みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

森保ジャパンのこと全部聞いた

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

久保建英の涙を、地元の駅にあるカフェで観ていた。

(スポーツバーではないので)テレビは無音。ただ、画面に映しだされた彼の姿は、なんだかショッキングで、胸を締めつけられるようで、『あぁ、俺はこの光景をきっと一生忘れないだろうな』そう思った。

振り返ると、オリンピック開幕直前の頃は7月末に発売予定だった『フットボリスタJ』の原稿執筆と校正にかかりきり。正直にいえば、大会を心待ちにする余裕などあるはずもなく、オリンピックより原稿に夢中だったことを今更だがここで白状したい(だから買ってくれ)。

そんな頃、オリンピック代表チームに密着し、チームの様子をつぶさに観察していた男がいた。

サッカーライター、飯尾篤史氏だ。

U-24日本代表を立ち上げ当初から追い続け、本大会も事前合宿からあのメキシコ戦に至るまで、最後の最後までこのチームと共に駆け抜けた。たとえ遠征先が地球の裏側だろうと躊躇なく取材を敢行した熱の入れよう。オリンピックを心待ちにしていた者は、ここにもいる。

そして何を隠そう、私の原稿を編集したのもこの人だ。

悩める子羊(私です)に全力で鞭を振るったと思えば、他方では代表の活動を密着取材。いったいどこにそんな時間があったのかと問いたいが、裏を返せば何があろうとオリンピック代表チームを最優先にしてきた。飯尾さんだって大会後は語りたいことが山ほどあるだろう。

だから私は期待した。論文ばりの超大作待ったなしと。

number.bunshun.jp

飯尾篤史は、やはりプロだった。決められた文字数、的を絞ったテーマ設定、無駄のない構成。さすがは『みぎさんダラダラ書きすぎ。書きたいこと全部詰め込みすぎ。素人がやりがちなことやりすぎ』と罵った男よ。悔しいくらい綺麗にまとめてきやがる(言葉遣い)。

でも、だからこそ言いたい。

飯尾さん、貴方が言いたかったことは全て出し尽くせたのかと(何目線)。使いなよ、素人が無限にダラダラ語れるこのブログを。多くのサッカーファンに、その宝のような貴重な取材記録を語らないのは罪だ。この先にある未来に向けて、今を、形として残して欲しい。

そんな素人の誘いに、あろうことか飯尾篤史はのった。

『いいよ。無償で受けるよ』

素人を散々こき下ろした罪滅ぼしのつもりだろうか。見返りを求めず、素人の土俵に自ら降りてきた一流ライター。しかしその御好意、ありがたく受け取ろうではないか。理由はただ一つ、金がない。私はサラリーマンだ。

『みぎさんのところで思う存分、語らせてもらうよ』

なんて男前なんだ飯尾さん。そう思った矢先だった。


www.youtube.com

文字より動画。飯尾さんは、YouTubeに出演した。

その名も『川端どフリー談論』。企画がモロ被りだ蹴球メガネーズ。そして潔いほどのダブルブッキング。飯尾さん、あんたもしや金に魂売ったんじゃないだろうな。

約40分間の動画か、それとも過去最高12,000字越えの文字数か。絶対に負けられない戦いが、そこにはある。

W杯最終予選前に今一度、オリンピックを振り返ろう。

 

『4位』という結果

みぎ(以下、省略)まず率直に、4位という結果に関してはどう思われていますか?

飯尾(以下、省略)選手たちの持っている力はかなり出せたと思うんですよね。これが限界だったというより、出し尽くしたんじゃないかと。だから妥当な結果かなって思います。もちろん、何かがうまく転がれば銅メダルに手が届いたし、それこそ準決勝のスペイン戦は115分まで0-0だったわけで、勝負のあや次第で銀メダルだって取れたかもしれないから、惜しいな、残念だなっていう思いは強いです。ただ、ブラジル、スペインは抜けていたし、メキシコも総合的に見れば向こうのほうが上だと感じたので、仕方ないのかなと。

