みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

皆で掴み取った『新たな歴史』

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

何故いつも彼のもとにボールが転がっていくのだろう。

まだ勝ち得ていなかったルヴァン杯のタイトルを決定づけたのは、やはり稲垣祥の右足〝一閃〟。

〝たまたま〟いい所にいる?いや誤解してはいけない。

彼は、自身が最も得意とするシチュエーションと、その局面になれば必ず『空き』、そして『点が獲れるスポット』を理解した上で、そこに誰よりも全力で走り込む。

それにしても毎度ここぞの場面で稲垣なのは何故か。

名古屋が『相手を押し込む』スタイルなら、彼がここまで点を獲ることはきっとなかった。そもそも走り込むスペースがないからだ。一方でマッシモフィッカデンティのスタイルならどうだろう。相手が攻め込んでくるのはむしろ都合が良い。手薄になった相手陣地の隙を突き、快速を飛ばしカウンターを仕掛ける名古屋の前線。一方で必死に戻る相手最終ライン。この攻防で間延びするのは相手の陣形だ。相手ゴールに迫る名古屋のスピードに、背後から遅れて(ここがミソ)、しかし誰よりも速く追ってくるのが稲垣祥。サボらず走りきれば、自身が結果的にフリーでゴール前に進入出来ることを彼は(感覚的にではなく)論理的によく分かっている。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

そう、この展開になると、誰も稲垣祥に追いつけない。

決勝の地、埼玉スタジアムで改めて分かったこと。それは、誰よりも速く、そして誰よりも走り切った者の足もとへボールは導かれるという『必然』である。

前田直輝の先制点もまさに試合のキーポイントだった。

前半が終わった段階で、名古屋側で最も危惧する点があったとすれば、それは清武弘嗣の投入だろう。名古屋の守備網を打破するべく、ピッチを広く使うセレッソ。足りない点があるとすれば、その広げた『隙間(間)』で仕事ができる選手だった。案の定、清武が投入された後半早々、しかしセットプレーから名古屋が先制。これにより長澤を投入し、木本をアンカーに配置することで4バックの隙間を(3人のボランチで)埋めることに成功した名古屋。セレッソが描いたプランは崩れ始めた。

そして生まれた稲垣祥の得点。大勢は、決した。

試合後のインタビュー。見事この試合でMVPに輝いた稲垣が口にしたのは、意外にも『絶望』なる言葉だった。

自分たちはこの二週間、絶望のような時間を過ごしてきて、だけど苦しい中で全員が戦い抜いて、そしてファミリーの皆さんも本当に最後まで熱い応援を頂いて、力になりました

この二週間といえば、ACLの敗退、そしてつい先日の天皇杯敗退が重なった週だ。もしルヴァン杯も落とせば、『たった二週間』で全てを失う可能性すらあったのだ。

苦しかったのは選手たちも同じだと、その時知った。

migiright8.hatenablog.com

ただ、選手同様この日のスタジアムは戦っていた。

バックスタンドに陣取って観ていたが、ゴール裏から発信される太鼓の音に合わせ、見渡す限りの人が全力でその手を叩いた。選手たちに『音』という声を届けた。

誤解を恐れずにいえば、この日のスタジアムにはゴール裏とそれ以外などという概念は存在しなかった。スタジアムに集った多くのグランパスファミリーが、やれることを必死にやっていたからだ。なんだかその様子が、スタジアムに(来たくとも)来れなかった人たちの想いも背負うかのようで、頼もしい、その一言だった。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

試合前に会った知人がこう言っていたことを思い出す。

勝ち負けも大事だけれど、この一日を楽しもう

私はこのブログを書くことで、誰かを感動させたり、泣かせたりしたいわけじゃない。そんな力はない。

泣けるのは、勝った瞬間、あの時間だけでいい。皆で共に闘い、そして勝った先に残るのは、『楽しかった』『最高だった』そんな想いではないだろうか。その証拠に、埼玉スタジアムを後にするグランパスファミリーの顔は、一様に明るく、笑顔に溢れたものだった。そこに涙はなかった。だからこのブログも、良い思い出を振り返るきっかけになれたら、もうそれで充分だ。

2018年の瑞穂で残留が決まった瞬間とちょっと重なりました。4年間苦しかったけど、ようやくこういう場所に立てて、しかもタイトルを獲れたというのは感慨深いものがありました。苦しかった時期が長かったですし、ほかの取材でも「名古屋のサポーターの方々はその苦しさを長いこと味わっている」と言ったと思うんですけど、そういった方のためにタイトルを獲るという想いが自分の中にあったので、それを達成できてすごくうれしいです

中谷進之介カップを掲げる姿が見れて良かった。苦楽を共にした彼らが『タイトル』で報われて良かった。

11年振りに手に入れたタイトル。俺達は歴史を作った。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]