋グランパス長澤和輝選手に聞く 足腰の強さの秘訣|ドライブトーク前編|鈴木大輔【ヒストリア】

俺の下半身はスキー仕込みだ!と豪語する長澤の下半身は確かにすげえ下半身で、今季挑戦するACLでも過去にその下半身でブイブイいわせてた姿は忘れない。

globe.asahi.com

現役Jリーガーでありながら早稲田大学大学院に通った秀才は、その頭の回転速度と落ち着いたロジカルな語り口調でいつかの中田英寿をも彷彿とさせる。


関東2部からJを経由せずブンデス2部で優勝した長澤和輝が語る海外で活躍する方法がコレだ【海外を目指す君へ】

セレッソから加入した木本を〝センターバックとして獲得した〟と強調し、ボランチにはこの長澤を獲得した大森スポーツダイレクターの狙いは興味深い。元々は川崎の守田を狙ってたかどうかは知らないが、つまり名古屋のボランチに何より必要な能力はボールを狩り取る力であり、そして前後左右の広大なエリアをカバー出来るだけのスタミナとスピードだ。攻撃面は〝奪ったら素早く縦へ〟大森スポーツダイレクターの言葉からもボランチに求める能力は伺える。

何故ジョアンが構想外になったのか、あるいはこの枠に木本を含めていない理由もそれらにあるのだろう。

www.soccerdigestweb.com

また余談にはなるが、名古屋が流通経済大の安居海渡に拘る理由もまさしくここにあるはずだ。これまで狙ってきたターゲット、このポジションの年齢構成を踏まえても是が非でも獲得したいに違いない。

さて長澤だが彼は名古屋一ユーティリティな選手だ。

ボランチをメインに、試合展開に応じては阿部の代わりにトップ下の起用も考えられれば当然ながらサイドも出来る。もっといえば試合をクローズドさせる展開においてはサイドバックでの起用にも応えるだろう。

ポイントは〝どのポジションでも非常に強度の高いプレーを担保できる〟ことにある。つまり先行逃げ切り型のマッシモにあって、これほど使い勝手の良いピースもないはずで、一家に一台長澤和輝間違いなし。

 

コアラを狙うヒヨコ 〜ウイング〜

名古屋の左サイドがあざといキャラで交通渋滞。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

これははっきりと相馬勇紀のライバルと解釈すべきだろう。各媒体では名古屋のスタメン予想にマテウス前田直輝が名を連ねるが、個人的には彼らがむしろライバル関係で、一方の左サイドを大学時代の〝11番〟を背負うこととなったコアラと、優しい面をして実は獰猛なヒヨコが争うだろうと予想している。

チームでいえば今季このポジションのタスクは注目。

名古屋のウイングに求められる要素は多い。前述した通り守備ではきっちり4-4のブロック形成をするとともに、場合によっては最終ラインに吸収されてでも相手サイドバックを捕まえる。そしてそのベース(=スタート位置)があって始めて攻撃が始まるわけで、つまり圧倒的な対人能力、スピード、スタミナ、そこから前に出ていくパワー....ああどれだけ必要か。

しかもしかも必要な能力はこれで終わらない。

そこからアタッキングサード(相手ゴール前)では〝最低限の約束事〟故、相手がブロックを組めば個の打開力がこのポジションには求められることとなる。


【第28節のピックアップゴール】名古屋vs湘南 マテウス(名古屋)11分

昨季終盤コンディションを理由に相馬がスタメンを確保した理由はおそらくこれらの要素に起因しており、逆に前田が後塵を拝した理由もまたここにある。その点マッシモが最大限評価したのがマテウスで、彼の場合は攻守に爆発的なスピードとパワーを発揮しつつ、〝何もないところから何かを起こす〟謎の力まで併せ持つ、まさに〝マッシモのために舞い降りた天使〟。

では対する前田の特徴が何かといえば、その卓越したドリブル以上にフィニッシャーとしての能力にある。


【第34節のピックアップゴール】名古屋vs広島 前田 直輝(名古屋)86分

チームとして〝彼が点を獲る仕組み(=点が獲れるポイントに彼が現れる道筋)〟が作れればこれはもう最大の武器なわけで、但し現状はむしろ『ボールは預けるのでお構いなしにゴールマウスぶち込んでやってくだせえ!』なチームなのでなかなかに道は険しい。

さて今季何故このポジションが注目になるのだろう。

それは昨季を振り返る際、どの選手もチームの課題として〝後ろに重すぎた〟ことと、〝攻撃の選手(特にこのポジションの選手に向けてだろう)に負担をかけすぎた〟と口を揃えるように語っていたからだ。

これを改善するために考えられる手は以下の二つ。

  1. そもそもの守備の仕組みを変える
  2. 攻撃の精度を上げ結果ボール保持の時間を伸ばす

①を端的にいえばウインガーである彼らの守備負担を減らす仕組み作り。②に関しては重要な点で、〝前から奪う時間を増やしたい〟のであれば、逆説的だが結局は攻撃を改善するのが何よりの近道となる。

彼らが掲げる課題と今季の成長を図るうえで、この点に着目するとシーズンがいっそう面白くなるはずだ。

 

彼はこのクラブでどう成長するだろう 〜トップ下〜

阿部ちゃんやシャビエルを今更語る必要もないので、ここは三年間待ち焦がれた児玉駿斗に触れておこう。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

現状の名古屋で語るのなら枠は一つ〝トップ下〟。

何故なら他のポジションに比べ、このトップ下は唯一求められるフィジカルレベルに違いがあるためだ。前後を繋ぐハブとなり、相手のライン(DFとMF)間でスペシャルなアクセント、つまり〝違い〟を生み出し決定機を演出するのが最大の仕事となる。

もちろん守備にも役割はある。運動量はもとより、後方で待ち構える味方の助けとなるような〝賢い〟守備が問われるだろう。また前線からプレスを開始する際は周囲を動かし、自らもハードワークをこなす必要がある。これらのタスクをこなせなければ、監督であるマッシモにとってこのポジションを置く意味はない。

しかし今の名古屋でいえば阿部ちゃん然り、過去を振り返れば河野広貴も重宝したりと唯一小柄な選手でも積極的に起用してきたのがこのトップ下のひと席。皮肉にも彼の先輩である渡邉柊斗もこのポジションで試されていたのは記憶に新しい。勝負するならここだ。


【公式】ゴール動画:児玉 駿斗(名古屋)41分 ガンバ大阪vs名古屋グランパス JリーグYBCルヴァンカップ グループステージ 第6節 2018/5/16

さて児玉はマッシモのサプライズになれるか否か。

 

今季の命運は彼に託された 〜ストライカー〜

練習初日から圧倒的な存在感と貫禄の柿谷曜一朗

ユニフォーム売上一位をあろうことかセレッソ大阪の看板選手が即奪取したわけで期待の表れに違いない。

migiright8.hatenablog.com

彼自身にフォーカスした内容は過去のブログで言及したので簡潔にまとめるが、前述した森下が〝どこまで成長出来るか〟だとすれば、柿谷は〝どうはめ込み、結果彼自身がどう変われるか〟ではないだろうか。

最近になって長身ストライカーの話題が盛んだ。

この点に関しては、シーズン後の阿部浩之のインタビューが参考になるのでこの前提で語っていきたい。

inside.nagoya-grampus.jp

阿部ちゃんが昨季の課題に挙げた内容は簡潔にこれ。

  • 〝味方のために〟スペースを生かす動き
  • パスコースを増やす動き(顔を出す)

つまり各々の選手が自身のやりたいことに終始しているようでは駄目、〝味方のため〟にプレーが出来なきゃこれ以上の進化はねーよとのご指摘。余談ではあるが、こればかりは意識しないと変わらないとはっきり断定し、昨季の攻撃はほぼ評価に値しないとばっさり斬る歯切れの良さ。挙げ句、監督の好みは理解しつつもそれはあくまでベースであり、俺はそのうえでもっと攻めたい点も獲りたいと主張できるその姿勢。これぞ阿部浩之たる所以だなと感じざるを得ない。

さて、この課題を解決するには以下三つではないか。

  1. 理屈度外視で力技(高さ)でねじ伏せる
  2. マッシモが攻撃の細かい約束事を植えつける
  3. 阿部ちゃんの感覚に近いキャスティングで固める

ということで、もっとも手っ取り早く且つ計算出来るのが①長身ストライカーの獲得、となる。その点に関してはこのブログでも散々言及してきたわけだが...。

どうせなら柿谷曜一朗に賭けてみませんか(誰宛)。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

ここで長身ストライカー到来では、あまりに王道且つベタな展開で強いに決まってるのだもの。違う言い回しをすれば、全てが計算できてしまうことへのロマンのなさとでも言おうか。守備は堅守で攻撃もゴール前目掛けてクロス祭りや!ではさ、あまりに芸がない。

現状打破は出来るだろう。但し結局はそれもまた個人依存には違いなく、阿部ちゃんが指摘する課題に対して本質的な解決をしたことには繋がるまい。だったらマッシモが有機的な動きを仕込んでくれると彼に願うか、あるいはそれが無理なら〝目が揃いそうな〟阿部ちゃんや柿谷、学を並べそこで起こるケミストリーに賭けてみたい。おそらくそれを誰より望みまた楽しみにしているのが阿部ちゃんではないか。そもそも名古屋には山﨑だっているしそうだ夢生も戻ってくるぞ。

一つくらい箱の中身がわからない楽しみは如何。

 

なんの縁か名古屋の地に集結した黄金世代

相変わらず長々と書いてしまったが最後の章である。

あまり話題にあがることはないが、今季の編成における最大の変化、肝の部分は〝年齢構成〟にある。

web.gekisaka.jp

チームのムードメイカーだった千葉和彦太田宏介がクラブを去り、新たにやってきた〝城福ジャパン世代〟の柿谷や学、前述の吉田豊や米本を加えクラブのボリュームゾーンは見事90年世代となった。実は丸山に阿部ちゃんも柿谷とは同学年まさに〝柿谷世代〟。


U-17W杯 日本-フランス 柿谷曜一朗のスーパーゴール

代表経験豊富でJのスターとして名を馳せた彼らは良くも悪くも誇り高く、そして一癖ある選手たちだ。

柿谷にしろ学にしろ、最高峰といえるワールドカップの舞台に辿り着いたものの、周囲が期待した通りのキャリアが築けたかといえば否定的な声が多いはず。その前後の世代がワールドカップの舞台や海外のクラブで成功した事実に対し、彼らのキャリアが波瀾万丈だったことは否めない。あるいは米本や吉田豊にしてもその実力に反し今日まで代表定着に至るキャリアは歩めなかったし、それは阿部ちゃんや丸山も同様だ。

しかしそんな彼らが何の縁か名古屋の地へ集結した。

初日の練習風景をみても存在感は別格、はっきりと確信したが今季の名古屋は彼らが主役であり顔だろう。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

彼らがチームの先頭に立ち、〝俺たちはまだ終わっていない〟のだとキャリアにもう一花咲かせるか。あるいは上手くいかずアクが強いが故にバラバラとなってしまうのか。もはや名古屋の命運を握るのは彼ら世代であり、阿部ちゃんのように〝マッシモに言われた通りやる〟のではなく、〝マッシモの理想以上のものを作り上げる〟気概で与えられた枠を突き破ってくれれば、おそらく今季は面白い。若かれし頃、世界を見据え戦った彼らが、30歳を超え今度はチームを引っ張る〝ベテラン〟の立場でこの地に集った。こんなに不思議で、そして面白い縁を見過ごすなどもったいない。

