みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

【昇格組と偽る戦術集団】第七回vs大分

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

「カタノサッカー」

ってご存知ですか。まあ分かりますよね。大分トリニータの片野坂監督の名をモジった造語です。それにしてもなんて語呂に恵まれたお名字なんでしょう。こちとらヤッヒーですからね。ヤッヒーサッカー。なんかニャンニャン感あります。

ヤッヒーサッカーの現在地

週末の大分戦は、代表戦の兼ね合いで2週間の中断期間を挟んだ最初の試合です。そこに至るまでの直近の名古屋、苦しい台所事情でまさかの2連敗中(苦い記憶よ甦れ)。

migiright8.hatenablog.com

migiright8.hatenablog.com

主な原因としてジョーの不在。それに伴う機能障害といったところでしょうか。お願いです、中からどう攻めていたか教えてください。頼みの綱は右サイドの前田直輝単独突破のみ。ジョーの代わりなんてそりゃいるはずないのですが、正直その想定は目を背けておりました。あっはっは、現実は残酷。代わりの選手、ジョーの『相棒』しかいねー(今更)。つまりジョーの代わりになり得ることはなく、しかし彼がいた時と同様のフットボールでは厳しい。攻撃の深さを失った皺寄せは中盤に押し寄せ、ここ直近の2試合は中盤のデュエルが見事に焦点となる始末。相手のハードワークに屈し、白星を取りこぼしています。辛え、ジョーいないの辛え。

さてそんな名古屋、2週間の中断期間で奇想天外な組替えを連日お試ししていた模様。負けがこむと形ごとイジるヤッヒーサッカー健在。「上手くいった試しあるんですか?」うるせー真顔で聞くんじゃねーよ。シーズン開始を告げる鐘の音かなこれは(幻聴)。連日楽しめるだけの耐性をここ2年で付けましたありがとうございます。我々の主語は常に我々です。

帰ってきた暴れん坊

なんかジョーが戻ってきそうですね(知らんけど)。ありがてえありがてえ、これで中からの攻め方、思い出しそうです。あとはあの男が帰ってきましたよ。そうです、アリバイのネットいやいやエドゥアルドネット帰還。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

正直、ジョアンの活躍で彼のことを忘れていたファミリー、廊下に立ってなさい(自分のことなど棚に上げて)。今となっては希望の星ですよ彼は。そもそもお前のコンディションもどうなんだと懐疑的な目を向けてしまいそうですが、ここはノリノリのネットを期待したい。はっきり言って、誰をどんな形で組み合わせるかは分かりません。ただし課題は明確です。「ジョーがいようがいなかろうが、相手をどう押し込むか」、これに尽きる。例えば仙台戦のように、前(フォワード)に人数をかけて押し込めないなら、後ろ(中盤)に人数をかけようなんて発想もありでしょう。つまりどう主導権を握るか。やり方は一つではありません。その試行錯誤をこの2週間でやってきたのは間違いないところでしょう。ジョアンとネットの共存、それ夢だよねーなんて言ってましたが、あっという間に夢叶うかもしれません。

そんな我々と共通した悩みで苦しみ、中断期間を過ごしたチームがもう一つ。今回の対戦相手、大分トリニータです。

J2時代「2戦2敗」の天敵

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

昇格後、14試合戦って7勝3分4敗の勝点24、6位。いや出来すぎでしょう。去年の我々のこの時点の勝点ご存知ですか?一桁ですよ一桁。あっはっは、震える。2年前のJ2時代は我々が2戦2敗。特に大分ホームでは1対4の完敗。後藤にハットトリックなんか喰らっちゃったりしてね、あのときは心折れました。我がことながら酷え守備だったアレは。ちなみに今年はルヴァン杯が同組、既に二回対戦済みです。1勝1分で我々がグループリーグ突破、見事リベンジを果たすことに成功しました。ただしフルメンバーで対峙するのは今回が初。

そんな大分、面白いもので我々同様、ここ直近の2試合を連敗で中断期間に突入しています。負けた理由も似てますね。

  • ボールをクリーンに前線へ運べない
  • 引かれると攻め手に欠く

どこの名古屋ですかこれ。ざっくりまとめると似た傾向。

大分は我々がJ2で戦った頃に比べ大きくサッカーが変貌しました。我々からすると「堅守」のイメージなんです。片野坂、「憎たらしい」の象徴なんです(褒めてます)。でも当時と比較しても、より「自分たち」が主語になりましたね。ボールを大切に、いかに主体的に前へ運ぶかを追求するそのスタイル。それを果たすために相手を徹底的に研究する。ではそもそも何故そのスタイルに行き着いたかと考えると、これはJ2時代から先を見据えたチーム作りをしていた賜物です。限られた予算で堅守速攻はJ1の舞台では厳しい。であるならば、より主体的に攻撃を形作れるチームを目指す。J1で不遇の選手より、実際に対戦してお眼鏡に叶ったJ2の実力者を集める。その上で、極力「個」に依存せず、再現性のあるフットボール、つまり具体的なチーム戦術をもって戦いに挑むと。これを片野坂監督はこう表現します。

