みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

続・フル代表も全部聞いた

付き合わせて報酬なし。これさすがに不味かったか。

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まさかあれほど反響があろうとは。これがプロの力なのか、飯尾篤史氏の東京五輪総括は大好評だった。なぜ妻に監修をさせなかった。彼女ならきっとnoteを利用しあの記事を500円で設定しただろう。お前は何のためにやっているのか、ああ妻の声が聞こえる(気がする)。そもそもこんな出来の悪い旦那に付き合う飯尾篤史とは何者なのか。妻にとっては目の前の親父も(私です)一流ライターも(飯尾さんです)たぶん同じに見えている。

さて、今回のお題はワールドカップアジア最終予選

巷では、やれ関心が薄れただ面白くないだと言われたい放題。代表に魅力がないのか見るべきコンテンツが飽和気味なのか真相は不明である。かくいう私もリアタイで追えてるかといえば正直後回しだったのは認めます。

テレビを観てもTwitterを開いても目に飛び込むのは森保無能論。まあ確かに、フットボールがつまらない、しかも結果までついてこなけりゃ叩かれるのも仕方ない。

そう思いつつ、私は改めて最終予選を全て見直した。わざわざ裏解説版(憲剛と岩政先生)も確認し、代表記事もくまなくチェックだ。トルシエがすげえ怒ってて笑う。気づけばフラットスリーがオシム枠に昇進した。

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そんな逆風吹き荒れる日本代表だが、いや面白かった。

ピッチ上の良し悪しや、もっといえばそもそものコンセプトの有り無し含め賛否両論そりゃあるだろう。とはいえ(全く順風満帆ではないものの)やろうとしてることも、それが全然上手くいかないが故の苦悩も、その紆余曲折っぷりも、『まあそう変わるわな』って妙な納得感も、なんか全部ストーリーとして成立してて凄い。

そのうえで今回久しぶりに飯尾氏と対談して分かった。代表になると『推し(J)にしか興味ない』って人多いけど(私もです)、これJ(Jリーグです)の変遷とめちゃくちゃ関係あるじゃん。結果としてそうなってる。

ん、意味がわからない......?では対談を是非読んで欲しい。我々のやり取りはあくまで森保監督のコンセプトを前提とし、そのうえで実際のピッチ上で起きている現象をどう解釈するか〝我々なりに〟まとめたものである。

そして気がついたのだ。何故〝自主性〟なるコンセプトに頑なにこだわるのか。なぜ代名詞ともいえる3-4-2-1の安パイでいかないのか。その背景として森保一に流れる文脈とは。あくまで仮説、しかし私はスッキリした。

妻よこっちを見るな。今回も無料で大盤振る舞いだ。

 

まずは最終予選6試合を通した感想を聞いてみる

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みぎ(以下、省略)森保ジャパンはアジア最終予選6試合を戦って4勝2敗の2位ですけど、飯尾さんはここまでをどう見ていますか?

飯尾(以下、省略)こんなに難しい条件の最終予選があっただろうか、というくらい難しいですよね。コロナ禍で過密日程となってしまい、親善試合がまったく組めないし、ようやく組めたウズベキスタン戦(1月20日の予定だった)もなくなってしまった。選手全員が揃うのは試合のわずか2日前なのに、コロナ対策のためにホテルで選手たちが自由にコミュニケーションを取れないとか、欧州組と国内組のフロアを別にして隔離するとか。それ以前にも、2020年はほぼ1年間、代表活動ができなかったり、21年6月のジャマイカ戦が中止になったり。

21年9月の『Number』で、飯尾さんが森保さんと岡田(武史)さんの対談を担当されていたじゃないですか。あの内容がとても興味深くて。森保さんが「3日間あるとすれば、初日はほぼリカバリー。2日目に攻撃を少しトレーニングし、ミーティングも少し入れて、試合前日に守備の確認をすることが多いんですけど、今回のオマーン戦(21年9月2日のホームゲーム)では、全員で練習できたのが試合前日の1時間だけでした」と。そりゃ、セットプレーの練習をする時間なんてないわな、と。

