みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

紛れもなく鬼木達のチームだった川崎フロンターレ

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似て非なる相手。名古屋にとって、川崎フロンターレはそんな相手だ。

風間八宏が礎を築いたチームは、鬼木達によって明らかに変化した。ジェットコースターのような驚きや興奮は薄れたかもしれないが、その分、夜のパレードの如く常に華やかで、安心して誰もが楽しめるチームに変貌した。

同じ理想を共有しているはずのチーム同士の対戦。ただそこには紛れもなく大きな差があった。

 

長崎とは異なる戦い方で真っ向から名古屋を潰しに来た川崎

7連勝中、怒涛の快進撃を続ける名古屋にストップをかけたのは最下位の長崎だった。

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 名古屋と真っ向勝負を臨むのではなく、いかに自分達の土俵で戦うか緻密に計算された長崎の術中に嵌った名古屋。その意味で名古屋が最も嵌りやすい相手だったことは事実で、噛み合わせの悪い相手だったことは否めない。

では今回の川崎がどうだったか。戦前の予想としては、名古屋同様おそらく前に出てくる川崎の方が名古屋は戦いやすいのではないか。ボールは握られても、むしろカウンターで刺す流れになれば名古屋も十分勝機があると踏んでいたのは私だけではないだろう。

川崎が狙っていた名古屋のウイークポイントは長崎と同様だった。

4-4-2のライン間に生まれる「縦の間」と「横の間」である。

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 名古屋の守備ブロックが「圧縮する」印象はほとんどない。中を締める意識は強いものの、ボールの動きに合わせて全体がスライドして守るオートマティズムを感じることはなく、均等に配置された選手達が個々の判断でボールにアタックしていく。

そのため「間」で受けようとする選手に滅法弱い。特に最もケアすべき「ボランチ脇」の守備が甘く、このスペースを簡単に相手に取られてしまうのはシーズン開幕時から続く大きな問題だ。

興味深い点として、長崎はこれらのスペースを「手数をかけず速く突き」、川崎は「時間をかけて正確に突く」選択をしたことだ。この選択は当然と言えば当然で、それぞれのチームスタイルがこの決断をさせたに過ぎない。前線に機動力のある選手を配置し、堅い守備をベースに名古屋をおびき寄せた上でカウンターを仕掛けた長崎。逆に技術に絶対の自信をもつ川崎は、ボールを回しながら名古屋陣地を占拠し、その急所を狙い続けた。

 

「時間」を味方にして止める蹴る外すの見本を見せ続けた川崎

「止める蹴るのレベルが違った」

試合後、名古屋サポーターの多くが同様の感想を抱いた。ただ果たして川崎との差はそれだけだったのか。

私が痛感したのは、彼等がボールを受ける際に全く急いでいないことだった。名古屋の選手と比較すると一目瞭然。常に相手のプレッシャーに晒され、ほぼトップスピードの状態で止めて蹴る動作に入る名古屋の選手達。対して川崎の選手は常にほぼフリーの状態で、スピードを緩めてボールを止める。何故それを可能にしたかと言えば、名古屋の守備ブロックの弱点を意識し、常にフリーで受けられるスペースを見つける目。そこに正確にボールを届ける技術と、止める技術、叩いては新たなスペースを見つけ貰い直す質の高い動きを擁していたからに他ならない。

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言い方を変えれば、現状名古屋の守備組織では、あのレベルの相手だと簡単に「時間」と「スペース」を活用されてしまうということだ。時間とスペースがあるからミスがでない。しかもその一連の動作のレベルが高ければ高いほどボールは速く回るし無駄もでない。名古屋とすれば、ボールが入ったタイミングで寄せたくても、その余地すら与えられない。どうやらその点川崎としてはスカウティング通りだったようだ。

名古屋の2トップが戻ってこないので。(中略)1点目の僚太が出したパスのところ、あんなところでは普通は僚太はフリーではいないので。そこはかなり回せるという話は試合中にしてたので(中村憲剛談) 

振り返れば、一点目の大島のパスも、二点目の阿部のシュートも全てフリーである。フリーで受けられる場所に立ち、そこを正確に使われ、無駄なく次の場所にボールを運ばれればなす術はない。この試合、どれだけの場面で中村や阿部、家長に名古屋の最終ライン前でボールを受けられたか。そのほとんどがフリーの状況だったこと、外さなくとも「そもそも外れている場所」を使われ続けた。

 

「ペナ幅」にこだわった名古屋、「ピッチ幅」も活用した川崎

「間」で受けることを手助けした術がもう一つある。それがピッチの横幅も意識したボール回しだ。風間八宏と言えば、「ゴールまで最短距離を目指す」「狭くても外せばフリー」「外は『空いているもの』」こんな名言の数々が示す通り、まず中央を意識させることをチームに課す。何故なら相手が最も警戒するエリアは中央だからだ。そこで相手を喰いつかせれば、必然的に外は「空くもの」。これは彼の理論を読み解くうえで、非常に重要な要素だ。

