みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

“結果”を得るために、何を選ぶか

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この記事がめちゃくちゃ面白かった。

アカデミーは「結果より育成」。でも、育成のためにはトップカテゴリーにこだわりたい。だから、(苦しいシーズンを過ごす今は)結果を取りにいく。課題は守備の立て直しにあり、そのための5バックへの変更。葛藤。

これを読み、真っ先に思い浮かんだのはトップチーム。

直近の8試合で3分5敗。たしかに重症だ。順位は12位、降格圏とは(現状)縁もなさそうなのが唯一の救いか。

ただ、ツラいのは応援するファンサポーターだ。

トップチームこそ「育成より結果」。負けて、負けて、勝てると思ったら毎度のように追いつかれる。同じ光景の繰り返し。だから、時にこう揶揄される。「目の前の一試合にこだわっていない」と。勝つためにやれることを、このチームは全部やっているのか。そんな憤り。

この指摘は、あながち間違っているとも断言しづらい。

例えば直近で戦った第25節のガンバ大阪戦。また、その後の第26節サンフレッチェ広島戦のホーム二連戦。


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攻め込まれる展開の中、パクイルギュがスーパーなセーブの連続で救い続けたこの二試合は、力の差というよりむしろ「構造(噛合せ)で殴られている」印象だった。

つまり、他にやりようがあったのでは、ということだ。

そもそも、これまでのサガン鳥栖はそれが売りだった。それ、とは「相手の形(型)に応じて自分たちの形も変化させる」ことにある。3バックに4バック。まさに変幻自在なシステム変更は、主に相手のビルドアップに対抗した策だった。どの選手も自分の標的(相手)を明確に、そして矢印は常に前向きであるように。相手の型に対して最も噛み合わせのよい己の型とは、つまりこういった「鳥栖らしさ」が前提にあって決められていた。

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強いチームは横綱相撲ができるので、自分たちのやり方だけで勝てます。当然、僕も“やりたいことをやる”というのがベースにありますが、それはあくまで攻撃の部分です。守備は相手があるものです。要はプレスのための微調整ですね

(攻撃において常に「数的優位」を作る発想に至った理由)は、選手の質ですね。選手のところで質的優位性があれば、川崎のようにそこで立ち位置を変えずにやれるのでしょうが、僕たちがその部分を見いだすことはなかなかできません。であれば、どうズラすのか。ズラすということはつまり前の人数が足りなくなるということなので、いかに早く動き直して前に侵入するか

特にプレッシングにこだわっているので、ミーティングの半分くらいはプレッシングの映像を出して取り組んでいます

僕らの最大の武器はやっぱりプレッシングだと思うんです。どうすれば相手のビルドアップを高い位置で引っ掛けられるか。それはすごく考えています

エルゴラッソIssue2540掲載「ミョンヒサガンの思考とロジック」からも一部引用

現在の鳥栖の礎を築いたキムミョンヒの言葉である。

たしかに守ってカウンターのスタイルは脱却した。ボールも繋がるようになった。しかし、自分たちの生命線はやはり「狩る(ハントする)」ことにある。それをあえてネガティブに表現すれば、鳥栖はあくまで地方クラブで予算もなく、いわゆるビッグクラブと呼ばれる相手に対しては「挑戦者」の立場であるということだ。どれだけ保持を磨こうとも、規模の大きなクラブと渡りあうには「奪う」ことに注力しなければならない。それが、彼らにとってトップカテゴリーで生き残る生命線だった。

しかし、今季の鳥栖にはその様子がない。

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それが、「鳥栖らしさ」を感じさせない、ときに、なす術なく敗戦を喫するような印象を与えている。

ここで疑問があるとすれば、何故ここまで4バックにこだわるのか、である。鳥栖お得意の「ハント」の威力も、今季は随分とおとなしくなった印象だ。また、保持における鳥栖といえば、一人で二人分、いや三人分は走って常に数的優位を作りボールを前に運んでいくのが真骨頂では。試合の中でいくつもの陣形を駆使するのも、鳥栖が誇る運動量を存分に活かしたやり方だった。

しかし、そういった攻守におけるアグレッシブさを、今季の鳥栖から感じづらいのも確かかもしれない。

ここで思い返すのは、川井健太監督のコメントである。

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我々はやはり川崎さんを見習いたいと思っています

一番したいのは横綱相撲です。相手が何を出してこようがドンと受け止めてはね返す。相手はお手上げで、土俵に上がる前から“勝てないな”と思わせるチームにしたい

横綱相撲」っていい言葉だなと思っていて。僕のイメージですけど、1回、受けて立つと。どんな技でも来いと。で、全部返すみたいな。動じない。横綱がいきなり猫だましから入るかというと、絶対にない。でも、横綱相撲ができるには圧倒的な力が必要なんですよね。力がないから、二の手、三の手からいくというのは、僕はあまり好きではないので

エルゴラッソIssue2622掲載「川井健太という男」からも一部引用

偶然にもお互いの口からでた「横綱相撲」の言葉。

ただ、それをあくまで理想だと解釈するか、そこを目指したいと解釈するか。この違いはあまりにも大きい。

川崎のようには出来ないのか、それとも見習う、のか。

昨季、J1への残留が確定し、川井監督の契約延長が決まってから4バックをメインシステムとする挑戦は始まった。「(例え数的不利でも)味方と協力して守備をすること」「(だからこそ)奪った後にあらかじめ前線に枚数を残せる仕組みを構築すること」。つまり、これらは『相手がどんなやり方できても圧倒できるものを身につけたい』とコメントした川井監督の言葉に沿うものだ。