2日間と言っても、ピッチで練習できるのは試合前々日に1時間30分くらい、前日は1時間と決められている。練習内容は攻撃面で2ポイント、守備面で2ポイントくらいのものですよ。

あの対談では、森保さんがオマーン戦で難しかったことを何点か挙げていて。1つ目は欧州組が夏場に日本に戻ってくる過酷さ。2つ目は移籍問題で揺れていて、なかなか頭を切り替えられない選手がいたり、招集自体を見送らなければならない選手もいたと。

後者は冨安健洋のことですね。アーセナル移籍の大詰めで、現地でメディカルチェックを受けてサインしないといけなくて、オマーン戦への招集を見送った。これもコロナ禍の影響です。というのも、試合の3日前までに帰国して、PCR検査で陰性でなければ試合に出られない条件なので。オマーン戦が9月2日で、8月31日がマーケットの最終日でしたから。

さらに3つ目がヨーロッパのプレシーズンで、選手たちは自チームの戦術を頭と体に詰め込んでいる時期だから、代表に来てパッと切り替えられなかったと。でも、選手がどんなに疲れていても、限られた時間でもトレーニングしないと、試合に向けた画がハッキリしないんだなと痛感した、という風に反省されていて。

森保さんが甘かったわけですけど、ただ一方で、それって代表監督ひとりの責任なのかなと。コロナ禍という特殊な状況ではあるけれど、9月頭が最終予選の開幕で、その初戦に敗れるという経験を、ハリルさん(ハリルホジッチ監督)指揮下の前回のアジア最終予選でも味わっているわけじゃないですか。あの時、なぜUAEに敗れたのか。森保さんが〝失敗した〟と感じたまさに同じことを、前回も犯している可能性はあるわけで、それがなぜフィードバックされなかったのか。日本代表はいったい何度W杯予選を経験しているんですか、という話。

 森保さんは選手としてW杯予選を戦ったけれど、時代もレギュレーションも大きく違う。技術委員長のソリさん(反町康治)はW杯予選を経験するのは初めて。反町さんの前の技術委員長はセキさん(関塚隆)で、その前が西野(朗)さん。その前がシモさん(霜田正浩)、その前が原(博実)さん、その前が小野(剛)さん……って、途中で派閥が変わっているから、「これ、よろしくお願いします」と引き継がれない。いや、派閥は置いておいても、情報がしっかり引き継がれていないと思います。これまでW杯6回出場したけれど、どれだけの財産が日本サッカー協会に残っているのか……。

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対談の中で岡田さんも「代表監督を退任するとヒアリングを受けるんだけど、どんなことを考えてどうしたという記録を協会に残していないんだよ。貴重な経験が日本サッカーの財産になっていない」と嘆いていました。

そう。だから今回のコロナ禍における代表活動のノウハウも、会長や技術委員長が3代先になったら、何も残ってない可能性がありますね……って話が大きく逸れちゃいましたけど(笑)。話を戻すと、オマーンとの初戦を落としたことでチーム全体が精神的に大きなダメージを負ったのは間違いなくて、いきなり追い込まれてしまった。

 16年にUAEとの初戦を落としたハリルさんのとき、チーム立て直しのきっかけになったのは、11月に組まれたオマーンとの親善試合でした。岡崎慎司本田圭佑香川真司に代えて大迫勇也清武弘嗣久保裕也をスタメンに抜擢して好感触を得ると、彼らをそのまま4日後のサウジアラビア戦に起用して勝利した。でも、今回は親善試合を組む余裕がないからテストもできない。それでサウジアラビアにも敗れて1勝2敗になってしまうんだけど、そこからよく4勝2敗まで持ち直したなって。

では、ここまでの6試合はまずまずだと。

いや、もちろん、内容面はもう少しなんとかならないかな、とは思っていますよ(苦笑)。ただ、前提条件を冷静に考えると、本当に難しい戦いをしているのも事実。あれだけ賞賛されたザックさん(ザッケローニ監督)の時代でも、アウェイのヨルダン戦では完敗したし、オーストラリアとはホーム、アウェイともに引き分けているわけだから、最初の印象が悪かっただけで、成績的には過去の最終予選とそんなに変わらない。

