みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

爆買いとポイ捨て。尽きることのない賛否

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「爆買いポイ捨てチーム」

これ、最近友人に言われた一言である。流石にカチンときたぞ。かなり仲の良い友人だったが、売られた喧嘩はきっちり買った(謝られたけど)。

そう、これがグランパスに興味のない人達の自然なリアクションだ。このチームへの知識や理解に乏しい人達が見れば、私達のチームがやっていることは「爆買い」で「ポイ捨て」なのである。

勿論その改革を推し進める首謀者は風間八宏。情の欠片もない、自らの都合で選手を切り売りする非道な人間といったところだろうか。なにせとにかく評判が悪い。いや、評判が悪いというより、ただの嫌われ者だ。システマチックな戦術とは対極に位置し、守備は杜撰。そのくせ使う選手は選ぶのだから、嫌われるのも無理はない。そのあまりに振り切れた志向が、どうにも「サッカー通」を遠ざける。

今更彼のサッカーを掘り下げるつもりはない。散々語られてきた内容であるし、好き嫌いが分かれるのも承知している。彼のサッカーが至高で、全く欠点のないものだなんて私自身これっぽっちも思わない。

ただ冒頭の言葉が引っかかった。私達の愛すべきクラブが行っていることは、果たして本当に「爆買いポイ捨て」と言えるのか。

【第一期】このチームは一度「解体」した

風間八宏が就任してからのグランパスを語る上で、この点に触れないわけにはいかない。2016年に初のJ2降格が決まり、そこから始まったオフに起きたことを忘れる者はいないだろう。主力級の選手達は次々とチームを去り、このチームに残った選手はたった15人。内、前シーズンにスタメン争いをしていた選手達は約半数程度しかいない。

逆に加わった選手達は18人。当時のグランパスを取り巻く環境(マスコミ報道)を考えれば、「よく集まった」、これがサポーターにとっても正直な感想だった。ほぼゼロからのスタートの中で、可能な限り風間監督の志向にあった選手を獲得したい強化部。ただその意向とは裏腹に、クラブには逆風が吹き荒れる。肝心の新監督も、前チームの活動により始動が遅れるまさに二重苦の状況。今思えば、強化部側の風間監督への理解が不足していたのか、理解はあったが獲得可能な選手に限りがあったのか。そこは定かではないが、同時にどちらも間違いとは言い切れない時期だったのかもしれない。

当然ながら、このチーム立ち上げ時が「風間体制第一期」である。

【第二期】シーズン途中に加入した「足りなかったピース」

ほぼ「寄せ集め」の状態でスタートした名古屋は、J2の舞台で不安定な飛行を続けた。与えられた材料で上手い料理を作る監督なら結果も違っただろうが、風間監督は与えられた材料を育てようとする監督だった。調理をしない。結果、材料(個)の持つ味(力)がそのまま誤魔化されることなく表現されてしまう。求められる動き、スキルを体現出来る者と、どれだけやっても上手くいかない者の差は広がるばかり。そんな選手達を組み合わせ、策すら与えないのだから、苦戦するのは必然だった。志向するサッカーも十分振り切れている風間八宏。ただなにより極端だったのは、チームビルディングにおける彼の手法そのものだ。どれだけ負けても、屈辱的な敗戦を喫しようと、それが必要な順序の中で起きたことであれば、軌道修正する事はなかった。寄り道をしたり、狡賢く楽な道を選ぶこともない。その点彼は妥協を知らない。今思えば、最初の半年間は「昇格するためのベース作りと、足りないピースを確認する時期」だった。

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そのうえでこの夏に名古屋に加入した代表的な選手が、シャビエル、そして新井である。半年間選手達と共に風間監督の練習に触れ、会話を重ね、理解を深めた強化部の素晴らしい仕事だったことは今更言うまでもない。それと同時にこの時期から選手の放出も進んだ。出番に恵まれなかった選手達にとって、自身に飛び込んだ他チームからのオファーに対し首を横に振る理由などなかった。強化部もその点に関して、選手達の意志を最大限尊重した。当事者が他チームでプレーした方が未来があると判断すれば、強化部にも飼殺しするような意図はない。

これが「風間体制第二期」だ。

【第三期】一年での昇格。新たに加わった者、去っていった者

無事一年での昇格を果たした名古屋だったが、J1で戦い抜くための補強は思いの外滞った。後に大森氏は「プレーオフの影響で出遅れたのは事実だった」と語っているが、獲得に動いた選手はことごとく名古屋にNOを突きつけた。逆にチームの大黒柱だった田口泰士が名古屋を去る決断をしたのは、なにより風間監督にとって大誤算だっただろう。大きな補強となったのは、ジョー、そしてランゲラック。最前線と最後尾に、「日本人以外の選手」で大金を投じて補強するのが、シーズン前の名古屋には精一杯だった(それが出来るから凄いのだが)。

