みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

【二年という歳月の重み】第六回vs川崎

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紅白戦でサブ組に負ける。スタメン組の守備に対戦相手でも通されないところにサブ組は通してくる。繋ぐのがうますぎてプレスが掛からない

舐められたもんだなJリーグ。川崎にとって最大の敵は我々他チームじゃなくてサブ組だってよっ!!(恨み節)

これは昨年、とあるインタビューで中村憲剛が口にした言葉です。サブ組、我々が目指してきたフットボールそのものじゃないですか。どれほど狭い場所でも、どれほど相手の圧力が強くとも、ボールを取られなければ良いのだと。この言葉は、裏を返せば「サブ組以外(つまり公式戦)ならボールは奪える」ということ。本来であれば、我々のようなスタイルを標榜するチームが、彼の言うサブ組のような存在にならなければいけない。しかし昨年までの我々は、残念ながらそれ以下だった。これは紛れもない事実でしょう。

そして勝負の三年目。時はきた、彼らを倒すべきときが。

絶対に譲れない土俵

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先日の湘南戦の試合後、対戦相手の曹貴裁監督が興味深いコメントをしていました。

J1のチームもいろんな色のあるチームが出ている中で、自分たちってこうなんだっていう事を、自分たちの土俵の中で上積みできている実感があります

相手がどう対策しても、自分たちの土俵に持ち込む、そういう時間やプレーのバリエーションを増やしていかない限り、選手として「うまくなった」という実感を持てないと思います

ここでいう「土俵」が何を意味するか。例えば我々にとっての土俵とは、一体何でしょう。近いところでいけば、第4節で対戦したFC東京戦。もし我々がラインの裏を狙う永井謙佑に日和ってブロックを後方で作っていたら、それはもう我々の土俵ではなかったでしょう(その結果負けたけど)。

湘南戦の試合後、対する風間監督は我々の土俵について、こう表現しました。

よくハイラインという言い方をしますが、ハイラインでも裏を取られることはないですよね。それはハイラインではないからです。自分たちの枠組みでやっているから

答えのクセ強すぎませんか(リスペクトノブ)。「みぎさんあいつ何言ってんすかわけわかんねー」混乱、混乱、混乱。八宏分かんねー、分かんねーよ。普通に答えたらタイキックされる契約を結んでいるとしか思えない。謎解きが過ぎませんか。ただ調べてみると先ほどのコメント、実は噛み砕いたものでした。詳細はこちら。

システムで考えず枠組みで考えているので、その枠をどこに持っていくかで、必然的に相手も速くならなければいけない。ハイラインと言いますが、背後を取られたことはあまりない。ということはハイラインではないんです。それは自分たちの枠組みでやっているから

いや端折り方のクセ強っ。ただでさえややこしいのに端折るなやっひーのコメントを。そういうとこやぞ。やっと理解出来ました。面白いですね。風間監督はあえて土俵とは表現せず、「枠」と呼んでいます。これ、整理しませんか。何故ならこの「枠」を理解することこそが、川崎との試合を楽しむ上で重要になるからです。ちょっと付き合ってください。

①我々にとっての「枠」とは

それは「相手コート」です。いい教材があります。「第28回ひびのコイまつり」での小西社長のコメントを引用します。

サッカーでは一般的に4-4-2などフォーメーションで表現しますが、風間監督の場合は「11人」と言います。キーパーも含めた考えです。まずディフェンスラインをコントロールするのが丸山と中谷、そしてトップにジョーがいる。このラインの距離を最終的には15mまで縮めたいと考えています。15mの狭くコンパクトな中で、ハーフラインより前で常に試合を進める。守るでも攻めるでもない、攻守一体というもの。なかなかそのようなチームは見たことがありませんし、その15m内に10人がいるということは非常に人口密度が高くなります。その密度が面として攻める。相手はその裏を狙うしかなくなり、それに対しても対応を考えている。15mのエリアではメッシュが細かくなり、そこで引っかかる。その中心に米本とシミッチがいる。これが完成すれば本当に常に攻めている、誰も見たことがないようなチームとなり、そこへの五合目が現在かなという認識でいます

え社長すご。風間監督から授けられた知恵すご。そもそも社長がこのコメントしてるのおかしくないですか。もっと言えばこのコメントひびのコイまつりでしてることの凄さな。まずひびのコイまつりとは何だ。ひびが入った恋の行方なら知ってます(大学生時代に経験済)。てか15mコンパクト過ぎませんか。まだ五合目はさすがに先が長過ぎやしませんか。狂ってる、狂ってるな。いやはや補足ゼロ。

②必然的に相手も速くなるとは

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つまり、フルコートを意図的に半分のハーフコートの舞台とした場合、相手からすれば当然ながらスペースは限定され、対峙する相手(我々)の圧力を受けやすくなります。相手のアプローチは距離が短い分速くなり、また密集する分囲まれる確率も上がる。その圧力を回避するには、それに負けないだけのプレースピードが求められる。ボールを止める技術、味方を見つける目、相手を外す動き、正確にボールを届けるキック。それをゆっくりやるわけにはいきません。それらの技術を総称して「速さ」として表現するなら、当然相手もその圧力に屈しない「速さ」が求められるということです。