〝90年世代の逆襲〟これが名古屋の裏テーマだ。

選手とクラブ、そしてファンサポーター

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

移籍移籍で怒涛の日々だ。

特に今オフはコロナ禍の影響もあり選手の出入りが激しい。どのクラブのサポーターも毎日が一喜一憂、もはや誰がどこに行ったか分からないので名鑑待ちだ。

さて、我らがグランパスも相変わらずの日々である。

nagoya-grampus.jp

nagoya-grampus.jp

nagoya-grampus.jp

名古屋のアカデミーで育ったストライカーに、長らく誰もが『名古屋の未来』だと信じて疑わなかった二人。まさか『完全』移籍とは。目を疑った。

それにしても毎年毎年よくもまあここまで心揺さぶれるものだ。毎時間我々の心はジェットコースターの如く上がってはダダ下がる。だって青木に杉森ときた。ダウンしてなお馬乗りするようなものではないか。

振り返るとこの時期を平穏に過ごせたことはない。

クラブからすれば今さら掘り起こすなと言いたいだろうが許して欲しい。文脈の共有のため振り返りたい。

 

繰り返された〝ファミリー置き去り〟の移籍劇

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

2018年オフ、涙の昇格決定後に待ち受けていた田口泰士の移籍。フロントから引き出したクラブ内最高評価と本人の希望次第で結べる複数年契約。しかしあろうことか彼は移籍の道を選ぶ。こんな言葉を残して。

このクラブのために頑張る気になれなかった

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

翌2019年オフには玉田圭司がクラブを去った。待て前シーズン最大の功労者では。2年連続で襲う悲劇。再び名古屋に戻ってきた〝クラブのアイドル〟は、その発表を待たずしてインスタに別れの言葉を紡いだ。

今シーズンで退団することになりました。あまりにも突然だったので正直、頭を整理するのに少し時間がかかりました....。2014年に一度退団し、その2年後に帰ってきて名古屋グランパスに誠心誠意をもってやってきましたが、契約しないと伝えられた時には労いの言葉の1つもなかったことにはがっかりしました。しかし、とても刺激的な2年間でしたし、僕にとってすごくいい経験をさせて頂いたと思っています。シーズン終了後に皆さんから来年度の僕のユニフォームを予約してくださったとの声を頂いて、来年にむけて頑張ろうと思っていたので、それを無駄にしないためにも前を向いていきたいです!ありがとうございます!

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

同年もう一人の功労者であるキャプテン佐藤寿人もクラブを退団。2020年、クラブレジェンドである楢崎正剛が彼の引退に寄せたメッセージには、皮肉にも当時は知り得なかった現実が2年の時を経て綴られた。

お疲れ様でした。何度も対戦し、同じチームでもプレーしました。いつも相手に脅威を与えるストライカー。数字が物語っています。日本サッカーへの貢献は計り知れません。本当にありがとう。苦しい時期を共に戦い、大きな力になってくれたことは感謝の気持ちしかありません。今でも名古屋での最後は、もっとリスペクトがあるべきだったと思う....。これからの道、たぶんまたお世話になることもあるでしょう。次のステージも輝かしいものであることを願います

そして最後に風間八宏だ。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

シーズン途中で解任が決まった際、クラブの声明に彼に対する感謝の言葉はほぼ存在せず、あったのは『いかにこのまま続けていたらヤバかったか』それだけだった。残留を決めた際にでたトドメの一言がこれだ。

あのまま行っていたらおそらく…これはジョーも言っていたんですが、勝点1も取れなかったと思います。ジョーはそのことにありがとうと監督に伝えていましたよ。その通りだと思います

〝死人に口なし〟とは失礼な喩えだが、あのシーズンに起きたことはまさにそれで、そんなこと露知らずどれだけ連敗しても必死に応援していた我を恥じた。

nagoya-grampus.jp

その翌年、あの日〝チーム代表〟として名前が挙がったジョーとクラブが裁判沙汰になった皮肉を、我々はどんな気持ちで受け止めたかクラブは知る由もない。

はっきりと書こう。毎年、毎年、散々なオフだった。

 

〝出会い方〟と〝別れ方〟

さて、先に断るが今更これらの話題は語るまい。

選手が去るときは一瞬で、そして、無力だ。我々が選手たちにどれほどの愛情を注ごうと、その恋愛対象と続くか別れるかを決める決定権は我々にはない。

それはもちろん〝別れ方〟だって同じこと。笑顔で別れるか、はたまたお互いに唾を吐いて別れるか。ともに過ごし、最もその対象に愛情を注いだであろう我々はその選択肢を持ち得ない。常に他力本願だ。

であるからして、別れ方が最悪なら悲しいかな我々は選手にありがとうを伝える機会すら与えられない。見えない場所で別れは決まり、知らない事情でクラブと拗れ、何故かお互いが気まずい想いでその手を離す。

こんなツラいことってある?いやないに決まってる。

だからこそクラブには『別れ方を大切にして欲しい』ずっとそう思っていた。出会いはどうとでもなる。きっかけは金でも誠意でも交渉術でも生み出せるじゃないか。つまりシビアにいえば出会いはビジネスだ。一つでもクラブに武器があれば選手は寄ってくる。例えその出会いが最悪なものでも構うものか。取り返す時間ならどれだけでもある。それが出会いだ。

ただ別れだけはそうはいかない。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

その手を離すとき、必要なのはこれまでその選手がクラブのために尽くしてくれたことへの感謝だ。

何故かって?だって我々がどれだけ手を離したくないと駄々をこねてもその決定権はくれないだろう。だからこそその判断を委ねる代わりに、我々は選手との間に生まれた信頼やともに歩んだ想い出だけでも大切にして欲しいと願う。頼むからぶち壊さないでくれと。

お前らにそんな権利はないなんて言わせない。

だってプロスポーツじゃないか。ファンサポーターあってこそ成り立つのだと言うのなら、せめてもの願いは『可能な限り円満に別れて欲しい』ただそれだけ。無償の愛を注ぐ我々に対し、クラブが出来る最大限のギブアンドテイクだと考えれば、少なくとも選手に対し誠心誠意の対応をする。これはある種の〝責務〟だと私は思う。その責任が彼らにはある。ただ残念にも我々はきっと裏切られ続けた存在だった。

しかし今オフは少しだけ様相が違うようである。

 

LINEに綴られた選手への想い。旅立った若手達

f:id:migiright8:20210108002434j:image

f:id:migiright8:20210108002448j:image

※引用元:名古屋グランパス公式LINE

どのクラブでもあるような無味乾燥な移籍リリースに別れを告げ、移籍してしまう選手の人柄やエピソード、共に歩んだことを感じさせる文脈をもって感謝を伝える。これはクラブ公式のLINE担当者様の文章だ。

率直に、あぁこんな温かい言葉を紡げる方がクラブ内部にいてくれたのかと思う。その事実に、救われる。

話を杉森考起と青木亮太に戻してもよいだろうか。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

彼らのプロサッカー選手としてのキャリアを考えれば、今回の移籍は決して悪い選択ではないだろう。

特に杉森は1年間のレンタル修行で結果を残しそのクラブからオファーを勝ち取った。青木にしてもここ数年結果が残せていなかったにも関わらずJ1クラブへの完全移籍である。これを栄転と言わずして何と言う。

ただ一方でそれはあくまで〝選手目線〟の話に過ぎない。もちろんそれが何より重要であることは今更言及するまでもないが、やはりそこにはファンサポーターの想いがあることもクラブには忘れて欲しくない。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

クラブの生え抜きと呼ばれる彼らのような選手たちはやはりクラブの未来であり、多くのファンサポーターもまた彼らを通して未来を見る。9歳からグランパスで育ってきた杉森考起は、昨季徳島ヴォルティスであれほどの活躍、実績を残してもこのクラブに居場所を見出せず。これが今のクラブの事情である。彼らを手放す代わりに、我々はキャリアピークの優秀な選手たちを獲る。ただ2年後、3年後に彼らが今の力を持ち得る保証などどこにもない。そうなれば捨て、またお金を使い獲ってくる。その繰り返しだ。〝未来〟ではなく〝現在(いま)〟を取り、〝時間を金で解決した〟と言及する理由はそこにあり、ひいては『完全移籍』の本質的な意味もそこにある。いつか来るかもしれない出番を待たずして、今は席が空いていないからと放出する。それが正しい答えかは誰にも分からない。

彼らにその椅子を奪う力がなかったのも事実だろうし、その椅子をクラブとして用意してあげられなかったのもまた事実。そして、結果的に彼らのような選手が外に活路を見出すしかなかった現実もまた事実。

その事実を、我々が粛々と受け止めることは難しい。

ならばせめて彼らが堂々とこのクラブを巣立って行ったのだと、何の後ろめたさもなく、正々堂々と勝負した結果この道を選んだのだと、そう信じたい。

そりゃあプロの世界だ。人と人が交わり合ったその先に怒りや憤りがないなんて青臭いことは言いたくない。しかしながら繰り返すがプロスポーツにはファンサポーターがいる。我々が願うことはただ一つ、誠心誠意その選手に感謝を伝え、別れを告げて欲しいと。

〝強いクラブ〟はお金と誠意、そして目利き力があれば作れるかもしれない。不要になった選手がいれば捨てればいい。それ以上の選手を連れてくるだけだ。

ただ〝強く、そして愛されるクラブ〟はきっとそれだけでは作れない。どうしたら愛されるかって?そりゃ我がクラブに人生の1ページを費やしてくれた選手のことを、最後まで愛し抜くことだよ。それがひいては我々ファンサポーターも愛することに繋がるのだから。これは青臭いと言われようが強く主張したい。

そして私は欲張りなのでそんなクラブを求めたい。

 

今だからこそ改めて伝えたい感謝の想い

最後に。先日、佐藤寿人の引退会見を見た。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

質問者に名古屋の関係者がいなかったので仕方ないが、会見の殆どに名古屋時代の話はでてこなかった。

だからといってここで感謝を述べたところで彼に伝わることはない。けれどこの際だから書かせて欲しい。

あの泥舟のような名古屋にあって、約束されたキャリアを投げ捨ててでも飛び込んできてくれた貴方のことを忘れたことはない。降格してからの2年間、ずっとチームの先頭に立って走り続けてくれた姿を忘れることもない。佐藤寿人は名古屋の歴史に残るキャプテンであったし、同時に名古屋に歴史を作った張本人でもあった。だからこそ、引退することに労いの言葉もかけられない、いや、名古屋を離れる際、感謝の言葉すら伝えられなかった事実を未だ悲しく思う。

佐藤寿人は、今もなお名古屋の偉大なキャプテンだ。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

もうこんな悲しいことがないようクラブには強くお願いしたい。我々を〝ファミリー〟だと呼ぶのなら。

どんな理由であれ、どんな形であれ、どんな些細なことであれ、選手に感謝の気持ちを伝えてくれ、我々にその想いが届くような発信をしてくれた今のクラブに改めて感謝を述べたい。選手も、クラブも、我々ファンサポーターも、最後は〝人〟なのだ。

〝人〟を大切にするクラブであることを、切に願う。

f:id:migiright8:20210108143030j:image

※引用元:深堀隼平Instagram

一度フラれたくらいで心折れてはならぬ

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

 我が家で定期的に話題となる柿谷さん。

柿谷に名古屋が声かけてるんだって。また柿谷にアプローチしてるらしいよ。ねえ柿谷知ってるよね。やばマジで柿谷名古屋来るかも

それに妻はこう返す。

急に近所の人なノリで柿谷さん話すのやめて

ナチュラルに柿谷さんネタをぶっ込む旦那にキレる妻。我が家の近所に柿谷さんは住んでいない。でも普通『柿谷』といったら曜一朗に決まってる。俺は曜一朗を語りたいが、妻は近所にいない限りは許さない。

そんな柿谷さんが遂に名古屋へお引っ越し。

一年半ぶり二度目の告白を遂に成就させた大森スポーツダイレクター。ちなみに私は一年半で同じ相手に確か三回告白して最後成就させた経験があるので、大森スポーツダイレクターより間違いなくやり手です。

一年半前といえば風間時代。告る理由など必要ない。そこにロマンさえあれば惹かれあうはずだった私達。

www.sponichi.co.jp

だけど当時貴方はこの告白をフッたんだ。

その告白嬉しいが大事なのは今カノだ。なんだそれ聞いてねーよ。結局おたくは愛を確認し我々は不時着した。せめて丸高さんだけでも。願いは叶わなかった。

でも諦めの悪い元すね当て売り。彼は遂に観念した。

 

『石垣は築けた。あとはそこに乗せるだけ』

migiright8.hatenablog.com

シーズン総括で指摘した長身ストライカー待望論。

しかし蓋を開ければやってきたのは柿谷曜一朗


おいでやすこが【決勝ネタ】1st Round〈ネタ順5〉M-1グランプリ2020

何が起こったんやああああああ!!!!!!!!