そうして迎えた今季の開幕戦。


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1-5。大きな期待をもって迎えられたホーム戦、そして目を覆いたくなるこの現実が、今思えば鳥栖の歩む道を決定的にしたように思う。このままではいけない、と。

本格的にJリーグに到来した、ハイプレスの波。

マンツーマン気味に押し寄せるその波は、「後方に人数をかけて相手をズラす」鳥栖の長所をむしろ短所に変えた。ズラすために後ろが重くなる(人数をかける)ゆえ、相手の矢印は強く前に向かう。ズラそうにも各々が狙われ(標的にされ)、相手に喰われる。ズラすために大きくポジションチェンジをするから、喰われた先に大きなスペースを与えてしまう。それでもボールを運ぼうと前線の選手が降りるから、鳥栖の重心は下がる一方。

徹底したハイプレス。それは本来なら鳥栖の土俵だ。

しかし、むしろ「喰われる側」になるとはなんと皮肉な話だろうか。ではビルドアップなんぞ捨て大きく蹴るフットボールに転換できるか。今の鳥栖にそんなタレントはいない。いや、その転換は、ここ数年で鳥栖が築きあげたスタイルを放棄することを意味するだろう。

であれば、鳥栖が「横綱相撲を目指す」のはむしろ必然ともいえ、もはや不可避だったように思うのだ。

「成長している気がしない。だから面白くない」。

最近そんなコメントも読んだ。ピッチ上から受け取る感想は人それぞれで、その意見も尊重されるべきだろう。

ただ、問いたいのだ。本当に成長していないのかと。


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第27節、横浜F・マリノス戦。

彼らとの試合は、毎回のように真正面からぶつかり合う。そして、だからこそ同じ土俵でボコボコに殴られた。しかし、そんな鳥栖の姿はもう見当たらない。

そもそも、「自分たちの型」にこだわった上で、対等に渡り合えている事実に、果たしてどれだけの人が気づいているだろうか。常にハイプレスをしなくとも、時に4-4のブロックをミドルサードに敷いてゾーンで守れる。選手間の(あまりに極端な)ポジションチェンジ、また、パクイルギュのビルドアップ能力に頼らなくともボールの前進も可能だ。攻撃のファイナルサードでは、執拗に相手のニアのポケットを狙い続け、結果、空いたDゾーン(バイタルエリア)を有効に活用する。

これらは、日々成長してきた成果ではないのか。

ここまでの文脈に一理あるならば、鳥栖は良くも悪くもベーシックなチームに変貌しつつあるのかもしれない。

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鳥栖フットボールは常に「尖って」いた。

2021シーズンのキムミョンヒ体制時では、攻撃になるとストッパーの中野伸哉が大外に張り、5レーンを駆使した位置的優位性を確保する超攻撃的なフットボールを展開した。2022シーズンの川井体制一年目では、両「ウイングバック」の岩崎悠人と飯野七聖が「ウイング」の役割まで担う大胆な発想で新たな可能性を提示した。毎シーズン、「今季の鳥栖はどんなフットボールをするんだろう」そんな玉手箱のような期待と驚きがそこにはあった。同時に、それらのアイデアを生み出した源泉が、傑出した“個性”にあったことも忘れてはならない。

翻って、今の鳥栖はどうだろうか。

(ネガティブに表現すれば)そういった「奇を衒う」ような大胆な発想(戦術)を駆使しない、ある種の本物の強さが求められているのかもしれない。つまり、選手の個性に依存した戦術でもなく、或いは、ひたすらに“狩る”(つまり相手に合わせる)ことを追求した戦術でもない。純粋に“保持”としてのベース(基礎能力)を高め、そのうえに個性がのってくるようなスタイルへの転換。

川井監督は「タイトルが欲しい」と常々話していた。

それは、裏を返すと「残留を目指した戦い方はしていない」とも受け取れる。長いシーズンを通してリーグでの優勝争い、或いは、カップ戦でのタイトルを狙うために、果たしてこれまでの戦い方で勝機があると考えていたか。(それこそ、この酷暑の日本において)安定して勝ち続けるためには、もう一歩、“挑戦”が必要だと考えたのではないか。もちろん、その真意は知る由もない。

とはいえ、理由はどうあれまだ足りないものがある。

それが、“結果”だ。

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どれだけ美しい理想をもってしても、或いは、どれだけ魅力的なフットボールを駆使しようとも、最終的に勝たなければファンサポーターの理解は得られない。フットボールの世界において、最も残酷な事実はここにある。悲しいかな、結果に勝るほどの説得力をもつ現実がないのだ。そうやって、夢半ばにして潰えてしまった挑戦が、これまでにどれほどあっただろうか。

今の鳥栖に、大きなジレンマがあるとすればそこだ。

最後になるが、今季の鳥栖は間違いなく成長していると思う。楽な戦い方に逃げず、ブレずにやってきたこと。積み上げてきたもの。それが評価されて欲しい。

ここからは“成長”と共に、“結果”が残ることを願って。