みぎブログ

主観で語りますフットボールを。

「二年目の健太はガチ」はガチか

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健太は健太でも長谷川健太がなんだかアツい。

気づけばシーズンも折り返し地点に差しかかる。鹿島がやべえガンバがやべえと今季も話題に事欠かないJリーグ。しかし、一切話題にならないが、抜群の安定感で上位陣の椅子を譲らないチームがそう名古屋グランパス

率いるのは、長谷川健太。大ベテラン監督だ。

ふと気になった。「この男は、なぜ錆びれないのか」と(失礼)。期待の“解説者発”理論派指導者も、或いは、“スペイン発”ポジショナル伝道者も苦戦する中、間違いなく擦り倒されたであろう健太さん(とここからは呼びます)が、何ら変わることなく安定した成績をおさめ続けるこの現実は何だ。流行りの戦術など駆使しない、だから話題にもならない、だが強い。これぞ健太。

「健太の2年目はガチ」。Jにはこんな言い伝えがある。

では、なぜ名古屋でも2年目の健太は元気なのか。やはりガチ、なのか。その秘密を探るべく、この一年半で起きたターニングポイントをいくつか振り返ってみたい。

名古屋のファンサポーターは、改めて現在の立ち位置を考えるための材料に。他サポーターの皆さんは、「健太は相変わらずガチなのか」と知る術になったら本望だ。

なお、文章作成にあたり重要な資料となったのが、過去行われた健太さんの試合前・試合後の囲み会見。また、シーズンオフになると発売される、クラブオフィシャルDVD「THE DEEP」である。残念ながら、会見内容は(公式なものとはいえ)有料会員のみが全文を読める状態であるため、コピペは差し控え、要点のみ抽出する。

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今さらだが、なんで3バックなんだっけ

今の名古屋を語るうえで絶対に外せないのが3バック。

とはいえ、健太さんといえば4バック。その印象が強い(私も含めた)J好きの人たちからすれば、そもそも「3バックで成功している」この事実こそ、あまり触れられていないが実は結構重要なことだと感じる今日この頃。

名古屋が3バックを初めて試した試合は印象深い。

2022年4月13日のルヴァン杯サンフレッチェ広島戦。


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その試合に至るまで、リーグ戦は2勝2分3敗。数字だけ見れば良くもなく悪くもない状況だが、しかしこの広島戦の前に行われたリーグ戦、4月10日のコンサドーレ札幌戦が実に酷い内容だったのは鮮明に覚えている。

「THE DEEP」では、健太さんがこう回想している。

(3バックは)考えていた。このままじゃ難しいなあと。そこで舵を切った。このままやってても駄目だなと。本当にあの試合(札幌戦)で痛感させられた。やっぱり4バックのスライドっていうのがないと、なかなか守れない。これはたぶん前年度からの癖で、5枚や6枚で守るっていうのが通常の慣れている守り方で。退路をたって舵を切った。札幌戦が一つのターニングポイントだった


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健太さんにとって、名古屋での一年目はまさに「脱マッシモ」「脱成功体験」に苦悩した日々だったといえる。

決してマッシモのやり方を否定したかったわけではない。ただ、自分のやりたいフットボールはそれではない。この点だけは、就任当初から一貫し譲らなかった。

リーグチャンピオンを獲るために、アグレッシブにゴールを目指すサッカー。アグレッシブにチェイスしてボールを奪うというサッカーをしていかない限り、リーグチャンピオンにはなれない

(2022年2月19日 ヴィッセル神戸戦試合前)

※THE DEEPより

この言葉を裏づけるかのように、THE DEEPでは森下龍矢が移籍初年度(2021シーズン)をこう振り返った。

守ってるだけじゃ優勝できないと肌で感じた

とはいえ、最終的にルヴァン杯制覇まで成し遂げたマッシモフィッカデンティとの2年半の歳月は、我々が想像していた以上に濃く、そして拭い難いものだった。

前述した札幌戦翌日、健太さんは選手たちにこう語る。

絶対に守備的にならないこと。「守って一点取ればいいじゃん」じゃ絶対に勝てない。自分たちで獲りにいくんだという姿勢を持たないと絶対にダメ。「守ってワンチャンス狙えばいいじゃん」「0-0で引き分けで勝ち点1取れるじゃん」と思った瞬間にどんどんネガティブになる。点を獲りにいくために、アグレッシブに獲りにいく

※THE DEEPより

この言葉の後にチームは3バックに変更されるわけだが、これらの文脈で分かることは、名古屋(或いは健太さん)にとっての「3バック変更」が、決してポジティブな理由だけではないことである。端的に言ってしまえば、マッシモのベース(と自身のベースである4バック)のままチームを改善したかったものの、このやり方のままでは限りなく難しいと判断したといえる。

だったら、形ごと変えてやろうと。半ば強制的に。

横幅目一杯を「当たり前のように」6枚で守ってしまう。裏を返すと、そうでないと守れない。言うまでもなく、重心は下がる。健太さんの理想を追求すれば、歪みが生じ穴が生まれる。この悪循環。おそらく、健太さんにとっては3バックも(5バックがベースになるゆえ)後ろに重く、本来採用するつもりはなかったのではないか。だがしかし、それが5枚であろうとも、体に染みついた癖を矯正するには、もはやこれが最後の手段だ。

とはいえ、それ以降も順風満帆だったわけではない。


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2022年5月7日の横浜F・マリノス戦後は悲惨だった。

もう1-0で守るとかそういうのじゃチャンピオンになれないからな!守るためにやってるわけじゃない。優勝するためのチーム作りでしょう!?そういうチームになるためにやってるわけだから。いつまでも『ウノゼロ』じゃない!!!2点目3点目を獲れるチームになっていこうよ

(試合後のロッカールーム)

※THE DEEPより

めっちゃキレる健太さん。点が獲れずお通夜状態攻撃陣。これだけでTHE DEEPの価値はあるわけだが、それにしてもこの3バック、付け焼き刃感は否めなかった。

“生粋のストライカー”を、名古屋は欠いていた。

健太さんもTHE DEEPのインタビューでコメントしているが、結局、4バックだろうが3バックだろうが、健太さんが最後まで抱え続けた問題点は共通したものだ。

「最終的に誰がゴールを決めるのか」

つまり、「最後の絵」をチームとして描けていない。これが、健太体制一年目における最大の問題だった。

しかし、このシーズン途中から布石は打たれる。

 

帰ってきた韋駄天やってきた生粋のストライカ

ストライカーの獲得。これが次のターニングポイント。

まずは、2022シーズン途中に加わった永井謙佑

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以前にもこのブログで書いたことだが、当初、私はこの獲得に否定的だった。永井本人(の当時の去り方に対して)というより、単純にFC東京でやってきたことの焼き直しというか、その歩みをなぞるようなチームビルディングだけはやめて欲しいと思っていたのだ。それは、FC東京に対してどうこうという話ではなく、過去にやって道半ばで潰えたものを、あえて名古屋でもやる事実そのものに、価値を見出せなかったのが本音である。

だが、それは杞憂に終わる。その活躍、圧巻の一言。

最も価値があったのは、「ストライカー」の役割以上に、もはや彼の「存在そのもの」にあった。

比較的おとなしい名古屋において、加入当初からムードメーカーを買ってでる。練習では仲間とやり合うことも厭わず、守備をしないマテウスにブチ切れる彼の様子をTHE DEEPは収めている。そして、試合になれば誰よりも全力で走りまわり、試合の終盤でも相手を追いかけ後ろまで戻ってくる。試合に勝てばゴール裏とお祭りだ。

何度でも言わせてくれ。正直、スマンかったと←←

この名古屋において、彼の存在は「絶対に」欠かせなかったと今は思う。そう、「今いること」に意味がある。それは、健太体制一年目を終えたオフにやってきた、新たなストライカーの存在にとっても重要だった。

キャスパー・ユンカーである。

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すげえ点獲る。マジでシュート枠いく。これが本物の、リアルガチなストライカーかと名古屋勢は思い知った。

めちゃくちゃ気分屋。レフェリーには文句を言うし、やさぐれる。健太さんも認めるように守備は「多少」ならやってくれる。ちなみにTwitterはめちゃくちゃやる。


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そんな男だが、ゴール前の仕事は超がつく一級品。

しかも、お目付け役の永井がときどきケツをぶっ叩いてくれる効果で、想像していたよりは走っている。面白いもので、今となってはあのマテウスが永井の弟分のごとく、エンジン全開で走ってくれたりするから笑みが溢れる。なんという相乗効果。永井謙佑、偉大なりである。

この二人(マテウスも含めて三人か)が揃い、「ひとまずは」健太さんのやりたいフットボールのピースは揃ったと断言できる。チームに最低限のハードル(走りや球際)は設けながらも、あとは比較的“素材”で勝負の長谷川健太にあって、やっと手に入れた前線のピース。

と、思っていたが、どうやら健太さんは開幕直前まで確信が持てていなかったらしい。2023年3月29日の練習後にあった囲み取材で漏らしたコメントを要約する。

  • 今シーズン好調の要因は、前の3枚が成立したこと
  • キャンプの時から「ダメだったら」と思いながら毎週やっていた
  • 横浜FCとの開幕戦を何とか勝ったのが大きかった
  • あれで負けていたら、あの3枚をまだ同時に使っているかどうかはわからなかった
  • キャスパーが点を取って存在感を示したのが大きい
  • キャスパーもダメ、マテウスもダメ、永井もダメなら、システムも構築し直す可能性があった

凄えよ健太さん。我々の想像を超える出たとこ勝負。

かくして、スタイルを表現できる面々が揃ったのだ。

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え!?そこ参考にしてたとは!!!

そして、最後に三つ目のターニングポイント。

といきたいところだが、もう少し3バック導入について話したい。ここからはポジティブな面だ。理由はともあれ、3バックによって恩恵を受けた選手たちが3名いる。

相馬勇紀、森下龍矢、そして藤井陽也である。

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まず相馬と森下。“ウイングバック”のポジションが生まれたことで、彼らのポテンシャルが最大限に発揮された。圧倒的な運動量(アップダウン)とスピード、対人の強さを活かした守備力と、一方でボールを持てばその攻撃力を余すことなく発揮する。つまり、ウイングバックに必要な要素を兼ね備えた“槍”が、名古屋には(そもそも)2枚いたわけだ。それが、あっという間にチームの武器(看板)と化したのは出来すぎた話だった。

また、守備に目を移せば、マッシモ期の鉄板コンビだった丸山祐市中谷進之介の間に新しい席が用意された。

そのプラチナ席をゲットしたのが藤井陽也である。

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マルナカ”のゴールデンコンビに「挟んで」調教するスペシャルコースで、藤井のポテンシャルが遂に開花。というより、開花するまで我慢強く耐え忍んだ健太さんと、転がり込んだ新たな席にしがみついた藤井の勝利。

気づけば全員日本代表選出は健太ハンパねえの一言。

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どこまで計算してたのかマジで謎だが、3バック導入の恩恵は凄まじいものだった。健太すげえ、育成力万歳。

だがしかし。私には、一つだけ大きな不満があった。

それは、健太体制一年目の2022年から、今シーズンも初期の段階まで、ずっと燻っていた想いである。

「前からアグレッシブに奪いにいく」と言うわりに、全然行けてねえじゃねえか、と。その結果、撤退守備ばかりで期待してたものと違うんじゃないか、そんな憤り。

2022年10月1日、横浜F・マリノス戦で、決壊した。


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ゴール裏で選手とともに戦っている同志の方たちには申し訳なく、ここは恥を偲んで記すが、この試合に関してはロスタイムの前にキレて帰った。ふざけんな。気づいたら、席を立って一言も口にせずスタジアムを後にする自分がいたのだ。それほどまでにショッキングだった。だってさ、アンタ東京時代もマリノスに叩きのめされて職失ったんじゃないのかと。またボコボコにやられて、何やってんだよ。何も変わってねえよ。そう思った。

問題は明白だ。前から奪いにいく仕組みが乏しい。

なんとなく構えて、前線の選手たちが相手最終ラインに牽制しながらボールをサイドに誘導する。そこからプレスのスイッチを入れる。駄目だ。規制が効いていない。特に、立ち位置を変幻自在に変えてくるマリノスのような相手とやると、それはもう絶望的な内容だった。「前から奪いたい」、そんな欲望だけが先行する空転したプレスが、あの日の自分には余計に虚しかった。

その意味でいえば、「今年も健太さんでいいのか」と、正直にいえば疑心暗鬼だった。確信が持てなかった。

だって、健太さん自身がブラッシュアップ出来ているのか、どうにも伝わらなかったから。結局、4バックでも3バックでも、「チーム」としての戦術レベルが物足りない。偉そうなのは百も承知。でも、そう言いたかった。

迎えた今シーズン。ふと気づく瞬間があった。

「あれ....なんだか健太さん、変わってきてない?」

皮肉にも確信したのは4月29日、因縁のマリノス戦だ。


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うえ!!まさかまさかの、オールコートマンツー!?

そう、この試合に至るまでに名古屋は大きく変化した。

セットからのスライド守備ではなく、とりわけ前線の選手たちは明確に“人”を捕まえにいくようになったのだ。「今どきの3バック」だ。中央の3枚が、相手のボールの供給源を抑えにかかる。そのうえで、外に出たボールを後方の7枚がスライドして対応する。ちなみに、マリノス戦に関しては「それでも足りない」と腹を括ったか、ほぼほぼオールコートをマンツーで対応したのだ。

これは推測だが、きっと健太さんは、当初4バックで今くらいのアグレッシブさを作りたかったのではないか。

後方は4枚でラインを敷き、中盤から前の6枚でボールを奪いにいく。しかし、ここで求められる「戦術的な柔軟性」が表現できず挫折。より配置が固定的になる3バック(5バック)を選択した。人(人数)が明確に配置され、穴が少なく致命傷は逃れられるが、今度は中盤から前の「5枚」でどうボールを奪いにいくのだと躓いた。

しかし、どうやら手掛かりを見つけたようである。

今のやり方は名古屋に合っているとすら思う。そもそもが「人(対人)」に強く、「縦」に速い連中は揃っている。要は「球際」さえ作れる仕組みがあれば、むしろ3バックの方が攻守に直線的なアプローチが取れる分、今のスカッドのキャラクターにハマるのは明白だ。また、そもそも守備が得意でないキャスパーやマテウスを置くキャスティングからしても、彼らにはタスクを明確に、そしてシンプルに与えた方が機能するに決まっている。「中央だけ締めてくれ」、あとは後ろ7枚が鬼走りだ。

3バックがただの“手段”から“武器”に変わりつつある。このキッカケは、果たして何だったのだろう。

その一つに過ぎないだろうが、最近、意外な話がでた。

すばらしい監督だと思います。昨シーズン、スキッベ監督になり、同じ3バックではあるものの新しい風を送り込んだのかなと。(横浜F・)マリノスとの試合は、広島にとってすばらしい内容でした。「こういう3バックもあるのか」と。それまでは3バックに対して、自分自身が興味を抱いていなかったというのもあったんですが、名古屋でも3バックをやり始め、いろいろと見ていました。ヨーロッパサッカーを感じて、「なるほどな」と勉強させてもらった部分もあります。広島のサッカーをリスペクトしています。すばらしい監督だと思っています

(引用:INSIDE GRAMPUS 5.20広島戦後会見)

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えーーーーーーーーそこ影響されてたんかい!!!

