みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

シーズンを共に戦うということ

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「J2は魔境だ」

今節も各会場では昇格候補と呼ばれるチームの敗戦が相次ぎました。

  • 熊本 3-1 新潟
  • 横浜FC 0-4 金沢
  • 岡山 0-1 愛媛
  • 大分 4-0 千葉

J1に目を向ければ、昨年のACL王者である浦和レッズが開幕5試合を終えたこのタイミングで堀監督を解任する決断をしました。また浦和と共にこのリーグを引っ張ってきたガンバ大阪も、開幕以来未だ勝利を掴み取ることが出来ません。

そして我らがグランパスも今節アウェーでの鳥栖戦、2点リードから3点奪われ大逆転負けという目を覆いたくなるような結果で敗戦を喫しました。

SNSを見れば一部とはいえ公式のアカウント宛にこの敗戦を厳しく非難する声があがり、また一個人の選手に向けた批判も集まりました。「一つの敗戦も許さない」確かにプロの世界で行われていることですからそれも仕方ありません。当然批判をすることが悪だとは言えないでしょう。

これは名古屋に限った話ではなく、現在J1、J2、どちらのカテゴリーでも苦労しているチームがいくつかあります。一から作り直している過程で結果がついてこないチーム、昨年から継続しているにも関わらず良くなる兆しが見えないチーム。あらゆる場所で似たような議論は起きています。

ただ私達はどうしても目先の勝敗に一喜一憂してしまいます。当然です。応援するチームにはいつも勝ってほしい。無様な試合など見たくはない。勝利こそが最大の喜びだというのはどのサポーターも同じでしょう。負けて嬉しいサポーターなどいません。またスタジアムに行くとなればお金も必要ですし、遠征となればかかる費用も安いものではありません。興業としてお金を払って見に行く以上、それに見合うだけの価値を提供するべきだという考えも尊重出来ます。その分かりやすい価値こそが応援するチームが勝つことなのです。

このように目の前にある試合の勝敗が何より優先される人、それとは違う視点で試合の結果を受け止める人。同じ試合でも受け取り方は様々なのです。

初めてのJ2。信じられないような敗戦を繰り返した名古屋

一つのデータがあります。下記は昨シーズンの名古屋のデータです。

  • 第11節~第33節 9勝3分10敗
  • 第34節~第42節 7勝1分1敗

序盤戦こそ順調に勝利を重ねていた名古屋でしたが、シーズン1/4を超えたあたりから黒星がかさみ始めます。夏にシャビエルや新井という後に中心メンバーになる攻守の核となる選手が加入し、足りなかったピースが埋まった8月は怒涛の快進撃。しかしそこへの相手の対策が始まった9月前半~中盤は再度苦戦。そこを乗り越えたのが第34節対東京V戦。陣形も固まり、そこから最終節まで走り切ったというシーズンでした。

後に風間監督はこのシーズンを自らの著書「伝わる技術 」でこのように振り返りました。

実は開幕前から、残り10試合でどこにいられるか、あるいは自分達が自信を持っていられるか、それによって結果は決まると考えていました。リーグというのは、年間を通してどのように成長していくかが重要で、チームの最後の姿に自分達がこの一年で何をしてきたかが現れます。もちろん一試合一試合すべて大切な試合で、前の試合より進化する必要がある。それでも、最後に良い姿でいるために、たとえ最初に上手くいかなくても一喜一憂するのではなく、一年をかけてしっかり自分達のゴールを目指していくことを重視していました。 (※P78より引用)

応援するチームの目指している姿とは

このシーズンの名古屋に関していえば、一年間風間監督が提唱する「止める、蹴る、外す」ことを愚直に取り組んできたシーズンでした。当然最初から上手くいくはずもなく、形になり始めたのはシーズンも5ヶ月を過ぎようという8月頃。少しずつ目指すサッカーを体現出来る選手が増え、ただし攻守にもう1ピースずつ、チームで先頭を走る集団に加勢出来るメンバーが必要だった。そこに加わったのが前述したシャビエルであり新井です。

個を土台に作り直すにしろ、組織をベースに作り直すにしろ、より高いレベルを求めて再建に取り組む場合当然時間はかかります。高度なものを求めれば求めるほど時間はかかる。

チーム作りは家を作ることと同じです。どこにでもあるものや短期的に見た目の良いものを作ろうと思えば短い時間で仕上げることが出来る。ただ唯一無二の、いつまでも色褪せないものを作りたいのであれば当然時間はかかります。

風間監督が就任してからの名古屋に関していえば、分かりやすい戦術的要素から着手するのではなく、まず「個」を徹底的に磨くことから始めました。目指すべき姿に辿り着くためには個の改革が必要だった。ただ当然今日の明日で技術が格段に上がるわけではありません。時間がかかることは明白でした。

なかなか勝ち星に恵まれない時期、私達は「我慢」することを求められます。ただ我慢する為にはチームが今取り組んでいること、現在地、そして目指す先を知らなければいけません。我慢をする価値があるかないか、それはチームを理解しようする気持ちがなければ絶対にジャッジ出来ません。

風間監督はチームを作る上で心掛けてきたことについて、こうコメントしています。

新しいことにトライする時、一番大事なことは楽しむことなんです。それが出来ないと殻は破れない。では、厳しい空気の中でも楽しみを作るにはどうすればいいかというと、勝った負けたで一喜一憂していてはダメなんです。私が怒るのはトライしないことだけで、とにかくミスしてもいいからトライしてほしいと。そこはコーチングスタッフ全員で、本当に選手を伸ばしていくために言い続けました (※オフィシャルイヤーブック2018より引用)

これはサポーターにもいえることです。新しいことにトライするには、今を楽しめていなければいけない。そう考えると、実は我慢のようで我慢ではないのかもしれません。チームを知り、楽しいという感覚が芽生えれば、我慢は我慢でなくなります。

チームを、監督を、選手を信じられるか

今回のエントリーを書くにあたって、自分自身何故今のグランパスを信じられるのか、常に前向きな気持ちでいられるのかと考えました。これはJ2のときから変わりません。勝てば嬉しいし、負ければ当然悔しい。ただ一度たりともこのチームを批判しようとは思いませんでした。当然チームが負ければ怒る人はいます。何を悠長なことを言っているんだという方もいらっしゃるでしょう。「この人とは考え方が合わない」とそこで溝が出来てしまうかもしれない。

初めて風間八宏が指導するグランパスの練習風景を見たとき、途方もない目標に向かって歩み始めたように思えました。本当に一からスタートしたチームだった。ただ同時に何かを作り出そうと一歩ずつ、一歩ずつ進もうとするその光景。一つの目標に向かって、毎日を無駄にすることなく少しずつ積み重ねていくその様が、なんだか本当に家を組立てているようで、この歳にもなって純粋に見ていてワクワクしました。何かが出来ていく様子を見ることほど楽しいものはありません。またそれはグランパスというより、私自身が日々の生活の中で失いつつあったものでもあるような気がします。

その時その時で最善を尽くしているのが分かるから、負けることは悔しくても、これでまた強くなれると思えました。問題が起これば改善すればいいのだと。そう思えたのは「このチームは必ず強くなる」、そう確信していたからです。強くなるグランパスが想像出来たから、目の前の結果を受け入れることが出来ました。このチームに起きること全てが、強くなる為の肥やしになると思えたのです。

いつかそう思えなくなることがあるとすれば、それはチームがこの歩みを止めたと実感した時でしょう。目先の結果がどれだけ重要かはサポーターによっては百人百通りの答えがある。ただ一つ確信を持って言えるのは、チームが目先の結果だけを追うようになれば、それはもう歩みを止めてしまっているということに他なりません。応援するチームに未来を感じられなくなったら我慢などする必要はないのだと思います。

未来が感じられるから楽しい。その未来をチームと一緒に作れるからサポーターをやめられないのです。未来に向かうチームに、サポーター達は想いや夢を託すのです。自分の人生のように、いや、自分の人生に足りないものをそれで補うように。だからこそ私達が応援するチームは私達の人生に欠かせないものになるのだと思います。日々動向を気にして、週末になれば試合に出掛ける。先を見据えることが出来れば目先の試合の捉え方も変わります。何より先を見据えられるから楽しさは生まれるのです。

数値としての結果も勿論重要です。ただ同時に忘れてはならないもう一つの大切なことは、チームの目指す道を理解し、日々の変化に目を向けるということです。

何故ならチームもまた、私達と同じように生きているからです。

さて本日はルヴァン杯。名古屋は今のところ二戦二敗です。今日も負けるようだと罵声の一つや二つ浴びせられるかもしれません。

あえて批判される覚悟で書きます。

私はチームが全力でプレーし勝ちたいという姿勢が見られるなら結果は問いません(当然勝ってほしいに決まっていますが)。今の名古屋に二つのコンペティションを戦える力はないと思っているからです。チームの結果はともかく、一人でも輝いている選手が見つかればいいなと思っています。その上で彼等がリーグで力になってくれれば、チームとしてシーズンが終わった時に一定の成果は出ると信じています。その結果が来年、再来年のチームに必ず繋がる。必ず強いチームになるための歩みとなる。

皆さんが応援するチームはどうですか。

チームを、監督を、選手を、心から信頼し、今を楽しめているでしょうか。

苦しい時ほど、それを改めて自分なりに考えてみるのも良いかもしれません。

 

 

 ※このブログで使用した画像は名古屋グランパス公式サイトより引用したものです

【番外編】あなたにとってのアイドルとは?

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先日豊田スタジアムで開催された名古屋対川崎戦、この試合にある偉大な選手が駆けつけてくれました。元オーストラリア代表にして、2010年名古屋グランパスJリーグ初優勝時のメンバー、2年連続得点王に輝いた「ジョシュア・ケネディ」です。

この日の試合前に行われた握手会や、この動画にあるように彼がスタジアムで歓迎されている姿を見ながら、ふと思ったことがありました。

私にとっての英雄、アイドルはドラガン・ストイコビッチ「ピクシー」です。彼が見たくてスタジアムに行き、彼にワクワクしてときめいて。彼がピッチでボールを持つたびにドキドキしました。時間がその瞬間だけ止まっているような感覚というんでしょうか。唯一無二、特別でした。

ただJリーグも25年の節目を迎える中、私も当然ながら歳を重ねているわけで、例えばJリーグ創設当初小さな子供だった子が、どこかのタイミングでJリーグを好きになって、サポーターとして同じように特別な存在に出会っていると思うんですよね。当然ながら私よりずっと長い間応援している方、例えばJリーグ創設前から特別な選手がいた方もいます。

例えば今目の前でチャントがスタジアムに鳴り響いているジョシュアにしても、「優勝メンバーの一人」と見ている方もいれば、「あの人誰?」という人もいる。逆に「ジョシュアが私にとって一番のアイドル、特別な存在だ」、そんな方も当然いるわけです。

同じように見てきたはずの一人の選手、でも見ている方それぞれで想い入れや、思い出があるんですよね。そしてそうやってチームの歴史は築かれているのだと思うんです。

そんな気持ちがあって、こんなツイートを僭越ながらさせていただきました。

私の気持ちを暑苦しく書いただけのつもりでしたが、全く予想していない展開で多くのグランパスサポーターの方や、一部他サポの方達(大歓迎です)からも思い思いのツイートが、このツイートを引用する形でTwitterに溢れました。

今回はせっかくなのでいただいた全て(おそらく)の内容をこのエントリーでまとめることにしました。ちょっと空いた時間にでも目を通していただけると面白いのではないでしょうか。個人的にはその選手を好きになったきっかけ、エピソードが大好きです。読んでいてとても面白いですし、私と同じ感想を抱いた方の声もかなり聞きました。

最後に。

今回グランパスが企画したジョシュアとの再会。毎回とは当然言いません。定期的にこんな企画があると素晴らしいなと思います。そのチームを彩ってくれた選手達はサポーターにとってはずっと憧れの、大好きな選手達です。勿論全員が全員というわけにはいかないかもしれません。ただ語り継がれるような選手というのは、その時代ごとに必ず存在します。彼等がこのチームにいたのだという足跡を消すことなく、クラブの歴史を語る上で何より貴重な財産として大切にしていっていただけると、サポーターとしてこれ以上幸せなことはありません。私はそういうチームを応援していきたい。