やっぱりメキシコのほうが上だった、と。

久保建英は「スペインは格上だけど、メキシコは格上なんかじゃない」と言っていて、実際、個人個人を見たら決して負けてないと思います。でも、なんて言うのかな、3位決定戦で3点ともセットプレーでもぎ取ってしまうようなしたたかさとか、老獪なゲーム運びとか。2大会前の金メダリストだったり、ワールドカップでも8大会連続決勝トーナメントに進出していたりする国力も含めて、メキシコのほうが一枚上手だったかなと。ただ、ドイツやフランスがベストメンバーを揃えていたら、日本はベスト4にも行けなかった可能性があるわけで。そういう意味では、日本はしっかり準備を進めてきたし、闘えるチームの雰囲気になっていた。短期決戦のトーナメントを勝ち抜くためには、そういうのってすごく大事なので。単なる戦力、実力で測れない部分も総合して、よくやったなって思います。

 

久保建英の涙

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

出し尽くしたという点では、3位決定戦後の久保建英の涙がすごく印象的でした。相当な責任を負ってプレーしていたんだなって僕は感じたんですけど、飯尾さんは現地であの涙を見て、どんな想いを抱かれましたか?

久保ってこれまでクールなイメージがあったと思うんですよ。メディア対応でも饒舌ではなかったから。ただ、今大会では彼の情熱的な言葉を何度も聞く機会があって。例えば、南アフリカとの初戦は久保のゴールで勝ったけど、試合後、「今日ゴールを決めるとしたら自分だと言い聞かせていた」とか。ニュージーランド戦のあと、次の対戦相手がスペインに決まると、「次は自分がチームの勝利に導いてやるぐらいの活躍をしようと、ちょっとビッグマウスになろうと思ってます」とか。スペイン戦後には、「もう涙も出ないぐらい悔しい」とか。

今大会にすごく懸けていたんですね。

彼は子どもの頃にスペインに渡ってすごく苦労したと思うんですね。さらに13歳で日本に戻ってきて、そこでも嫌な思いをしたことがあっただろうし。努力と才能を頼りに、理解者のサポートも得て道を切り開いてきたなかで、日本でオリンピックが開催される。やっぱり日本を勝たせたいとか、スペインに対して「どうだ、見たか」みたいな思いもあったと思うし、大会中に「チームメイトにもスタッフにも恵まれて、このチームで6試合戦いたいし、金メダルを取りたい」と言っていたけれど、それは本音だと思う。そうした思いに触れていたから、あの号泣にそこまで驚かなかったというか。

 ただ、気持ちが張り詰めていた部分もあったと思うんですよね。攻撃の中心選手として責任を負っていたと思うし。久保に限らず、今回はコロナ禍でバブル措置が取られていたから、練習以外はホテルの部屋に閉じこもっていて、メンタル的には相当辛かったはずなんです。ある選手は「気分転換は窓から外を眺めること」と言っていたくらいなので。家族に会えないどころか、自由に外にも出られない状態だったから、リフレッシュするのが難しかったと思います。3位決定戦なんかは、肉体的な疲労だけでなく、メンタル的な疲労も感じました。

スペイン代表の選手が選手村の中をサイクリングしている動画を見ましたけど、日本代表は選手村ではなく、ホテルに滞在していたんですね。

そうですね。選手村に入ったほうが買い物などでリフレッシュできたかもしれないけれど、スタッフの人数は制限されてしまうんですよ。医療スタッフとか、サポートスタッフとか、万全の体制は組めないそうです。幕張のホテルを拠点にしたから、使い慣れた夢フィールドでリカバリーを行えたのであって、吉田麻也も大会中「夢フィールドを使えるのは大きい」と言っていましたからね。だから、幕張に拠点を置いたのは間違っていないと思うけど、メンタルケアのスペシャリストを帯同させるとか。これはコロナ禍に限った話ではなく、選手、監督の心理的なケアに関しては、今後に向けて検証、検討すべきテーマになると思います。

 

オリンピック本大会に向けた準備

それ以外の準備に関しては、どうだったのでしょう?