おいでやす小田のツッコミが好きだ(なんの話)。

柿谷から長身ストライカーに移り変わる盛り上がらない歌じゃなかった(ネタについてきてください)。

今季名古屋が苦戦した相手は明白で、その解決策として柿谷曜一朗に行き着くとは。『木本』『おお』『長澤』『おお』『森下』『マジか』『柿谷』『何が起こったんやあああ!!!!』(このクダリがしたい)。

正直マッシモに上積みは期待してなかった(白状)。そりゃ選手が変われば変化は起きるしそもそもの層だって薄い。でもそれらは今季の延長線上にあるもので、その延長線はてっきり今季苦労した先のものだと思ってた。そのキャラクターでチームの仕組みそのものも変わるような選手に手を伸ばすとは予想外。

でも最近社長の言葉を読んで考え方を改めた。

いろいろな方から、「総得点が少ないのではないか」という声をいただいているのは存じ上げています。しかし、城は一朝一夕に成るわけではありません。戦国時代には「一夜城」というものがありましたけど、サッカーの世界はそう甘くないと思っています。今年は失点数が「28」でした。これは川崎さんよりも少なく、リーグで最も少ない数字です。石垣としてしっかりと築けたのではないかと思います。あとはそこに乗せるだけです。乗せることにどれだけ注力し、キャンプを通じて選手に浸透させて縦に速いサッカーができるか。一歩ずつではありますが、来年はその歩幅を大きくしながらしっかりと闘っていきたいと思います

いやリップサービスかもしれないよ。言葉巧みなお方なので、逆にどこまで本音なのかと勘繰るのも事実。

ただ真実はどうであれ、実際に柿谷が名古屋に来たのは事実で、では小西社長のおっしゃることを〝あえて〟鵜呑みに(信頼)し、これを来季への期待や展望とするのはどうかな。どんな未来が待ってるだろう。

カウンター炸裂じゃボケェええええええええ!!!

 

実はとにかく得点が少なかった攻撃陣

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

得失点差が+17といえ、それは堅守あってこそ。

実際に前線の選手たちが何点決めたかといえば、

誰も二桁獲れていない。3位のクラブとしては致命的ちゃ致命的で、とりわけストライカーに得点が少ないのは事実だ。一方でサイドアタッカーがこれだけ得点に絡めているのもまた事実であり、今季名古屋のストライカーに与えられた役割は多岐に渡っていた。

ここで問題になるのがマッシモの例のコメントだ。

得点を量産してくれるストライカーがいたら、という話を5分間くらい続けることもできましたが、あまり現実的でもありませんし、話をしたところでそれが叶わなかったという話を何日か後にしなければならなくなります

このブログでも何度使い倒したか覚えていないが、これだけ体を張り続けたストライカーでもまだ不満はあるらしい。いやていうかめっちゃモチベ下げるやん。

で繰り返すがそこでてっきり長身ストライカー獲って上からどーーーーーんするかと思いきや違うらしい。

彼が求める〝得点を量産するストライカー〟とは。

分かっているのは彼がストライカーに〝得点〟を求めている事実のみ。そこでご指名入りましたがそう柿谷。マッシモの要望かいや2年連続で告る大森スポーツダイレクターの我儘か。はたまた『元代表クラスのスター連れてこいや』と天上人から脅されたかいやいや相手代理人に最後の転職先として抱き込まれたか。

分からないしかしそれでいいっ!(気にしません)

 

二つの動画をひたすら見比べるのだ

ジョーでもない、夢生でもない、山﨑シャビエルみんな違う。吉幾三ばりに何にもねえかこの贅沢者。

これだけストライカーいて理想の選手誰やねんと。

だから過去の男を振り返った。そこからマッシモの好みが分かるかもしれない。繰り返すがマッシモがストライカーの補強を要望し、その結果選ばれたのが柿谷である。これが前提のポジティブな解釈だ。

あぁ....求めてるの〝ゴールに直結した動き〟かも。

マッシモといえばFC東京時代の得点源は武藤嘉紀


【TOP10 GOALS】この勢いは体当たりしても止められない!武藤 嘉紀Jリーグ時代のゴール編

久しぶりに観て思ったがフィジカルお化けか。速い、強い、それでいてしなやか。そりゃマッシモも惚れる、よっちティアモ。にしても名古屋にこの得点パターンは正直皆無だったなと思い知る。ストライカーが一発裏抜けで独走してゴールみたいなこの流れ。

それはもちろん金崎や山﨑のキャラクターにも起因していて、そもそも彼らは縦に速いタイプというより身体を張って起点となるタイプ。金崎は降りてきたりサイドに流れボールを引き出すことに長けた選手。山﨑に至ってはより選手間の距離が近くボールと人が有機的に絡み合うスタイルの方が本来ハマる素材だ。ネガティブに言えばどちらもスコアラーとしては少々物足りない。ゴール目掛けて走るタイプではないからだ。

そして柿谷。やはり2013シーズンが思い出される。


柿谷曜一朗 Jリーグ 2013 全21ゴール集 | Yoichiro Kakitani's All Goals of 2013 J. League HD

当時のFC東京セレッソのチームスタイルはとりあえず横に置き、彼らのゴールパターンだけ比較する。

似てる部分もあるこの二人カウンターにうってつけ。

彼らのゴールシーンで似通っているのはその動きだしだ。裏を取るタイミング、そのコース取り、〝点〟で合わせるペナ内での動作、全てがゴールに直結する。だからこそ相手の最終ラインは後方に引っ張られ、例えば味方が低い位置で試合を進めても彼らの推進力が相手にはカウンターの脅威となる。

そして柿谷最大の魅力は改めて言及するまでもなくあの魔法のようなトラップ。武藤ほどのフィジカルはなく独力でゴールを陥れるタイプではない。しかしながらゴールへ向かう彼の足元にさえボールをつければ、彼ならいとも簡単にそれをチャンスとするだろう。

一発で相手の息の根を止めるが如く、もしマッシモが堅守に飽き足らずショートロング問わず更にカウンターを磨きたいとすれば。たしかに柿谷は面白いかもしれない。そして彼なら周りも上手く使うだろう。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

リヴァプールまじリスペクトなマッシモ故、フィルミーノ柿谷氏がピッチで魔法かけてくれても構わない。

というのも柿谷は結構フラつくから。例えば佐藤寿人のような常に相手最終ラインと駆け引きするタイプではなく、悪くいえば気分屋。降りてきて組立てに加わることも多く、もちろん身体を張って起点になるタイプでもない。阿部とプレーエリア被らないかとか、あるいは守備の強度大丈夫かとか、懸念はある。規律を重んじるフットボールにどこまで適応出来るか。

しかしだからこそ金崎や山﨑と異なる手法で名古屋が誇る快速ウインガーを活かしてほしい。結局柿谷も金崎も山﨑も皆一長一短。誰がよく誰が悪いなんて簡単な話でもない。であるからして柿谷には柿谷にしか出来ないプレーで名古屋の攻撃を進化させて欲しい。

リヴァプール目指してるんで監督イタリア人だけど。

そうそう今季全くハマらなかった金崎山﨑の崎﨑コンビの一角を担うのもアリだ。ツートップとして。

余談だが、今季Jリーグを観戦する中で最も痺れたゴールの一つも実は柿谷だったりする。

この試合、前半早々にセレッソが一人退場者をだし、こりゃ終わったと観ていたら、堅守堅守でその場を凌ぎ、たった一差しでゲームを決めたのが柿谷だ。

懸念があるとすれば『とはいえそれ7年前の柿谷だろ』なんて当然の指摘であり、ここ4シーズンに限っていえばたったの14得点。器用が故にストライカー以外での起用法も多く、ゴールへの嗅覚に陰りがないか心配だ。果たして獰猛なストライカーに戻れるか。

彼を組み込んだ名古屋、一体どうなるだろうか。

 

ストライカーの柿谷曜一朗が好きだ

先程紹介した神戸対セレッソを観た私はこう呟いた。

元はといえばストライカーの柿谷曜一朗が好きだ。

名古屋に加入したから言うわけではなく、当時(2013シーズン)の活躍、彼のゴールシーンは繰り返し何度も観ていたし(何故か自宅には当時の試合が三試合も残してある)、初めて代表に選ばれ本田圭佑に気を遣いすぎるワントップ柿谷も記憶に新しい。一瞬で相手最終ラインを手玉に取るあの老獪な動きだし、全くそのスピードが落ちることのない信じられないようなファーストタッチ、そして落ち着き払ったシュートセンス。このゴールなんか最高だった(3:28より)。


「韓国 1×2 日本」ハイライト  サッカー東アジアカップ2013

さて、彼はこの時のようなストライカーに戻れるか。

こんな期待身勝手なもので、実際はクラブが主導で動いた、あるいはセレッソサポの皆さんからすればいつの時代の柿谷だとツッコまれてもおかしくない。

ただ、現実彼がストライカーとして求められたのだとすれば、期待するのはこの働きしかない。

とにかくゴールに向かい、阿部とのホットラインを築き、ときにサイドアタッカーを活かし、苦しい試合でも冷酷なほどにワンチャンスで相手を殺す。そんなストライカ柿谷曜一朗が、名古屋で観たい。

そしてなにより名古屋でフットボールを楽しむ、子どもたちの憧れになるような、そんな柿谷が観たい。

断言する。来季の最注目ポイントは、柿谷曜一朗だ。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

 

最強の矛には悪魔のようなカウンターで

今季リーグを席巻したのは言うまでもなく川崎だ。

我々も過去の文脈を辿れば彼らと〝同じ土俵〟で競った過去があり、それはもうエキサイティングだった。

しかしもはや今いる場所は異なる世界線だ。

そして今季の補強。柿谷に齋藤学だと!?何が起こったんやああああ!!!!(三度目)相手にドン引きされたらどうすんねんとマッシモには詰め寄りたいが、一方でこのカウンター鬼凄そう(語彙力)なチーム編成はどうなんだいやしかしそれでいい(二度目)。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

こうなりゃやってやんよ。リーグ最強の矛にはさ、リーグ最強の盾とリーグ最恐のカウンターをお見舞いしてやれ。一方が爽やかなサックスブルーの道を突き進むなら、我々はどす黒い悪魔のようなロッソジャッロの道を突き進めばいい。無防備に攻めてくる奴らは問答無用カウンターで刺す。その構図が面白いでしょ。

約束と違うやろぉおお!!(フロントに向けて)

ファミリーは怒る。しかし大森先生はトボケるのだ。

あの日のかなあ♪それともその日のやつかなあ♪

待ってろよ川崎、尖って尖って尖りまくってやんよ。

そうそう、この移籍が決まって妻と会話したんだ。

ねーねー、柿谷決まったよマジで来たよ

へー

知名度は抜群だから来季盛り上がるかもねえ

へー

(意を決して)来季、スタジアム行ってみるか

(終わった)なんで!?

