みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

「戦術眼」~遠藤保仁、中村俊輔、そして中村憲剛~

f:id:migiright8:20180316013143j:plain

だいぶブログをご無沙汰してしまいました。その間にJリーグも開幕し、我らが名古屋グランパスは第三節を終え二勝一分。昇格組としては上出来ともいえる内容でここまできています。

そして今週末、昨年の覇者、川崎フロンターレとの一戦を迎えます。風間監督のもとJ2で『止める、蹴る』から叩き直してきたチームが、遂に昨年のJリーグ王者と相見えるわけです。今回戦う相手はただのJリーグ王者ではありません。私達と同じように風間監督が基礎から鍛え上げ、現在の礎を築いたチームであり、そんな彼らが王者として豊田スタジアムに乗り込んでくる、これ以上の舞台はありません。おそらくこの対戦を待ち焦がれていたサポーターは少なくないでしょう。

そういえば皆さんは少し前に発売された『伝わる技術(著者:風間八宏)』お読みになられましたか?「はじめに」の冒頭二行は痺れました。2017年12月2日、そして3日。この二日間は、今思い出しても気持ちが高揚してくる、と。勿論その二日間は川崎フロンターレがJ1初優勝を成し遂げ、私達名古屋グランパスがJ1昇格を果たした、それぞれにとって忘れられない一日のことです。思い入れのあるフロンターレと、現在指揮をとるグランパスが遂にJ1の舞台で対戦出来ることを、誰よりも楽しみにしているのは他でもない風間監督ではないでしょうか。

さて、改めて皆さんが想像するフロンターレとはどんなチームでしょうか。攻撃的、パスサッカー、バナナ、計算ドリル。いろいろあるでしょう。ただその中でも誰しもがピンとくる象徴といえば、やはり中村憲剛。日本を代表するゲームメイカーであり、司令塔。そして川崎フロンターレを代表するバンディエラといえば彼しかありえません。ただこれまでのグランパスの三試合を振り返ると、彼と肩を並べるような日本を代表する選手達と既に対戦しているんです。第一節ではガンバ大阪遠藤保仁、そして第二節にジュビロ磐田中村俊輔

彼ら三人に共通する特徴は高い技術、そして精密機械のようなキックです。誰もがイメージするのは『ボールを操る姿』。ただ彼らが持ち合わせる優れた能力は実はそれだけではありません。もう一つの能力、それが『戦術眼』です。彼らは試合の中で相手の特徴、長所、短所を把握し、相手のどこを攻め立てれば試合が優位に進んでいくか判断し実行する能力があります。意識して彼等を追わないと分かりづらいかもしれませんが、彼等は状況に応じてどのタイミングで、どのポジションにいることがベストか、常に考え探しています。この第一節と第二節、遠藤と俊輔のプレーを何度か見返しているうちに、彼等が現在の名古屋の問題点を試合を通してあぶり出していくような、そんな不思議な感覚がありました。彼等程のレベルになると、試合の中でここまで相手の穴を見つけていくものかと。彼等が名古屋に対して行ったプレーについて考えることで、今の名古屋の現在地が分かるかもしれません。またそれを知ることで、今回の川崎戦の試合を見るポイントも変わるかもしれない。何故なら今回の相手にも中村憲剛という偉大な司令塔がいるからです。

今回は守備に関する記述が多く、ネガティブな内容です。ただしこういった偉大な選手達から毎試合課題を得て、名古屋がシーズンを通して成長している姿を私なりに書きたいと考えました。またなにより川崎戦に向けて試合を見るうえで興味がわくようなキッカケを作りたいという想いと。中村憲剛は何を仕掛けてくるんでしょう。それに対して名古屋は対抗出来るでしょうか。彼等の動きを追うことで、サッカーの奥深さを垣間見れるのではないかと思います。

そもそも名古屋の守備の考え方は?