今回、地元開催だったこともあって準備は周到だったと思います。2020年2月に欧州に拠点を作り、藤田俊哉さんをはじめヨーロッパ駐在強化部員を派遣して、海外組が所属するクラブとコミュニケーションをしっかり取ってきた。だからオーバーエイジもそうだけど、24歳以下の選手たちだって森保(一)さんが希望する選手を呼べたわけじゃないですか。

 リオ五輪ではエースの久保裕也を招集できませんでした。オーバーエイジに関しても、反町(康治)さん(現技術委員長)が率いていた北京五輪のときはひとりも呼べなかったし、リオ五輪のときもA代表の主力は呼べなかった。そういう意味では今回、森保さんがA代表の監督兼任していること、日本協会が欧州のクラブと事前交渉を入念にしていたこともあって呼びたいメンバーを呼べたし、他チームに先駆けて6月からオーバーエイジの融合を図れたと。もっと遡れば、17年12月にチームを立ち上げて、海外遠征を何度も重ねてきました。大会直前は7月5日から静岡でキャンプを張って、コンディショニングや暑熱対策、疲労回復のプログラムを行ってきた。こうした部分はすごく評価できるので、あとは先ほど言ったメンタルケアの部分ですかね。

 

では実際の試合内容はどうだったか

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

ピッチ内の印象はどうでしょう。久保選手や堂安(律)選手に依存してしまうような部分も感じましたか?

いや、そこはあまり感じていないですね。そもそも森保さんも、このチームの強みは三笘薫、相馬勇紀も含めた2列目だと認識していただろうし、彼らを最大限に生かすことがチームコンセプトのひとつだったので。実際、ボランチでゲームを作るという過去の日本代表のサッカーというより、ボランチのふたりは縦パスを入れて2列目に早く預けて、彼らが勝負しやすい状況を作っていた。それは頼っていたわけではなく、チームとしての狙いだったと考えます。特にグループステージでは、狙いとしていたサッカーをかなりやれていたと思うんです。ハイプレスとミドルプレスの使い分けも良かったし、中盤に誘い込んで遠藤航、田中碧のところで奪い取ったり、トップ下の久保建英が相手のアンカーを消すような守り方も良かった。フランス戦では田中碧と久保がインサイドハーフに入って、5レーンを埋めてロジカルに崩したりもしていた。

4-3-3気味でしたよね。あれは事前のスカウティングの効果?それとも選手が自発的にピッチ内で判断した?

両方だと思います。フランス戦に関しては、田中碧が「相手を見て立ち位置を変えた」と言っていましたけど、そうしたピッチ内での判断力は森保さんがずっと求めてきたもの。一方で、スカウティングもしっかりやっていて、グループステージのメキシコ戦の先制点の場面で相手左サイドバックの裏を突いたところや、相手の10番のライネスへの対応なんかは、分析の賜物だと思います。ただ、グループステージではかなりやれていたけれど、決勝トーナメントに入ると相手にかなり対策されていた。特にニュージーランド戦では、相手は5-3-2にしたり、中盤がダイヤモンドの4-4-2にしたりして、日本の嫌がることをしてきましたから。

 それでも、大会全体を通してこれだけ個の能力でやり合った日本代表を見たのは初めてかもしれないです。オーバーエイジの3人はもちろん、谷晃生、中山雄太、板倉滉、田中、久保、堂安、相馬……最後の最後でようやく三笘も、これまでの鬱憤を晴らすようなプレーを見せてくれましたし。特に守備陣は本当に頼もしかったです。3位決定戦のあと、3失点に絡んだ遠藤が「あそこで自分がやられたのがすべて。批判は全部自分にしてもらえれば」と言ったけれど、それまでの活躍、奮闘を見れば、誰も彼を責められないなと。

とはいえ、決勝トーナメント3試合で1点しか取れなかったことも事実です。この点はどう感じていますか?

セットプレーで点が取れなかったのは痛かったですね。久保、堂安、相馬とプレースキッカーは揃っていたし、吉田、冨安、板倉、遠藤、酒井、中山、林大地、上田綺世と、ヘディングの強い選手もこれだけいた。3月のアルゼンチンとの親善試合では久保のコーナーキックから板倉が2回も頭で点を取っている。スペイン戦なんか、0-0で耐えていたんだから、まさにセットプレー一発で仕留められたら、というゲームだったと思います。もちろん準備はしっかりやっていたと思うし、運、不運もあるけれど、相手に見切られた部分もあったと思うので、もったいなかったですね。

 

森保一監督をどう評価しているか

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

森保監督のマネジメントについては、どうですか?