うっちーだったら行く

引退してるね

堅守どころか無意識にサッカー観戦引退が決定した。

ファミリーへの倍返しここに『完』

異例尽くめのシーズンもあっという間に幕を閉じた。

我らが名古屋グランパスはなんと3位(!!)。いやはや、昨シーズン終了後のブーイングを糧に(ポジティブな捉え方)マッシモの倍返し精神に火がついた。だったら毎年ブーイングしま以下自粛。

遂にACLとはマッシモあんたイタリアの半沢直樹だ。

まーそれにしてもチームの姿は様変わり。高低差どころの騒ぎでなく、『この監督交代は継続路線だ』と強調したフロントの皆々様のご意見が聞いてみたい。

10月10日のセレッソ戦の告知はこれだ。

f:id:migiright8:20201214121233j:image

(引用元:名古屋グランパス

もはや〝堅守〟公認で草。

いやでも文句はない。正直瑞穂最終戦で『もうガバガバな試合は観たくない』とつい口にしてしまった私は立派なイタリア人。フォルツァマッシモ!!

では今季を振り返っていきたい。

 

振り切った中日新聞社のコピー

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

まず何を話題にしようかってそりゃあ〝堅守〟。記録でみると実感湧くんでみていこう。

  • まさかあの名古屋が!リーグ最小失点28

ここまできたら国内最高守備ブロックの称号が欲しいと願っていたところ、打倒川崎をついに達成。

  • まさかあの名古屋が!クリーンシート17試合

クラブ記録達成どころかJリーグ最多タイ記録だってよ!最後は4試合連続無失点。ちなみに川崎ですらその数11。個人的にはこの記録がなにより誇らしい。

  • まさかあの名古屋が!ウノゼロ(1-0)9試合

4点とったら4点とられる名古屋よさようなら。1点とったら逃げ切り当たり前の名古屋よこんにちは。勝利数の約半分をこのウノゼロで手繰り寄せた。まさに〝カテナチオ〟。カルチョが名古屋にやってきた。

  • マッシモなりの恩返し。シーズンダブル回避

前半戦(計14試合)で敗れた相手にことごとくリベンジ。柏、東京、鹿島、全部なぎ倒してやりましたわ。

  • ありがとう瑞穂。今季無敗でその役目を終える

全6試合を4勝2分でゴールイン。なんと無敗は優勝した2010シーズン(全10試合7勝3分)以来2度目。まさに聖地瑞穂の名に相応しい結末。6年後また会おう。

ということで、何とも記録尽くめのシーズンであり、〝堅守〟の謳い文句に偽りなし。


【DAZNハイライト】名古屋グランパス vs 川崎フロンターレ (H) 2020明治安田生命J1リーグ 第12節

面白かったのが大本営中日新聞社で、終盤戦ともなると見出しを飾るのは

自信の『ウノゼロ』

名古屋『堅守の美学』

とこれまた過去の文脈なんぞお構いなし。ただ中日新聞といえば言わずもがな中日ドラゴンズの親会社。中日ドラゴンズの最盛期といえばまさに〝堅守〟だったわけで筆がのるのも仕方なし。文化なので。

 

ガチガチなのは守備だけじゃない

さて、〝堅守〟を支えた要因は何なのか。

もちろんマッシモの戦術、個々のスキル、細かくいえばキリがないが、個人的には〝ガッチガチのメンバー固定〟これを挙げないわけにはいかない。

以下、ガチガチに拘束されたマッシモチルドレンだ。

  • ランゲラック、丸山、中谷→34試合フル出場
  • 稲垣→34試合先発出場(交代は7.22大分戦のみ)
  • マテウス→34試合出場(サブ1回のみ)

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

あの過密日程を全クリした者達だ。面構えが違う。

特にACLが懸かったラスト6試合(11.15FC東京戦〜)は自慢の守備ブロック(ゴールキーパーボランチ)を完全固定。4勝2分の失点1。しかもその失点はセットプレーのみのガチガチっぷり。

毎回メンバー表同じなんですけどっ!!!

楽しみを失ったのがそうファミリー。宮原の定位置はメンバー表右上から数えて2番目。変わらない座席表に『せめてくじ引きにしたらどうか』と憤る日々。

ちなみにその割を食ったのが悲しいかな若手達。とりわけ今季最大のサプライズだった成瀬に言及したい。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

前述したラスト6試合までの先発出場が28試合中18試合。メンバー固定後のラスト6試合は出場時間32分。

www.goal.com

(もうMFのポジションに未練はない?)

まったくないです

ここまで言いきった若者に与えられた32分は、主に試合終盤のバランスを重視したサイドハーフ起用。

彼に限らずレギュラー争いのハードルはあまりに高い。例えばセンターバック期待の星、藤井陽也は今季出場時間〝1分〟であり、まだ使われた方の石田凌太郎にしても163分間の出場と2試合に満たない計算だ。

現在の名古屋が掲げるチーム方針に目を向けよう。

獲得する選手は年齢的にも脂の乗ったキャリアピークに差し掛かる選手達。勿論海外移籍の心配もない。

だからこそと言うべきか、目先の結果を追うあまりどうしても彼らの出場機会が優先され、今後キャリアを築くであろう未成熟な選手達の出番は限られる。何故パワプロサクセスモードが人気か、何故NiziUに皆が夢中なのか。ジャニーズずっと好きな人なんで?

彼ら彼女らが成長する様を追いかけたいからですよ。その姿に感情移入したいんですよ。ねえマッシモ。

その意味でいえば、厳しい物言いになるが今の名古屋にその楽しみはない。脂が乗りにのった完成品たちの技と勝負にかけるその生き様を楽しむのが醍醐味だ。

さてそんなことを言っていたらこのニュース。

www.sponichi.co.jp

資金難の鳥栖につけ込む優良銘柄強奪戦。しかし皮肉だ本来手が出ないこの世代へのアタックが、果たして成瀬や宮原にどんな影響を及ぼすだろう。

風間ッシモが磨き育てた二人の未来は果たして。

 

賛否両論といえばシミッチの起用もな

先ほどの話に繋がるがジョアンの起用も頭を抱えた。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

印象的だったのは11.28のホーム大分戦。アディショナルタイムコーナーキックのチャンスを得たグランパス。ベンチで騒々しくジョアンを呼び、お前の頭だけは信用していると言わんばかりのセットプレー要員でピッチ投入。俺がジョアンなら嫌味でヘディングの練習だけひたすらやるよ。だってマッシモ、アンタはこれがお望みだろ?嫌味の一つくらい許して欲しい。

元々守備固めの展開で〝高さ要員〟として使われていたのは周知の事実。しかし彼の最大のストロングはそのパスセンスとゲームメイキング。だがマッシモが彼の〝フィジカル〟を評価したのはなんとも皮肉な話。

たぶん信頼してねーな説を裏づける話をもう一つ。


【DAZNハイライト】鹿島アントラーズ vs 名古屋グランパス (A) 2020明治安田生命J1リーグ 第25節

あれは10.31のアウェー鹿島戦。終盤ミッチと交錯した米本がやばい倒れ方をし、これは駄目だ周りも本人も〝×〟を出す中、諦めなかったのはマッシモだ。

トレーナーに連れられた痛々しい米本に確認し、やはりプレー続行不可能だと直に聞かされやっと納得。

そうでもしないとジョアン投入の決心が出来ないマッシモよ。米本への信頼が厚いのかジョアンへの信頼が薄いのかファミリーはとても混乱しています。

ボコボコにタコ殴りされたルヴァン杯FC東京戦(0-3)以降、ジョアンの指定席は常に名古屋ベンチ。

しかしジョアンはプロフェッショナルだった。

終盤戦はボランチながらゴール前に飛び込んでいく鉄砲玉スタイルに見事アジャスト。俺仕様と化したジョアンに味をしめたマッシモも、ここぞとばかりに膠着状態の切り札で彼を指名する胸熱な展開。

生き残りを賭けた戦いは外国籍選手だって同じだ。

 

確立された勝ちパターンとそのスタイル

〝堅守〟といってもそれは手段である。

勝つ〝手段〟と、その〝パターン(道筋)〟が重要であり、マッシモは見事にそれを植えつけた。

  • 何がなんでも先制点奪えば籠って塩漬けスタイル

先に名古屋が点を獲れば、絶対に点を奪われない自信故のこのパターン。激しい試合など願い下げ。トランジション(攻守の切替)が多いとはつまり相手に隙を与えかねない展開だ。であれば試合はスローで良し。試合が退屈知ったことか。これがカルチョの伝統よ。


【DAZNハイライト】柏レイソル vs 名古屋グランパス (A) 2020明治安田生命J1リーグ 第31節

アウェー柏戦では解説の柱谷幸一がこの一言。

名古屋は守っているのが楽しくて仕方ないようだ

てなわけでこの展開こそ名古屋ペース。指標である。

そしてここで重要なポイントが〝相手の出方〟。名古屋最大のストロングが〝堅守〟だとすれば、点を奪うために用意した武器は〝圧倒的スピードを駆使したショートカウンター〟と〝そのきっかけを作る高い位置でのボール奪取〟となる。つまりこの土俵で名古屋にやらせるとこのチーム、隙がない。

知ってか知らずか無惨に散ったのが浦和レッズ


【DAZNハイライト】名古屋グランパス vs 浦和レッズ (H) 2020明治安田生命J1リーグ 第9節

リカルド連れて行ったら許さねーから(脱線)。

では一方で名古屋の課題はどこにあるだろうか。

つまりは名古屋の土俵で戦ってこない相手が問題であり、裏を返せば名古屋の伸びしろとも言える。それは

  • 固くブロックを作り、奪っても攻め急がない相手

この点は少々細かく紐解いていきたい。

 

マッシモの手腕か補強だ補強に賭けたい課題

■何故ブロックを作られるのが嫌なのか

いやどのチームもそれは嫌だろの突っ込みはご遠慮したい。貴方が正解だが野暮なことを書いていこう。

まずブロックを作られるとスペースがない(当たり前)。つまり走れない。ではボールの動きと共に一人一人が連動して崩していけるかといえばそれは苦手。何故かといえば〝人が動きすぎるとリスクが高い〟と考えるのが往年のカルチョ。奪われたらそこが穴になる、それはカルチョのプライドが許さない。

マッシモがそもそも仕込めないとは言ってないぞ。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

結果、名古屋の選手達は各々の立ち位置に従順だ。

サイドハーフは外に張るし、相手ブロックの隙間に立つ雰囲気はない。必然ボールは用意されたルートを回遊する。中を射抜くのは簡単でなく、結果ボールは外に回る。であるからして、マッシモの攻撃の肝は〝サイド攻撃〟となり、マテウス相馬が帰ってきた。

そうなると、もはや〝個の質〟が頼みの綱だ。

〝堅守〟だけで上位は狙えず一撃必殺の槍があるから上位を目指せた。勝ち点1を担保するのが後方部隊、ならそれを勝ち点3に変えるのが彼らの役目。故にマッシモがマテウスにこだわり続けたのは理解できる。だってカルチョプロビンチャ(地方クラブ)では持ち得ない〝急に現れ勝ち点3を生みだす男〟だから。

ジローラモでなく、マテウスにこそ最高級ワインを。

■何故攻め急がない相手が苦手なのか

一方で攻め手がなければ相手の出鼻を挫くのもいい。

ここで名古屋の次なる手〝プレッシング〟が登場だ。

改めて言うまでもなく、名古屋は個々の選手たちの身体的スピードが群を抜く。圧倒的なスピードを要するサイドアタッカーに、無尽蔵のダブルボランチ。最終ラインも1vs1は大好物。風間さんありがとう。