戦術の中で得点を取る方法を試行錯誤しながらやっていくしか、このJ1のリーグで、このわれわれの戦力で戦うというのは簡単ではない

ある意味で名古屋に似たチームだと思うんですよ。ボールを簡単には失わず、後ろから一つずつ丁寧に剥がそうという大枠の部分は。ただそのための手法が異なります。名古屋は個人のスキルと繋がり、大分はいくつもの「パターン」を駆使する。それは当然ながら監督の思考も影響していますが、同時に先に挙げた通り「保有する戦力の差」も多分に影響しているわけです。大分はやはりミシャ-片野坂ラインの影響で、札幌のサッカーにかなり似通っていますね。相手の出方によってビルドアップのバリエーションが豊富で、形を可変させながらボールの前進を図る。前線は5枚各ラインに立たせ、幅を効率よく使ってくると。よって守備の際は両ウイングバックが最終ラインに落ちて5バック化するのも同様です。

逆に弱点はパターンを対策された場合。または敵陣で待ち構えられた場合、でしょうか。一つずつ見ていきます。

研究する側が研究され始めた悲劇

「あいつら昇格組なんて名ばかりのゴリゴリ戦術マシンじゃねーか」あっさりバレました。我々のように勝点一桁台で低空飛行すれば良いものを。高度を誤った結果、本来は格上であるはずのJ1勢が大分を研究してくるハメに。

大分の肝は「ビルドアップ」にあります。ここで多種多様なアイデアを駆使するのは、結果として後方で得た優位性が、前線の選手たちに「時間とスペース」という形で還元されるからです。大分にジョーのような怪物はいません。前田大然のようなスプリンターもいない。であれば後方からボールを主体的に繋ぐことで、相手を剥がし、前線がプレーし易い「時間とスペース」を提供する。ときにはそのシチュエーションを作るためにあえて自陣に相手を誘い出す(自作自演のカウンター、いやカッコよく「擬似カウンター」で)。相手陣地にスペースさえ生まれれば、間髪入れずロングフィードで一気に攻勢をかける場合もあります。それらを可能とした彼らの必殺技が「ゴールキーパー高木のリベロ化」です。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

お世辞にも大分センターバック陣(今は鈴木と庄司)のビルドアップ力は高くありません。それでも彼らを起用するのは当然ながら守備力があるからです。ではビルドアップ時にそれを誰がカバーするか、「足元ならセンターバックより自信あり」高木を使っちまおうと。大分の攻撃時における主な布陣は3バックの右担当、岩田(日本代表)が右ウイングバックに変形し、残りの二人、鈴木と庄司が中央で幅取り、その真ん中をまさかの高木がリベロの如く埋めます。1(GK)-2(CB)-3(ボランチ①、両ウイングバック)-1(ボランチ②)のようなイメージでしょうか。

後方で数的優位を作ることが最大の目的ですが、同時に高木の類まれな技術を活かし前に出すことで、ビルドアップの阻害を試みる相手に的を絞らせず、且つチーム全体のパステンポにも寄与する。つまり高木こそ「大分の心臓」です。

これに対し、ここ最近のJ1勢はミドルサード(ピッチ中央)で待ち構える戦法で対抗。中断前に大分と対戦した東京を参考にしてみましょう。高木を含めた両センターバックは放置(話は逸れますが、それ以前に対戦した清水は面白くて、ドウグラスを大分最終ラインの選手間に意図的に立たせ、横のボール回しの分断役とした)。大分の二枚のボランチを前線の選手がしっかりケアし、サイドハーフは大分のウイングバックを牽制しつつ中締め。そのウイングバックにボールが入ればサイドハーフサイドバックで挟み込み、大分のツーシャドーはボランチが監視する。