 それに、1勝2敗という窮地を迎えたときに、監督の力量って測れると思うんです。監督の能力を測る六角形があったら、戦術、サッカーに対する知見といったものはその一角に過ぎず、他に同じぐらい大事なものがある。たしかにサッカーに対する知見では、森保監督も横内(昭展)コーチもずば抜けて優れているとは言い切れないでしょう。ただマネジメント力、コミュニケーション力、精神力など優れている部分もあって、実際、チームの一体感や、監督と選手の信頼関係がなければ、1勝2敗の状況でチームが崩壊していてもおかしくないですよね。

たしかに、オーストラリア戦の前は瀬戸際まで追い詰められていて、あの試合を落としたらアウトでした。

岩政大樹さんが言っていたんですが、ああいう大一番で人とフォーメーションを変え、勝利を引き寄せる力も監督の大事な能力で、それはおそらく自分にはないと(笑)。その意味では、森保さんは岡田さんや西野さんと同様に引きが強いというか、肝が据わっている。だから、あそこで持ち直したところに森保さんの力量も感じます。Jリーグで、試合後の会見やフラッシュインタビューで、すぐにテンパってしまう監督をたくさん見てきただけに(苦笑)。

 

第1フェーズから第2、第3フェーズへ

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最終予選の6試合ですが、最初の3試合とあとの3試合を〝ピッチ上で起きたこと〟で解釈すると、分割して語る必要があると感じています。フォーメーションが全てではないとはいえ、形一つとっても明確な変化がありました。まず最初の3試合から感想をお聞きしたいです。

その話をするには、チーム立ち上げからの流れに触れないといけなくて。さかのぼると、森保ジャパンはここまでに3つのフェーズがあったと思うんですよ。最初は南野拓実中島翔哉、堂安律という2列目の3人を最大限に生かすサッカー。大迫勇也ポストプレーを使いながら、彼ら〝三銃士〟がいかにいい状態でボールを受けて、前を向いて仕掛けたり、コンビネーションを出せるかがポイントでした。

東京五輪本大会も類似したコンセプトでした。久保建英、堂安、相馬勇紀や三笘薫の2列目を生かす意味で。

そうですね。ただ、A代表のほうはその後、〝三銃士〟が解体されて、鎌田大地や伊東純也が台頭してきて、インテンシティやデュエル、カウンターの際のスピードと迫力が武器のチームに変化していく。その最たる例が、3-0で完勝した21年3月の日韓戦ですね。鎌田自身も「代表チームの強みは速攻の際のスピード感と迫力」だと言っていました。そのなかで鎌田はスルーパスを供給する役割だったけど、彼自身もボールを運んだりしていた。あるいは、ハイプレスでボールを奪ってショートカウンターを繰り出すとか。これが第2フェーズ。

高いインテンシティと速いトランジションで対戦相手を飲み込むようなフットボール、ですか。

とはいえ、この戦いをするために不可欠なのはコンディション。しかし、先ほども話したように最終予選のオマーンとの初戦は、長距離移動と時差、わずか2日の準備期間、ヨーロッパから残暑の日本に戻ってきたことによるコンディション不良のまま試合に臨み、いいところがまったく出せずに敗れてしまった。対するオマーンは一ヶ月の合宿期間付きです。

初戦を落とし、「もう負けられない」と精神的にも追い込まれ、サウジアラビアとの第3戦も敗れてしまった。

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そこで第4戦のオーストラリア戦、森保さんは田中碧と守田英正の元川崎フロンターレコンビをスタメンに抜擢し、フォーメーションを4-2-3-1から4-3-3に変えました。田中碧と守田が入ったことで、相手を見てサッカーをする、立ち位置を意識したサッカーに少し寄りました。プレスの掛け方も、ウイングの南野と伊東が相手サイドバックを背中で消しつつセンターバックに圧力を掛けるやり方に変えたり。

