みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

サガン鳥栖「過小評価」は妥当か

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佐藤寿人も、そして中村憲剛も注目するクラブ。

名古屋グランパスが次節対戦する相手、サガン鳥栖フットボールが界隈で評判だ。まだ観たことがない人、それは損といえる。おそらく初見なら度肝を抜かれるだろう。正直にいって、世間の注目度は低い(その証拠に、鳥栖に関する記事がない)。不祥事に始まり、選手の大量離脱。シーズン前の評判が散々なのも仕方なかった。

しかし、蓋を開ければ今季の鳥栖もやはり面白い。

では、何が面白いのか。その理由は、週末に控える名古屋とのマッチプレビューを通して紐解いていきたい。

 

鳥栖のビルドアップにどう立ち向かうか

まず、なにより注目したいのが鳥栖陣地での攻防だ。

鳥栖のビルドアップにどう対峙するか。この点は、今季どの対戦相手にとっても重要なテーマとなる。

カギとなるのは、彼らが自陣で作る『6+2』の陣形。

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まず『6』。これは、対戦相手のプレッシングに対峙する鳥栖の面々を指している。ゴールキーパー朴一圭に始まり、スリーバックの中央を務めるファンソッコ、左右のストッパーである島川俊郎ジエゴ、そして両ボランチの福田晃斗と小泉慶。彼らのミッションは、ボールを動かすことで相手のプレスに〝ズレ〟を生み出すことだ。ちなみに、さらっと朴一圭の名を加えたが、彼は従来イメージする〝最後尾の逃げ道〟ではない。相手のプレス枚数によって彼が最終ラインの〝列〟に加わり、鳥栖のビルドアップの形は如何様にも変化する。

その集団に加勢するのが、『+2』にあたる両シャドー、菊地泰智と堀米勇輝。前述の6枚が相手のプレスを揺さぶり、そこで生まれた盤面の〝スペース〟にひっそりと侵入する。つまり、彼らがビルドアップの〝出口役〟だ。この2枚へのアプローチが遅れたら最後、彼らを起点に自陣からの脱出を図るのが鳥栖の狙いである。

よって、今対戦でまず注目したいのが名古屋の出方だ。

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ビルドアップを試みる鳥栖の選手たちに、果たしてどう対峙するか。前から捕まえるか、或いは、分が悪いと諦めて撤退するか。仮に前から行くのなら、誰が誰を牽制し、そして捕まえにいくか注目したい。盤面の構図さえ理解出来れば、そのプレスがハマっているか、逆にどこから水が漏れているか、一目瞭然で理解出来るはずだ。

特に、鳥栖の『+2』にあたる菊地と堀米の監視役。このタスクを誰が担うかが、一つポイントになるだろう。

彼らのポジショニングは秀逸だ。スペースを見つけそこに潜り込むだけでなく、チームとして打開の糸口を探る際は、あえてサイドの低い位置に降りることもある。

この意図は、鳥栖のビルドアップの構造で理解できる。大きな特徴が、朴一圭を最終ラインに含めることで、両ストッパー(ジエゴや島川)が外に張り出すこと。彼らがボールを持てば、相手(特に対面の選手)はオープンな状況を避けるため、当然ながらプレスをかけたい。ここで、サポートに入る鳥栖ボランチ(小泉や福田)に加え、もう一つ相手が見るべき標的(堀米や菊地)を作ることで、トライアングルを形成するのだ。彼らのコンビネーションで局面を打開することもあれば、その立ち位置によって相手の足を止め、ストッパーが自由にパスを出したりボールを持ち運ぶこともある。ここは重要なポイントだが、結果として鳥栖の両ストッパーに時間の猶予を与えた時、試合は鳥栖のペースとなる。

では、いっそ捨て身で人数をかけボール奪取を狙うか。

ただ、憎いことに鳥栖にはもう一つ武器があるのだ。それが、両翼に位置する飯野七聖と岩崎悠人。本来、彼らは〝ウイングバック(守備になれば最終ラインに戻る役割)〟だが、ひとたび攻撃に転じれば、〝ウイング〟となり、むしろ最前線でボールを待ち構える役目を担う。

データは嘘をつかない、を地で行くサガン鳥栖

鳥栖がデザインするビルドアップは実に巧妙で、これほど自陣に人数をかけても、相手ゴールを狙える勝算がある。その根拠が、彼ら二人だ。つまり、自陣の攻防から抜け出しさえすれば、あとは彼らが快速を飛ばし、一気に相手を置き去りにすればいい。誘い込み、出し抜いたら一気に突き放す。これが鳥栖のビルドアップである。

