みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

エドゥアルドネットはサラリーマン気質なのか

 

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「憂鬱だ...なんて憂鬱な朝なんだ...」

サラリーマンにとって、月曜日の朝は何故あんなに憂鬱なのか。いや、仕事も充実して、休日も早く会社に行きたくてしょうがない方もいるだろうから、全てのサラリーマンとは言わない。ただ月から金まで週五日間のペースで働く社会人にとって、日曜の夜から月曜の朝の時間帯は「魔の時間帯」である。月曜朝の満員電車、不思議と今後の人生について考えてしまうのは何故だろう。サラリーマンの性だろうか。

さて、そんなサラリーマンと同じ悩みを抱えているのではと心配になる選手がグランパスにやってきた。エドゥアルドネットだ。

決して馬鹿にしているつもりはない。いや、先に白状すると私は彼のプレーが大好きである。

ただ彼は普通ではない。移籍前、川崎サポーターのネット評(インターネットではない)で最も目についた言葉を、おそらく多くの名古屋サポーターが頭にインプットしたことだろう。

「やる気のあるネットの日と、やる気のないネットの日がある」

目を疑うプロスポーツ選手にあるまじき紹介。それは「金曜の夕方はやる気のある俺、月曜の午前中はやる気のない俺」に限りなく近いのではないか。私にはサポーターがいない。ただ彼には毎試合一万人以上のサポーターが頑張れと後押しをしているわけで、そんな恵まれた環境で「やる気がある、ない」そんなことが本当に存在し、通用するのか。ちょっとそれは贅沢すぎやしないかネットよ。ガチネット、ゆるネット、だめネット。ネットのコンディション三段活用なんだそれ。

ということで、ここ数試合のネットのプレーぶりを見直してみた。本当に彼は私達と同じサラリーマン然とした男なのか。私は大真面目だ。

サポーターから発信された様々な仮説

ここまで煽っておいて先に結論を申し上げるのも気が引けるが、私なりの結論を先に申し上げておきたい。

.....分かりませんでした。

食い入る様に何度も見返したが、本人に面談でもしないと分からないに決まっている。「貴方はやる気がない」と決めつけて仕事の同僚と揉めた実績のある私がいうのだから間違いない。だからサッカーの場合、インタビューは重要。ピッチ上で起きる現象を拾い上げることは出来ても、何故そのプレーを選択したか、何が見えていたのか、どんな気持ちでプレーしたのか。それは当人に聞かなければわからない。実際に現地で観戦した際の印象、テレビで見返した印象、刷り合わせてみるものの、それで断定できるかと言えば難しい。それが結論である。誤解を招かないためには、やはり本人の口から出る言葉にまず耳を傾けなければならないのだ。

ただ名古屋サポーターは毎試合様々な仮説を立てていた。特にそれが目立ったのが、豊田スタジアムで行われた浦和戦におけるネットの出来だ。多くのサポーターはこの試合のネットを「やる気がないネット」と評価した(私もその一人だ)。せっかくなのでその仮説に沿って一つずつ考察していこうではないか。

【仮説①】怪我の状態が芳しくなく、「走らないこと」を許されているのではないか

名古屋に来てからの彼の怪我は厄介なものだ。グロインペイン、そして内転筋の痛み。騙し騙しプレーしていることは間違いない。これは今シーズン、川崎に在籍しているときからそうだったのかもしれない。彼が交代する時は決まって倒れ込み、「もう走れない」とベンチに合図する。

走らなくても良い、という判断がされているかはともかく、チームメイトが彼の分まで走ろうとしていることは事実である。例えば彼が自陣に戻る気配がないことを察知した前田は、彼より相手ゴール寄りにいても全力で自陣まで戻ってくる。彼の様子を窺いながら、真っ先に自陣のバイタルを埋めるのは小林だ。そうやって、ネットの怪我が穴にならない努力をチーム全体で行っているのが今の名古屋だ。逆に言えば、手負いのネットでも、チームにいる価値が相当に高いという裏付けでもある。それにしても前田。お前いい奴すぎるだろ。