ではあとは皆さんのツイートをずらっと掲載していきます。

コメントをして下さった皆様。勝手に掲載してしまいますがお許しください。

 

■日本人選手

中村直志 (2001~2014年)

 

楢崎正剛 (1999年~)

 

 〇玉田圭司 (2006~2014年・2017年~)

 

田口泰士(2009~2017年)

 

田中マルクス闘莉王  (2010~2015年・2016年)

 

〇小川佳純(2007~2016年)

 

田中隼磨 (2009~2013年)

 

増川隆洋 (2005~2013年)

 

竹内彬 (2006~2010年・2015~2016年)

 

本田圭佑 (2005~2007年)

 

杉本恵太 (2005~2010年)

 

古賀正紘 (1997~2008年)

 

宮原裕司 (1999~2001年)

 

小倉隆史 (1992~2000年 ※1993~1994 エクセルシオール 監督:2016年)

 

平野孝 (1993~2000年)

 

岡山哲也 (1992~2005年)

 

森山泰行 (1992~1997年・2001~2002年・2004年)

 

飯島寿久 (1992~2000年)

 

伊藤裕二 (1992~1999年)

 

■外国籍選手

ストイコビッチ"ピクシー" (1994~2001年 監督:2008~2013年)

 

〇フェリペ・ガルシア(2017年)

 

ジョシュア・ケネディ(2009~2014年)

 

ダニルソン (2010~2015年)

 

フローデ・ヨンセン (2006~2008年)

 

ヴァスティッチ"イヴォ" (2002~2003年)

 

ウェズレイ"ピチブー" (2000~2005年)

 

デュリックス (1995~1996年)

 

 

〇ウリダ (1998~2002年)

 

〇エリベウトン (1993~1994年)

 

〇バウド (1997~1998年)

 

ジョルジーニョ (1990~1994年)

 

〇ガルサ (1993~1995年)

 

一人には絞れない方からグランパスじゃないけどまぁ聞いてくれの方々

 〇時代ごとにアイドルは存在する

 

〇在籍年数は大事

 

〇若手を応援

 

〇第一次黄金期

 

〇心のアイドルは沢山いる

 

グランパスじゃなくてすいません

 

〇他チームだっていいじゃないか

 

番外編

 

 

※このブログで使用した画像は名古屋グランパス公式サイトより引用したものです

 

 

同じDNA、異なる特徴。そして重ねた年月。

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濃密な、あっという間の90分でした。0-1。王者川崎フロンターレが制したこの試合、様々な感想があったことかと思います。ただ一つだけ間違いないのは、誰もが高揚感を抱き、ピッチの中で繰り広げられるボールゲームに魅力されたことではないでしょうか。

誰が否定しようとも、この試合を彩った両チームに同じDNAが流れていることは明白でした。異なるもの、それはそれぞれのチームが抱える選手の個性とそれに伴う戦術、そして積み重ねてきた年月。その意味で名古屋はやはり挑戦者であったと思います。同じDNAのもと長い年月をもって育まれた川崎に対して、結成1年弱とも表現出来るチームが真っ向からぶつかった。そこから見えたものは名古屋にしかない強み、そしてまだまだ我々に不足していた風間八宏のエッセンスでした。

1.「最短距離を目指す」とは

両チームが同じピッチで相見えたからこそ見えたもの。まず最も異なっていたもの、それが攻撃における両チームの設計(構造)です。

川崎がどう攻めていたかf:id:migiright8:20180321002821p:plain

当然ながらベースは縦です。いかに相手のペナルティエリアを攻略するか、最短距離で目指すか、そこの土台の考え方は名古屋と変わりません。ただし彼等の方が『揺さぶって相手の穴をあぶり出す』攻め方をします。その中心がネット、そして大島僚太。彼等がピッチ中央を拠点として、ボールを左右に動かしながら相手の様子を伺います。勿論彼等自身も出しては動き、空いたスペースで受けながら崩しの演出をしていく。最前線に陣取るのが小林や中村、阿部(この場面は登里)、家長。相手(名古屋)の最終ライン上に、縦のレーンに対してバランスよく人を配置します。横で揺さぶる為には当然外側に人が必要ですし、例えば外の選手にボールが入れば名古屋の選手もその選手を掴まえに行きますから、そこで再度ボールを中に戻して「隙間」を探す。「ボールを動かして相手を動かす」。名古屋の選手を動かす為の人の配置、隙間が出来た際にそこを突く為の人の配置。彼等にパスを供給する為に、相手のブロックを左右に揺さぶって穴を作っていくのが大島僚太やネットの仕事です。簡単に言えば、揺さぶるのは手段であって目的ではありません。一番の目的は『中』で勝負すること。ただし中の為に『外』を使う。それが現在の川崎のベースとなる攻撃です。当然縦一辺倒ではなく、横も入れるので時間が作れますし、時間が作れるからこそ選手間の距離も保たれます。パスコースも沢山の選択肢が持てる。ボールを回す際、バタバタした印象だった名古屋とは対照的に、川崎の攻撃がゆったりと落ち着いて見えたのはこれが要因です。特に大島僚太は別格でした。速く動くわけではなく、止まることもある。ただ常に首を振りながら周りの状況を確認し、楽にボールを受け、シンプルにプレーが出来る。相手に掴まらない。彼だけ流れている時間の速さが違うようでした。

では一方名古屋の攻撃はどうでしょうか。

『縦』と『局地』に特化した名古屋

ボールを保持した際の名古屋の選択肢はまず『縦』です。試合を通してみれば分かりますが、川崎に比べて縦に入れるパスの比重が大きいことは一目瞭然です。名古屋の攻撃に比べて、川崎の攻撃がゆったり見えるのはこの違いからくるものであると考えます。ボールを奪ったら縦に。縦にボールが動けば当然攻撃のスピードも上がりますから、そのスピードについていける陣容である必要があります。だからこそ中盤の三枚の内、インサイドハーフの二人は和泉、アーリアと両者ダイナミズムに特化した選手を配置しているのが特徴です。またその縦のスピード、力に一役買っているのが両サイドバックの秋山、宮原。彼等の無尽蔵な体力、スピード、ボールを前に運ぶ力がこのサッカーを可能にしています。図にしてみましょう。

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大きな特徴は前述した中盤の構成です。小林が攻守におけるバランサー、ハブの役割。彼の存在によって最大限特徴を発揮出来ているのが和泉でありアーリアです。後ろを小林に任せてでも『前』で勝負出来るステージが彼等には用意されています。これはシーズン前、今年のチーム編成が終わった段階で既にアイデアとして風間監督の頭の中にあったものかと思います。また小林に関して言えば、ビルドアップ(組立て)時は最後尾まで降りて組立ての中心に、状況次第では前にも行く。相手にボールを奪われた際は自身のエリアに加え、和泉やアーリアの背後のスペースを埋めるタスク。更にプレッシングのスイッチ役として前からボールを奪いにかかる場面もある。彼によって前と後ろが繋がれ、チームにとって痒い部分を彼が一手に引き受けている印象すらあります。その意味で言えば、今年は彼のチームです。

また前線の特徴として、ジョーそしてシャビエルは相手がボール保持している際も、ある程度前に残ることを許されています。カウンターの起点になること、なにより彼等の攻撃力を最大限活用する為の策です。その点左の三人(青木-和泉-秋山)と比較すると、右の(アーリア、宮原)の位置は若干低いのが特徴です。シャビエルの背後を狙ってくるチームが多いので、これは構造上仕方のないことです。

今年のチームを風間監督はこのような言葉で表現しています。

攻撃が速い。ペナルティまで行くのが非常に速い。

ただしこの試合ではこの「縦に速い」特性から起きた問題点がいくつか垣間見えました。

①トップスピードだからこそ起きるミス

崩しの局面で再三見られたのが最後の部分でのパスミスです。出し手と受けての意志疎通が噛み合わないシーンが多々見られました。この点を対戦相手だった中村もこうコメントしています。

名古屋はスピードを上げすぎてミスしていた

②縦一辺倒で緩急・変化のない攻撃

縦を意識するあまり、相手に的を絞られやすい点は問題です。また縦を意識するあまり相手に進路をふさがれた際に攻撃が行き詰まるケースが見られます。この点に関しては、実は川崎戦以前から問題点として風間監督自身がこう口にしていました(磐田戦後のコメント)。

うちの選手達は前に行くのがすごく速い。横、後ろは出来ればなくして前に行こうとトレーニングから意識して取り組んでいるので、怖がらずに良くやっていると思います。ただ前半はそれを意識しすぎて逆に一人ずつがボールを持って遅くなった場面があったので、後半は「少し動かしながら」ということを伝えました。

何故ボールを動かしていくことが有効なのでしょうか。これは前述の川崎の攻撃を参考にすると分かりやすいですが、改めてポイントだけ抑えると、

  • 横にボールを動かすことで、相手のブロックを動かし縦のレーン間を広げていく

ということです。「縦のレーン」を分かりやすく図にしてみます。

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 「横に動かす」という点でも川崎の選手達が興味深いコメントを残しています。まず阿部のコメントから。

前半に関しては、悪く言えば相手に付き合ってしまったところがあった。少し焦ってボールを入れてカウンター合戦のようになっていたので、もう少しサイドに広げてゆっくり攻撃する時間があっても良かったと思う。

次に中村のコメント。

チャンスになるのは、相手を広げてセンターバックサイドバックの裏に走ってクロス。それが前半は一番のチャンスかなと。幅を取れば相手も空いてくる。

③試合終了まで続かない体力、保てないテンポ、必要以上の走行距離

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 途中交代でピッチから退いた和泉が入っていませんが、前半終了時のスタッツを見ると小林(5.9㎞)を凌ぐ数値(6.2㎞)を叩き出していた為、フル出場であればこの表の一番上に掲載されていた可能性が高いです。やはり順位の上位を占めているのは三人の中盤、そして両サイドバック。これらの選手が見るべきエリアの広さに加え、常にフルスロットルで前後する名古屋のサッカーがどれだけ大変なものか、試合後の宮原のコメントが物語っています。

後半になると距離感が悪くなるというのは感じているところです

局地で見せる圧倒的な破壊力。時折見せるユニットでのコンビネーション

 縦に速いと評されるだけあって、局地戦でも名古屋は強引に縦にボールを運ぶ力があります。力強く、スピーディーに前に前にボールを運ぶ力がある。特に左サイドは強烈です。秋山、和泉、青木。この三人の縦、斜めのパス交換で何人前に立ち塞がろうとも強引に破壊していく術を持つこの三人は相手にとって脅威でしょう。

また前述した通り、チーム全体としてボールを動かす意識には改善の余地があるものの、局地戦では強引な術だけではなく、時折複数人(ユニット)でのコンビネーションで相手の守備ブロックを突き破っていく場面も見られます。

一つ例としてあげましょう。

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 この場面を共有しているのはこの4人です。

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シャビエルは右サイドの宮原にパスをだし、点線の方向(青木がいる位置)に動き出します。逆に青木はシャビエルの走り込む場所にスペースを作る為、ポジションを移動していきます。

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シャビエルから宮原へのパスで阿部は宮原のケアに(登里に加勢する)、中に走り出したシャビエルには大島がついていくことで、結果的にアーリアへのパスコースを生み出すことに成功。「走り出すことで、元いた場所をスペースとして活用する」術です。また青木が動いたことで車屋もケアの為定位置から動いていることが分かります。

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この場面で秀逸だったのはアーリアのダイレクトパスです。登里、阿部、大島、ネット...川崎の全ての選手が宮原からアーリアへ渡った瞬間ボールウォッチャーだったことが分かります。今度は青木が元いた位置に彼が動いたことでスペースが生まれ、シャビエルが使えるスペースに変貌しています。そこに間髪入れず楔を打ったアーリアと、四人のコンビネーションが生み出した連続したスペース作り。アーリアがワントラップしていたら、シャビエルも掴まっていた可能性が高いです。横-横-縦、そしてダイレクトを入れた緩急。完璧な崩しです。

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最も相手にとって危険なバイタルエリアでシャビエルが「前向きに」「フリー」でボールを受けることに成功しました。

