みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

相手の第一線の守備がグランパスの出来を左右する~2017.11.5ファジアーノ岡山vs名古屋グランパス~

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「いやぁ....本当に上手い....」

11月5日シティライトスタジアムで開催されたファジアーノ岡山名古屋グランパスの戦いは1-0で名古屋グランパスの勝利に終わりました。特に前半は名古屋が終始圧倒する展開。冒頭のセリフは試合中、解説の野村さんがふと呟いた言葉です。

先日のブログで湘南や長崎が名古屋に対してどう主導権を握ろうとしたのか書きました。彼らの組織的な守備に名古屋は自由を与えられず、満足なビルドアップをほとんど行うことが出来なかった。では逆に名古屋に自由を与えてしまうとどうなるのか。それが今回のテーマ。この岡山戦、特に前半にその点が凝縮されていました。

では両チームのスタメン。

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岡山は湘南、長崎同様3-4-2-1。私の考えでは今名古屋が最も苦手とするシステムではないかと。ただ試合の様相は前の二試合とは異なる形で動いていきます。

何故「第一線」の守備が重要なのか

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急に「第一線」と書いて理解する方もいれば意味が分からない方もいるかと思います。第一線とは、ボールを保持されている側(この図でいえば岡山側)の最前列の選手を指します。中盤の選手は第二線、最終ラインの選手は第三線です。このあたりの呼称は人それぞれかと思いますが、このブログではこの名称で進めます。さて、一見守備とは無縁に思えるFWの選手達、とりわけこの第一線の選手達が守備においても重要な存在であることは前回のブログでご紹介済みです。特に名古屋のような足元で繋げるチームにはこの第一線の選手達の働きがチーム自体の守備の出来を左右するといっても過言ではありません。ではこの試合、岡山の第一線の選手達の働きはどうだったか。

岡山は名古屋のビルドアップに対して、第一線の選手達が「マンマーク」する形で対応します。赤嶺が櫛引に、大竹がワシントンに、塚川が小林に、関戸が田口に。本来であれば第一線は赤嶺と大竹の2トップが該当するわけですが、今回の場合、この岡山の4人はワンセットに近いイメージです。この4人が第一線。何故なら名古屋のビルドアップで最も危険な中央のゾーンを、ボールをサイドに誘導して塞ぐわけではなく、人が人につくことで対処しようとした為です。ですから名古屋の中央の4人に各々マンマークでつく岡山の4人はこれでワンセット(第一線)のイメージでも違和感はありません。

私がこの試合の岡山を見ていて最も疑問だったのは、「どこをボール奪取の基準点にしていたのか」という点です。噛み砕いて言えば「どの位置にボールを誘導し、どのポイントでボールを奪い取りたかったのか」。特に前半の岡山に関していえば、ここにチームとしての意図や狙いを感じなかった。「枚数を噛み合わせる」だけでした。勿論そこで奪い取りたいという意図はあったのかもしれませんが。

名古屋のビルドアップ部隊に対し、同数の人数をあてる。その背後をボランチの渡邊で埋めるイメージでしょうか。ただ先程の図を見ていただければわかりますが、システムの噛み合わせ上、どうしても名古屋の両SB(和泉、宮原)が浮きます。湘南や長崎はここに同サイドのWGが可変することで対応したわけですが、この試合に関してはこの部分で大きな差が表れます。

SBへの対応の遅れを利用し、そこを起点にフリーの選手、スペース作りをしていくf:id:migiright8:20171106001503p:plain

さて、何故和泉がここまでフリーなのか。ここが最も重要だと考えます。岡山の第一線を担う選手達が名古屋のビルドアップ部隊に枚数をあてているだけで名古屋のボール(パスルート)を誘導することが出来ていない為、そこで奪い取れず名古屋のSBにボールが渡ります。背後で構える岡山の両WB(石毛、パク)からすれば、どのタイミングで前に出ればいいのか、そのきっかけを掴めません。いつ自分のサイドにボールが来るか分からないわけですから。ましてや安易に前に出ればその背後には寿人や青木が控えている。岡山とすれば既にこの段階で後手を踏んでいるわけです。逆に名古屋の立場としたらこのエリアがビルドアップの逃げ道になっています。ちなみにこの場面、丸で囲った名古屋の小林、そこにつく塚川に注目。