「外切り」というやつですね。

リバプールのやり方を取り入れたのか、フロンターレのやり方を取り入れたのか分からないですけど、プレスの掛け方も整理されました。11月のベトナム戦とオマーン戦は、アウェイゲームだったこともあって、オーストラリア戦ほどいい出来ではありませんでしたが、同じ流れのサッカーでした。例えば、オマーン戦では右ワイドに伊東、右ハーフスペースに柴崎岳、中央に大迫、左ハーフスペースに南野が立っていた。左ワイドに立つべき長友佑都がそこまで上がらなかったため、南野のマークが外れなくなってしまったけれど、デザインとしては3-2-5、左インサイドハーフの田中碧が長友のカバーで左サイドに落ちていたから4-1-5とも言える。つまり、2列目を最大限に生かそうとしていた第1フェーズや、鎌田がトップ下にいた第2フェーズとは明らかに異なっていると。これが第3フェーズ、という解釈です。

戦い方が変わったわけですね。ところで、オーストラリア戦での変化は4-3-3への変更が先にあって、それに合う選手として田中碧と守田が抜擢されたんですか?或いは、田中碧と守田の起用が先で、それに合わせて4-3-3にしたのか。どっちなんでしょう?

これは森保さんも明言していて、調子のいい、フレッシュな選手を使いたい。それがオーストラリア戦の時点では田中碧と守田だったと。それで、田中碧と守田を生かすなら、4-3-3に微修正したほうがいいだろうと言っていました。もちろん、同時にオーストラリアの分析もしていて、オーストラリアのストロングを消すには4-3-3で噛み合わせたほうが良さそうだと。森保さんはそう話していました。

人の変更が先で、形の変更があとだったわけですね。

ただ、4-2-3-1から4-3-3への変更はあくまでも微調整だと強調していました。というのも、第3戦のサウジアラビア戦も実は4-2-3-1と4-3-3を併用しているんですよ。4-2-3-1のサウジアラビアの中盤とマンツーマンで噛み合わせるべく、日本はボール非保持の際に鎌田が左インサイドハーフ、柴崎が右インサイドハーフ遠藤航がアンカーの形を取っていた。サウジアラビアボランチのひとりをディフェンスラインに落として、いわゆる“サリーダ・ラボルピアーナ”をしてきたことで、思うようにハメられなかったですけどね。だから、オーストラリア戦で初めて4-3-3を試してみた、という感じでもない。

批判もありますが、立ち上げからここまでの流れがあって、この6試合の中にもちゃんと物語があるんですね。

これがオシムさんだったら、おそらく計算づくのチーム作りだったと思います。例えば、07年のアジアカップ中村俊輔遠藤保仁中村憲剛というプレーメーカー3人を同時に起用する「カミカゼシステム」でチームのベースを作り、次の段階として松井大輔大久保嘉人田中達也といった個で打開できるアタッカーを融合しようとしたように。一方、森保さんの場合は〝偶然の必然〟とでもいうのでしょうか。つまり、その時に調子のいい選手を起用し、その選手のストロングを生かそうとした結果、面白いことにスタイルそのものも変化してきた。でも、サンフレッチェ広島時代の代名詞だった3-4-2-1の可変システム、いわゆる〝ミシャ式〟を日本代表で採用しなかった時点で、こうした臨機応変なチーム作りを目指したんでしょうから、ブレてもいない。

 

なぜ、3-4-2-1の〝ミシャ式〟をやらないのか

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3-4-2-1の話が出たので聞きたいんですけど、森保さんはサンフレッチェ時代にミシャさん(ペトロヴィッチ監督)から引き継いだそのシステム・戦術で、J1で3回優勝したわけじゃないですか。17年12月に立ち上げた東京五輪代表では3-4-2-1に取り組んでいたのに、18年7月に発足したA代表では4-2-3-1を採用した。なぜ、得意な3-4-2-1をA代表でやらなかったんでしょうか?

