みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

『魂を揺さぶる』フットボール

記事にして形として残したい。

今季のサガン鳥栖はそれに値するチームだった。いや、「だった」のに露出が少なすぎる。知る人ぞ知るチームで終わった感は否めず、理由はともあれ立役者の金明輝氏もクラブを去った。また、なにせ幕切れの理由が理由なだけに消化不良な感も否めず。きっと鳥栖愛する人達の記憶の中だけで生きていくんだ、そう思うと『ちょっと待てだったら俺が記事にする』と謎のモチベーションが発生。形にしてこのチームの足跡を残すのだ。

前年からの流れは下記参照、今季のみフォーカスする。

migiright8.hatenablog.com

まず衝撃的だったのが第二節の浦和戦。


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つつ強い....!!そしてなんだこの難解な戦術は。目まぐるしく変わる選手達の配置。私は試合を食い入るように観た。それほどの衝撃がこの日の鳥栖にはあったのだ。

そもそも試合前からして監督会見のインパクトな。


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お口がジャックナイフすぎる金明輝。一言でまとめると『リカルドあいつそんな大したことない』と言い切ってしまうその漢気(ちがう)。そのくせ多分徳島時代からチェックしてた感もありこのツンデレめ。最高だ!

そこから破竹の勢いで駆け上がった鳥栖

初めて知人とzoom観戦したのが第7節アウェーのC大阪戦。こりゃ無敗しかも無失点の勢いで川崎フロンターレと頂上決戦やとタカ括ってたら空気を読まず遂に敗戦。そして待ちに待った川崎戦。緊迫した試合でやっちまったのが田代雅也(57分に赤紙)。ダミアンクラスがJ2に10人いれば止めれたな(いねーよ)。金で殴る奴嫌い。


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続いて第10節の名古屋戦。ここまで10試合無敗で開幕戦以降は9試合連続無失点。J1に紛れ込んだこのイタリアのクラブを止めるのはどこだ。そうだ川崎フロンターレだ!と誰もが無敗同士の『矛対盾』を期待する中、なぜか名古屋を粉砕するサガン鳥栖。お前らマジで空気読めや。名古屋が苦手とするフラットな4-4-2を急に敷いた鳥栖を観て、金明輝アンタは鬼だと強く思った。

しかし、悲しいかなここから異変が起こり始める。

8月2日に松岡大起が清水エスパルスに電撃移籍。

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このあたりから何が何だか分からなくなっていたが、松岡のコメントには(多分)全鳥栖サポが泣いた。シーズン前、中盤のキーマンだった原川力セレッソ大阪に移籍し、これはアカンと思っていた中盤で『心臓』となったのが松岡だ。パスを捌きカウンターの芽を潰し。あれで20歳は年齢詐称。いつか名古屋に拉致したいが今は清水で頑張って欲しい。大丈夫、鳥栖には林大地がいる。

迎えた8月8日、林大地が笑顔でシントトロに海外移籍。

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いなくなるの早っ!おいマジか大地よ。名古屋に来いよ。正直(私は)そう思いつつもオリンピックで一旗あげた彼の活躍を誰もが喜び、海外で成功しろと背中を押した。パンゾーのPodcastで披露された『オリンピック期間中に夢生くん(金崎夢生)から電話貰ったんですよー。「おまえ久保とか堂安にビビってんじゃねーよ』って怒られちゃいましたー』のエピソードには不覚にも声出して笑った。すげえ言いそう目に浮かぶ。

さあエースが飛び立ってしまったぞと不安に駆られる中、獅子奮迅の活躍をした一人が酒井宣福


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ていうかなぜ毎度名古屋戦で火を吹くのか。兄譲りなごりっごりのフィジカルと労を惜しまないプレッシング。酒井はマッシモに恨みはないはずだが明輝の敵(かたき)とばかりに全力でぶん殴るその姿勢(明輝の敵かは不明)。派手に暴れたので名古屋は金で殴り返した。

その後、月日は経ち、川崎との再戦がやってきた。

謙虚にガードオブオナーで『王者』を出迎えた鳥栖陣営。この光景には賛否両論あるようだが、『迎える側の礼儀作法は試合も含めてワンセットだ』と、拍手をする鳥栖の面々はどうやら猫をかぶっていたようである。

バッコバコに王者を殴り倒す目を疑うような掌返し。


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その先陣を切ったのがシーズン途中でやってきた岩崎悠人。ゴールを決め全速力で金明輝監督のもとに駆け寄った彼の姿に、多くの人達が心動かされたに違いない。

うれしかったですよ。なかなか、みんな来てくれないので(笑)。冗談ですけど

一周回ってとんでもないブラックジョークをお見舞いする明輝監督(いやそんな意図はない)。でもいい光景だった。今季の鳥栖のハイライトはあのシーンだよ。

それにしてもだ。岩崎悠人然り、酒井宣福や中野嘉大もそう。もっといえば仙頭啓矢にも言えることだが、他クラブで出番を失っていた者たちが何故ここまで躍動する。どうしてここまで力を発揮できる。

われわれの選手はみんな、そうですよ。どこかで何かを勝ち得て来たというよりは何かを探しに鳥栖に来たという表現のほうが合っていると思います。そういう選手にきっかけ、気づきを与えて、もう一つ上のレベルでプレーさせてあげられるように。そういう評価で他チームからオファーが来るとかこのチームで価値を高めるとかそういったものがわれわれはできるクラブだと思っているので、そういった部分で岩崎も結果を残してくれて、ノリ(酒井宣福)もそうですし、小屋松も簡単なPKではなかったですし、三者三様、みんながんばってくれたと思います