レーニングでは選手と本当によくしゃべっているんですよね。練習前には必ず1人、2人捕まえて議論しているし、リカバリーの選手たちとは一緒にジョギングしながらコミュニケーションを取っている。「あの場面ではどうしたら良かったと思う?」とか、「こういうやり方もあったよね」とか。今大会が終わった後でも、試合であまり使わなかった選手全員に、起用できなくて申し訳ない、こういう理由で起用できなかった、こういうところをもっと伸ばせば成長できる、といった話を1人ずつしたみたいで。大会期間中も三笘や林が言うには、森保さんは背中を押して勇気づけてくれる、言葉が響くと。そういう意味で、不平不満はあまり聞こえてこないんですよね。A代表でも、選手の言葉に耳をしっかり傾けてくれるといった話は出てくるので、モチベーターとしての手腕は高くて、マネジメント能力は非常にあると思います。

 どの試合だったか、吉田麻也が戦術ボードを使ってチームメイトに指示を出していて、その横で森保さんが見守っている様子がテレビカメラに抜かれて。「吉田監督かよ」なんて揶揄されていたみたいですけど、これは森保さんが就任当初からずっと求めていることで。試合中に選手自らの判断で問題を解決していく能力を高めなければ、日本代表は世界で勝てない。相手の出方に応じて後出しジャンケンのように素早く対応していくには、ベンチの指示を待っていては間に合わない。そうしたところを就任してからずっとアプローチしてきたわけですから。吉田麻也の行動についても、きっと頼もしく思っているはずですよ。

では、采配や選手起用に関しては、どうですか?

選手の状態に関しては、インサイドのほうが確かな情報を持っているので、外からどうこう言うのは難しいですよね。どうしても結果論になるので。例えば、スペインとの準決勝で延長戦に入るとき、久保と堂安を同時に交代させたことに関していろいろ言われているけれど、僕はそこまで気にしていなくて。実際、普段は強気の発言が多い堂安ですら「身体も本当にボロボロだったので。代わって正解だなと、自分でベンチで思っていたくらいだった」と言うくらい疲弊していた。なので、久保もどれくらい疲弊していたのか外からでは分からない。それに、代わって出場した三好(康児)と前田(大然)はいずれも決定機を迎えたわけで、どちらかが決めていたら采配ズバリということになる。だから、そこは結果論になってしまう部分が多くて。

 あえて采配に関して個人的にストレスを感じた点を挙げれば、3位決定戦のメキシコ戦のハーフタイムくらいですかね。大会最後の試合で前半を終えて0−2だったと。流れを大きく変えるために、旗手、上田、三笘を一気に入れても良かったけれど、旗手の投入にとどまった。5人交代における3枚替えの効果って、去年のJリーグではかなり目にしたじゃないですか。森保さんは5人交代の試合をほとんど経験していないから、3枚替えの効果を実感していないのかもしれないけれど、あの大一番で流れを変えるにはメッセージ性の強い交代をしないといけないと思うんです。それこそ97年のワールドカップアジア最終予選で岡田(武史)さんがゴンさん(中山雅史)、カズさん(三浦知良)を同時に下げて城(彰二)、呂比須(ワグナー)を投入したように。ああいう采配ってピッチ内の意識を変える強いメッセージになるし、指揮官の覚悟を示すことにもなりますから。