その結果、先日の浦和戦で何が起きたか。それは昨日公開された飯尾篤史さんの記事を是非ご参照ください。

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③ハイラインでもハイラインではないとは

この枠を、例えばもう少し自陣側の低い位置に設定すれば話は別です。少なくとも、相手の最終ラインにはプレッシャーがかからないわけですから。その位置を「相手コート」に設定していることこそがミソです。だから相手も速くならざるをえない。我々が蓋を閉じることに成功すれば、そもそも裏は怖くありません。つまりこの「速さ」で我々が相手に劣らなければ、相手をコントロールしているのは我々ですから、そもそも裏に蹴られる心配はないと。その状況における我々の最終ラインは、そのラインの高さだけに着目すればハイラインですが、相手をコントロールし、裏に蹴られる心配がないという意味では決してハイラインではない。むしろその枠を決定づける最終の意思決定者たちと言ってもいい。ある意味で言葉遊びではありますが、おそらく風間監督の言葉が意味するところは、「貴方方が言うような『リスクを伴った』ハイラインではないんだ」ということでしょう。

まとめです(説明図の為最終ラインの位置は気にしない)。

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思考を奪うプレス速度vsそれを上回る回避速度

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さて、なぜ我々の枠を知ることが、川崎との戦いを理解することに繋がるのか。それはこの枠に込められた本質に答えがあると考えるからです。この枠が意味するのは、

  • 狭いコートにおいて、攻守ともに我々より優位に立てるかという相手への問いかけ

つまり「意図的に設定したハーフコートの舞台において、我々は絶対に負けることはない」という自信、覚悟。そして近年、この舞台で圧倒的な強さを誇ってきたチームこそが、今回の対戦相手である川崎フロンターレです。冒頭に紹介した中村憲剛のコメントは、つまるところ「ハーフコートの戦いで我々に勝るのは、我々が擁するサブ組だけだ」ということです。昨年、我々は等々力で自陣コートに閉じ込められ、彼らの執拗なプレスの餌食となりました。 見るも無惨に。

そしてそんな川崎も、気づけば鬼木体制3年目。

この2年間、鬼木監督は見事な手腕を発揮してきました。風間監督が築いた攻撃サッカーのコンセプトをベースに、そこに足りないとされていた「いかにボールを奪うか、ゴールを守るか」この二つの要素を突き詰めた。その結果、彼らはより手堅いチームへと変貌、気づけば「ボールを奪うことをベースとしたチーム」に生まれ変わりました。面白いデータがあります。鬼木体制以降、相手にボールポゼッション率で屈した試合の勝率が意外にも圧倒的なんだそうです。つまり場合によっては「持たせて刺す」術も彼らは身につけた。相手を明確に意識して戦い方を選ぶようになったとも言えます。

「いかにゴールを奪うか」を徹底的に追求し、自分達が主体となってボールをゴールまで運ぶことに狂信的なほどのこだわりを見せる風間監督に対し、鬼木監督はこの2年間でそこにプラスαの要素を加えたわけです。その結果、彼らが手にしたものこそが二連覇の称号。国内ではもはや敵なし。ただしこの2年間という歳月こそが、今回の対戦において大きな影響を及ぼしている、そうも感じるのです。

「脱」風間八宏

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2年あれば、当然チームは変わっていくものです。何が変わるか。もちろん「メンバー」が変わる。先日の清水戦、フィールドプレーヤー10人の内、半数以上の実に6人もの選手が、鬼木体制後に獲得した選手で占められました。選手が変わっても、監督が変わっても何も変わらないか。いや、そんなことはありません。誰が出場してもチームとしての戦い方が徹底している名古屋に対し、彼等は出場する選手の特色によって戦い方に変化が起こる。特にそれを感じるのが、「相手陣地におけるボール保持時の振る舞い方」です。

この2年間で新たに手に入れたものが、「いかにボールを奪うか」という要素だとすれば、一方で2年という歳月が、彼らが備えていた「ボール保持時の機能美」に変化をもたらした。止める蹴るをベースに、いかに相手を外しながら点と点を繋いでいくか。これが風間八宏のサッカーだとすれば、選手の大半が入れ替わり、彼らが持っていたその絶対的な掟は失われつつあるのではないか。ボール保持時の振る舞いでいえば、鬼木監督のサッカーはより個人依存型に変化してきている。つまり「目が速い選手」は変わらずいるものの、「目を揃える」というチーム全体の行動指標は、少なからず優先順位を下げた。だからこそ、出場する選手によってチーム全体の振る舞いにも変化が現れるようになった。