スキッベ云々の話はさておき何気に重要なコメント盛り沢山。「そもそも3バックに興味なかった」おい健太!「ヨーロッパのサッカーに刺激を受けた」わお素敵!

でね、これをさらに磨いている「真っ只中」なのが今。

  • 引き出しをどうやって増やしていくのかを考える
  • 『ワンシェイプだけでは難しい』と言っている
  •  シェイプ(型)を変えなくても自分たちのやり方、守備の仕方の様々なオプション、形を持っていた方が、相手の形に対応できるため増やしていきたい

(2023.4.3 練習後囲み取材コメント要約)

  • 新潟戦でもプランBに挑戦し、すでに持っていた
  • 中に入ってくる選手に対して、どうやって守るか
  • 3-4-3のワンシェイプだけだと追いつかない
  • 守備のオプション。攻撃は大きく変わらないので、 立ち位置の部分と狙いは、選手もよく理解している

(2023.4.6 練習後囲み取材コメント要約)

  • ツーシェイプ目も持っている(苦笑)
  • 新潟戦もプランAが上手くいかずプランBに変えた
  • とはいえ、国立での鹿島戦は、もうふたつ目もないぐらいにプランAで押し通すつもりでいた
  • しかし、押し通せなかった。”行く”システムなのに行けなかったのが一番大きい
  • プランBに変えて構えて戦うつもりはなかった
  • 基本的には行く。しっかりとゴールを割っていく

(2023.5.17 練習後囲み取材コメント要約)

いやあすげえシェイプ連呼するやん....。キラーワード。

「3バックでもアグレッシブに戦える」そう考えが改まる中、さらに相手に応じた(前線の)可変パターンを増やすことで、どう来られようと嵌め込める。そのためのトライだと解釈できる。多少は攻撃のバリエーションにも繋がるだろうが、基本は「非保持」の発想がベースにあり、そこでアグレッシブに振る舞うための術である。

さて、これが三つ目のターニングポイントであり、最大の転換点だと思っている。だから長文これ仕方なし。

つまり、長谷川健太自身も、“進化”しているのだと。

 

今回も長くなりました....

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さて、最後になるが、これで死角はないか。

あります。

ズバリ「遅攻」....というと、ここから死ぬほど長くなるので、今回は割愛(ちなみに、健太さんもそこは課題と捉えているようで、「そういうボランチがいればね、上手くやれんだろうけど(意訳)」なんて超重要コメントも残しているのだが、それはぜひ探してください笑)。

気を取り直して。

「選手層」である。

健太さんの会見を全て振り返ると、この点に関する言及は常に一貫していることが分かる。

  • (新たな)選手が出てくるとチームも乗ってくる
  • そういう選手が出てくることを期待する
  • それは序盤戦より、中盤戦から終盤戦にかけて活きの良い選手がいるかどうかが大きい

(2023.5.1 練習後囲み取材コメント要約)

  • 流れを変える選手が1枚出てきてほしい
  • 勢いを持った選手がいて、レギュラーの選手を脅かすようになれば、相手も対策しづらいチームになる

(2023.5.17 練習後囲み取材コメント要約)

  • これから対策を打たれた時に、途中出場の選手が試合の流れを変える、試合を逆に決めてくる。そんな選手を作らないと、難しい試合がきっと増える

(2023.5.30 練習後囲み取材コメント要約)

では、健太さんが若手の選手たちに何を求めているかといえば、実はこの点も終始一貫している。

単純明快、「結果」である。結果を、爪痕を残せと。

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現状はといえば、貴田遼河の独壇場。

一歩も、二歩も、いや三歩も前に出ている状況である。

果たして、どうすれば若手が試合に絡めるのか。健太さんは事あるごとにメッセージを発しているし、それ自体にブレなどは何一つない。ずっと繰り返し発言しているのは「結果」が重要であること。攻撃陣は「数字」にこだわること。また、練習試合においては「どのポイントで評価をするか」選手たちに落とし込みがあること。コンディションに問題があれば出なくていい、しかし出るからには良くも悪くも評価を下すとまで明言している。また、若手は「無理やり使うものではない」とも。

では、リーグに出るための基準とは何か。

基準はもうもちろん、リーグ戦メンバーと同じ基準で見ています。それができていないので、リーグ戦に出られていないということでもありますね(笑)

(2023.4.17 練習後囲み取材コメント要約)

もうここだけは短いし引用させてくれ。超重要部分。

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なぜ、貴田のことを健太さんがこれほど評価するのか。

結果を出しているから「だけ」なのか。そもそも「リーグ戦と同じ基準」とは何なのか。それを、それぞれのポジションごとで、改めて問い直す必要がありそうだ。

それにしても、健太さんは“決断”の人だ。

岡田武史や、森保一と同じ。決して形(型)にはこだわらない。ただ、絶対に譲れない信念と理想があり、そのためなら大きな決断でも躊躇することがない。

そして、同時に“厳しさ”と“愛”の人だとも思う。

今回の文章を作成するにあたり、過去の記者会見を全て読み返した。ずっと言っていることは変わらない。そして、若手に対する愛情とメッセージが、これでもかと込められていることに気づく。厳しさと愛情は、健太さんにとってコインの表裏なのだと理解できた。もし、興味が湧いたら、ぜひ改めて読み直してほしい。

どうやら健太さんは勝負師であり、調教名人らしい。技術、ではない。プロを、「一人前のプロ」にする名人。

  • (育てるということは)基本的には変えていない
  • プロになる選手はみんな上手い。ここから始まる。だからこそ、この上手い選手たちをどうやってさらに上手くするのか。その部分は変わっていない

(2023.5.11 練習後囲み取材コメント要約)

ルヴァンも、天皇杯も、全てはリーグに繋がっている。だからこそ思うのだ。貴田の次は、誰なのかと。

後半戦の名古屋の命運は、そこに懸かっている。

ビルドアップを再興せよ!

Jリーグは、“強度”か“保持”の二択を迫られている。

「いやちゃうねん、両方大事やねん」そんなツッコミが既に聞こえているが、ひとまずは無視します←

何故そんな想いを抱いたかといえば、開幕から苦戦が続いたサガン鳥栖の姿を見ていたからだ。

昨季までなら気持ち良いくらい繋がっていたパスが繋がらない。ボールを奪われては逆襲される。ファンサポーターからは「今季つまんない」の声も聞こえ始めた。

一方でマイクラブの名古屋グランパスは絶好調だった。


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“王者”横浜F・マリノスにみせた(ほぼオールコートに近い)マンツーマン対策は痺れた。「あ、あの名古屋が、こんなアグレッシブに前からボールを奪いにいく日がくるとは....」ちょっと、感動だった。

しかし、上位に目をやれば、さらに“強度・パワー・スピード”でJを席巻するヴィッセル神戸の存在が際立つ。なるほど、どうやらバルサ化の道は完全に絶ったようだ。

あれ、ていうか上位は強度マシマシ系が多いぞ...。

そんな違和感が確信に変わったのは、サガン鳥栖がホームに横浜F・マリノスを迎えた第11節だ。

そこにあったのは、これまでの「走って、動いて、数的優位を築いて」前進しようとする鳥栖ではなく、「相手に捕まると分かっていても」近距離でパス交換をしようとする鳥栖の姿。ん....?これはブライトン味が強めだ。

ピッチで起きている事象を、私より緻密に、そして正確に解説できる人間は山ほどいる。しかし、この流れにおいて私が考えたいのは、「何故、鳥栖はビルドアップの型を変えたのか」であり、「何故、このタイミングで新しいチャレンジをする必要があったのか」だ。もっといえば、「何故、難しいと理解していて尚、取り組む必要があるのか」である。今のところ、この視点から出来上がった記事は見ていないので、お先に失礼致します。

 

なぜ、今になって作り直すのか

私が立てた仮説は、以下の通り単純そのものである。

「昨季のやり方では、上手くいかなくなったのではないか」。ということで、改めてこの点を紐解いていく。

鳥栖のビルドアップにおける最大の武器は、圧倒的な運動量を活かした数的優位の創出にあった。あらゆる局面において「+1」を作ることで、容易にボールを前進させていく。その点における最大のキーパーソンは朴一圭。彼がいれば最終ラインは常に「+1」。前から深追いすればするほどに、相手はその術中にハマり続けた。

さらに、鳥栖が嫌らしかった理由はもう一つある。

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朴一圭のロングキックと両ウイングの走力を活かして、深追いした相手を一発で裏返す仕組みを持っていた点だ。憎き朴一圭。許すまじ朴一圭。ああ朴一朴一圭。

きっと相手はこう思っていたのではないだろうか。「闇雲に前から奪いに行っても、鳥栖の罠にかかるだけだ」と。整備されていないハイプレスをするくらいなら、むしろ潔く撤退し、(後方から繋ぐことで紡ぎだされる)時間とスペースの貯金を鳥栖から奪ってしまえばいい。

だがしかし、もはやこれは過去の話である。

今季ピッチで起きていたことは、むしろその逆だ。「徹底的に“人”を捕まえよ」ハイプレスの波がやってきた。

振り返れば、その予兆は開幕戦から既に存在した。湘南ベルマーレとのホーム開幕戦。まさかの1-5の大敗。


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当時は、さして重大なことだと気づいていなかった。悪天候によるスリッピーなピッチコンディションと、それによって起こったヒューマンエラーが原因だと。

ただ、実際には大きな問題点が二つ、あったと考える。

一つ目は、湘南が“人”を明確に捕まえにきたことで、配置的な優位性が完全に失われていたこと。

湘南の場合は、鳥栖サイドバックをプレス開始の合図とした。鳥栖センターバックを湘南のツートップが牽制し、ボールの流れをサイドに誘導する。ボールがそのポイントに入った瞬間、約束事のように各選手がスライドし、各々の標的を捕まえる。その際に、鳥栖は「だせる場所がない」からサイド(場所)に逃げるわけだが、皮肉にも湘南はむしろその場所に「誘っている」。以前、グランパスの監督を務めた風間八宏が、「場所に逃げるな」とよく口にしていた理由はここにある。つまり、場所に逃げてもそこは相手の思うツボなのだ。

その後は出す場所がなく、苦し紛れに縦につけたところを背後から潰される。鳥栖のファンサポーターは、この試合でシャドーに入った西川潤が、湘南の杉岡大暉にことごとく潰された光景をきっと覚えているだろう。

まさにこの場面に、二つ目の問題が存在していた。

必要以上に動く鳥栖の“可変”。つまり、相手のプレスを外そうと、ポジションを変幻自在に入れ替える鳥栖の動きそのものが仇となってはいなかったか。

この湘南戦でも、自陣でボールを奪われた際、ショートカウンターからゴールを奪われるシーンがとにかく目についた。ボールロスト=即失点、と言っても過言ではない悲惨な状況。それはそうだ。鳥栖の可変は、それだけのリスクを負った戦法だった。また、そのリスクを背負うだけのリターンが常にあったとも言える。

とはいえ、悲しいかなそのリスクがまさにリスクでしかない状況が続いたのが今季の鳥栖であり、「これはボール保持の仕組みそのものから見直しが必要だぞ....」と、現場レベルでなっていた可能性は(推測だが)高い。

ボールが前に進まない可変は、まさに諸刃の剣だった。

 

苦しむなかで生みだされた“シン”ビルドアップ

ありがとうございます。流行にのってみました。

さて、ファンサポーターの不満が高まるなか、鳥栖のビルドアップに大きな変化がみられたのは、まさに冒頭で触れた第11節、横浜F・マリノス戦である。


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いやセンターバックボランチの距離感近っ!!