確かに。3枚替えの勝負に出てもよかったですね。

ただ、選手起用に関して、触れておかないといけないのはケガ人の影響です。大会後、森保さんに「誤算はなんでしたか?」と聞いたら、真っ先に挙げたのが上田綺世と三笘のケガだったんです。上田は6月22日のメンバー発表直前に足を傷めて、そこからずっとリハビリ。三笘はACLでケガをしてしまって、7月12日にチームに合流してからずっと別メニューで、初戦の南アフリカ戦はベンチ外。本来は、上田がスタメンで、林大地がスーパーサブ。三笘と相馬はどちらかがスタートで、どちらかがスーパーサブだと森保さんは思い描いていたはずで、ふたりのケガが采配の幅を狭めたのは確かだと思います。もうひとつ、冨安が初戦前日に負傷したことも痛かった。冨安の穴は板倉がスーパーな働きで埋めてくれたけれど、ボランチの三番手としての板倉を失ってしまった。実際、三番手と言うのは失礼なくらいレベルの高い選手なわけで、遠藤、田中碧にかなりの負担がかかったのは間違いないです。

[http:// Embed from Getty Images :embed:cite]

遠藤選手と田中選手は全試合スタメンでしたもんね。

その点で言うと、試合中の選手交代より、どこかでターンオーバーを使う必要はあったと思います。僕も第3戦のフランス戦でターンオーバーするべきだと思っていたし、森保さんは必ずするはずだ、という原稿も書いたんですね。なぜかというと大会前、オリンピックを2回経験している吉田麻也が、大会を勝ち抜くポイントとして「どのタイミングでターンオーバーするか」と話していて。真夏の東京で、中2日で6試合を同じメンバーで戦い抜くのは不可能だと。もうひとつは、18年のロシア・ワールドカップで、当時の西野(朗)監督が「ベスト8を狙うには余力を残して決勝トーナメントに進出しないといけない」という考えで、1勝1分で迎えたポーランドとの第3戦で大迫、香川、原口、乾、長谷部、昌子と主力を6人入れ替えた。結果、0-1で敗れたけれど、決勝トーナメント進出を決めた。ベルギーにも2-3で敗れるんだけど、あれだけのゲームができたのは、主力がフレッシュな状態で臨めたから。これは日本サッカー界が生かすべき経験だし、森保さんもコーチとしてベンチにいたわけだから、西野さんにならってターンオーバーすると思っていました。それこそ、0-1で負けてもいいという覚悟を持って、久保や堂安、吉田を休ませるんじゃないかって。そうすれば、サブ組の士気も上がるでしょうし。

 日本人が代表チームを率いることの大きなメリットは、過去の成功体験や課題を生かせることだと思います。2度もオリンピックに出場した選手がキャプテンで、技術委員長も五輪の経験があって、指揮官自身もコーチとしてワールドカップでの成功体験があるんだから、そうした経験をチームとして共有する、歴史を継承することは、日本人が監督をする以上、大事なポイントだと僕は思います。ましてや今大会は、金メダルを狙っていたわけですからね。

 

今大会の目標設定について

金メダルという目標設定はどうだったんでしょうか。選手にとって重荷になったり、準決勝で敗れたときの大きなショックに繋がった可能性はないですか?

もともと17年12月に東京五輪代表チームが立ち上げられたとき、森保さんが掲げていた目標は「メダル獲得」だったんです。それが金メダルに変わったのは、僕の記憶と認識が正しければ、18年8月にインドネシアで開催されたアジア大会でした。その2ヶ月前に森保さんはコーチとしてロシア・ワールドカップに帯同して、1ヶ月前に日本代表監督に就任した、というタイミング。この大会中、森保さんは選手たちに東京五輪での目標を確認しているんですよね。そうしたら、どの選手も「金メダルを獲りたい」と答えた。そこで「金メダル獲得」へと目標を変え、より高いレベルを求めるようになった。「オリンピックに出場した選手がA代表に昇格するのではない。A代表の選手がオリンピックに出るようでないと、金メダルは獲得できない」と言うようになったのも、この大会からです。

 その目標設定に関しては、間違っていなかったと思います。例えば、19年11月にホームでコロンビアにいいところなく敗れたあと、このままでは金メダルなんて到底無理だと、選手たちが真剣に向き合うきっかけになった。ブラジル・ワールドカップのときに一部の選手たちが掲げた「優勝」とは違って、南アフリカ・ワールドカップのときに目指した「ベスト4」に近いというか。もっとやらなきゃいけないという意識づけになっていたし、実際には南アのベスト4よりも可能性のある目標でもあったと思います。たしかに準決勝で敗れて、金メダルの夢が絶たれたショックは計り知れなかったと思うし、結果的にそのショックから立ち直れなかったと言えるかもしれません。でも、金メダルという目標を掲げたからこそここまで来られた、という面も大きいんじゃないかと思います。

 

話題となった田中碧発言を掘り下げたい

www.goal.com

メキシコとの3位決定戦のあと、田中碧選手が「僕たちはサッカーを知らない」と発言したことが記事になりましたけど、あの発言については、どう感じましたか?