f:id:migiright8:20190612001301p:plain

つまり闇雲に奪いに行かず、出所を先に抑えてしまう。これ意外と効果的で、ボールが思うように前進しません。それでも大分の面々は繋ぐ意識が強いので、優位性がない状態でもアバウトに蹴る選択はしない。必ず繋ごうとします。何故か。彼らにジョーのような無理の効く選手はいないからです。ただしその結果としてミスが増加。東京に関していえば、非常にハイブリッドな戦い方で、状況によっては前からも奪いに行きました。プレス速度も速く、結果ビルドアップでミスを重ねて失点に直結(清水戦も同様に)。正直に言って、個々のスキルが抜群に高いわけではありません。主役はいなくとも、その圧倒的な戦術スペックを持って今の地位を築いたのが大分。だからこそチームとして一つ歯車が狂うと、なかなか打開策がない印象も受けます。そこからは個の力量の積み上げも問われますから。ミスが一つ生まれると連鎖する、自信を失う。皮肉な話ですが、それを最も理解出来る人達が実はグランパスファミリーだと思っています。

いっそ引いて構えてしまう

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

もう一つ、最初から大分の敵陣(相手の自陣)を埋めてしまう方法もあります。つまり相手からすれば、時間帯によっては奪いに行かず、自陣にブロックを作ってしまう。これも実は効果的です。大分の前線、藤本にしてもオナイウにしてもスペースがないと厳しい。それを担保してくれるのが後方のビルドアップだったりするわけで、相手がある程度そこで奪うことにリソースを割いてくれないと、今度は彼らの仕事場が窮屈になると。このパターンにハマると、大分は中盤のルーキー、長谷川が左右どちらが利き足か分からない高精度のサイドチェンジを駆使して両サイドにボールを展開。そこからサイドの松本なり星なりが1on1で打開。または唯一のファンタジー力を誇る小塚によろしく頼む。これらの打ち手が中心です。ただ引いた相手のブロックを崩すのって簡単ではございません。結果、攻め手に困るシーンが目立つ。藤本もプレースタイル上、この展開になると試合から消えます。これが相手からすると理想です。スペースさえあれば藤本は1試合1回のチャンスでもモノに出来る力がある。あれはホンモノです。ニアに飛び込む感覚、類まれなシュートセンス。なによりゴール前に走り込む際のコース取り。ストライカーそのものやないか。常にゴールに向かって最短距離を選ぶ。そこに無駄は全くありません。あれです、佐藤寿人の右利き版。シュートまじ上手い。今からコパアメリカ行ってくれ。

堅守の5バックをどう崩すか

これまで大分のビルドアップがいかに厄介か語ってまいりましたが、特徴は決してそれだけではありません。今年の彼らはまさに「堅守」そのもの。なんと直近の東京戦まで、リーグ戦の複数失点「0」(途絶えたけど)。思い返せばJ2といえば堅守がマスト、しかし我々と彼らはむしろ攻撃に活路を見出しここまできた。ボール持てばええやんかの心意気で。とはいえ実際のところ、彼らは手堅くもある。だって我々のように「試合の出来不出来は俺たち次第。やることやれなきゃ終わっから」こんな振り切った物差しで勝敗追求してないでしょ。戦力を考えてもそこまでのロマンは抱けない(抱くつもりがないとは言うな)。ここ最近は確かに連敗中。でも大崩れしない守備。清水は大分のミスを見逃さず、川崎もワンチャンモノにした感あり。ボール保持、そしてバランスの追求。スタートダッシュに成功し、ある程度自分たちの思惑通りに進んでいる内は好循環のサイクルで回るでしょう。ただし中断期間前に対戦した東京。あいつらはエグかった。大分も度肝抜かれたはずです。ぼくは久保くんさんのJ時代を観たことがあると後世まで語り継ぎます。

彼らが狙ったのは「大分のウイングバック」です。あのポジション、チーム一きつい。攻撃になれば前線5枚の両サイドを担当し、守備になれば後方5枚の両サイドを担当する。つまりお前らよろしく頼む(サイドVer.)。大分の戦力で十分に戦えているのはあの特徴的な可変システムであることと同時に、それを実現するべく各選手が担う移動範囲(移動時間と考えるのもアリ)が落とし穴でもある。東京戦で特に狙われていたのは大分の左サイド、松本怜のポジションです。それは東京の対面が久保建英、室屋成の鬼コンビだったからなわけですが、おそらく昇格以降最も苦労した攻防だったはず。

f:id:migiright8:20190611234933p:plain

基本的な考え方は、一人が松本の裏を狙いラインを下げ、それによって生まれた松本の前方のスペースをもう一人が狙う。本来そのスペースを埋める大分の選手は前方に位置するシャドーなわけですが、それがストライカーのオナイウであることがミソです。「オナイウの裏」と、「松本の前」に生まれるスペースを起点として、久保くんさんの超絶個人技で徹底的に叩きました。起点があることで、東京のそれ以外の選手たちも右サイドに加勢し始めるとなかなか手に負えません。そこから生まれた先制点。この場面、ボランチの島川は見事にサイドに引き出され、中の橋本をマークするのがシャドーの小塚というミスマッチが起きていました。

