みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

夢、現実、混乱の果てに

試合終了のホイッスルが鳴り、隣にいた友人は呟いた。

『さあ毎朝ソワソワする日常が明日から始まるぞ』

悲喜交々な最終節も終わった今、皆さんどうお過ごしか。私はといえば、徳島ヴォルティス降格の現実を未だ嘆く日々。チームを語る際によく言われる『積み上げ』は、もちろん選手個人にも存在するわけで、降格したら一家離散みたいな展開は本当に悔しくそして悲しい。

さて、名古屋グランパスである。

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主力を死ぬほど酷使し全コンペティション生き残っていたかと思えば、気づけば全滅もあり得る展開には言葉を失いかけたが、どうにかこうにかクラブ史上初のルヴァン杯をゲット。降格後の5年間を振り返れば、道は険しくもよくぞここまで辿り着いたと感慨もひとしおだ。

とはいえ、今季最もインパクトがあった出来事がそれかといえば、今となっては最終節前に堕とされたこのニュースこそが最大級の破壊力だったことは否めない。

nagoya-grampus.jp

降格後の5年間を彼抜きで語れるはずもない。

オフになれば『さて大森先生のお眼鏡に適ったのは何処の誰だ』と興味津々。かと思えば俺たち私たちの玉様と喧嘩別れ。『風間さんは最高や!』と言ってたはずが『アイツが全ての元凶や!』と切り捨てる。『いや待てジョーだってそう言ってた!』、そうかそうか、で今ジョーとはどうなった....?善人なのか悪人なのか。彼のことを好きになり嫌いになり、一種の中毒の如く、我々は彼の一挙手一投足を追いかけた。そんな存在だった。

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しかし別れは突然で、彼はひっそりと姿を消した。

そう、予兆はあったのだ。クラブ内部に異変が起きている、そう受け取るには十分なシグナルが既にあった。

迎えた12月4日の最終節は試合前から騒々しかった。

契約に関して書類上の問題などを考えていくと、来年も続けるというすごく強い気持ちで自分がいるのは当然です。契約があるからただいるということではなくて、去年も今年も、2019年に残留を確定したあとも、ずっと同じような感覚で、小西社長をはじめ、クラブ側とそういった感覚で話している内容は、とにかくプロジェクトがどうあるのか。クラブはこうしたい、それに合わせて、だからあなたを監督として呼んでいて、こういうことをやってもらいたいと。そういうプロジェクトの部分がズレてきたり、チームと一体になっていないと監督という仕事はできないので、その部分に関して同じ温度を持てているかということがより大事です。「来年も残るんですか?」という質問に対しては、「残るはずです」くらいの感覚で答えなければいけないのはあるかもしれません

明らかにフロントを牽制するマッシモ。マスコミを利用した場外乱闘は本場イタリア仕込みの得意技である。

対するフロントのトップである小西社長。シーズン終了後のスピーチでは、もはや毎度お馴染みとなった来季の監督発表があるのだろうと誰もが耳を傾けた。

今年のリーグの順位が5位で確定いたしました。でも本当に選手たち、マッシモ監督が率いるこのチームは、手前味噌ですがよくやってくれたと思っています。どうか拍手をお願いします。

拍子抜けするほど歯切れの悪いスピーチに、多くの者が首を傾げた。普段の饒舌さが仇となり、これは何かあるぞと思わせるには十分な『らしくなさ』だったからだ。

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そのスピーチを引き継いだマッシモは牽制を続けた。

昨日の会見で少し触れましたが、私は来季もやるものだと思っている。そういう気持ちでいます。それが口約束だけではなくて、どういった仕事をしなければいけないかを理解した上で、本気で、全力で取り組むつもりでいます。そういったものが口約束ではなく、現実的にここから数日の間にすべてのことがはっきりして、サッカーをすることに集中できることを望んでいます

親会社の超大物である豊田章男の名をだし、彼のお墨付きも得ていると主張した彼は、同時に何度も『口約束』という言葉を発した。クラブはそう言ったのだと、マスコミを使い、スタジアムでも発することでこの事実を公に晒し、この『口約束』を絶対に破ってはならない『約束』に昇華すべく強化を図ったのだ。

しかし、やはりというべきか、両者は決裂した。

www.sponichi.co.jp

hochi.news

クラブ経営陣がルヴァン杯優勝後に約束した23年までの契約延長オファーをここに来て白紙撤回。両者の関係に亀裂が入った(スポニチ

契約期間の延長や強化方針、年俸など条件面で交渉が決裂した(スポーツ報知)

クラブがマッシモに不義理をした。いやマッシモががめつく高額な年俸を要求した。理由を挙げだせばキリがない。何故、両者は決裂した。真実は不明だ。誰がどんな意図で情報をリークしているかで悪者は自ずと決まる。