こういった崩しが名古屋の得意技であることは、サポーターの皆さんもよくご存じかと思います。昨シーズンでいえばホームの対東京V戦の小林のゴール、同じくホームの対湘南戦のロビンのゴール。崩しのメカニズムはどれも同じです。

2.最終ラインに仕掛けることの意味

 風間監督がよく使う言葉で「相手の最終ラインに仕掛けろ」という言葉があります。川崎戦で感じた課題は「ボールを動かすこと」だけではありません。もう一つ、この「最終ラインに仕掛ける」という点においても大きな差があったと感じています。

川崎の仕掛け

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何故相手の最終ラインに仕掛ける必要があるのでしょうか。当然相手の背後を突く為という理由が最たるものです。ただもう一つ、背後を突こうとするからこそ起きる現象があります。それがこの画像の青い空間で起きていることです。見ていただくと分かる通り、中村は背後を突く動きとは逆のモーションをしています。要は「足もと」でボールを受けようとしている。何故それが出来るか、それは相手の最終ラインに仕掛けているという大前提があるからです。なんとも禅問答のようなので、この構造を紐解いていくと、

  1. トップの選手(小林や阿部)が相手の最終ライン(背後)に仕掛ける
  2. 相手(名古屋)の最終ラインは背後をケアしようとラインを下げようとする
  3. ラインが下がることで、一列前の中盤の選手達との距離感が出来る(二本の黒線)
  4. それによって出来た空間(青い場所)で足もとでボールを受けられる

 ということです。相手の最終ラインに仕掛ける最大の目的は相手の背後を取ること、対面の相手を壊しにかかることですが、同時にその行為で「裏」ではなく「表」でボールを受けることも出来る。この青い空間が「バイタルエリア」と呼ばれるものであり、この空間が相手の守備網を攻略する上で最も重要なポイントにもなります。最終ラインに仕掛けるという行為が裏、そして表、両方の効果を持ち得ているからこそ、風間監督は川崎、そして名古屋でもこの理論が重要だと説いてきました。

一方で名古屋の崩しはどうでしょうか。

苦悩するジョー

 ジョーに開幕戦以来ゴールがありません。サポーターの間でも「何故ジョーが得点出来ないのか」そんな声が聞こえ始めています。この試合、ジョーの動きを見ていると気になる点がありました。

「裏」ではなく「降りてくる」ジョー

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先程の川崎の仕掛けと比較すると面白いのですが、ジョーはかなりの割合でこのように下がってボールを受けようとします。例えば川崎の小林と比較すると、小林はこういった降りる動きはほとんどしていませんでした。常に名古屋の最終ラインと同じ高さで勝負していた。ボールを引き出す為にサイドに流れることはあっても、低い位置に下がってくることはほとんどありません。この場面、確かにジョーが下がることで和泉のパスコースを作っていることは事実です。ただ例えば川崎の谷口や車屋にプレッシャーはかかっているか、この位置でジョーに受けられて彼等が怖がっているか、ここが問題です。本来ジョーが相手の最終ラインに仕掛けて、それによって生まれるバイタルエリアでシャビエルが足もとで受ける方が相手を壊す攻撃に繋がるのではないか。

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この場面も同様です。どうしても受けるために下がってきてしまいます。これにはいくつかの理由が考えられると思います。要はどうしてジョーが「下がろう」と判断するマインドになってしまっているのか。

  • 彼をゴール前でシンプルに使うケースが少ない(欲しいタイミングでもらえない)
  • ボールを受けたいという彼自身のマインド
  • 名古屋の崩しにおける中央の密度の問題(画面の青い場所)

川崎はこの試合でも、また昨シーズンのゴールシーンを見てもそうですが、外からのクロスというパターンも実装しているのが特徴です。小林がゴール前でポジションを取れれば躊躇なく中にボールを入れてくるシーンも意外と多い。逆に今の名古屋は完璧にサイドを攻略出来なければ早々イージーな形で中に合わせる選択は取りません。ジョーにとってはマウントポジションでも、チームメイトにとっては「外れていない」。ここの意識にまだ差があります。結果的に時間が経つごとに焦れてきたジョーはボールを受けようと下がってくる傾向があります。ただしこれにはもう一つチームとしての問題があり、サイドに人数をかけて局地戦で勝負する傾向が強いためか、今年のチームは特にピッチ中央の密度に欠ける場面がしばしば散見されます。ここのエリアを使おうとする選手がいればジョーも我慢出来るかもしれませんが、いないからどうしても下がって受けたくなる、パスコースに入ろうとしてしまう。全ての理由は繋がっていると考えます。彼が交代でピッチを退き、寿人が彼のポジションに入った意図を考えても、やはり風間監督とすれば相手の最終ラインへの仕掛けが足りないと判断していた可能性は高いのではないでしょうか。

見ていてもジョーは非常に賢い選手です。傲慢でもなく、チームに合わせてプレーが出来る。例えばシャビエルが中に入ってくれば、彼がサイドにでてポジションも円滑に取り直す場面を度々見ます。ポストに入ろうとポジションを取った際の強さも圧倒的です。問題はチームが彼を活かせるか、彼をこのチームにどう刷り込んでいくかです。

ジョーが活きていない問題はもう一つあります。本来彼に対してチャンスメイクする役割を負うシャビエルに対する、相手からの徹底的なマークです。

3.研究され徹底的なマークにあうシャビエル

湘南戦もそうでしたが、彼に自由にボールを持たせないという合言葉を各チームが持ち始めたのは間違いありません。当然です。名古屋の決定的なチャンスのほとんどが彼から生まれるのですから。

最も気になる点は彼と周りの距離感です。

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 この場面は分かりやすいですが、右のユニット(アーリア、宮原、シャビエル)のトライアングルの距離感に問題があります。シャビエルが攻め残りしていることにも起因しますが、ビルドアップの際、シャビエルに預けようとこの場面のような距離感での縦パスがかなり目立つ。この試合に関しては、それをことごとく登里に刈り取られました。左のトライアングルと比べても顕著です。見ていると、ビルドアップの際に苦しくなるとシャビエルに預ける、彼を逃げ場とするケースが多いことが分かります。ただ相手も当然リサーチ済みで、ゴール前での攻防に限らず、こういったピッチ中央での攻防でもシャビエルには徹底的にマークを付けてくるチームが増えました。これは磐田戦を改めて見直して貰うと面白いです。川崎が相当厳しくきていたことがよく分かります。また先程のジョーのシーンでも取り上げましたが、やはり中の密度が薄く、外に人をかけていることがこの場面からも分かります。f:id:migiright8:20180321145348p:plain

前半終了時点での平均ポジションです。左右のユニットの距離感、中盤三枚の位置関係。あとはシャビエルが孤立していることもこのデータから読み取れます。

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90分間を通しての攻撃しているエリアの割合です。半数以上が左サイドです。対面がエウシーニョということもあり、攻撃の際スペースが割合多くあったのも事実ですが、右サイドからの攻撃はほぼ完璧に防御されたと見ていいでしょう。シャビエルが目立つ際のエリアは、右サイドから中央に切り込んだ際、また自由にポジションを移動したときくらいでした。余談ですが、エウシーニョとの真っ向勝負の中で、これだけの数値を叩き出した左サイドの三人は称賛に値するのではないでしょうか。試合終盤エウシーニョが足を攣っている姿を見て、彼がどれだけ速いテンポで上下動していたか(させられていたか)知ることとなりました。

シャビエルの出来がこのチームのバロメーターです。開幕戦とそれ以降の三試合と比較すると、彼が生きるか死ぬかでジョーの出来も左右されます。いかにシャビエルに攻撃のタクトを振るわせるか。J1の舞台で早速そこの課題に直面しています。

4.「お互いに目指しているものが、同じようで違う」

この試合に関して、鬼木監督はこのような発言をしていたようです。彼自身は「私達は攻撃だけではない、賢い試合運びもする」というエッセンスも含めた意味としてこの発言をしていたかと思います。ただこれまで見てきた通り、「ボールを握る」「まず縦を狙う」など同じコンセプト(DNA)を持った二チームでありながら、攻撃の特徴も異なります。川崎には川崎の、名古屋には名古屋の長所が存在ある。ただ川崎を見ていると、やはり私達と同じ道を歩んできて今のスタイルが確立されたのだと感じます。彼等も一つ何かが出来上がる度に課題に直面し、改善し、進化してきたのだと。彼等にも縦ばかり追求していた時代があり、速すぎる時代があったのではないか。全く同じチームになる必要はありません。ただ彼等が私達に見せてくれたもの、それは私達がこれから目指していくべき道なのではないか。今ある長所、名古屋だからこそ出来るプレーを大切にしながら、攻撃の引き出しを増やしていく。読んでいただいて分かる通り、これらは個人の問題ではありません。全てはチームの問題点として繋がっています。

さて、次は鳥栖戦です。シャビエルが対峙する相手は吉田豊です。この中断期間で風間監督は今ある課題に対してどんな手を打ってくるでしょう。

そして次に川崎と会う等々力までに、もっと進化していくであろうグランパスに期待を込めて。

この試合の収穫、それは「このチームはまだまだ強くなれる」それをチームも、私達も確信出来たことです。

 

 

※このブログで使用した画像はDAZNより転用・加工したものです

「戦術眼」~遠藤保仁、中村俊輔、そして中村憲剛~

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だいぶブログをご無沙汰してしまいました。その間にJリーグも開幕し、我らが名古屋グランパスは第三節を終え二勝一分。昇格組としては上出来ともいえる内容でここまできています。

そして今週末、昨年の覇者、川崎フロンターレとの一戦を迎えます。風間監督のもとJ2で『止める、蹴る』から叩き直してきたチームが、遂に昨年のJリーグ王者と相見えるわけです。今回戦う相手はただのJリーグ王者ではありません。私達と同じように風間監督が基礎から鍛え上げ、現在の礎を築いたチームであり、そんな彼らが王者として豊田スタジアムに乗り込んでくる、これ以上の舞台はありません。おそらくこの対戦を待ち焦がれていたサポーターは少なくないでしょう。

そういえば皆さんは少し前に発売された『伝わる技術(著者:風間八宏)』お読みになられましたか?「はじめに」の冒頭二行は痺れました。2017年12月2日、そして3日。この二日間は、今思い出しても気持ちが高揚してくる、と。勿論その二日間は川崎フロンターレがJ1初優勝を成し遂げ、私達名古屋グランパスがJ1昇格を果たした、それぞれにとって忘れられない一日のことです。思い入れのあるフロンターレと、現在指揮をとるグランパスが遂にJ1の舞台で対戦出来ることを、誰よりも楽しみにしているのは他でもない風間監督ではないでしょうか。

さて、改めて皆さんが想像するフロンターレとはどんなチームでしょうか。攻撃的、パスサッカー、バナナ、計算ドリル。いろいろあるでしょう。ただその中でも誰しもがピンとくる象徴といえば、やはり中村憲剛。日本を代表するゲームメイカーであり、司令塔。そして川崎フロンターレを代表するバンディエラといえば彼しかありえません。ただこれまでのグランパスの三試合を振り返ると、彼と肩を並べるような日本を代表する選手達と既に対戦しているんです。第一節ではガンバ大阪遠藤保仁、そして第二節にジュビロ磐田中村俊輔

彼ら三人に共通する特徴は高い技術、そして精密機械のようなキックです。誰もがイメージするのは『ボールを操る姿』。ただ彼らが持ち合わせる優れた能力は実はそれだけではありません。もう一つの能力、それが『戦術眼』です。彼らは試合の中で相手の特徴、長所、短所を把握し、相手のどこを攻め立てれば試合が優位に進んでいくか判断し実行する能力があります。意識して彼等を追わないと分かりづらいかもしれませんが、彼等は状況に応じてどのタイミングで、どのポジションにいることがベストか、常に考え探しています。この第一節と第二節、遠藤と俊輔のプレーを何度か見返しているうちに、彼等が現在の名古屋の問題点を試合を通してあぶり出していくような、そんな不思議な感覚がありました。彼等程のレベルになると、試合の中でここまで相手の穴を見つけていくものかと。彼等が名古屋に対して行ったプレーについて考えることで、今の名古屋の現在地が分かるかもしれません。またそれを知ることで、今回の川崎戦の試合を見るポイントも変わるかもしれない。何故なら今回の相手にも中村憲剛という偉大な司令塔がいるからです。

今回は守備に関する記述が多く、ネガティブな内容です。ただしこういった偉大な選手達から毎試合課題を得て、名古屋がシーズンを通して成長している姿を私なりに書きたいと考えました。またなにより川崎戦に向けて試合を見るうえで興味がわくようなキッカケを作りたいという想いと。中村憲剛は何を仕掛けてくるんでしょう。それに対して名古屋は対抗出来るでしょうか。彼等の動きを追うことで、サッカーの奥深さを垣間見れるのではないかと思います。

そもそも名古屋の守備の考え方は?