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和泉が主導権を握ったこの場面。小林はあえてダイアゴナル(斜め)に走り込みます。すると小林が元々いた位置には勿論スペースが生まれる(斜線部分)。この場面、個人的には丸印で囲った岡山の2トップ(赤嶺-大竹)のポジショニングが気になります。岡山の前の選手達はどうにも人につく意識が強すぎるため、名古屋に先手を取られてしまうと彼らの意図通り人について動いてしまう。この場面でいえば小林についた塚川、櫛引につく赤嶺。全体に名古屋の左サイドに集結させられている割には赤嶺のポジショニングが人を意識しすぎている為、小林が空けたスペース、画面からは見切れていますが和泉の後方にいるワシントンをケア出来るポジションに誰もいません。赤嶺は櫛引を意識しつつも、もう少しワシントンに入った際に即座にケア出来る位置取りをすべきだったのではないかと考えます。

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ワシントンは前述の通り完全にフリー。また小林が空けたスペースがここで活きてくるのですが、岡山の前3人の背後にいる青木までのルートが締められておらず、1本のパスで岡山の第一線の選手達を置き去りに出来る状況が出来上がっています。

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青木に渡った後の場面。岡山は名古屋の左サイドに意図して集められ、そこから右サイドに展開されたことで両ボランチのスライドが間に合っていません。この場面、ワシントンが一度田口を経由していればまた状況も違ったでしょうが、前述の通り小林が意図して空けたスペースを上手く活用することで1本のパスで青木まで通すことに成功。結果的に岡山が守備を修正する時間も奪い取っています。またプレスがハマらないことで岡山の最終ラインは前に上げることが出来ず、青木の前には広大なスペースが生まれてしまいました。

名古屋のように人を出し入れしながら後方から丁寧に繋いでくるチームに対しては、「どうボールを誘導し、どのポイント、タイミングで奪いにかかるか」がチームとして意思統一されていないと、結果的に全ての対応が後手になることが分かるかと思います。勿論枚数を噛み合わせることでボールを奪いきれれば問題はありませんが、そこで奪えないとシステム上の穴を活用される。今回でいえば名古屋の両SBのエリア。ここに時間を与えてしまう、言い換えれば先手を取られてしまう。そうなると名古屋のようなチームは人の出し入れを頻繁に行いながらボールにも多くの選手が絡んでくる為、気づくと例として挙げたシーンのようにスペースや空いている人間を作られてしまう。闇雲に奪いに行く、人数だけ合わせておけば問題ない。それは名古屋が最も得意とする土俵で戦うことを意味します。まだまだビルドアップに難がある名古屋ですが、人対人の繰り返しであれば、前述した手法で相手のプレス網を回避していく力を既に持ち合わせています。また同じように戦って名古屋に打ち負かされたのが岐阜であり山口です。ちなみに次にご紹介するシーンは岐阜戦での名古屋の1点目(田口のゴール ※第一回のブログにて動画掲載)とほぼ同じ形です。

 寿人が中盤におりて和泉がそのスペースを活用するパターン

 

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この場面、中盤におりてくる寿人をフリーにしない為、岡山の右ストッパー片山が寿人のケアに動こうとします。右WBの石毛がチェックに行けなかったのは、おそらく大外で張る和泉をマークする為です。f:id:migiright8:20171106004659p:plain

これもまた同じ理由。岡山の第一線の守備が機能していない為、名古屋のビルドアップの技量が勝り全くボールが奪えません。矢印は岡山の選手が名古屋のどの選手をケアしているか表したものですが、枚数は揃っていてもボールが奪い取れない、取りどころがはっきりしない為厳しくチェックが出来ていません。マークする担当ごとでこれだけ名古屋の選手と距離が開いてしまうのは何故でしょうか。チームとしてどこを基準点として奪いに行くか意思統一がなされていない為、行けばいなされる、空いたスペースを使われるの悪循環を恐れて足が止まっていると考えられます。この場面、プレスがハマっていないと判断した岡山の片山は、寿人につくのを諦め自身の定位置にリトリートする判断をここでします。

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名古屋は当然ながらフリーの寿人を使います。

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結果的に片山は戻ることを選択しましたが、寿人の動きに喰いつき過ぎたことで戻る距離が長く、同時に寿人が絶妙のタイミングでパスをだしたこともあり定位置に戻りきれていません。斜線はそれで生まれたスペース(岡山最終ラインのギャップ)です。そこを和泉が抜け目なく狙ったシーンとなります。