あれは、監督だとか特定の誰かに対して言ったわけではなく、自分自身だったり、自分も含めたチーム全体に向けた言葉だと感じました。その前後も含めると「2対2、3対3になったりすると相手はパワーアップするけど、自分たちは何も変わらないというか。それがコンビネーションという一言で終わるのか、文化なのかは分からないですけれど、サッカーを知らなすぎるというか。彼らはサッカーをしているけれど、僕らは1対1をし続けているというか。それが大きな差なのかな」と言っているんですよね。

 例えば、スペイン代表は、ポジショナルプレーの概念がチーム全体に浸透し、そのベースのうえで連動しながらボールを効果的に前進させていたじゃないですか。チーム内にゲームモデルとプレー原則があり、選手一人ひとりのグループ戦術、個人戦術のレベルが高いのは、育成年代からそういうサッカーに触れ、所属クラブでもそういうプレーをしているからだと思うんです。これは代表チームだけの問題ではなく、育成やリーグ、クラブの問題。じゃあ、スペイン代表の(ルイス・)デ・ラ・フエンテ監督が日本代表監督になったら、日本はスペインのようなサッカーができるようになるのか。おそらく難しい。なぜなら、スペインのあのサッカーは、デ・ラ・フエンテ監督が植え付けたものではないから。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

重要なポイントですね。では、そもそも論として『代表監督はどうあるべきなのか』も問いたいです。

これまでの日本代表は、外国人監督がヨーロッパのスタンダードやサッカーの新しい知見を代表チームにもたらしてくれて、それを学ぶという流れがあったと思います。特にオフトさんやオシムさんはまさに先生という感じだった。僕も外国人監督から多くを学ばなければならないと思ってきたし、今もそう思っています。ただ、一方で代表監督に求められるものがこの数年、相当変わってきていて。昔と違い今はインターナショナルマッチウイークしか代表活動が行われないし、短期の国内合宿も一切ない。そもそも代表チームのほとんどが海外組になったから、選手全員が揃うのは試合の2日間なんてこともある。しかも時差のあるヨーロッパから帰ってくると。こうなると、練習なんてできません。

ましてや代表チームはメンバーも毎回変わります。

例えば、ペップ(グアルディオラ)が日本代表監督をやってくれたとして、「なんだ、そんなことも知らないのか」という話になって、代表チームでそれを一から教える時間はない。それでもワールドカップでベスト8を狙うなら、5バックで守ってカウンターが一番確実だ、っていうことになるかもしれない。もう少し現実的な話をすると、もし浦和レッズリカルド・ロドリゲスが日本代表監督になったとして、今年1月、2月にレッズで繰り返し行っていたような、敵がいない状態でポジショナルプレーの基本的な動き方を体得するようなシャドートレーニングを1年経っても、2年経っても毎試合前に繰り返さないといけないかもしれない。それで選手たちが監督の指示に縛られて、試合では相手のハイプレスに簡単にハマって失点して……なんて姿が思い浮かぶんですよね。かつてゾーンプレスフラット3、接近・展開・連続、に縛られた時期があったように。しかも、以前のようにソーンプレスやフラット3習得のためだけの合宿なんて張れる時代ではない。