まず、気になったのがここ。2枚のセンターバック(田代と山﨑)と、2枚のボランチ(森谷と河原)がスクエア型になり、且つ、べらぼーに狭い距離感でパス交換をする。あれ、普段なら河原が最終ラインに降りて、数的優位を作ってからのボール前進ではなかったか。

その様をみて、「これは腹を括ったな」と思った。

動いて、数的優位を作り、前進して。つまり、配置(場所)を前提にしたこれまでの前進方法ではなく、少なくともビルドアップの「スタート地点」では、相手が“人”を捕まえにくる前提で受けて立つつもりなのだと。狭い環境(エリア)の中で、剥がすつもりだ。

web.gekisaka.jp

マンツーマン気味でどのチームも来ているので、あえてドストレートに行こうかなと。そこの質をもっともっと追求して、そこから変えていくのはできると思う。われわれはあえてドストレートに、直球でどんどん速いボールを投げられるようにするという言い方が正しいかは分からないが、そうすると野球でいえばカーブとか変化球が効く

これは延期となっていた第10節、浦和レッズ戦後の川井健太監督のコメント。ただただドS(ストレート)だ。

では、何故このやり方を選んだのだろうか。

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理由として、二つ想像ができる(推測だが)。

一つ目は、中央でコンパクトな距離感を保つことで、万が一、ボールを失っても最も危険な中央ルートを開けないため。これは、ボール保持チームの宿命である、「ボールロスト」のリスクを鑑みた結果ではないか。後方の選手たちに圧倒的な走力(守備範囲)があれば話も違うだろうが、現状のメンバーにおいては、このやり方が最もリスク管理に適しているのは確かである。

そして、もう一つはネガティブな意味にもなってしまうが、保持における後方選手たちの能力的なものも影響した可能性がある。相手を外すにあたり、一人一人が広範囲に位置し(立ち位置を取り)、(相手にとってプレスの的が絞りやすい状況でも)自身のテリトリーの中を持ち得る技術一つでやり繰り出来るならそれに越したことはない。だが、もし現状そこまでの(パス能力を含めた)技量がないのなら、前進するうえでの「第一歩」は、むしろ距離感をコンパクトにした方がその点をカバー出来ると考えた可能性はある。繰り返しになるが、仮にミスをしてもカバーできる表裏一体な構造だ。

これだけ聞くと、「だったら足が速くて足もと上手い選手センターバック置きゃええやん」と言いたいだろう。

待ちなさい。今季のJの傾向として、鳥栖のようなハイプレス型のチームにはロングボールで回避大作戦が決行される可能性があるから難しい。だって跳ね返す能力、田代ハンパない。あの対人は凄い。左利きでそこそこ足も速く、しかも何故か高さもあるジエゴって生命体を知ってるが、あんなものはレア中のレアだ忘れなさい。

さて、距離が近い分、求められる技術とは何だろう。

密集を作るということは、相手もその分、ボール周辺に人数を割いてくる。ゆえに、ここの攻防が成否を握る。

鳥栖の選手たちを見ていると、相手のプレッシャーに怯み、ボールを「隠すように」止めるケースがまだまだ目につく。これも、当時風間大先生が語っていたが、「ボールは隠すな!」「相手の前にボールがあっても、何でもできる場所にさえボールが止まれば相手の足は止まる」なのだ。そうか、このシチュエーションでこそ風間理論なのか!!と、約4年の時を経て目から鱗状態だが、つまり狭いエリアを前提にプレーする時にこそ、この技術が問われるということなのだろう(たぶん)。

但し、この文脈で誤解するなかれ。

鳥栖が(ビルドアップの)最初から(相手ゴールに至る)最後まで、全てを点で繋げようなんて話ではない。それは風間!風間八宏オンリーの道だから通らないで!

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これは、あくまでもボールを“出口”に届けるための仕掛けだ。その出口は、例えばサイドバックの菊地泰智かもしれないし、相手ボランチの背後に降りる本田風智や小野裕二の場合もある。或いは、大外高い位置で幅を確保し、同時に相手最終ラインを牽制する役目を担う岩崎悠人や長沼洋一への一発ロングフィードだってアリだ。

つまり、鳥栖にはボールを“クリーンな形で”届けたいエリア(場所)があり、その第一歩、最初の足掛かりとして、まずは目の前の相手(人)を攻略することを選んだのだと受け取るべきだろう。相手のプレスを前提にいえば、要はどこでその梯子を外すかが問われており、鳥栖はこのやり方に挑戦している(第11節のマリノス戦まで、中9日空いたのもキッカケとなった可能性有)。

この視点に立てば、近距離で行われる森谷賢太郎や河原創のパス交換も理解ができる。あれは“遊びのパス”だ。ボールを動かすことで、相手を動かす意図がある。

“人”につかれるなら、それ(人が動く)よりもっと速く動くことが可能な“ボール”を、速く動くだけの環境下(近距離)で移動させる。そして、“人”を外す。

但し、繰り返すがフットボールの構造自体を大きく変えたわけではない。リビルド真っ只中は、ピッチを3分割した最も自陣側、いわゆる“ゾーン1”と呼ばれるエリアの構造だ。「どうボールを運ぶか」が、今問われている。

また、矛盾するようだが“ゾーン1”の仕組みを変えたことで、結果的にゾーン2、或いはゾーン3の微調整も要求される。最終的に「相手ゴールまでどう迫るか」、後方の選手たちがゾーン1に四苦八苦している一方で、前方の選手たちも新たな課題に直面しているだろう。

目的は変わらず。しかし“手段”にはとことんトライだ。

 

ただ、これ時間かかるから

さて、この手法を選択することで、何が問われるか。

言うまでもない、“技術”だ。

単純な止める蹴るの技術もそう、背負う相手を外す技術もそう、瞬間的に空くパスコースを見つける“目”の技術も問われるだろう。また、鳥栖の場合は、コートを“点”でなく“面”で捉えボールを動かし、スペースを創出し、最終的にはオープンな攻撃を繰り出す目的もある。そういった“戦術理解”は変わらず問われるはずだ(話は逸れるが、鳥栖最大の魅力はこの「バランス感覚」にある。ネット上で使われる“和式”“洋式”などと簡単に括れないフットボール。自分たちの理想があり、そのうえで現有戦力の最大出力を引き出すために、攻守において各ゾーンでどんな振舞いをすべきか。それが非常に緻密に、しかし前提に“走り、闘う”鳥栖らしさがベースにあるのも大きな魅力である。「個性と戦術」が同居する素晴らしいフットボールだと改めて言及したい)。

んー、大変だ。要求多すぎてブラック認定したい。

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ここで最後に考えたいのは、ファンサポーターのスタンスである。さて、この状況をどう捉えるだろう。

そもそも論として、「こんなことをやっていること自体、納得がいかない」層がいる。もちろん尊重すべきだ。但し、この点に関しては、「最も勝つ確率が高まる戦法」を現場がどう考えるか、にもよるし、もっといえば「フットボールの哲学」そのものにも関わる部分。一つ言及するなら、おそらく鳥栖陣営は、このやり方が最も勝つ確率が高く、且つ、この方向性こそが自分たちの生きる道であると腹を括っているように思う。また、それは今に始まったことでもない。金明輝率いる2020シーズンから、鳥栖が舵を切った方向に変わりはない。

次に意見が分かれるのは、「今(現状)の出来」。

簡単にいえば、「出来ていないことをどう捉えるか」。未来の姿を想像し、期待する人間は、きっとこれを“伸びしろ”だと解釈する。一方で、今の方向性に期待していない人間や、或いは、そんな悠長なことをやってる場合ではないと危機感を抱く者は、おそらくこの「出来ていないこと」が目について腹立たしく思うだろう。

これも一緒だ。どちらの解釈もきっと間違いではない。

ボールなんか捨てて、非保持に舵きって、「ボールは奪うもの」と定義し、割りきって走ることをベースにしてしまえばもっと楽だ。書いていて、私だってそう思う。ハイプレス?マンツー?わかったわかった、蹴っちまえばいいじゃないか。鳥栖もロングボール合戦して、トランジション(切替)と強度で対抗しようぜ!その方がよほど潔い。しかし、悲しいかな今の鳥栖には豊田陽平金崎夢生も、それこそフェルナンドトーレスもいない。

繰り返すが、鳥栖は今歩んでいるこの道こそが自分たちの目指す道で、これこそが我々の哲学だと明確に自負しているだろう。誰が何と言おうがその事実が揺らぐことはないし、「ブレない」とはつまりそう言うことだ。

でも同時に、彼らは「新しいチャレンジ」もしている。

彼らの目の前にあるその壁は、ブレずにやり続けたからこそぶつかった壁であり、“見つけた”壁でもある。そして、その壁を「新たなチャレンジ」と位置づけ、彼らは乗り越えることを選んだ。何故か。『避けることは、この道が頓挫することを意味するから』に他ならない。

だからこそ改めて思う。「勝つ」ことが、重要だと。

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勝てば、支持していた人たちは嬉しい。勝てば、支持していなかった人も納得する。勝てば、皆、ハッピー。

そう、どれだけ沢山の意見があろうと、そこにどれだけの対立が生まれようと、そんなもの大したことはない。

「勝ってほしい」、この気持ちだけで十分だ。

皆違うようで、結局は同じなのだ。勝ってほしい、それだけ。それが心から理解できていれば、きっと意見の違う相手でも尊重できる。そしてまた、これこそが同じクラブを応援する醍醐味だろう。どれだけ意見が異なろうと、クラブが好きであることに変わりはなく、勝ちたいと思う気持ちもまた同じ。勝ち負けしか問われないフットボールほど虚しいものもないが、一方で、勝ち負けという分かりやすい指標が解決してくれることもある。

風間時代にロマン追っかけて負けまくった大先輩サポーターの私が言うと説得力が違います。では格言です。

サガン鳥栖の皆の衆、ときどきでいい。勝っておけ。

 

とまあ、最後はサポーター論になりましたが

このコラムを通して指摘したかったのは、鳥栖フットボールそのものというより、むしろ鳥栖フットボールの変化を通して、いまJに何が起きているか、である。

鳥栖が変わりたくて勝手にやっているのか。いや違う。

これらは、Jに変化が起きたことで生まれたものである。ここ数年、Jは川崎フロンターレ横浜F・マリノスの二強時代だった。圧倒的な保持力をベースとした攻撃力。それを前提とした即時奪回の守備。ハイテンションで続くこの循環に、どのチームも歯が立たなかった。

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しかし、その流れに今、変化が起きている。

キッカケは昨季躍進を遂げたサンフレッチェ広島だろうか。その真意は定かではないが、いまJでは二強の牙城を崩すべく、力のある者たちが(ボールを相手陣地に送り込んだうえでの)即効性のあるハイプレスを武器に、Jの構図を塗り替えようとしている。二強の特徴(ボール保持からの即時奪回)を逆手に取るフットボールで。まさに長く続いた二強時代へのカウンターではないか。

その流れに抗おうとするのは鳥栖だけではないだろう。

マリノスも、川崎も、或いはアルビレックス新潟もそう。保持をベースにするチームの逆襲はあるだろうか。潮目の変わり目に気づき岐路に立っているのは彼らだ。

この壁を、突き破れ。いま、保持勢力が問われている。

アウトプットに悩む人へ。

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今回は「私の」フットボールの見方、を話します。

なんでいきなり、と思われますよね。キッカケは、先日「らいかーるとさん」が書かれたこちらのブログです。

building-up.com

まず言いたいのですが、めっちゃくちゃ参考になりますありがとうございます。ブログに要する時間45分はさすがに嫌味かと思いましたが、たぶんあのお方はマジなので仕方ないです。影響を受けた皆さんには、心から「あの記述だけは無視しようぜ」と、まずお伝え致します。

さて、そのうえで私がどう触発され、何を書きたいか。

もう少し掘り下げたいんですね。フットボールの見方、或いは「好きなこと」を楽しむ方法を。

さっそくで申し訳ないのですが、私の話をします。

まず大前提として、私もいわゆる「戦術分析」と呼ばれる類のものは大好きです。ずーっとそういったものを読み、考え、育ってきました。どうでもいい話ですが、小学二年生で初めてフットボールと出会い、実際にプレーをし、しかし気づけば私はフットボールを「する」のと同じくらい、「みる」ことが好きなのだと自覚したんです。私にとって、フットボールは勝った負けたで興奮するだけのものでなく、「考察」することにおいても、大変に魅力のあるものでした。まあ、オタク、です。

その意味で、先ほど紹介したらいかーるとさんのブログは、いわゆる「マッチレポート」における、より正確で、より緻密なアウトプットを目指す指標です。実際にピッチで起きている事象を、いかに正確に汲み取れるかが問われるからこそ、必然的に、そこには「答え」或いは「間違い」といったモノの見方が生まれます。

昨今、sns文化が当たり前のものとなり、こういった戦術分析が広く認知されたことでニーズが高まり、書き手も増えました。素人や指導者の垣根を越え、フットボールに詳しい方が増えましたよね。実際にそれを生業にしている方と、純粋なフットボールフリークが入り混じる時代です。誰もが高度なアウトプットを目標とし、試合を観る解像度は上がっているのだと感じます。

先に断っておくと、その風潮自体は素晴らしいことです。繰り返しますが、なにより私自身それが好きです。

ただ一方で相反する気持ちがないわけではありません。

可能な限り「正しさ」を求め、常に正解不正解が問われるのなら、それはそれで少なからず息苦しさもある。

もちろん私にもあります。もっとフットボールのことを理解したい、戦術的な視点の解像度を高めたい、そんな欲が。ありますよ。あるに決まってます。だって、ずっとそうやってフットボールを楽しんできたのだから。

でも他方では、そんな自分の(育んだ)見方が、正しい間違ってるなんて土俵の上にあると自覚すると、(例えそういうものだとしても)多少なりとも息苦しさも感じるんです。「戦術を考察する」ことが当たり前の環境になったことで、その「知識」を過信し、武器と履き違えて他者(対象)を叩くことが目的になるケースもあります。稀にそんな場面に遭遇すると正直辟易することも。そう、取扱いを間違えると、「戦術」は良くも悪くも「分かった気にさせてくれる」麻薬にもなるんです。

とはいえ、実際のところ書き手としての腕を磨くには、自分の「見落とし」「間違い」を自覚することはやっぱり必須だから悩ましい。つまり「感覚」に逃げることは出来ません。向き合わないといけない。でも、誰だって間違いはしたくないじゃないですか。では、「正しさ」を追求してドツボにハマるパターンを見ていきます。

せっかくなので、私の恥ずかしい話を例としましょう。

ここ数年、ありがたいことに「書く」行為において、お仕事をいただく機会が何度かありました。それはもう必死でした。何故なら、「正しい」アウトプットをだすことに躍起だったからです。そこに金銭が発生する以上は、誰が読んでも正しいと思えるものを。少しでも難解な、それでいて人様に伝わるものを書かなければならない。よく言えば持って生まれた責任感ですが、まあ実際は気負い過ぎです。あえて身の丈に合わない場所に自分を置いて、「読み応えのあるもの=高難度な『解釈』と『言い回し』」だと規定し書いていたように思います。

振り返ると依頼を受けた際こんなやり取りをしました。

「あの....僕なんかでいいんですか?」「この内容なら、指導者の方とか、プロの方に書いていただいた方が説得力あるんじゃないですか?」「何を求められてます?」

つまり、どれだけ他者が私のことを評価してくれたとしても、肝心の私自身が誰よりも己に懐疑的だったんです。自分より適任は他にどれだけでもいるだろうと。だって、仮に「正しさ」が問われるのなら、若い優秀な指導者だって次々と出現しているじゃないですか。なんで俺!?そう思いながらも、引き受けた以上はその期待に応えたいと必死に肩肘張り、空回りしてしまう現実。