名古屋は最終ラインで回しながら、岡山の守備陣形がどう動くかしっかり認知し、寿人に入れるタイミング、和泉に入れるタイミングを計っています。ですから最も良いタイミング、岡山目線でいえば最も狙われると困るタイミングで急所を突けているわけです。これはシーズン前半戦の名古屋の守備陣もそうだったのですが、守る際に第一線、第二線のラインが機能していないと(相手のボールホルダーにプレッシャーをかけれていない)、最終ラインに5枚並べようが6枚並べようが簡単に相手に背後を取られてしまう。しかもなんでもないロングボール1本で。それだけボールホルダーに対して前向きな状態で時間を与えてしまうと危険だということです。極力最終ラインが晒されるような場面は避けなければなりません。

さて、ここで改めて佐藤寿人についても触れておきたいと思います。

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自らドリブルやボールキープで違いを生み出せる選手ではない為、湘南や長崎戦のようにチームのリズムに狂いが生じるとゲームから消えてしまうのが玉に瑕ですが、チームがプレーモデルに沿って機能していれば実に効果的な動きをします。時にはFWのごとく。時には中盤におりて組み立てにも参加し、隙あらばチャンスメイクも出来る。そしてなにより献身的な守備。爆発力では逆サイドの青木に軍配が上がりますが、こなしているタスクの量、質、そこへのハードワークではまだまだ寿人の方が一枚も二枚も上手。日本を代表するゴールハンターは、この一年で見事なまでに風間サッカーに適合しました。岡山戦の1点目、チャンスメイクをしたのは他でもない佐藤寿人です。

シーズン前、中盤でパス回しに加わり、広島の青山のごとく前線にフィードをし、左サイドからチャンスメイクする佐藤寿人を誰が想像出来たか。また風間さんの守備は「個」それぞれがどれだけ自身の持ち場を相手に侵略されないかが基本ですから(異論は認めます)、そのうえでも献身的に守備が出来る寿人は風間さんに重宝されました。本来はトップで使うべき選手ですが、彼が持ち合わせるインテリジェンスが今のチームでは左サイドにハマった。まさに「偽9番」ならぬ「偽サイドハーフ」。例えばこの場面での動きは秀逸でした。

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青木が前進した段階で岡山のバイタルは完全に空いた状態。寿人が大外でパスを呼び込む動きをしています。おそらくこのタイミングで縦に抜ける動きを選択するとタイミングとしてオフサイド、あるいは相手のCBにスルーパスをカットされる可能性があると判断したのでしょう。岡山の最終ラインの視線が青木に向けられたことを確認した瞬間、あえて縦ではなく中のルートを選択。青木とのタイミングを計りなおす時間を作る、より相手にパスルートを防がれないコース取りをする、なにより相手ゴールにより近い中央のスペースを狙いに行く。まさにストライカーの動きでした。

彼はストライカーであり、サッカー小僧。それは練習の風景を見ていれば分かります。「サイドハーフはボールを沢山触れる。前を向いてボールを受けられる」。これは寿人自身のコメントです。相手DFを背にしてプレーするより、常に前を向き、ボールに関わりながら前方に空いたスペースがあれば見逃さず飛び込んでいく。風間さんが与えたそのポジションは、寿人にとって新境地だったのかもしれません。余談ですが、この試合の得点シーンを演出したトライアングルは佐藤寿人玉田圭司小林裕紀。なんて贅沢なトライアングルだったんでしょうか...。素晴らしい崩しでした。

少々脱線しました。さて最後、名古屋のビルドアップに時間と余裕を与えると質の高い攻撃が生まれることは次のシーンからも分かりますので見ていきます。

「遊び玉」を有効に活用する小林

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このシーン、ボールホルダーの小林は最終ラインの選手からボールを受けると、前方にいる青木と何度かパス交換をして岡山の選手達を名古屋の右サイドに集結させます。

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パス交換を終え青木にボールをはたいた小林は、あえて青木の後方にあるスペース目掛けて動き出しを始めます。小林をフリーにしない為、岡山の塚川が小林をケアしていることが丸印を見れば分かるかと思います。その動きによって、小林が元いた位置にはスペースが生まれる。これは最初にご紹介したシーンと同じ流れです。この後青木は実線のルートである最終ラインの櫛引までボールを戻します。