想像するに、代表チームで植え付けるには時間がかかると考えたからではないかと。ミシャ式ってポジショナルプレーの一種なわけです。自陣でブロックを組む時は5-4-1で5レーンを埋め、ボール保持時の際は3-2-5ないし4-1-5にして5トップのコンビネーションで相手4バックを攻略する。そうしたポジショナルプレーの概念は、まだ日本で浸透しているわけじゃないから、パッと集まって自然にできることではなく、時間をかけて植え付けなければならない。この植え付けの時間が、代表チームでは取れないと感じたのではないかと。実際、東京五輪代表は3-4-2-1でチーム作りを進めていましたが、機能するのにかなり時間が掛かったし、堂安と久保を初めて3-4-2-1の2シャドーで起用した19年11月のコロンビア戦では、まったく機能しませんでした。

広島でやったゲームですよね? 0-2の完敗でしたね。

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そう、堂安が五輪代表チームに初合流し、久保と初めて共演した試合です。A代表でも19年6月、キリンチャレンジカップトリニダード・トバゴ戦とエルサルバドル戦で3-4-2-1をテストしたのですが、さっぱりでした。試合後の選手コメントも、まさに頭でっかちな言葉だらけで、システムや戦術に縛られやすい日本人の欠点、ロジカルな立ち位置に立てない戦術眼の問題も露呈した印象で。森保さんもこうなってしまうことを想像したんじゃないかなと。

3-4-2-1は選手の良さを引き出す以前に、選手を縛りつける危惧があるわけですね。さらに聞きたいのですが、飯尾さんは東京五輪後にメキシコ五輪代表のコーチである西村亮太さんにインタビューされましたよね。そこで西村さんが「3-4-2-1のほうが嫌だなと。なんで4-2-3-1に変えたんやろうなっていう話をしていました」と語っていたじゃないですか。どんな印象を受けました?

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西村さんは「(3-4-2-1は)最初から配置の時点でコンビネーションプレーが出しやすくなっているじゃないですか。分かっていても守りきれない瞬間が出てくるというか、それこそが日本の強みだと思うんです」と話していましたが、それについては森保監督も、横内コーチも当然分かっていたと思います。3-4-2-1でJ1を3度制しているわけですから。ただ、メキシコの選手は4-2-3-1だろうが、3-4-2-1だろうが、パッと集まってできるかもしれないけど、日本はそうじゃない。さっき話した五輪代表のコロンビア戦、A代表トリニダード・トバゴ戦やエルサルバドル戦でも分かるように、頭でサッカーをしてしまう傾向があるから、東京五輪で採用するのはリスクがあった気がします。

仮に急遽採用したとしても、相手の意表をつく以前に、むしろ自分たちで試合を難しくした可能性もあり得ると。堂安や久保をはじめ、林大地や冨安も、もっといえばオーバーエイジ吉田麻也酒井宏樹、遠藤の3人も3-4-2-1ではほとんどプレーしていないですからね。

もうひとつ、森保監督が3-4-2-1を主戦システムにしないと決断するうえで大きかったであろう出来事があります。3-4-2-1を採用した17年12月の東京五輪代表チームの立ち上げと、4-2-3-1でスタートした18年9月のA代表の初陣の間にあった出来事……。

......あ、分かりました。森保さんがコーチとして参加した、18年6月のロシアW杯ですか。

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そうです。西野さんはW杯本大会の2か月前に代表監督に就任しました。短い準備期間でW杯に臨むとなれば、自分のやりたいことを選手やスタッフに詰め込むのが普通だと思うけど、西野さんはそうしなかった。選手たちと意見交換しながら、ディスカッションさせ、選手たちから最適解が出てくるのを待って、最後にそれをまとめて短期間でチームを作った。これがいいか悪いかは別として、森保さんにとっては衝撃的だったようで。時間のない代表チームでは、自分のやりたいことを植え付けるより、こうした手法のほうが選手の良さを引き出せるんじゃないか、と感じたんだと思います。

