みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

私達が、過去と決別する日

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最終節の残留がかかる試合で、相手は湘南。場所は瑞穂。

ドラマでも敬遠するような出来過ぎた展開が、今私達に起きている。

二年前の2016年11月3日、私達はこの瑞穂で、湘南を相手に敗北し、降格した。スタジアムにいるサポーターたちが悲しみに暮れる中、ピッチでは当時の指揮官、ボスコがサポーターに熱く語りかけていた。

これは私個人の意見だけれど、火中の栗を拾う形で名古屋に帰ってきてくれたボスコへの感謝こそあれど、「来年もこのチームで」、その気持ちにはどうしてもなれなかったことを覚えている。それはもちろん、目の前にいる選手達に愛想を尽かしていたわけではない。ただどうしても、当時のチームから感じる閉塞感みたいなものが、私の気持ちをどんよりさせた。あの日90分を通して、希望というか、光みたいなものは感じなかった。ゴール裏で見ていた私は、ただ茫然と、ピッチを見つめることしか出来なかった。

その後、私達の選手の多くはチームを去っていった。もしかしたら、チームが降格した以上の悲しみがあったのは、あの時期だっただろうか。毎朝、目が覚める度に飛び込んでくる移籍話は、まさにチームが解体されていく姿そのものだった。

それでもサポーターは、そんな悲しみと正面から向き合い、前を向くことを決意した。そしてそれに応えるように、チームは大きく生まれ変わった。

思い出してもこの二年、様々な苦難があった。

想像以上に厳しい戦いが続いたJ2での日々。おそらく誰もが忘れることのない、プレーオフ決勝。今年、サポーターが一つになった試合として、鹿島戦がクローズアップされたりもしたけれど、あの日のプレーオフ決勝の豊田スタジアムの光景、そして雰囲気を私達は忘れることはないだろう。スタンド中からピッチに声援が飛び、誰もが名古屋の昇格を願ったあの日。

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念願のJ1の舞台。そして悪夢の15戦勝ちなし。そこから怒濤の7連勝。J1でも、このチームはジェットコースターのような日々を送ってきた。特に前半戦の連戦は、正直に言ってあまり記憶がない。休みなく続く試合、勝てない日々。今の状況では勝利は遠い、そう自覚するほど、待ってくれない試合がなんだか消化試合のようで、ある意味で負け慣れてしまっている自分がいたのかもしれない。辛抱の時期。中断期間までそう覚悟は出来たものの、改めて振り返っても、その時期にいい思い出は何一つなかったような気もする。

一年中、風間監督への批判、もっといえば解任論みたいなものも、尽きることはなかった。争う必要のないサポーター同士が、どこにも吐き出せないこの暗闇の痛みや、苦しみを、お互いにぶつけてしまうこともあった。その行為に意味はなくとも、そうすることでしか、あのときの感情はコントロール出来なかったのだと思う。形こそ違えど、皆、このチームのことで必至だった。

そうやって、この一年も、おそらくどこのチームも味わっていないようなどん底の状況を私達は見てきたし、チームと同じように苦しんできて、今がある。

そんなシーズンも、気づけば最終節を残すのみ。そして今、私達は16位。J1参入プレーオフ出場の位置にいる。

まさに決戦前夜。

べたにかつ丼を食らうもの。お酒を飲んでいい気分になっているもの。願掛けに行くもの。決意を新たにするもの。なんだかそわそわするもの。

皆、思い思いにこの決戦前夜を過ごしている。

名古屋公式は、最後の最後でこの男のインタビューを敢行した。

このタイミングで小林裕紀という人物にこだわった公式、そしておそらく嫌々ながらも、カメラの前で話すことを決意した小林にも、なんだか胸が熱くなった。

そんな小林は、広島戦の後、珍しくこんなコメントを残している。普段は本当に口を開かない男だけれど、誰よりも責任感が強く、そして、私たちと想いは一つだった。

このクラブは二度とJ2で戦ってはいけないと思っているので。そこの責任感は一年を通して自分なりに考えてやってきました

風間監督が、どれだけ「特別ではない」「試合に大きいも小さいもない」と言おうが、私達にとって、この最終節はやはり特別な試合だった。この決戦を控えるサポーターの様子、そして実際にプレーする選手の言葉に耳を傾ければ、それはもう明らかだった。どれだけ過去のことだと切り離しても、この状況で湘南と瑞穂で対峙するのは、あまりに出来すぎた話なのだと思う。あの日を思い出さないなんて、言えるはずかない。

ただ一つだけ、降格した時とは違う感覚がある。

それは、こんな状況でも、どこか希望みたいなものを感じられることだ。明日負けたら、また降格の現実が私達に近づいてくるだろう。その恐怖がないとは言えない。ただ、不思議とそれ以上に、明日の決戦を待ち望んでいる自分達がいる気もするのだ。

それは、この二年間でこのチームが私達に与えてくれたものであり、この二年間で私達とチームが築いてきた信頼でもある。このチームともっと前に進みたい、未来に向かいたい。とてもクサい表現だけど、心からそう思うのだ。

残留争い真っ只中の状況でこんなことを言うのもなんだかおかしいけれど、あの状況から、二年でよくここまで来たのだと思う。確かに置かれたシチュエーションは笑ってしまうくらい変化がないけれど、決戦を控える私達の気持ちは、あのときとは全く違うのだから。

皆口には出さないけれど、きっと決戦を控えた夜に改めて感じていると思う。「このチームが心から好きだ」と。私達は選手でも何でもない。サポーター以上でも、以下でもない。ただこれだけそわそわして、かつ丼食べて、願掛けして、お酒で誤魔化して、抑えきれない感情をSNSで吐き出して。日々の暮らしの中で、これだけの「好き」を表現出来る存在は、きっとこれしかない。また、その「好き」が人と人を繋げるのだから、本当に信じられないような存在だと思う。

誰もが他人事ではなく、自分事だ。そしてそれを同じ瞬間に共に共有することが出来る。その力の大きさ、凄さを、あろうことか残留のかかった大切な試合の前日に感じるのだから、不思議である。私達の人生にはそれがある、グランパスが私達を繋げているのだと思うと、なんだか嬉しくなるのだ。

さて、今更ながらこのブログはまさに決戦前夜に書いている。

勝ってから想いを綴るより、今この瞬間の気持ちこそが、このチームへの想いの全てである気がして、フライングながら書いてしまった。負けたらきっとこの文章はゴミ箱行きだし、負けた瞬間、更新ボタンは解除するだろう(チキンだから)。

結果更新されたとしても、よっぽど恥ずかしい文章を書いている気もするが、いいのだこれで。

きっと来年は、もっと楽しくなる。愚直なまでに一歩ずつ進んできたチームである。どれだけ批判されようとも、馬鹿にされようとも、ブレずに、一つずつ積み重ねてきたチーム。だからこそ多くの別れもあった。そして多くの出会いがあった。一年目で昇格、二年目で残留。では三年目は。そう考えるだけで、来シーズンが待ち遠しいではないか。

明日の瑞穂は、二年前のあの日とは、きっと違うはず。私達には希望がある。

私達は2018年12月1日、過去と決別し、未来に進む。