みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

【レイアウト命】第四回 vsマリノス

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川崎のベースとなっているのは、ボールを回す際の流動性の高さだろう。勿論優れたスタイルで、日本ではとても上手く機能しているが、他の国では少し厳しいように思える。ピッチの横幅を上手く活用できる選手がいないし、ウイングプレーヤーもいないからだ

さて、2017シーズン限りで横浜Fマリノスの監督を退任したエリクモンバエルツは、当時の川崎のスタイル、つまり色濃く残る風間八宏のスタイルに対してこう苦言を呈したことは記憶に新しいところです。

何故今更ながらこのコメントをぶり返すのか。喧嘩を売りたいわけではございません。次節の対戦相手である横浜と我々名古屋は、似て非なる、目的は同じでも「手段(プロセス)」の異なる、非常に興味深いカードです。

横浜といえば、既に彼らの代名詞でもある「ポジショナルプレー」という言葉を、皆さんも一度くらい聞いたことがあるかもしれません。難しいですよね。私も色々考えたんですけどね、これは難しいよ(諦め)。この言葉をどう解釈するか、何をもって正しいとするかは難しい。ここで教科書っぽく説明をしても仕方ないので、「名古屋との違い」を私の解釈ですが書いていきましょう。

結局、目的は同じ「相手を動かしたい」

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実は結論は同じだと考えます。トメルケールそしてハズースも、ポジショナルプレーも、やりたいことは「ボールをこねくりまわしたい」のではなく、「相手を主体的に動かしたい」。風間監督の言葉を拝借すれば、「相手を操りたい」と表現しても良いでしょう。ここで一つポイントとして、相手を操るためには、当然のことながら受け身ではいけません。また闇雲にボールを蹴っていても仕方ないと。なのでまず大前提として、「ボール」を支配したい。ここは我々も同じ。ではもう一つ、邪魔をする「敵」を支配するために、彼らはどんな手段を取るのか。どうやって相手を動かすのか。この解釈が名古屋との決定的な違いです。

日本一ほんわかしたポジショナルプレー談義

ここからは、日本一詳細ではないけれど、日本一優しいポジショナルプレートークをしていきます。話を戻しますと、横浜の選手達は「選手が立つ位置」をもって、相手を操作しようとします。どういうことか。順序立てて深掘りします。

【その①】スーパーマーケット理論

上手い例えではありませんが、スーパーマーケットって良く出来ていますよね(唐突)。あれはお店側からすれば「入口(スタート)」から「出口(ゴール)」までに、いかに来店客に多くの商品を買ってもらえるかが勝負です。つまり目的は客単価を上げること(客数の話は本筋と逸れるので割愛)。そのために、入口から計画立てて商品を陳列します。このエリアには野菜を置こう、ここには果物を並べて、イチゴの近くには練乳だこの野郎と。目的(客単価を上げる)を果たすために、その相手を研究し、行動パターンを考慮して戦略的に什器を配置し、商品を陳列する。客単価を上げるために「買い物客を誘惑し、誘導する」わけです。

対してフットボールはどうでしょうか。目的は単純です。「相手より一点でも多くゴールを決めること」。つまり「いかにして相手ゴールまでボールを運ぶか」が目的を果たすためには必要になる。そして当然ながらその足枷となるのは「邪魔をする相手」です。

先ほど唐突にスーパーマーケットの話をしたのは、私が妻に連れ回されてうんざりしているわけではなく、「相手を惹きつける(引きつける)効果」と「全体の配置(レイアウト)をもって相手をコントロール(誘導)する」点が、見方によっては似ているなと感じたからです。

横浜の選手達がやっていることって、スーパーマーケットでいう商品棚のようなものです(ちがう)。しかも「動く商品棚」(ちがう)。残念ながらサッカーの試合はボールも相手も常に動いていて止められませんから、その前提で邪魔をする相手を避けなければなりません。