但し、一点だけ引っかかった部分がある。

なぜクラブサイドは『複数年契約』を嫌ったのか。

この点に関して、大森征之の退任と、現GMである山口素弘の存在を無視して解釈することは出来ないだろう。

風間八宏の解任以降、クラブは目先の結果を追い続けた。マッシモの緊急登板に始まり、高額年俸選手の獲得に偏った起用法。『若手』の抜擢には消極的で、頭角を表した成瀬竣平ですらシーズン終盤は出番を失った。気づけばユース組以外の新卒加入もないのが当然、『新陳代謝をするなら金』になっていたことは否めない。

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一方の山口素弘、彼の主戦場は『アカデミー』だ。

2018年から3年間アカデミーダイレクターを務め(2020年は執行役員フットボール統括との兼務)、その期間中、U-18は二冠を達成。彼らが大学に進学後も、ことあるごとに『ウォッチし続ける』と明言してきたことはグランパスを追う者なら周知の事実だ。アカデミーに目を移せば、風間なき後も主体的なフットボールは今なお健在。言葉を選んで『トップとは若干スタイルが違いますものね』と私が問えば、ユースウォッチャーのある方には『いや、若干ではなく全く違います』と遠慮なく返されるくらいには大きな溝がある。そこで育った選手たちを放流した後にクラブへ戻す。その受け皿としてトップチームが機能していたかは、ユース卒でストレート昇格を果たした選手たちの今を見れば一目瞭然だ。

つまりだ。本来クラブが目指したい未来と、今目の前で起きている現実は、おそらく大きく乖離していた。

何故それが起きてしまったのかはもやは闇の中だ。

しかし、そのターニングポイントが2019年夏の風間八宏解任劇にあったであろうこともまた想像に難くない。

ここで重要なインタビューを一つ取り上げる。

www.footballista.jp

この中谷進之介の記事は、ルヴァン杯決勝前にインタビューされたものだと記事には記されている。

有料記事なので内容には言及出来ないが、これほどまでに風間〜マッシモ期の5年間を赤裸々に語った内容は初めてだった。今となってはこのインタビューも重要な5年間の『証言』であり、名古屋を応援する者は必読だ。

さて、大森征之とマッシモが残したものは一体何か。

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それはこの世界で生き残るための『結果』への執念ではないか。残留、ACL出場権獲得、そしてクラブ初のタイトル。毎年目に見える『結果』を残してきた点でマッシモと大森征之は間違いなく『功労者』だ。しかし、それを捨ててでもクラブは大きく舵を切った。タイトルを獲ったオフに、契約交渉が拗れて縁を切る前代未聞の結末を迎えたわけだ。本人が続けたいと口にして尚。

金遣いが荒く、若手も使わず、不必要な選手は干す。

これから我々が進む道は、金を使わず、若手を使い、選手を(可能な限り)平等に扱う世界だ。一方で、『ロマンだけでは立ち行かない』悲しい事実こそ我々がこの5年間で学んだ現実でもある。だからこそ、このリーグでの実績とある程度の結果が担保でき、また今回のお家騒動でも緊急登板できる人材として長谷川健太に白羽の矢が立った文脈は、少なくともこの5年で起きた不可解な人事の数々に比べればおよそ理解できる範疇である。

但し、この結末が正しかったは誰にも分からない。

『ロマン』か『現実』か。『未来』か『現在(いま)』か。『強いチーム』か『勝てるチーム』か。

皮肉にも、現在のベストセラー本である『嫌われた監督 著:鈴木忠平』は、中日ドラゴンズ元監督の落合博満を題材とした、まさにこのテーマを存分に盛り込んだ内容となっているから面白い。我々が歩む道は、更なる常勝への道だろうか、或いは混迷への序章なのか。

勝負事は勝たなくちゃだめだということなんだ。強いチームじゃなく、勝てるチームをつくるよ

勝てば客は来る。たとえグッズか何かをくれたって、毎日負けている球団を観に行くか?俺なら負ける試合は観に行かない

あの日、落合博満が語っていた台詞の数々を聞けば、名古屋グランパスを去った大森征之とマッシモフィッカデンティはきっとその通りだと声を揃えるだろう。一方で『何故、勝つことが大事なのか』、この意味を問われたとき、彼らは果たして何と答えるだろうか。自分のため?それとも、選手たちのため?何故ルヴァン杯を制したクラブに亀裂が入ったのか。クラブ内部の問題なのか、ピッチ上にも問題があったのか。それが分かるには、きっとまだ時間が必要なのだろう。

とはいえ、彼らはこのクラブに大きな『宿題』を残して去っていった。『お前たちは果たして勝てるチームを作れるのか』と。我々のクラブは、それを携え自ら新たな道を歩むことを決めたのだ。たとえ醜態を晒してでも。

その決断に、『未来』はあるか。