変化した「剥がし方」

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ここ最近の川崎はACLの兼合いもあり、スタメンは固定されていません。例えば昨年のリーグMVPである家長が出場した試合と、彼が不在の試合。代わりは例えば齋藤学や長谷川でしょうか。この2パターンをとっても、相手ゴールへの迫り方は極端なほどに異なります。家長がいれば誰もが彼を探す。そして「剥がす」のではなく「預ける」。剥がすのは彼がボール保持してからです。そこに細かい秩序はなく、彼のタイミングで、彼のスピードをもって全体最適が決まっていく。対して齋藤学や長谷川は生粋のドリブラーですから、攻撃のテンポも必然的に速いものとなる。

つまり出場する選手の個性が、チームのパフォーマンスに大きく影響を与えるようになった。ただ決してそれが改悪であるとは断定出来ません。何故なら、大前提として彼ら個人個人のクオリティがリーグでも突出しているから(それで十分成立する)。また結果として、どんな個性を持った選手でもチームに馴染みやすくなっているからです。それを「どの選手が出場しても色が付けやすくなった」と捉えるか、「でる選手によって色が変わるようになってしまった」と捉えるか。ここが同じ風間八宏に育てられたチームとはいえ、もはや明確に異なる点。前述の通り、名古屋は1人や2人選手が代わっても、チーム全体の機能美はそこまで変わりません。何故なら「何をやっても自由だ」「システムは関係ない」とは言うものの、我々には「止める蹴る外す」という、選手を繋ぐ見えない暗号が存在するからです。我々にとっての「剥がす」とは、その先にあるという考え方。

対する川崎、彼らを繋いでいるものは、もはや異なるコンセプトです。おそらくですが、風間監督から見た川崎への印象も、当時とは異なるものでしょう。足りていなかった部分に色を塗り足す必要があったこの2年間。ただし色濃く染まっていた部分はその間に色褪せた。その部分をどう塗り直すか。「ボールを奪う」がことさらにフォーカスされる川崎ですが、実はこの2年間で最も変化があったのはこの部分ではないでしょうか。そして彼らはその変化を受け入れた。何故なら、風間八宏が作るフットボール、また彼のマネジメントでは、5年間あって一つのタイトルも取ることが出来なかったからです。そして今は二連覇中の王者として、これが我々の姿なのだと誇りを持っているでしょう。今彼らに残った風間八宏の遺産は、「彼が指導した教え子の存在」これだけなのかもしれません。しかし、そんな彼らがこの2年間を支えてきたのもまた事実です。川崎が華麗なパスワークでチャンスを演出するとき、そこには必ず彼の教え子たちが存在した。

風間八宏鬼木達、それぞれ3年目の「決戦」

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さて、今年はどんな戦いになるでしょう。我々は川崎の圧力に屈することなく前進することが可能なのか。また、彼らのボールを、彼らの技術以上の圧力で奪い取ることが出来るのか。我々が昨年から大きく変わった一番のポイントは、この「相手のボールを奪い取る仕組みが出来た点」に他なりません。昨年、我々が勝機を見出すためには「相手の圧力に屈せずボールを前進させる」、これしか術が存在しなかった。ただ今年は違います。我々にも「奪う術」がある。今のグランパスを観ていると、いつもミニゲームを思い出します。意図的にコートを自分たちの枠、つまりハーフコートの狭い設定にし、狭くても繋ぎ倒す、また圧倒的なプレスでボールを奪回する。おそらく日々これくらいの強度を持ってチームの土台を作ってきたチームは、我々か川崎しかいないでしょう。一方、川崎は自分達の枠をどの位置に設定してくるか。おそらく名古屋の土俵(つまり川崎陣内)ではやりたくないでしょうから、我々のボールを奪いにくるでしょう。そして奪ったら徹底的に名古屋の背後を狙ってくるはずです。その枠でのぶつかり合いになれば、試合の主導権を握る決め手は、互いの繋ぐ技術、そして奪い取る圧力。

大森スポーツダイレクターが、フットボール批評(issue24)のインタビューにこう答えていました。

風間監督と初めて会って話した時に、速いサッカーがしたいんだということを言ってました。(中略)「ただ監督、契約形態を見たら、それをやるにはやっぱり3年かかりますよ」というのは初めに伝えておきました

風間八宏が就任し、勝負の3年目を迎えた名古屋と、その純度が薄れ、名実共に鬼木達のチームとなった川崎。ひとつ間違いないことがあります。風間体制最終年の川崎と、現在の我々のクオリティに大きな差はないということ。豊富な資金力を駆使することで、我々は想像を遥かに超えるスピードで今のチームを作り上げた。風間監督が求める「速いサッカー」の理想に近づけてきた。彼が川崎時代には観られなかった景色を作ろうと、ファミリー一丸となって進んできた。

どちらが殴り勝つか。両者、舞台は整った。改めて、そう断言致します。3年目、やっとお互いの色がぶつかり合う。

名乗りをあげましょう。貴方方の最強の敵はサブ組ではない。我々名古屋グランパスであると。