みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

驚きと、喜びと。「ワシが帰ってきた!」

札幌戦は延期でも、名古屋の週末はこれで終わらなかった。

本当に帰ってきたよワシ。

新加入選手のリリースより盛り上がる名古屋界隈。

ネットの加入により、シーズン途中で急遽グランパスから去ることとなったワシ。サポーターは彼に「ありがとう」と伝えることも、「ワ・シン・トン!」とお得意のコールをすることも出来ぬまま突然の別れは訪れた。仕方ない。中断期間中である。とはいえ昇格の功労者であり、サポーターのアイドルだった男との別れ方としては、それはやはり寂しさの残るものだった。

昇格を狙う助っ人してはあまりに無名だった男

ワシントン。彼が名古屋にきたとき、ここまで愛される選手になると誰が予想出来ただろうか。彼に期待していたサポーターがどれだけいただろうか。失礼な表現だと百も承知であえて書くが、正直同時期に加入したフェリペの「バーター的存在」だと思っていたサポーターもいたでしょう。いや、サポーターは悪くない。ブラジルから彼らを連れてきた張本人である大森先生が悪い。シーズン前、大森先生は彼等を獲得した理由をこう説明した。

フェリペについて。「いつ中国に引き抜かれるか心配」。

もう一人のブラジル人シャルレスについて。「彼の加入は本当に大きい」。

そしてワシントン。「中盤でプレーが可能です」

どうですかこのバーター感(何度も申し訳ない)。このキャッチーさのかけらもない選手紹介。明らかにフェリペに本腰入れてた感満載の謳い文句。

これに拍車をかけたのがユーチューブ動画。

あれは選手の売り込み用においしい場面だけ抽出し、現実を理想に変換する秘密兵器ではないのでしょうか。嘘でもいいからもっと特徴が分かる動画が欲しい。それくらい淡々と中盤でプレーするワシントンの姿がそこにはあった。分かりやすい特徴は皆無だったと言ってもいい。

私達にとって初めてのJ2がスタートし、迎えた第2節、豊田スタジアムでのFC岐阜戦が彼の日本デビューだった。風間八宏の洗礼とも言える前半早々での交代劇により、ベンチに退いたのは小林裕紀。そして遂にピッチに登場し、その姿を現したワシントン。

その後のファーストプレーは衝撃的だった。

中盤のミスが許されないエリアで攻める方向とは正反対、明後日の方向へキックミスをしたワシントン。「ぇぇぇええええ!!!」なんだそのミスはワシントン。呆気にとられるサポーターの気持ちなど何処吹く風。やっちまったと首を傾げ、明後日の方向に飛んでいくボールを必死で追いかける彼の足がまた遅いんだ。「なあぁぁぁぁぁ!!!」これはやっちまったと俯き加減になる私。

大森先生いや大森さんよ。フェリペ獲得のために掴まされたな俺の目は節穴じゃないぞ(三度失礼)。試合後、重い足取りで豊田スタジアムから駅に向かったあの日のことは忘れない。

そう、おそらくだが、ワシと風間八宏の相性は決して良いものではなかった。なにより足もとの技術と広い視野、正確なパスに広い守備範囲が求められる風間八宏のサッカーと、ワシが持つ圧倒的なフィジカル能力は悲しいほどに正反対。いつまでも交わることはないだろう、あのときはそう思えた。

ワシにしかなかった才能

ただワシはこれで終わらなかった。彼には誰にも負けない類まれな才能がいくつもあった。

それは到底ブラジル人とは思えないほどの謙虚さと、並み居るブラジル人を凌ぐほどの明るさ、そして日本人よりも日本人らしい思いやりの心だった。

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まず彼のファンサービス。あれほどサポーターに距離を感じさせない選手はいただろうか。屈託のない笑顔と底抜けの明るさとはワシのための言葉である。彼と触れ合えば、ひとたびサポーターは彼の虜になった。例えば遠くから大声で声をかけたり、他の選手だったら少々恥ずかしい気持ちにもなりそうな握手をする行為も、彼となら何の躊躇いもなくその手を差しだすことができた。何より彼と接すれば、そこには笑顔と笑い声が常に絶えなかった。太陽のような男だった。

そして彼は誰よりも謙虚に振る舞った。

気づけば風間監督から、そして仲間達から、彼の練習に対する姿勢に感嘆する声が聞こえるようになった。ワシを見ていると自分ももっと上手くなれるんじゃないか。彼の姿に、名古屋のレジェンドである玉田圭司は素直に賞賛の言葉を口にした。

気づけば彼は中盤だけではなく、ときにセンターバックもこなすオールラウンドなプレーヤーとして、このチームでの地位を確立していく。皮肉なことに彼より期待されてこのチームに加入したシャルレスは、風間八宏のサッカーに馴染めず、この年の夏頃には名古屋を去っている。今思えば、チームに想定外のことが起こった際、常にこのチームを支えたのはワシだった。

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また時を同じくして、その後名古屋のエースとなるシャビエルが加入する。