よって、4バックで対峙する名古屋とすれば、この両翼にはもちろん吉田豊宮原和也で対抗したい。両センターバック鳥栖のワントップを監視するとして、ゴールキーパーのランゲラックを除外すると。鳥栖のビルドアップに対峙出来るのは残った6枚。だからこそ、余ってしまう鳥栖の『+2』をどうするかが問題なのだ。

では、ここは潔く撤退!撤退せよ!これでどうだ。

 

鳥栖のランダムなサイドアタックをどう止めるか

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昨年までの名古屋よ再び、とした方が伝わるだろうか。

つまり、ある程度は鳥栖に(名古屋陣地に)押し込まれる状況を受け入れたとする。その場合、鳥栖の攻撃は当然ながら遅攻となるが、では、それが彼らにとって不得手なシチュエーションかといえば、実はそうでもない。

今季の鳥栖、もう一つの驚きが〝サイドアタック〟だ。

相手陣地で鳥栖が狙うのは、中央よりむしろサイドの局面となる。ベースは3枚、右ならウインガーの飯野、シャドーの菊地、そしてボランチの福田。左も同様の構造で、岩崎、堀米、小泉でトライアングルを形成する。彼らが形を変えながらボールを動かし、いわゆる相手ペナルティエリアの角(ポケット、でも良い)を虎視眈々と狙う。相手最終ラインに歪み(スペース)が生まれれば、ウインガーならダイアゴナル(斜め)に、ボランチなら後方からスプリントをかける。なにより厄介なのは、突撃してくる選手が〝ランダム〟であることだ。

そこに拍車をかけるのが、後方に控える両ストッパー。

状況次第で、同サイドのストッパー(例えば、左サイドならジエゴ)もこの輪に加わり、トライアングルからダイヤモンドに変形するのだ。つまり、ここでも『+1』が発生する。その場合、崩しの局面に大外からストッパーがスプリントをかけてくる手段も加わることとなる。

当然それだけ人数をかければ即時奪回の準備も万全。相手がボールを奪えば瞬く間にプレスの波が襲うだろう。

この発想は、ある意味で前半のパートと同様だ。

今季の鳥栖は、圧倒的な〝個〟が存在しない。しかし、そのスカッドを逆手に取るように、どの局面でも〝数的優位〟を生み出す緻密な設計が施されている。また、全てのポジションには明確なタスクがあり、それをこなせる能力(その能力を活かすためのタスク、ともいえる)を備えた選手たちでチームは構成される。

例えば、飯野や岩崎はその典型だ。度を超えたハードなタスクは彼らだからこそこなせるし、見方を変えれば、彼らの武器をチームとして見事に取り込んでいる。彼らのスプリント力がどうすれば活きるか。当然ながら、走るスペースを意図して作ることだ。或いは、チームが苦しいとき、岩崎がサイドから力づくでボールを前進させる。遅攻となれば、〝新たな44番〟堀米が躍動する。チームにリズムを、時に変化を加えながら、ゴール前では豊富なアイデアを発揮し、飯野や岩崎を〝斜め〟にゴールへ向かわせる。爆発的なスピード、加速力をもって。

その点、鳥栖は何も変わらない。継続、がある。

今いる選手たちの個性を組込み、だからこそデザインは明らかにリニューアルしている。しかし、基盤としてあるのは〝圧倒的な運動量〟。限られた戦力でどう強者に立ち向かう。走るのだ。彼らの走りには、意味がある。

その姿勢こそ、常に変わらない鳥栖らしさなのだろう。

 

サイドの攻防を制するのはどちらだ

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さて、サイドをどちらが制するか。ここは注目だ。

まずは名古屋。開幕戦の相手となったヴィッセル神戸は、ウインガータイプの選手が皆無だった。したがって、名古屋の武器である両ウインガーマテウスと相馬勇紀は高い位置に張り出し、今季のテーマである〝ファストブレイク〟を何度も繰り出した。

守備の仕方を見てもらえればわかると思うんですけど、相馬とマテちゃんの位置が去年よりも高いと思いますし、サイドバックの横まで降りて6バックのような形で守ることもほとんどなかったですから。その意味で、出て行くという作業は彼らもすごく楽になると思いますし、その出て行く距離が短くなったぶん、ファストブレイクは鋭くなっていくんじゃないかなと思います

(引用:2/21 中谷進之介レーニング後コメント)

快速サイドアタッカーに高い位置を取らせる利点。これは、名古屋も鳥栖も同様だ。つまり〝速く攻めたいなら〟低い位置より高い位置でスタートさせた方が、相手を置き去りにできる可能性は高い。また、奪った際(鳥栖の場合は〝ボールを運べた際〟)に仕掛けの準備が出来ていれば、〝高い位置で〟〝且つスタートダッシュも決められる〟わけで、相手より速くゴールに到達できるのは言うまでもない。昨年の名古屋は、目指している理想に対し、どうにもこの点で矛盾を孕んでいた印象だ。

