みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

「可変」〜美しい、その響き〜

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行けるときに一気に行かないと駄目。

長谷川健太氏(以下、健太さん)が名古屋グランパスの監督に就任した際、FC東京時代をよく知る知り合いから真っ先にかけられた言葉がコレである。

その言葉を携え、まさに行けそうなので一気に行こうとした2023シーズン。しかし、まさかまさかの大失速。終わった、そのターン終わった。ここからは、巷で噂の健太カーブを描き年々成績が降下していくのだろうか。

オフになるとチームの中心として活躍した選手が一人、また一人とクラブを去っていく。丸山祐市中谷進之介、森下龍矢、藤井陽也....これが以前に健太さんが語っていた「代表クラスを抜かれると同等レベルの選手は獲れないから三年目くらいからキツくなる」現象か。見事なまでに予想通りの流れなだけに、改めて「行けるときに行っとけ」の言葉が重くのしかかる。先人は偉大。

しかし、一方でフロントは興味深い動きも見せていた。

 

就任三年目にして予想の斜め上をいく新顔の嵐

それが、超積極的な補強策。

これだけ選手が抜けたのだ。当たり前といえば当たり前。しかし就任三年目でこれほど選手が入れ替わるとは斜め上。2016年に降格、ほぼ知った顔が抜け選手をかき集めるしかなかった2017年を思い出す程には新顔の嵐。

正直にいえば、抜けた穴を埋める程度では健太カーブを描くだけだと思っていた私的には、むしろこれくらい顔が変わった方が面白いのだが。一部の他サポの方々には、「名古屋ヤバすぎだろ」とこの動きを揶揄されたりもしたが、いやいや健太さんで長期政権を築くのならこれは悪くない動きだ。名古屋だから成せる芸当と言え。

かくして今季のスカッドが確定した。

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予想フォーメーションでも考えるかと妄想を始めた俺。なるほどこれは優勝だ(シーズン前全サポ風物詩デタ)。しかし、ここで大きな疑問に気づいたのだ。

 

山中と小野は死ぬまで(死ぬな)走れるのか問題

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2023年の名古屋の基本システムは3-4-2-1。5枚で壁を築いて森下を鬼のように走らせるこのシステム。つまり、ウイングバックに求められる大前提は圧倒的な走力だ。しかし、代わりにやってきたのは山中亮輔と小野雅史。どちらも左足を武器とし、ビルドアップを得意とするタイプである。加えてウイングバック適性があるとも言いきれず(小野は未経験)、森下の代わりにしてはえらく異なる特徴の選手を捕まえたものだと思った。

だったら彼らの本職ともいえるサイドバックの起用では。しかしその想定、今度は逆側の右サイドバックを本職とする人材に難がある。野上結貴なら器用にこなすだろうが、その代わりとなりそうなのが(本職とは言い切れない)内田宅哉という時点で、明らかにこのポジションの補強が後回しであると気づくはず。また、それなら個人的には成瀬竣平を推したいのだが、悲しいかなそもそも健太さんの構想に入っているのかすら怪しい。

nagoya-grampus.jp

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なぜ、ウイングバックの補強が山中と小野なのか。

これが(個人的に)このオフ最大の謎であり、最も興味を抱かせるポイントだった。今季を予想する際に、彼らの獲得をどう解釈するかがなにより面白い部分のはず。

そもそも「謎」と表現してしまう理由は根が深いのだ。

 

健太さん良くも悪くも古風やんという固定観念

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あくまでも個人的な見解だが、健太さんの戦術にはそこまで柔軟性はないだろうとタカを括っていたのがその理由である。つまり、最終ラインが3枚なら3枚、4枚なら4枚と「型ありき」になるだろうと思っていたのだ。とはいえ、前述の通り3(ウイングバック)なら適性に疑問が残り、4なら右サイドバックの補強がないことが疑問だった。だから、謎。その意味でいえば、私の健太さんに対する評価(見方)は思っていた以上に冷めた部分もあったのだろう。単純に彼の人物像であったり、マネジメント能力や決断力、もちろん若手に対する接し方(育成能力)には感心しきりで、絶大な信頼がある。ただ、一方でピッチ上で作りあげるフットボール自体はどうにもクラシックな印象があり、その要因の一つが「柔軟性の無さ」に起因している部分は大いにあると思う。

気づけば過度な期待(妄想)を抱くこともなく、良くも悪くも過去からの「現実路線」で判断をしていたのだ。

よって、おそらく今季は「脱マテウス後」の仕切直し。要は調子の良かった昨季前半戦の形を(今季のメンバーで)どれだけ復元できるか、になるのだろうと思っていたし、個性が変わることで多少なりともプラスアルファが生まれてくれれば御の字だと考えていた。とはいえ、正直にいえば、そういうアプローチこそが成績を降下させる原因になりえるのだと思っていたし、一つの型に縛ることで、結果的に死んでしまう個性もあるのだとすれば、それは一人のファンサポーターとして悲しかった。

楽しみだが過度な期待はしない。これが本音だった。

 

俺の見込みの甘さよ恥を知れ!!!!!!!