 失点がとにかく多い名古屋ですが、それなりに理由はあります。風間八宏の賛否が分かれる所以でもありますが、まずここをおさえていきます。風間監督の守備構築は決してシステマチックなものではありません。具体的に言えば、相手の攻撃を想定して、シチュエーションごとで誰がどう動き、どこのスペースを埋めるか、誰がどのタイミングでボールを持つ相手にアタックするか、緻密な設計のもと行ってはいません。あえて極端に図で表しましょう。

f:id:migiright8:20180316005203p:plain

 見てわかる通り、一人一人が自分の持ち場をしっかり守ること、その守るべきエリアを1mでも2mでも拡大出来るようにしましょうというのが風間監督の基本的な考え方です。チームとしての細かい約束事、設計されたものがない為、必要なのは個人の高い守備能力、判断能力。勿論広いエリアを守れること。おそらく求められるものは他チームに比べても多いでしょう。なにせここにビルドアップ(ボールを扱う技術、パス能力)の力も求められるわけです。昨年名古屋のセンターバックが次々移籍し話題になりましたが、これは風間サッカーに求められるセンターバックの能力が個人に依存し、その要求レベルが非常に高いことに起因しています。

さて、薀蓄が長くなっても仕方ないので、この前提をおさえた上で、今回の本題に移っていきます。まずは第一節、遠藤保仁が名古屋をどう攻略しようとしたのか。 

第一節 vsガンバ大阪(遠藤保仁)

あえてサイドバックのポジションに移動する

これは後程中村俊輔のプレーでも触れますが、遠藤はトップ下のポジションが定位置にも関わらず、あえて最終ラインのサイドまで戻る行為を何度か試みていました。彼等はこういったプレーを頻繁に使います。

f:id:migiright8:20180316000759p:plain

 理由は一つ。ビルドアップのスタートの段階から、どうやって名古屋の選手を一枚ずつ剥がしていくか、それをこのポジションから試みているからです。この場面で言えば、遠藤がこの位置に来ることで困った選手が青木亮太です。本来彼が見るべきガンバのサイドバックの選手につくかどうか。ただし目の前には遠藤がいます。彼がボールを持てば当然フリーにはしたくない。よって青木は遠藤につくことを選択します。ただしこれは遠藤が仕組んだ罠です。青木を喰いつかせて、本来彼が見るべきだったオジェソクをフリーにする為の。ここでもう一つのポイントが、名古屋が設定する高い最終ラインです。この場面、オジェソクにパスが回れば、彼の目の前には広大なスペースが存在します。全くプレッシャーがかかっていない状況ですから、この場面で言うと最終ラインで駆け引きするファンウィジョのタイミングにピッタリとパスを合わせられる。通常ボールを保持している選手がフリー、そして前向きの状態で最終ラインを高く保つというのは自殺行為に近いものがあります。「ラインが高く保てる」、それは「相手のボール保持者にしっかりプレッシャーがかかっている」ことが最大の担保です。見てもらうと分かりますが、第一節の段階ではまだ名古屋のホッシャ、秋山のコミュニケーションも取れておらず、ラインを作る上でのバランスも悪い。どうぞ走ってください、門は開いた状態です、まさにそんな状況。

f:id:migiright8:20180316031329p:plain

ちなみに遠藤は自チームのサイドバックの位置だけではなく、例えばこの場面のようにウイングの位置へも同じように移動し、名古屋のサイドバック(この場面は秋山)に対して揺さぶりをかけます。秋山からすると、本来見るべきファンウィジョなのか、目の前にいる遠藤なのか、どちらをケアすればよいか二択を迫られている状態。また遠藤のポジショニングが絶妙なのは、同サイドにいる味方の選手のレーン(ピッチを横で分割するイメージ ※青太線)にかぶらないような配置を取ることです。これによって図の矢印の通りパスに角度が付き、複数人(この場面は遠藤、ファンウィジョ、オジェソク)でボールを前に前に運ぶことが可能です。当然秋山としても的が絞りにくい。まずこれが遠藤が仕掛けた名古屋の守備構造を一から壊していったパターンです。

アンカー小林の両脇に出来るスペースの活用

 今度はトップ下としての仕事です。ちなみにアンカーの両脇とは具体的にこの場所のことです。

f:id:migiright8:20180316010623p:plain

前述した通り、名古屋の守備は守るエリア、守る上での選択、判断、これらを個人に依存した形で行なっている為、どうしてもこういったファジーなゾーンに意図的にポジションを取られると、誰がそこを埋めるのか、誰が相手につくのかはっきりしない欠陥が存在します。