ただ、問題はこれを鳥栖相手に継続出来るのか。

一方の鳥栖。なんの因果か、彼らもまた、名古屋のようなチームを相手にするのは今季初。つまり、サイドアタッカーを配備した相手と対峙した経験がない。攻撃時に取る彼らのリスクマネジメントは、リベロのファンソッコと、ボールサイドの逆側に位置するストッパーを1枚残し、同じく逆側のボランチが中央でバランスを取る3枚残し。では、そこに同数で、酒井宣福、仙頭啓矢、そして名古屋のウインガーが残っていたらどうだろうか。

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ここからは、個人的見解を述べていきたい。

名古屋が試合のイニシアチブを取るには、可能な限り鳥栖陣地寄り(ミドルサードまで)でプレーすべきだと考える。いかに鳥栖の選手たちへ圧力をかけ、〝思考する時間〟を奪えるか。これがキモではないだろうか。

改めて、なぜ彼らが自陣で知恵と労力を惜しまないか考える必要がある。馬力のある選手をサイドに置く意味は。つまり〝相手陣地〟にボールを運びたいのだ。それさえ果たせれば、彼らにはゴールを奪う術も、ボールを取り返す術もある。彼らがプレーしたいエリアは、結局のところ〝相手陣地〟であることを念頭に置くべきだ。よって、名古屋はプレス時に発生する個々のタスクを明確にする必要がある。鳥栖に気持ちよくプレーさせてはならないし、息つく暇を与えるなどもってのほか。ボールを運びたいチームが、最も嫌がることはなにか。〝奪われそうだ〟そんな圧を感じさせることではないか。それが、結局のところ彼らの体力、そして自信をも奪う。

この負のサイクルを、過去に名古屋も味わったはずだ。

 

継続、しかし〝進化〟の過程にある両チーム

昨年の鳥栖は、嫌らしいチームだった。

一見すると、その派手な攻撃が目立ってはいたものの、それ以上に彼らのベースは〝奪う〟ことにあり、相手によってプレッシングの構造に変更を加えるのも日常茶飯事。非常にしたたかなチーム、そんな印象だった。

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ただ、今季の彼らは違う。より自分たちにフォーカスしたチームだと言っていい。よって、彼らは〝奪う〟こと以上に〝運ぶ〟ことに注力している印象を受ける。

前節の湘南ベルマーレ戦で起きたミスも、動画だけみれば朴一圭の致命的なミスと糾弾されて終わりだろう。

ただ、試合展開を振り返れば、後半からプレッシングを整備した湘南に手を焼いていたのがなによりの問題で、故に、見方を変えれば苦し紛れにバックパスをする状況が招いたミスだったと言い換えることも可能なのだ。

前半のようにうまくいかなくなったこと。そこはあまり悲観していなくて、おそらくまだメンタリティーのところが慣れていない。われわれとの1点差を取り返そうと、湘南さんも非常にアグレッシブに来ました。ただ、われわれが少し受け身になったなと感じています。そこのメンタリティーのところをしっかり整理してあげたいなと思っています

(引用:2/26 湘南戦後 川井健太監督会見)

選手達が相手の圧力に屈してしまう。試合展開によって個々のパフォーマンスやメンタルにバラツキが生じる。

今季の鳥栖を、〝自分たちにフォーカスしたチームだ〟と評したのは、なんだかこの現象に、いつかの名古屋の面影や懐かしさを感じるからかもしれない。余計なお世話だが、鳥栖サポーターの皆さんには、是非この〝積み上げる過程〟を楽しんで欲しい。選手たちが四苦八苦しながら何かを作り上げる様は、それだけで最高だ。

まああの日の名古屋はピッチ上に地図すらなかったが。

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さて、我々名古屋グランパスは言うまでもなく〝奪う〟チームだ。ただ、新たな指揮官、長谷川健太監督は、昨年のマッシモフィッカデンティ以上に強気。奪ってからどう攻めるかにフォーカスし、人数をかけることも厭わない。僅かなようで、その小さくない変化が、面白い。

見ている人が熱い気持ちになるような、熱いサッカーをしよう

(引用:サッカーダイジェスト2022年4/1号)

ただ、次節のサガン鳥栖戦でこそ彼の真価が問われる。

〝奪うこと〟そして〝ファストブレイク〟。彼がテーマとする二本の柱は、まさにこの試合で試されることとなるだろう。鳥栖のようなクラブを叩き潰してこそ、長谷川健太ここにあり、と改めて証明できるはずだ。

両者、新たな監督にバトンは渡った。その進化をみよ。