ただ川崎の場合、鬼木体制になってからそこに執着する意識は弱まったと感じる。中央から割れなければ一度外に広げる。その選択肢を良しとする傾向がある。相手を広げてから、タイミングを見て中央を攻略にかかる。その分名古屋よりスピード感は劣るものの、正対する相手守備陣の網に簡単にかかることはない。ということは、前がかりな状態でボールを奪われ即カウンターという場面も減少する。

同じ「止める、蹴る、外す」でも、その活用法が異なる。川崎はより合理的になったし、一人の選手への依存度が減るサッカーをしている。対して名古屋は圧倒的なスピード感、爆発力を擁するものの、より高いレベルで「外す」要素を求められるため、一人一人への依存度が高い。一つピースが欠けると、簡単には埋まらない。この違いは非常に興味深い点だ。この試合に関していえば、「間」がそもそも弱点の名古屋に対し、更に横幅を使って揺さぶることで名古屋守備陣に生まれるギャップもことごとく活用された。

フロンターレの崩し方はすごく勉強にもなったし、自分達も絶対にできると思う

金井もこんな感想を抱いたようだ。お互いが今後どんな道を歩むのか楽しみである。

 

名古屋の心臓を徹底的に潰した川崎のバンディエラ

では名古屋がボール保持した際はどうだったか。改めて川崎のメンバーを見ると、実は決して「速い」チームではない。小林、中村、家長、阿部、大島。このラインナップを見て、カウンター型のチームだと考えるサッカーファンはいないだろう。例えば長崎のように、ある程度自陣まで引いたうえで名古屋にボールを持たせ、網にかけて縦にカウンターを仕掛ける選択肢をこのチームは選ばない。ボールを支配し、相手陣地を支配するために彼等が選ぶ選択肢は「前から潰す」ことである。

狙われたのがネットだ。中断期間明け以降、名古屋のビルドアップが安定したのは彼の貢献度が非常に高い。

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 彼が後方で時間を生み出せるから他の選手達が良い形でボールを受けられる。名古屋の心臓は、紛れもなくネットだ。川崎はその心臓を徹底的に潰すことを選択した。

彼がボールを触ることから攻撃が始まることは映像を見ていても分かった。だからうちにネットがいたときに、やられて嫌なことをやってやろうと思った。つまりタイトにいこうと。とにかくネットにボールを触らせないように、意図的にポジションを取りました

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最終ラインに落ちるネットに対し、あそこまでぴったりついてきたチームは川崎が初めてだろう。しかもそのマークがとにかくタイトだった。対面の中村が寄せてネットが剥がせず苦労している隙に、二人目も襲いにかかる。あれほどネットが苦しめられた試合は初めてだったし、だからこそそれでも前をむこうとするネットの個人能力の高さに驚かされた試合でもあった。おそらくネットでなければ、もっと無残な形で名古屋の心臓は心肺停止していたはずだ。これで名古屋はほぼ完全に自陣コートを川崎に占領された。

名古屋としては、今回のようにネットが相手のターゲットになった際にどう状況を打開するか課題が残った。中断明け以降ネットの存在で蘇った小林に期待したいが、この試合に関していえば、ネットの調子と付随するように存在感を失ってしまった。彼自身、この点がなによりの課題ではないだろうか。「ネットが消されるなら自分が中心に」、その気概が欲しいと思ってしまうがどうだろうか。

それにしても皮肉だったのは、ネットが対戦相手である川崎から「輸入」した選手だったことだ。川崎のバンディエラには、彼を自由にすることがどれほど危険なことで、何をされると嫌がり、どんなボールの持ち方を好むのか、手に取る様に分かっていたようだ。

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苦しい時に痛感するシャビエルの不在

チームが苦しければ苦しいときほど力を発揮する選手はいるもので、名古屋にとってその存在になり得るのはシャビエルだ。前を向かせてもらえないチームにおいて、背中で相手を背負える選手がどれだけ貴重な存在か。前線のターゲットとなるジョーだけではなく、苦しい時に「繋ぎの起点役」としてターゲットになれるシャビエルの不在が、この試合では特に影響した。

しっかりボールを保持して、横に揺さぶりながら名古屋の網を緩めようとする川崎の攻撃に対し、自陣に押し込まれる分、ボールを奪うとどうしても縦に速く攻めてしまう名古屋。この傾向は前半戦、豊田スタジアムで川崎と戦った際も同様だった。後方でも、また前方でも時間を作る術を持たないから、必然的に縦に速くなる。だからこそ時間を生み出せるシャビエルの不在が大きく影響していたことは否めない。

シャビエルが欠場してからの名古屋の問題点はこれだけではない。彼がいなくなり、名古屋の配置は変わった。前田が前にでて、玉田のポジションが左右逆になった。代わりに左サイドに入っているのが和泉、そして青木。この試合、実は左サイドバックを務める金井のスプリント回数はたった「4回」。逆サイドの宮原が21回、相手の対面にいたエウシーニョが24回であることを考えれば、それがいかに異質な数値か理解出来る。決してそれが悪いと言っているわけではない。金井のプレースタイルは、そもそもサイドで縦に勝負する選手のそれではないのだから。問題は彼の代わりにサイドに張っている和泉や青木が、そこでどんな役割を果たすのか明確でないこと。この点は試合を通して非常に気になる点だった。