なるほどなあ......。だから、W杯前に立ち上げられた東京五輪代表と、W杯後に立ち上げられたA代表では、チームの作り方やフォーメーションが異なるわけですね。

ロシアW杯では、そうしたチーム作りでベスト16まで進んだものの、ベルギーに0-2からひっくり返されてしまった。何が足りなかったのか。この壁を越えるには何が必要なのか。行き着いた答えのひとつが、日本人の苦手とする自主性、対応力、臨機応変さを身に付けることだった、という話は東京五輪後の対談で話したとおりです。欧米人が普通に備え、日本人に足りないとされる自主性、対応力を伸ばすことこそが日本代表監督としての使命であり、日本サッカーがステップアップするための要因だと考えている。これだけ叩かれても、その信念がブレないのが凄い。だって一番計算できるのは、自分がサンフレッチェでやって3度も優勝したスタイルを、日本代表に植え付けることなので。いつもニコニコしているけれど、ドーハの悲劇をはじめとする修羅場をくぐってきて、肝が据わっているなと感じます。

 

日本代表は〝大河ドラマ〟のようなもの

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ここまで聞いていて、一つ気づきというか、仮説が生まれました。それは、おそらく僕(たち)が思っている以上に、森保さんが過去の文脈、とりわけベルギーに敗れたあの試合を強く意識しているのではないか、という点です。その文脈、新たな過程の中で、4-3-3という形に行きつき、相手を見てサッカーをする、適切な立ち位置を取るといったサッカーIQの高い選手たち、つまりフロンターレ出身の選手たちが遂に入って来て、チームがうまく回り始めた。その流れって、やっぱりちゃんと繋がっている気がします。〝積み重ね〟ではないかもしれない。ただ、結果的にその歩みが〝線〟にはなっている。とはいえ、現在(いま)に目を向けると、ポジショナルプレーの概念が身に付いている選手の数がまだ少ないから、日本代表は過渡期なのかもしれませんね。

繋がっているのはロシアW杯からカタールW杯だけじゃないですよ。日本代表は大河ドラマのようなものです。98年に岡田さんがW杯初出場に導いたけど3戦全敗に終わった。世界での経験がないということで、02年の日韓W杯ではトルシエさんを招いた。トルシエさんはざっくり言うと組織で縛るタイプだったから、06年は自由を謳うジーコさんになった。

でも、06年のドイツW杯は惨敗してしまいました。

それで今度は欧州式でも南米式でもなく、〝日本代表の日本化〟を掲げたオシムさんになった。オシムさんは道半ばで退任してしまうけど、次の岡田さんも自分なりの日本化で引き継いだ。〝接近・展開・連続〟は、日本人の敏捷性や忠誠心、技術を生かそうとしたものだったけど、最終的には頓挫して10年南アフリカW杯では守備的な戦いに変えた。デンマークとの第3戦は攻撃的に臨みましたけど。

次こそ自分たちのサッカーを貫き、攻撃的に戦おうということで就任したのがザックさんでしたね。

ザックさん自身は彼の代名詞と言われる3-4-3を採用し、ハイプレスや縦に速いサッカーをやりたかったようですが、日本代表の文脈に乗っかってくれたというか、一緒に夢を見てくれたというか。でも、14年ブラジルW杯は惨敗に終わってしまった。そこでW杯ベスト16進出の経験があるアギーレさん、ハリルさんを招聘した。特にハリルさんは日本人の苦手とする部分を伸ばそうとしたけれど、最後は選手たちとの関係性が悪化して解任。後任の西野さんは選手の良さを繋ぎ合わせるような手法をとった。森保さんもその手法を受け継ぎながら、足りなかった自主性・臨機応変さを身に付けるチャレンジをしている、というドラマ。ざっくりですけど(笑)。

だから、ロシアW杯はブラジルW杯のリベンジだったし、カタールW杯はロシアW杯で突きつけられた宿題に対して回答を出す大会だと。ド、ドラマだ......。

その宿題に、当時のコーチだった森保さんと当時のメンバーだった吉田、長友、酒井、柴崎、大迫、原口元気、遠藤といった選手と、次の世代が取り組んでいる。カタールW杯で日本人の欠点とされていたものを克服したら、次の2026年W杯はいよいよ、久保建英や田中碧を中心にポジショナルプレーを標準装備した代表チームが生まれるかもしれない。Jリーグでも浦和レッズFC東京とか、ポジショナルプレーに取り組むチームが続々と増えていますからね。そのときには再びヨーロッパから指揮官を連れてきてもいいかもしれないですよね。