前半15分頃にはオナイウと藤本のポジションを入れ替え、5-4-1で対抗すべく早々に手を打った片野坂監督の手腕も恐ろしいものでしたが、そこまで大分のフォワード陣を押し込んだ時点で東京の勝ち。応急処置、では勝てないのがJ1。

もう一つ面白かったのは、この構造を利用して大分が攻めている時間帯も久保くんさんが右サイドで攻め残りしていたことです。あれは素晴らしい駆け引きでした。彼はボールを持ってからの加速も信じられない速さです。カウンターになるとほぼ無人の大分左サイド。兎にも角にも東京の右サイド、特に久保くんさんの存在は大分にとってはボトルネックだった。幼い顔をした悪魔です彼は。駆け引き上手の悪魔だよあの子は。大事なことなので二回言っておきます。

これ個人的にシャビエルにも期待したいポイントよな。

さて、名古屋はどう挑むのか

現状の大分とすると、相手に研究され始めて思うように試合を運べない状況が続いています。湘南戦は徹底的に前から来る相手に苦労しましたが辛くも勝利。そうだ、余談ですが湘南は大分と噛み合わせが悪かった。基本的にボールを奪えば一気加勢で雪崩れ込む湘南。結果、試合がアップテンポになりがちで、プレスの効きが悪くなる時間帯に落とし穴がありました。アプローチの距離間に問題がある中で無理にプレスに行くと、大分の選手を掴まえきれず、そこからカウンターの餌食になります。それは彼らの土俵です。このパターン、名古屋は要注意(あ、噛み合わせ悪いこと気づきましたね)。

そこからは清水戦で歯車が狂い始め、川崎、東京と連敗。悔しいかな、川崎も東京も「勝てるサッカー」が出来ます。前から奪いに行くことも、構えて網を張ることも出来る。展開に応じて自陣でブロックも作れる。そういったチームが昇格組相手にしっかり対策を敷けば、そりゃ苦労します。ミシャ式、いやカタノサッカーの最大の難点は、ビルドアップが機能不全になると、結果としてその可変式が己の足を引っ張る原因ともなり得ることです。移動を前提にするから穴になる。これもまた、今期豊スタで札幌を完膚なきまでに叩き潰したグランパスファミリーが最も実感している部分でしょう。ですからおそらくこの2週間、どうやってボールを運ぶのか、上手く行かない場合にその状況をどのように打破するのか。このあたりに時間を割いてきたのではないでしょうか。繋ぐことに固執せず、ときには分が悪ければ蹴り出す割り切りも求めたことでしょう(たぶん)。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

しかも大分、戦術の要でもある右ストッパーの岩田(大分の塩谷司と呼ぶ)がコパアメリカで不在。これは痛い(ありがてえ...)。抜群の身体能力と時折見せる決定機に絡むプレーで大分の右サイドのカギとなる存在がこの試合は不在です。

大分はこれまでも何度も対策され、それを乗り越えてきたはずです。ただし今回なにより興味深いのは、その舞台が彼らより戦力面で勝るチームの多いJ1であること。この高い壁を突き破れるか。片野坂監督の手腕が試されています。

さて対する名古屋。後ろでブロック?やれません。ミドルサードで網を張る?やりません。前から奪いに行く?それしかありません。ということで、おそらくルヴァン杯と同様に前からハメに行くと思われます。ハマれば勝ち、ハマらなければ地獄。ただし一つだけ危惧が。仮にシステムを今の4-4-2から変更した場合、これまで名古屋の躍進を支えたハーフコート鬼プレスは果たして機能するのでしょうか。おそらく最もあの手法を組み込みやすいシステムが、ピッチをバランス良く分担出来る4-4-2かと思うのですが。ちなみに清水も川崎も東京も4-4-2で大分撃破。自分たちに矢印が向きすぎて、相手のボールを奪う矢印が向かなくなるのは本末転倒ですよ。あ、上手いことまとまった。

どちらのチームが中断期間前の閉塞感から脱出できるか。ミシャ式もカタノサッカーも、あの系譜は徹底的に潰すのみ。

さあ我々の週末が帰ってきた。