国内のフットボールにも新たな波が押し寄せている。

それを牽引するのは言うまでもなく川崎フロンターレであり、それに続こうとライバルクラブもあの手この手でグローバル化に躍起だ。横浜F・マリノスのようにフロントの在り方にメスを入れるクラブもあれば、スペイン人監督を連れてくるクラブも増えている。一方で、国内の絶対的王者に君臨し続けた鹿島アントラーズが苦しむ姿は、まさしく国内のレベルが次のフェーズに突入したことを意味している。どのクラブもフットボールがロジカルなものになりつつあるのは間違いない。

サッカー自体がより戦術的でロジカルになっている。それを言語化して選手に伝え、同じ絵を描けないと、攻守で後手に回ってしまう時代だと思います(引用元:エルゴラッソIssue2540 金明輝)

ただ、今季のサガン鳥栖にはそれ以上の魅力があった。

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ボール保持はロジカルでありながら、そこにはゴールに向かう躍動感や圧倒的なスピード感も存在した。相手がボールを持てば牙を剥いたように襲いかかる圧力があった。そして何より、そのフットボールを通してどの選手からも『個性』を感じることが出来た。

鳥栖は戦術的にはっきり、細かく、決まりごとがある。逆に言えば、それさえできてしまえば、自分のプレーに集中できるという良さがあるかなと思います(第35節vs川崎フロンターレ戦後 岩崎悠人)

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鳥栖のサッカーは複雑なように見えるかもしれないですけど、自分たちがやっていることは難しいものではなくて。技術がしっかりしてないと難しいんですけど、やることは明確で、シンプルなサッカーなんです。どうやってボールを奪い、ゴールを決めて、ゴールを守るかにすごくフォーカスしたチーム

そう、鳥栖フットボールは一見すると非常に複雑だ。非保持になれば最終ラインは3〜5枚まで状況によって変化し、ひとたびボールを保持すれば最終ラインにいた選手が両翼の高い位置に駆け上がる。外にいた選手は一列中に立ちレシーバーとなり、中央で絞って守る相手を撹乱する。左右を比較しても、複数人が複雑に絡み合う左サイドに対して、右サイドの構成は至ってシンプルなケースが多い。ビルドアップに目を向ければ相手によって立ち位置が以下様にも変わり、あの手この手でフリーな味方を生んでいく。書いているだけで複雑ではないか。

ただ、酒井の言葉のように、本来の目的は『どうやってボールを奪い、ゴールを決めて、ゴールを守るか』これだけだ。明確な目的があり、そこに対する手段の提示もある。絶対に破っていけない掟はハードワークを怠ることであり、その前提と戦術理解さえあれば、あとは金明輝監督が『個性』に応じそれぞれの場所に配置する。

多少足りないものがあったとしても、僕らのゲームモデルの中で生かす。チームとして彼らのウイークを隠し、ストロングを出せるようにすれば大丈夫なんじゃないかと

だからこそ躍動した。そこに一切の迷いがないからだ。

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川崎が圧倒的な強さで独走する今のJ1。だからこそ、このリーグのレベルを更にもう一段上げるには『彼らと正面から対峙し叩き潰すことが出来るクラブ』の出現が必要ではないか。その候補に十分なりうる存在、それが今季のサガン鳥栖だった。セリエAで旋風を巻き起こすアタランタや、或いはブンデスリーガに新たな文化を持ち込んだライプツィヒのように。それほどの衝撃だった。

今回の一連の騒動に関し肯定する気持ちは一切ない。

ただ、だからといって今季彼らがピッチ上で魅せたあのフットボールまで否定され記憶から消されてしまうなら私は大声でこう言いたい。『今季のサガン鳥栖は、金明輝監督が作り上げたこのチームは最高だった』と。

私が知っている事実は、唯一それだけだ。

こう言うと、グランパスサポーターじゃないんですか?と問われることがあるが、そういう問題ではない。

良いものには素直に良いと伝えたい。他サポだろうが何だろうが、胸躍ればその衝動に従い、『アイツらめちゃくちゃ良いぞ!』って言わせて欲しい。だからこそ、このチームが道半ばでリスタートとなってしまった事実が悔しく、もどかしいからこうして書いているのだ。

監督が去り、チームは解体され、サガン鳥栖はまたも窮地に立たされている。『個人的には今年が一番の難局だと覚悟していた』金明輝監督がこう評したシーズンを乗り越えて尚、何故試練は続くのかと嘆きたくもなる。

しかし、それでもこのクラブに残り続ける魂はある。

金明輝が去っても、選手達が去っても、このクラブのために戦う者たちが多くいることを忘れないで。終わってない。このクラブに関わる全ての者が、バトンを繋ごう。折れるな、サガン鳥栖。下を向くな、サガン鳥栖

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選手の能力を引き出し、伸ばしながら、選手が楽しさも覚えてくれる。ただ、その中でも観る人たちの魂を揺さぶるようなサッカーをしたい

鳥栖がもう一つ上のステージに上がるためにも、サポーターの方々がサッカーを文化にしてほしい。結果を大事にしながらも、そのプロセスや中身にも目を向けて選手たちを評価してくれるようなところに辿り着くときがくれば、サポーターの方々がもっとチームを強くできると思っています。〝質を見る〟ということです

(引用元:エルゴラッソIssue2540 金明輝)

忘れるな。刻み込め、この言葉を。そして前に進め。