飯尾さん、ちなみに名古屋はファストブレイクです。......その話は要りませんかそうですか。では先ほどの話に戻りますが、最終予選の6試合に関しても、なんだかんだとその流れになってきているのが面白いです。

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以前も話したように、日本のサッカースタイルを作るのは日本代表ではなく、育成であり、Jリーグ。欧州の監督を連れて来て、日本代表に最先端の戦術を植え付けたところで一過性のものでしかないし、そもそも今は新しい戦術を植え付ける時間もない。欧州の監督やアカデミーの指導者を連れてくるのはJリーグの各クラブや育成がチャレンジすべきことで、そこで育った選手たちが日本代表となって、何ができるか。田中碧と守田だって、この2年間にフロンターレが、つまり、Jリーグが育てた選手ですよね。そういう選手たちがヨーロッパに飛び出して、さらに個を大きくしていく。そういう選手が集まって日本代表を成すのであって、代表の強化だけを見ても何もならない。例えば、韓国が日韓W杯の時にヒディンクを連れてきて、ベスト4に入った。でもその後、ベスト8にすら行けてないですよね。

そこで終わっちゃいましたからね。乱暴な言い方をすると、「今何が残っているの?」と。つまりそういう話。

海外の有能な監督が日本代表に魔法をかけて、ベスト8に1回行けたからといって、日本サッカー全体のレベルが上がるわけではない。何か残らないと意味がない。育成とJクラブが選手たちを育てて、日本代表に送り込み、日本代表は経験と歴史を積み重ねて、財産にしながらチャレンジしていくしかない。そういう意味で、このロシアからカタールの4年は、日本人の殻を破るというチャレンジの時期。それがどういう結末を迎えるのか見てみたいです。

そうしてカタールW杯が終わったら、また新しい選手たちとの新しいチャレンジが始まるというわけですか。

結局、森保さんの不幸は、ハリルさん解任以降の協会不信までぶつけられていることです。例えば、ハリルさんがロシアW杯で指揮を執り、森保さんもコーチとして参戦していたとします。森保さんのやり方はハリルさんに似ている部分もあるわけです。デュエルやインテンシティに加え、ひとつの戦術を極めるというより柔軟に戦おうとするところも。それで、森保さんが「ハリルさんがやったことを自分なりに学ばせてもらった。それを進化させるためにも自主性、主体性を身に付けさせ、日本人の殻を破りたい」と言ったとしたら、すごく共感されたかもしれない。でも、今は〝ジャパンズウェイ〟の体現者という見方をされている。おそらく田嶋(幸三)会長を嫌いな人は、森保さんのことも嫌いですよね。

森保さんのことは評価するけれど田嶋会長は無能。田嶋会長は良いけど森保さんは無能。確かに、いないかも。

ハリルさん解任による協会への不信感が森保さんに向けられてしまうのは不幸だなって。そこは切り離して考えないと。もちろん、純粋にゲームがつまらない、最終予選で2敗もして弱いということで叩くのは問題ないし、当然のことだと思います(笑)。

 

W杯に向けた〝伸びしろ=ラストピース〟は

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オーストラリア戦で4-3-3に変更し、田中碧と守田が台頭した。11月のオマーン戦では三笘薫が活躍し、左サイドバックでは配球に優れた中山雄太が存在感を見せました。では、あえて意地悪な質問です。チームがブラッシュアップするなか、これ以上の伸びしろはありますか?