それでもチームはJ1レベルにはなかった。大きな期待を集めた名古屋だったが、シーズンが始まると思うような戦いは出来なかった。補強の目玉だったジョーやランゲラックも苦労していた。片や欲しい場所、欲しいタイミングでボールが届いてなんぼのストライカー。片やチームの守備があってこそのゴールキーパーである。ジョーは彼自身のコンディションにも問題があったと感じるが、ランゲラックに関しては、はっきり言って不遇の日々だったと言わざるを得ない。チーム単位で見れば、結果的にJ1で十分に戦える戦力を要していなかったというのが事実だろう。風間監督の采配に起因する部分も相当に影響があるが、では戦力が充実していたかと言えばこれも疑問が残る。特にセンターバックの駒が揃わなかったのは痛恨の極みだった。また控え選手の層にも大きな問題があった。

これが「風間体制第三期」。

【第四期】出番を失っていた実力者達にターゲットを絞った補強戦略

この夏の補強戦略は明確だった。ゴールを奪える選手とゴールを守れる選手は既に存在する。ピッチに魔法をかけられる選手もいる。必要だったのは「名脇役」だ。固まらないジョーの相棒、田口泰士が抜けて埋まりきらなかった中盤の要、ランゲラックの前で鍵をかけられるセンターバック。強化部が秀逸だったのは、「獲得できる余地のある選手」に狙いを定めたことだ。所属チームで出番を失っている選手、レギュラー格とは言えない選手。ただし将来有望な若手や、代表クラスの選手に候補を絞り、そこに潤沢な資金を投じた。シーズン中、しかも最下位のチームというハンデを乗り越えるためには理に適った戦略だ。

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その結果獲得に成功したのが前田直樹、エドゥアルドネット、中谷進之介、丸山裕市、金井貢史である。いずれも今のチーム状況を鑑みれば「よく獲得出来た」クラスの選手達だ。また全ての選手が即レギュラーとなって活躍していることにも注目したい。意地悪な見方をすれば「既存選手の立場は?」となるかもしれない。ただ一方で見方を変えれば、それだけ強化部が風間監督の要望にピンポイントに応えているとも言える。風間監督の言葉を借りれば、この一年半の間で、強化部の目は間違いなく風間監督のそれと揃ってきている。

これを「風間体制第四期」としたい。まさに今のチームである。

さて、ざっとこれまでの一年半に起きたことを振り返ってきた。もう第四期なのかと笑われそうである。表現の善し悪しはともかく、このチームにとっての転換期が既に四回あったことは事実だ。同時に気づくことは、今年名古屋がやっていることは、昨年やってきたことの焼き回しであるということ。「昇格」そして「残留」と大きな違いこそあれど、昨年はJ2を勝ち抜くために、今年はJ1で生き残るために、それぞれの舞台や目標に対し、シーズンを戦いながらチーム自体を作り替えてきたことが理解出来る。

では結局のところ、名古屋がやってきたことは「爆買いポイ捨て」だったのか。これまでの流れを踏まえた上で、この二点に絞って考えてみたい。

①本当に「爆買い」なのか

この言葉をどう定義づけるかが問題ではあるものの、仮に「大金を投じること」だとすれば、その指摘は決して間違いではない。いくら計画性のある補強とはいえ、これだけの選手を次々に獲得出来るのは並のチームでは不可能だ。これまで書いた通り、結果的に毎シーズン、半年間ごとに生まれた課題を「補強」することでカバーしている。

ただしこの点に関していえば、使える予算が潤沢であることを恥じる必要はない。名古屋はそのクラスのクラブであり、堂々とやれば良い。イニエスタのために費やす大金に拍手が起こり、名古屋が費やす大金に文句をつけられる筋合いなどない。どこの国のビッグクラブも、必要な選手には資金を惜しまない。これはジョー獲得の際もそうであったが、名古屋だけ目くじらを立てられる理由などないのだ。

また爆買いを「チームの補強ポイントに関係なく、次々とホームランバッターを連れてくる」との意味で使うなら、名古屋は決して爆買いなどしていない。改めて語るまでもなく、この一年半、必要な補強しかしていないのは前述の通りである。

②名古屋から出た選手は「ポイ捨て」されたのか

この点に関しては、選手の入れ替えが激しいのは紛れもない事実だ。例えば既存の選手を短期間でレベルアップさせる、不可能であるなら「監督の力で勝たせる」。そういったことが出来ているわけではない。いや、するつもりがないのかもしれない。