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横浜の選手達は、「その瞬間」「その状況」ごとで、ピッチ上のレイアウトを各選手が「立ち位置」となって変えてきます。邪魔をしようとする相手選手に「あれ?おれこの選手について行くべき?あれ?こっち?」なんて誘惑することで、相手を「意図して」動かしていく。それって能動的ですよね。決して受動的ではない。これが上手くいくと、いわゆる芋づる式なんです。最初の一人が喰いつけば、「シメシメあそこで守っていた邪魔な野郎がいなくなった。じゃあ元々あいつがいた陣地、俺が貰ったも同然ウシシシシ(悪だくみするときの我が娘風)」と。そうやって相手を一枚コントロール出来ると、当然次に悪だくみした選手を相手は掴まえようとしますから、自ずと次の場所も空いてくる。そうやって「じゃあ俺も!」「じゃあ俺も!」と次から次へと釣られたスペースを横浜に使われ、結果として相手は「どうぞどうぞ」とそのスペースを譲ることになる。相手からすれば、意図せずして生まれたダチョウ倶楽部不可逆の流れ。

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対する名古屋のトメルケールそしてハズース。正直レイアウトには拘ってないんですよね。むしろ「置いてある商品それ自体を磨けば配置なんぞ関係ないから」の精神。配置ではなく、「商品そのもの」に徹底的に拘ってるのが風間八宏。「出したら寄れ」ですものね。それこそスーパーマーケット的には、美味いものガンガンお客の前に固めて並べて全部買わせるみたいな。それでどれだけ動線が狭くなろうが通れればいいじゃんと。普通大きな敷地(ピッチ)があれば、当然什器は広く取るじゃないですか。動線は広い方が歩き易い。わざわざ針の穴を通す必要なんてないんです。ただ風間監督は敷地の広さに拘っていません。だからこそ「異端扱い」されます。当然です、お店には所狭しと什器を配置するのが当たり前で、お店の一部しか使わないって考えたら異端児も異端児でしょう(この例えを上手くまとめた感)。

【その②】立ち位置で得られるものはスペースである

この話の流れで分かることは、彼らにとって「敵」を支配することはあくまで手段であり、真の目的は「スペース」を支配すること。つまり自分達が使いたいスペースを、「立ち位置」によって相手を動かすことで得ていると。面白いのは、この発想は決してボールに直接的に関与していなくても問題ないことです。以前に書いたカフェ理論と同じ。目の前に美人なお姉さんが座ったら、貴方は一切関係なくともその場から動かないでしょう。少なくとも私は絶対に動きません(きっぱり)。これをサッカー好きの間では「ピン留め」なんて洒落乙に言ったりしますが、個人的には「釘づけ」でも良いと思う(だって素敵やん?)。こういった「人が人を惹きつける(引きつける)動き」は、例えばボールのある局面と反対サイドでも可能なわけです。そうやってピッチ上いっぱいに罠を張り巡らせて、意図的に自分達が使えるスペースを生み出していくと。こういうカラクリが、ピッチ上のあらゆる場所で起きています。

【その③】スペースを支配するためには風間理論も必要

ではスペースを作り出した際に次に必要な要素は。それはそのスペースを「認知」すること、そのスペースに正確なパスを送り込むこと、またはそのパスを無駄なく次の場所に展開していく技術です。これ、まさに風間監督と理論上は同じ。彼の場合、そのトータルでのスピードを「目の速さ」と表現しますが、実はその点求められることは同じです。例えばテレビゲームだとこの部分は簡単。指先一つで思い通りにボールは届く。ただ実際にやるのは人間ですから、ここが面白い。ある程度「立ち位置」は仕込めても、この「目の速さ」だけは簡単に仕込めない。だから風間監督の場合は後者にとことん拘って指導しているわけです(前者は何処へ)。

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ちなみに認知という点でいえば、天野はスペースを見つけて「そろり...そぉおろり」と嫌らしいタイミング、嫌らしい場所に侵入してきますから要注意。目を逸らしてると消えますよ。天野だと思ったら広瀬だったみたいな展開はマズイ。

【その④】目的がゴールなら、優先順位は「遠>近」

名古屋でもよくある話を一つしておきます。「遠くが見えない」というケース。つまりある程度近くなら認知できるものの、ゴールに早く到達出来る「遠くの」スペースが認知出来ない。もしくは認知出来たとしても、そこに正確にボールを届ける技量がないというケースもあります。まさに先ほどの風間理論に通ずる話です。そりゃ高い山を登る際に、近道出来るならそれを選びたいじゃないですか。ただ楽するためには、相応の技量が必要なわけです。

ただ横浜にはズルい奴が一人います。

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最近では代表にも選出された畠中。右利きですが、左のセンターバックを主に担当しています。彼、右利きのこのポジションでは、ボール出しは国内トップクラス。あれはあえて左に置いてるフシもありますね。右のチアゴから来たボールをずばっ!と縦に入れます。待ち構える姿勢がいい。常に縦に送り込めるボディアングルで、パスの精度、スピードも申し分ない。振りが速いのと、よく遠くが見えているので、わりとダイレクトでずばっ!と入れてくるケースも多い。それ出来ちゃうと相手は困ります。当たり前ですよね、一気にピンチですから。