ただ。

ただ(二度目)。

どうやら、この予想が大外れになりそうなのだ......

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「可変」......。......「可変」、だと......!?!?!?

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間違いねえ!「可変」って書いてあるぞおい(くどい)

昨今のフットボールにおいて、もはやベーシックに装備されつつある可変システムだが、正直いって健太さんのチームに(とりわけ保持の局面において)可変とのワードがでるのは驚きだった。やっぱり嘘なんじゃねえか?

新聞......もう一度その新聞寄越せ。もう一度だ。

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「可変の新布陣」......素敵。優勝だ(言いたいだけ)。

そもそもまだ観てもいなければ、情報漏洩の観点からもこれ以上の言及は避けるが、どうやら健太さん、名古屋初年度ならともかく、三年目にしてお初にチャレンジしているらしいのだ(地元紙でも大々的に「可変」の文字が踊っている)。凄い。これ、健太さんにとっても今後の監督キャリアに影響するほどの分岐点でなかろうか。

ちなみに一言で「可変」といっても、いやいや試合が始まれば常に選手は動くわけで様々に可変はする。これまでの名古屋にだって仕込まれた可変は存在しただろう。ただ、今回フォーカスしている「可変」は、より明確に分かりやすい形としてピッチで表現されるものである。


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思えば、新体制発表会のコメントは印象的だった。

「このままでは優勝出来ねえなと思って」

あのときは、会話の冒頭、オッチャンのウケ狙い程度の台詞だと流していた(失礼)。ただ、実際にわざわざドイツまで出向き、ボルシア・メンヘングラードバッハと1.FCケルンの練習見学をし、同行した竹谷昂祐コーチに至ってはバイヤー・レーバークーゼンに行ったらしい。

健太さん(とその仲間たち)といえば、昨年からスリーバックの研究に余念がなく、シーズン前には各国のスリーバックのチームを死ぬほど観たと、クラブ公式ドキュメンタリー「INSIDE GRAMPUS THE DEEP」でも言及があったばかり。そもそも健太さん、全然海外の試合は観てなかったけど、スリーバックを始めてから興味が湧いたと以前に話してたっけ。「戦術も細かくなった」とは選手談。そこにきて今度はドイツ遠征ときた。

このままじゃ優勝出来ねえこのままじゃ優勝出来ねえ。

分かった....きっとこれ本音で言ってんな(今さら)。

これさ、実はめちゃくちゃ重要なエピソードなのでは。今のままでは優勝出来ない、そう心から思えた事実が。ならば、仮説の域をでないものの、一つの可能性として昨季途中からの大失速が相当堪えた説で考えてみたい。

 

開幕から全てがうまく転がりすぎた故の落とし穴

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これは裏を返せば飛ぶ鳥を落とす勢いだった前半戦に、それだけ手応えがあった証拠でもある。但し、それがたった一つのピースを失っただけで瞬く間に機能不全と化した。全ての歯車が狂ったのだ。森島司を獲得したものの、「型ありき」であの手この手で無理くりハメ込んでも一向にしっくりこない現実。もちろんシーズンど真ん中(の待ったなし)な状況では仕込むにも限度があり、そこに同情の余地があったのは以前に書いた通りだ。とはいえ、(健太さんの言葉を借りれば)一丁目一番地の選手だとしても、それだけでチームが壊れてしまうメカニズムには誰もが大きなショック(と失望)を受けた。

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では、あのとき、何が一番問題だったのか。

自分なりに一言でまとめてしまうと、「戦い方に幅がなかった」ことに尽きる。一点特化型に問題があった。

固い守備からカウンター。名古屋の武器はスリートップ。この分かりやすい代名詞を機能させていた一丁目一番地こそが、マテウスカストロだ。低い位置で奪っても、マテウスにさえ預ければ起点ができる。前にいる二人(キャスパーユンカーと永井謙佑)は迷いなく走りだし、後方から加勢してウイングバック(森下)も躊躇なく後を追った。どれもこれも可能にしていたのは「奪われない、前が向ける」マテウスの個性があってこそだ。

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また、そういった名古屋の個性、つまり「相手ゴールにダイレクトに向かっていくフットボール」を展開できる『毛色の近い選手たち』でパズル(組合せ)を見事組み合わせた健太さんも、完璧に近い仕事だったと言える。

だからこそ、皮肉にもそれが大きな落とし穴となった。

エンジンを失った途端に大失速。試行錯誤もした。森島司が同じ毛色に染まることを願い、彼個人への期待と同時に、何度もパズルを組み替えてはチームよ好転してくれと願ったわけだ。しかし、結果は知っての通り。最後まで理想の姿には辿り着かず。そもそもこのアプローチに限界があったことは、誰の目にも明らかだった。

現在の取組みは、間違いなくこの反省の先にある。

 

多様な個性よ集まれ(ボール保持も大歓迎)