 失点がとにかく多い名古屋ですが、それなりに理由はあります。風間八宏の賛否が分かれる所以でもありますが、まずここをおさえていきます。風間監督の守備構築は決してシステマチックなものではありません。具体的に言えば、相手の攻撃を想定して、シチュエーションごとで誰がどう動き、どこのスペースを埋めるか、誰がどのタイミングでボールを持つ相手にアタックするか、緻密な設計のもと行ってはいません。あえて極端に図で表しましょう。

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 見てわかる通り、一人一人が自分の持ち場をしっかり守ること、その守るべきエリアを1mでも2mでも拡大出来るようにしましょうというのが風間監督の基本的な考え方です。チームとしての細かい約束事、設計されたものがない為、必要なのは個人の高い守備能力、判断能力。勿論広いエリアを守れること。おそらく求められるものは他チームに比べても多いでしょう。なにせここにビルドアップ(ボールを扱う技術、パス能力)の力も求められるわけです。昨年名古屋のセンターバックが次々移籍し話題になりましたが、これは風間サッカーに求められるセンターバックの能力が個人に依存し、その要求レベルが非常に高いことに起因しています。

さて、薀蓄が長くなっても仕方ないので、この前提をおさえた上で、今回の本題に移っていきます。まずは第一節、遠藤保仁が名古屋をどう攻略しようとしたのか。 

第一節 vsガンバ大阪(遠藤保仁)

あえてサイドバックのポジションに移動する

これは後程中村俊輔のプレーでも触れますが、遠藤はトップ下のポジションが定位置にも関わらず、あえて最終ラインのサイドまで戻る行為を何度か試みていました。彼等はこういったプレーを頻繁に使います。

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 理由は一つ。ビルドアップのスタートの段階から、どうやって名古屋の選手を一枚ずつ剥がしていくか、それをこのポジションから試みているからです。この場面で言えば、遠藤がこの位置に来ることで困った選手が青木亮太です。本来彼が見るべきガンバのサイドバックの選手につくかどうか。ただし目の前には遠藤がいます。彼がボールを持てば当然フリーにはしたくない。よって青木は遠藤につくことを選択します。ただしこれは遠藤が仕組んだ罠です。青木を喰いつかせて、本来彼が見るべきだったオジェソクをフリーにする為の。ここでもう一つのポイントが、名古屋が設定する高い最終ラインです。この場面、オジェソクにパスが回れば、彼の目の前には広大なスペースが存在します。全くプレッシャーがかかっていない状況ですから、この場面で言うと最終ラインで駆け引きするファンウィジョのタイミングにピッタリとパスを合わせられる。通常ボールを保持している選手がフリー、そして前向きの状態で最終ラインを高く保つというのは自殺行為に近いものがあります。「ラインが高く保てる」、それは「相手のボール保持者にしっかりプレッシャーがかかっている」ことが最大の担保です。見てもらうと分かりますが、第一節の段階ではまだ名古屋のホッシャ、秋山のコミュニケーションも取れておらず、ラインを作る上でのバランスも悪い。どうぞ走ってください、門は開いた状態です、まさにそんな状況。

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ちなみに遠藤は自チームのサイドバックの位置だけではなく、例えばこの場面のようにウイングの位置へも同じように移動し、名古屋のサイドバック(この場面は秋山)に対して揺さぶりをかけます。秋山からすると、本来見るべきファンウィジョなのか、目の前にいる遠藤なのか、どちらをケアすればよいか二択を迫られている状態。また遠藤のポジショニングが絶妙なのは、同サイドにいる味方の選手のレーン(ピッチを横で分割するイメージ ※青太線)にかぶらないような配置を取ることです。これによって図の矢印の通りパスに角度が付き、複数人(この場面は遠藤、ファンウィジョ、オジェソク)でボールを前に前に運ぶことが可能です。当然秋山としても的が絞りにくい。まずこれが遠藤が仕掛けた名古屋の守備構造を一から壊していったパターンです。

アンカー小林の両脇に出来るスペースの活用

 今度はトップ下としての仕事です。ちなみにアンカーの両脇とは具体的にこの場所のことです。

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前述した通り、名古屋の守備は守るエリア、守る上での選択、判断、これらを個人に依存した形で行なっている為、どうしてもこういったファジーなゾーンに意図的にポジションを取られると、誰がそこを埋めるのか、誰が相手につくのかはっきりしない欠陥が存在します。

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この場面で言えば、センターバックの菅原が前に出て潰しにいくのか、はたまた中盤の三人で役割分担をするのかがはっきりしません。こういった隙間隙間のポジションを取られては、フリーで受けて決定的な仕事を演出されてしまうのが大きな問題点です。このシーンは遠藤がトップ下の仕事として、よりゴールに直結する役割を負った場面になります。後述する中村俊輔もそうですが、彼等が何より凄いのは、相手の特徴を冷静に把握し、自身の動きでその守備構造を破壊していく頭脳を兼ね備えていることです。一見何気ない動きに見えるものが、実は数手先まで読み相手の欠陥を一つずつあぶり出す行為として成立していること。どうしてもボールを持った時のプレーに注目がいきがちですが、彼等は試合を俯瞰して見ているかの如くピッチ内を動き、周りも動かせる稀有な存在です。勿論その上でボールを持てば決定的な仕事も出来るわけですから、当然ながらこのレベルの選手は昨年戦ったJ2ではまず存在しなかった次元のものであると考えます。ダゾーンの中継でも、解説の戸田氏が再三遠藤のポジショニング、ボールの受け方を褒めていましたが、こういった動きに着目していたのではないでしょうか。彼が嫌らしいのは、こういったポジショニング、動きだしをここぞという絶妙なタイミングで仕掛けてくることです。最初からその場にいるわけではありません。そうやってガンバの決定機に常に絡んでいたのが遠藤でした。

では次に第二節、中村俊輔を見ていきましょう。 

第二節 vsジュビロ磐田(中村俊輔)

この試合を観戦した方はご存知の通り、後半磐田にかなり攻め込まれました。というより、後半は数回の決定機を除きほぼ磐田ペースで試合が進みました。何度も川又、アダイウトンに裏を取られ、その度に背走する羽目に。疲弊し、名古屋の陣形もどんどん縦に間延びしていきました。ここで重要な点は、『何故簡単に裏を取られ続けたのか、何故ボールを握られ続けたのか、何故間延びしてしまったのか』を考えることです。名古屋は最終ラインの裏が弱い、その事実にだけ目を向ければ良いとは思いません。何故簡単に裏を取られるのか、そこに着目した際、このゲームを動かしていた人物が浮かび上がってきます。それが中村俊輔です。

彼がどこを起点に攻撃を組み立て始めたか

俊輔の方が遠藤以上に自由にゲームをデザインしていました。彼がチームの中心となり、このゲームを動かしていた。名古屋に一点リードされた後半、彼が陣取ったポジションは外でも、中央の高い位置でもなく、中盤の底、アンカーのようなポジションです。

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名古屋がこの試合、ガンバ戦の反省点を活かし、チームとして課題に取り組んでいたことは明白でした。最終ラインが細かい微調整で常にチームの距離感を保とうとし、ホッシャと秋山の関係性も開幕戦に比べれば改善が見られました。ただこの試合で気になったのは、自陣で守備のブロックを形成する際のチーム全体としての意思疎通です。後半アダイウトンが名古屋の右サイドとのやり合いに見切りをつけ、守備が不慣れな左サイド(秋山のサイド)を中心に攻め始めた(ある程度流動的だが)。パワーとスピードで圧倒するアダイウトンによって、徐々に名古屋は陣形が後退していきました。そこで生まれたスペースと、名古屋の守備構造を見抜いて中央低い位置に陣取ったのが中村俊輔です。

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 元々こういった大きなポジションチェンジに対応するのが名古屋は苦手です(これは前述の遠藤に関する内容の通り)。中盤に俊輔が加わったことで、中央で数的優位を作りパス交換をしつつ、名古屋の陣形がボールサイドに片寄ったところで彼から左右に正確無比なサイドチェンジでボールを展開していく。またボールを支配し少しずつ相手を押し込む中で、名古屋にとってはもう一つの欠陥も俊輔に利用されることになります。ジョーとシャビエルの守備タスクの問題です。

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これは先程の後のシーンです。右での攻防を終え、再度ボールを持った俊輔が今度は反対の左サイド(ギレルメ)に展開するシーン。名古屋の中盤の三枚と、ジョーの距離感が何よりの問題です。この構造を理解した俊輔は、この広大なスペースを攻撃の起点とすることで、ゲームを操り始めました。またギレルメに関しても、シャビエルの守備タスクは決して重いものではない為、この場面を見て分かる通り全く見れていないフリーの状況です。ジュビロからすると、彼がビルドアップの際の逃げ場のような存在になっていました。名古屋に関して言えば、その点は青木の方がよく自陣に戻りますし、攻守の切り替えも早い。これはジョーとシャビエルの攻撃力を最大限活かしたいというチームの意図、勿論彼らの特性も踏まえある程度割り切っている部分かもしれません。

遠藤同様、サイドの低い位置であえて囮になる

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グランパスに前進を許し、後方から作り直す際は面白いことに遠藤と同じアイデアを使っていきます。俊輔があえてサイドバックの位置まで降り、シャビエルと対峙する構図を作る。彼へのパスコースを防ごうとシャビエルが喰いつくことが分かっているわけです。当然本来彼が見るべきギレルメへのパスコースは空き、簡単に名古屋の前線の守備ラインを突破されてしまいます。

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これも同様です。この場面に関してはシャビエルがギレルメをしっかりケアしているのが分かります。ただそれを理解した俊輔は、最終ラインとのパス交換に参加しつつ、グランパスの中盤の一人、玉田が自身(俊輔)のポジションをケアしてくるタイミングを狙っています。狙い通り玉田が喰いついたタイミングでセンターバックにボールをリターン、ボールを受けたセンターバックは本来玉田が見るべき相手だった泰士への縦パスを簡単に成功しているのが理解できるかと思います。これは風間さんもよく使う言葉で『遊びのパス』です。何気ないパス交換の中に彼が仕掛けた罠が存在します。

名古屋の問題点とは

ここまで見てきた中で私が問題だと思うポイントが二点あります。

  • ジョー、シャビエルの守備意識
  • グランパスの全選手に刷り込まれた「前から奪わないといけない」という意識

一つ目は過度の期待は禁物かもしれません。ただジョーを見ていても疲れは当然あるのでしょうが、サボっている場面は多々あります。彼が効果的な守備参加をしない為、当然後ろのメンバー、特に中盤にはかなりの負荷がかかっています。例で挙げた俊輔のシーンは、本来であればどの場面もジョーに出来る仕事はもう少しあると考えます。そしてシャビエル。彼も守備に関するタスク自体は軽いです。ボールを奪えると判断した際の相手に襲い掛かるスピード、奪う技術は間違いありません。ただし90分の内、それをずっと繰り返しているわけでは当然ありません。彼の背後は相手チームからすれば格好の標的です。ただ繰り返しになりますが、この点は割り切るしかありません。私達が彼等に期待しているものは「ゴール」なのですから。そういったアンタッチャブルな選手が二人ピッチに同居するのは少々引っかかりますが、それでもやはり彼等の攻撃力は圧倒的です。特にシャビエル。彼がこのチームの鍵を握っています。彼は遠藤や俊輔のような司令塔ではありませんが、ゴールに直結する決定的なプレーでは彼の方が優ります。テクニック、スピード、閃き。彼が周りを活かしているように見えますが、実際は彼を生かすも殺すも周り次第、彼にそう言った場面を御膳立て出来るかどうかに懸かっていると私は考えます。彼のプレーが輝いているかどうかがこのチームのバロメーターです。結果的にそれがジョーが輝けるかどうかにも繋がっていきます。なんにせよ中盤の三枚にかかる負担は相当なものですが...。