おそらくだが、風間監督は選手を「選別」している。より具体的に言えば、彼の求めるレベル、理想を叶えられる選手達を、加入と放出を繰り返す中で絞り込んでいる。その基準は「チームで最も目が速い選手」だ。先頭集団で走れる選手達を育てることを目的とし、同時にチーム内での誤差を限りなくゼロにするために、その時々のチームのレベル(先頭集団の速度)に準じて必要な箇所に補強をする。そして強制的にチーム全体のレベルを上げる。この点はとにかくシビアだ。彼の志向するサッカーは、ピッチに立つ選手の一人でも見ている世界が違えば、そこから水は零れてしまう。本来であればチーム戦術がその誤差を埋める役目を果たしてくれるのだが、風間監督のチームに関してはその点「個」に依存する。いや、それを理想としている。攻守において、いかに見るべきものを早く見ることが出来るか。それを可能にするための唯一の手段となる「技術」。それを下のレベルに合わせるのではなく、あくまで上のレベルに合わせる。そしてチームのレベルを引き上げる。まさに「アップデートの繰り返し」だ。その点に関する妥協は絶対にない。それが仮に補強という手段になったとしても。

ただ矛盾するようだが、彼が補強を要求することはあっても、放出を促している印象は受けない。彼以上に選手に期待している人間はいないとも思う。それと同時に、彼は選手達を「一人の事業主」として非常にリスペクトしているように映る。名古屋での出番が限られた選手に他チームからオファーが届いた際、選手の意思を最優先に尊重するのはそのためだ。

一つの例が永井龍である。正直に言って、今年の前半戦の戦いを見る限り、永井龍はまだこのチームに必要ではなかったか。ただそれでも山雅への移籍を許可したのは、他でもない彼自身のサッカー人生を尊重したからだろう。逆に昨シーズン彼ほどのインパクトを残せなかった押谷祐樹内田健太はチームに残留し、今年の前半戦、いくつかの出番を与えられていた。練習でのプレー内容が良ければ、躊躇なく起用する風間八宏の哲学もまた、一切ブレることはなかった。ただ当然そこで結果を残せなければ後退するし、チームの成長速度も待ってはくれない。そのスピードに置いて行かれてしまえば挽回のチャンスが巡ってくることもない。他チームからオファーが届けば心は揺らぐし、その決断を風間監督が止めることもないだろう。

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選手の入れ替えが必要以上に多い点に関しては、冒頭に挙げたこのチームの結成当初の状況がそうさせている。あれだけ多くの選手が加入し、全ての選手が風間監督の理想にハマるはずもない。後から入ってきた選手が既存の選手より優先されるのも、前述した理由から考えれば決しておかしなことではない。チーム自体も特定の色(チーム戦術)に染まっていない為、新しく来た選手が馴染むのも比較的容易である。

また多くの放出した選手に関して、こんな意見もあるかもしれない。そもそも本当に彼らの力が劣っていたのか、と。他の監督であればもっと重宝された選手がいたのではないか。この点に関しては、確かに純粋にプレースタイルが合致しなかった選手もいる。

では逆にこの一年半の間に名古屋から出て行った選手で、J1のレギュラークラスとして現在も定期的に稼働している選手が果たして何人いるか。そう考えたとき、この一年半におけるその時々の名古屋の戦力が、客観的な視点で見てどのレベルにあったのか考察することも可能となる。決して同レベルの選手を常に取っ替え引っ替えしているわけではない。これだけの入れ替えが起きたのは必然といえば必然だった。これが私の感想である。

一年半見た風間八宏という監督

結局のところ風間八宏は優秀な監督なのだろうか。この一年半、グランパスを通して見てきた風間八宏には、本当に信じられないほどの賛否がついてまわった。

一つだけ言えるのは、プロクラブにおいて彼のやり方を可能とするのは、

  1. そもそも彼の条件を満たす選手が揃っている
  2. 彼の条件を満たせる選手を揃える財力
  3. 彼に全てを預ける覚悟と時間

このどれかの条件が揃ったときだけであろう。個に依存するとはそういうことだ。与えられた材料で調理する、監督の力でデザインするわけでもなく、個々の能力を最大限伸ばすことでチーム力を底上げするには、相応の時間を要するし、時間が与えられなければそれが出来る選手に「投資」するしかない。

その意味では、最近起きたアルビレックス新潟の事例は決して他人事ではなかった。

鈴木政一監督も、ある意味で風間監督に非常に似た思想を持つ人物だった。安易に選手に答えを与えず、考えることを要求する。選手に一定の裁量を与え、「自由=最低限の約束事だけ共有させ、各々がその場その場で判断をする」ことを前提とし、選手自身の底上げを図ることを重要視する監督だった。