今季のポイントに関しては、二つにまとめてみたい。

一つは、毛色を「揃える」のではなく、あえて「異なる」多様な個性を前提とし(組み合わせ)、フットボールの幅を広げること。昨季のように、ダイレクトなフットボールを得意とする面々だけで揃えない。その中に、例えばポゼッション(つまり、ゆっくりと攻撃すること)が得意な個性もあえて組み合わせる。問題は、誰をどのように組み合わせるのが最適解か。このパズルを組み立てるのは言うまでもなく健太さんだ。なお、この点は前述の通りマテウス離脱後にカウンターの術を失い、攻撃の手札自体を失ってしまった苦い経験に起因した変化だと考える。健太さんが強化部にリクエストした内容はこうだ。「特徴のはっきりした選手を揃えたい」。

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二つ目は、そういった多様な個性をピッチに配置する(繋げる)うえで、ただ型にハメて並べるだけでなく、より各々の個性が発揮できるようチームとしてのガイドラインを設けることにある。それぞれのポジションごとに画一的なタスクが与えられるわけではなく、あくまで前提は選手の個性を尊重したタスクとなる。ゆえに、それらをチームとしてどう機能させていくか、より戦術的で(つまり)具体的な落とし込みも(選手の組み合わせと同時に)進めていく。竹谷コーチに全力で祈れ。

今季の目指すフットボールを、森島はこう表現した。

「特徴に秀でる選手を活かすのが今の戦術」

ズバリこれだろう。そもそもの方向性があって、そこに波長があう選手たちを「揃える」のではない。あくまでも選手たちの個性が前提にあり、その異なる個性を「活かす」ために組み合わせを考える。チーム戦術を考える。当然、チームとして譲れないベース(二年間で積み上げたもの)はあるだろう。ただ、とりわけ「ボールを保持するフェーズ」においては、そもそもの発想からして大きなメスを入れていることは間違いない。

なお、その文脈においての不安要素も挙げておこう。

 

結果的に唯一無二になり得る森島司の個性

一つは、中盤のキャラクターが似通っている点。

稲垣祥米本拓司、内田宅哉、新加入の椎橋慧也。どの選手もボールが狩り取れ、どちらかといえば「縦」に力強い選手である(内田のキャラクターは多少異なるが)。ゆえに、仮に(当初からすれば予想外にも)「ボールを動かせる」選手が重宝された場合(要は吉田温紀だ)、彼に似通ったキャラクターの選手が見当たらないのは気掛かりだ。そう考えると、一年で名古屋を去った山田陸はもう一年我慢しても面白かったのではないか。

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もう一つ、今季の期待の選手として、健太さんは「森島司」を挙げている。その言葉の通り、これまでの報道を見聞きする限り、どうやら本当に今季は森島司のチームになる可能性が高い(このまま上手くキャンプが進めば、だが)。要は、彼がこのチームの攻撃でアクセントをつけるキープレーヤーとなる。その場合に、彼のキャラクターもまた現在の名古屋では唯一無二であることは気になる点だ。「なんだ結局はマテウスのケースと同じじゃねえか」とならないためには、個性が抜けて穴になるのではなく、「個性が変わることでチームにも変化が生まれる」循環を作ることが重要な要素となるはずだ。森島ならこれが出来る、和泉竜司になればこれが出来る。同じタスクで縛るのではなく、個性に応じて色が変わる。その変化にチームが呼応する。今季のチームは、そうでなければならない。目指す方向性は、それだ。

キャスパーと永井、山岸祐也とパトリック(酒井宣福)、久保藤次郎と中山克広、和泉と倍井謙。

各ポジション毎に、ある程度は似たタスクをこなせそうな個性は揃えている。だからこそ、「代替不可」にみえる森島や吉田のような個性(キープレーヤーの箇所)を、年間でどう運用するかが腕の見せどころにもなる。

 

今んとこ満点!いやまだ何も始まってないけど!

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さあ、今季のこの取り組み、果たしてどうなることか。

伸るか反るか。駄目だったときは「この期待返せバカヤロー」と笑ってやるんだ(悲しみに暮れながらだけどな)。ただ、もし成功した(この賭けに勝った)場合は、健太さんにとっても監督としての評価をさらに何段階も上げるターニングポイントになる可能性がある。「新しいものを貪欲に取り入れ、変化を恐れない監督」と言われること待ったなしになる可能性が。ていうか、良いんですよ今はこれで。最終的に当たろうが外れようが(いや外れたら困るけど)、プレシーズンで一番大事なのは「どれだけファンサポーターの期待を煽れるか」なのだ。現状は満点!その取り組み、まだ取り組みの段階だが満点あげる!何も観てないのにこれだけの文字数を割かせた健太さんのチャレンジとりあえず満点!!!

上にある予想フォメ、もう全然違ってきてるけど教えない、今の名古屋を俺教えない。つまり分かりますか。何が言いたいか結論書きます。長々と書いてるけどそろそろ結論書きます(二度目)。要はこれが言いたいだけ。

どう転んでも三年目の今が最もアツい。健太がアツい。