どちらかというと内向的で、日本人のような繊細なイメージを抱かせる彼を救ったのもまたワシである。ブラジル人トリオの兄貴分として、シャビエルがこのチーム、そして日本という国に馴染めるよう常に寄り添ったのは他でもないワシである。このときはまだ知る由もないが、その翌年、ブラジル国内におけるスーパースターであるジョーが名古屋に加入することとなる。そんなジョーを歓迎し、チームとの仲介役となったのもワシ。そしてワシの存在に助けられ、感謝していたシャビエルも今度はジョーを最大限サポートしようとそれに続いた。これは私の勝手な想いだが、ジョーが加入したタイミングでシャビエルしかこのチームにいなければ、ジョーがここまでスムーズに馴染むことはなかっただろう。ワシの存在感は絶大だった。

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ワシがいなければ名古屋の昇格はなかった

2017シーズンも終盤に差し掛かり、一年での昇格を目標としていた名古屋は、かろうじて3位に滑り込むことに成功する。自動昇格こそ逃したものの、もう一つの昇格枠を4チームによるプレーオフで争うこととなった。

初戦のジェフユナイテッド千葉には、チームの絶対的エースであるラリベイ。第二戦目となったアビスパ福岡には、J2屈指のエアバトラーであるウェリントン。名古屋の前に立ちはだかるのは、どちらも屈強で、高さにも絶対的な自信を誇る二人のストライカーだった。

そしてここでも獅子奮迅の活躍で名古屋のゴール前に君臨したのがワシである。

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 中盤でプレーが出来るとの触れ込みで名古屋にやってきた男は、昇格がかかるこの大一番の二試合において、センターバックの一角として相手の攻撃を跳ね返し続けた。

特に目覚ましい活躍だったのが第二戦、決勝戦となるアビスパ福岡戦だ。

戦前の予想で懸念されたのは、ウェリントンに放り込まれるであろうロングボールへの対応だった。このシーズン、名古屋にはいわゆる純正のセンターバックがほとんどいなかった。いや、厳密に言えば「放出してしまった」。彼に次々と放り込まれるロングボールに対抗できる手段が名古屋にあるだろうか。

風間八宏が指名したのはワシだった。

決して砕かれることのない岩のような恵まれた体格を持つワシは、90分間ウェリントンと対等に渡り合った。ボールを持てば中盤の選手のように落ち着いてボールを捌き、相手がボールを持てば名古屋の防波堤の如く身体を投げ出し続けた。

初めて豊田スタジアムで見たワシの姿はそこにはなく、風間八宏のサッカーに適応し、もはやチームに欠かすことが出来ないワシの姿がそこにはあった。プレーオフの殊勲者は間違いなくワシだった。

彼がいなければ、名古屋のJ1昇格は絶対になかった。

日本に帰ってきたワシに心からのエールを

冒頭の話に戻る。気づけばたった一年で名古屋のアイドルとなったワシとの別れは突然だった。ただ今やジョーとシャビエルは名古屋の二枚看板であり、田口泰士が移籍し、一向に軸が定まらない中盤の強化としてネットが加入。層の薄いセンターバックに「左利き」という希少価値を持ったホッシャがいることを考えれば、ワシが外れるのはやむを得ない選択であったことは確かだ。

「日本でプレーしたい」

ワシの言葉、その想いが痛いほど伝わり、彼と食事を共にするシャビエルやジョーとの写真がなんだか寂しげに見えた。

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ただワシは帰ってきた。J2の舞台、今度はレノファ山口だ。

決して器用な選手ではない。小回りが利いて、快足を飛ばすような選手でもない。時々とんでもないミスをするし、顔を覆いたくなるような場面もあるだろう。

それでも彼ほどチームを大切に出来る、チームを前向きにさせる力を持った選手はいない。ときには中盤で気の利いたプレーを、ときには最終ラインで絶対に当たり負けすることのないボディコンタクトをもってチームを助けるに違いない。

なにより「あの」風間八宏が使い続けた男である。それはJ1の舞台でも変わることはなかった。風間八宏にとって、ワシは「頼りになる男」だった。

きっと山口のサポーターにも愛されるだろう。そして名古屋のサポーターは彼に会うために遠く山口まで遠征する。これだけ愛された選手がこれからも日本でプレーする姿が見られる。それだけで名古屋サポーターは幸せなのである。

在籍期間は約一年半と短いものだった。ただ彼の名古屋での姿、残した功績を忘れる者はいないだろう。全くの無名な助っ人として名古屋の地に降り立った男は、一からの再起を図ったこのチームにおいて、その象徴のような選手となるまでに成長した。彼が歩んだ道のりは、名古屋が歩んだ道のりそのものだった。そして山口でまた新たな道を歩んでいく。

夫が映る電光掲示板をいつも嬉しそうに撮影していた奥様も、なんだかいつも気怠そうにイヤホンを耳に当て、眠そうに母親の肩にもたれかかっていたワシにそっくりな息子君も、また日本での生活を楽しんで欲しい。

本当に良かった。その一言に尽きる。本当に良かった。

このニュースを知り、誰よりも喜んだのは他でもない、貴方が大切に、大切に想い続けたグランパスサポーターだったんだよ。

そして名古屋にいたとき以上に山口のサポーターに愛され、J1初昇格の原動力となることを、名古屋から多くのサポーターが願っています。

 

※このブログで使用している画像は名古屋グランパス公式サイトから引用しております