 だからといって、もう外国人監督から学ぶ必要はないのかと言ったら、そんなことはなくて、それは育成やJリーグのクラブが招聘して学ぶことなんじゃないかと。古くはベンゲルとか、オシムさん。近年ではミシャさん、ポステコグルー、ロティーナ、リカルド・ロドリゲスがやって来たように。そうしたリーグで育った選手が代表に選ばれて、パッと集まってサッカーをする。それが代表チーム。だから、Jリーグ川崎フロンターレ横浜F・マリノスのようなチームが10チームくらい出てくれば、Jリーグだけでなく日本代表のサッカーもずいぶん変わると思います。そうなったら、リカルド・ロドリゲスが代表監督になってもパッとポジショナルプレーのサッカーができるでしょうし、森保さんが監督になっても、そうしたビルドアップがパッとできるんじゃないかなって思います。

 当然、戦術的な整理をまったくする必要がないわけではなくて、今の代表チームもワールドカップ本番までに整理しなければならないことはたくさんあるはずです。プレスの掛け方、ビルドアップの仕方、ボールの運び方、ボール保持時の選手の立ち位置など。もう少し整理できないものかなと感じることはありますし、最終予選を通じて改善されていく部分もあると思います。

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

確かにそう考えたら、最近のイタリア代表の流れはある意味そうですね。EUROで優勝して、イタリアのサッカーが変わったと言われるのも、ここ10年、15年くらい国としての文化が少しずつ変わって来て、セリエAでもアタランタみたいなチームも出てきて、指導者も変わって来て、その結果として代表のサッカーも変わってきたという見方ができるかもしれません。

やっぱり代表チームって、その国のサッカーレベルを映す鏡でもあると思うんですよね。それに、ヨーロッパや南米では昔から代表監督はセレクターであり、モチベーターだと言われてきましたけど、日本代表監督もここを最も重視して選ばないと、チームとしてまとまるのが難しくなってきていると思うんです。あと、監督の仕事ということで言えば、海外だとかなり分業制じゃないですか。トレーニングはコーチが仕切っていたりして。Jリーグでもロティーナとか、ポステコグルーとか、そうですよね。その意味でいうと、森保さんもオーガナイザーというか。トレーニングはコーチの横内(昭展)さんが仕切っていますしね。

 一方、森保さんが就任以来ずっとチャレンジしているのは、さっきも少し話ましたけど、ピッチ内で問題を解決する力、臨機応変にプレーするうえでの主体性や自主性を伸ばすこと。これは、サッカー選手に限らず日本人の国民性というか、苦手とされていることですよね。ロシア・ワールドカップが終わったときに森保さんから聞いたんですけど、2-0でリードしていたベルギー戦で相手がパワープレーをしてきたと。ベンチでどうする、どうすると相談している間に追いつかれてしまった。森保さんは、植田直通を入れて5枚にして跳ね返しましょう、と西野さんに提案できなかったことを悔やんでいました。ただ、その一方で、ベンチの指示を待つのではなく、ピッチ内で問題を解決できるようにならないと、ベスト8、ベスト4を狙うのは難しいとも思ったと、森保さんは言っていたんです。

 カタール・ワールドカップへの道は、そこからスタートしているんですよね。これは吉田麻也原口元気といったロシア大会経験者も話していることです。森保さんがなぜ選手たちに話し合わせ、自分たちで問題を解決させようとしているのか。彼らは分かっています。そういうチャレンジをしなきゃいけないということも理解している。だから、「森保さんは何もしない」なんて不満は選手たちから漏れてこない。それがカタール・ワールドカップに向けたチャレンジだから。相手が形を変えるたびに、ベンチから監督が飛び出し、ああしろ、こうしろ、なんてやっている暇はないですから。

まさに、選手たちがピッチ内で解決しない限り、上には行けないというわけですね。

19年のアジアカップの決勝を思い出してほしいんですけど、相手のカタールは3バック+アンカーの4人で攻撃をビルドアップしてきました。日本は前線からハメられずにボールを運ばれて、2点を先制されてしまった。でも、森保さんは試合前に、相手はアンカーがいるよ、こうやってくるよ、その場合はどうすればいいか分かっているよね、という確認をミーティングでしていたそうです。だけど、いざ試合が始まったら、選手たちが後手を踏んでしまった。2点を先行されたあとの前半35分ごろ、大迫がピッチサイドに来て、森保さんが「サコと(南野)拓実が縦関係になって、両ワイドが行けばハメられるよ」ということを伝えて、ようやく修正できた。