【DAZNハイライト】名古屋グランパス vs セレッソ大阪(H) 2020明治安田生命J1リーグ 第21節

セレッソ戦のマテウス、また後に掲載する湘南戦のシャビエルのゴールはその象徴。攻めあぐねても相手がミスをすればそれが命取り。加速させたら最後だ。

先ほど〝動きすぎるとリスクが高い〟と書いた。

これは当然ながら名古屋に限った話ではなく、相手がボール保持した瞬間はむしろそこが狙い目となる。

改めて名古屋の攻撃時の視点に立てば分かりやすい。そもそもリスク回避のため、陣形を崩さずバランス重視な攻撃をするわけで、つまり仮にボールを奪われても相手に対しプレッシャーはかけやすい。いつぞやの時代のように、奪われた際に誰もいないなんてことはない。ここは非常にロジカルな設計だ。

であるからして、例えば相手がボールを奪った瞬間闇雲にパスをする、あるいは数的不利な状態でも攻めてくる。これはまさに名古屋の土俵、思う壺である。

だったら相手はその状況を回避すればよいのでは。

この点で難敵だったのが大分トリニータ横浜FC


【DAZNハイライト】横浜FC vs 名古屋グランパス(A) 2020明治安田生命J1リーグ 第16節


【名古屋グランパス×大分トリニータ|ハイライト】明治安田生命J1リーグ 第30節 | 2020シーズン|Jリーグ

あいつら全然攻め急がないのな。自陣でも堂々とパス交換、進むのがヤバそうならゴールキーパーも平気で使う。つまりボールを奪いに行くタイミングとポイントがないのだよ。んで結局はズルズルと前進される。

いい加減な私の指摘を超優秀なファミリーが援護。

名古屋は大きな矛盾を抱えていて、点さえ獲れればスローでいいが、点が欲しけりゃスピードを上げたい。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

そうだ、マッシモのフットボールが〝退屈だ〟〝眠くなる〟と評されるのはこのロジックだと思われる。要はリード出来ればブロック固めてスローな試合に持ち込むし、一方で名古屋の長所を消しにかかる相手も選択するのはスローなテンポ。どちらもトランジション(攻守の切替)が乏しい試合となり、結果試合にスピード感が生まれない。なんだこのジレンマは。

故にマッシモはこう嘆くのだ。

得点を量産してくれるストライカーがいたら、という話を5分間くらい続けることもできましたが、あまり現実的でもありませんし、話をしたところでそれが叶わなかったという話を何日か後にしなければならなくなります

おま名古屋も金ないんやぞ。年俸カンパしろ。

■さあ名古屋伝統長身ストライカーの出番がきた

この理論で試合を動かす限り、状況を打破するには三つしか手はないだろう。

  1. サイドに位置する選手の打開力に祈る
  2. ファンタジスタが魔法をかける
  3. クロス千本ノックからのいつかのケネディ


【DAZNハイライト】#名古屋グランパス vs #FC東京(H) 2020明治安田生命J1リーグ 第27節

なるほど①で何度も勝ちを拾った。前半早々PKを奪取したし終了間際にシュートしてハンドもゲット。詰めたら相手が致命的ミスをした。どれもこれも運ちゃ運しかしこちらは無失点だから意味がある。


【DAZNハイライト】名古屋グランパス vs 湘南ベルマーレ(H) 2020明治安田生命J1リーグ 第28節

②はフォワードに怪我人続出、お前しかいねーとシャビエルを最前線に置いたらまさかの化学反応。お子様誕生おめでとう!美人な奥様で嫉妬しています。

なので来季は③。マッシモがずっと待ち焦がれてるのもこの③。彼のフットボールがこのロジックで成り立つ以上、必要なのは理屈抜きの力技。それを誰よりも理解しているのは良くも悪くもマッシモ自身だ。

ここが補強できたらマッシモ的には鬼に金棒。さあ時はきた、こい三好ヶ丘にセリエAの強者よ。

hochi.news

なーーーぜーーーだーーーーーーーーーー。

※勿論ストライカーとして彼の能力に疑いの余地なし

 

我々のアイデンティティはなんだろな

マッシモばりに語ってきたがそろそろ締めの時間。

結果だけみれば2011シーズン以来の上位争いを演じたシーズンであり、これは久しく忘れていた感覚だ。

ここ近年の文脈なぞお構いなく、これのどこが攻撃的なんだと至極真っ当な突っ込みも当然ながらあるだろう。しかし〝堅守〟が悪いかといえば決してそんなことはない。マッシモからしたらほぼ完璧に任務を遂行したわけで、お前ら俺に感謝しろ状態なのは当然だ。

www.chunichi.co.jp

シーズン終盤にはやっとこさマッシモ続投の報道も。

何故彼がこれを勝ち取ったか、当然ながら〝結果〟以外のなにものでもない。例えば『このスタイルは俺たちらしくない』と、マッシモ同等の結果を出したロティーナを切ったセレッソを見れば一目瞭然で、つまり我々の最優先事項はやはり〝結果〟なのだ。そしてそれにほぼパーフェクトにコミットするマッシモの仕事ぶりは見事であり、素直に素晴らしいと私は思う。

ここまで結果が出たシーズンがピクシー黄金期以来であることもまた重大な事実であり、あのときも名古屋の代名詞はやはり〝堅守〟〝タレント〟〝圧倒的勝負強さ〟だったわけでそれなりに酷似している。

そう考えると結局我々のアイデンティティって何?

個人的には〝堅守〟ならそれでもいいと思うんだ。一時は〝攻撃的〟にこだわったしかし結果が出なかった。だから(それがたまたまでも)思い切って堅守に針を振り直したらなんとまさか上手くいった。〝結果〟が必要なクラブに最も噛み合わせが良いスタイルがもしそれなら、十分チームのカラーになり得る。

だから今となっては何が大事ってマッシモの後よ。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

〝攻守一体攻撃サッカー〟の看板どかーんと掲げて失敗して、うおおこうなりゃカテナチオいったろかー言うて成功したこの事実。だからこそこの次にどの進路を取るかはめちゃくちゃ難題。理想を掲げて失敗した過去、現実を取った今季の成功、どう評価する。

ちなみに『毎回進路変えりゃいい』って発想は危険。

特に今のマッシモ流は、金が途絶えるつまりタレントがいなくなったらもれなく地獄が待っていることもまた、ピクシー後期〜小倉体制の歴史が物語る。

近年の川崎やそれこそ徳島が何故あれほど安定した成績を残せたのか。それは攻撃的であれ守備的であれ、彼らがブレずに一貫したアイデンティティを持ち続けた結果であり、だから補強や育成が上手くいく。

では名古屋はどうするのか。アカデミーとの融合は。

いまだ風間色が色濃く残っているであろうアカデミーの存在と、今季全くと言っていいほど若手の起用をしてこなかったマッシモ。この大きな矛盾に目を瞑り、目先の結果に舵を切ったクラブ側のツケは、いつか払わなければならないかもしれない。だからこそ、次の選択が非常に重要であることに言及したい。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

さて今季の結果はマッシモと選手達だけの成果か。

この点については、理由はともあれ過去の文脈から大きく舵を切ったにも関わらず、センターラインのキャラクター変更(ジョー、シャビエル、ジョアン→金崎、阿部、稲垣)と、風間時代に融合出来なかったマテウスや相馬を呼び戻す、最小限且つなにより重要だった〝背骨〟の移植に成功した、大森スポーツダイレクターの4年間にわたる集大成ともいえる。

確実にJ1で戦えるチームになるには3年はかかる

フットボール批評ISSUE24

まさか上位争いする4年目がマッシモだったとは斜め上だが、しかし2017年の見立てに間違いはなかった。

唯一誤算があったとすれば、この4年間で大きな軌道修正を強いられたが故に生まれたこの結果を求めたフットボールそのものであり、強くはあるが分かりやすい〝華〟が乏しいのもまた事実。当時のクラブアイコンだったジョーは去り、実力者揃いではあるが誰もが知るようなタレントは不在。そこにきてこの〝堅守〟。だからこそといえば皮肉だが、分かりやすく人が呼べるようなスターが欲しい。そんなことを思う人が一人や二人いても何らおかしくはない。

『名古屋たるものこんな地味でいいのか』と。

とはいえ昨季は残留、今季はACLとマッシモは立派である。〝結果〟で周りを黙らせていくそのスタイル恐れ入った。さあ来季もマッシモの皮肉たっぷりな嫌味に酔いしれよう。そう思いつつある疑問に辿り着く。

我々こそ、ロティーナが必要なんじゃないか?....完。

徳島の地で『足跡』を残してきた者たち


migiright8.hatenablog.com

このブログの次はこれだって決めていた。

もし昇格が決まれば、何か形にしたい。そう決めたはいいものの、徳島のフットボールを語るに相応しい人は他にいるだろう。降格後の6年間を語れるほどその文脈にも浸っていない。つまり適任ではない。

きっとこれ以降、様々な媒体が彼らを祝福し、そのフットボールの秘密、あるいは隠されたエピソード、選手の手記もでるに違いない。そう考えると、数ある記事の中で『その一つ』くらいの立ち位置は気が楽だ。ていうかどうせその程度のことしか書けないし。

なので一つだけ、些細ではあるが記事を残したい。

私の中で今シーズン心に残ったエピソードを。

 

チャーハンから和食までの道のりを知る男


THE PREVIEW TALK #1 「徳島VS磐田」

岩尾憲とリカルドの歩みを知る貴重な動画がある。

ジュビロ所属の同学年、山田大記との対談だ。

この対談は面白いぞ。まず何が面白いって、お互いが対戦する試合前にも関わらず、冒頭の大半ヤット(ジュビロ磐田遠藤保仁)愛に注ぎ込む岩尾が面白い。

今は同業のライバルだと言いつつ結局ただのファン心理消せてないの草。岩尾よ、おま可愛いじゃねえか。

とまあそんなことはぜひ動画を観てくれればいいのだが、面白い話題は他にある。手触り感のある話が。

〝今季の徳島は何が違うのか〟これがテーマだ。

手札が増えた。引出しと幅が明らかに増した

岩尾はリカルドを評しこう語る。なるほど、つまりリカルド自身がこの4年を経て進化していると。

今はいろんな局面で納得感がある

私はあらゆる局面で納得感がない仕事をしています。

ともすると監督は〝変化しない〟存在として語られがちだ。リカルドは当初から優秀で、だからこれはチームが地道に積み重ね成熟した結果だと周りは言う。

しかし岩尾に言わせるとその感覚は乏しい。

そもそもやりたいサッカーとかアイデンティティはあるんだけど人が変わってしまう

実は別の動画でも岩尾はこのつらい経験を口にしている。2018年の夏、主力が4人抜かれ術がなかった、残された手札がなかったと。毎年良いところまで駆け上り、最後の最後で突き落とされる。落とされた先には仲間との別れが待つ。積み上げ、いや簡単ではない。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

ただチームはそうでも、リカルド自身は別だった。

一・二年目は毎日同じ料理しか食わせてくれなかった。今は毎日同じ料理を食わされてない感じ

この絶妙な喩えを聞いて思う。妻が不在の際、子どもに毎度オムライスしか作らない俺とリカルドは同じだったのだと。つまり今の俺はあの日のリカルドだし、あの日のリカルドは今の俺だった。

価値観が偏っている人はチャーハンばかり。最初は美味いけど、毎食だと飽きる

俺のこの偏った価値観よ消えてしまえ。娘たちよごめんなさい。チャーハンとオムライスを同列に語ってリカルドにもごめんなさい。毎日オムライスでしかもそんな美味くなくて草いやごめん。あいつ(リカルド)はチャーハンばっかでも結構いい味出してたもんな。

知らない間にリカルドは和食の作り方を覚えたらしい。毎年どんな材料が集まっても、その材料に合った調理方法(個々へのアプローチ)をもって彼が美味いと思える作品に仕上げる術を習得したのだ。もう馬鹿の一つ覚えでフライパン振ってないってよ。

しかしだこのエピソードは重要なことを語っている。

最初が難しい。提示されている頭の中にあるものと、実際に平面で体現するその作業が難しい

今年(の新加入選手)はその作業に時間がかからなかった

ピッチ上での積み上げは難しい。しかしリカルド自身の積み上げ、また彼と4年間共に歩んだ強化部と作り上げた〝徳島のアイデンティティ〟があったからこそ、2020年の徳島ヴォルティスは生み出された。