【その⑤】ヨメカイヒプレー

ここまでずっと攻撃の話です。「なんだやっぱそれなりに風間じゃん」そう思った人もいるのでは?いや、実は「守備」も含めてのポジショナルプレーです。どういうことか。

私は親近感を覚えるんです。これは普段わたしが駆使する「ヨメカイヒプレー」と同じ構造なのではないか。例えば今年の初め、私は覚悟を決めてシーズンチケットを買いたいと嫁に伝えた。ただこんな大勝負に普通無策で突っ込みますか?いろんな言い訳、応用を準備します。

  1. 「高い!」→「今年はダイナミックプライシング!」
  2. 「全部行けんやろ!」→「リセール誕生した奇跡!」
  3. 「それでも毎試合買え!」→「去年からチケット争奪戦ハンパねーから!」

どうよこれ、言い訳だけはペラペラ出てきますわ。

つまりですね、攻撃しながらも、応酬にあっても己をガード出来るように予防線を張っておくわけです。サッカーでいえば、いつ何時非常事態が起きても困らないように、攻めながらも各々がすぐに身を守れるようなポジション(立ち位置)を意識しておく。

代表的な例として、よく「偽サイドバック」って言いますよね。当然です。言い訳を考えてる時点でそんなものは偽物の私。本物の私は「ハッハッハ、早くシーチケにGoだせや」って思ってます。一世一代の勝負をするということは、すなわちいつもの数倍以上で反撃を喰らう可能性がある。ただサッカーにはそんな我々の願いを叶える奇跡のレーンが存在します。「ここに立てば攻め落とす為に効果的で、しかも死に直結する嫁カウンターをダイレクトで受けるリスクも軽減出来る」そんな表裏一体な場所が!!それを知ったらそりゃそこに立ちますよ。私だって攻めつつ守りたい。そんな奇跡のレーンを世間が「ハーフスペース」と呼ぶのなら、私は潔く偽物にだってなりましょう。ペップ、見つけてくれてありがとう。

これ風間監督の場合は発想が面白くて、「攻めきれば相手の反撃なぞ所詮捨て台詞程度だろう」なんです。攻め落とせば、そこからの反撃なぞ大したことない。その心を真面目に解説すると、つまりある程度攻めきることで結果として相手のバランスは崩れるはずで、そこから反撃されたところで効果的な攻撃など生まれるはずがない、すぐに回収出来るという算段です。「攻め落とす前提」なんですよ恐ろしい。まさに超ロマン派。その点、横浜は手堅く現実的。

【まとめ】組み合わさるとこうなります

....あれ....これはカオス....。

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譲る前に潰すか、そもそも譲る状況を作らない

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先程の話ですが、当然誰しもがダチョウ倶楽部的な予定調和は勘弁願いたい。ここで生まれた対策が二つ。一つは「ズレが生じる前に潰す」プラン。つまり最初のボールの出所である横浜のセンターバックやアンカー(喜田)に思考を削ぐほどの圧倒的なスピードと圧力でプレスをかける。ここで好きにやらせるとボールが前に進むほどに状況は深刻化しますから(この考え方がポイント)、なら最初の芽が出そうな段階で狩り取ってしまえと。これを実装したのが第三節の川崎フロンターレ。流石ですね、もはや彼らは「狩り取るチーム」です。第四節の相手、大分に至ってはまさに「vs横浜Ver.」で対抗。この横浜の肥後ちゃん大作戦(ちがう)に、「好き勝手レイアウト変えようが、結局はセンターバック二枚と中盤の三枚にしっかり人当てとけばオタク困るやろ」と。案の定、実際に困ってしまったわけです。横浜は0対2の敗戦。