その象徴ともいえる内容が先の記事内にある。磯村のこのコメントだ。

今年はボールを狙えないんですよ。思い切ってバン!と取りに行けない

これは名古屋の選手にも通ずる内容だ。細かなチーム戦術で選手を縛らないからこそ起きるジレンマ。一人出来れば良しではなく、それをピッチ上の選手たちそれぞれが理解出来ないとチームとして機能することはない。

結果はシーズン途中での解任である。潤沢な資金があるわけではない新潟にとって、名古屋と同じように選手に投資をすることは出来なかった。では時間をかけて既存戦力の底上げにクラブ含め注力出来たかといえば、実際は降格チームに課せられた「一年での昇格」という暗黙の了解が彼らに重くのしかかった。

 結局のところ、この手のタイプの監督にチームを預けるには、そのチームに「何が求められているか」が重要になる。既存選手の底上げを図り、チームのベースを上げつつ強化していくのであれば、間違いなく相応の時間を費やすこととなるだろう。何故なら彼等は共通して「選手自身に考えること」を求める監督だからだ。全てを型で教えるのではなく、多くを考えさせるということは、選手の吸収速度に必ず差がつく。

ただJ2で戦っていた時の名古屋や、前述した新潟には「一年での昇格」が当然期待されていた。風間監督のように、半年が経過した時点で足りない部分を「補強」する行為は、確かに金にモノを言わせた手法ではあるものの、最も即効性がある裏技にもなる。それで時間を一気に短縮できる。クラブがどんな目標を掲げ、その納期をどの時期に設定するかでフロントや強化部がやるべきことは大きく変わる。何故なら彼等が抱えている監督達は、己の信念を曲げてまでそこに歩み寄る人物ではないからだ。

逆にそういった投資が出来ないチームの場合、なにより時間が足枷となる。新潟の場合、「育成」と「結果」、この二頭を一年で追った結果、少なくとも鈴木体制においては一頭も得ることが出来なかった。投資という手段がない以上、フロントに出来ることは「我慢と覚悟」であったと思う。ただそれを彼らは許さなかった。その意味で、結果論にはなるものの、鈴木政一アルビレックス新潟の組合せの相性は決して良いものではなかった。少なくとも、J2でそれを志すには、あまりにリスキーな組合せだった。

これらの監督に最大限働いてもらうには、フロントが一枚岩となって現場を支えないと成功することは難しい。名古屋に関しては、フロントが「信頼と投資」で風間監督を支えている。それがあったからこそ成績は最下位でも、資金を投じることで彼の要望に応えることが出来た。昨年は昇格する為に、今年は残留する為に。

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よって風間体制の勝負となる年は「三年目」であると考える。そのために今年のミッションは絶対に残留することだ。フロントはやるべきことをやった。そしてJ1で戦えるだけの戦力を遂に整えた。風間監督に言い訳できる余地はもはや残されていない。ここからのシーズンは、彼の手腕のみが問われるものとなるだろう。

最後に。では風間監督のサッカーがどうかという話だが。

彼が志向するサッカーを体現出来る選手が揃えば面白い。それが私の率直な感想だ。攻めていても何が起きるか分からない。パターンが存在しないからこその期待がある。信じられない奪われ方もする。何度も逆襲を受ける。その意味でも次の展開が読めない。観ている側からすれば、まさにジェットコースターに乗っているような気分だ。

再現性は乏しく、「緻密」という言葉とは程遠い。それが許せないサッカーファンも勿論いるだろう。そんな人間に愛するチームを託したくないというサポーターもいて当然だ。

ただし目の前で繰り広げられるそんなジェットコースターのようなサッカーを受け入れ、楽しむのも大いにアリだ。割り切ってしまえば、これほどスリリングなチームもないし、何をすれば上手くいき、何を怠ると上手くいかないか。これほど手に取るように分かるチームも珍しい。

土曜に行われる鹿島戦に向けて、風間監督はこんな言葉を口にしている。

専門家が見て面白いサッカーというのはないので。誰が見ても面白いものは面白いし、点がたくさん入れば面白いと思います。ゴール前のシーンをたくさん作れば面白いと思うので。我々のスタイルをいつもどおりにやれればと思います

この言葉に風間八宏の全てが凝縮している。これ以上でもこれ以下でもない。

彼のサッカーが何よりも正しいもので、誰よりも強いものだとは思わない。

ただ同時に正しいサッカーが、強いサッカーが、必ずしも魅力的とは限らない。サポーターを熱狂させるサッカーは、決してそれだけではないのだ。だからサッカーは面白い。

私に関しては、クラブが自ら決めた道にしっかり進んでくれていれば、今目の前にあるものを愛し、理解することから始めた方が、毎日が楽しく、そして幸せだ。

 

※このブログで使用している画像は、名古屋グランパス公式サイトから引用したものです