f:id:migiright8:20180315231102p:plain

この場面で言えば、センターバックの菅原が前に出て潰しにいくのか、はたまた中盤の三人で役割分担をするのかがはっきりしません。こういった隙間隙間のポジションを取られては、フリーで受けて決定的な仕事を演出されてしまうのが大きな問題点です。このシーンは遠藤がトップ下の仕事として、よりゴールに直結する役割を負った場面になります。後述する中村俊輔もそうですが、彼等が何より凄いのは、相手の特徴を冷静に把握し、自身の動きでその守備構造を破壊していく頭脳を兼ね備えていることです。一見何気ない動きに見えるものが、実は数手先まで読み相手の欠陥を一つずつあぶり出す行為として成立していること。どうしてもボールを持った時のプレーに注目がいきがちですが、彼等は試合を俯瞰して見ているかの如くピッチ内を動き、周りも動かせる稀有な存在です。勿論その上でボールを持てば決定的な仕事も出来るわけですから、当然ながらこのレベルの選手は昨年戦ったJ2ではまず存在しなかった次元のものであると考えます。ダゾーンの中継でも、解説の戸田氏が再三遠藤のポジショニング、ボールの受け方を褒めていましたが、こういった動きに着目していたのではないでしょうか。彼が嫌らしいのは、こういったポジショニング、動きだしをここぞという絶妙なタイミングで仕掛けてくることです。最初からその場にいるわけではありません。そうやってガンバの決定機に常に絡んでいたのが遠藤でした。

では次に第二節、中村俊輔を見ていきましょう。 

第二節 vsジュビロ磐田(中村俊輔)

この試合を観戦した方はご存知の通り、後半磐田にかなり攻め込まれました。というより、後半は数回の決定機を除きほぼ磐田ペースで試合が進みました。何度も川又、アダイウトンに裏を取られ、その度に背走する羽目に。疲弊し、名古屋の陣形もどんどん縦に間延びしていきました。ここで重要な点は、『何故簡単に裏を取られ続けたのか、何故ボールを握られ続けたのか、何故間延びしてしまったのか』を考えることです。名古屋は最終ラインの裏が弱い、その事実にだけ目を向ければ良いとは思いません。何故簡単に裏を取られるのか、そこに着目した際、このゲームを動かしていた人物が浮かび上がってきます。それが中村俊輔です。

彼がどこを起点に攻撃を組み立て始めたか

俊輔の方が遠藤以上に自由にゲームをデザインしていました。彼がチームの中心となり、このゲームを動かしていた。名古屋に一点リードされた後半、彼が陣取ったポジションは外でも、中央の高い位置でもなく、中盤の底、アンカーのようなポジションです。

f:id:migiright8:20180316012520p:plain

名古屋がこの試合、ガンバ戦の反省点を活かし、チームとして課題に取り組んでいたことは明白でした。最終ラインが細かい微調整で常にチームの距離感を保とうとし、ホッシャと秋山の関係性も開幕戦に比べれば改善が見られました。ただこの試合で気になったのは、自陣で守備のブロックを形成する際のチーム全体としての意思疎通です。後半アダイウトンが名古屋の右サイドとのやり合いに見切りをつけ、守備が不慣れな左サイド(秋山のサイド)を中心に攻め始めた(ある程度流動的だが)。パワーとスピードで圧倒するアダイウトンによって、徐々に名古屋は陣形が後退していきました。そこで生まれたスペースと、名古屋の守備構造を見抜いて中央低い位置に陣取ったのが中村俊輔です。

f:id:migiright8:20180315233304p:plain

 元々こういった大きなポジションチェンジに対応するのが名古屋は苦手です(これは前述の遠藤に関する内容の通り)。中盤に俊輔が加わったことで、中央で数的優位を作りパス交換をしつつ、名古屋の陣形がボールサイドに片寄ったところで彼から左右に正確無比なサイドチェンジでボールを展開していく。またボールを支配し少しずつ相手を押し込む中で、名古屋にとってはもう一つの欠陥も俊輔に利用されることになります。ジョーとシャビエルの守備タスクの問題です。

f:id:migiright8:20180315235123p:plain

これは先程の後のシーンです。右での攻防を終え、再度ボールを持った俊輔が今度は反対の左サイド(ギレルメ)に展開するシーン。名古屋の中盤の三枚と、ジョーの距離感が何よりの問題です。この構造を理解した俊輔は、この広大なスペースを攻撃の起点とすることで、ゲームを操り始めました。またギレルメに関しても、シャビエルの守備タスクは決して重いものではない為、この場面を見て分かる通り全く見れていないフリーの状況です。ジュビロからすると、彼がビルドアップの際の逃げ場のような存在になっていました。名古屋に関して言えば、その点は青木の方がよく自陣に戻りますし、攻守の切り替えも早い。これはジョーとシャビエルの攻撃力を最大限活かしたいというチームの意図、勿論彼らの特性も踏まえある程度割り切っている部分かもしれません。