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またもう一つの策が「そもそも引いて構えてれば(無理に奪いに行かなければ)ズレることもない。我々のブロックに侵入して来たら潰すのみ」プラン。長いですね、「引いて構えて潰す」プランです。これが第五節の鳥栖。終盤、横浜は惜しいチャンスを作りましたが、トータルで見れば鳥栖のプランがそれなりにハマった試合でした。特にゴールに直結するエリアである「中央」。この中央を締めるために、最前線の豊田陽平が死ぬほど走ってました。横浜のサッカーってそれはもう緻密に設計されていますから、ある意味でカオスとは対極なんです。つまり非常にロジカルにサッカーが展開されると。そこで行き詰まると割と八方塞がりになる。だからこそそれを自ら破壊する「バグ」を起こせる存在(例えばメッシとか...ハッ!!久保くんさん)がいると面白いわけですが、そこは彼らにとっての課題なんでしょう。ちなみに我々に鳥栖の戦い方は真似出来ません。

当然、名古屋は「譲る前に潰します」

では名古屋はどういった戦い方を選択するでしょうか。答えは一つしかございません。

「譲る前に潰す」。つまり、「前から潰す」。

端的に言えば、札幌戦の再現を目指すと。横浜の陣地でサッカーをする、ボールを奪いきる。それを90分間どこまで徹底出来るか。おそらくそれが実現できないと、我々も浦和のように無残に砕け散るでしょう。あれはvs横浜という観点でいえば、最悪の試合展開でした。中途半端に詰める、外されるの連続で前からはハメれない、かといって引いて構えるでもない。また最終ラインを押し上げてコンパクトな陣形を保てているかと言えば、それもヒヨって上げきれない。よって「前から奪いたいのに基準点が見出せない前線」と、「ハマらない前線の煽りを受けて加勢できない最終ライン」の間にどうしようもないスペースが生まれました。ちなみに今は前から潰してくる対戦相手を考慮して、ゴールキーパーも飯倉から元FC琉球のパギさんに変更。足元の巧みさでは、彼と大分の高木が国内では双璧でしょうか。もう一人のビルドアップの仲間として、また前が空けば彼は躊躇なく打ち込んできます。正確無比なボールを。厄介です。

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実は今年の開幕戦を観ていく中で、「このチームには勝てるイメージが湧かねえな...ハハハ」と個人的にお手上げだったのが横浜です。これまで書いた通り、上手くハマってくれないともはや無抵抗状態になってしまう、つまり相手を無効化してしまうようなサッカーであることが一つ。そしてここが大きなポイントですが、ビルドアップの入口ないしは出口となる中盤三枚が固まったこと。特に三好の加入ですね。天野も含めて、インサイドハーフに優秀な才能が揃った点が何より大きいだろうと。実際に、浦和は彼らインサイドハーフに広大なスペースを明け渡したことが何よりの敗因だった。名古屋との試合に関しても、見るべきポイントは、

  • 相手のビルドアップの発信基地を阻害出来ているか
  • インサイドハーフに時間とスペースを与えていないか

この二点だけ注目していれば、ある程度名古屋のその日のバロメーターというか、チームが上手く機能しているか理解出来るはずです。

「繋ぐ」横浜「奪う」名古屋の噛み合わせ

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さて、これで最後です。横浜戦といえば、実は我々にとっての最高のサンプルは、昨年豊田スタジアムで対峙した際のあの試合が、何よりの教材だったりします。あの試合はそれはもう擦り切れるほど見直しました。前半、全くといっていいほどこの「前からハメる」名古屋のスタイルが噛み合わなかった苦い記憶。動く商品棚にヨダレを垂らして近づけばそれによって空けてしまったスペースを活用され、ほぼなす術なく振り回されたわけです。ハチ!元気か!

スタイルは見事に噛み合うんです。繋ぎたい横浜、奪いたい名古屋。ただそれが今回上手くいくかは分かりません(知らん)。無責任?いや、時々「◯◯攻略法」とか「◯◯にはこう対抗しろ」って謳い文句ありますよね。でも私たちは分析官でもないし、実際に選手に指示出来るわけではありません。無意味とまでは言いませんが、結局やるのは現場の選手達で、その選手達を動かすのは監督やコーチ陣ですから。私たちが楽しむべきは、「どのポイントを抑えて試合を楽しむか」です。その意味でいえば、間違いなく名古屋と横浜の対戦は、「横浜のビルドアップvs名古屋の超ハイプレス」のマッチアップだと。おそらくここで主導権を握れれば、勝てない相手ではございません。その結果としてボールさえ握れれば、今の名古屋はその点Jでもトップクラスの技術を持ち合わせていると考えて良いでしょう。ボールさえ保持出来れば、おそらくそう簡単には奪われません。

さて、そろそろ終わりに致します。そろり...そぉおろり!!!