また彼のインタビューを読んでも、やはり怪我がプレーに影響していることは間違いない。思い通りにいかないことを誰よりも自覚しているのはネット自身だろう。

ここでいくつか「あ、あいつ走る気ないな」と思った瞬間をピックアップ。

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これは「まぁバイタルは小林に任せるか」のネット。

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「相手カウンターの起点読んでたけど振り切られた。あと頼むわ」のネット。

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「パス引っかかった。もう戻れないぜ」と嘆くネット。

どうだろうか。ちなみに私が検証する限り、明らかに自身のミスでボールを失った自覚があるときは、それなりに戻っていることが確認された。怪我を抱えたままプレーすることで思い通りに身体が動いてくれない。これは間違いない事実であり、そういった想いも彼のフラストレーションを生む原因になっているようだ。

【仮説②】彼の理想と周囲が噛み合わず、フラストレーションを抱えるのでないか

これは一見するとネットが他のメンバーより段違いに優れていて、残りのメンバーが物足りないとも受け取れる発想だが、決してそんなことはない。例えば話題となったこのシーン。

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ネットとしたら、小林にはワンタッチでフリーのシャビエルに叩いて欲しかった(※赤線)はずである(彼のしぐさを見ている限り)。これはネットの長所でもあり短所でもあるのだが、自陣のリスキーなエリアでも、縦に通せると判断すれば躊躇することはない。そこには彼の性格的な部分も起因しているし、自身の技術に相当な自信があるからこそだろう。ボールを持つ佇まいを見ても、そもそも相手に奪われるなんてこれっぽっちも思っていないのがネットだ。逆に小林はその点堅実な選手だ。自陣でリスクを冒すことはまずない。このシーンも小林はボールを受ける前に間違いなくシャビエルの存在を確認しているが、パスコースに対する相手の配置を考慮し「戻す ※②」選択をした。どちらが良い悪いという話でもない。こういった感覚の違い、選択の違いは試合を重ねながら刷り合わせていくしかない。なんでシャビエルにださないんだ小林とはネットの心の声。

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一試合に一回程度発生する「〝味方未確認″やっちまったノールックパス」である。ちなみにこの場面、ネットは確信を持ったように力強いパスで、誰もいないエリアにパスをしてボールを奪われる。このシーン、何度も見返したのだが、おそらくネットとすれば「俺がこの位置にいるときは味方はここにいるだろう」と、彼なりの確信をもってパスコースを選択しているように見えた。要は玉田の位置は、ネットにとって「平行」であるべきなのだ。

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 このシーンは、ジョーの横側に生まれたバイタルのスペースを使いたかったシーン。玉田にパスをしたネットは、ジョーの前に立つ浦和DFに向かって走り出す。彼としたら、玉田からワンツーで再びパスを貰い(※赤線)、ジョーからマーカーをつりだすことで、このバイタルのエリア(青色掛)でジョーをフリーにさせたかったのではないか。風間八宏の言葉を借りれば、ネットは目の前にいるこの浦和選手(個)を「壊しにかかっている」わけである。ただ結果的に玉田は小林へのパス(※②)を選択。予想通りうなだれるネット。

ちなみに浦和戦はこれらのプレーで集中力が切れたのか、その後のボールロストのシーンで奪われた相手選手を思いっきり蹴飛ばしイエローカード。「あいつの集中力がキレるのはしょうがないんでね」と悟った風間八宏は、すぐにネットを交代する決断をした。

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最後は話題になった「中谷突き飛ばしシーン」。御存じない方のために説明すると、このシーンで玉田からパスを受けたネットは、小林へのパスを相手にカットされカウンターのきっかけを作る張本人に。相手シュートをかろうじてランゲラックがセーブし事なきを得たものの、そのミスを強く言及した中谷にぶち切れたネットは、試合中にもかかわらず中谷の元へ突進。その後胸ぐらをど突くという信じられない行動をすることになる。盛り上がる瑞穂を一瞬で騒然とさせる千両役者ぶりに名古屋サポーターは震え上がった。