W杯本番で言うなら、コンディションと相手分析。最終予選のスタートでは失敗したけれど、本大会ではコンディションを整えて、インテンシティやデュエル、スピードを取り戻す。立ち位置を意識したサッカーに変わりつつあると言っても、ハイプレスやカウンタープレスは必要です。あと、相手チームの分析はこれまでのW杯同様、入念にやるでしょうが、逆に対戦相手は日本のことを読みにくいと思っているかもしれません。最終予選の中でも戦い方が変わったわけで。ザックジャパンのように分かりやすい形がないことが意外と強みになったり(笑)。

相手対策というところで言うと、そもそも論にはなりますが、森保監督の求めるサッカー自体、アジアでの戦いに向いてないと思いませんか。中国戦もベトナム戦も5バックで守られ攻め崩せなかった。森保監督のサッカーはむしろ、世界と戦うときの方がハマる可能性もあります。オーストラリア戦を見ていても、ボール保持がベースにある相手のほうが勝機がある。その意味では、森保監督が取り組んでいること、目を向ける先にあるのは、アジアで勝つこと以上に、W杯でどうやって勝つかがベースなんじゃないかと。そこを見据えるだけの理由が少なくとも森保監督にはある、それはこれまで話してきた通りです。もちろん、裏を返すとだからこそ苦戦しているとも取れる。とはいえ紆余曲折を経て、相手を見てサッカーができる選手たちが起用され4-3-3に行き着いた。この流れには価値があると思うんです。いざ本大会に臨むとき、サッカーを極端に変える必要がない。

インテンシティやトランジションを重視した〝ストーミング〟がゲームモデルのベースだったリバプールが、のちにポジショナルな立ち位置も取り入れたように。森保ジャパンも第2フェーズと第3フェーズの融合が完成形だったりしてね。

そういう文脈にもなり得る。だから価値があるなって。

あとは、新戦力が加わることによる化学変化でしょうね。三笘や中山はすでに化学変化を起こしてくれていますが、古橋、前田大然、上田綺世、旗手怜央が食い込んでくるかもしれない。22年1月の中国戦、2月のサウジアラビア戦では吉田と冨安が欠場するわけだから、板倉滉や谷口彰悟が新しい何かをもたらしてくれるかもしれない。特にフロンターレの谷口は田中碧、守田との相性が抜群にいいわけですから。そして、忘れてはならないのが久保建英

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そうか......ここで久保が登場してくると。でもどこで起用します?インサイドハーフ?いや右ウイングですか?

W杯での戦い方を考えると、攻守両面で計算でき、パスも捌けてボールも奪える遠藤、田中碧、守田の3人は起用したい。でも、右ウイングの伊東も外せない。そこで提案したいのは、センターフォワード

面白い。偽9番、〝ファルソ・ヌエべ〟はどうかと。

そう、ゼロトップ。これはもうロマンですね。久保はショートケーキのいちごのようなもの(笑)。

ただ、前線で体を張ってボールを収め時間を作ってくれる大迫の存在は、森保ジャパンにとって不可欠では? 

でも、大迫がボールを収めるときって、最前線で相手DFを背負うというより、落ちてきて収めることが多くて。その落ちるタイミングと場所が巧みだから、フリーになれたり、角度を作ってキープできる。だから、久保にもそれを期待したい。もちろん、その際に伊東や南野が相手のセンターバックの視野に入りつつハーフスペースから裏を狙って、相手センターバックを牽制する必要はありますが。

仮にその前提でチームを作った場合にも言えることですが、〝ボール保持〟をW杯本大会までにどれだけ詰められるかも気になりますね。これは東京五輪から継続した課題でもあり、今の4-3-3にしても連動性をもっと上げていかないといけない。それこそ久保を1トップに入れても、距離が遠くて孤立してしまっては意味がないですし。そう考えると、後ろがどれくらい安定してビルドアップできるか、ボールをアタッキングサードまで運べるか、もっと突き詰めていかないといけないですね。

それは間違いないですね。あと、久保に関してはオプションでもいいでしょう。ベースはやっぱり大迫。さらに、古橋が1トップのオプションもあれば、久保が1トップのオプションもあっていい。もちろん、久保投入と同時に4-2-3-1に変更し、彼をシンプルにトップ下で起用する手もあります。久保の起用法も含め、伸びしろはまだまだあると思います。

今日はありがとうございます。あと、この勢いでお誘いしますが、ぜひ第3弾を。そうだな....W杯本番直前で。

ぜひ。ただ、第3弾がまさかのW杯予選〝プレーオフ〟直前とならないことを祈っています(笑)。

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南米からのライブ配信ですか。いや......悪くないな。