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櫛引は小林が空けたルートに玉田がおりてきていることを確認し、ここでも1本のパスで相手の中盤を通過することに成功。どの場面もそうですが、岡山の前からのプレスがハマっていない為、名古屋に意図的に状況を作られ、1本のパスで5枚分の選手が置き去りにされています。意図してボールを奪う術がなければ何枚人数をかけてもボールは奪えない。空けてはいけない中央のスペースも空けてしまう。ただ人数を噛み合わせるだけでなく、どう奪うかがチームに浸透していないと名古屋のような相手にはカモにされてしまうということです。ちなみに名古屋はこういった相手には滅法強いです。しっかりとチームのバランスを保ち、窮屈なプレーを強いられることがなければ、ボールを扱う技術はおそらくJ2の中ではトップクラスですから、相手のプレスなど簡単にいなしてしまう。それがこの試合の前半であり、以前の岐阜戦で生まれた6-2という試合です。

何故名古屋のようなチームに闇雲にプレスをかけてはいけないのか

これは先日発売された「技術解体新書 著:風間八宏 西部謙司」内に記載されていた内容ですが、とても興味深い内容だったので少し引用します。お題はドイツのボルシアドルトムントが得意とする「ゲーゲン・プレッシング」について。

ドルトムントがなぜ失敗したかというと、相手の陣形が崩れていないのに前に突っ込んでいってボールを奪おうとしたから。時速100キロで奪いにいって100キロで返されたら実質200キロのカウンターになるじゃないですか。相手が下手だったらとれますよ。でも本当に上手い相手だったら無謀にプレスしてもとれるわけがない。 

今回のブログは決してゲーゲン・プレッシングについて書いているわけではない為、あえて説明は割愛しますしこれ以上深堀はしません。では何故このコメントをあえて引用したか。今回のブログの話と似ているなと思ったからです。要は相手の陣形が崩れていない状況で、闇雲にプレスに行っても上手い相手だったらとれるわけがない。むしろ守備の陣形が崩れて事態を悪化させるだけです。今思えば岐阜戦の前半も最初は岐阜の前からのプレスに名古屋はタジタジでした。ただそれは岐阜に攻撃でも先手を取られ、名古屋のストロングポイントである左サイドのシャビエルの位置を岐阜のパウロ-大本ラインに徹底的に狙われたことで守備の陣形が崩れていたことも影響はあったかと思います。寿人とポジションチェンジして彼がしっかり左サイドのスペースを埋めて以降は大崩れすることもなく、ビルドアップも整った状態からスタート出来ていましたから。そこからはこの岡山戦同様、岐阜の「枚数と人」を意識したプレッシングを簡単にいなして中央から物凄いスピードで前にボールを運んでいました。これまであえて触れていませんでしたが、こういった状況で誰にボールが渡ると最も脅威となるのか。私は青木だと考えます。彼が今回の例に挙げたような相手のボランチ周辺(要は中央のエリア)でボールを受け前を向くと、縦への推進力、スピード、ドリブルのテクニックがずば抜けていますから、名古屋とすれば一気にチャンスが生まれるし相手最終ラインからするとズルズルと後退してしまう。岡山はこのスペースを少々与えすぎました。

また名古屋というチームの特性についても少し触れておきます。これは対戦相手だったファジアーノ岡山サポーターのゼロファジさんと押谷について話していた際のツイートです。

前回のブログでロビンと杉森の動きを紹介しましたが、このツイートには風間さんの理想像が見え隠れしている気がします。

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押谷もシーズン中なかなか出番がありませんでしたが、練習でボランチとして鍛えられていたのは、「プレーの連続性に課題がある」との風間さんの評価があったからでした。ただ待つのではなく、積極的に相手に仕掛ける動きを繰り返すことで相手のマークを外していく。おそらくですが、この岡山戦の前半のようなサッカーをどのレベルの相手でも出来るようにしていくのが風間さんの究極の理想なのではないでしょうか。

「うちにはポストプレーはないから」

こんなコメントを風間さんがしたそうですが、言葉の真意はともかく、伝えたい意図は理解出来ます。だからこそ「うちのサッカーは慣れてこればポジションは関係なくなるから」なのでしょう。その先頭を走るのが「チームの目」と評された田口泰士小林裕紀であり、ベテランながらもこれを体現する玉田圭司、そして佐藤寿人です。

ボールを「待つ」のでなく、ボールに「関与」していく。受けて、だして、外して...それを全員が連続的に繰り返すことで相手のプレスを無効化していく。それが目指すべき理想像です。

今回もいろいろと書いてしまいましたが、この試合で最も話題をさらったのが前半終了後のこの画像でした。せっかくなので記念に残しておきます。ではまた。