ただこの場面、確かにネットの状況は芳しいものではなかった。試合後に金井もコメントしていたが、まず金井のポジショニングが高いことで彼へのパスコースが死んでいる。本来は小林と平行な位置(※青掛エリア、ポジション)にいれば、場合によってはネット得意の左足アウトサイドで左に展開できた可能性はある。またこの場面の前段階で玉田にパスを付けた中谷も足が止まっており、相手選手に隠れてしまっている。ネットに対してしっかり顔を出すポジションを取ろうとしていれば(※赤線、青掛エリア)、ネットなら浮き球のパスで(レーンを飛ばして)、右サイドに展開していたかもしれない。

ネットは唯我独尊、孤高の存在である。誰よりもプライドが高く、基本的には「自分が正しい」世界を生きている(多分)。それ故、彼が納得できない理由で自身が責められるのは、彼のプライドが許さない。全く褒められた行為ではないが、何故あのときネットは中谷に喰ってかかったのかと考えると、それしかないのである。こういった側面もまた、彼の試合に対するモチベーションを左右していることは間違いないだろう。

ネットが名古屋にもたらしたもの

ここまで読み進めると、ネットよ何と扱いづらい選手なんだ、腫れ者じゃないかとなってしまうわけだが、いや、やはりネットは素晴らしい選手だ。中断期間後、チームがこれほどまでに変貌した理由の一つに、間違いなくネットの存在は挙げられる。

まずなにより彼がチームにもたらしたものは「パウサ(小休止)」だ。

先日発売されたナンバーで、イニエスタが日本のサッカーについてこんな発言をしていた。

スピードとテクニックがある一方で感じたのは、ゲームの中にパウサがないってことだ

パウサとは一体何を意味するのか。もう少し読み進めてみる。

Jリーグは良い意味でも悪い意味でも、前へあくまでも攻撃を続ける展開になることが多い。それは試合としては魅力的かもしれない。(中略)ただ、一定のリズムで攻め続けるのはリスクも伴う

この点は前半戦における名古屋の戦い方が顕著だっただろう。

陣形が整っていないにもかかわらず、ボールを奪えばすぐに前進しようとして相手に引っかかる。結果としてショートカウンターを受ける。また試合展開も行ったり来たりで「必要のない」走行距離が伸びる。要は「走る質が悪い」。それで潰れかけていたのが小林裕紀だ。最大の特徴であるオフェンス時における潤滑油の役目を果たすことが出来ず、守備に忙殺された小林は気づけばスタメンの座を奪われていた。

ネットが加入し、なにより変化があったのがこの時間の使い方である。

彼は全く慌てない。「走らない」と言ってしまえばこれまでに挙げた場面が頭をよぎってしまうが、彼は急ぐ必要がない時は「走らないことでチームを落ち着かせる」ことも出来る。例えば陣形が整っていない時、残り数分でハーフタイムを迎えるとき。その場面の状況、時間帯を考えながらゲームをコントロールする術がある。

日本人は良くも悪くも真面目だ。ボールを奪えばまずゴールを目指す。その刷り込みがゲーム展開を否応なく速くする。逆にネットはブラジル人らしい一面を覗かせる。「90分あるんだから、この状況ならゆっくりボールまわしておけばいいだろ」、こういった発想が出来る。簡単なようで、意外と日本人選手が苦手としている部分である。そう判断した時のネットはとにかく走らない。歩きながらボールを受けてはリターンする。そろそろ行けるなと思えば、急に動物的な動きで「外す」動きを混ぜつつビルドアップを開始する。