二つ目、個人的にはこちらの方が大きな問題だと思っています。風間サッカーといえば「相手を押し込め、奪われたらボールを即時奪還しろ、高い位置でプレッシャーをかけろ」これが代名詞です。この考え方、実際に相手を押し込んでいる状況なら問題はありません。相手を崩せている状況なら、これが自分達の約束事(プレーモデル)ですから躊躇なく遂行すべき。問題はそのような状況にない場合です。具体的に言えば相手を押し込んでいない場面、逆に自陣側に押し込まれている状況。こういった試合展開の中でこの約束事は通用しません。ここまで見てきた通り、簡単に相手に剥がされてしまうんです。中盤で数的優位を作られる、特定のエリアに異なるポジションの選手が加勢してくる。イレギュラーなことを相手にされるとピッチ内で対応が出来ない。これはチームとして明確な約束事がなく、準備もされていないからこそ起きる現象です。そのため相手に簡単にマークを剥がされてしまう。前述した通りジョーやシャビエルの守備意識の低さもこの問題に拍車をかける形になっています。これは風間監督のチームの最大の欠点です。

中盤で数的優位を作られボールの奪いどころを失う。サイドや裏に展開され、何度となく背走を余儀なくされる。苦し紛れにクリアをしボールを回収される。ラインを上げてボールを奪いに行きたいが、疲労と、行っても奪えないと構えてしまう気持ちと。その上でチーム全体での共通理解に問題を抱えている為、前後で分断、間延びし、そのエリアを俊輔に使われてしまった。そんなところでしょうか。

目の前の相手に喰いつくべきか、その場合他の選手はどう振る舞うべきか、共通理解がなされていない。そういった状況の中で「前からプレッシャーをかけないと」そんな意識が根底にあるからこそ、誰かが闇雲に相手に喰いつき、相手が仕掛けた罠にハマってしまう。こういったチームの欠陥、心理を遠藤や俊輔クラスの選手は見逃しません。

磐田戦の試合後、和泉がこんなコメントを残していました。 

相手がロングボールを蹴ろうとしたら、しっかりラインを下げる方がいいのかなとも思います。簡単に蹴らせてしまうと全員が逆を取られて、後手に回ってしまいます。

おそらくこのコメントの真意は、苦しい時間帯や前から上手くプレッシャーがかかっていない時間帯は、全体(チーム全員)で陣形を自陣側に構えて、チームとして縦の距離感をコンパクトに保ちたいということだと思います。蹴ってくる相手の選手にプレッシャーをかけられる選手(例えばジョー)をしっかり配置し、ときには自分達の背後のスペースを消してでも、蹴られて背走する場面を減らしたいという意図を感じます。

このチームの生命線は、やはり「常に全体の距離感(ジョーから最終ラインまでの距離)をコンパクトに保つこと」、そして「ボールを出来るだけ握って、自分達で主導権を握ること」です。

 以前、中田英寿が現役だった頃こんなコメントをしていました。「ビルドアップで最も重要なことは、相手を走らせることではない。相手の頭を疲れさせることだ。追っても追ってもボールを奪えない。相手が諦めたらこちらの勝ちだ」と。磐田戦、相手に押し込まれた原因は様々な理由が積み重なっていました。

打ち合いになるのは仕方ありません。風間監督の志向するサッカーは、圧倒的な魅力とともに大きな欠点も同居したサッカーです(だからこそ唯一無二の魅力が生まれるのかもしれませんが)。相手のクオリティがより高ければ、当然ゴールに繋げられてしまうシーンは起こると思います。それが『八宏スコア』と言われる所以です。ただどういう状況であれ、ボールを持つ、主導権を握るんだという強い意志、そのために必要な約束事だけは失ってはいけません。点を取られても取り返せる、「得失点差」のプラスを大きくしていけるチームを目指していくことが、追及していく最大の目標になるのではないでしょうか。

そして川崎戦へ

ここまで遠藤保仁中村俊輔のプレーを通して名古屋の問題点を考えてきました。どちらかといえば遠藤の方がよりゴールに直結するプレー、俊輔の方が一からゴールへの道筋を設計していくようなプレーのイメージでしょうか。そして次節の川崎には前で仕事が出来る中村憲剛と、ゲームを作ることが出来る大島僚太。これらの仕事を分担出来る陣容が揃っています。

どんな試合になるでしょうか。例えば磐田戦と同じような展開になった際、名古屋は彼ら相手に押し返すことが出来るでしょうか。悔しい話ですが、同じようにチーム作りをしてきた両チーム、私達が歩んできてぶつかった壁を、彼らは既に乗り越えてきている。彼らの方がその点一歩も二歩も前にいることは紛れもない事実です。

ただやっている選手は違います。個性が違う。名古屋には川崎にひけをとらないだけのタレントが沢山揃っています。今のチームとしての力にプラスアルファする形で、選手達のタレント力をどれだけ上積み出来るか、個人的にはそこに何より期待したいと思います。打ち合いの試合が見たいのではなく、川崎相手に打ち勝てる名古屋が見たい。

改めて、風間八宏の最大の魅力は彼の志向するサッカーの内容以上に、彼のチーム作りそのものにあるのではないかとここにきて感じています。時間はかかります。毎試合勝てるほど今の名古屋に力がないのも事実かもしれない。ただこのチームは強くなります。圧倒的な攻撃力と、それを体現出来る選手達を地道に、地道に育てている。またそれが出来る選手を一人ずつ、一人ずつ増やしていこうと積み重ねています。もしかしたらその先にいるのが次に戦う相手、川崎かもしれません。現状のチーム力では劣るかもしれない。ただ今戦えるベストの人選で臨めば、何が起こるかは分かりません。

どちらの攻撃力が最強か、豊田スタジアムで決めましょう。

 

 

※このブログで使用した画像はDAZN名古屋グランパス公式サイトより転用・加工したものです

 

風間体制二年目「始動」

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昨年の同じ時期。

その場にいる多くの選手が初めて体感することになった風間監督の指導。どの練習をするにも手取り足取りだった。長期離脱中だった松本孝平は、松葉杖で必死に移動しては一言一句逃すまいと耳を傾けていた。新しく出来た学校、そこに集った生徒達と風変わりな指揮官。あの時のことを想うと、今年は新しい選手達が転校生に見える。それはボール回し一つとってもそうで、とにかく人もボールもよく動く。全員がゼロからスタートした昨年と比べると、一年間風間先生の元で鍛え上げられ生き残った選手達の中に混じる転校生は大変である。同時にそんな光景を見ながら、ああこれが二年目の光景なのだと感慨深い気持ちになるのだ。

 

今年練習を見ていてまず気づいた点は寿人が思いのほか静かなこと。昨年は常に声をだし、どんなときも明るかった寿人。ただそれは必要以上の明るさだったとも思っていて、寄せ集め集団だった当時のチームをカラ元気でもいいから一つにまとめるんだ、そんな彼のキャプテンシーがそうさせていた気がしている。今年の姿の方がナチュラルで、より自身のことに集中しているように見える。「チームをまとめる」から「自身の結果をもってチームを勝たせる」。そちらに振り切れた寿人を見ている気がするのである。

そう考えると、昨年見た景色と今見ている景色は大きく違うのかもしれない。

新しいチーム、新しい監督の下で一から作り上げていく。今思えば昨年の今頃、私達が見ていたものは家の基礎となる土台を必死に築こうとする彼らの姿ではなかったか。初めて経験するJ2の舞台。ただ意外にも彼らの視線はそこではなく己に向けられたものであったように思う。そして今年の彼らが作る空気感。これは紛れもなくJ1という舞台に注がれたものである。基礎が出来、ここからどれだけ強く、頑丈で、美しいものを積み上げていけるか。何の為に。勿論J1の猛者達をなぎ倒していく為である。

安易に結果だけを求めず、もがき苦しみながらも揺るぎない土台を作り上げた昨年の一年間をもってして、彼らは今年のスタートを明らかに違うステージから始めた。

今更ながら、このブログでは彼等がタイに旅立つまでに私が見たこのチームの「二年目」の始まりを、出来るだけその空気感のようなものを大切にしながら書き始めたものです。練習見学のルールにも一部変更があり、具体的な内容は勿論書くことが出来ないものの、そこで見たこと、感じたこと、様々なエピソードをもってグランパスの二年目がどのようにして始まったのか、読んでくださった方に何か少しでも伝わるものがあれば、それを共有出来ればいいなと思っています。

さて、まずなにより気になるのは今年の新加入選手についてではないでしょうか。この二人に触れないわけにはいかない。

ジョー、そしてランゲラック(ミッチ)。

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シャビエル、ワシントン(ワシ)、そしてジョー。「Brazilian Storm」なんて洒落た名称で呼ばれ始めたこの三人。とにかく仲が良い。この表現が適切かは分からないが、昨年に比べジョーを含めた今年の三名の方がより密な関係性に見えるのは、おそらくジョーに早く馴染んでもらおうというシャビエルやワシの心遣いではないか。いつも一緒、そしていつも笑顔で溢れた三人。

肝心のプレーに関しては、もう紛れもなく元セレソンのストライカーです。前を向いた際の相手に与える威圧感。凄まじい。デカイ、そのわりに足元が柔らかい。あの身長をもってして躍動感溢れるステップワークを繰り出すものだから規格外の迫力。勿論「裏に抜ける」術も持ち合わせている。なにより好感が持てるのは、彼なりに風間監督のやり方を理解し体現しようとする様子が窺える点。特に感じるのは相手の最終ラインに仕掛ける、外すの部分。まだまだ身体が重い印象を受けるものの、問題児というレッテルを貼られたことのある選手とは思えないほど真面目に取り組んでいる。そういえば早速熱心なコリンチアーノ(ブラジル人ファミリー)がコリンチャンスの大きなフラッグを抱えてトヨスポに来ていたのは驚いた。「ジョー!ジョー!」と吃驚するほど大きな声を張り上げて。こんな出来事を通して、私達はいかに偉大な選手がこのチームにやってきたのか実感するのである。

そんなジョーを語る上で忘れてはいけないのがワシの存在。練習後の選手のランニングは観客としては声がかけずらいもの。ただ皆ワシには平気で「ワシー!」なんて声をかける。ワシも満更でもないのか、三週目くらいになると「ツカレタ...」と自ら返事をする(客席は爆笑)。ファンサにこればワシから「キョウサムイネ」なんて声をかけてくれる。勿論彼が残留してくれたことは戦力的にも大きいわけだが、なによりジョーがこの国、このチームに馴染むために非常に大きな存在なのではないか。彼らの様子を知ることが出来れば、いかにワシの残留に大きな意味があったか誰もが理解出来るかと思う。

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そしてミッチ。とにかくナイスガイ。イケメンなのは顔だけではありません。ファンサに来た際、「コンニチハ」なんて彼から声をかけてくれる。一人一人の顔をしっかり確認しながら笑顔で対応する彼の姿を見れば皆彼の虜でしょう。美人過ぎる奥様を見て一瞬嫌いになりそうだった当時の自分をぶん殴ってやりたい。

プレーに関しては実戦を早く確認したいところ。とりあえず風間さんの狭いコート設定(ミニゲーム)に力を持て余すミッチ。スローイングしたボールが何度もタッチを割り、その度に彼の悔しがる声と手を叩く音が聞こえる。名古屋のアイドルになる素質十分といったところか。楢さんが楽しそうに彼とコミュニケーションをとる一方、武田と渋谷が練習中も仲良くイチャこいていることも御報告しておきたい。

他の新加入選手にも触れておきます。まず今オフ最大の話題を掻っ攫った男、長谷川アーリアジャスール

最も充実感を感じる一人。ランニングの際、先頭を走る寿人と小林裕紀のグループに新たに加わったのが彼である。トライしては悔しそうに振る舞う彼の姿を見ていると、もう純粋に「あぁ楽しそうだ」と。ボール回しも全く遜色なくやっているどころか、積極的にボールに関与しようとする。常にボールに絡もうとするその姿勢、ボールを持てばまずゴールに向かっていける彼の能力は、昨年のグランパスにはなかったスパイス。今シーズン非常に楽しみな一人。杉本竜士は練習中彼のことを「ジャス!ジャス!」と呼んでいます。