『良い選手』ではなく、『徳島にとって良い選手』を重視して獲得しなければならないことは、私もクラブも改めて学べました

(リカルドロドリゲス)

サッカーダイジェスト2020.12.24インタビュー

良い料理人に良い調達人。十分語り尽くした気もするが、出来上がったものに意見する者を忘れちゃ困る。

ではチャーハンも和食も食べ続けた男の話に移ろう。

 

ある動画を見て残った違和感


【対談リレー】徳島ヴォルティスMF岩尾憲×大分トリニータMF野村直輝

今度は岩尾選手が、現大分トリニータの元チームメイト、野村直輝選手と対談する様子だ。

西谷のお兄さんだ。どうでもいいがこの系譜は長男玉田圭司、次男関口訓充、三男田口泰士、四男野村直輝、五男杉本竜士、末っ子西谷和希で確定です。EXILEのバックダンサー並大所帯でこれまた草。

そんな四男野村直輝は岩尾も認めるチーム愛の男だ。

チームのために我慢してするプレーは、今後勝点を積み上げていくためには必要だと思うので、そういったところは見逃さないようにしたいです。そういうチームのためのプレーが多く出ているチームは強いと思うし、チームのためにやることを第一にそのあとに自分のプレーをより良くして、エゴイストになる部分ではエゴイストになろうと。チームのために戦える選手が多いほど強いと思うので、今日のようなゲームをまたやっていければ勝点は積み上がると思います

(2019.9.8愛媛対徳島戦後インタビュー)

これは徳島在籍時の野村のコメントだ。一方で、野村が徳島初ゴールを決めた際は岩尾もこう応えた。

チームのためにというところは野村選手も人一倍考えていて、この場所で点を取ったのは一つ神様がご褒美をあげたのではないかと思っています。彼がここまで点を取ることが出来なかったことに誰かが揶揄することも全くないですし、それだけチームのためにいつも取り組んでくれているとみんなわかっているので、そういった野村選手の姿勢が生んだゴールなのかなと思います

(2019.6.15横浜FC対徳島戦後インタビュー)

そんな野村だからこそ、岩尾は聞いてみたかった。

J1だなって感じる部分ある?

J1で大乱調な試合ってあるのかな?

何度も〝J1〟を意識し質問を投げかける岩尾。

これを何と形容しようか。謙虚、では適切でない。羨望か。いや、ただ嫉妬とも異なる。そうじゃない。

行ってみてえなあ、俺もそこでどれだけやれるか試してみてえなあ。そんな一プロサッカー選手として当たり前の〝上を目指したい〟個人の想いには感じない。

生活してたり、街だったり、チームだったり、サッカーそのものだったり、J1のチームが(〝個人〟と〝チーム〟)どういうスタンスどれくらいのウエイト率でやっているのか

個人か、チームか。岩尾が度々口にするキーワード。

振り返ると彼にもJ1の経験がないわけではない。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

2013年には湘南でその舞台に立ったものの、プロ入り後度重なる怪我に悩まされた彼は殆どその空気を味わうこともなく降格を経験した。そこからはJ2が彼の主戦場だ。翌年、昇格を勝ち取りJ1行きの切符を掴んだものの、彼は自らの選択で水戸行きを決めた。

徳島ではや5年。どんな心境の変化があったのか。それは彼のこの一言が象徴しているように思う。

俺は〝チーム〟を追求する人間

徳島での5年間、彼にもJ1からのオファーがあったと本人が認めている。ただとりわけリカルドが徳島に来てからのこの4年間、彼はキャプテンとしてクラブの象徴であり続けた。それはもう圧倒的な存在感だったし、誰がみてもチームの屋台骨は岩尾だった。

ただその一方で、彼の仲間達はJ1へ去っていった。

そんな状況下で彼はなぜ徳島に残り続けたのだろう。なぜ一サッカー選手として上を目指さなかったのか。

この違和感と拭いきれない疑問への解釈はこうだ。

きっと彼はキャリアの何処かのタイミングで決めたのだと思う。〝個人〟のキャリアアップを追うのではなく、〝チーム〟を追求することにこそ価値があると。

組織の追求とコミュニケーションの追求がしたい

元々彼の夢はプロサッカー選手になることだった。だからその夢を叶えたとき、自身に残された目標は何もないと悟った。待っていたのは度重なる怪我で、そのとき始めて〝日本代表になる〟そんな目標を掲げた。あくまで、個人の目標として。

しかしながら湘南から水戸を経て、辿り着いた徳島の地で、彼の価値観は大きく変わった。皮肉にも、J1からのオファーも彼を変えた大きなきっかけだった。

(J1のクラブに移籍した仮定で)自分に矢印を向けたとき、そこでキャリアを終えた後、自分に何が残っているだろうと想像したら、全く想像が出来なかった。サッカー界やヴォルティスで自分がどう歩いていくかも重要だが、どれくらい足跡を残していけるかの方がやりがいを感じた。サッカー界やヴォルティスがこんな素敵な集団なんだなと徳島県に届けるとか、サッカー界に強みをもって発信できる何かの歯車に何としてもなりたい

ただその変化は、彼の決断はどうやら間違っていなかったようだ。いや、彼自身が正解に変えてきた。

現在と未来が混ざってきた。フットボールの人生はフットボールの人生でしかないと思っていた。それなりの人生を待つより、作っていきたい。今は現在と未来が繋がっている、そんな確信がある

お金、環境、やりがい、仲間だとすれば〝仲間〟

野村への質問で彼は知りたかったのではないか。

上のカテゴリーには自分の知らない世界があるのか。自分がやってきたことが通用しそうなのか。国内トップのリーグには強さを生み出す術が他にあるのか。結局は〝個人〟で片付けられてしまうのか。

自分さえ良ければいいという考え方が好きじゃない。J1のトップの選手達がチームのためにやっているのか、自分のためだけにやっているのか。それを自分の目で見て、対戦して、感じたい

野村は大分移籍の理由をこう語る。同じ〝チーム〟を追求する同志だからこそ、岩尾には貴重な存在だ。

もっと深いところで勝利を追い求めたい

一個人のキャリアアップでなく、そのカテゴリーに関わらず〝チーム〟を追求した者が辿り着いた境地。

それは皮肉にも〝上のカテゴリーでこのチームが通用するのか試したい〟そんな想いではなかったか。

僕もリカルドもいろいろな失敗を繰り返しながらそれと向き合ってきた自負はあります。特に言葉はありませんが信頼し合っていると信じています

2020.12.16対大宮戦マッチデープログラムより

徳島の地で積み重ねてきたのは岩尾も同様だ。だからこそ〝徳島ヴォルティスの岩尾憲〟で昇格しなければ、選んだ道の先にあるものを知り得ることはない。

俺たちの売りは〝チーム力〟

一人ではなく、仲間と上がらないと意味がないのだ。

 

昇格寸前で試された想いと絆

夢舞台まであと一歩。しかしその騒動は突如起きた。

www.sponichi.co.jp

激震、だった。あと一歩なのに、一緒に上がれると思っていたのに。何故このタイミングで。何故、何故。

おそらくその想いに駆られたのはファンサポーターだけでなく、選手たちも同様だっただろう。

立ち上がったのは、やはり岩尾だった。

www.topics.or.jp

皆さんと同じで僕も気になる。でも、今できることしかできないということを改めて考えるべきだと思う。先の分からないことにエネルギーを割いているほど僕たちに余裕はない。ここにある瞬間をいかに大切にするか、どんな思いで取り組むか、目の前の試合に挑むか。そういったことに純度高くやっていきたい。未来のことよりも、今を楽しんでほしい

彼等は急遽話し合いの場をもった。しかしチームミーティングを行うのは決して初めてのことではない。

振り返ると2019シーズン、第14節モンテディオ山形戦前にもその場は設けられた。開幕以降波に乗れないチーム、各々に溜まる不満を察した岩尾が発起人だ。

戦術的な話はしていない。〝捉え方〟の話。起きている現実と、皆の捉え方と、正しい捉え方の整理の仕方。負けると人のせいになる。外に目が向く。監督やチームメイト、戦術....何に対してストレスを抱えているか、それを全て書き出して、皆でそれを見て、『寿命が短いサッカー選手の貴重な一年をその終わり方では勿体なくないか。せっかく徳島まで来て、何も残らなかった、そんな時間にするのは俺は嫌だし皆も嫌じゃないか』そんな整理をした。このままいくと、それで終わってしまうぞ、と。キーワードは〝助け合おう〟だった。一人では結果を出せない、誰かのせいにしても結果は出せない。お互いを減点方式ではなく、認めてあげて、足りないところは補いあう。それがあれば勝った負けたはどうでもいいじゃないか。そこだけ共有をした

チームが壁にぶつかるのは今に始まった事ではない。

サッカーで起きたことをサッカーだけで解決しようとしない。戦術ではなく〝人間〟に問いかける

〝チーム〟にこだわり続けた岩尾にとって、それはきっと昇格に向けた大きな試練だったに違いない。

皮肉にも後日、リカルドの行き先として噂が上がる浦和ではこんなニュースが取り沙汰された。

news.yahoo.co.jp

このチームの選手は監督やコーチに誰も何も言わないし、選手同士、話し合おうともしない。大丈夫かなと思う

チームとはいえ彼らだって個人事業主の集まりだ。

誰しもが自らのキャリアアップを望み、上へ上へとその歩みを進める世界で、果たして〝チーム〟に何の意味があるのだろう。改めて言うまでもなく、徳島は選手の出入りが激しいクラブだ。だからこそ、この地にこだわった岩尾は必死に考え続けたのではないか。

上手くいっている時はいい。問題はチームが行き詰まった時だ。苦しい時ほど彼ら個人事業主たちは試される。〝お前たちはチームになれるのか〟と。

この対照的な話題は、リカルドを巡る文脈により切り離すにはあまりに難しく、また岩尾がプロサッカー選手として己に問い続けてきたことそのものだった。

人は一人では生きていけない

そして遂にJ1昇格に〝王手〟をかけた徳島。岩尾は地元メディアに対しこんな言葉を残した。

もう苦杯はいい。何度も悔しい思いをして、その度に立ち上がってきた。綺麗事で良いチームだった、良いサッカーをした、今年も良いところまでいった、結果は残念だったが素晴らしいシーズンだったと思います、と。そんなかっこ悪い話はない。ここは一人のプレーヤーとしても絶対に譲っちゃいけないシチュエーションだなと強く思う

昇格。この最後にして最大の壁を乗り越えるために、彼は最後の最後で〝己と向き合え〟と説いた。

www.topics.or.jp

全員で何かを統一するフェーズでなく一人一人が乗り越えないといけないフェーズだと思う。他人が感じた何かを押し付けて一つのものを共有するのは難しい。各自がこのプレッシャーと向き合い最高のパフォーマンスが出来るかが問われている

チームで、個人で、最後の壁を乗り越えてみせた。

 

岩尾を、徳島を、支え続けた存在

先程の話題に話を戻そう。

あの騒動の際、岩尾が最後にメッセージを向けたのが、共に闘い、支え続けたファン・サポーターだ。

彼がリカルドを支えたように、彼が残す足跡をファンサポーターはきっと追いかけ続けてきただろう。夢の舞台まであと一歩、しかしそこから崖に落とされ、どれだけ選手たちがこの地を去っても見放さなかった。


J1参入プレーオフ 決定戦 徳島ヴォルティス vs 湘南ベルマーレ

4季目のキャプテン就任決定の際岩尾はこう語った。

 4年連続のキャプテン就任が良いのか悪いのかわかりませんが、チームとして、キャプテンとして、1人のプレーヤーとして、この3年間数え切れない程の困難と向き合ってきました。そのたびにファン・サポーターやチームメイトたちと残してきた確かな足跡を信じ、犠牲と忠誠を心に1年間戦い抜いていこうと思います