これによって名古屋の攻撃には緩急が生まれた。セットして攻撃を始めるときは、ネットを中心に後方でゆっくりボールを回しつつ、各選手が自身のエリアで高いポジションを取ってから攻撃が始まる。だから仮にボールを奪われても、相手陣地内で人数をかけてボールを奪い返す動作にチームとして入れる。案の定というべきだろうか。昨シーズン同様、ボールが落ち着くポイントが後方に出来ると、コンビを組む小林裕紀は輝きを取り戻す。主役になりきれないのが惜しいが、彼は名古屋一の「名脇役」だ。主演男優賞にはなれなくとも、助演男優賞なら相手役に恵まれれば狙うことも可能な男。また彼が面白いのは、脇役とはいうものの、リスクが取れるエリアでプレーさせてこそ輝ける特徴を兼ね備えていること。器用なので後ろに置きたくもなるが、彼こそ放し飼いにした方が面白い。その意味で、ネットと小林のコンビは良い組み合わせと言えるだろう。

そんなネットにしても、いざ攻撃のスイッチが入ると、高いポジションで決定的な仕事が出来るのも彼ならではの魅力。こんなエロいパス、おそらく名古屋でやる勇気があるのはネットだけだ。

あとは「ネットの100%」が見たい

 これほどまでの選手が何故獲得出来たのか。川崎側の事情やサポーターの意見は当然あるはず。そもそも大卒のスーパールーキー、守田の存在なくしてこの移籍劇は生まれなかっただろう。諸々の事情があり、チームには彼の穴を埋められる若手選手も育ってきている。あまりに突然のことで川崎側としても準備不足だった感は否めないものの、結果的にネットはチームの構想外、放出すべき選手となった。

ではその守田に比べてそもそもネットが劣っていたのか。私はそうは思わない。個人的には、川崎、名古屋それぞれの事情に加え、鬼木、風間両監督がチームにどんな選手を求めたか。その点が上手く噛み合ったからこそのネット移籍劇であったと考える。それは両者にとって選手としての実力だけではなく、パーソナルな部分も含めたトータルでの判断。少なくとも名古屋を率いる風間監督が選手に求めるものは「それぞれの100%をピッチの上で発揮してほしい」である。止める蹴る外す。この3大原則さえベースにあれば、あとはピッチを何色にでも染め上げて良し。それが風間八宏のサッカーだ。

だからこそ選手に100%を求める。当然である。それを遺憾なく発揮してもらうためにピッチは白紙の状態にしてあるのだから。その意味で、この7連勝は決してフロックではなかった。それぞれが持てる力を100%発揮した。そんな環境でやれているからこそ、選手達自身がなによりサッカーを楽しんでいるのが伝わった。だからサポーターも楽しいに決まっているのだ。好きな人が楽しそうにしていたら誰だって嬉しいだろう。

その点ネットがどうだったか。これまで見てきた通り、まだまだ試合を楽しんでいるように思えない。それは彼自身100%の力が発揮できていないからだ。無難な色に染まる必要はない。ネットはネットのまま、このチームでの居場所、100%の力を発揮出来る環境を積極的に作っていくべきだ。その点、川崎時代もチームメイトはかなり苦労したようである。「ネットが合わせる」のではなく、「ネットに合わせる」必要があったためだ。ネットの100%を引き出すためには何が必要だろうか。これからチームメイト達は、その難解な課題と向き合いながらさらなる高みを目指していくこととなる。

どうやら彼の怪我は今シーズンずっと付き合う必要があるようだ。誰よりも彼自身が苦悩を抱えながらピッチに立っているだろう。ただ私たちは彼が楽しんでサッカーをしている姿が見たい。比較的優等生揃いの名古屋に突如として現れたやんちゃ坊主。ブラジルの大エース、ジョーさんが走ってても気にも留めない王様、それがネット。面白い。

憂鬱な月曜の朝を生きるネットより、早く飲み屋に繰り出したいとウキウキした金曜夕方気分なネットに出逢いたい。そんなサラリーマン的な楽しみがあってもいいではないか。

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※このブログで使用している画像は、名古屋グランパス公式サイト、DAZNから引用したものです