そして堅守甲府からやってきた畑尾大翔。脳の入れ替えに必死です。このチームのスタイルに馴染もうと、プレー中頭の中はフル稼働。その都度最適な引出しを必死で探すように。ただ当然昨年から在籍する選手に比べればそれを探しだす速度も、いやそもそも引出しがまだ整理されているわけでもない。ボールを保持しながら悩み、身体と頭が噛み合わずそのボールが予期せぬタイミングで足に当たってこぼれてしまう。サッカー経験者なら誰もが「分かるその感じ...」と頷いてしまうような現象を見る限り、今の彼は風間監督の言葉を借りればまさに「頭の整理」をしているところだと思う。ただ新体制発表会で本人が自信アリと語っていたフィード。非常に綺麗な軌道で正確なボールを蹴る。また日に日にこのサッカーに慣れていく様子も窺える。これからどう変化していくか楽しみな選手である。

さて、今年もトヨスポでは風間鬼教官による若手指導が見られそうだ。

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青木、深堀、そして最も目をつけられていそうなのが大垣勇樹。杉森が去った今、風間監督の愛の鞭をもろに受けそうな気配。大垣は寡黙な男だ。あまり笑っている姿も見たことがない。ただFWとしての彼の潜在能力を風間監督が高く評価していることは、練習における彼の使われ方、彼に対する指導を見ていれば分かるというもの。風間監督が提唱する技術を体得すれば、自ずと素晴らしいFWに育っていきそうな雰囲気は十分にある。

「大垣!!今崩せなかったのはお前が相手に全く仕掛けられていないからだ!!」

今の私に書ける精一杯の風間語録である。

活気溢れるグラウンドから少しだけ目線をずらすと、いつもウズウズした様子でリハビリに励む選手が二人。長期離脱中の新井一耀、そして松本孝平。ルーキーイヤーから二年連続でリハビリ組としてスタートした松本のことを想うと胸が苦しくなる。一年間リハビリに励み、新シーズンを迎え尚その状況を打破出来ない彼の苦しみが私達に分かるはずもない。誰よりもこのピッチで皆と練習したいと願い続けて戦っているのは松本をおいて他にいないだろう。

ただ今年は隣にもう一人、新井という存在がいる。先が見えないリハビリ生活の中で、常に隣で同じようなメニューをこなす仲間がいることが、お互いにとってどれだけ心強いことか。ミニゲーム中に動きを止め、食い入る様にその光景を眺める彼らを見て、一日も早く元気な姿でこのミニゲームの輪に戻ってきて欲しい...深い絆で結ばれているように見える彼ら二人の姿を眺めながら、サポーターとしてそう願わずにはいられない(お...ボール蹴ってる!!)。

 

さて、最後にやはりこの点は個人的に触れておきたい。田口泰士について。

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練習場に行っても当然ながらもう彼の姿はない。練習が終われば一目散にファンサに来る彼の姿も(風間監督の彼に対する自主練評価はどうだったのか...)、三男(杉本)を長男(玉田)と挟んで楽しそうにしている次男の姿ももうそこにはない。当たり前のようにあったその姿がない、この現実は分かっていてもやはり想像以上に寂しいものだ。

私達はこれまでのチームの心臓を失った。目を背けてもそれは紛れもない事実だ。

今年のチーム編成に目を向けると、強化部は例えばもう一人獲得可能だった外国籍の枠をあえて空けたままストーブリーグを終えようとしている。チーム全体で見ても26名という最低限の人員でJ1復帰のシーズンを迎えることになる。

ただ私はあえて残したこの「余白」を今年の楽しみにしようと思う。誰がこの空いたポジションを掴み取るのか、風間監督がどういった采配を取るのか、適任者が見つからない場合強化部がどう動くのか。この余白をシーズンを通して見ていくことは今年の楽しみの一つであり、グランパスが新たな歴史を刻んでいく上でも重要なものになるのではないか。

泰士は別の道を歩むことを選んだ。だからこそ私達もまた別の道を歩まなければいけない。

泰士が抜けて空いた場所は穴ではなく、新たな可能性そのものなのだ。

ターニングポイントになりそうなのは新井が復帰するタイミング。今日からそこまでの3~4ヶ月でこのチームがどう進化し、J1の舞台でどういった戦いが出来るのか。

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最近見たテレビの番組で株式会社コルクの代表である佐渡島庸平がこんなことを言っていた。

「ビジネスとは動いた心の量をお金に替えることだ」

サッカーでいえばそれはスタジアムになるのかもしれない。ただそのスタジアムで起きることは、日々の練習場での弛まぬ努力、積み重ねがあってこそ生まれるものだ。練習場で見る人間模様、選手の苦悩や葛藤、努力。今年もこの場所でチームは進化していき、スタジアムで極上のエンターテイメントを見せてくれるに違いない。

今年はどれだけ私達の心を動かしてくれるだろう。 

今のグランパスには沢山の人の心を動かす力がある。

待ちに待ち焦がれたJ1復帰の舞台はもうそこまできている。 

 

 

※このブログで使用した画像は全て名古屋グランパス公式サイトより転用したものです

風間八宏と96ジャパン世代の出会い

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「考起!早く戻れ!」「青木!もっと考えろ!」

今年トヨスポで練習見学をされた方は一度は見たことがある光景ではないでしょうか。風間八宏があれだけ怒鳴り散らした選手はあの二人以外にはいないと断言出来る。

杉森考起(97/4/5生まれ)、そして青木亮太(96/3/6生まれ)。

未来のグランパスを背負って立つ選手に違いないと期待されてきたこの二人は、加入してからというもの出番に恵まれないでいた。それは戦術的な理由であったり、度重なる大怪我によるものであったり。そんな中チームも史上初のJ2降格が決まり、先行きが不透明な中やってきたのが若手育成に定評のある風間八宏だった。

この世代の選手達を見て思い出されるのは、2013年にUAEで開催されたU-17ワールドカップである。吉武博文に率いられ、圧倒的なボール支配率を武器にしていたこのチームは「96ジャパン」と言われていた。平均身長の低いこの小柄なチームが当時印象的で、私の自宅にも彼らの試合が残っている。その試合のキャプテンを務めていたのが後述する宮原和也であり、FWとして出場していたのが杉森考起である。他にも風間監督が川崎フロンターレで指導した三好康児もこの世代の中心メンバーだった。

残念ながらこの時のメンバーに含まれてはいなかったが、同世代の青木を含め、私が今季楽しみだったのは、この96ジャパン世代のメンバーと風間八宏が起こす化学反応だ。今季のグランパスには、そんな将来を嘱望される選手達が集まっていた。

さて、話を杉森と青木の二人に戻す。まず先発に抜擢されたのは杉森だった。

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開幕前の彼のポジションは右WGだった。「遂に杉森が開幕スタメンの座を勝ち取った」。新しいシーズンへの期待を後押しするような、待ちに待った名古屋の至宝スタメン当確の報。ただ後述するが、彼もまた他選手との兼ね合いにより開幕のポジションに変更が生じた一人である。右WB。誰もが驚いたこの配置は、風間監督を知る者にとってはさして驚くことでもない「常套手段」であったらしい。ピッチ上でも比較的プレッシャーの弱い「サイド」から若手はスタートするというのが風間八宏式と聞き納得は出来たものの、杉森にとっての苦悩は皮肉なことにここからスタートする。

今シーズン杉森がスタメン出場し、前半終了時に交代した試合は4試合にも上る。その全てが本職ではないこのサイドでの出場試合。第9節対山口戦に至っては前半28分での交代。シーズン途中から本職であるFWでの起用が始まり2得点は奪ったものの、最後までサイドでの合格点は与えられなかった印象が残る。

練習場での杉森に対する風間監督はまさに鬼教官そのものだった。冒頭にも紹介したように、彼と青木を含めた二人には、誰の目から見ても明らかに接し方を変えていたように思う。特に厳しかったのはオフザボールの動き、攻守の切り替え(トランジション)。いわゆる「ボールがない時の動き」でいつも怒鳴られていたような印象が残る。例えば紅白戦形式の練習における風間監督の言動を見ていると、「この人は杉森しか見ていないんじゃないか」と思えるほど、常に考起の名を呼んでいたような印象だ。勿論そのほとんどが彼の名の語尾が強くなる呼び方ではあったが...

練習中相手にボールが渡ると風間監督はまず杉森を確認していたのは間違いない。相手に押し込まれているときにポジションのチェックが入るのも杉森だ。思い返すと技術的な面で彼に厳しい指導をしている場面はあまり見なかったように思う。

先に紹介しておくと、風間監督の指導は相当に細かい。特に「技術」に関しては妥協がない。少し今回のエントリーからは脱線するが、彼の指導がどれほど細かいかよく分かるエピソードを一つ。CBの櫛引がコンビを組む隣の選手から横パスを受けた場面。なんともないそのパスを櫛引はトラップしたが、ほんの少しだけボールが動いていた。それを見た風間監督は一言、

「クシ!ボールを泳がすな!正確に止めろ。その時間がもったいないんだ!」

このレベルである。私もサッカー経験者だが、そのトラップは少なくともミスとは言えないレベルの、普通に見ている分には全く気にならないものであった。ただ風間監督にとってのトラップは「止める」か「運ぶ」しかない。その中間は全てミスだ。そう考えると、確かにあのトラップはまさに中間だった。勿論彼にとっては今までそれが当たり前のものであったと思うが...

話を本題に戻す。おそらく風間監督にとって、杉森と次に紹介する青木は絶対に育て上げなければならない素材だったのではないか。それは表現を変えると、絶対に育て上げたいと思わせる素材だったということだ。先程「風間監督は若手をサイドからスタートさせる」と書いたが、第17節対金沢戦の試合前記者会見で、彼はこのことについて杉森を例に挙げてこう語った。

色々なものを見せることで選手のグラウンドの中での目が変わりスピードも変わります。極端にいえば、サイドなら180度の世界ですし、真ん中なら360度の世界です。本当は360度の世界を持たなければいけないのが選手ですが。自分の視野を作ることで目が変わりますし、最初から一番速い位置へ入れてもわからないこともあります。ゆっくりした場所から始めさせるということもあります。逆もありますが、これはあまりうまくいきません。でも、そうやっていろんなことから、彼は少しずつ覚えてきている。まだまだ伸びてもらわないと困る選手なので。グランパスには若い選手が多いから、色々なことを体験してほしいと思います。

このコメントに、彼が杉森に対してどれだけ期待しているか、その想いが込められている気がするのである。

杉森が苦労する最中、彼と入れ替わるようにしてスタメンに定着し始めたのが青木だ。

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今となっては驚くべきことだが、彼はシーズン当初サブ組からも外れることが何度かあった。ミニゲームのメンバーに入れず、クラブハウス前で練習していた光景。開幕戦以来出番がなく、第10節対群馬戦で久しぶりの先発出場。ただ彼に与えられたポジションもまた、杉森同様「サイド(左WB)」のポジションだった。案の定結果がでず、ブレイクのきっかけとなる第17節対金沢戦まで彼も低空飛行を続けることになる。

風間監督からの指摘は杉森同様「オフザボール時」「トランジション時」である。とりわけ青木には厳しい言葉を浴びせていた覚えがある。

「青木!常に考えろ!頭を動かせ!遅すぎる!」

「青木!ボールを止めるな!どんなときでもボールは動かせ!ボールが止まっていたら相手は動かないんだぞ!」

客席から見ている私のような素人でも、青木の頭の中が真っ白になっていたのが分かるほど、彼の表情は生気を失っていた。ただでさえ勝手の分からないサイドのポジションで、自身への注文がひたすら飛び交うピッチ。完全に自信を失った彼のプレーに精彩などあるはずもなく、ボールを受けては迷い、奪われていた光景は忘れられない。

また風間監督とは別に、彼に厳しい要求をする人物がもう一人いた。玉田圭司。監督に負けないほどの鬼の形相と「亮太!!!」の声。彼もまた、青木亮太そして杉森考起に期待を寄せ、他の選手とは明らかに接し方を変えていた一人である。玉田に叱責され、明らかに自信を失っていた青木に、何かを悟ったように背後から笑顔で声をかけ肩に手を組んだのが佐藤寿人風間八宏玉田圭司佐藤寿人という誰もが羨む3名によって育てられたのが青木である。