すると、どうなると思いますか。

普段、自分が書く文章とは似ても似つかぬモノが出来るんです。リズムも言い回しもやっぱり変わってしまう。

もう....散々直しをうけました。厳しい編集者の方だと、ズバズバ指摘が入るのでメンタルもぐったり。「いつも通り書きなよ」....はい。「すごく分かりづらいよ」....分かってます外の風浴びてきます。フットボールの解像度を上げることで、読んでくれる方に「分かりやすさ」を提供するはずが、戦術という波に溺れむしろ分かりづらくなっていくこの悪循環。実際は、もはや読者のため、ではないんです。「自分との格闘」です笑ってくれ。

試合で起きたことを正確に文字に起こす。理想です。そういったアウトプットを最大の目標とし、切磋琢磨しスキルを追求する。そのうえで、書き手同士の違いに目を向け、分かること(気づくこと)を増やしていく。その「目的」は、全く否定されるものではありません。

ただ、一方でそれが足枷となり、罠に嵌ることもある。

自身が観た対象を拡大解釈し、ありったけの知識を注ぎ込もうとしたり、テクニカルな要素を追求した結果、誰に何を伝えたいのかよく分からない成果物が出来たり。皮肉な話ですが、小難しく書けば書くほどに、不思議にも中身は空虚で薄っぺらいものに仕上がるのです。

結局のところ、最後に問われることは一体何なのか。

いかに等身大の姿でピッチに向き合い、それを「誰に」「どう伝えるか」「どう伝えたいか」ではないか。

「観たもの」を「観たまま」に伝えることは難しい。何故なら、そこに沢山のバイアスがかかるからです。人様に読まれる以上は、凄いと思われたい。あの人のように書き上げたい。そういう〝欲〟が邪魔するのです。

こんなことを書いて結構恥ずかしいと今気づきました。

でも、読んでいただいた通り、私はそういったジレンマに悪戦苦闘していた過去があります。書いているときは気づきません。後で気づく。この土俵で筆を走らせている限り、自分より「分かっている人」は必ずいて、「自分がそれをする意義」が見出せないんです。テクニカルな方向に目が向けば向くほど、それは感じていました。所詮は素人で指導者の説得力には敵わないと。お笑いのモノマネ芸人のように、そこに「笑い」の付加価値がつくなら意味はあるでしょう。ただ、モノマネがただのモノマネで終わるのなら、いつまで経ってもホンモノには敵いません。読者だって、ホンモノを選ぶ。書き手が溢れる時代だからこそ、誰だって「選択」はするのです。

だからこそ、改めて問うべきだと思うんですね。

そもそも自分はフットボールを通して何に喜びや楽しみを覚え、そのうえで何を表現したかったのだろうかと。

そもそも、私にとっての「いつも通り」とは何なのか。

「自分がトキめいたことを誰かと話したい、誰かに伝えたい」これが、私にとって想いを言葉にする動機です。

そう思うと、あの時かけられた「いつも通りの貴方でいい」との言葉は、つまり「貴方自身がどう解釈し、どんな感想を抱き、そこにどんな興奮を覚えるか、それを素直に表現すればいい」と伝えていたのかもしれません。

求められているアウトプットは一つではないのです。

ピッチ上の解釈は様々でしょう。ただ、解釈をするうえでは、まずもって起きている現象を「正しく」把握する必要がある。正しい認識のもとに、それぞれの解釈が生まれる。らいかーるとさんが伝えたい本質は、そういうことなのかもしれません。だから、これだけ長々書いているこのコラムも、決して正反対の話がしたいわけでなく、読んでいただいた通り、同じ話の延長線上にあります。つまり、解釈を磨くためには、結局のところ「正しい認識」を磨く道からは逃れられない。そのためには、やはりフットボールの勉強をしなければならない。

結論一緒じゃねえかと思ったそこの貴方、待ちなさい。

(どの立場から言ってるのか自分でも分かりませんが)私が伝えたかったのは、だからといって表現方法は一つではなく、縛られる必要はない、ということです。貴方の解釈も、そのアウトプットの方法も自由で、そこに「答え」はありません。目を向けるべきことは、小手先のテクニカルな部分ではなく、それをどう「自分の言葉にするか」。そう、言葉を模索しなければいけません。

私の場合は、誰かに伝えたいと感じるくらいの興奮を、やっぱり「自分の言葉」で表現したい。ああいいな、この人がここまで言うなら観てみたいな。そう思ってもらえるくらいには、その表現方法を磨きたい。試合を沢山観て、戦術分析も磨きたいと思うのはそのためです。

それなら少しくらいは存在意義があるのかもしれない。

ここまで読んでくださった御礼に、私が尊敬してやまない指導者の方にかけていただいた言葉を共有します。

あれこれ考えて、作って、試合をしても、「つまらない」と思われたら、それ以上もそれ以下もありません。だから、観ている側の抱いた気持ちや感想こそが『正解』なんじゃないかと思います。観ている人が深く考えて、考察し、文章にすることは、プレーする側にとっても大きなことです。

そう、結局はどちらも間違いではないんです。マッチレポートを必死に作り続ける書き手の皆さんも、そこからこぼれ落ちてしまいそうな人や、表現方法に悩む人も。

必死で考え、アウトプットしたことは、必ず届きます。

貴方にとって、好きなことを「好きであり続けられる」接し方、距離感を大切にして欲しい。そして、貴方が魅力を感じたフットボールを、どう解釈し、どんな言葉を使って、どう人に伝えるか。そこに〝個性〟が表れると。これからも、一緒に磨いていきましょうよ。

この歳(どの歳)になり、「好きなことがある」尊さに加え、「それとどう付き合っていくか」が、自分の人生において重要なことだと感じるようになりました。何度も書きますが、好きなことを好きなように言葉にするのなら、やはり勉強は必要です。ただ、一方でフットボールの魅力をどう伝えるかは多様で、答えはありません。

私の「標的」はそうだなあ....細江克弥さんですかね(すいません畏れ多いです....)。ただ、アレくらい「好きだ」と表現したい、ウザがられるくらいには(笑)。

何歳になっても、「好き」を全開で解放しましょう。

ざっくり振り返る2022年のJ

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予想とはなぜにこうも当たらないのか。

Jリーグ新戦術レポート2022 著:西部謙司』を読み、ふとシーズン前のエルゴラッソ対談企画を思い出す。

ちなみに記事の最初の見出しがコレ。

打倒川崎Fの資格は総得点数80以上!?(みぎ)

結果、優勝した横浜F・マリノスが70、川崎フロンターレに至っては65。資格がないのはお前(みぎ)だよ。

ちなみに対抗馬に推したのがヴィッセル神戸(13位・35得点)、あと浦和レッズ(9位・48得点)。人の予想などアテにならないと安心するでしょう。付け加えると、心の中の降格候補は柏レイソルでした。柏レイソルのファンサポーターの皆様、申し訳ございませんでした。豊田スタジアムでの柏戦、めっちゃ強くてビビりました。

名古屋をみて、鳥栖をみてから徳島みて。一節に対して3試合観ていても他クラブのことは案外分からない。

そこで『Jリーグ新戦術レポート2022』を手に取った。

めちゃくちゃコア向けというわけでもなく、かといってライト層向けかといえばそうでもなく、つまり、ほど良い。噛み砕いてリーグの状況と全チームの戦術に言及しているので、小難しい戦術話に抵抗がある人もコレなら楽しめるだろう。タイトルの硬さの割に、柔らかい。

そこで、気になったチームをいくつか挙げてみよう。

 

川崎フロンターレ〜強すぎたのが悪い〜

最近になって、2021の名古屋グランパスシーズンレビューDVDを観た(今頃)。タイトルは「THE DEEP」。覚えているか名古屋川崎の頂上決戦。悪夢の0-4を。

このDVDは、レビューという名のドキュメンタリーだ。普段は目にすることの出来ないチームの裏側を追った流行りの作りとなっている。ゆえに、悪夢の0-4を終えた選手たちの姿も収録されているのだが、ここに映る木本恭生のボソッと呟く一言がとにかく秀逸なのだ。

上手いな....めっちゃ強い。全然違う

そう、2021の川崎はアホみたいに強かった。

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あれから一年も経っていないが、今季の川崎は苦しんだ。本書内で西部氏が指摘したのは以下2点である。

  • 相手の対策が進んだこと(ビルドアップの停滞)
  • 主力の海外流出

前者の深掘りはファンサポーターに任せるとして、個人的に取り上げたいのは「主力の海外流出」である。

いやはや、正直、甘くみていた。あれだけチームのベースが確立していればなんとかなるやろ!と思っていたが、結果だけみれば「流石に抜けすぎた」のだろう。

エルゴラ対談の際、対談相手のささゆか氏が「(川崎の弱体化を狙って)セルティックまじで頑張れ(意訳)」とコメントしていて笑ったが、指摘の筋としてはズバリだったわけだ。さすが新王者。但し、セルティックに限っていえば、川崎よりむしろ横浜の弱体化を狙った動きが目につき、そこはマジでポステコグッジョブ。

www.kanaloco.jp

そうそう。川崎といえば今オフに京都サンガから上福元直人を獲得した。ライトな徳島勢の私としては「何で今さら上福元」だったわけだが、本書を読んで妙に納得。

www.frontale.co.jp

ただ、谷口のカタール移籍は流石に斜め上で震えるぜ。

 

ヴィッセル神戸〜我慢の言葉は辞書にない楽天

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三木谷オーナーの意向が読めません。

今季も2度の監督交代で、良くも悪くもリーグに話題を振りまいた彼らだが、最後は自力で生き残った。

川崎横浜に続くポテンシャルならヴィッセル神戸

裏切られたぜ楽天には!予想を外すなら北澤かみぎと言われそうだが、それだけ期待していたということだ。

西部氏は、ヴィッセル最大の問題をイニエスタにみる。

といっても、当然、彼の能力には疑いの余地などない。問題は、このスーパースターの位置づけにある。

その指摘は本書に譲るとして、彼のクダリで思い出したのは2020シーズンの川崎における中村憲剛だ。(大怪我がきっかけの一つだったとはいえ)あの立ち位置は今さらながら絶妙だった。基本は「いない前提」、但し、戻ってきても「居場所がある」。西部氏は、ドラマのエンドロールに例えて、『「主役」とするか「特別出演」とするか』が大事だと述べている。あのときの中村憲剛は、まさに「特別出演」だった。いきなり出てきてオイシイとこだけ持っていく。いなくてもショートケーキの美味さは変わらないが、いたらいたで載ってるイチゴだけ妙に高級。この絶妙な変化。でも、それがベストだ。

つまり、一人の選手にチーム丸ごと依存する(左右される)のは、現代のフットボールでは致命的であり、それが40近い選手となれば、あまりにリスキーだといえる。

もちろん、応援するファンサポーターからすれば指摘したい問題点は他にもあるだろう。しかし、他チームにはないこのスーパースター問題をチームとしてどう考えるかは、監督にとってはやはり悩ましい問題なのだ。

神戸といえば、余談を一つ。

実は、対談内で「今季(2022)期待の若手は?」の質問があった。私は「ヴィッセル神戸の小林友希!」と挙げたのだが、あいにく司会を担当したMCタツ氏の編集で闇に葬られ御蔵入り。しかし、今季はリーグ戦28試合に先発、今オフは遂に海外進出決定と、出世の階段を登りつつあることを喜んでいる。左利きのセンターバックを「リーグとして」育てていく。想いは伝わったのだ。

www.vissel-kobe.co.jp

移籍先は、またもセルティック。ポステコ氏の海外流出で横浜を恨んでいるのは間違いなくシントトロイデン。

※ちなみにMCタツさんはあの通り見た目派手ですが凄く優しかったです。「俺は嫌われてるから」と自虐しつつ、お願いしたら著書を全部送ってくれる紳士でした

 

サガン鳥栖〜西部氏も虜になったチーム〜

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西部氏曰く「国内で最もポジショナルプレーを実装出来ているクラブ」は、このサガン鳥栖

しかし、そもそもポジショナルプレーの定義は難しい。

だって、例えばサガン鳥栖徳島ヴォルティスを比較したって同じでないから。何が正解なのだろう。だったらどちらも追えばいいじゃん!が個人的な結論です。

今季は監督も代わり選手も総入替上等な状況だったものの、「変わったようで変わってない」と感じた西部氏の印象は、手前味噌だが私の感想と全く同じである。それを「不思議にも」の五文字でまとめた西部氏に対し、不思議で終わってたまるかと、しつこいほどの文字数で解き明かした私のブログがこちらです(宣伝)。

migiright8.hatenablog.com

さて、西部氏が本の中で多用する「ポジショナルプレーの壁」について、今オフの鳥栖は「そんな壁は尖った個性でぶっ壊す」と、積極的な補強を敢行。なお、個人的に期待してるのは樺山諒乃介。立ち塞がる壁にはやはりドリブラーだろ!ってことで、そろそろ覚醒してくれることを期待。また、今季は「ボールを持つ」ことに対し昨季以上に拘っていた鳥栖であるからして、肝となるボランチ(心臓)が変わるのも興味深い。ロアッソ熊本から加入する河原創がメインになると予想するが、個人的には〝天才〟手塚康平の覚醒に期待といったところ。

唯一、不安があるとすればストライカー。

(俺の)宮代大聖と垣田裕暉がチームを去り、富樫敬真と横山歩夢のポテンシャルに賭けた結末やいかに。

ちなみに来季の注目選手は西川潤〝一択〟です!

 

コンサドーレ札幌〜この本最大の見どころ〜

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地味に西部氏の愛が注がれている気がするのは札幌。

愛とは札幌のクラブそのものというより、ミハイロ・ペトロヴィッチに対してである。ただ、決して西部氏がミシャのフットボールが大好物というわけではない。ミシャの人間性フットボール観みたいなものに、「理解がある」ことを意味している。この本の裏テーマとして、「これからのフットボールはどうあるべきか」との問いが存在するのだが、その点、ミシャを通して感じるものがあるのだろう。それは、本書内の対談相手である風間八宏氏からの影響もあるだろうし、実際に対談の中でその話題にも触れている。そう、やっひーも登場します←

札幌のファンサポーターは70〜71ページを読みなさい。個人的には正座して読むべき箇所だと思っている。

そうそう、札幌といえばページの出だしが最高で、

札幌は特殊なチームです(太字)

から始まります。知ってるわ!とJリーグ全チームからツッコミが入りそうなこの一言目は悔しいかな笑った。

あとは基本真面目なトーンで進む西部氏の文章なので、

順位は上がらないのですが、年に何回かは感動的な素晴らしい試合を見せてくれます

の箇所も意図しない失礼さが入り混じって大好きです。

 

名古屋グランパス〜西部氏をもってしても....〜

きました大トリは我らが名古屋グランパス

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戦術マテウス

いや....まとめ楽!!!!!!!!!!!!!!!!