『ファン・サポーターやチームメイトたちと残してきた確かな足跡』

苦しい時期を乗り越えてきた仲間はチームメイトだけではない。ファン・サポーターも一緒だった。

そうもはやその足跡は岩尾個人だけのものではない。

そこに一体どれほどの苦悩と悲しみがあっただろう。

あと少しで手が届きそうな夢の切符はその手を離れ、縁がなかったはずのJ1行きの列車には、彼らが愛してやまなかった戦士達が乗車しては去っていった。

もし私の愛するクラブにそれが起きていたらどうか。そんなことを思わずにはいられないのだ。

私は偉そうにも徳島の方々にこう言ってしまう。『自分達が応援するクラブを誇りに思ってください』と。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

でも違ったなと今は思う。クラブだけではなかった。

『自分達が応援するクラブと、それを支え続けたあなた方自身を、誇りに思ってください』

来季がどうなるかは分からない。だってリカルドが徳島にいるか分からないじゃないか。でもさ、徳島はリカルドだけじゃないよ。皆さんや選手たち、何より岩尾憲がいる限り、全てがもぎ取られるわけではない。

槍を常に突きつけられた状態でサッカーが出来る

現役を引退した冨田大介は、J1をそう表現した。

そう、終わっていないのだ。皆さんと、そして岩尾憲の壮大な夢と実験は今から始まる。築き上げた〝チーム〟が、国内最高峰のリーグでどこまで通用するのか。遂にそのチャンスを自らの手で掴んだのだ。

そしてJ2制覇への道もまた、終わっていない。

最後に、このエピソードで締め括ろうと思う。

スポンサーでお金を出してくれている会社に出向いて行かないと駄目だなと思っている。どんな会社なのか、どんな理念の会社なのか、どんな人が働いているのか、自分達に何を期待しているのか。直接会って伝えてもらう作業を俺はしたい 

岩尾憲。一体この男はどこまで背負うつもりなのか。遂にはスポンサーまで背負いたいってよ。

きっと五男杉本竜士ならこうボヤくことだろう。

細かい細かい、疲れる疲れる

来季で33歳しかし遅くなんかない。紆余曲折を経て、彼は一人ではなく徳島に関わる全てを〝チーム〟であり〝仲間〟として、このカテゴリーに連れ戻したのだから。決して消えることのない足跡を残しながら。

徳島の皆様。豊スタへ、J1の舞台へようこそ。

酒のつまみに徳島ヴォルティス

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

阿波踊りする監督が熱くないはずがない。

主観全開しかし凄まじい説得力。居酒屋でその熱弁を聞きつつそう思う。もっぱら話題は徳島だった。

徳島が強い。名古屋の仲間と酒を酌み交わしても何故か話題は徳島に飛び火し、リカルドがいかに素晴らしい監督か思い思いに口にする。ファンであり、いつかの引き抜きを画策するゲスい集団そのものだ。

何故これほど彼らは我々を惹きつけるのか。

それをお前が語るのかと言われそうだが気にしない。書くと決めたら必要なのは強いメンタル。

 

若い選手たちの輝く姿が眩しい

攻撃的だポジショナルプレーだと上っ面に知った被ろうかと考えたがそんな理屈はまだこねない。

単刀直入に好きだ、ピッチで躍動する貴方達が。

上福元さん、もっと適当にロングボール蹴ってください。センターバックの皆さん、身体の向きがいちいち丁寧です。サイドバックジエゴさん、馴染んできましたね、愛知から心配してました。栃木から加入した西谷さん、その枠はきっとオラオラ枠、杉本竜士の幻影がぼくには見えます。河田くん、普通のシュートを普通に決めてください。天才肌感が伝わります。

綺麗にまとめたようで紹介はまだまだ終わらない。

君はいつの間に育ったんだボランチの小西。


【公式】ゴール動画:小西 雄大(徳島)70分 レノファ山口FCvs徳島ヴォルティス 明治安田生命J2リーグ 第7節 2019/4/3


【公式】ゴール動画:小西 雄大(徳島)60分 FC町田ゼルビアvs徳島ヴォルティス 明治安田生命J2リーグ 第23節 2019/7/21

悪魔のような左足だ。以前、名古屋にいた内田健太が自身のキャリアを振り返り「この左足で食ってきた」と話していたことを思い出す。貴方もきっとその左足でたらふく美味い飯をこれから食べるんでしょう。

それにしても左足しか使わない。左で蹴れる場所に常にボールを置く癖あり。そこを狙われるのが玉に瑕、がそれを補うには余りある広角に蹴り分けるキャノン砲。あれほど蹴れる選手はJ1見渡してもまずいない。

またボディバランスも素晴らしい。聞けばお兄さんが元忍者で、現在はパーソナルトレーナーとして武道の面から身体の使い方を指導しているそうだ。

www.topics.or.jp

設定が複雑すぎるが気にしては駄目。元、忍者だ。

調べてみるとガンバユース。あーーうちは高尾でやっちまったが、おたくも小西でやったなこれは。

トップ下で重心低くドリブルで突っ掛けるのは渡井。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

168㎝の身長と細かいステップワークから、〝徳島のオルテガ〟と呼んでいるのは私だけ。その甘いマスクに女性ファンも多いだろうが、こちらの情報筋では名波浩もイチオシらしい(見た目じゃない)。

サッカー以外の特技はなんと〝掃除〟。ピッチでは相手守備陣をそのドリブルで掃除していく嫌らしい男も、家庭ではきっと良い男なんでしょう。嫌いです。

正直見た目がすげー地味なストライカー垣田裕暉。

ごめん、初めて見たとき、ちょっと貴方が物足りなかった。「垣田と河田を足して二で割りたい!」なんて図にのった発言をして、「いや足してから割らないでください!」と徳島方面から突っ込まれたとき、面白い返しが出来なかった自身を恨んだんだ。

垣田よ、最近洗練してきたんじゃないか(何目線)。

とにかく献身的に動き回り、前線のあらゆる場所で起点になる。一家に一台垣田裕暉。徳島のために生まれたようなこの男は、なんだか最近すごい美しくゴールを奪う。アシストだって気づけばバルサ顔負けだ。

いや他人事かとおもたわ!難しいシュート入れて簡単なシュート外すオランダ人が昔バルサおったで河田!

そして待ってましたと〝大御所〟岩尾憲様の登場だ。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

リカルドの申し子は、毎年主力が引き抜かれようとこのクラブを支え続けた。私のように偉そうに語るどこの馬の骨か分からない奴はこういうのだ。「徳島を観ていると戦力を言い訳になんて出来ない。優秀な監督はどんな材料も調理する」と。そこに徳島の方々はこう反論する。「何抜かす憲様を忘れてくれるな」。

徳島は決してリカルドだけのチームではない。

その屋台骨となり支え続けたのは岩尾だと主張する徳島勢。そこから垣間見る主将への絶対的な信頼。

岩尾憲をそろそろJ1で観たい。徳島の岩尾として。

 

キャリア最高の時間を謳歌する名古屋の至宝

さて、徳島を語るうえで最大のトピックに移ろう。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

写真がなかった名古屋の至宝、杉森考起(可愛い)。

名古屋ファミリーは考起のこと観ているだろうか。毎試合追ってる貴方きっと泣いてますね。全く観ていない貴方、Go To Eat知らんくらい損しとる(俺か)。

自分のキャリアの中でも、これだけ試合に絡めることがなかったので、すごく充実したシーズンになっています。チームのスタイルがやりやすいですし、徳島に来てチャンスをもらえている中で、ゲーム体力も付いてきているのかなと思います

(2020.10.24 新潟戦前選手コメント)

徳島の識者はこう言った。「今徳島の前線で最も戦術理解度が高いのは誰か、杉森考起だ」と。

嘘だ......八宏にこっぴどく怒られてたあの考起が。

migiright8.hatenablog.com

いや嘘ではない。徳島で水を得た魚の如く走り回る考起がそこにいる。楽しそうにプレーする考起が。

まず抜群にポジショニングが良い。徳島のビルドアップが相手のプレスを綺麗にかい潜った先で必ずボールを受けるのは考起だ。彼がボールを持つとチームにスイッチが入る、「さあ仕掛けるぞ!」と。ポジションにも捉われない。縦横無尽にポジションを取り、味方との適度な距離感の中でパス、シュート、ドリブルとそのポテンシャルを思う存分発揮する。

奪われればハードワークだ。ルックスから想像しづらいため案外語られないが、彼の球際に対する激しさは折り紙付。その負けん気が徳島のプレスを支える。

知らない間に超絶美女を妻に迎えた。そこは嫌いだ。

いやお姉さんだろ。奥様だなんて認めてたまるか。

 

〝補強<既存選手〟だと断言したリカルド

それにしても何故これほど若手が育つのか疑問だ。

毎年主力という主力をごっそり抜かれ、「だから目立っちゃ駄目なんだ」と一見分かるようでよく考えれば意味の分からない結論で他サポには揶揄される。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

それでもリカルドは挫けない。ガリガリに痩せ細ったチームは大好物だとぶくぶく太らせる料理上手。

そしてダメ押しのこの一言。

今いる選手たちのことをすごく信頼していますし、試合に出ている選手たちはもちろんですが、試合に絡めていない選手たちも、彼らがどれだけそう思っているかわかりませんが、私はすごく信頼しています。仮に今新しい選手を獲ったとしても彼らを超えることはできないくらい、彼らのことを信頼しています

(2020.10.31 群馬戦前監督コメント)

だーーーーー好きだーーーー(隠しきれない想い)。

おい聞いてるかそこのイタリア人(とばっちり)。補強補強言ってんじゃないよだからスペインに勝てないんだよイタリアは(勢いなのでお許しください)。

話を戻すが、この発想の違いはとても興味深い。

 

〝枠組み〟を忠実に再現したいマッシモ

最近、名古屋の応援雑誌Grun12月号を読んだ。

[http://Embed from Getty Images :title]

そこで巻頭インタビューを飾った中谷進之介が、マッシモについて語った言葉を紹介したい。

今はチームとしての枠組みがあって、チームのみんながその中に入っているという感じ

その枠を皆で広げてチームが強くなるのかとの問いを、中谷はキッパリと否定する。

いいえ、その枠組みはすでに監督が作ってあるので、その中で規則正しい動きをするという感じでしょうか

この何気ないやり取りは、マッシモのチーム作りを端的に表現している。既に枠はあり、選手たちが期待されるのはそれを広げることでなく、忠実にその中で働くことだ。ある種機械的に、だからこそミスなく、完璧に実行して初めて、相手に勝つことが出来る。

であるからして、その枠の中に入れる選手、つまり与えられた設計図の通り機能できる〝部品〟(他意はない)でないとこのチームに加わることは許されない。期待されるのは〝伸びしろ〟以上に、あくまでこの設計図を忠実に再現する〝完成度〟だ。

若手に出番が与えられていない理由はこの点にある。厳密にいえば年齢が問題ではなく、名古屋の若手に彼の部品になり得る素材が少ないのが問題だ。

そりゃそうさ彼らは〝八宏チルドレン〟なのだから。

では選手たちに求められる素材とはなんだろう。

私が見る限り、マッシモの求めるそれはとりわけ〝フィジカル〟に依存したものだと感じている。

例えばストライカーには当たり負けしないボディバランスとキープ力。ウインガーには爆発的なスピードと単騎で仕掛けられる圧倒的突破力。ボランチには90分間走り切る体力そして球際での絶対的な強さ。最終ラインは言うまでもない。強さ、速さ、高さ、全てだ。