そんな彼の浮上のきっかけとなったのが前述した第17節対金沢戦。WBで上手くいかないのなら、最終ラインのサイドからスタートしろと言わんばかりの左SBでスタメンを勝ち取った彼は、この試合で持ち前のボールスキルを遺憾なく発揮。続く第18節対東京V戦でも、相手の激しいプレッシングを唯一何事もないかのようにドリブルで剥がし続けたのが青木である。同じサイドのポジションでも、杉森に比べて青木に適正があった最たる理由。それがこのオンザボールの質、圧倒的なドリブルスキルである。自身の間合いでボールを持てばドリブルのスピード、キレ、テクニックに関してはJ2レベルではないことをこの頃から証明しだした青木。そんな彼が完全にブレークしたのは8月の連戦からである。

風間監督が与えたポジションは3-4-3の右WB。その前方にはこの夏から加入した最強の助っ人ガブリエルシャビエル。J2でも屈指のこのコンビが結成されてから、青木自身の怒涛の反撃が始まったのは記憶に新しいところ。終わってみれば11ゴール、3アシスト。第17節金沢戦以降、怪我の理由を除いて全試合スタメン出場だったことを考えると、課題は残るものの完全に殻を破ったといえるシーズンだった。

さて、もう一人同世代の選手が今シーズン、サンフレッチェ広島から期限付移籍という形でグランパスに加入した。宮原和也(96/3/22生まれ)。42試合中41試合出場。風間八宏体制下に置いて、誰しもが怪我や戦術的な理由で数試合を欠場していたことを考えれば、珠玉の出来だったのが彼である。風間サッカーを理解し適応したという点で、影のMVPと言っても過言ではない。

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開幕前、彼のポジションはボランチだった。勿論レギュラー格である。それが開幕直前になると、周りの選手達との兼ね合いで3-4-3の右WBに変わり、いざ開幕戦の蓋を開けると右ストッパーを務めていた。おそらく風間監督がピッチ上において誰よりも信頼を寄せていたのがこの宮原である。どのポジションでも一定の水準以上のパフォーマンスを約束してくれる。特に目を見張ったのが彼の守備センス。1vs1の応対ではまず負けない。絶妙な間合いでボールを奪い取る。華奢に見えるその体格のわりに、身体のぶつかり合いで負けることもない。どのポジションでも彼だけはピッチに置いておきたい、そんな存在ではなかったか。

そんな彼にもシーズンを通して唯一前半交代の憂き目にあった試合がある。第8節対徳島戦。この試合、記録としては前半終了後の交代になっているものの、風間監督は前半の早い段階で宮原の交代に動く素振りを見せている。これは試合後の風間監督のコメントである。

和也に常に伝えているのですが、彼は技術もスピードもありますが、トライしない部分があります。後ろへ逃げてしまうことで、相手に勢いをださせてしまうことがあります。

確かにこの試合、最も顕著だったのが相手のハイプレスを受ける度に自陣側へトラップをしようとする宮原の姿だった。彼にとってはセーフティな選択でも、風間監督にはそれが許せなかった。 

この徳島戦の後から、普段自主練習に長い時間をかけない宮原が遅くまでピッチに残る姿が多くなった。一緒に練習していたのは小林、八反田、櫛引だったか。4名でいつもパス練習をしていた。といっても、一番の目的は「止める」の部分。自身の課題を理解し、すぐさま行動に移した結果、終わってみれば堂々の41試合出場というチームトップの記録である。

第22節対徳島戦の試合前記者会見では、それまでの宮原の変化について風間監督がこんなことを語っていた。

今取り組んでいる技術が武器になるとチームの中でも理解が早かった選手の一人だったこと。また、相手が来たら「逃げる」のが最も確実なボールを奪われない方法だと思っていたこれまでの宮原の考え方。それが相手に最も勢いを出させてしまうということに気づき、「ボールが止まれば相手は来れないんだ」という指導にいち早く取り組んだという宮原の練習態度に関する評価。そして「今のアイツはボールを奪われない」という信頼の言葉。

これを書いている段階ではまだ来シーズンの宮原の所属チームは決まっていない。名古屋グランパスか、それとも古巣であるサンフレッチェ広島か。おそらく彼の今後のサッカー人生に大きく影響を与えるであろう重大な決断になるかと思う。願わくばグランパスで、風間監督の下でJ1、そして日本代表を目指してほしいが。なんにせよ今年のグランパスにおいて攻守で最も安定感があったのは間違いなく宮原和也だと思っている。

今シーズン、風間監督がサポーターを楽しませたのは決してピッチで繰り広げるサッカーの内容だけではない。そのうえで彼らのような若手達が躍動する姿がそこにあったからこそ、私達はよりこのグランパスにのめり込めたのだと思う。

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来シーズンはここに早稲田大学から秋山陽介、興國高校から大垣勇樹も加わる。秋山に関しては、強化指定としてレギュラーで活躍していた選手なので今更語る必要もないかと思う。もう一人の強化指定だった大垣。彼には複数のチームから正式なオファーが届いていた。その中から最終的には当時J2に所属していたグランパスを選択している。実際にグランパスの練習に参加し、風間監督の指導を受け、ここが最も成長出来る場であると本人が決断したというような話も耳にしたことがある。強化部としても是が非でも獲得したかった選手がこの大垣だ。

彼らが強化指定として練習参加するようになってから、全体練習後の自主練習では恒例となった風景がある。杉森、青木、深堀、秋山、大垣のシュート練習である。受け手の選手が外す動きをした瞬間、出し手の選手が足もとにボールを正確につける。それを正確に止め、シュートに持ち込む。この練習を森コーチや島岡コーチが見守っている。さながらその光景は「グランパスの未来」である。そんな光景を目に出来ることが、サポーターにとってはなによりの幸せである。来シーズンはここに怪我明けの梶山幹太や松本孝平も加わることになる。あとはおそらく強化指定となるであろう東海学園大学レフティ渡邉柊斗。

そしてこの年末にはU-18の選手達が見事プレミアリーグ昇格を勝ち取った。この中には未来のバンディエラ候補、菅原由勢も控えている。

それにしても決勝戦、素晴らしかった。今年3年生の選手達の中でトップ昇格を果たした選手は残念ながらゼロだった。ただ彼らの頑張りで勝ち取ったこの昇格という事実が、グランパスというチームにとって後々大きな財産になっていくのだろうと思う。

愛するチームの将来を担うであろう若き選手達が、名伯楽ともいえる風間八宏のもと、来期はJ1の舞台で躍動する。そんな期待や楽しみをもって、是非皆さん年を越しましょう。どんな選手が移籍してくるよりも、やはり彼らが成長し、トップチームの主力になっていく姿を見ることが、サポーターとしては何よりの楽しみであります。

来年もこんな杉森が沢山見たいと思いませんか?

(武者修行に行ってこいとなったらどうしましょうか...)

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絶望から歓喜へ。降格からの一年が教えてくれた「J1にいること」の意味

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2017年11月28日火曜日。このブログを書き始めたことをまずご報告。

まだJ1へ昇格したわけでもなく、次の日曜にもし負ければこのブログはお蔵入り。ただ浮かれているわけではないのだが、私は福岡に勝つ気がしている。勿論彼らのことを侮っているわけではない。それだけ初戦の千葉戦が山場だと考えていた。そこに勝ったのだから、いち早く昇格決定ブログをしたためてやろうという腹黒いブログです(←)。

さて、真面目な話に戻す。私が書きたかったことは勿論グランパスのこと、そして初めて経験した「J2プレーオフ」のこと。こんなにサポーターが緊張する試合ってあるんですね。このプレーオフで見たこと、感じたことを書いていきます。

時は戻って2017年11月26日(日)。場所はパロマ瑞穂スタジアム

スタジアムに入った際、まず驚いたのがアウェー側を埋め尽くすジェフサポーターの黄色一色の光景だ。

「これがプレーオフか...」

観戦に来た私まで一気に緊張感が増したのは言うまでもない。勝てば明日以降も希望を持つことを許され、負ければ夢が潰える。少なくともまた一年間のJ2生活。勿論昨年のように、例えばこの試合に負けても降格するわけではない。ただ結局上のカテゴリーに上がれなかったという事実にだけ目を向ければ、状況は今年の初めと何ら変わらない。

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ピッチでの練習が始まり、誰もが驚いた光景、それが宮原和也の練習内容である。通常であれば最終ラインの中央を守る選手だけに課せられるトレーニング。それに彼も参加している。グランパスはシーズン最後の9試合、7勝1分1敗の成績で駆け抜けた。その原動力であったシステムを、この負けられない試合で投げ捨てたことは、図らずも私達に不安ではなく、「風間八宏が遂に動いた」と大きな期待を抱かせた。それはやはりどこかで二週間前のあの敗北を誰しもが引きずっていたからではないだろうか。プレーオフまでの一週間、私達の話題は千葉に対して同じように正攻法で挑むのか、それとも風間八宏が「何か仕掛ける」のか。その一点だった。

試合に関しては「名古屋がシモビッチ目掛けてロングボールを...」など、いかにも普段全く選択肢にないような言葉がどうしても踊る訳だが、この点に関しては二週間前、完膚なきまでに叩きのめされた際、風間監督はこうコメントしている。

今日の場合は、中盤で繋ぐ必要がないので

何故ボールを持つのか。正確な技術が必要なのか。それは「相手を見るため」であり、決してどんな状況でも細かく繋ぐためではない。なのでこの点に関して、風間八宏が理想を捨てたという解釈は個人的にはどうにも腑に落ちない。

むしろ驚いたのは千葉が後方からビルドアップを始めたときである。システムを変更したことで千葉の選手達の配置に対しミラーのように一人ずつマークする名古屋の選手達。

この一年間、名古屋のサッカーには「前から奪いに行く」ことが重要だと言われ続けた。しかし蓋を開ければ毎試合毎試合相手の配置など関係なく守備を始める姿がそこにはあった。対戦する相手の情報など知らされず、その日までに学んできたことを裸のままぶつけてこいと送り出されているような。そんな感覚に近い。相手が名古屋に対し戦術武装していようが彼らは何も知らされず、自分達の力だけを信じて相手と向き合うしかなかったのではないか。

ただこの試合は違った。

明らかにこの一週間、千葉というチームをイメージして練習を重ねてきたであろう名古屋の選手達の姿。迷いのないプレー。二週間前ビルドアップを破壊されたチームは、その相手のお株を奪う形で彼らのビルドアップを破壊し、ゲームの主導権を握った。勿論それは「相手の良さを潰す」ためではなく、「自分達の良さを活かす」ためである。

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シーズン中、試合前には決して選手達に地図を見せず、進む道は試合の中で自ら導き出せと、とにかく選手の自立性に拘った指揮官が見せた勝負師としての采配。カーナビとまではいかないものの、事前に地図で目的地を把握し、そこに至るまでの経路を検討したうえで試合に臨んでいるようなそんな采配。なんとも風間八宏らしいではないですか。だってカーナビではないのだから。最後は自分達次第。

そう、この人は険しい道に遭遇したときの為に、それを乗り越えられるような技術は教えてくれる。ただ決して「この道を進め」とは言わない。考えて行け、行ってみてまた考えろ。ただ今回ばかりは「この道を進むとこんな難関が待ち受けているぞ」と事前に教えてくれていたような。また少しでも選手達が歩きやすいように道具も授けた。それらを駆使して教えてきた技術を最大限活かせと。

ただ何度も言うがこの人は決してカーナビにはならない。なれない。ルートを事前に案内するなんて絶対にやらない。また予期せぬアクシデントで「その場に立ち止まり耐え忍ぶ」という行為は苦手な人だ。どんな困難が立ち塞がろうとも突き進めというのが風間八宏である。このプレーオフで、私達は彼の新しい一面、彼のもう一つの素顔を知ることになった。普段は自分達で歩を進め、気づき乗り越えろという人間が、事前に地図を広げ道具まで持たせた。それが彼にとっての「目先の勝ちにこだわる」術なのだ。