もっと名古屋にページ割こうぜ西部さん!でも悔しいかな言い返す言葉もないから秀逸なまとめだと思います(実際はもう少し言及されています)。

まあいいんですよ....僕はね、まずは健太さんの来季を全力で応援します。で、ユンカーいやキャスパー(照れ)を獲ってですね、キャスパーとマテウスの俺様っぷりに頭を抱える健太さんとピッチでキレる永井が観たい。ハイプレスがしたいのに水がダダ漏れで堅守速攻に立ち返る名古屋。で、キャスパーも永井も裏に抜けてばかりでポストプレーヤー不在に嘆く自分。ああああああああ!!!!!(混乱)来季も(ろくに行けないだろうに)お高いシーズンチケット買いましたよ。いいんだよ、もう名古屋に関しては駄目なとこも含めて「常にいる(いないと駄目な)存在」だと思っているので、妻ともそんな愛で繋がれる関係に私はなりたいと思っています(脱線)。全部が愛おしいそんな関係に(死)。

でね、近い将来あわよくばリカルドロドリゲスとか引っ張ってきて、「アタッキングフットボール解禁します!」なんて言っちゃうグランパスをどこか夢見てるのも打ち明けます(4年くらいは腹の底に抱えてます)。

正直にいえば、昨季までのマッシモ体制で「もう名古屋=堅守のチームでええやん!」と少し思ったんですよ。面白いかどうかとか、好みかどうかなんてどうでもよくて、つまり「名古屋らしさ」はどっちやねん!と考えた際に、どこかしっくりきてしまった自分がいて。中途半端で何がしたいか分からないのが一番嫌なのです。別に(風間時代然り)あそこまで全振りしなくてもいいのだが(汗)、しかしながら「名古屋のフットボールはこんな魅力があるよね!」と、自信を持っていえる特徴が欲しい。ただまあ再来年には優秀なボールプレーヤーが大学から帰ってくるわけですから、どうせなら「ポジショナルでハイプレスなチーム(実はこの本で散々語られる潮流がコレ)」を見てみたいなあ....なんて年末だから言ってもいいですか。もちろん健太さんは全力応援です。

そんなこんなで来季の隠れ願望を書いておく。

神戸よ頼むから吉田孝行で高みへ行け(解任やめろ)。

 

終わりです

さて、この『Jリーグ新戦術レポート2022』であるが、前述したように途中で風間氏との対談もあれば、なぜかワールドカップ後の日本代表についても触れられており、「これはJリーグの戦術と何が関係あるのか....?」と思ったのが(読む前の)本音である。

例えばそこの風間氏。貴方はこれからサッカー界に一体どれだけのクローンを作るつもりなのか。

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10万人の子供に教えるより、指導者10万人に指導した方が早い

相変わらずすぎる(安心してください慣れています)。正直、この対談だけは「新戦術」から遠く離れたものである気がするが、まあなんというか、元気で安心しました。セレッソU-18はプレミアから降格したが、彼らの未来がどうなるかは、個人的に期待しています。

とまあ少々脱線してしまったが、実際は読めば分かる。

風間氏との対談も、日本代表のことも、「これからJリーグはどうあるべきか、どうしていくべきか」が重要なテーマとなっていることに。だからこそ、ワールドカップが終わった今読んでみると面白いと思う。ちょうど年末年始だし、実家行ってもやることないだろ(暴言)。

とりあえず札幌の皆さんは明日本屋に行きなさい。

追い求めた姿、そのための覚悟

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ワールドカップに対する世間の関心が低い。

わかる。我が家でも、そして職場でも全く話題になっていない。ただ、ひとたびSNSに目を向ければその話題もなくはないから、つまり〝事前に〟関心を向けるのは、もはやサッカー好きくらいのものなのだろう。

この〝事前に〟が非常に重要で、裏を返すとサッカーファン以外のその他大勢にとって、ワールドカップとは〝その瞬間のみ〟の話題である。というより、もはやサッカーファンですら一括りにカテゴライズするのは難しい。実際は、この層の中にもワールドカップに興味を示さない人たちは沢山いる。これが現実だ。

では、こうなってしまったのはなぜだろう。

田嶋が悪い(悪いな)。いや、森保がつまらないから悪い(それも否定しない)。海外組も増えたし、協会の運営も(ハリル騒動以降)非難轟々。要はもう〝自分ごとではない〟。一言で言ってしまえばそれだけのことだ。

もちろん、そもそもサッカーファン以外のその他大勢からすれば、「田嶋も森保も知らねーよ」が本音である。

とすれば、だ。

純粋に、この国において〝日本代表〟という存在は、誰にとっても魅力が薄れているのだろう。数多あるコンテンツの中で、それを追いかけるだけの魅力がない。

翻って、マスコミ・メディアに目を向けてみよう。

雑誌は売れなくなった。廃刊、ページ数の減少、なくなった特集(巻頭)記事。代わりに台頭したネット記事とYouTube。気づけば現地取材なんかしなくたって記者会見は出られるし、記事も動画も自宅制作が当たり前の時代になった。誰もが狙うのは〝バズる記事(動画)〟であり、手っ取り早くバズるために愛すべき対象は兎にも角にも批判すべき対象となった。代表OB関連のYouTubeなんて最たる例だ。火力強めを演出するには批判一択。ただ、悲しいかな彼らのようなメディア側が一方的にそうしたわけではない。我々受け手側の変化に対応すべく、〝なるべくしてなった〟結果なのだろう。

そうして、〝線〟で見ていたものは〝点〟になった。

日本代表のニュースを見ても、そこに〝文脈(ストーリー)〟を見出せなくなったのだ。当然、魅力なんか感じないし、コンテンツとしての優劣も年々劣る一方だ。

過去を遡れば、テレビで代表戦がやっていれば当たり前のように観る時代が確かにあった。ゆえに、10人いれば10通りの日本代表のストーリーが生まれたものだ。ただ、そんなものはもうない。では代わりにストーリーを指南してくれる語り手がいるかといえば、それもいない(そんな場もない)。そもそも今の代表にストーリーなんかあるのか、待ってそのツッコミは御法度だ。

だからこそ〝線〟で発信をしたい。その場を作りたい。

ライターである飯尾篤史氏をゲストに迎え、この対談が始まったきっかけはそれである。

素人のブログの場で、文字数など気にせず好きに話して欲しい。但し、何処かを切り取って話すのではなく、〝文脈〟を文字で残したい。そこに価値があるからだ。

さて、東京五輪後から始まったこの対談も遂に3回目。ワールドカップ第一戦も直前、(ひとまずは)森保体制の集大成となる。ただ、気になるのが本大会出場決定後の戦いぶりである。おいおい、9月のヨーロッパ遠征でみた〝チーム鎌田〟アレはなんだ。日本を救った〝フロンターレ化〟は何処へ。その文脈を今一度整理したい。

先に断っておくと、この対談は現在の日本代表の道のりを振り返るものである。ゆえに、その結末を目にし、ストーリーの善し悪しを決めるのは各々に託されている。

ともに見届けましょう。そしておおいに語りましょう。

 

ここにきて第2フェーズ再び!はなぜか

みぎ(以下、略)いよいよワールドカップでの戦いが始まりますが、ここまでの流れで確認しておきたいことがあります。アジア最終予選の途中から4-3-3に変更して6連勝を飾り、ブラジルやチュニジアと対戦した6月シリーズでも一貫して4-3-3を磨きました。ところがアメリカ、エクアドルと戦った9月シリーズから4-2-3-1に戻し戦い方を変えた。飯尾さんはどう解釈していますか?


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飯尾(以下、略)9月シリーズで森保(一)さんが強調していたのは、トップ下を置くことの効用でした。トップ下を置くことで攻撃の起点が増えるとか、カウンターのバリエーションが増えるとか。そこには、今シーズン絶好調の鎌田大地をなるべく相手ゴールの近くで生かしたい、という狙いもあったと思います。森保さんの4年間のチーム作りを振り返ると、そのときに調子のいい選手をできる限りチームに組み込んで生かそうとしていて。

それが中島翔哉南野拓実、堂安律の三銃士を並べた第1フェーズ、鎌田、伊東純也を組み込んだ第2フェーズ、守田英正、田中碧を抜擢した第3フェーズですね。

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そして今は再び鎌田、そして久保建英、守田を主軸に据えようとしている。もちろん、旗手怜央も好調だとか、いろいろ反論もあるでしょうけど、おおむね活躍している選手を中心にチームを作っているから、メンバーの顔触れによって戦い方が大きく変わるし、戦術がないと言われる要因にもなっていると思います。ザックさん(ザッケローニ監督)の時代はかなりメンバーが固定されていたし、ハリルさん(ハシルホジッチ監督)のときは、スタイルに合わないという理由で弾かれる選手、土俵にも上がれない選手が少なくなかった。ちなみに、スペインのルイス・エンリケ監督も好みが激しくて、国内では反発もあるそうです。それらと比べてこの4年間、あるいは最終的なメンバーは、森保さんの色や好みが強く反映されているわけではなく、おおむね活躍している日本人選手のオールスターといった顔ぶれになっていると思います。

なるほど。今、このタイミングなら鎌田、久保を組み込まないわけにはいかない、というわけですね。

もうひとつは、6月シリーズで一貫して4-3-3を試したものの、しっくりいかなかったということもあったと思います。チュニジア戦なんかがそうでしたけど、アンカーのところを狙われていた。チュニジア戦後には、選手サイドから2ボランチに戻す提案もあったようです。一方で、あの4-3-3は“フロンターレ化”と言われたように、守田、田中の2人がいて成り立つところがあった。6月シリーズでは守田が負傷離脱したため、いまいち機能しなかった。アンカーの遠藤航の代わりもいないし、4-3-3を主戦システムにしてワールドカップを戦うことの難しさも感じたんじゃないかと。


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時系列にいえば、4月にドイツ、スペインとワールドカップで戦うことが決まり、その後に6月シリーズがあったじゃないですか。だから、強豪相手に4-3-3がどこまで通用するのか試しているのかと感じていました。ただ、ブラジル戦では攻撃の活路が基本的には右の伊東しかなくて、その伊東もなかなか突破できなかった。となると、左サイドでフィニッシャーとして待っている南野にもボールが来ない。攻撃は明らかに手詰まりでしたよね。それに、本番では中3日でドイツ、コスタリカ、スペインと戦っていかないといけない。となるとターンオーバーしなきゃいけないわけですが、4-3-3でターンオーバー出来る人材にも不安が残った。飯尾さんがおっしゃった守田、遠藤の代わりもそう、1トップも含めて。

たしかに4-3-3のセンターフォワードは孤立しがちなので、そこで踏ん張れるのは大迫勇也しかいないような気がします。それに4-1-4-1でブロックを組むより4-4-2で組んだほうがコンパクトな陣形にできるとか、複合的な理由があったんだろうと。

試したということで言えば、ブラジル戦では繋ぐことにとにかく固執してましたよね。今思えば、どれくらいできるか実験も兼ねていたのかと勘繰ってしまいます。

それは間違いなくあって。森保さんはロシア・ワールドカップのベルギー戦の話をよく持ち出すんですね。あの試合、乾貴士が2点目を決めるまでポゼッションはほぼ互角だったと。でも、そのあと日本のポゼッション率が極端に下がって、ボールを持てず受け身に回るから疲労も増して、相手の思うようにやられてしまった。だから、ゲーム終盤でもしっかり繋げるようにしたいと、就任当初からテーマとして掲げていて。ブラジル戦でもどれだけやれるかチャレンジしてみたんでしょうね。あと、実験ということなら他にもあって。6月シリーズのパラグアイ戦、ブラジル戦、ガーナ戦、チュニジア戦ではメンバーを毎試合変えていましたよね? もちろんメンバー選考や組み合わせの確認もあったでしょうけど、ワールドカップでも試合ごとにターンオーバーするよ、というメッセージでもあったようです。

 

〝中3日〟の過密スケジュールをどう乗り越える

9月シリーズのアメリカ戦とエクアドル戦でも、スタメンを11人代えましたもんね。

ワールドカップでのターンオーバーというと、2試合を終えた時点でグループステージ突破を決めたチーム、あるいは突破の可能性が高いチームが、第3戦でメンバーを入れ替えるじゃないですか。ロシア大会の日本も、ポーランドとの第3戦でスタメンを6人入れ替えた。でも、森保さんは毎試合、ターンオーバーすることを視野に入れている。長友佑都も言っていますけど、「ワールドカップの1試合の消耗度はハンパない」と。

しかもドイツ戦は初戦だからプレッシャーも懸かるし、ドイツの強度、インテンシティを考えれば、4日後のコスタリカ戦でベストパフォーマンスを出せるような状態ではなさそうですもんね。

森保さんは「ワールドカップに過去6大会出場していて一度も行けないところに行くには、同じことをやっていてもダメだ」と明言している。だから毎試合メンバーをかなり変えて戦っていく可能性があります。あと、6月シリーズではもう一つ実験をやっていて。ブラジル戦でハーフタイムにインサイドハーフ原口元気を、後半途中に南野、古橋亨梧、伊東の3トップも代えて、攻撃陣を総取り換えしているんです。これも5人の交代枠を利用した一種のターンオーバーで、試合中に前線の強度を落とさないようにやり繰りしていく。選手たちにも「先発と途中出場の選手が分担してクオリティとインテンシティを維持していかなければ、ワールドカップでは勝てないと思うから、あえてやった」と話したそうです。

なるほど、まさに総力戦ですね。

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ここからは僕の考えだけど、グループステージを90分×3本の270分として、出場時間を振り分けるような考え方をするかもしれない。ドイツ戦だったら、久保をハーフタイムで三笘に、前田大然を60分で浅野拓磨に、伊東を70分に堂安に、鎌田を70分で南野に代える。続くコスタリカ戦には上田綺世、堂安、久保、相馬勇紀の東京五輪セットを送り込む。上田と相馬はドイツ戦に出ていないのでフレッシュな状態、久保はコスタリカ戦でトップ下起用するためにドイツ戦は45分で下げた……というように。

〝リレー方式〟ですか! その発想は面白いなあ。

今の日本代表選手たちに、レギュラー組、サブ組の考え方はないそうです。相手チームや戦略上の理由から、「今日はあいつが先発で、自分がベンチスタートというだけだ」と。自分はサブとか、その選手に自分が劣っているとは誰も考えていない。選手たちもそう思っているし、森保さんもそう考えているわけです。これなら、例えばドイツ戦に負けたとしても、2戦目に向けてウズウズしている堂安や相馬、上田が「よし、俺たちが勝ち点3をもぎ取るぞ」というメンタリティになるし、もしドイツから勝ち点を奪えていたら「よし、俺たちも続くぞ」となる。その試合でベンチスタートに回った選手たちも「俺たちがいつでも代わるから、全力でやってこい」とスタメンを送り出せる。こうした一体感こそ、グループステージ突破のカギになるかなと。

 

腹を括った。いや、腹を〝括り直した〟!?