 それに対して修正が遅いという指摘はもっともなんですが、一方で森保さんからすれば、ミーティングで確認したのだから気づいてくれるはずだと考えた。森保さんが反省していたのは、修正が遅かったことではなくて、伝えたつもりになっていたことだと。伝わっていなければ意味がないということを反省している、と言っているんですよ。自分たちで考えて行動するのが苦手な日本人のメンタリティをどこまで変えられるか。このチャレンジがどんな結果をもたらすのか、見てみたいと思っています。

 

そして、アジア最終予選が始まる

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

では、ワールドカップまでの4年間について、理想的な強化の仕方はどうあるべきとお考えになりますか?

ヨーロッパを見ると、日本のように親善試合ってあまりないですよね。向こうはネーションズリーグがあって、EUROがあって、ワールドカップ予選もあって、ワールドカップがあるので、真剣勝負がずっと続くわけです。その都度、その都度、調子やコンディションのいい選手、旬の選手を集めて結果を出していく。かなり極端に言うと、一話完結の積み重ねみたいなところもある。一方、日本の場合、本気でワールドカップ出場を目指すようになった92年くらいから、4年間掛けて親善試合や合宿をこなしながら戦術を浸透させていき、ワールドカップ1次予選、アジアカップ、最終予選を経て右肩上がりに成長を遂げていった先にワールドカップでの成功があるという見方をしてきたと思うんです。少なくとも僕はブラジル・ワールドカップまでは、そうやって代表を見ていました。でも、右肩上がりの成長の先にザックジャパンのブラジル・ワールドカップでの惨敗があり、頭打ちになった先に南アフリカ・ワールドカップのベスト16進出、本大会の2ヶ月前に監督を交代した先にロシア・ワールドカップのベスト16があった。だから、一話完結の積み重ねによる3年間と、ワールドカップの戦いは別物というか。特にヨーロッパや南米は継続的に積み上げていくような感覚はそんなにないんじゃないのかなって。ドイツがブラジル・ワールドカップで優勝したときには、レーブの長期政権による強みが出ていたけれど、それでもロシア・ワールドカップではグループステージで姿を消してしまった。ワールドカップもオリンピックも、究極の短期決戦トーナメントだから、直前合宿を含めた2ヶ月の勝負だと思います。

 それでも日本の場合、親善試合を多く行っているので、継続性は高い代表チームだと思うんです。ただ、19年のアジアカップに出場したメンバーと今の代表メンバーはすでにかなり変わっていますし、カタール・ワールドカップでは東京五輪組が食い込んでくるはず。さらに変わると予想します。

でも、多くのサッカーファンは、4年間で自分たちのスタイルを築き上げていってほしいと願っているのでは。

そうだと思います。僕だって少し前までそうでしたから。そして今も積み上げや継続はあるんですけど、その継続の仕方はクラブチームとは異なるものだという認識が大事。ワールドカップで勝つのは、また違う勝負になるということを認識するのも必要なことです。カタール・ワールドカップで言えば、現実的な目標、ノルマは決勝トーナメント進出。コンディションをしっかり整えて、主力にケガ人もなく、クラブで出場機会を失ってしまう選手もなく、相手をしっかり分析して対策を立てて、それがハマればベスト8にたどり着く可能性もあると思います。今回の東京五輪でベスト4にたどり着いたように。ただ、本当にワールドカップで優勝を狙うには、何大会も連続してベスト8に入るような国としての地力をつけないと難しい。それくらいになって初めて本気でベスト4や優勝を狙えるのだと。ドイツ、ブラジル、フランス、アルゼンチン、スペイン、イタリアといった国って、そうじゃないですか。なんだかんだとベスト8くらいまで来る力がいつもあって、タレント力、コンディショニング、分析、巡り合わせなどの幸運も加わって優勝する。だから、日本がカタール・ワールドカップでベスト8に進出できたからと言って、地力がすごく上がったわけではなくて。2050年にワールドカップ優勝を狙うなら、46年大会までにベスト8の常連になっていたら……優勝できるかもしれないと思います。