さて、1点リードされ迎えた61分、田口泰士が値千金の同点ゴールを入れる。スタジアムが歓喜に包まれる中、ベンチの前に出来た歓喜の輪の一番下で、最後まで泰士に抱きつかれていたのが楢崎正剛である。シーズン終盤、出番を失っても常にムードメーカーとしてチームを引っ張ってくれたナラさん。そんなナラさんの姿を見るたびにサポーターは胸打たれたものです。そんなに明るく振る舞わなくてもいいのに。無理していないかと。泰士は試合後のコメントで、昨季の最終戦のことが心に残っていたと語っている。

それもあったので、得点後はナラさんのところに走っていった

二人の「元」キャプテン。そして彼らは私達そのものだ。昨年降格が決まった際、二人のどちらかでも失っていたら今のグランパスはなかったのではないか。これだけ選手が入れ替わってもグランパスグランパスのままでいられたのは、間違いなく彼ら二人の存在があったからだ。だからこそこのシーンには二人の、そして私達の1年間が詰まっていた。

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試合に戻る。ロスタイム。青木が倒されPKを獲得した瞬間、おそらくあの場にいたほぼ全ての名古屋サポーターがこの試合に勝ったと確信したでしょう。そういう私もその一人。ロビンのPKが決まった瞬間はもうそれなりに落ち着いていた。

だからこそゴールと同時に試合終了の笛が鳴った瞬間、悔し涙とともにしゃがみ込むキムボムヨンの姿が目に飛び込み、複雑な気持ちになった。私達は生き残り、彼らの夢はその瞬間潰えた。

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帰りの名古屋駅での光景。多くの名古屋サポーターとともに、多くの千葉サポーターの姿がそこにあった。明日もJ1への想いを馳せることが出来る私達と、敗北した現実、そして来年のチームはどうなるのかと不安に苛まれる彼ら。その日の朝までは同じ立場であったにも関わらず、一夜にしてはっきりと明暗が分かれるこのシステムの恐ろしさ。

勝戦線に絡まずともJ1の舞台に踏みとどまれたチーム、逆にJ2の舞台に「落ちてしまった」「残ってしまった」チームとでは天と地ほどの差があることを私達は知っている。このチームで誰が残ってくれるのか、誰が上のカテゴリーから引き抜かれそうなのか。この日からまたその現実が始まるのである。勿論今まで歩んできた道のり、チームの規模、予算、ライセンスの有無によってJ2というカテゴリーの捉え方は異なる。ただ少なくともJ1をそれなりに経験してきたチームからすればこれが現実だ。J1という頂上へ向かって、プレーオフという名の梯子を差し出され掴んで這い上がろうとしていたにもかかわらず、そこから急に崖に落とされる。プレーオフとはそういう舞台なのだ。

昨年まで当たり前のようにいたJ1。そこに戻る為にどれだけ険しい道を歩み、どれだけツラい思いをしただろうか。

降格、そして次々と名古屋を去っていく選手達。そんな沈没寸前のグランパスにやってきたのが佐藤寿人だった。今更ながら、よくあの時期に名古屋に来る決断が出来たと思う。チームが壊滅的だったあの状況で、最初に名古屋に来る決断をしたのがサンフレッチェ広島の顔、佐藤寿人だった。

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ゴール以外の部分でもチームの勝利のためであれば、何でもやる覚悟です

あの、今は本当に苦しい状況だと思います。ネガティブな情報もたくさんある中で、「グランパスはどうなっちゃうんだ」という心配事の方が多いと思います。でも苦しい時にどれだけのことが出来るか、そこに人間としての本質が出ると思うので、ぜひ多くのグランパスを愛するファン、サポーターの皆さんに一緒になって戦ってもらいたいと思います

いつまでも起こってしまった「降格」というネガティブな事実にばかりああだこうだと言っても、落ちてしまったことは事実ですし、いかにこれから明るい未来に向かって歩いていけるかってことの方が大事だと思います

寿人は当時真っ暗闇の中にいた私達に光を差してくれた希望そのものだった。

また彼は移籍会見の際このようなコメントも残している。

出ていく選手がすごい!みたいに書かれているけど、いやいや入ってくる選手も決まっているのに何で書かれていないんだろうとか。(中略)この降格が決して悪いものではなかったというのを、これから選手全員で証明していきたいですし、フロントスタッフはじめ、クラブ全体がそういう思いでいると思っています

このキャプテンを絶対にJ1の舞台に、「名古屋グランパスのキャプテン」として戻してあげなければいけなかった。「諦めるな」「今から始まるんだ」。このチームに魂を宿し、サポーターの心に灯をともしたのは紛れもなく寿人である。

J2が私たちに教えてくれたこと、それは「J1の舞台がどれだけ尊いものか」である。例えば単純に上のカテゴリーにいられるのが楽しい。いや実際はそんな甘いものではない。下に落ちれば応援していた選手達を失う可能性があるのだ。それがどれだけサポーターにとってツラいことか。毎朝起きる度に家族だった人間が一人、また一人と家を出ていく報を知る過酷な現実。だからこそ何が何でも上のカテゴリーに上がりたいのだ。しがみついてでも、もう離しては駄目なのだ。

2017年11月29日(水)21時38分。名古屋公式からプレーオフ決勝に向けて、小西社長からの直筆メッセージが発信される。

この一年、皆で手と手を取り合いながら、初めて登った険しい山の上から、また新しい景色を見るために

メッセージも嬉しかったが、個人的にこの前日、風間八宏に関して似たような例えで表現していただけに、社長のこのメッセージがなんだか妙にしっくりきた。そう、これは私達だけではない。戦った選手達もまた、初めて登るような険しい山だったに違いない。このメッセージを読んだ誰もが、新しい景色をこのチームと共に見るのだと改めて決意したのではないか。このタイミングで直筆のメッセージ。なんとも粋な計らいだった。

2017年11月30日(木)21時55分。名古屋公式がプレーオフ決勝動画を発信。

あとひとつ。想いはひとつ。

2017年12月2日(土)。川崎フロンターレが悲願のJ1初優勝を決める。

風間八宏と共に等々力に乗り込みたいという願望。それが叶ったときにはJ1王者として立ちはだかることになる川崎。その舞台を想像するだけで昇格への想いが強くなる。大きなモチベーションになる。明日は私達が歓喜の涙を、そう思わずにはいられない。

 

そして迎えた2017年12月3日。

 

私達はJ1の舞台に返り咲いた。

 

泰士が泣いていた。どの選手も泰士に抱きつき、声をかけていた。

楢崎正剛は試合後、泰士に去年のことを背負わせてしまった後悔、ピッチ上で助けになれなかったことを悔いていると語った。

降格からの1年間。苦しかったのはサポーターだけではなかったのだと改めて痛感する。名古屋グランパス史上初のJ2降格。そのシーズン、キャプテンマークを腕に巻いていた男が、誰よりも安堵し、涙を流していた。

彼は試合後にこうコメントした。

ファン、サポーターのために闘うと決めた1年だったから

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もう一つ試合後の光景から。今年の名古屋を象徴するチャント、それが「風」である。

試合後、サポーターと選手がともに歌う姿は見慣れた光景だ。ただこの日驚いたのは、大型スクリーンに映しだされた風間八宏の姿。サポーターと共に歌う彼の姿だった。

昨年彼は川崎フロンターレでの最後の試合、天皇杯決勝に敗れ、無冠のままチームを去った。そしてこの日の前日、その川崎が悲願のJ1初優勝を成し遂げた。

勿論私達はJ1で優勝したわけでもなければ、J2で優勝も出来なかった。

ただそれがJ1昇格という結果でも、私達はこの一年、その結果だけを欲していたのだ。それで十分だった。川崎だけではない。彼のこの1年もまた同じように報われた気がして、名古屋サポーターとしてはなんだかとても嬉しかった。

福岡のことにも触れておきたい。

勝者がいれば勿論そこには敗者も存在する。歓喜の涙の横には、必ずもう一つの涙がある。

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グランパスサポーターは、試合後名古屋の選手達に拍手を送った福岡サポーターの姿を忘れないでしょう。逆の立場だったとき、私達は同じことが出来ただろうか。

福岡の選手も、サポーターもまた、同じようにこの一戦に賭けていた。ただ彼らはこの日の勝者を、J1に昇格したチームを称えることを選択した。決勝に相応しい相手、そしてサポーターであったことをここに書き記したい。

さて、サポーター一人一人にどうしても昇格したい理由、想いがあったのではないでしょうか。

個人的には新井一耀に触れておきたい。私が何より嬉しいのは、彼の復帰の舞台にJ1という名のステージを用意出来たこと。勿論まだ去就は不透明である。ただ私は彼が赤いユニフォームを纏ってJ1のピッチに帰ってくることを期待してやまない。これは全名古屋サポーターの総意ではないだろうか。あの怪我が起こるまで、名古屋グランパスのディフェンスリーダーは疑いなく彼であった。どうか安心して帰ってきてください。

最後に小林裕紀のことを書いて終わりにしたいと思う。「上手くなるため」。それが彼が名古屋に来た理由である。ただどうにもそれが解せなかった。そんな漠然とした理由で、残留を勝ち取ったチームのキャプテンが、下のカテゴリーに蹴落とした当時のライバルチームにわざわざ来るのかと。

シーズン終盤、親愛なる新潟サポーターの方から一冊の本を受け取る。「アルビレックス散歩道2016」。えのきどいちろう氏の一年間のコラムをまとめた大作である(名古屋にもこんな本が欲しい)。驚きました。小林裕紀が何度も泣いているんです。あのファンサが不愛想で、エンジンかける音が異様にデカい、キャプマの締め方に妙に拘りのあるあの小林裕紀が、この本の中では苦悩していた。キャプテンとして結果を掴めない日々に、満足なプレーが出来ない自分に。あれで誰よりも繊細で、責任感が強い男なのだと知るには十分な内容で。実は彼、昨年の瑞穂での名古屋戦の後、新潟サポータの前で涙を流していたらしい。自分の不甲斐なさに。

今年の3月4日、豊田スタジアムで開催された第2節、対岐阜戦。前半33分で交代を余儀なくされた彼の後姿を、メインスタンドからずっと見ていた。次に彼に出番が訪れるのはここからもっと先、6月10日、第18節対東京V戦。実に約3ヶ月間、彼はここ名古屋でも苦悩していた。上手くなりたいと願い名古屋に来た男が、何より上手いことを評価する風間八宏の下で3ヶ月間も出番がなかった事実。

プレーオフ千葉戦後、風間八宏小林裕紀のことを相棒の田口泰士とともにこう評している。

泰士は我々のモーター。(小林)裕紀と2人がウチの心臓部なので

挫折。苦悩。そして華麗なる復活劇。それらを全て見ることが出来た私達は幸せ者だ。そう、彼は誰よりも上手くなりたいと願い名古屋に来たのだ。そして彼が一歩ずつ歩みを進めてきたその道のり、その姿を忘れることはない。

前述した東京V戦、彼はCBを務めていた。それからボランチに返り咲くまで、彼の自主練は毎日酒井隆介と一緒だった。ロングボールを蹴ってもらい、ヘディングで跳ね返す練習。酒井にアドバイスを求めながら何度も、何度も。今思えばそのエピソードに彼の生真面目で繊細な性格、そしてどんな形でもピッチの上でチームに貢献したいという責任感、上手くなりたいという想いが込められていた気がする。

それから数か月後、彼はピッチ上での私達の心臓、モーターとなった。これからは贅沢なことに、J1の舞台で彼がここから更に成長する姿も私達は見ることが出来る。

改めて名古屋に来てくれた偉大なる副キャプテン、小林裕紀に感謝を。

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ここから年末にかけて選手の去就に関するリリースも出始める。喜べるものもあれば、きっと悲しいものもある。ただこの年末はきっと喜べるものが多いでしょう。「解体」ではなく「強化」。それがどれだけ夢に満ち溢れているか。

試合後、名古屋公式が掲載した小西社長の言葉。

「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。

 唯一生き残るのは、変化できる者である。」

昨年末、悔しくて、苦しくて、涙したあの日々を乗り越え今がある。だから今年ばかりは、昇格出来た喜びを噛み締めながら年末年始を過ごしてもいいのではないでしょうか。グランパスサポーターの皆様、一年間お疲れさまでした。

来年またスタジアムで、

このチームと共に、

J1の舞台で集結しましょう。

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