なにせ中3日の鬼日程ですしね....。そうだ、ところで、9月シリーズで4-2-3-1に戻す予兆はあったんですか?

予兆ではないですが、アメリカ戦前の公開練習でゲーム形式のトレーニングを見られる機会があって。そのときに4-2-3-1でセットされていたんです。まだ全員揃っていないし、合流直後で別メニューの選手もいたから、スタッフが入っていたり、フィールドプレーヤーが9人だったりしたんだけど、4-2-3-1が前提のような形でトレーニングをしていた。実は4月にワールドカップの対戦国がドイツ、スペインに決まったあと、ある筋から「森保さんは3ボランチの4-3-3でW杯を戦うことを決めた」いう話を聞いたんです。中盤中央を硬くしなければ戦えないと。

ん....!?なんですかその話は。真面目なトーンでいきなり大事な話ぶっ込んできましたね(笑)。ある筋から!

そう(笑)。それで6月シリーズも4-3-3だったから、9月シリーズのアメリカ戦のプレビュー原稿に、「田中、守田、遠藤以外に誰が4-3-3でやれるか」「6月シリーズから引き続きテストだ」、みたいなことを書いて納品していたんです。だけど、練習を見て慌てて連絡して、書き直しました(笑)。

蓋をあけたら4-3-3じゃなかったと(笑)。そうか、9月シリーズからは〝本番仕様〟だと森保さんも話してましたもんね。でも、その文脈もの凄く重要じゃないですか? じゃあ、一度覚悟を決めたけど、実は6月シリーズが終わってから覚悟を〝決め直していた〟。その結論が、〝本番仕様〟と位置づけていた9月シリーズの姿にあった、つまりはそういうことでしょうか。

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そうだと思います。やはりチュニジア戦の惨敗が大きかったんじゃないかと。三笘薫が試合後の会見で「チームとしてどう攻めていくのか、決まったものを持たないといけない。チームとしての狙いはありますけど、狙いの細かさは全然足りていない」と指摘しましたよね。どうやら帰りのバスの中でもかなり意見が出て議論になったようです。それが9月シリーズでのチームの雰囲気に繋がっていった。選手同士のディスカッションが活発になり、長友は「こういうプレスを掛けたいとか、こういうプレーをしたいとか、若い選手たちからすごく意見が出るんですよ。今までの代表でここまで意見を言い合える関係性はなかったんじゃないかな」と話していました。

記事で読んだんですけど、原口も「ロシア大会の前のような雰囲気になってきた」と話していたんですよね?

そうですね。一方で、ミーティングの内容や戦術練習もより細かくなった。鎌田も「アメリカ戦では事前の戦術練習やミーティングで、相手がこう来るから自分たちはどうするという明確なやり方があったし、選手自身がちゃんと理解して、チームとして動けていた」「戦術トレーニングやミーティングが以前とは変わった」と語っていましたから。

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話を聞いていると、2010年5月のワールドカップの壮行試合を思いだすなあ。あの韓国戦。ホームで0-2の完敗を喫して、ボロボロの状態でキャンプ地に向かって。それで現地で選手ミーティングを開いて、(田中マルクス闘莉王が「俺たちはへたくそなんだから、もっと泥臭くやらないとダメだ」と言ったんですよね? 

戦術面にかなり踏み込んだミーティングになって、本音で話し合ったようです。その内容をキャプテンの川口能活が監督の岡田(武史)さんに伝えにいくと「そうか、じゃあ、やり方を変えるか」と。

今回の6月シリーズってそれほど話題になりませんでしたけど、当時の岡田ジャパンのトリガーが韓国戦だったとすれば、実は森保ジャパンのトリガーこそ6月のチュニジア戦にあった、という可能性もあるわけですね。

結果が出れば、そうなりますね。ただ、岡田さんは前年09年にオランダに0-3で敗れ、相手のレギュラー組が出ていた前半に圧倒されたガーナ戦を経て、スタイルをひっくり返すことを考えていたと。あとは、選手たちがそれを受け入れられるタイミングを探っていたそうです。一方で、森保さんがそこまで計算して、ディスカッションが活発になるのを待っていたかは分かりません。森保さんは当初から選手たちに自主性や臨機応変さを求めてきたけれど、結局、窮地に追い込まれないと主体的になれなかったわけでもある。ただ、結果として森保さんが望んでいた形にはなってきたのかもしれません。

〝一時は腹を決めていた〟とのある筋(笑)の話が確かならば、辿り着いたその結論は、森保さんの想定の範囲内だったのか、実は森保さん自身も想定外の変化だったのか興味深いポイントですね。いつかご本人にぶつけてください、必ず(笑)。それにしても、点ではなく線で代表チームを見ていくことの面白さが詰まってますね。

 

〝本番仕様〟で起こる選手と監督の化学反応

森保さん自身についても9月シリーズで変化を感じました。先ほど、ミーティングや練習内容が変わったという話をしましたけど、会見でもすごく雄弁に語っていたし、堂々としていて、自信がみなぎっているように見えましたね。

それは、やるべきことが定まり、実際にしっかりやれている、という自信でしょうか。

9月シリーズの会見で、森保さんに「ミーティングや練習内容をどう変えたのか」という質問をしたんですよ。そうしたら、「以前は戦術を浸透させ、自チームのことを固めるためのボリュームが多かったが、今は対戦相手に対して自分たちが何をするか。噛み合わせの中で相手のウイークを突く、相手のやりたいことを止めるためのボリュームを増やしている」と答えたんです。「同じことを伝えたとしても、選手が吸収できないときもあるし、2次予選、最終予選、今の時期とではギアが変わっていて。私自身も学びながら、選手の状況を見ながら、伝えることを変化させていっている」という話でした。

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なるほど。タイミングを見ながら意図的に伝える内容を変えてきた一方で、自身も学び、成長していると。

選手たちからの「こういうところを詰めたい」「こういうフィードバックが欲しい」という要望にも応えてきたんだと思います。これは以前、インタビューをしたときに話していましたが、「自分にないものは、それを持っている人から学ばないといけない。相手が選手であっても。そうして学んだことを、チームや選手自身のためにどうやってチーム作りに落とし込んでいこうかと考えながら、チーム作りに生かしてきたつもりだ」と。だから、頻繁に欧州視察に行ってましたけど、例えば、鎌田に「グラスナー監督はどうやってるの?」とか、堂安に「シュトライヒ監督の練習はどんな感じなの?」といったようなことも聞いているんだと思いますよ。

知らないことは教えてもらう。森保さんの人柄が滲み出てますね(笑)。皮肉にも、その姿勢が代表監督として賛否両論を生むのでしょうが、ある意味、潔いですね。

若い選手たちからすると、頼りないなあ、と思うかもしれないけれど(笑)。それで選手が主体性を持って発言するようになるならいい、と森保さんは思っているんじゃないですかね。

 

大迫、原口の〝サプライズ落選〟

じゃあ、ここまでの話を踏まえて、改めて26人のメンバーについて聞かせてもらってもいいですか。まず、飯尾さん的にサプライズはあったんでしょうか。

サプライズと言われると、ないですね。いろんな媒体で予想していて、僕はふたり外しました。上田ではなく大迫を、相馬ではなく原口を選んだんですけど、上田、相馬を選ぶことも考えていたので。そのうえで森保さんなら大迫と原口を選ぶはずだと思ったから、予想したわけですけど。

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原口に関しては、飯尾さんもメンバー発表会見で質問してましたよね。「飯尾、いけ!」ってネットで話題になってて(笑)。僕も、メンバーが23人から26人に増えたことで、ユーティリティよりスペシャリスト、つまり相馬のほうが優先されたのかなと思いました。

原口はすごくハートのある選手で、言葉もしっかりしていて僕は好きな選手なのでショックでした。4-3-3が主戦システムになるならインサイドハーフの候補として考えられたけど、4-2-3-1になったので。原口自身、9月シリーズで「4-2-3-1になったら、僕的には厳しい」と話していましたから。

うわー....そうだったんですね。それこそ大迫も驚きでしたけど、大迫を外したことで4-3-3はないんだなと。

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そうですね。あと、外から見ている僕たちは、大迫はW杯に向けてコンディションを整えてきたな、と感じていたけれど、データ上はそうでなかったのかもしれない。そのあたりのインサイドの情報は監督が一番把握しているから、なんとも言えないです。ああ、そういう選択をしたんだなというくらいで。

あと、旗手の落選を嘆く声も多かったですね。

セルティックで活躍しているのは間違いないけれど、代表キャップは今年3月のベトナム戦だけ。その試合でもハーフタイムにベンチに下がっているから、このチームでの実績はないに等しい。あと、原口と同じで4-3-3ならインサイドハーフでチャンスはあったけど、4-2-3-1になったことで難しくなったのかなと。

僕もそう思います。古橋の落選に関しても不満の声が漏れていました。僕も残念でしたが、これまでの森保ジャパンを振り返れば、古橋ではなく浅野を選ぶ決断も理解は出来て。どちらが良い悪いではなく、結局は〝どちらの能力が求められているか〟じゃないですか。ひと昔前に比べると、サッカーファンはもう日本代表を追っていないのだと、あのメンバー発表の日に改めて感じたりもしたんですね。日本代表のストーリーが共有されていない、つまり、断片的な部分だけを切り取って善し悪しが語られる状況が生まれているのだと。もちろん、物語を追っている方が偉いだとか、そんな話でもありません。

ワールドカップのメンバー選出は一種のエンターテインメントで、世界中どこでもああだ、こうだ議論がなされるし、そこを楽しむのはいいことだと思うんですよね。日本代表への関心が薄れているのは、時代と言えば時代かもしれないし、サッカーというスポーツが文化として根付いていないからとも言えるし、森保ジャパンの人気がないからでもあるだろうし、日本サッカー協会への不信感から興味をなくした人もいるだろうし。いろいろな要素が絡み合っていると思います。

絡まり方エゲツないから(笑)。あと、メンバーに関してもうひとつ。アキレス腱を痛めた中山雄太の代わりがFWの町野修斗だったことに関して聞かせてください。

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サイドバックの代わりがFWだったことについては、世間で言われているような疑問は全然感じてなくて。各ポジションに2人ずつ選ぶのがセオリーだからDFなら8人だけど、最初9人も選ばれていた。なぜかと言うと、メンバー発表時点で負傷していた板倉滉が間に合うのかどうかクエスチョンがあったから。その後、中山と冨安健洋が負傷して中山が欠場することになった。でも、伊藤洋輝が左サイドバックもやれるし、DFを追加しなかったということは、板倉と冨安が間に合うからでしょう。そうでなければ、佐々木翔や瀬古歩夢、菅原由勢といったDFを呼ぶはずなので。板倉と冨安に間に合うメドがついたなら、攻撃のカードを加えるのは当然の判断というか。攻撃陣の中で、なぜ町野だったのかは分かりません。純粋に町野の得点力やプレッシング力を買ったのかもしれないし。

今大会は5人交代で、最初に話したようにターンオーバー、リレー方式を考えていれば、前線は多くいるに越したことはないですし、10年南アフリカ・ワールドカップのときの矢野貴章のように守備力も計算に入れているのかもしれませんね。前田大然に浅野....リレーのバトンを受ける人としては悪くない人選に思えてきました。

もちろん、大迫のようにバックアップメンバーになることを断った人がほかにもいたのかもしれない。そのあたりのことは分からないですね。

では、入ってきてほしかった若手はいますか?

うーん、特にいないですね。若手だとパリ五輪世代になると思いますけど、今のディスカッションが活発なチームの中で“お客さん状態”になったら意味がないので。ただ、ベテラン、中堅ならちょっといます。例えば、昌子源大島僚太植田直通、中島、室屋成、川辺駿あたりがいないのは残念だし、東京五輪世代で言えば、林大地、橋岡大樹、菅原あたりにも食い込んできてもらいたかったかなと。

僕は、今の吉田麻也の立場に昌子源がなっていて欲しかったと、どうしても言っておきたいです(笑)。そういうバトンが受け継がれたのだと、あのベルギー戦で感じていたので....。すいません要りませんかこの話?(注:カタール出発前で眠そうな飯尾氏) 畜生!では最後に、グループステージの戦績予想で締めます!