またジョーにしても、彼に活躍の機会を与えない最良の方法は、「そもそも彼にボールを持たせない。彼を潰すのではなく、彼に出るボールの出所を潰す」であることを証明され、試合を通してほぼ完璧な形で消されてしまった。その意味では、前述したネット潰しが、結果的にジョー潰しにもなった形だ。

余談だが、ジョーを消すという意味で、地味ながら車屋の存在は目を見張った。名古屋の決定機、ジョーを抑え込んでいた選手は実は左から絞ってくる車屋のケースが多々あった。ここ数試合センターバックとして出場した経験が非常に活きている。

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終わってみれば、風間八宏が理想とする「相手陣地を支配するサッカー」で、はっきりと力負けする形で川崎に屈した名古屋。長崎が名古屋を研究し、自分達の土俵に引きずり込むことで勝機を見出した前節とは違い、今回は同様に研究されたうえで、「自分達のやりたいサッカー」で真っ向から潰された形だ。前からの相手の圧力に屈し、自信を失ってしまった選手達は、さながら前半戦ずっと勝利から遠ざかっていたあの時の姿を彷彿とさせた。試合後、風間八宏はこう語った。

簡単に言うと、目に見えていないものを相手にしてしまった。矢印というものは、ボールを出して自分がもう一度動けばフリーの定義が変わるので簡単に崩せるはずなのですが、立ち上がり、それが出来ていたのは3人くらいでしたね。それ以外の選手は出して終わり、1対1を狙われてしまったということです。当たり前のものが当たり前に見えなければいけない。当たり前のものが当たり前じゃないものに、自分たちの中で錯覚してしまったというところはあったと思います

また川崎についても改めて言及したい。これまで見てきた通り、事前のスカウティングと戦略、チーム戦術としての守備の徹底、止める蹴る外すの活用法の違いなど、風間八宏が植え付けたチームのベースに、鬼木達が自身のカラーを見事に混ぜ合わせたチームに変貌していた。完全に似て非なるチーム。源流は同じでも、進んでいる先は異なるチームだった。

 

 もう一度彼等と戦い、今度こそ叩き潰したい

同じ志向をもって、相手を走らせたい、握りたいというチーム同士の戦いでは当たり前に上回りたい

二戦二敗。シーズンダブル。風間体制後、初対戦となった川崎フロンターレとの二試合は、名古屋にとって返り討ちにあう形で幕を閉じた。中村憲剛の言葉にある通り、力で徹底的にねじ伏せられた格好だ。それでも風間八宏はブレていない。問題点として挙げたのは、あくまでボール保持の場面だ。とにかくそこにこだわった。この試合でいえば、4対3、5対3のスコアで勝ち切るチームにならなければいけない。目指すべき姿は、殴られても殴り返せるチームだ。

名古屋サポーターにとっても、川崎サポーターにとってもこの試合は特別だった。

勿論そんなことはない、特別な相手なんかではないと言うサポーターがいることも承知している。オリジナル10のチームとして、長年Jリーグを盛り上げてきたのは名古屋だし、Jリーグで先にタイトルを取ったのも名古屋だ。逆に川崎としても、昨年のディフェンディングチャンピオンとしてのプライドもあっただろうし、風間八宏に特別な想いなどないと言い切るサポーターもいたことだろう。

ただそれ以上に多くのサポーターにとって、今の名古屋と川崎の試合は同じ理想を標榜するチーム同士の戦いであり、風間八宏が育てたチームという点でも関係のないチームとは言い難かった。「止める蹴る外す」を合言葉に鍛えられた両チーム。どこよりも攻撃的に、そして「魅せる」ことが出来るJ屈指の二チームだと私は思う。意識するのは当然といえば当然だった。

クラブとして見ても類似点はある。近年多くの観客をスタジアムへ呼ぶことに成功し、その街に根付いたクラブとして成長を遂げた川崎は、昨年から観客動員を増やし続ける名古屋にとってお手本のようなチームだ。勿論スタイルは違う。クラブの施策も、例えばゴール裏のチャント一つとっても違う。ただお互い目指す先は同じであろう。クラブレベルでも、現場(ピッチ)レベルでも共感の持てる相手が川崎フロンターレだ。

だからこそ、もう一度彼らに真っ向勝負を臨み、次こそは勝ちたい。そんな相手だからこそ、私達は叩き潰されて終わっていてはいけない。彼らは「乗り越えるべき壁」である。その差に圧倒されるのではなく、その差を今後の楽しみとしなければ。まだまだ強くなれる、そう思うのだ。だから残留しよう。残留して、来年こそは絶対に叩こう。残留が目的ではなく、来年また同じステージで彼らと戦うことをモチベーションに、絶対に残留しなければいけない。

試合後選手達は口々にこう発言した。「完敗だった」「相手が数段上だった」「勉強になった」と。

私達はここで終わるチームではないし、落ちていいチームでもない。この借りは、来年同じ舞台で必ず返さなければいけない。選手だけではない。サポーターも同じ気持ちなのだ。

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