要は元々その選手が持ち得る身体的要素が大きなウエイトを占め、枠に入ろうにもそこをクリア出来ない限り土俵にすら上がれない。例えばジョアンシミッチが〝高さ要員〟で度々重宝されるのはまさにその象徴であり、またその役割を負う事実は皮肉な話だ。

高さが必要なら、木偶の棒でも連れてこればいいさ。

根底にある思想は〝ボール保持〟ではなく〝非保持〟であり、だからこそ守って走り、少ない人間でも決め切るだけの個人能力が問われている。

まさにアスリートとしての資質そのものが。

 

枠組みは〝選手が作るもの〟だった風間八宏

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

ではやはり前任者である風間八宏が理想だったのか。

同様に、中谷進之介のコメントを紹介する。

風間さんの場合は枠組みを自分で大きくして、まずはそれをやるという感じでした

風間八宏にとっての枠組みはあくまで選手個人個人の総和であり、監督が規定すべきものではなかった。

では好き勝手やればいいかといえば勿論そんなことはなく、彼は唯一〝(あらゆる意味においての)技術〟をそのチームの掟とし、それを繋げて枠組みが生まれるよう〝目を揃える〟ことを何より望んだ。その目が正しく、そして素早く揃えば、チームの可能性は無限大だと解き、〝ボール保持〟が前提にあるからこそ、その力の伸びしろに終わりはないとしたのだ。

選手たちには〝予想内〟でなく〝予想外〟を期待し、だからこそ〝完成度〟に加え〝伸びしろ〟も強く求めた。座右の銘が彼らしい、「自分に期待しろ」。

若い才能を躊躇なく試したのも、その期待の表れだ。

 

共通する二つのジレンマ

右か左。どちらかを頑なに支持しまた否定もしない。

ただ対極故に、皮肉にも共通点が二つあった。ハマれば滅法強く、しかしハマらなければとことんクソ試合になること。そして、求める〝個〟は違えど、結果だけ見れば完成度の高い選手が求められたことだ。


【DAZNハイライト】#名古屋グランパス vs #FC東京(H) 2020明治安田生命J1リーグ 第27節

先日のFC東京戦は、終始緊張感とまたミスが一つも許されないレベルの高い好ゲームだった。スコアは得意の〝ウノゼロ〟でも、お互いに張り詰めた糸を切らさないゲームは、その後大きな余韻を残したものだ。

そう、ハマったときの風間八宏とマッシモは最高だ。昨シーズン、豊スタで川崎相手に3発ぶち込んだ風間時代のあの試合も、今回のFC東京戦も、きっと今後何度も見返すに違いない。それぞれの特色がはっきり出た、個性的で尖った素晴らしい試合だったからだ。

では一方でハマらない試合だとどうだろう。

枠がなければ困った時にすがるもの(立ち返る場所)がなく、枠で雁字搦めだと予想外の事態(バグ)が起きた際、それを超越するものが生まれない。

結果、負ける時は散々なものだ。目も当てられん。

またその枠組みの有無に関わらず、発想があまりに極端な場合に〝選手を選んでしまう〟のは皮肉な事実ともいえる。とりわけ風間八宏に至っては、チームの枠組みを大きくしようと試みるほどに、傑出した能力の持ち主に追いつけない者達が脱落する仕組みを内包した事実は悲しき皮肉であり、足を引っ張った要因だ。

結局アップデートに〝補強〟は避けて通れなかった。

しかしながら各ポジションに完成度の高い選手達を揃えていたことで、正反対の志向を持つ監督にバトンを渡しても、結果的にセンターラインだけマッシモ仕様にすれば形になったのもまた皮肉な話だった。

 

リカルドにとっての〝枠組み〟とは何なのか

では本日のテーマである徳島に話を戻そう。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

彼らは先に述べた名古屋の〝混ぜ合わせ〟に近い。

徳島と聞くと、誰もが攻撃的で、パスを多く繋ぎ、立ち位置を重視するフットボールと想像するだろう。

ではリカルドにマッシモ的要素がないかといえばそんなこともない。彼には彼の明確なルール、枠組みがある。それは例えば純粋にボールを扱う技術、つまり個人完結型の能力に始まり、場面ごとでの適切なポジショニングから、ボールを奪われた際のハードワーク、球際への厳しさ。つまりチームの〝アイデンティティ〟を表現するうえでの十分な理解が必要だ。

リカルドが〝補強をしても既存選手を越えられない〟と発言した根拠も考えたい。勿論選手のモチベーションを触発する狙いもあるだろう。ただ一方でこの時期に(獲得可能なレベルの選手が)加わったところで、既存グループに簡単に馴染めるほどこの枠組みに入るのは容易でない。そんなプライドもまた垣間見える。名古屋からレンタルの榎本もそうだ。時間はかかる。

では裏を返すが果たして時間をかければどうなのか。

www.footballista.jp

ウチみたいなクラブは若い選手の価値を上げていけるようにならないといけない。これは500万の若手と3000万のベテランで本当に6倍の差があるのかどうかという話でもあります。監督は『その選手を3000万の選手にするのが自分の役割だと思っている』と言ってくれています。(中略)『若い選手について勇気を持って起用して、その価値を何倍にもしてあげられるんだ』と

今更だが徳島は決して資金豊富なクラブではない。

つまり(本人の中で)完璧な設計図を描き、それを忠実に再現しようにもそのパーツが集まらないのだ。

であるからして、そもそも〝非保持〟つまり〝リアクション〟重視のチーム作りは容易でない。どうしても個人が持つフィジカルな要素がモノをいうからだ。その顕著な例が他でもない名古屋であり、またそのレベルの選手達がそもそも徳島に集まるのか疑問も残る。

そこで大きな意味を持つのが、リカルドがアタッキングフットボールの信仰者である事実。

www.footballista.jp

大切なのはチームのアイデンティティです。どういうアイディアをベースに戦っていくのかということですね。ウチのチームで言えば、奪われたボールは素早く取り返し、ボールを支配しながらコンスタントに相手ゴールへ迫っていくこと。それを実現する手段としてシステムがあるわけです。そして重要なのは相手があるということです。だから、『このシステムでしか戦えません』という選手ではダメでしょう。これはしかし、チームが機能しやすい『快適なシステム』の存在を否定するわけでありませんよ

彼のフットボールはとても〝日本人向き〟だ。

確かにピッチは広く使うし、サイドで横幅を取り、最前線が奥行きを上手く使うことは間違いない。

ただ彼の場合はそのサイドの選手(WBやSB)とトップの選手(ストライカー)の個人能力に大きく依存していない。彼らがチームの意図するポジショニングと動きを繰り返すことで、結果的に〝中央〟での数的優位を演出し、そこの選手達が相手の間、間を取って攻め立てる。悪く言えば一人では非力でも、グループの単位で見れば強烈な攻撃を生み出す要因だ。そして奪われたらハイインテンシティでボール奪取!これもまた若い力だからこそ効果的に機能する。

また〝主体性〟を担保する重要性にも触れておこう。

私としては見てくれるサポーターが楽しんでもらえるサッカーをしたいですし、そういうクラブとしてのアイデンティティを確立したいという思いもあります。だから創造性のある選手というのは不可欠です。もちろん、いいサッカーをすればいいなんて言う気はさらさらなくて、勝ち点3を獲るサッカーをしたい。『ボールを持って攻撃的なサッカーをするチームだけれど、勝てないね』ということでは意味がない

〝ボール保持〟の発想が前提にある限り、〝主体性〟を失うことはない。主体性があるとはつまり、技術と頭脳の発展とチームの成長がイコールで繋がることだ。それさえあれば、選手達の目的は〝ミスをしないこと〟ではなく、〝アイデアを生み出す〟ことに繋がっていく。またそこに技術と頭脳さえ備われば、柔が剛を制すことだってきっとあるだろう。

もちろん相手がありますから、難しい状況に陥る試合はあります。その時に相手の対策をどう打開していくか。戦術的に困難なシチュエーションを解決できる選手を育てたいと考えています。サッカーは守ることより攻めることを教える方が難しいと思っています。たくさんの練習が必要ですし、しっかりとした分析が不可欠です。映像を見ながら、良い部分を抽出してわかりやすく教えることも大切ですね。そうやって練習でできるようにして、試合で実践できるようにしていく。それが我われ指導者の仕事です。とても情熱的な仕事ですが、毎日悩ましいですよ(笑)

リカルドを語る上でも度々登場する〝相手〟の存在。

「相手を見ろ」が口癖だった風間八宏を思い出す。しかしながら彼らが意図する〝相手〟は少々異なる。

number.bunshun.jp

リカのサッカーはとにかく相手の出方を見て、それに対して『こうボールを動かしたら、ここが空いてくる』とある程度イメージをして、対戦相手のタイプに合わせて表現していく。(中略)リカのサッカーは相手がどこであろうが、前から来るチームであっても、引いて来るチームであっても、“間”を突いたり、的確なポジショニングをとり、連動やローテーションをしながら組み立てていく。相手の動きに自分たちで対応できるサッカーをやり続けてきたので、自分たちがどうこうではなく、相手を見ながら『次はどこにポジションを取ればいいか』を考えて動く

相手を〝個〟と定義し、その破壊を目指し徹底した局面の打開、それに必要な個々の技術(止める蹴る外す)の習得にこだわったのは風間八宏だ。一方で相手を〝組織〟と定義し、盤面の変化を生み出す為の技術(止める蹴る)と、それを見逃さない目(戦術理解)を育もうとするリカルド。相手の背中を取るのか、はたまたそもそも相手のいない場所を取りに行くのか。少数のユニットが都度繋がり合い崩すのか、チーム全体が有機的に動くことで崩すのか。この発想の違い、その難易度とリスク、必要な戦力を考えると、後者の方がより現実的なのは言うまでもない。

毎年主力を引き抜かれても上位争いを演じるその裏側には、リカルドが目指したこれらのアイデンティティが徳島の地に根付いてきた事実が存在する。

4年間、ブレずにこのサイクルを回し続けた事実が。

 

徳島の姿から、我々は何を思う

さて、〝アイデンティティ〟はマッシモにもある。

リカルドの言葉を借りれば、決してチームが機能しやすい『快適なシステム』を否定するわけではない。

問われるべきは、どんなアイデンティティを植え付けることがクラブにとってベストな選択になるのか。

クラブの規模、トップチームにおける既存メンバーの特性、またアカデミーの方向性。縦串でクラブを捉え、最も適したアイデンティティを選択すべきだ。

それにしても今回は徳島の紹介記事ではなかったか。

いや仕方ない。だって徳島の試合を観ていると、気づくと名古屋のことも考えてしまうのだから。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

徳島は素晴らしいチームだ。彼らの姿を追う眼差しは、きっとファン目線とある種の羨ましさが混じったもの。もちろんリカルド最高と言いたいわけではない(いや最高だ)。あるシチュエーションではマッシモに分があるかもしれない、例えばリカルドが資金に恵まれた名古屋を指揮し上手くいくとも限らない。

しかしながら思うのだ。彼らには名古屋が目指そうとした、失ってしまったかもしれない何かがあると。

www.soccer-king.jp

まず、私にはファン・サポーターに楽しんでもらえるようなサッカーをしたいという思いがありました。たくさんゴールが入ったり、ディフェンスの時間が短かったり、ボールを失ってもすぐに奪い返して攻撃をしたり。そういうサッカーをすれば、見に来てくれた人たちが楽しんでくれるのではないかと考えたんです。だから、徳島のサッカーでファンやサポーターが楽しんでくれているとしたら、とてもうれしいです

スタイルの好き嫌いなんて上っ面なものではない。名古屋というクラブそれ自体が結局どこを目指すべきなのか、また我々ファミリーがクラブを通しどんな未来を夢見たいのか。あの日を境に蓋を閉め気づかぬようにしていた想いにそっとノックをしてくるような、そんな大切な問いを与えてくれるチームが徳島だ。

徳島の皆様。豊スタで、J1の舞台で再会しましょう。