それは難しいですね(苦笑)。希望で言えば、2勝1分。現実的には1勝2分で抜けたいところですね。

謙虚に欲張りだ。答え合わせが楽しみです(笑)。

 

(対談後記)

示唆に富む内容であったように思う。

結論に至るまでの過程がどうであれ、〝世界で勝つためには〟守備の整備が必要だと考えた岡田ジャパンと森保ジャパン。その結果、プライオリティが下がるボール保持。原口の言葉を借りれば「ロシア大会の前のような雰囲気になってきた」、それと時を同じくして調子を上げる柴崎岳(これが偶然か必然かは議論の余地アリだ)。

最後に個人的な願いを書いていいだろうか。

これらの大きな変化によって、これまで積み上げてきたもの、つまりアジア最終予選でやってきたことが色褪せないで欲しいと思う。チームが苦しいとき、過去の苦労や努力が助けとなって欲しい。過去と現在(いま)は別ではなく、繋がっているのだ。やってきたことが無駄ではなかった、そう言えるような戦いぶりを期待したい。

ロシアワールドカップの再現は、もういい。

あの教訓から何を学び、どう進んだか。それが観たい。

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変わることなく、しかし変わった

話は昨年末まで遡る。

今さら思い出したくもないが、かといって(ブログを進める上で)避けては通れない話題なので仕方ない。

当時サガン鳥栖の評判は「不祥事」で地に堕ちていた。

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(今回のブログとは趣旨が逸れるため割愛するが)まさかあんなことになるとは思いもせず、(それなりの想いをもって)当時書いたブログは、そこそこの反響を得て多くの方に広がっていた。ただ、その後の顛末を受け、必要以上に自分ごととして落ち込んだことを思い出す。まあ....こればかりはどうしようもなかったのだが。

特に心を深く切り裂いたのは、「そんなものから生まれたフットボールなど認めない」という声だった。

自分が惚れ込んだあのフットボールは、多くの鳥栖サポーターが熱狂したその日々は、それを生み出すために毎日チームを磨き上げた現場の人たちの努力は、全部認められないのか。嘘っぱちだったと言うのだろうか。

そう自問自答して過ごす日々は、自分がフットボールを好きになってから初めての経験だったと言い切れる。

一つだけ、心に誓ったというか、決めたことがあった。

このクラブを追い続けること。追って、どう感じるか。あの日々は終わってしまうのか。それが知りたかった。

あの時、答えは見つからなかった。でも、多くの批判も全てを受け止め、それでも前に進むしかないのだ。進んだ先にもし何か見つかれば、「一年後」シーズンが終わる頃にこのことも書こう、実はそう決めていた。

問題があるとすれば、そもそもこのクラブに前へ進むだけの余力が残されるか。試練はここで終わりではない。

あの頃、ファンサポーターの気持ちはどうだったろう。

 

主力は去り、まさにチームは解体状態

2021シーズンを彩った主力たちはチームを去った。

解体とまでは言わないが、「ほぼ」解体状態であり、心が折れかかったファンサポーターも少なくなかっただろうと思う。これはなにも外部の人間に限られた話ではない。2020シーズンから積み上げてきた歩みが終わる。そう覚悟した現場のスタッフだっていたかもしれない。

ただそれでも月日は進むわけで、今季はやってきた。

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この沈みかかる船に〝即決〟で加わったのが川井健太。

しかし希望に満ちた船出だったとは言い難い。なにせサガン鳥栖の前評判は最悪。どこをみても予想は最下位。こいつら呪ってやろうかいや既に呪っていたがそれも致し方なし。むしろ今にも崩れさりそうなクラブを評価しろという方が難しい。私は評価していたが(ドヤ顔)。

ただ、このクラブがどんなフットボールを披露するのか、「順当に」弱体化するのか予想はつかなかった。だからこそというのか、それは一筋の淡い期待にもなりえるわけで、まさにびっくり箱を空ける気分だったというのが本音である。そう、あまりに未知数だったのだ。

迎えた開幕戦。その日は雪の降る特別な一日だった。


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待っていたのは、更なる〝革新〟。

あの衝撃あの鮮烈な姿を昨日のことのように思い出す。

もちろん試合を経てチームはブラッシュアップされていき、戦い方も洗練されていった。しかし一方で、あの日のインパクトに勝るものを探すのは難しい。

それはもう強烈なメッセージだったのだ。

「終わってない」「いや、ここからまた更なる進化を遂げるのだ」と、まるで号砲を鳴らすように。

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サガン鳥栖フットボールは「変わった」?

シーズンを終える今、改めて振り返っていきたい。

テーマは大きく分けて三つとなる。

  • サガン鳥栖フットボールは昨年から変わったのか
  • 川井監督はこのクラブに〝何〟をもたらしたのか
  • クラブにとって、今季にどんな意味があったのか

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まずは一つ目、鳥栖フットボールは変わったのか。

昨年も走って今年も走る、という見方もあれば、変わったと言われる方もいて、いろいろな見方があります(引用元:フットボール批評issue37)

シーズン中、川井監督はインタビューでこう答えた。

私は「変わっているようで、しかし変わらないままでいられた」と思っている。その意味を紐解いていきたい。

今季鳥栖の武器となった「岩崎悠人・飯野七聖のウイングコンビ」は昨年には無かったものだ。より厳密にいえば、その〝アイデア〟こそ斬新で、彼らを最大のストロングとし構築されたフットボールはまさに発明だった。

ただ、驚かされたのはその「新しさ」だけではない。

なにより驚いたのは、「変わらなかったこと」である。

あれだけ選手が入れ替わり、いやそもそも監督自体が代わったにも関わらず、ピッチには「鳥栖らしさ」が残った。それはハードワークを前提としたゲームモデルであり、相手に襲いかかるような(しかもマンツーを前提とした)ハイプレスであり、数的優位を築きながら後方から前進していく姿。そしてなにより、不思議と選手たちの〝個性〟が躍動し、観ている者たちに伝わること。

2020シーズンから作り上げてきた鳥栖のスタイルが、「リスタート」ではなく「ブラッシュアップ」した姿だったことが、観ている側とすれば何よりの驚きだった。私自身、例えばモウリーニョのように全く異なるスタイルで勝つだとか、或いは、ペップグアルディオラのようなカリスマ監督がチームを一から作り直して今があるのなら、このブログはきっと書かなかっただろうと思う。

解体したはずのチームが、何故かいまだ積み上がっていくような不思議なシーズンだった。だからこそ、その理由を自分なりに言葉に残したい衝動に駆られたのだ。

驚きと、歓喜。なぜこれが実現出来たのか。

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まずなにより、川井監督自身に新たな環境を受け入れようとする柔軟な姿勢があったことが挙げられる。

今回は鳥栖ということで、僕自身、ほぼきたことのない土地でした。ですから、クラブのカラーやその背景にあるもの、鳥栖の文化などを知り、そこに自分のエッセンスを加えないといけないなと、まずはそうした仮説を立てました。僕の中での鳥栖は、いい意味で九州の荒々しさがありながらも温かみもあるイメージだったので、そういうものをフットボールでどう表現していくか。就任当初は、その面白さやワクワク感をどうもっていこうか考えていました(引用元:エルゴラッソ Issue2622)

その上で、予算規模や選手の入れ替わりも意識した。

一般的に予算が少ない、選手の入れ替えが多いことはデメリットですが、それをメリット化することを含め、「ボールを前に運ぶこと」「ボールとともに前に行くこと」というコンセプトに集約していきました。(中略)そして、ゴール前にもう一人いなければいけないモデルを考えたとき、今の我々の武器である走力を活かせます。そこで終わるつもりはないですが、自分の頭の中で、パズルを組み合わせていきました(引用元:フットボール批評issue37)

川井監督の元々持っていたフットボール観が、鳥栖というクラブにアジャストされていく。極めつけはこれだ。

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まず、このチームでやることを決めた選手を『認める』。そのあとに特徴や武器を出してもらうんですが、足りないところを補うというよりも、そこを伸ばすのは自分たち指導者の腕の見せどころ

ここまで紐解いていくと、あることに気づいた。

実は、前任者と川井監督の「フットボール観」「鳥栖という土地・アイデンティティの解釈」「予算規模や選手構成に対する考え方」「個性の落とし込み方」が、かなり近いものであったことに(過去のインタビューをそれぞれ比較するとよく分かる)。ゆえに(本人は意識しなくとも)前任者が作り上げたものを理解し、発展させられるだけの感性や哲学が備わっていたように思うのだ。

この文脈で、更にもうニ点付け加えることがある。

一つは、2019シーズンまでの残留争いの現実を鑑み、「鳥栖らしいフットボールを作るのだ」と、二シーズンに渡って積み上げてきたものがあったこと。だからこそ、そもそも方向性にブレが生じなかった(クラブに目指すべき指標があった)。故にクラブ側とファンサポーター側の「目が揃っていた」ことも重要な点だ(それで苦しんだのが鹿島ではないか)。この二年で「鳥栖らしいスタイル(それは、インテンシティや運動量を〝ベース〟とし、ボールを運ぶこと)」が共有されており、クラブに対する雑音が少なかった印象を受けた。また、もう一点。これは目立ちにくい部分だが、昨年までのその歩みを理解している既存スタッフ陣の「残留」は、決して見過ごせるものでないことも付け加えておきたい。

〝ほぼ〟解体。しかし残っていたものは沢山あるのだ。

 

このクラブを押しあげた「隠れた要素」

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そもそも、解体し沈みかかる船を救える個性とは何か。

今シーズン選手には残留という言葉を一回も使っていません。結果はジャンケンみたいなところもありますが、結果の確率を高くできるのはプレーだけだからこそ、それを続けなさい、こだわりなさいと。

『難しい』と思ったことはまったくないです。『足りない』と思うことはありますが。

(引用元:Sportiva 2022.10.07インタビュー)

川井監督のインタビューを読んでいて感じるのは、ブレることのない信念、妥協なき理想の追求、そして自身が信じ進む道への揺らぐことなき自信といえる。

このシチュエーションと監督の姿勢に既視感があった。

2017年に初めてJ2で戦うことになった名古屋グランパス、そしてその沈みかかる船にやってきた風間八宏だ。

これは私自身が名古屋での体験から感じるのだが、もし窮地を救える人物がいるならば、それは自信家で、信念があり、ある種のロマンチストで、それでいて自分たちに常に目が向けられる、そんな者ではないだろうか。

よく目標を聞かれますが、僕の立場からすれば『残留です』と答えるのがハードルが低いので、一番ラクです(笑)。でも、選手たちはそういうものを見聞きして、指導者に対するイメージを膨らませるものだと思います。それが選手の中での監督像を形成していくことに繋がるんじゃないでしょうか

(引用元:エルゴラッソ Issue2622)

頑固というか、信念は強く持っているつもりです。信念を持つにあたって外的要因がそれを時にノーと言わせるわけですよね?たとえば試合に負ける、或いは選手が反発する。それはあり得ますけど、それで変わるのはおかしい。どんな状況でも信念は勝てると思っています。それは大切というか当たり前。ブレるという表現があるけど、ブレるということ自体本当は意味がわからない。僕は一択しかないから

(引用元:Sportiva 2022.10.07インタビュー)

新たなチームに誰もが疑心暗鬼で下(残留)を気にしてしまうそのシチュエーションで、一人だけ上(優勝)を見てそこに到達できると信じ今を進むことができる。

その存在が、どれほど選手たちやスタッフ陣、そしてファンサポーターに勇気を与えたことだろう。もちろん、実際のところは私には知る由もない。ただ、とはいえかつて名古屋でそれを味わったことがある立場として、私はどうしてもその力を過小評価出来ないのだ。

この姿勢はおそらく鳥栖に欠けていたものであり、川井監督が新たにもたらしたものといえる。また、あの時の鳥栖が〝なにより〟欲していた要素だったに違いない。

高みに上りつめたいと心から信じ、貫ける者の力を。

 

今季の鳥栖が出した一つの回答

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これまで鳥栖躍進の理由を私なりに追ってきたわけだが、最後、三つ目のポイントをなにより強調したい。

それは〝主体性〟というキーワードだ。

アプローチについて言えば、昨年と今年は真逆なんですよね。180度変わったと思います。(中略)選手には僕らコーチングスタッフが様々な提示をしますが、彼らがそれを見て、聞いて受け取るところへのアプローチが、昨年からいるスタッフに聞くと、180度変わったと。

(引用元:フットボール批評issue37)

僕は監督という職業でフットボールの試合をしますが、グラウンドで試合をするのは選手達なので認めてあげることを一番大切にしています。僕がやりたいことを〝やらせる〟のではなく、選手達に〝表現してもらう〟。だから選手のことを認めて〝託す〟

(引用元:エルゴラッソ Issue2622)

川井監督の言葉を読んでいて気づいたことがある。

それは、昨年の不祥事を経て、クラブの大きく変わった点がこの部分にあること。これまで見てきた通り、見方を変えればこのクラブは「変わらないままでいられた」。でも、きっと本当に価値があったのは、「ただ変わらずに済んだ」なんて単純な話でもないはずだ。

変わろうとし、しかし変わらないままでいられたこと。

つまり「異なる」アプローチを取り、しかし「鳥栖らしさ」は作れるのだと証明したことに本当の価値がある。

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「外の空気を入れず、縮こまっている」と感じた

川井監督がもたらしたものは、上を目指せるのだという〝自信〟、そして選手たちがフットボールを楽しめる〝環境(信頼と期待)〟だったのではないだろうか。

そうだ、ミシャのコメントは今季のハイライトの一つ。

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鳥栖の試合をお勧めする。とてもすばらしい戦いをしている。彼らはフェノメノ(驚異的なもの、非凡なもの)。ぜひ、鳥栖の戦いに注目してほしい

このコメントは、世間が受け取ったインパクトの何倍もサガン鳥栖に関わる人たちにとっては意味があった。

改めて鳥栖のファンサポーターの皆さんに伝えたい。

皆さんのクラブは、たった一年でここまで言わしめた。たった一年で、多くのものを皆さんに〝与えた〟。

あの時、皆さんがどれほどつらい思いをしたか、当時の私はきっと理解出来ていなかった。ただ、悲しいかな今季の名古屋も不祥事があった際に大批判を喰らった。自分ではどうにも出来ない。でも、何故だか自分の何か大切なものが抉られるようなあの日々を体感したとき、少しだけ理解できた気がしたのだ。あの時、鳥栖の人たちがどれだけツラく無念だったか。悲しい思いをしたか。

だからこそ、誇りに思ってほしい。

サガン鳥栖は、変わらなかったのに、変われたのだ。

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ただの良いチームで終わるか、頂を目指すか

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シーズンも残り四試合を残したところで、鳥栖は早々に残留を確定、そして川井監督の契約延長を発表した。

これが意味するところは大きい。

もはや鳥栖は昨年のように「J1だが試合に出られそうなクラブ」ではない。それは今季数多く加入した大卒組が今何人残っているか目を向ければ分かることだ。このクラブには熾烈なレギュラー争いが既にある。

それを来季に向け早々に「継続する」と宣言したのだ。

オフになると主力で引き抜かれる選手もいれば、レンタル期間を終え所属元に帰る選手もいるだろう。

ただ、一方でこれからは「鳥栖フットボールに挑戦したい」「このクラブで一旗あげたい」と野心を持った選手たちがこのクラブに集まるはずだ。激動の一年を経て、そのフェーズに入ったのだと確信している。