遠藤同様、サイドの低い位置であえて囮になる

f:id:migiright8:20180315235523p:plain

グランパスに前進を許し、後方から作り直す際は面白いことに遠藤と同じアイデアを使っていきます。俊輔があえてサイドバックの位置まで降り、シャビエルと対峙する構図を作る。彼へのパスコースを防ごうとシャビエルが喰いつくことが分かっているわけです。当然本来彼が見るべきギレルメへのパスコースは空き、簡単に名古屋の前線の守備ラインを突破されてしまいます。

f:id:migiright8:20180316000300p:plain

これも同様です。この場面に関してはシャビエルがギレルメをしっかりケアしているのが分かります。ただそれを理解した俊輔は、最終ラインとのパス交換に参加しつつ、グランパスの中盤の一人、玉田が自身(俊輔)のポジションをケアしてくるタイミングを狙っています。狙い通り玉田が喰いついたタイミングでセンターバックにボールをリターン、ボールを受けたセンターバックは本来玉田が見るべき相手だった泰士への縦パスを簡単に成功しているのが理解できるかと思います。これは風間さんもよく使う言葉で『遊びのパス』です。何気ないパス交換の中に彼が仕掛けた罠が存在します。

名古屋の問題点とは

ここまで見てきた中で私が問題だと思うポイントが二点あります。

  • ジョー、シャビエルの守備意識
  • グランパスの全選手に刷り込まれた「前から奪わないといけない」という意識

一つ目は過度の期待は禁物かもしれません。ただジョーを見ていても疲れは当然あるのでしょうが、サボっている場面は多々あります。彼が効果的な守備参加をしない為、当然後ろのメンバー、特に中盤にはかなりの負荷がかかっています。例で挙げた俊輔のシーンは、本来であればどの場面もジョーに出来る仕事はもう少しあると考えます。そしてシャビエル。彼も守備に関するタスク自体は軽いです。ボールを奪えると判断した際の相手に襲い掛かるスピード、奪う技術は間違いありません。ただし90分の内、それをずっと繰り返しているわけでは当然ありません。彼の背後は相手チームからすれば格好の標的です。ただ繰り返しになりますが、この点は割り切るしかありません。私達が彼等に期待しているものは「ゴール」なのですから。そういったアンタッチャブルな選手が二人ピッチに同居するのは少々引っかかりますが、それでもやはり彼等の攻撃力は圧倒的です。特にシャビエル。彼がこのチームの鍵を握っています。彼は遠藤や俊輔のような司令塔ではありませんが、ゴールに直結する決定的なプレーでは彼の方が優ります。テクニック、スピード、閃き。彼が周りを活かしているように見えますが、実際は彼を生かすも殺すも周り次第、彼にそう言った場面を御膳立て出来るかどうかに懸かっていると私は考えます。彼のプレーが輝いているかどうかがこのチームのバロメーターです。結果的にそれがジョーが輝けるかどうかにも繋がっていきます。なんにせよ中盤の三枚にかかる負担は相当なものですが...。

二つ目、個人的にはこちらの方が大きな問題だと思っています。風間サッカーといえば「相手を押し込め、奪われたらボールを即時奪還しろ、高い位置でプレッシャーをかけろ」これが代名詞です。この考え方、実際に相手を押し込んでいる状況なら問題はありません。相手を崩せている状況なら、これが自分達の約束事(プレーモデル)ですから躊躇なく遂行すべき。問題はそのような状況にない場合です。具体的に言えば相手を押し込んでいない場面、逆に自陣側に押し込まれている状況。こういった試合展開の中でこの約束事は通用しません。ここまで見てきた通り、簡単に相手に剥がされてしまうんです。中盤で数的優位を作られる、特定のエリアに異なるポジションの選手が加勢してくる。イレギュラーなことを相手にされるとピッチ内で対応が出来ない。これはチームとして明確な約束事がなく、準備もされていないからこそ起きる現象です。そのため相手に簡単にマークを剥がされてしまう。前述した通りジョーやシャビエルの守備意識の低さもこの問題に拍車をかける形になっています。これは風間監督のチームの最大の欠点です。

中盤で数的優位を作られボールの奪いどころを失う。サイドや裏に展開され、何度となく背走を余儀なくされる。苦し紛れにクリアをしボールを回収される。ラインを上げてボールを奪いに行きたいが、疲労と、行っても奪えないと構えてしまう気持ちと。その上でチーム全体での共通理解に問題を抱えている為、前後で分断、間延びし、そのエリアを俊輔に使われてしまった。そんなところでしょうか。