だからこそ、全ての鳥栖に関わる人が問われている。

この先どんな姿を目指すのか、どうなって欲しいのか。

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川崎さん相手に、いま非常に調子を上げている中で、対策を練ってやり合うというのももちろんありましたが、いま我々はやはり川崎さんを見習いたいとも思っています。そういう意味ではここでうまくかわしたとしても何も残らない可能性もあったので、僕は選手はできると思っていましたし、その中でただやはり差があったと。その差というのは今後埋められると思いますし、今日に関してはうまくいかなかった、ただそれだけです

今季のフットボールには一つ、大きな特徴があった。

それは前体制時より〝保持〟への強いこだわりを見せていたこと。相手を徹底的に研究・対策し、〝ボールを奪うこと〟に人一倍強いこだわりを持っていた前体制に比べ、今季の鳥栖はより〝自分たち〟にフォーカスしていた印象を受けた。しかも、ときに「意図的に」。

「この戦い方をしないと生き残れない」のではなく、「このクラブはもっとやれる」そんなメッセージだ。

ここに、川井監督のカラーがはっきりと表れている。

特に直近3試合は「今季の集大成」ではなく、「来季への足掛かり」に映った。クラブのステージをもう一段引き上げるために、この取り組みだけは譲れないと言わんばかりに。ときに結果の伴わないチャレンジには賛否両論がでる。「目の前の試合に勝つことだけに全力投球すべき」「自分たちの身の程をわきまえよ」と。

しかし、川井監督は本気だ。〝優勝〟を目指すことに。

今問われているのは、チームと、鳥栖のファンサポーターが〝目指すべき姿〟の目を揃えられるかどうかだ。

優勝争いは出来ないが、常に一目置かれるチームか。

横浜と川崎の二強を本気で追いかけ、優勝を目指すか。

どちらが正解かは分からない。どちらの未来(物語)がエキサイティングか、なら私の答えは一つだが。

ミーティングで選手に口走ることはあります。「日本サッカーの基準さえも変えられたらいいよね」と(引用元:Sportiva 2022.10.07インタビュー)

まず、どのチームとやったとしても〝自分達がパーフェクトにやれば勝てる〟というモノ作りはしています。(中略)一番したいのは横綱相撲です。相手が何を出してこようがドンと受け止めてはね返す。相手はお手上げで、土俵に上がる前から〝勝てないな〟と思わせるチームにしたいというのが将来的にあります(引用元:エルゴラッソ Issue2622)

サガン鳥栖は大きく変わろうとしている。

お金はないが魅力はある。そんなクラブが今、〝外〟から来た者によって本気で頂点を目指すべきだと、現状維持では駄目なのだと問いかけられているのだ。このリスクを伴った冒険に対し、〝内〟にいた者たちはどう応える。愛するクラブのポテンシャルを、どう評価する。

思い出すのは、鳥栖の礎を築いた者のこの言葉だ。

「サッカーを文化に。〝質〟を見ればサポーターの力で鳥栖を更に強くすることが出来る」

私はみたい。内容でも結果でも、二強を凌駕する姿を。

クラブに二つお願いがあります

今週月曜の朝、ガーシー当選より驚く事実があったか。

名古屋の人たちにはあった。誰一人として予想すらしていないのだから、ガーシーすら抜いたと思ってる。

ナガーイーの電撃復帰だ(もうやめます)。

爽やかにWelcome Back!と迎える公式。待って、何が起こっているの。正直、未だに現実が理解出来ていないが(ピッチの姿をみて初めて実感するはず)、名古屋のために走るというのなら分かったWelcome Back!

それにしても33歳になった永井謙佑を移籍金満額払って獲得とはフロントもまあ太っ腹。彼に加え新加入の永木亮太(湘南→名古屋)が34歳。もうこれははっきり言うが、兎にも角にも「(今季は)絶対残留!」の強い意志と受け取った。仕方ない、なにせ順位が順位なので。

シーズン前の(コロナ感染による)キャンプ中断に加え、相次ぐ怪我人の数々と、誤算も多々あったはずだ。そしてまたも襲うコロナの波、さすがに嫌になるわ。

あえて指摘もするならば、やはりクバ長期不在に対する見込みの甘さか(偉そうな物言いになってしまうが)。

たしかに酒井宣福は良い選手。それはサガン鳥栖も観てきた私が断言する。しかしながら、ワントップの実績はこれまで皆無だった。あくまでツートップで、しかも多くのチャンスを生み出すチームで築き上げたシーズン8得点(2021)だったこともまた忘れてはならない。

 

そもそも何故ここにきて永井なのか

前半戦、長谷川健太率いるグランパスは苦戦した。

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酒井、柿谷曜一朗金崎夢生。中央にどっしり構えるタイプでない彼らに課せられた「得点」の責任が重くのしかかる。それは、クバ加入前のマッシモフィッカデンティ体制とおおよそ似た現象と言っていいだろう。

昨季と変わらず、今季の名古屋もカウンター型のチームだ。だからこそ、スピードなりパワーなり、つまり〝ゴールの型〟が明確なストライカーの方が周りは絵が描きやすいように思う。ボールを保持し相手を押し込んで、バリエーション豊かに崩すチームではないのだから。

そこでやってきた永井。あかんハマる(知ってる)。

帰ってきた理由が、

  1. ストライカーで使ってもらえること
  2. 健太さんだったこと
  3. 恩返し

の優先順位には「永井おまそういうとこやぞ」とツッコみたいが、ここに健太さんの良さも凝縮されている。

要は「出来ないことをやらせない」のだ、健太さんは。

象徴的なのが徳島ヴォルティスから帰ってきた石田凌太郎。徳島では一体何があったんや!とは徳島の地に残る七不思議(あと六つは知らん)。とはいえ、あれだけ使われなかったのだ。少なからずダニエルポヤトスの戦術に対する理解度に難があったのではないかと推測する。

一方の健太さん、難しいことは求めない。つまり、割り切って石田の良さだけを活かす。それはもちろん「自身の戦術にハマる前提」があってこその話だが、逆にいえば、この素材がどうすれば自身の戦術で活きるのかを見極める力がある。帰ってきた石田を(守備面も求められる)サイドでなく、最前線で裏抜けと相手の追い回しを徹底させた起用法には舌を巻いた。その手があったか。

藤井陽也もそう。丸山祐市中谷進之介で挟んで使えば育つはずだと。この思い切りの良さ。結果育つ育つ。

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どんな素材が優位かといえば、やはり身体的ポテンシャルの高い選手。逆に、一人で違いは生み出せないが、複数人なら誰よりも輝くような選手や、ボールに触ってナンボの選手は比較的苦労する。湘南ベルマーレに移籍してしまう阿部浩之もそうだし、それこそ仙頭啓矢だって本領発揮とまではいっていない(健太Verの仕様を模索してチャレンジしてるのが仙頭の素晴らしさだが)。

その証拠に、現在レギュラーを務める多くの選手は明らかにフィジカル(速さ、強さ、高さ)に特徴を持つ。柿谷にしろ仙頭にしろ、本来テクニシャンとして名を馳せた選手たちは、むしろ〝走ること〟で生き残ってきた。

そんな歯痒さがある一方で、永井のような選手が「ストライカーとして」「健太さんなら」使ってくれると絶大なる信頼を置く理由もまた分かる。だって(アルベルと違って)難しいことはきっと求めないから。シンプルに、選手たちが最も気持ち良くプレー出来る環境を健太さんは用意する。この辺りは、風間体制期とマッシモ体制期におけるマテウス・相馬勇樹を観てきた名古屋界隈は腹落ちしやすいだろう。選手たちの成長に寄与するのは果たしてどちらか、それはまた別の議論である。

そうだ、忘れたいゴール置いとこか。もう味方だし。


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情とノーセレブレーションには期待するな東京界隈。

永井がイキイキとピッチで走り回る姿、容易に想像できる。相手にしてもきっとそれが嫌なはずだ。健太さんとアルベル、どちらの起用法が選手の魅力を引き出すのか。そう考えると、フットボールはつくづく奥が深い。

 

ちょっと見込み甘かったんと違うか

さて、これでスピードは手に入れた。あとはパワー。

もうここはレオナルド(ナウド)に祈る(一択)。ただ、万が一大当たりならこのチームバケるやも。というのも、この〝分かりやすい武器〟がなかったからこその今の順位。裏を返せば、健太さんのチームにはこの手のストライカーが要るのだと分かった前半戦。似なくていい。なのに案の定そこもマッシモそっくりな健太さん。


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日本で一番勝ち星を挙げている人が空いていれば行くでしょ!

正直にいえば、健太さん就任時に発した山口素弘GMのこのコメントにずっと違和感があった。優秀な監督なのは分かる。ただ、過去の実績はともかく、現在(いま)はどうだったのかと。Jで優勝を狙える力が果たしてあるか。直近の東京時代はどうだった。そう考えた時に、今日に至るまでの戦いぶり、この夏の補強期間の慌ただしい動きは、直球で言ってしまえば「見込みの甘さ」からきたものだとも思う。その最たるものが、繰り返しになるが〝クバの代役〟であり、健太さんにはやはり〝彼にとって使いやすい素材〟が必要だったのではないか。

ただ、だからこそこの夏の補強は悪くない。今の強化部に出来る(可能な)最大限の仕事だとも思う。

あとは健太さんにマテウスの共存方法を探ってもらうのみ。....ん?これ欲かいて永井、ナウド、マテウスのスリートップが良いのでは。....ア、アカン。「そんなスリートップは絶対上手くいかん」と東京界隈の怨念が強い。健太さん、浪漫は不要。地に足つけていきましょう。

最後になるが、あえてクラブには「二つ」要望したい。

 

ここから重要なとこです

まず一つ。長谷川健太時代のFC東京を超えよう。


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昨季のルヴァン杯準決勝を思いだして欲しい。この両者、互角だった。名古屋の何が優ったかといえばやはり〝堅守〟。東京の攻撃力をも凌ぐ力が昨季はあった。選手こそ違えど、それ以外の総合力はまさに互角。

そして今季の名古屋。昨季ほどの堅守はない(それが健太さんの取ったリスク)。ただ、そのリターンとしての対価(得点力)を得られなかったのが大きな悩みの種(それこそが昨季率いていたFC東京との大きな違い)。だからこそ獲ってきた永井謙佑。いや分かるよ。

でも意地悪な見方だけどそれでは東京と何が違うのか。

自分は、名古屋にFC東京っぽくなって欲しいわけではない。健太さんに、過去と似たようなチームを名古屋で再現して欲しいわけでもない。だってさ、もうそのチームは四年も東京の地で擦り倒したわけでしょう。同じようなことやってれば、そりゃ同じような選手が必要になるさ。失礼な言い方だけれど、その結果、天井がどこにあるのかはもう答えは出ているはずなのだ。

応援するからにはワクワクしたい(スリートップではない)。見たことのないチームが観たい(過去のスリートップ既に見た)。未来の姿を想像しときめいていたい。

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そこでもう一つ。もっと〝未来〟を提示して欲しい。

未来を想像できるなら、きっと今には未来に繋がる〝ストーリー〟がある。あくまで自分の気持ちだけれど、風間(八宏)時代にあって今ないものはそれではないだろうか。フットボールの良し悪しでなく、目先の結果でもなく、なによりあの時代に価値があったのはそこなのだと思う。まあ弱いのは罪だけど。そこは失敗だったな!

補強も含めたチーム作りから、そんな未来に繋がる何かを発信して欲しい。「俺たちは未来に向けてこういうチームを作ってるんだよ」と、もっともっと伝えようよ。

例えばこれまでの戦いぶりや今回の補強を経て、2年後(2024)に加入する榊原杏太は自身の活躍する姿を想像できるか。「児玉駿斗のような結末はもう見たくない」、多くのグランパスファミリーはきっとそう思っている。そろそろ繋いでいこう、トップとアカデミーを。ピッチ上のフットボールでも、繋いでいかないと。

それが夏の補強内容をみた、あくまで個人的な想い。

これが今の精一杯なんだとフロントの努力や苦悩も伝わるから悩ましいが。そんなこと言ってらんねーよと。

それこそ、この一〜二年は観ているこちら側もある程度は我慢して欲しいのかもしれない(それ言っちまったら元も子もないが)。実際、若い選手たちも積極的に起用したりと健太さんは種を撒いてる。そんな理想と現実の狭間でもがいてるのが今の名古屋で、それが実るまでは帰ってきた永井や、或いは名古屋に新天地を求めてくれた選手たちの意地とプライドに託すべきか。実際、永井とナウドのツートップめちゃくちゃ観たいしなあ。お金もない、(アカデミー以外の)有望株も来ないで、これまでのツケを払わざるを得ない期間なのかもしれない。この五年間のドタバタ劇の末に残った、大きなツケを。

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ただ、だとするなら今度は現在(いま)どれだけ苦しくてもクラブを支え続けている〝ファンサポーター〟をどう未来に繋いでいくかが問われる気がする。そう考えると、私のように小さな発信源であっても、今のチームの魅力を伝える努力をしていくべきなのかもしれないな。

そう、クラブに何があろうが、過去と現在で事情が異なろうが、多くのファンサポーターはずーっとこのクラブを支えてきたのだ。ずーっと見てきた。過去のこと、忘れてない。そのうえで今も必死に戦っているのだ。そういった人たちをどうやったら大切に出来るのだろうか。「なんか冷めた」「今のグランパスにはときめかない」こういうコメント最近よく見る。危機感覚えてる。

と、理想と現実の狭間でこのブログも揺れ動く。

ポジティブでいるのって難しい。ただ、悲観的でも、同時に楽観的でいることも時には必要かもしれない。誰だって理想の中で生きたい。でも、押し寄せてくる現実に対してどう折り合いをつけていくかも腕の見せ所だ。

あのとき永井が帰ってきてくれたから、ベテラン勢の意地と頑張りがあったからこそ今がある。そんな風に、数年後このシーズンを語れる日がきてほしい。そして、その証人に我々ファンサポーターがならないといけない。繋げていきましょう、皆で未来へ(文句言いながら)。

つーことで川崎。言っとくが俺らここから本気だす!