目の前の相手に喰いつくべきか、その場合他の選手はどう振る舞うべきか、共通理解がなされていない。そういった状況の中で「前からプレッシャーをかけないと」そんな意識が根底にあるからこそ、誰かが闇雲に相手に喰いつき、相手が仕掛けた罠にハマってしまう。こういったチームの欠陥、心理を遠藤や俊輔クラスの選手は見逃しません。

磐田戦の試合後、和泉がこんなコメントを残していました。 

相手がロングボールを蹴ろうとしたら、しっかりラインを下げる方がいいのかなとも思います。簡単に蹴らせてしまうと全員が逆を取られて、後手に回ってしまいます。

おそらくこのコメントの真意は、苦しい時間帯や前から上手くプレッシャーがかかっていない時間帯は、全体(チーム全員)で陣形を自陣側に構えて、チームとして縦の距離感をコンパクトに保ちたいということだと思います。蹴ってくる相手の選手にプレッシャーをかけられる選手(例えばジョー)をしっかり配置し、ときには自分達の背後のスペースを消してでも、蹴られて背走する場面を減らしたいという意図を感じます。

このチームの生命線は、やはり「常に全体の距離感(ジョーから最終ラインまでの距離)をコンパクトに保つこと」、そして「ボールを出来るだけ握って、自分達で主導権を握ること」です。

 以前、中田英寿が現役だった頃こんなコメントをしていました。「ビルドアップで最も重要なことは、相手を走らせることではない。相手の頭を疲れさせることだ。追っても追ってもボールを奪えない。相手が諦めたらこちらの勝ちだ」と。磐田戦、相手に押し込まれた原因は様々な理由が積み重なっていました。

打ち合いになるのは仕方ありません。風間監督の志向するサッカーは、圧倒的な魅力とともに大きな欠点も同居したサッカーです(だからこそ唯一無二の魅力が生まれるのかもしれませんが)。相手のクオリティがより高ければ、当然ゴールに繋げられてしまうシーンは起こると思います。それが『八宏スコア』と言われる所以です。ただどういう状況であれ、ボールを持つ、主導権を握るんだという強い意志、そのために必要な約束事だけは失ってはいけません。点を取られても取り返せる、「得失点差」のプラスを大きくしていけるチームを目指していくことが、追及していく最大の目標になるのではないでしょうか。

そして川崎戦へ

ここまで遠藤保仁中村俊輔のプレーを通して名古屋の問題点を考えてきました。どちらかといえば遠藤の方がよりゴールに直結するプレー、俊輔の方が一からゴールへの道筋を設計していくようなプレーのイメージでしょうか。そして次節の川崎には前で仕事が出来る中村憲剛と、ゲームを作ることが出来る大島僚太。これらの仕事を分担出来る陣容が揃っています。

どんな試合になるでしょうか。例えば磐田戦と同じような展開になった際、名古屋は彼ら相手に押し返すことが出来るでしょうか。悔しい話ですが、同じようにチーム作りをしてきた両チーム、私達が歩んできてぶつかった壁を、彼らは既に乗り越えてきている。彼らの方がその点一歩も二歩も前にいることは紛れもない事実です。

ただやっている選手は違います。個性が違う。名古屋には川崎にひけをとらないだけのタレントが沢山揃っています。今のチームとしての力にプラスアルファする形で、選手達のタレント力をどれだけ上積み出来るか、個人的にはそこに何より期待したいと思います。打ち合いの試合が見たいのではなく、川崎相手に打ち勝てる名古屋が見たい。

改めて、風間八宏の最大の魅力は彼の志向するサッカーの内容以上に、彼のチーム作りそのものにあるのではないかとここにきて感じています。時間はかかります。毎試合勝てるほど今の名古屋に力がないのも事実かもしれない。ただこのチームは強くなります。圧倒的な攻撃力と、それを体現出来る選手達を地道に、地道に育てている。またそれが出来る選手を一人ずつ、一人ずつ増やしていこうと積み重ねています。もしかしたらその先にいるのが次に戦う相手、川崎かもしれません。現状のチーム力では劣るかもしれない。ただ今戦えるベストの人選で臨めば、何が起こるかは分かりません。

どちらの攻撃力が最強か、豊田スタジアムで決めましょう。

 

 

※このブログで使用した画像はDAZN名古屋グランパス公式サイトより転用・加工したものです